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アベル③
しおりを挟むレイラがいなくなった。
手紙だけ残して、領地へ消えた。
引き留める言葉さえ、言わせてくれなかった。
自分が、
その理由に少しもならなかったことが情けなくて、虚しかった。
授業に身が入らず剣も疎かになっていた自覚がある。実践訓練で怪我を負い、そのタイミングで謹慎を言い渡された。
本物の戦闘だったら腕の一本じゃ済まない。
喪失している自分はいいエサで、足手まといにしかならない。
無様に尻餅をついて、砂を掴む。
足もとに折れた模擬剣が転がっているのを見咎められながら
"中途半端"
訓練官に投げられた言葉。
何もかもその通りで、何一つやり遂げることもできない。
我慢しないと決めたのに二の足を踏んでばかりだ。
そばにいて、守らせてほしいと思った。
そばにいればいつか、手を伸ばしてくれるんじゃないかとそれだけを願って。
力ずくで奪うことが、俺にはどうしてもできなかった。
望みがあるならそれを、尊重してあげなければならない。
それはきっと俺にしかできない。
あいつには、できないことだから。
そうして何度もおなじ失敗をくり返すのに、
後悔しながらまたくり返すんだ。
久々に顔を合わせたあいつは憑き物が落ちたような表情をしていた。
なんでそんな表情をしているのか、答えは明白な気がしてーー
駄目だと思った。
俺はいい加減変わらなければいけない。
腐ってる場合じゃない。やることがある。しなければならないことがある。
踏み出すための足を強くしなければ、駆け出すこともできない。
謝罪を受け入れてもらい訓練に参加できるまで時間はかかったが、腕は動くし誠意は行動で示すつもりでやってきた。
卒業して希望通り第二騎士団に配属され、遠征も増える。
父はいくつか持つ爵位のひとつを譲るとしつこかったが、俺の目標は騎士爵を得ることだ。簡単には手にできないが、必ず手に入れてみせる。
自分ひとりの力で、成し遂げる。
そうして、会いに行くんだ。
ーーレイラは、
今はどこにいるのか分からない。
手紙は届くことがあるようだから、無事に、元気に過ごしているんだと思う。
遠征先の新しい街で時間があれば探してみるけれど見つけられない。
レイラはかくれんぼが得意だったし、俺は苦手だったことを思い出す。
いつも、いちばんには見つけられなかった。
しあわせでいてくれるならそれがいちばんいい。
笑っていてくれるなら、それだけで。
でも、もし、会えたら。
間違いなんかにはさせないとその手を掴んで、掴めたら二度と、離さない。
あいつも俺も、独り身だ。
俺はまだ自由だが、爵位を継ぐあいつが父にせっつかれてることをきいた。
ざまーみろ。
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