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7羽 スイズリー山脈の風の使い

⑦癒しの国の神の清らかな使い

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予定通りイターリナに翌日の昼前に着いた二人と一匹は、石造りの家々に囲まれた村の中央通りを抜けて、真っ直ぐに教会へと向かった。
イターリナ村の規模はそこそこ大きく、フォレストサイド村の観光エリアを除く部分とほぼ同じ規模だった。
銀色狼がこの村に来たのは3歳のとき以来だったが、薄っすらと村中を兄と一緒に駆け回った記憶があり、村の入口から教会までの道を、迷うことなく足を運ぶことができた。
(ここの角とかあの広場、何となく覚えている。
懐かしいな・・・。
13年も経つのにあまり変わっていないんだな・・・。)
奇妙な魔獣であるグリフォンのデイブレイクは通りをすれ違う人々にかなりの注目を集めてはいたが、近くのスイズリー村からザインがワイバーンのウィンディや風狼に乗ってたまに姿を現すためか、狩人の使役魔獣自体にはイターリナの村人は比較的慣れているようだった。
しかも、その魔獣を連れて歩いているのが教会の発行するニュースペーパーですっかり有名になってしまった女神フェリシアの寵愛を受けし”銀色狼と空駒鳥のつがい”であることもあり、何か特別な事情があってのことなのだろうと村の自警団を呼ばれたりすることもなく、遠巻きに観察されながらも無事に教会まで到着したのだった。

イターリナの教会は村の中心部から少し離れた開けた場所にあり、教会のないスイズリー村の人も利用することを想定してか、フォレストサイドの教会よりも一回り大きな建物となっていた。
教会の入り口では二人と一匹が来ることを事前に予測していたと思われる神使ヴィセルテと、この教会の神父と思われるキャソックに身を包んだ初老の男性、そして清らかな雰囲気を持った白いドレスを着た水色の長い髪の美しい女性が立っていた。
「お待ちしておりました。」
最初に挨拶に出た神使ヴィセルテに続き、残りの二人も恭しく頭を下げた。
「師匠!
お約束どおりデイブレイク・・・グリフォンを連れてきましたけど・・・そちらの方は?」
ライキが水色の髪をした女性を見て師へ尋ねたので、ヴィセルテは手を差し出して彼女を紹介した。
「こちらはセラフィア神様の神使であらせますクリスティナ様です。
クリスティナ様は大変高い治癒魔法のお力をお持ちでして、今回のグリフォンの◆の印の除去にご協力頂けることになったのですよ。」
クリスティナは美しい微笑みを二人に向けて薄紅の唇を開いた。
「セラフィア神様の3番めの神使、クリスティナと申します。
この度グリフォンの印の除去でセラフィア様のアシスタントをさせていただくことになりました。
お二人にグリフォンの◆印の除去方法について確認したいことがありましたし、お二人とお話もしてみたかったものですから、ヴィセルテ様にお願いしてご同席させていただきましたの。
宜しくお願いしますね。」
二人はヴィセルテ以外の神使を見たことがなかったので、まさかのセラフィア神の神使のお出迎えに恐縮して汗を飛ばしながら顔を見合わせた後、慌てて頭を下げた。
「俺はフェリシア様にお力を頂いていますライキ・ハント・スイズリーハントで、通り名を銀色狼と言います・・・!
職業は狩人です!」
「私は同じくフェリシア様にお力を頂いていますリーネ・ファーマシー・・・通り名は空駒鳥です!
職業は薬師です!」
「うふふ、ご紹介ありがとうございます。
お二人のことはセラフィア様と共に事前にフェリシア神様とヴィセルテ様に良くお聞きしておりましたが、こうして実際にお会いしてみますと、私が想像していましたよりもずっと可愛らしいお二人でびっくり致しましたわ!
特に空駒鳥さん・・・貴方は見た目も愛らしく、薬師としても高い素質をお持ちですので、もしも貴方がセラフィア神国のお方でしたら、寵愛を与えて神使に迎え入れたかったとセラフィア様が悔しがっておりましたのよ?」
クリスティナはそう言ってくすくすと笑った。
リーネは、
「いえ!そんな・・・!」
と更に汗を飛ばして真っ赤になって俯いた。
ライキが(俺は・・・?)と苦笑いして首を傾げていると、ヴィセルテがその心の声を読んだのか、ニヤリと笑ってクリスティナとリーネに聴こえないようにそっと耳打ちをした。
(セラフィア神様は同性愛者ですので男には関心が無いのです。
しかも過去に手に入れたいと思った女性はいかなる手段を用いても絶対に手に入れられてきたそうですよ?
良かったですね?
リーネさんがこの国の民で。)
(マジか・・・。
俺たちがもしセラフィア神国の民だったら、ダルダンテ神とは違う意味で強力な恋のライバルになり得たかもしれないんだな・・・。
師匠の言う通り、マジこの国の民で良かった・・・!
ということはクリスティナ様はセラフィア神様の真の意味での寵姫ということになるのか・・・。)
ライキは思わずクリスティナが見たこともない女神と口に出せないようないやらしいことをしている想像をしていまい、一人赤面した。
当のクリスティナはそんなことも露知らず、リーネと少し会話して頭を下げた後、デイブレイクのほうへ移動した。
「この子がグリフォン・・・。
こうして実際に見るのは初めてですけど、本当に下半身が獅子みたいなのですね・・・。」
クリスティナは恐れもせずにデイブレイクに触れた。
「あっ・・・あの!
そいつはたまにダルダンテ神の支配を受けそうになり、俺の従属が効かなくなりますので・・・触れられると危ないですよ?」
ライキが慌てて止めに入った。
「ありがとうございます。
でも大丈夫です。
セラフィア様からこちらのティアラを授かっておりますから・・・。」
と言ってクリスティナは美しい水色の髪に飾られた、硝子のような透き通った材質のキラキラ光るティアラを指差した。
「・・・それは?」
ライキが尋ねる。
「これは”干渉除けのティアラ”といいまして、私達神使が外交を任せられましたときに身につけるものなのですが、これにはセラフィア様の特別な魔法がかけられておりまして、身につけた者の周囲10m範囲に居るもの全て、セラフィア様以外の神や神使からの魔法や寵愛の力による干渉を全て遮断することが出来るのですよ。
セラフィア様はフェリシア様とヴィセルテ様のことは信頼しておいでてすが、ダルダンテ神のことは強く警戒なされておりますので・・・。
ですから私がこの子の近くにいる以上、ダルダンテ神も一切手出しが出来ませんからご安心くださいね。」
セラフィアはそう笑顔で答えると、暫く真剣にデイブレイクのあちこちを触っていた。
デイブレイクはくすぐったいのか鼻の穴を広げてぷるぷると震えながら必死にその刺激に耐えているようだったので、ライキは思わず吹き出した。
「ライキ!
笑っちゃったらデイちゃんに悪いよ!」
と、リーネが少し咎めるように言った。
「そ、そうだな・・・。
ごめん、何かデイブレイクの顔が可笑しくて・・・!」
「ふふっ、その様子なら彼と大分打ち解けたようですね?」
ヴィセルテが微笑みながら言った。
「はい!
流石フェリシア様と縁のある奴ですね!
操られていないときはすげー良いやつですよ。
◆の印が無くなり、心置きなく一緒に空を飛べる日が来るのが楽しみです・・・!」
ライキは師にそう答え、デイブレイクを柔らかく微笑みながら見つめるのだった。

「驚きました!
魔獣を使役するのにはかなり傷みつける必要があると訊いていたのですが・・・。
数カ所傷口を塞ぐための縫合跡があるけれど、戦闘で受けた傷は既に完治していますし、石化した痕跡があるのにそれも綺麗に癒えてています!
流石空駒鳥さんですね!」
一通りデイブレイクを診終えたクリスティナが感激して両手を合わせ、リーネに向けて言った。
「あっ、いいえ!
ここまで早く治せたのはフェリシア様から頂いた神秘の薬の力のお陰です!
神秘の薬の力無しではここまではとても・・・。
石化も治せなかったと思いますし・・・。」
リーネは両手を前に出して恐縮した後、俯いて表情を曇らせた。
「・・・それでも、魔法が衰退化した今の時代の人の貴方が、様々なこの下界にある植物や動物などの成分の組み合わせから、光の治癒魔法ヒールやキュアに匹敵する効果を持つ薬を作れるのは大変素晴らしいことですよ?
この力は私の治癒魔法にはない可能性を持っていると思います!」
「魔法にはない可能性・・・ですか?」
「ええ・・・。
魔法は術者しか使えないので、例えば国中で病が広まったとき、術者が一人一人の民へ魔法をかけて治療して回らなければなりません。
ですが薬は作り方のレシピさえあれば、魔法が使えない人でも同じものを作り出す事が出来るでしょう?
それにより、多くの人を救える可能性があります。
セラフィア神国にも薬師は多くおりますが、それ程成果が望める薬を作れる者はまだいないので、貴方のその才能は我が国においても大変貴重なものですよ!
セラフィア様はフェリシア様から貴方のことをお聞きし、貴方の薬に大変興味をお持ちでした。
そしてもし可能であれば、そのサンプルをいただきたいと仰っておりまして・・・。
・・・貴方の作られたお薬を少しセラフィア様に分けて頂いても宜しいですか?」
「あ、はい!それは勿論!
デイちゃんに使ったものと同じ、神秘の薬の力が最大限のときに調合した傷薬と石化解除薬をお渡しいたしますね!」
「ありがとうございます。
出来れば神秘の薬の力が発動していない時のものも欲しいのですが・・・。」
とクリスティナが付け加えた。 
「えっ・・・でも、神秘の薬の力が働いて無いときに調合したものだと、傷薬は神秘の薬の力を使ったものと比べて回復速度は劣りますが、回復効果はある程度あるのですが、石化解除薬は・・・神秘の薬の力が発動しているときに調合したものなら石を土に戻すことができるのですが、力がないときに調合したものは石を土に戻すことができない、ただの何も効果がない軟膏なんです・・・。
それでも宜しいですか?」
リーネはそう言って薬をセラフィアに手渡した。
セラフィアはそれを受け取ると眉を寄せて口にした。
「えぇ、ありがとうございます。
神秘の薬の力が発動していないときに作った薬の力も見てみたいとセラフィア様がご希望でしたので・・・。
ですが・・・神秘の薬の力が発動していないときに作った石化解除薬が何一つ効き目がないというのは、もしかしたら”創造神様により設定されし”限界点を超えた創造物”に該当するからなのかもしれません・・・。」
「「”創造神様の設定された限界点を超えた創造物”ですか?」」
ライキとリーネが同時に小首を傾げ、訊き返した。
「えぇ。
創造神様は人間達の住むこの下界でのバランスを保つ為、人により生み出されたものに限界点を設けられました
それを超えた創造物は全て無効化されて特別な力を失うのです・・・。」
ライキはクリスティナの言ったことが真実なのかを確認するためにヴィセルテを見たが、ヴィセルテがそれに答えるように黙って頷いたので、それが真実であると理解した。
「ということは、神秘の薬が発動している時に作った石化解除薬に効果があるのは、フェリシア様のお力のお蔭でその限界点を超えているからなのですね・・・!?
・・・・それなら・・・それなら・・・もし私が神使になる道を選ばずに、やがて神秘の薬の力がなくなれば、もうこの国の人の石化を治したり、神様の域に踏み込んでしまう薬を作ることは、どんなに努力しても出来ないということですか!?」
リーネは取り乱し、感情を露わにし縋るようにクリスティナに確認した。
「現段階ではそうなります・・・。
ですが空駒鳥さん・・・そう悲観なさらないで?
セラフィア様はこの世界の治癒部門のことわりにおいて、創造神様に進言することを許された凄いお方なのです。
ですからセラフィア様のお口添えがあれば、創造神様にその限界点を調整していただくことも可能かもしれません。
我が国では石化毒に蝕まれた民は、教会より報告を受けましたらすぐに私ども神使が教会に出向いて治しておりますが、そもそも石化毒自体が魔界から漏れ出た魔獣がもらたした、下界にとってのイレギュラーなものです。
ならば、それに対抗する術だって等しく人々に与えるべきですよね・・・?
折角空駒鳥さんのように石化毒に対抗出来る手段を生み出す人が現れても、それを限界点により無効化されてしまうのではあまりにも不平等です。
セラフィア様は他国の事情には無関心でおいでですが、私から他国では石化毒に蝕まれた民はその限界点により現状では治す術がないことをお話しすれば、きっとわかってくださると思います。
ですので、少しお時間を頂けますか?
今年中にはお返事を致すますので・・・。」
「は、はい・・・わかりました・・・!
それからもう一つ・・・セラフィア神様にお訊きしておきたいことがあります・・・!
・・・私達の国では粘膜で感染するミューカス・メンブレイン肺炎という現状では不治の病があります。
フェリシア様のつがいや祝福によりご加護を受けた感染者の症状は消えるのですが、祝福を受けていてもその夫婦から産まれた子供には病が感染してしまうのです。
その治療を何とか出来ないものかと考えているのですが、私の知る材料ではどれも決め手に欠けるのです。
セラフィア様ならその決め手になる何かをご存知かもしれないと思いまして・・・。
そのことを聞いていただいても構いませんか?」
(エルくんの病のことか・・・。)
ライキは祈るように両手を組み、クリスティナに頭を下げるリーネを見て、自分の甥を救う手立てがそこにあるかも知れないと自分も一緒に頭を下げた。
「えぇ、空駒鳥さんにはお薬のサンプルを頂いていますし、それくらい容易たやすいことですわ!
わかりました。
石化解除薬の件と合わせて確認してみますね!」
「「宜しくお願いします・・・!!」」
銀色狼と空駒鳥のつがいはもう一度深くクリスティナに頭を下げるのだった。

「それで、グリフォンの印の除去方法についてなのですが・・・。」
クリスティナはデイブレイクの頭をヨシヨシと撫でながら続けた。
「◆印はこの子の額に刻まれており、おそらく脳まで焼き付いているでしょう。
そのため、頭部の◆印を物理的に取り除くことは出来ません。」
ライキ、リーネ、ヴィセルテの3人は頷いた。
「ですのでそれ以外の方法で除去しますが、2つの方法があります。
一つはグリフォンを一度死亡させ、◆の印が消えてからセラフィア様の魔法で蘇生させる方法です。
死亡した者を生き返らせることは、全ての神の中でも創造神様とセラフィア様だけに許された特別な力なのです。
先に現れたシルバーファングウルフと銀色狼さんの対決の映像をフェリシア様に見せていただきましたが、シルバーファングウルフは死亡して少ししたら、証拠隠滅のために◆印が消えていましたよね?
それを利用するのです。
ですが、これには幾つかのリスクが伴います。」
「リスク、ですか?」
「はい。
まず、蘇生魔法はある程度生命力の高い者でないと耐えられません。
それは魔獣の中でもトップクラスにする該当するこの子なら心配いらないのですが、蘇生したものには漏れなくレベルが半分になるという弱体化がついてきます。
この子が今レベル50ならばそれが25になるということです。
そしてもう一つリスクは、死亡した場合全ての状態異常が自動的に解除されますので、折角の従属が解除されてしまうということになります。
確か従属の魔石は狩人の方であっても手に入りにくく、大変貴重なものですよね?」
「ええ。
でも使役魔獣が死んだ場合、従属の魔石は自然と外れます。
それをまた透明に戻してから血を吸わせれば再利用出来た筈です。
そして再度デイブレイクを従属し直せば良いだけですから。
まぁ、今のレベルの半分になるなら使役も容易たやすいでしょうし・・・。
いや、逆に殺さないように手加減するのが難しいか・・・?」
ライキが最後の方は小声で首をひねりながらそう言うと、デイブレイクが、
(またあんな目に遭うのか!?
それだけは絶対に嫌だ!!)
と言わんばかりに青ざめ、大量の汗をかいてブンブンと首を横に振った。
「うふふ!そうですか。
それならばこの方法で決定で宜しいかしらね?
もう一つの方法だとレベルダウンするよりも更に弱くなってしまいますから・・・。」
と、クリスティナが頬に手を当て思惑しながら言った。
「もう一つの方法とは?
そちらもお聞かせ願えますか?」
ライキが言った。
「えぇ・・・。
もう一つはセラフィア様の魔法でこの子の身体の時を巻き戻し、◆の印が刻まれる前の状態に戻す方法です。
この魔法は身体だけを巻き戻しますので、現在の記憶は失われることがなくそのまま引き継がれます。
ですが、この方法ですとこの子はグリフォンに進化する前の何の変哲もないアルパインイーグルに戻ってしまいます。
レベルも半分よりもっと下るでしょうし・・・。
まだグリフォンという進化を維持できるぶん、先に言った方法のほうがマシだと思いますけれど・・・。
どうなさいますか?」
クリスティナがライキに尋ねた。
ライキはデイブレイクに視線を向け、即答した。
「後の方法にしてください。
デイブレイクがアルパインイーグルに戻っても、俺らのことを覚えたままでいてくれて、俺とリーネの二人を乗せて空へ連れて行ってくれるのならそれで構いません。」
「えっ・・・本当に宜しいのですか!?
折角の貴重なグリフォンですのに・・・!?」
クリスティナが冷や汗をかきながら再度確認を取ってきた。
「はい。
こいつは種を残したいって言っていました。
ですが、この世にたった一匹のグリフォンのままではパートナーがいません。
だからこいつが望む生き方が出来る方法を選びます。
弱ければ使えるようになるまで俺が鍛えてやりますので・・・。」
ライキの言葉の最後に嫌な予感がしながらも、デイブレイクは主の決断に感謝して小さく鳴き、ライキに頬擦りをした。
「けーっ・・・」
ライキは手を伸ばし、よしよしと首を撫でてやる。
デイブレイクは気持ちよさそうに目を細めた。
「良かったね・・・!
デイちゃん!
これできっとつがいの相手も見つかるよ?」
リーネはライキの優しさに感動して空色の瞳に涙を滲ませながら、デイブレイクにギュッと抱きついた。
神使ヴィセルテも隣の神父と微笑みながらその様子を見守っていた。
「それではこの子をこれから天界に連れて行き、セラフィア様の身体の時を巻き戻す魔法にて◆の印を取り除きますね。
大変高度で時間を要する魔法ですので、暫くお時間をいただきますけど・・・。
天界ですと3日ほどなのですが、下界の時間に換算しますと3ヶ月程・・・次にお会い出来るときは秋になりますね。
その時に空駒鳥さんへ石化解除薬の限界点についてと、ミューカス・メンブレイン肺炎の治療薬の決め手となる材料についても確認し、お返事を致しますので。」
「「はい、わかりました・・・!
宜しくお願いします!!」」
ライキとリーネは同時に頷いた。

「天界ゲートは教会の礼拝堂の奥にあるのですが、グリフォンの身体は大きく、教会内には入れませんので、例外的にこの場にゲートを展開致します。
準備を致しますので少しの間お待ち頂けますか?」
神父がそう言って宝珠が埋め込まれた台座を運んできて、教会前の広場に設置し始めた。
神父一人で5つの台座を運ぶのは大変そうだったので、ライキがそれを手伝った。
そして全ての台座の設置が終わると、クリスティナとヴィセルテ、そしてデイブレイクが立っている位置の足元に五芒星の魔法陣が現れて、ポワァ・・・と光った。
「・・・デイブレイク、少しの間お別れだな。
また会える日を楽しみにしてる。」
ライキはそう言うとデイブレイクの首に手を回して抱きしめた。
リーネも、
「デイちゃん、またね!」
と言って一緒に抱きしめ頬擦りした。
「ケェーーー!」
デイブレイクはそう鳴くと、二人を抱きしめるかのように羽根で包み込んだ。
少しの間そうやって抱擁を交わした後、ライキとリーネは名残惜しそうにデイブレイクから離れて魔法陣から出た。
「クリスティナ様・・・。
デイブレイクを宜しくお願いします・・・!」
ライキはそう言ってクリスティナに頭を下げた。
「はい!
責任を持って印を除去し、お返ししますのでご安心ください。」
「それでは、私も天界に帰りますね。
また近いうちにお会いしましょう。」
とヴィセルテ。
「「ご機嫌よう・・・」」
そうして二人の神使と一匹の魔獣は、ひときわ強く真っ白になった魔法陣の光に包まれて見えなくなった後、その光が消えた後には居なくなっていた。

「銀色狼さんに空駒鳥さん。
折角教会まで参られたのです。
お祈りをされて行かれますか?」
天界ゲートを作り出していた台座を元の部屋へ戻すのを手伝い終えた後、神父が二人に向けてにこやかに言った。
「あっ!そうですね!」
二人はフェリシアを象った像の前に跪き、祈りを捧げた。
二人の左手の薬指にはめられたつがいの指輪を灯す小さな白い光がまた一つ増え、全部で5つになった。
「これで残り半分だな!」
「うん!
来月からご令嬢の護衛任務でボラントに行けるし、そうしたら6つになるよ!」
二人が嬉しそうにはしゃいでいるのを見て、神父が穏やかに微笑みながら語りかけてきた。
「巡礼の旅も順調なようですね。
これでこの村での目的は果たされたでしょうが、イターリナは食べ物も美味しいですので、お急ぎでなければイターリナ料理とジェラード等召し上がってみてはいかがでしょう?」
「ありがとうございます!
実は俺の母方の祖父母と叔母が中央通り外れでトラットリアをやっていますので、これから顔を出してみます!」
「おや、この村にある中央通り外れのトラットリアといえばセレーノでしょうか!?
あそこは安くて美味しくて親しみやすく、良い店で、私も時々利用させていただいております。
行ってらっしゃいませ。」
「ありがとうございます!
神父さんも、お疲れ様でした!」
ライキとリーネは神父に頭を下げて教会を後にした。
そして13年ぶりのイターリナの村を見渡しながら、トラットリア・セレーノへと向かうのだった。
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