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第一章『幼少期』

第5話『魔法の稽古』

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 コソ錬がバレた次の日からアランはマリーナから本格的に魔法を教えてもらえる事になった。
 剣術の稽古けいこは流石にまださせてもらえなかったが2歳児の身体能力を考えれば仕方ないだろう、魔法だけでも修業できるのだから文句は言えない。

 午前中は兄たちの剣術の稽古を観察し、午後からはマリーナによる初めての魔法の稽古となった。

 午後になり修業場である中庭にマリーナと一緒に行くと兄2人が既に待っていた。
 「本当にアランが居るな…」 兄のエドガーが驚いていた。
 既に兄たちにもアランも一緒に稽古を受ける事は事前に知らされていたらしい。

 取り合えず兄たちを紹介してみる。
 長男ジャック(7歳)は金髪かつ金眼で爽やかそうな顔立ちをしていて今後成長したら絶対にイケメンなる顔立ちのウラヤマけしからん奴で、デュフォール家長男として父に厳しく育てられている為言葉使いも良く、剣や魔法の腕共に歳の割にかなり優秀であるらしい。
 次男エドガー(5歳)は金髪の蒼眼で父親譲りの顔立ちをしており『THE男』って感じのワイルドなイケメンである。しかし跡継ぎでは無く厳しく育てられていない為、言葉遣いが悪いのでよくマリーナに怒られて嬉しそうにしている変…何でもない…。 このままヤンキーかマザコ…ゲフンになってしまうんじゃないかと俺は秘かに心配してます…。 魔法の才能は乏しいが剣術の腕は長男であるジャックにも引けを取らない実力を持っているという、やっぱりエドガーとは距離を置こう…絡まれたくない。

 そんな感じで兄たちを紹介してみたが2人共良い兄である。

 そんな兄たちがアランに話しかけてきた。

 「アランにはまだはえーんじゃねえの?、まだ2歳じゃねーかよ。」 と次男のエドガーが軽く文句を。
 「その歳で母様から魔法を教えてもらえるなんてアランは凄いじゃないか、兄としても誇らしいよ。」と長男のジャックは次男とは間反対まはんたいな発言をし、そんな兄2人を見たマリーナが「あらあら~」といつも通りだ…。

 「さて、今日からアランも一緒に稽古を受けるので復習も兼ねて今日は「ファイアーボール」を練習しましょう。」 と母マリーナはニコニコしていてなんだが上機嫌そうだ。

 「ええ~…ファイアーボールはもういいよ…、俺は剣で生きるんだ!」 と次男エドガーはあまり乗り気ではないようだ。
 「エドガーは剣の腕が有っても魔法は苦手だからな、だけど今の内に頑張って少しでも身に付けておかないと成長できない大人になってから後悔するぞ。」 ジャックはエドガーに対してたしなめた。
 ――ん?「成長できない大人」ってどういう事だ? 成長期じゃないと魔法が成長出来なくなるという事なのかな?
 「ジャックにいさま、大人になったら魔法は成長しなくなるのでしょうか?」 疑問をずっと持ち続けるのは嫌なのでアランは早速ジャックに聞いてみた。
 「アランはまだ知らなかったか。 成長しなくなるわけでは無いが、20歳を過ぎると成長速度が大幅に下がってしまうんだ。だから成長しやすい子供の時期に鍛えるんだ。そして鍛えた分だけ大人になってから人生で有利になる。 アランも自分や家族の為に今の内に鍛えて僕らと同じ目標の『ターヒティア帝国学校ていこくがっこう』に入学するといいぞ。」
 やはり人の成長期に経験を積んだ方が良いらしい。 それにしても兄たちは父の書斎で見た「ターヒティア帝国学園」の入学を目指しているのか…。 「祝福の儀しゅくふくのぎ」で良い固有スキルを引けないとダメだったハズだったよな…?
 「ジャックにいさま、帝国学園に入学するには『祝福の儀』で良い固有スキルが必要なんですよね? 固有スキルは遺伝する可能性が高いと聞きました。にいさまたちは『固有スキル』を持っているのですか?」 持っている確率は低いと知りながらも兄たちに聞いてみた。
 「ああ、僕らは持っていないよ。 でも「固有スキルは」遺伝しやすいから僕らも良いスキルを貰える可能性が高い思うんだ。だから祝福の儀が楽しみだよ。」 とジャック兄が言う。
 ――成程あのパツキン髭イケメン&超絶美女な親は良い固有スキルみたいだな、どんなスキルを持っているのか凄く気になる。
 「俺らは絶対大丈夫だろ、でもアランだけ髪の毛の色違うからなー、ハズレスキルかもなー。」 とエドガー兄は意地悪な事を言う。
 「あらあら、エドガーそんな事言っちゃだめよ、めっ! ウチの子はみんな優秀な子なんだからきっと入学出来るわよ、だいじょ~ぶ!」 ――なんだこの可愛い生き物は…。 どんどん母という認識が無くなってしまうからやめてくれぇ~ハアハア…。
 しかも軽く怒られてるエドガー兄も「にへへ~」と おい兄よ、顔が緩んでるぞ?ワザと怒られにいってるだろ…。

 「因みにかあさまやとうさまはどんな『固有スキル』を持っているのですか?」とマリーナに聞いてみた。

 「あらあら興味を持ってくれたの? 私は【満月の魔女まんげつのまじょ】という固有スキルで、その名の通り『夜』や『月』が出ている時に魔力が最大10倍まで上昇する事が出来るスキルよ♪ 月の満ち欠けによって効果上昇値が変わるから万能では無いわね。でも最大時には、かの『賢者けんじゃ』よりも強いって言われたわ♪」
 ――10倍ってもはやチートじゃないか?母マリーナは元中級冒険者だよね?中級冒険者の10倍上昇で『賢者』より強いはアカンでしょ…。

 「夫のフィリップは【千虻魔剣士せんぼうまけんし】という固有スキルを持っているわ。 効果は、自身が持っている魔法属性を剣に付与する事が出来る魔剣士よ! 「魔剣まけん」自体が国宝級こくほうきゅう価値が有って手に入らないのに、魔剣でも無い自分の剣に魔力を付与する事で『魔剣』として使用できるスキルだから正直私より断然実用的で羨ましい位だわ。」
 マリーナは愚痴を漏らすように頬を膨らました。 ――おいマリーナを見たエドガー兄がにやけてるぞ…。

 父も凄い固有スキルだな、それなら兄たちも高確率で有能なスキルを貰えそうで良かった。

 「さあ今日も始めるぞ!」 ジャック兄はにやけてるエドガー兄を引きずりながら稽古開始を宣言した。

 という事で魔法の稽古が始まった。

 俺はマリーナに魔術の知識を教えてもらいながら軽く兄たちを見てみた。

 兄2人は自習でファイアーボールを庭にある「カカシのような的」に撃っていた。
 「ファイアーボール!」 ジャック兄は慣れた手つきで魔法を撃ち正確に的に当てている。
 ――やっぱ普通に上手いな…。 剣術も凄いし完全に万能タイプ一直線だな…デュフォール家次期当主間違いなしだと思う。

 今度はエドガー兄を見てみた。

 「ファイア~~ボーールゥ!!!」
 やけに詠唱が長い…と思って見てたけどちゃんと撃つことは出来た…が的に届く前に炎の弾は消えてしまった。
 「チッ もう一回だ! ファイアボーーール~」
 今度は的に当たった。 それにしてもやっぱり詠唱が長い…というより炎の生成が遅すぎて詠唱時間が長くなっているみたいだった。 エドガー兄はやはり魔法が苦手みたいだな…。
 「アラン見てたかぁ!? 成長したらお前も出来るようになると思うから頑張れよ!」
 なんか軽く自慢されたな… まあ子供だしな…俺は笑顔で「エドガー兄は凄いですね!」と褒めた。

 「あらあら、アランの方がもっと凄いわよ! あなたたちのファイアーボールより凄いファイアを使えるのよ?」
 ちょっ…この美女様はマジで何言ってるのォォォォ~? 目立ちたくないんだけどォ?

 「母様、それは本当ですか? アランが魔法使う姿を是非見てみたいです!」 とジャック兄が興味を持つ。
 ――ほら言わんこっちゃない…
 「母さん、そりゃないぜ。 俺がやっとファイアーボールをまともに出来るようになったのにまだ2歳の赤ん坊がファイアなんか使えるわけないだろ…。」
 ――スマン出来ちゃうんだぜ…。
 「アランこっちおいで♪」 マリーナは見せる気満々だ。 ハア…今日は知識を学ぶだけって聞いたのに…
 俺は兄たちと並んで目標の的を見た。 ――てか並ぶとよく分かるが赤ん坊だから兄と比較すると背低過ぎるな…
 並んだ俺を見たマリーナは魔法を唱えた。
 「エレメンタル・ツリー!」
 すると「ドドドドドッ」と地面を響かせながら的の横に的より3メートル程デカい『木』が一気に生えてきた。
 ――おいおいなんだこの魔法は…家の中に木が生えてるとか凄すぎるぞ。
 「やっぱり母様の魔法は相変わらずいつ見ても凄いですね。」
 「ケッ、こんなもん覚えたって何に使うんだよ。」
 兄はそれぞれ感想を述べていた。

 「あらあら、エドガーそんな考え方じゃあ帝国学園に入学なんか出来ないわよ~? それとも一生私の面倒を見たい?」
 マリーナは笑顔でエドガーを見つめていた。
 ――イヤ笑顔が怖い、怖すぎる…エドガー照れながら顔青白くなってるぞ… ていうか反応どっちかにしろよ…。

 生えてきた木を観察していると、アランに対してマリーナは「この木にファイアを撃ってみなさい!きっと2人もびっくりすると思うわよ!」 マリーナは自信満々に言った。

 「かあさま、それならさっきの『まと』でよくないですか?」 マリーナに質問してみた。
 「ダメよっ、このカカシ『的』は初心者~中級者の魔法を受けても壊れない程丈夫な魔力が込められた的だけど壊される可能性のあるアランはダメ!アランに燃やし尽くされたくないわっ! 燃やすなら今生やした『』にしてちょうだい。この的何気なにげに高いんだからっ!」
 どうやら稽古用のカカシらしい。 そんなに高い代物なのか…ん?、よく見てみると魔力が宿っているような…。
 「そんなにアランは凄いのか?」 ――そんな期待した目で見ないでくれジャック兄よ…。
 仕方ない、ちゃちゃっと終わらせるとするか。 

 俺は「的」よりデカい「木」に向かって手を向け、魔法を唱えた。

 「ファイア!!」 先程生えた木が燃え出したと思えば一瞬にして真っ黒な灰となった。
 対処物の「木」が大きかった為、燃えた範囲が広く物凄く焦げ臭い。
 その光景をみたマリーナは「キャーキャー」言いながらまたぴょんぴょん跳ねていた…。

 「おいおい冗談じゃないぞ? アランお前こんなに強い魔法使えるのかよ…。」 エドガー兄は自信喪失していた。
 ――エドガー兄よマジでスマン…。
 ジャック兄は俺の魔法を見て何も発言せず何か考え込んでいた。 嬉しそうな顔をしてるから俺に対して変な事は考えてないと思いたい…。

 「ねえ?アランは凄いでしょ♪ もうママ嬉しくてアランと毎日一緒に寝たいわぁ♡」
 稽古中に何を言ってるんだ? おいエドガー兄よ俺を見て睨むな…俺は冤罪えんざいだぁっ!

 心労しんろうのせいか魔法1発撃っただけなのにもう疲れてしまったわ…。

 「じゃあ次はファイアーボールを試してみましょう♪」
 「ちょっと待って下さいかあさま、僕はファイアーボールを使ったことがありません。」

 「あらあら大丈夫よ、アランの遠距離ファイアよりも簡単に出来るわ! 魔力を同じく手に集めるイメージをした後、魔力を飛ばす前に炎を生成させるイメージをしてみて!」
 マリーナの言う通りに炎のイメージをしてみると手から炎が「ボォッオ!!」と自分の体の半分程の大きさの炎が発生した。
 炎がデカすぎて俺は軽くパニックになる。 しかも炎が発生してる手は熱くないが周りが凄く熱くて火傷しそうだ。
 「かあさま!この炎はそうすればいいのですか?炎がデカすぎて怖いです!」

 3人とも完全に固まっていた。
 マリーナは直ぐに正気に戻り「アラン!そのまま手を前に出した状態で魔力を止めるイメージをして! 『アイストルネード!』」 マリーナが唱えるとアランの周りに氷の突風が吹き、発生していた炎が消えた。

 「アラン大丈夫? ケガはない? やっぱり最初に魔法の知識を教えとくべきだったわ。 アランは賢いから知識さえあれば今のも未然に防げたわ。 本当にごめんなさい。」 マリーナは謝った。

 それにしても「アイストルネード」か…見た目は完全に氷をまとった竜巻で凄くかっこよかった。てかチートじゃないあの魔法…俺もぜひ使ってみたい。
 ファイアーボールは失敗に終わったが収穫も有った。 やはり普通に魔力を込めただけでも俺の魔力は強すぎるのだ。
 それなら今後は魔力を調節する技術を学ぶしかないな、でもなんか失敗のまま終わりたくなかった。

 「かあさまファイアーボールはさっきの状態からだとどうすればいいですか? 球体に練り直してファイアと同じく対象に向かって魔力を放てばいいのでしょうか?それとも球体をそのまま投げればいいのでしょうか?」
 「ええそうよ、球体になるように炎の形状をコントロールしてそのまま投げればいいのよ! 投げる手は触っても熱くないから大丈夫よ。ってまさかやる気なの?」
 俺は返事をせず再度ファイアーボールに挑戦した。

 炎を発生させるのは簡単だがそこから球体にする行為が中々に難しく少し時間がかかったが球体にすることに成功した。

 「なんだこの大きさは…まるで『フレアー』ではないか!」 今まで黙って見ていた兄ジャックが驚きの余り言葉を発した。

 そりゃそうさ、体の半分ほどの炎がその大きさを維持したまま球体になってるのだから…。普通に人から見たらこれはもはやファイアーボールの大きさではない。
 マリーナは心配そうにしながらも、上手く炎を球体に出来た事で目は輝いていた…本当に正直な母様だなおい…。

 「アラン! その状態で私に撃ってみて!」 ええ?母様はドMなのか? 身内を焼き殺す性癖は持ち合わせてないぞ…と心の中で突っ込んだがマリーナは物凄い笑顔で言っている。 本気なのか? もう知らないぞ?

 俺は覚悟を決めマリーナに魔法を撃った。 「ファイアーボール!」
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