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ラウンド2.
しおりを挟むお義兄さまはわたしが六歳のころにわたしのお義兄さまになった。
お父さまの親友夫婦が事故で亡くなってしまい、親類たちがお義兄さまを押しつけ合っていることに憤慨し、養子として引き取ったのだ。
元平民のその方は騎士爵を得るほどとても強く、騎士科の授業ではいつも負かされ悔しくて何度も挑んだけど結局一度も勝てなかったと、
それから仲良くなったんだと泣きながら語っていたこと。
そんなお父さまの姿を見て、お義兄さまのことを考えて、わたしも大泣きしたことを覚えてる。
家族が急にいなくなりひとりぼっちになってしまうなんて、どんなに寂しいだろうって子どもながらに思った。
お義兄さまが初めて我が家に来た日から、わたしたちは家族・使用人総出でかまい倒した。
戸惑って少なかったお義兄さまの笑顔がだんだんと増えてきたときには、みんなとっても喜んだ。
特にわたしはひとりっ子だったから兄という存在がうれしかったし、つねに引っついていた。
一緒にあそんで、勉強をして、本を読んで、寝る。
おでかけもピクニックも色んな場所へ行って色んなことを一緒にした。
お義兄さまは内心呆れて嫌がっていただろうけど、わたしが空気を読めないのは子どものころからだったのだ。
伯爵家を継ぐのはわたしなんだけど、両親はお義兄さまのこともきちんと考えていて、持っている爵位のひとつを与える気でいた。
けどお義兄さまはそれを固辞してこのままわたしの補佐として家に残りたいと言ったらしい。
婚約者を探すことも断り、独り身のまま伯爵家に恩を返したい、とか。
それを聞いてみんな泣いた。いい子すぎるだろと。
説得したけど気持ちは変わらなかったようで、お義兄さまは将来わたしの補佐となることが決まった。
亡きお母さまとおなじピンクブロンドのふわふわな髪に、亡きお父さまとおなじライトグリーンのきらきらな瞳。
美麗なお顔に性格まで美麗。当然のように女性たちからたいそう人気があるけど、独り身を公言しているお義兄さまは誰も寄せつけず誰にも靡かない。
まるで孤高の騎士ような慎み深さ。
ーーどっかの誰かとは大違い。
とにかくそんなお義兄さまになんて罪なことをさせようと企むのか。わたしはバカだ。
でもごめんなさい、しつこいけどお願いしますお義兄さま。
「…なるほどね、」
感情を溢れさせながら事情を説明し終わって、お義兄さまの反応待ち。
…怒ってるようには見えないけど、悩ましい表情だ。呆れてるよね…当然だよ…。
「…ごめんなさい…」
「確認だけどね、ミア」
「…はい」
「ほんとにもうトーリのことはいいの?諦めて、婚約解消するの?」
「…そのつもりです」
「ほんとに?ぜったい?向こうがやだって、謝ってきたらどうするの?だってミアはあんなに好きだったんだから、トーリがやり直したいって言ったらすぐ絆されるでしょ?あっさり。だってミアってばチョロいから。」
「…」
すごい刺されてる…。念押しの確認具合がひどい。
でもそれが今までのわたしの評価なんだ。反論できない。でも、でもね、
「……ぜったい、ありません。ずっと考えて決めたんです。ようやく決心したんです。……そのわり、おかしなことに巻き込もうとしてるからあまり説得力がないというか、……バカだなって自分でも、思うんだけど、」
「…ふうん」
「…信じてくれた…?」
「んー…あんまり」
笑顔が刺さる。うー。でもわたしにはもうお義兄さましかいない。
「、…お願いお義兄さま…わたしと一緒に悪いひとになって…」
悪魔のささやき。
お義兄さまはわたしの言葉にいっしゅん目を見開いて、
「ーーミア」
「はい、」
おいで、と。
手をひらひらさせるからそのまま寄ると膝に乗せられる。これはわりと通常モードな行動。
バカなお願いをしてもわたしを甘やかしてくれるお義兄さまはやっぱりやさしい。
「…悪いひとになって、か。…けっこうぐっとくるね」
そして、いいよ、と。
愉しそうに目を細めた。
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