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5羽 誓の朝

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翌朝。
ライキはいつもより一時間早く家を出てリーネを家まで迎えに行ってから、二人で一緒に教会までつがいの届け出に出かけた。
教会に着いた二人が神父につがいになりたい旨を伝えると、神父より父から聞いた話と同様のつがいについての説明が行われた。
「以上、決まり事と禁則事項に了承し、つがいになることを希望しますか?」
「「はい。」」
二人が同時に返事をすると、神父はにこやかに微笑んでから一枚の書類を差し出した。
「それでは、こちらに記入してください。」
「「はい。」」
二人はその書類につがい名とお互いの住所、氏名、年齢、誕生日、家族についてなどを記入する。
その後神父が不思議な魔道具に書類を置くと、それが転送され、すぐに対の銀の指輪が送られてくる。
指輪の裏には先程記入した二人のサインとつがい名が刻まれており、表には2ミリ程の点が一つ光を放っていた。
女神フェリシアの像の前で、神父より渡された指輪をお互いの左手の薬指にはめ合ってから、はにかみながら唇に軽く誓いのキスをした。
そしてつがいの届け出は完了した。

教会の帰り。
二人で手を繋いでユデイの本屋の前にさしかかると、開店準備をしてた彼に声をかけられた。
「あれ!?二人一緒!?」
「「ユデイ!おはよう」」
と2人。
「おはよ!」
ユデイは繋がれた2人の手を見てすぐに指輪に気がついた。
「ええっ!何!?
お前らつがいになったの!?
いつの間に!?」
「・・・うん。
今さっき届け出してきたとこ。」
気恥ずかしそうに答えるライキ。
「なんだよ~、羨ましいヤツ。
じゃあもうアレも必要なくなるな!」
軽く肘鉄してくるユデイ。
「アレって何?」
リーネに聞かれて
「い、いや、別に?」
赤くなり慌てるライキ。
「え~?怪しいなぁ。
うふふ!私もルウナに報告しておきたいから先行くね。」
「うん、後でそっち行く。」
「バイバイユデイ!」
「おう、おめでとーなー!」
ユデイと二人でリーネを見送った。
「・・・しかしマジでか!
良かったな!」
「・・・うん、ありがと。」
「で、どういういきさつ?告った?」
彼は気になって仕方がないのかぐいぐい食いついてくる。
(媚薬の材料関連の話はリーネが嫌だろうから掻い摘んで説明しとこう・・・)
「リーネと喧嘩になったところをうちの兄貴が上手くやって、仲直りの流れからの告白って感じかな。」
「そうかそうか・・・。
いーなー俺もルウナとつがいになりてーなぁー。
でも今告っても受けてくれないだろうな・・・。
話しかけても今ひとつ距離か縮まらないっつーか。
今度お前の兄貴に相談してもいい?
村一番の美男と評判のハイドにーさんだし恋愛経験豊富そう!」
(あぁ見えて兄貴ヒルデ姉さんに一途だけど、的確なアドバイスをしてくれるもんな・・・。)
「いいよ。
兄貴に話通しておく。」
「サンキュー!」
「ところで、リーネとキスした?」
ニヤニヤしながら興味津々に尋ねてくるユデイ。
(キスどころか手で・・・。)
思い出して真っ赤になったライキは目を泳がせた。
「・・・内緒。」
「この反応は何かあったな!?
ちくしょー!教えろーー!」
ライキは怒り狂うユデイにあははと笑って逃げるように手を振った。
「それじゃもう俺行くから。
またな!」
「あっ!
逃げるなコラ!
詳しく聞かせろよーーー!!」
そんなやり取りを影で見ていた少女が物凄い形相で走り去った。

ライキは何とかユデイを撒いて逃げてきて、リーネと合流しようとセンター通りの角を曲がった。
するとリーネがルウナの家の前で一緒にいて、そこへ先程物陰からライキを見ていた少女がやってきて、何かを言ってからリーネの頬を叩いたのだった!
(リーネ!?)
慌てて駆け寄って行くと、叩いた少女はライキの方をチラッと見てから逃げるように走り去って行った。
二人の近くまで駆け寄ったライキは、
「大丈夫か!?
リーネ・・・。」
と声をかけた。
リーネはぶたれた頬を押さえて
「うん、たいしたことないよ・・・。」
と少し笑って返事をした。
「ライキ、今冷やすもの持ってくるからリーネについててくれる?」
ライキが頷くと、ユデイの想い人のルウナが家に入っていった。
「さっきのって確か俺らとタメのヨハナ・・・だよな?
・・・どうした?」
リーネを傷つけた相手に明確な悪意がある場合は容赦しないライキだが、相手が知り合いで事情もわからないため闇雲に怒るわけにもいかず、慎重に何故ぶたれたのかを確認する。
「ライキは女の子に人気があるからつがいになったならこういうこともあるかなって思ってたけど・・・。
いきなり叩かれちゃった・・・!」
舌を出してテヘッと笑うリーネ。
そこへルウナが戻ってきて、
「はい、これしばらく当てて。」
とリーネに濡れタオルを渡した。
「ありがとルウナ。」
リーネはそれを受け取り、赤くなった頬に当てた。
ライキはその様子を見ながら顎に手を当て、先程リーネが言ったことについて考える。
「・・・えっと、俺別にモテた試しなんてないけど・・・?
兄貴がっていうならわかるけど。」
「何かラブレターを前に渡したって言ってたよ?」
ちょっと拗ねて唇を尖らせたリーネが言った。
「ラブレター?
・・・・・そんなことあったっけ?
・・・そういえば前にヨハナに読んで欲しいって手紙を渡されて、詩的な文面で頭の悪い俺には内容がよくわからなかったから、そう言って返したことがあったけど・・・。」
「きっとそれだと思うよ・・・。
ライキ、私に鈍いってよく言うけどライキも相当鈍いよ?」
そんなやり取りを見ていたルウナがクスクス笑う。
「可笑しい、二人とも・・・!
でも本当に二人がつがいになって良かった!
前々から二人は明らかに両想いなのに、なかなか進展しないから実はウズウズしちゃってたの!
ああいう子がほんの少しいたとしても、二人の幸せを喜ぶ人のほうがこの村にはずっと沢山いるんだからね!
でもライキ、気をつけてあげてね・・・!」
「うん、わかった。」
「ありがとうルウナ!またね!」
ルウナにバイバイしてリーネの家へ一緒に向かう。
「頬、大丈夫?」
「うん。
頭にきたから一瞬叩き返そうかと思ったけど、もしライキを他の子に取られたら私だってきっとあんなことをしたくなるくらい辛いんだろうなって思ったからやめておいたの。」
「・・・そっか。」
「うん。」
「俺もリーネのこと好きだった奴に殴られたりするのかも。
そういう奴割といたし。」
「えーっ嘘でしょ!
私告白どころか手紙ももらったことないよ?」
「店に用もないのにしょっちゅう来てたやつとか居ただろ。
アプローチされてるの何度か見かけた・・・。
でもリーネ全然気がついてないし。
そいつらにムカついたけどちょっとだけ同情した。」
「・・・そんな人いたっけ・・・?」
「ほら!鈍いだろ?」
「鈍い人に言われたくなーい。」
そう言ってお互い笑った。
「仮にそういう人がいたとして、ライキ強いから殴れる人なんていないと思うな。」
「そうかな・・・。
俺なんか狩人として全然ひよっこだけど・・・。」
「そんなことないよ。
すごく強くてかっこいいよ!」
と笑顔のリーネに言われ、嬉しくて照れるライキ。
「私もライバルがたじろぐくらい強くならなきゃ。
負けないっ!」
リーネはそう言って腕まくりしてみせる。
「ムキムキのリーネかぁ・・・想像できないな(笑)」
「もー、精神的に強くなるって言う意味だから!
さて、今日もお仕事がんばろうね!」
「うん。
今日は媚薬の納品の日だよな?」
「うん。
夕方に依頼主のゴートンさんが滞在しているお部屋に届けに行くの。
今から作ったら間に合うと思う。」
ライキはゴートンさんという人がどんな人なのか知らないので、
「本当に効き目があるのかお譲ちゃんで試させてくれよ。
ぐへへ・・・」
とオヤジがにじり寄る妄想をしてしまい、ぞっとする。
「それ、俺も一緒に行ってもいい?」
「えっ?
別にいいけどどうして?」
「・・・心配だから。
じゃあ、今から森に入るけど時々顔出すから。
またあとでな!」
「うん、またね!」
リーネはライキを見送ってから、店に入る。
頬の腫れはルウナのおかげかもう引いていた。
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