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しおりを挟む門をくぐり馬車が停まった。
「よう。お帰り」
扉を開けてくれたのは執事ではなく。
「…また笑いにきたの?」
「泣いてたら大笑いしてやろうと思ってたけどな。
早く降りろ、待ってたんだから」
「…」
曇り空のような灰色の髪に、紫水晶の瞳。意地悪くほほえむ幼なじみ。
「…庭?」
「どうせまた茶なんて飲めなかっただろ。お前の好きな香りの紅茶用意してる。あとうちの料理長が作ったとんでもない甘さのケーキもある。」
「嬉しい。喉乾いてたの」
エスコートされたまま庭に向かうとセッティングは済んでおり、座るとメイドが紅茶を淹れてくれる。
落ちつく香り。甘いチョコレートの匂い。
一口飲んでほっと息を吐く。
「食べろよ」
「ん…………おいしい」
「そりゃよかった」
「うん。ありがとう」
「……バカだよな、あいつ」
「…え、?」
幼なじみは身を乗り出しテーブルに肘をついて。
「お前がこんなにかわいく笑うって知らないんだ。バカだよ」
やっぱり意地悪そうに笑った。
婚約者と幼なじみとわたしは領地が近かったこともあり、昔から仲が良かった。
だから婚約者も幼なじみ、なんだけれど。
わたしは彼を好きになり、彼もわたしを好きなんだと思った。
だからわたしに、婚約を申し込んでくれたんだと思ってた。
婚約者の態度がおかしくなったのは学園に入ってから。
最初は謝っていたし、わたしは泣いていた。
けれどいつからか謝ることもなくなり、泣くこともなくなって、
目が合うことも、会話をすることもなくなった。
それから半年。
わたしに残ったのは婚約者という肩書きだけ。
それを失くすのは簡単だ。
わたしが、一言言えばいいだけ。
それであっさりと消えてしまう。
「…わかってるの…」
「なにが」
「解放してあげなくちゃ、って、」
「でもまだ好きなんだろ?」
「、…」
「……お前もバカだよ」
わたしは俯いていたから、幼なじみがどんな表情をしていたのかわからなかった。
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