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12.
しおりを挟む「それは出来ない。…最早無関係のきみと…いや、きみ以外だろうと男と二人きりになどさせられるわけがない。無礼も承知だが退出させてもらう。レイラ戻りなさい。…キャシー」
「ーーえぇ。…ディートごめんなさいね、失礼させていただくわ。……シエル、あなたも、」
「…」
「……申し訳なかった、キャシー」
守られていることに安堵して、甘えて。
無言のまま向かい側へと頭を深く下げた。
己の怠惰さを心から、悔やみながら。
……これで、終わり。
思い出がよみがえる。
領地で初めて出会ってからのこと。
花を摘んでくれた。
星の話をしてくれた。
父に叱られたときは慰めてくれた。
大好きだった祖母が儚くなったときは泣き止むまでそばにいてくれた。
野犬からわたしたちを庇ってくれた。
迷子になったときはいちばんに見つけてくれた。
わたしに花を差し出して、ずっと一緒にいようねと。守るよ、と。
それが永遠だと、信じていた。
優しく告げてくれた言葉を。
まなざしを。
いつしかそれが背けられても。
振り返った視線が冷たい色に変わっていても。
わたしはあなたを、信じていた。
さみしさを勘違いしてしまうのは隙間ができてしまったから。
それを埋められる術をまたいつか見つけられるだろうか、と。
不安がせつなさを纏うけれど。
独りよがりの恋は。
少しずつ失われていって漸く、最後まで残っていたものが、消える。
ーーさよなら。
「ーー…シエル…ッッ!!」
心だけでつぶやいて。
母に連れられ扉へと向かっていたわたしは反転した。
昏く沈む翡翠が、見開くわたしの視界を覆う。
つくりもののように整えられた顔の、うつくしい彼。
そのかたちの良いくちびるが動く。
掴まれた手首がきしみ、怒号と離される間際にわたしの耳もとを掠めるように。
低く、温度のない声で。
ーーーー予定を前倒しにして領地へ向かった。
アベルには嘘の日程を教えて、手紙を残した。
『……もう手遅れなんだよ』
わたしは、たどりつくことはできなかった。
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