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7羽 スイズリー山脈の風の使い

⑨フォレストサイドにじーちゃんばーちゃんと従兄弟がやってきた

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燕月(7月)最終日─。
銀色狼と空駒鳥のつがいがイターリナから帰還した3日後。
この日はザインからの文により彼らがフォレストサイドに到着することがわかっていたので、銀色狼と空駒鳥の二人はゲイルとサアラにより案内役として休みを貰っていた。
よって、二人は自室にて明日からの令嬢護衛任務に持っていく荷物の確認をしながらスイズリー村のある北の空をちらちら見ていたが、時計が午前9時を指す頃、見覚えのあるワイバーンが優雅に飛んでくる姿が見えた。
「あっ、じーちゃんたちが来たみたいだぞ!」
ライキが窓越しに北の空を指差した。
リーネも立ち上がり、彼の隣で元気になったウィンディの飛行する姿を確認すると、ホッとしたように微笑んだ。
「わぁ~ホントだ!
すぐ出迎えに行こう!」

間もなくして、ウィンディはハント家の裏庭の芝生の上に降り立った。
最初にその背から降りてきたのは、ザインの妻のシルビア、そしてライキの従兄弟のソルの二人だった。
「「空の旅お疲れ様!
フォレストサイド村へようこそ!」」
ライキとリーネは二人揃って挨拶をした。
「ライキにリーネちゃん、5日ぶりだね!
フォレストサイドに来るのはあたしゃ初めてだけど、緑が多くて綺麗な村だね!」
とシルビアが微笑み、変わらず威勢の良い声で言った。
「あー!ワイバーンに乗るの超楽しかった!
さっきワイバーンの背からこの村を見下ろしたんだけどさ、フォレストサイド村って結構都会!?
イターリナにない大きな家がいっぱいあった!!」
とソル。
「大きな家?
あぁ、商店街のことか。
イターリナと違ってここらは木造建築だから大きく見えたのかもな?
人口はイターリナとそんなに変わらないぞ?」
とライキが答えた。
そして、最後にウィンディの使役主であるザインが降りてくるかと思い待っていると、何やら誰かと揉める声がし、ライキ達が予測していなかった人物、白髪交じりの青灰の髪の美しい初老の男がへっぴり腰で姿を現した。
「や、やっと着いた・・・」
「セトじーちゃん!?」
「セトさん!?」
ライキとリーネが同時に驚き目を見開き声を上げた。
その背後からザインがカッカッカッ!と腰に手を当て笑いながら現れ、セトがこの場にいることについての説明を始めた。
「いやぁ、今朝方早くソルを迎えにイターリナに寄ったら、このジジイが自分だけ曾孫に会えていい気なもんだな!とかグチグチ文句たれてあまりにもうるさいもんだから、そんなに言うならお前も来れば良かろうと引っ張ってウィンディに乗せてやったんだ!
そしたら、
「高いところだけは俺は駄目なんだ!
下ろしてくれ!」
とかギャーギャー騒いでおったが、途中で恐怖の限界点を突破したのか、ようやく静かになったわい!
カッカッカッ!」
「えっ!?
ザインじーちゃん、セトじーちゃんを無理矢理連れてきたのか!?」
(高所恐怖症なのに!?)
ライキとリーネは汗を飛ばしながらセトの側に駆け寄った。
「大丈夫か?
じーちゃん・・・」
「あ、あぁ・・・訓練されたワイバーンなだけあって飛行は穏やかだったし、なんとか小便を垂らさずに済んだよ・・・。
ザインの奴に高所恐怖症のことがバレてしまったのは悔しいが、小便垂れとまで言われたら敵わんからな・・・。」
「帰りは大丈夫そうですか?
もし不安があればリラックス出来るようなお薬を出せますよ?」
とリーネがセトに優しく声をかけた。
「ありがとうリーネちゃん。
行きで幾らか慣れたし下さえ見なけりゃ何とかなりそうだから大丈夫だよ。」
「それなら良かった!
ばーちゃんとおばさんは留守番か?」
今度はライキが尋ねた。
「あぁ。
あの二人が乗るとザインのワイバーンの重量オーバーらしいからな。
だから二人にはイターリナに残って貰ったよ。」
「そっか・・・。
ウィンディの大きさだと大人4~5人運ぶので限界だろうしな。」
とライキ。
「セレーノは?
セトさんが来られたってことは、今日はお休みですか?」
今度はリーネが訪ねた。
「暇な平日だし、テアラとオルラが俺がいなくても二人で回せるってさ。
折角だからこの機会にサアラと仲直りしてこいって言われたよ・・・。
そしたらハイドもライキももう大きくなったことだし、たまにはサアラが旦那の使役魔獣に乗って里帰りが出来るだろうからって。」
「そっか・・・そうだよな!
じーちゃんは緊張するかもしれないけど、きっと大丈夫だよ。
父さん今は仕事で森に入ってるけど夕食には家に帰るって言ってたから、腹を割って話をしたらいいよ。
そしたら母さんもじーちゃんのことを許してくれると思う。」
ライキが柔らかく微笑みながら言った。
「・・・あぁ、わかったよ・・・。」
セトが頷いたところでザインがこちらに呼びかけてきた。
「おーい!
早く曾孫を拝みに森の青鹿亭とやらに行こうじゃないか!
ライキにリーネちゃん、案内を頼むぞ!」
「あっ、はーい!」
とリーネが先に返事をした。
「ちょっと待って?
じーちゃん立てるか?」
ライキはそっと手を貸してセトが立つのを手伝ってから、リーネと一緒に言った。
「「それじゃ、森の青鹿亭までご案内します!」」

「ようこそフォレストサイドへ!
スイズリーのじーちゃんばーちゃん久しぶり!
おっ、お前が従兄弟のソルか?
マジでガキの頃の俺みてぇ(笑)
えっ!?あんた、もしかしてセトじーちゃん!?
ライキから来るって聞いてないんだが、13年ぶりか!
会えて嬉しーぜ!」
森の青鹿亭に辿り着いた一同を迎え出たウエイター姿のハイドが嬉しそうに全員に向けて声をかけた。
だがザインとセトはヒルデの胸に抱かれたエルドに夢中でハイドは眼中に無いようだった。
「えるくぅ~~~ん♡
スイズリーの曾おじいちゃんだぞ~~~い♥」
「気色悪いんだよ山猿、退け!!
エルく~~~ん♡
イターリナの格好良い方の曾おじいちゃんだよ~~~♥」
二人のジジイは互いに負けじと必死に曾孫に愛想を振りまいていたが、そのデレッデレの顔がエルドには大層怖かったようで、えぐっえぐっと顔を真っ赤に染めて顰め、今にも泣き出しそうになっていた。
それを必死にあやすヒルデとリーネ。
「・・・何か俺、じーちゃんたちの眼中にないみてーだな・・・。」
ハイドが苦笑いを浮かべて言った。
「あはは!ごめんよハイド。
うちのじじいだけでなく、セトさんまでエルくんのあまりの可愛さにすっかり夢中になっちまったねぇ(笑)
あたしもエルくんを抱っこしたいけど、あっちがもう少しヒートダウンしてからにさせてもらうよ(笑)」
とシルビア。
「ああ、そうしてやってよ。
エルもシルビアばーちゃんに抱かれると嬉しいと思うぜ?
それにしても5年ぶりか・・・。
前にスイズリーに行ったときはまだヒルデとつがいになってなかったからな・・・。
みんな変わらず元気そうで良かったぜ!
ほら、ここ座りな?」
ハイドはシルビアに椅子を勧めた。
「ありがとうハイド。
あんた前に会ったときにはまだあどけない顔をしてたのにすっかりいい男になったねぇ!
それにあんなに綺麗なお嫁さんまで貰って、早速子宝にも恵まれてさ!
良かったね!」
シルビアがハイドの背中をバシッ!と叩きながら笑った。
「ははっ!
皆のお蔭で俺すげー幸せだよ。
ほら、ソルもここ座りな?」
ハイドが微笑みソルに席を進めた。
ソルは勧められた席に座りつつ、不思議そうに首を傾げてハイドに尋ねた。
「なぁなぁ、ハイドにーちゃんってこの店の亭主なんだろ?
何でウエイターの格好をしてるの?」
それに対してハイドが答えた。
「あー、まだエルに手がかかるしヒルデがホールに出れねーからだよ。
仕込みは大体俺がやるけど、営業中はヒルデのクソオヤジに厨房に入って貰って、代わりに俺がホールに出てるんだ。
クソ親父は強面でホール向きじゃねーからな。」
「えーっ、でも俺、ハイドにーちゃんのコック姿が見たかったのに!」
「俺のコック姿?」
ハイドが首を傾げた。
「あぁ、うん。
ソル、セトじーちゃんにコックを継げって言われてるけどまだ迷ってて、参考のために兄貴のコック姿が見たいんだってさ。
だから兄貴、ソルに見せてやってくれないか?
兄貴が厨房に入っている間は俺がホールに入るからさ。」
ライキはソルに配慮して、ソルがコックを継ぐことを迷っているあたりの事情はセトには聞こえないようにと声を抑え、ハイドにそう説明をした。
「ふーむ、成る程な。
うちで社会科見学がしてーっていうなら大歓迎だぜ?
気の済むだけ見て行きな!」
と言ってネクタイを緩め、制服の袖を捲り、厨房用の黒いエプロンを身につけるハイド。
「ありがとうハイドにーちゃん!」
「いーよ別に。
本音言うと俺も厨房に入る方が好きだしな!」
「それじゃ俺、急いで制服に着替えてくるよ。」
そう言ってライキは更衣室に消えて行った。

「おまたせしました。」
ライキはカウンター席に座っている、朝早くに出てきたために朝食を軽くしか食べていないという二人の祖父と祖母と従兄弟に、ハイドが作ったモーニングのプレートを置いていく。
プレートには厚切りトーストとほうれん草のオムレツ、ウインナー、夏野菜のサラダ、コーンポタージュ、ホットコーヒーがセットされていた。
「ほう・・・この店はモーニングもやっているのか!」
とセトが目を見開き感心し、声を上げた。
「あぁうん。
青鹿亭は9時に開店するんだけど、朝市帰りの主婦とか、教会が近いからミサ帰りの人とかにモーニングの需要があるからな。
セレーノはモーニングはやってないのか?」
とライキがセトに尋ねた。
「あぁ、うちはランチとディナーがメインだし、朝は10時に店を開けているからな。
しかしどれも美味しい・・・。
特にこのオムレツは絶品だ・・・!
オムレツの出来で料理人の腕はある程度図れると俺は思うが、これは俺の知る中でもダントツ美味いオムレツだ。
ウインナーも珈琲もジャムも美味い・・・。
ウインナーはサアラの店のか?」
とセト。
「あぁ、そーだぜ?
俺は魔獣肉の加工品に関してはサアラの右に出る者はいねーと思ってるからな。
身内なぶん安く仕入れさせてくれるし、細かい注文も出せるから助かってる。
珈琲豆はリーネのじーちゃんが煎ったのを買ってるんだ。
コクが市販の豆とは比較にならない程豊かで、毎回安定した品質だから客からの評判もとてもいいんだ。
ジャムはリーネ手製のやつを使わせてもらってるよ。
いつもありがとうな!リーネ。」
厨房からハイドが顔を覗かせて答えた。
「いえいえ、私も青鹿亭さんに使って頂けて嬉しいです!
このジャムはスイズリーで採れた木苺で作ったんですよ!」
とリーネが返した。
「なんだ!
それじゃあハイドにーちゃんは、トーストとオムレツとスープとサラダしか作ってないし、たいしたことないじゃん!
オムレツなんて卵を焼くだけだろ?
そんなの俺でも出来るっての!」
ソルのセリフにピキッときたハイドがカウンターまでツカツカやってくると、チョップを軽く振り落とした。
「いてっ!
何すんだよハイドにーちゃん!」
「コラ。オムレツ舐めんなよ?
今でこそそこそこ納得の行くもんが客に出せるようになったが、ここまで作れるようになるまでかなり試行錯誤したんだぜ?」
それに対してセトが同意し頷いた。
「そうだろう。
俺だって50年近くコックをやってきてまだ完璧と言えるオムレツは作れないんだ。
シンプルが故になかなかに難しい・・・。
それをこの若さでここまで作れるのは凄いことだ。
ソル、お前はろくに厨房に立ったこともないからそんなことが言えるんだ。
帰ったら厨房に立ってオムレツを作ってみろ。
そうすればハイドがいかに凄いのかが良くわかるはずだ。
それに仕入れのことだってな、うちの店もパンやパスタやチーズやベーコン、その他の加工品もろもろ全て友人の店から仕入れてる。
一から全てを作れれば最高だろうが、そうしないと多くの客に豊富なメニューを提供することなんてとてもできないんだよ。
自分の味に合う材料を吟味し、仕入れることもコックの腕だ。
そういう意味でもハイドはとても上手くやってる。」
「フォローありがとな!セトじーちゃん!」
ハイドがセトにクロス当てを促し、セトは”気にするな”と言いながらそれに応じた。
「ソル。
俺はこの通り、好きでコックをやってるだけだけどよ。
その現場で良けりゃもっと見て行けよ。
お前にとって何か参考になるものが見つかるといいな?」
ハイドはニシシ!と笑ってそう言うと、手を振ってまた厨房に戻って行った。
ソルはハイドとセトの言葉に何か思うことがあったのか、その後は真剣にハイドの働く様子を見るようになった。
そしてモーニングを食べながら互いの近況を報告したり、シルビアとソルもエルドを抱っこさせてもらったりお世話を手伝ったりしているうちに、ランチタイムが近づき、店内が段々と混み始めてきた。
どうやら銀色狼の身内が森の青鹿亭に来ていることを知った常連客が他のたまに来店する程度の客まで招いたらしく、平日だというのに祝日並みの混み具合となった。
ザインはスイズリー村まで行かないと見られないレアなハント家ということもあり、来店する客にサインを求められたりもしていたが、手慣れた様子で愛想よくそれに応じていた。
その流れでハント家ではないセトまでも何故かサインを求められていたが、彼は困惑しながらも出される色紙に店の名前と自分の名前、そして”イターリナに立ち寄った際にはトラットリア・セレーノを宜しく!”とちゃっかり宣伝文句まで書いていた。
店の厨房のほうはハイドとルルドの二人がいるため手が足りていたが、ホールの方がライキ一人ではてんてこ舞いとなっていたため、リーネはヒルデから予備のエプロンを借り、持っているシュシュで髪をまとめながら言った。
「ライキ、私もホールを手伝うよ!」
「リーネ!
正直すげー助かるけど・・・俺はリーネがホールに出たら、またナンパされないかが心配なんだが・・・」
ライキが心配そうに眉を寄せながら、愛らしいエプロン姿のパートナーを見た。
「今回はルウナの制服を着ていないし大丈夫だよ!
ほら、また新しいお客さんが来たよ?」

リーネの協力でホールも順調に回るようになって来たランチタイム真っ只中の正午頃、ある見知った客が店に訪れた。
「「いらっしゃいませ!」」
そこに立っていたのは眼鏡をかけてカメラを下げた男性─エングリアの冒険者ギルドでシルバーファングウルフ退治の記念撮影をした後に別れたきりだった新聞記者のフレデリク・フォトグラファー・ジャーナリストことフレッドだった。
「「フレッドさん!?どうしてここへ?」」
ライキとリーネが同時に尋ねた。
「エングリアの冒険者ギルドで、君達が今度は金獅子とドSなメイドさんと合同でボラントへの令嬢護衛任務に就くと訊いたから慌てて追いかけて来たんだ!
銀色狼と空駒鳥のつがいの巡礼の旅を取材する者としては絶対に外せない冒険だからね!
君達はエングリアの冒険が終わった後、ずっとフォレストサイドで過ごしたのかい?」
「あっ、雨期の間はそうでしたけど、雨期が開けてから冒険者ギルド絡みじゃないんですけど、スイズリーとイターリナへ小冒険してきましたよ?」
とライキが言った。
「なんだって!
あぁ~残念だ・・・
その冒険も追いかけたかったよ!
今度のボラントへの冒険は是非追いかけさせてくれ!」
と身を乗り出してフレッドが言った。
「でも、盗賊団が出る道を行きますから危険ですよ?
盗賊団の問題が解決するまではフォレストサイドで待機していてください。
フレッドさんにもし何かあったら大変ですし・・・。」
ライキは意気込むフレッドに真剣な顔で伝えた。
「そんなぁ!
ここまで追いかけてきたのにそれはないよ!
何とかご令嬢に僕の同行を許しては貰えないかな!?」
(・・・あの令嬢がフレッドさんの同行を許可するとは思えないけど・・・)
ライキはフレッドのお世辞にも美男とは言えない顔を見ながら冷や汗をかいた。
「一応出発前に話してみますけど・・・もしご令嬢のお許しが貰えないときは、独自で俺等を追いかけたりは決してせずに、フォレストサイドで待機していてくださいね?
俺等が任務を終えて戻ったら可能な範囲で冒険の報告をしますので・・・」
「わかった・・・!
何とか同行させてもらえるようそのご令嬢を説得してみせるよ!
ところでお腹が空いたなぁ!
君らの取材のためにフォレストサイドに来たけど、春雷の銀狼さんの料理が食べられるのも楽しみだったんだよなぁ!
オススメは何かなぁ?」
「はい、カレーライスです!
フレッドさん、フランの人だから辛いのは不慣れですよね?
だったら中辛から挑戦してみてください。
元はリーネが作ったまかないだったのを兄貴が気に入ってアレンジしたものなんです。
すげー美味いですよ?」
「本当かい!
じゃあそのカレーライスを中辛で!」
「畏まりました!
席に座ってお待ち下さい!」
ライキはリーネにフレッドにお冷を出すように伝えてから厨房にフレッドの注文を通しに行った。
そしてさっきのフレッドとのやり取りを聞いていたザインとシルビアとセトとソルも同じものが食べたいというので、追加でカレーライス4人前の注文を通すのだった。
ハイドは「りょーかい!」と笑顔で返すと、額に汗を滲ませつつ手早く調理を行う。
その間にも食事を終えた常連客が、
「今日も美味かったぜ!大将!」
「ハイドくぅん!今日もとっても美味しかったわぁ!また来るわねぇ!」
等と言いながら代金を支払い帰っていく。
その様子をソルが目を輝かせながら見ていた。

ランチタイムのピークが過ぎて少し暇になった頃、カレーライスを完食したフレッドが言った。
「カレーライス、スパイシーでとっても美味しかったよ!
夕食は宿で取ろうと思ったけど、こちらに食べに来ようかな?
ディナーは何がオススメかな?」
ライキは本日のディナーのことは分からなかったので、ハイドに答えてもらった。
「今日は火炎鳥のソテー・レモンバターソースか雷羊ステーキ・バルサミコソースの二択だな。
さっきのカレーが熊肉でボリューミーだったから、あっさりめの火炎鳥のがあんたにはおすすめかな?」
「ありがとう!
じゃあ晩に火炎鳥を食べに来るよ!
あ、さっき隣の席のお客さんに聞いたんだけど、カウンター席に居る人達って銀色狼くんの身内の方なんだってね?
良かったらお店が落ち着いたタイミングでみんな一緒に記念撮影はどうだい?
銀色狼くんと空駒鳥さんのお蔭で僕の仕事も好評だし、無償で何枚か撮ってあげるよ?」
フレッドの提案にライキとリーネは嬉しそうに目を見開き、同時に頭を下げた。
「「良いんですか?
ありがとうございます!!」」
続けてライキが言った。
「あ・・・でも今は父さんが仕事でいないからな・・・。
明日の朝の出発前にみんな集まるから、その時に撮って貰ってもいいですか?
折角なのでみんなが揃ってたほうがいいし!」
「わかった、それじゃあ明日の朝にしよう!
さて・・・お腹もいっぱいになったことだし、これから宿を取って、話題のオレンジ・スパにでも入りに行ってみるかな?」
フレッドはカレーライスの代金を支払って手を振り店を出て行った。
フレッドを見送った後にハイドがライキにはカレーライスの激烈辛を、リーネにはレディースセットの辛口を出して言った。
「ライキにリーネ。
店の手伝いどーもな。
これ、昼飯!
・・・それ食ったら店の手伝いはもういいから、じーちゃんたちをオレンジ・スパに連れて行ってやったらどうだ?
混浴露天風呂はお前らも知っての通りだが、普通の風呂のほうならみんな入れるだろ。
ガロが今月は桃湯だとか言ってたぜ?」

1時間後─。
一同はオレンジ・スパに来ていた。
受付にはハイドの親友ヌガロ・スパことガロが立っており、ライキの姿を確認すると爽やかな笑顔を向け手を振った。
「おっ!ライキ、久しぶりじゃん!
お前がこっちに来るのって何気に初めてじゃねーか?」
「ガロさん!お久しぶりです!
えぇ、混浴露天風呂のほうにはこの間入りに来ましたけど・・・!
あ、この間はチケットをありがとうございました!」
「どーいたしまして!
空駒鳥ちゃんは前にばーちゃんと来てくれてたよな?」
「あ、はい!
おばあちゃん、こちらのお湯に浸かると足の痛みが和らぐからって大好きだったので!」
とリーネが笑顔で答えた。
「そっかそっか・・・ありがとう!
ところでお前らの後ろにいる人達は?」
ガロがライキとリーネの後ろにいる4人を見て尋ねた。
「この人たちは俺の父方の祖父母と母方の祖父、そして従兄弟なんです。
エルくんに会いにフォレストサイドまで遊びに来てくれたんですよ。
さっきまでみんなで青鹿亭にいたんですけど、夕食まで少し時間があるからガロさんとこのスパを兄貴に勧められたんです!」
ライキが皆を紹介しつつ説明をした。
「そっか、どーもありがとな!
それでは皆さん、ごゆっくりどうぞ!」
ライキとリーネはガロに頭を下げてから皆の代金を支払った。

「男湯はこっちで、女湯はあっちか。
それじゃリーネにシルビアばーちゃん、俺等はこっちだから。
17時にロビーに集合しよう。」
「うん!
またね!」
リーネとシルビアに手を振り女湯に消えていくのを見送ったところで、背後から声をかけられた。
「あら、銀色狼さん、こんにちは。」
ライキが声の主を振り返ると、そこには金獅子とドSメイドの二人が立っていた。
「モニカさん!こんにちは。
・・・金獅子もいたのか。」
レオンはライキと目が合うと険しい顔をしてふいっ!とソッポを向いた。
「私達あれ以来混浴露天風呂が気に入ってほぼ毎日こちらへ来ていたんですけど、そうしましたらこの間こちらの若旦那さんにお声をかけていただきまして、時々仕掛け人のアルバイトをさせていただいているんです。
今日もこれからそのアルバイトなんですけど、銀色狼さんは?」
とモニカがライキの近くで待つザイン、セト、ソルの3人に軽く会釈しながら尋ねた。
「あ、彼らは俺の父母両方のじーちゃんと従兄弟なんです。
今日はエルくんに会いにフォレストサイドまで来てくれてて、夕食の時間まで時間があるからスパに来たんです。」
「ふん!
明日から令嬢護衛任務だというのに親戚とスパだなんて呑気なもんだな。
湯に浸かりすぎて腑抜けて足を引っ張らないでくれよ?」
レオンが鼻息をつきながらライキに向けてそう言った。
「そのセリフ、そっくりそのままあんたに返すよ。
アルバイトに精を出しすぎて腰を痛めたりするなよ?
足手まといだから。」
「な、なんだと・・・!」
ライキとレオンがビリビリと稲妻を走らせるかのように睨み合いをしていると、モニカがクスクスと笑いながら言った。
「あらあら、レオン様ったら素直じゃないんですから。
明日からの任務が楽しみで、遠足に行く前の子供みたいに何度も何度も荷物を確認して、今朝なんか「銀色狼は何が好きなんだ?」と宿屋のお嬢さんのヨハナさんに聞いて、市場で色々な果物を買ってアイテムボックスに入れてましたよね?」
レオンはモニカの言葉に真っ赤になって狼狽えた。
「ち、違う!
それはこいつの嫌いそうなものを買って、こいつの目の前でリーネちゃんと二人で仲良く食べようと思ったからで・・・!」
「はいはい、ホントにレオン様は天邪鬼あまのじゃくで可愛らしいんですから・・・
それでは、アルバイトの時間に遅れてしまいますので、私達はこれで失礼いたしますわね。
また明日から宜しくお願い致します!」
モニカはまだ何か言いたげなレオンの首根っこを引っ張って、もう一度一同に頭を下げると混浴露天風呂のほうへ消えて行った。
「なんじゃい・・・えらいべっぴんさんだったな。
男のほうはライキに何やら子供じみたちょっかいを出しておったが、あぁ見えてかなりの手練れだな。」
とザインが言った。
「あぁ、明日からの任務で一緒なんだよ。
金獅子・・・男のほうはアデルバート神国出身で、ラスター・ナイトの末裔らしいよ。」
「なんと!血統においてわしらよりも格上だったか!
どうりで・・・まぁ味方ならこの上なく心強い相手だし、良かったじゃないか。
だが、あれは敵に回すとかなり厄介だな。
元の高い実力に加え、何やらを持っておるようだし・・・。
・・・任務中喧嘩にならないよう上手く立ち回れよ?」
(さっきの短いやり取りだけでそこまで気が付くとは、流石じーちゃん・・・。)
「・・・あぁ・・・わかってる。
だが、リーネに手を出そうものなら、例え血統で格上であっても容赦はしない。」
「・・・・・ライキ、」
ザインが眉間を寄せて何か言いかけたところで、先に男湯の暖簾に手をかけたソルが二人に向けて呼びかけた。
「ライキにーちゃんにザインじーちゃん、何話してるんだよ!
俺、早くスパに入りたいんだけど!!」
「あっ、ごめんなソル!
俺らも行こうかじーちゃん。」
「あ、あぁ・・・。」
ザインは言いかけたことをこの場ではひとまず飲み込んで、皆で男湯の暖簾をくぐった。

「ライキにーちゃんとザインじーちゃんの、でっけー!」
「ちょ、ソル!
そんな大声でやめてくれよ・・・!
女湯のほうに聞こえてたら恥ずかしいだろ・・・!?」
「何を恥ずかしがっておる!
こんなに立派なモノを持っておるんだ。
自信を持って皆に見せつけてやればええ!
なんだセト、お前さん面だけは無駄にえぇくせに、こっちは人並みじゃないか!
勝ったな!!
カッカッカッカッ!」
「何を!
俺の息子は真の姿なら負けはせんぞ!」
「ほぉ!
ならわしの息子の真の姿を見せてやろうか?」
もにゅ、もにゅ、もにゅ・・・何やらそんな音がする。
「・・・やっぱり歳かのぉ・・・。
周囲が男ばっかりのこの状況じゃ流石に勃ちそうもないわ・・・。
ライキ、代わりに勃たせてセトに真の姿を見せてやってくれんかの?
ハント家の男がいかに立派なものを持っているかこのジジイにわからせてやるんじゃ!
ほれ、目を閉じて、わしのこの手をリーネちゃんの〇×△だと思って・・・」
「えーーーっ何それ面白そう!
俺も手伝う!!」
「うわーーーッ!?
二人共、やっ、やっ、やめてくれーーーー!!」
そんなやり取りが丸聴こえになっていた女湯のリーネは真っ赤な顔を両手で覆い、シルビアも同じく赤くなり、苦い顔をして頭を抱えていた。
「あいつらは一体何をやってるんだろうね・・・」
「も、もぉやだぁ・・・!」
とリーネは泣き出しそうになっている。
「湯から上がったらロビーでは他人のフリしてようね。」
「・・・そ、そうですね・・・。」

17時半─。
スパでちょっと騒がしくなりつつも何だかんだで癒しの一時を過ごした一同は、乗合馬車に乗ってハント家に到着した。
最もライキだけはザインとソルのせいで疲れ気味だったが。
(・・・なんとか名誉を守りきったぞ・・・。
ソルとじーちゃんの手で反応なんかしてしまったら、俺のプライドが保てなくなってたからな・・・。
つかリーネ、男湯でのやり取りが聞こえてたんだろうけど、何もロビーで余所余所しくすることないじゃないか・・・。
今夜はお仕置きだ・・・。)
ライキがそんなことを思いながら家の玄関を開けると、今日は店を早く閉めたサアラが迎え出て、ゲイルはまだ帰宅していないと伝えた。
リーネとシルビアはキッチンでサアラの食事の支度を手伝うというので、ライキはリビングのソファーにザインとセト、ソルを座らせて珈琲を出し、雑談を交わしながらゲイルの帰宅を待つことにした。

一時間ほどして夕食の支度が済んだ頃、ゲイルが帰宅した。
夕食の献立はサアラが作った黒牛のカツレツ、ハンバーグ、ソーセージの他、リーネが夏野菜をたっぷり使ったサラダと火炎鳥を使った塩唐揚げを作り、シルビアは大麦の入ったスープとラクレット(茹でたじゃがいもに溶かしたチーズをかけたスイズリー料理)を作り、いつもより品目が多くて豪華だった。
皆でそれを美味しく食べた後、ゲイルとセトは心の内を話すため、リビングに残った。
女性陣はキッチンで片付けをしている。
ソルは疲れたのかうとうとし始めたので、用意していた寝室のベットに寝かせてタオルケットをかけてやった。
ライキは自分たちがリビングにいてはゲイルとセトの話の邪魔になると思ったので、ザインに声をかけて散歩へ連れ出した。
リー、リー、リー・・・
虫の声を聞きながら川辺りを歩いていると、ザインが口を開いた。
「・・・ライキ、スパでお前に言おうと思ったことなんだが・・・わしらの先祖ヘイズ・ハントは確かにラスター・ナイトより弱かったかもしれん。
だが、子孫は別だ。
ヘイズ・ハントとわしが別人のように、その血を受け継いでおっても同じ強さになるわけじゃない。
彼だって同じだよ。
ラスター・ナイトそのものの強さを受け継いでいるわけじゃない。
彼と争わずに済むのならそれに越したことはないが・・・だがもしも彼と敵対することになったとしたなら、血統のことなんぞ気にせんで真剣に勝負をするがええ・・・。
わしはお前さんに勝ち目がないとは思っておらん。
お前さんには女神フェリシア様から頂いた寵愛の力もあるしの!」
「・・・ありがとうじーちゃん。
実は、奴とは前に打ち合いをしたことがあるんだ。
あの時はリーネがかかっていたから俺も必死だったし、あいつも俺を格下だと舐めてかかっていたから勝てた・・・。
これからもリーネがかかっている戦いで、あいつに負けるつもりはない。
だがもし奴が追い詰められて、奴の影にいる存在・・・ダルダンテ神から授けられたであろうあの黒い剣を抜けば、俺がフェリシア様から授かった銀色狼の剣を持ってしても敵わないかもしれない・・・。
ダルダンテ神は、フェリシア様の兄・・・。
神としての力では敵わないとフェリシア様は仰っていた。
それでも俺はリーネをあいつに奪われるわけにはいかない。
どんな手を使ってでもそれを全力で阻止するつもりだ・・・。」
ライキは険しい顔でそう呟いた。
「ふむ・・・彼から感じた良くない感じはかの神の物じゃったか・・・。
だが、お前さんは彼とは違うぞ?
フェリシア様から力を授かった。
彼はおそらくかの神から愛されてはおらんだろう・・・。
愛の力は大きいぞ?
お前さんがリーネちゃんを強く愛すれば愛すほど、彼女を守るために実力以上の力が出せる。
フェリシア様だってそうじゃ。
お前さんへの愛が、お前さんに授けた力をより大きくする。
だから愛し愛されておるお前さんは彼には負けないとわしは思うぞ。」
「ありがとうじーちゃん・・・。
まだあいつが黒い剣を抜いたわけじゃない。
今の奴となら心を通わせることが出来ると思うんだ・・・。
まぁ隙あらばリーネを狙おうとするいけ好かない奴だけど・・・。
明日からの任務を通して、少しでも仲良くなれるよう努力してみるよ。
じーちゃんの言うように、争わずに済むのならそれに越したことはないからな。」
「うむ・・・そうじゃな。
さて、そろそろゲイルとセトの話も済んだ頃だろう。
戻ってみるか・・・。」
「うん・・・。
二人が和解できているといいけど・・・」
とライキ。
「大丈夫じゃよ。
ゲイルもセトも、サアラちゃんを愛しているのだから。」

ザインと一緒に自宅に戻ってみると、リビングでゲイルとセトが握手を交わし、その傍らでサアラが泣いていた。
ライキがリーネに事情を訊くと、ゲイルが、
「ハイドが男だったから、他所の家に婿入りしても一人の成人した男として奴が決めた道なのだから、それを親として見守ってやろうと思えたが・・・もし女の子だったら・・・きっと、あんたのような気持ちになって強く反対しただろう。
年頃の子を持つ親になってみて初めてあんたの気持ちが分かった・・・。
サアラをあんたの気持ちを待たずに貰ってしまって、申し訳が無かった・・・。」
と頭を下げ、手を差し出したらしい。
セトはそれに対し、
「前にイターリナに来てくれた時、酷い態度をとってしまったことを詫びる・・・。
サアラを俺に代わりずっと守ってくれてありがとう・・・。
これからもサアラを頼む・・・」
と、泣きながら手を差し出し、握手を交わしたとのことだった。
サアラは泣きながら父を抱きしめ、
「これからは、ゲイルと一緒にたまに里帰りをするから・・・
お父さん、今までずっと心配かけてごめんね・・・
愛してくれて、ありがとう・・・。」
と嗚咽交じりに言っていた。
ライキはザインとシルビア、そしてリーネを連れてそっと2階へと上がった。
リーネの部屋をザインとシルビアに使ってもらい、自分の部屋のベットにリーネと一緒に入る。
「・・・よかった・・・。
父さん母さんとセトじーちゃんが和解出来て・・・。
俺、母さんの泣いてるところなんか初めて見たよ・・・。」
「おばさん、子供の前ではずっと涙を見せなかったんだね・・・
本当に素敵なお母さん・・・!
だけどおばさんだって女の人だもの・・・
ずっと抱えていた問題が解決したんだし、それは涙だって出ちゃうよ・・・」
リーネが少し貰い泣きしながらそう返した。
「そっか・・・リーネは母親になってもなんか泣き虫そうだけど(笑)」
「えっ・・・!?ひっどぉい!
そんなことないもん!」
「俺、リーネの涙見るとムラムラするからずっと泣き虫でもいいぞ?
・・・今もほら、母さんの貰い泣きなんかしてるからムラムラしてきた・・・。
つか、オレンジ・スパのロビーで余所余所しくされたことへのお仕置きもしてやろうと思ってたんだ。
明日から他の人と一緒だからなかなかエロいことも出来ないだろうし、寝る時間までまだあるから沢山エロいことしよ?
リーネ♥」
ライキはそう言ってリーネを抱きしめると、キスの雨を降らせた。
「だ・・・駄目ぇ・・・!
隣にザインさんとシルビアさんがいるんだよ・・・!?」
「無理♥
止まらない♡♥♡」
「んっもっ・・・
ライキのチン色狼~~~~~❢❢❢」
その夜も二人の乱れた吐息とリーネの甘い喘ぎ声がハント家の2階から零れては、満天の星空へと溶けていくのだった。

翌朝早く、ハント家の前にライキとリーネ、ゲイルとサアラ、ハイドとエルドを抱いたヒルデ、ルルド、そしてザインとシルビア、セトとソルの12人を目の前に、フレッドがカメラを構えていた。
「それでは撮りますよ~!
3・2・1・・・パシャッ!」
そうしてライキ、リーネ、サアラ、ゲイル、更にハイド、ヒルデ、エルド、ルルドに加え、今回スイズリー&イターリナから訪れたザイン、シルビア、セト、ソルを加えた12人による集合写真と、ハイドとソル、エルド、セトの4人のそっくりさんが揃った写真、ヒルデとハイド、エルドの3人の家族写真等、様々な写真をフレッドに撮って貰うのだった。
「それじゃあまたの!
次に来るときはおまえさんらの結婚式かの!
それまで達者でな!」
ザインとシルビア、セト、ソルがウィンディの上から手を振った。
残されたフォレストサイドの住人の8人は、ウィンディの姿が見えなくなるまで名残惜しそうに手を振った。
「さて、そろそろ待ち合わせの時間だ。
俺らも行かないと。」
「うん!」
別れの余韻から少し瞳を潤ませたリーネが頷いた。
「フレッドさん、一緒に行きましょう。
この後観光エリアのホテルで待ち合わせなんです。
ご令嬢にご同行の件、お話してみますから。」
「ありがとう銀色狼くん!
よろしく頼むよ。」
フレッドが頭を下げると、二人の横に駆け付けた。
「・・・気を付けて行ってこい。
盗賊は魔獣のように強くはないが、そのぶん知恵が働くからな・・・。
リーネちゃんをちゃんと守ってやれ。」
ゲイルが心配なのか普段より嶮しい顔でライキに言った。
「うん、わかってる。
盗賊だけでなく、一緒に行動する人間にも悪意を持った者がいるかもしれないから、充分に注意するよ。」
ライキはそう答えると、父とクロス当てを交わした。
「リーネ、道中の盗賊団は怖いでしょうけど、ボラントは素敵なところよ!
喉かな平原に囲まれて、気候もいいわ!
スイーツではクレープが有名で美味しいの!
折角なのだから、無事に着いたら少しくらい観光も楽しんでね!」
と笑顔でサアラが言った。
「はい!
美味しそうなお菓子を見つけたら買って帰ります!」
リーネとサアラは手を組み親愛の証に額を重ねた。
「ライキ・・・今回の旅、女の同行者が多いんだろう?」
と心配して表情を曇らせたハイドが言った。
「うん。
ご令嬢とそのお付きのメイドが5人・・・あと料理人で一人女の人がいたな。
それにモニカさんとリーネで9人だ。
俺以外の男の人は初老の執事さんと荷物番が金獅子含めて2人だったか?
あともし同行のお許しが出れば、フレッドさんもそこに加わることになる。」
「そうか・・・
・・・リーネとモニカさん以外の女を信用するな。
女ってのは数が揃うと厄介だからな。
お前は腕は立つが、酒にはめっぽう弱い。
そういうところを悪い女に知られたらやばいと思って、リーネに対抗策を準備してもらってある。」
「リーネに?
・・・わかった。後で聞いてみる。」
ライキがリーネに視線を向けると、エルドを抱いたヒルデと何やら楽しそうに話をしていた。
「まぁ、ただの勘で、俺の取り越し苦労かもしれねーけどな!」
ライキはハイドの言葉に顎に手を当て考えた。
(・・・女に気を付けろ・・・か・・・。
兄貴の勘は昔からよく当たるからな・・・。)
「わかった・・・ありがとう。
気を付ける・・・!
兄貴たちも元気でな!
戻ったらまた顔を出す!」
「ん、いってらっしゃい!」
ライキはハイドとクロス当てを交わした。
二人のクロス当てが終わると、ヒルデが「エルともしてやって?」と言ってエルドの腕を差し出したので、ライキはふふっと微笑むと、そっとその小さな腕にクロス当てをした。
「あっ!いいなぁ!私も!!」
とリーネもエルドの腕にそっと自分の腕を重ね合わせた。
そしてライキとリーネは、
「「なんだかエネルギーが貰えた!!」」
と微笑み合うと、見送る家族に手を振って、次の冒険へ向けて足を踏み出すのだった。
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