あなたのことなど。

雪乃

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ラウンド5.

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ーーそれから。


トーリは懲りずにやってくる。お義兄さまもくる。クラスが湧き立ち、わたしはトーリを無視してお義兄さまの元へ向かう。そのくり返し。

トーリなんか邸にも来ようとする。断ってるけど。
友だち・・・はどうしたのか、もうわたしは知らない。
元々下位令嬢や平民が多いしトーリが上手く躾けてたのか、面と向かって何かを言われたりはこれまでもなかったからこれからもないだろうと思っている。


わたしとお義兄さまがしてることは邸で普段過ごしてるのとおなじ状態を外でもするようになっただけなんだけど、邪推するひとは勝手にするだろうしそれが狙い。


義兄妹なんだから、仲いいのは当たり前でしょ。


聞かれても、わたしもお義兄さまもそう言ってる。
だってそれは事実だからね。





それなのに時間かかったなぁと思うのは、やっぱり今までのわたしを知ってるひとたちからすれば矢印矛先が変わったなんて、そう簡単に信じられなかったってことだろうな。…わたしって…、






ーー最近流れ始めた噂がある。



蔑ろにされてたわたしがついにトーリを見限り、お義兄さまに乗り換えた、と。



正解なのは半分で、目標も半分達成だ。

物理的にも距離を取ってるおかげでいい感じに気持ちも薄れて、あんなに好きだったのが不思議なくらいまで落ち着いてる。

だからもういいかなぁ、と。
じゅうぶんやり返せた気がするし、今日帰ったらお父さまに話をしようと決めた。








「……話があるんだ。お願いだから聞いてほしい……」



借りてた本を返却しようと寄った図書室で、少し勉強していくかと思ったのが間違い?
今日は下級生の授業時間が短縮される日で、お義兄さまはまだ授業中。教室に残ってたほうが確率高いかもとやってきたのが間違い?


……先に帰ってればよかった。


気配に上げた視線の先にいる人物を見て、ため息を飲み込んだ。横目で司書がいるのを確認する。



「……ここで話?私語は厳禁です。用がそれだけならお引き取りください」

「話を、「わたしにはありません。何度も伝えています」

「、ミア…、」



ーーえ、なんで座るの?トーリの勝手な行動にいっしゅん呆気に取られるけどすぐ持ち直して片づけを始める。





どうやらわたしは、無関心を保てるまでには冷めていないらしい。どうでもいいと思ってるはずなのに、未だに怒りのような気持ちを感じてしまう。



「…っ待ってミア…!…ミア…ッ」

「離してよさわらないで…!」



追いかけてくるトーリを無視して廊下を進む途中で腕を掴まれる。ぞわぞわして肌が粟立ち、気分は最高に気持ち悪い。
後退りながら睨みつければまたあの顔だ。

傷ついてるみたいな、あのーー。



周りにひとがいないことを祈る。

そんな余裕ない。



「……ねえ今さら何なの?懐いてた犬が一匹いなくなるのがそんなに我慢ならないの?餌づけしなくても勝手に尻尾振って楽だったから?所有物だから?でもそんなのほうっておいても、トーリには他にたくさんいるよね?」

「…ち、が、…そんな、」

「なのに今さら餌で釣ろうとするの?喜ぶとでも思った?そうかもね?本物の犬なら。でもそんな扱いされてたってわたしは人間なの。犬より少しは感情豊かで知能もあるの。
ーー選べるの、わたしは。それに気づいたからそうしただけだよ。
……見境ない・・・・誰かとは、違う」



わたしの"好き"は、反対の無関心は選ばず他へと転化されたらしい。
こんなに攻撃的な自分は知らなかった。そんな言葉を平気で吐けるようになってた。


好きなひとに好きになってもらえるなんて夢のまた夢で、そんなひとたちとは程遠い。



トーリはうつむいて震えてた。それを堪えるように両手を握りしめて。



「……もうこれきりにして。そのうち正式な書類は届けるから」

「…書類、て、…なんの…?」

「婚約解消のに決まってるでしょ」



こうまで言ってわからないなんて、トーリは何か特殊な思考をお持ちのかもしれない。
背を向けて歩きだす。


いい加減にしてほしい、ほんと。

もう終わらせーー



「っ待ってよミア!…俺は、…俺はきみのことを愛してるんだよ…ッ!」



ハイ、初恋も終了ゲームオーバー
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