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ラウンド3.
しおりを挟むぐっとくる?どういういみ?や、それよりもーー
「え、ほん、ほんとに?」
「うん」
「な、なんで…?」
「なぁにそれ、自分から誘っといて」
たしかに。だけどこうもあっさり。断られても引き下がるつもりなかったけど、意外にあっさり了承してくれるなんて。ーーなんか、
「……ウラがあったり……?」
「……ミアに言われたくないなぁ」
それはそうだ。わたしが言える立場じゃなかった。こんな茶番につき合ってもらえるだけありがたいんだから、感謝しなきゃ。
それにお義兄さまはウラなんかないよね、やさしいひとだもん。ひまつぶしくらいにしか思ってないはずだ。うん。
「ーー…で、ミア。いつから始めていいの?」
「え?」
「浮気。いつからしていいの」
「…えー、と、」
邸では必要ないし、トーリがいないなら意味ないし。
「…明日から、かな…」
「なんだ。残念」
「え」
「本番は学園でってことね、トーリのいる場所で」
「そ、そう」
「じゃあ今日は練習で、このまま過ごそう」
練習?このままって。お義兄さまそれはさすがに、お膝を痛めるのでは?
そのまえに、残念、ってーー。
「ハイ、あーん」
「…」
ま、いいか。
甘くないケーキはおいしいし、お義兄さまはやさしい。
そのあともわたしは散々お義兄さまに甘やかされる時間を過ごし、眠りについた。
裏庭での出来事を思い出して、トーリのことを考えたらまた少し泣けてきて。
どうしようもないなって自分に呆れたけどこれが最後って思ったらそれくらい、そんな自分のことはゆるしてあげようと思った。
ーーそして翌朝、本番の日。
お義兄さまにエスコートされ馬車を降りる。
当たり前だけど登校時間だからひとが大勢いるけど、こちらを気にしているひとはいない。
それはそう。わたしはいつもお義兄さまと登校している。
トーリの邸は反対方向にあって最初のころは迎えに行ってたけど、トーリが毎朝大変だからいいよって言うから止めた。
気遣ってくれてうれしい、やさしいな、とのん気なわたしは思ったものだ。
それもただ、友だちと過ごしたかっただけだというのに。
…うーん。恨み言が尽きない。うんざり。バカ。
お義兄さまの左腕にぎゅっとしがみついた。
「平気?」
「ん…」
そこでちょっと、ざわりとした周りの空気を感じる。
それもそう。わたしはいつもお義兄さまと登校してるけど、腕を絡ませるなんてことはしたことない。
連れ立って歩いて、校舎のまえでお別れ。
そしてわたしはトーリが登校してくるのを待つーーというのが昨日までのわたしの行動だった。
お義兄さまと腕を組んでいるけど、
そんなのは、何らおかしなことじゃない。
「来るよ」
「え?」
お義兄さまを見上げたとき、
「ーー…ミア!」
びくりと跳ねそうになるけど、お義兄さまにくっついていたおかげでそれを防げた。
「…おはようございますトーリさま。…今日はお早いんですね」
言葉も震えてない。うん。大丈夫。
ふり返って挨拶はするけどわたしはお義兄さまに寄りかかったまま。
珍しいな。いつもはもっと遅い時間に来るはずなのに。
…昨日わたしが来なかったと思って、問い詰める気だったのかな。わたしの分際で、とか。
トーリは変な顔をしていた。
きっとわたしの話し方が気に食わないんだろう
な、敬語だし。
ほんとは家名呼びのほうが距離感出せると思うけど、ツァンツェリなんて噛んじゃったらかっこうつかないし、早々に却下した。いずれそう呼ぶことになるけど今はとりあえず。
「…おはよう、ミア。…仲が良いね」
トーリの視線は、わたしとお義兄さまの腕に注がれている。
わたしはそれを見て、さらにお義兄さまにひっついた。もう隙間ないだろってくらい、びたりと。
トーリを完璧無視しているお義兄さまがちいさく笑うからわたしも笑った。見つめ合いながら、もーう、って感じで。演技派のわたしたち。
「何かおかしいですか?」
「…」
「……ただの義兄妹ですよ、わたしたち」
何もおかしいことはないでしょう?
そう言うとトーリの表情が歪んだ。
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