武姫と漆黒の風

彩田和花

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冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで

①2人はライバル/ ②漆黒の風の誘い/ ③依頼書の取り合い/④訳あり任務と3人組の企み/⑤ヒートビースト退治/⑥貞操の危機/⑦ヒーロー参上

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《はじめに》
この『武姫と漆黒の風』[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで]は、既に公開済みの[冒険の書1~3]を近々コミカライズしようと思い新たに立て直したプロットを、更に小説として手直ししたものとなります。
そのため既に公開済みの[冒険の書1~3]とこの[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで]はほぼ同じ内容となりますが、ヒロイン&ヒーロー以外の登場人物が変わっていたり、他にも色々な初期設定が変更され、今後もこの設定でお話を書き進めていきたいと思いますので、過去投稿しました[冒険の書1~3]を[旧版]とし、この[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで]を追加で公開することにしました。
ですが[旧版 冒険の書1~3]を気に入ってブクマしてくださった方もいらっしゃいましたので、そちらもそのまま残しておくことにします。

[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで]は長いお話になりますので、場面ごとにサブタイトルをつけて12話に分けています。
今話はその前半に当たる①~⑦までのお話をまとめたものとなります。

どうぞよろしくお願い致します!
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─これは、偉大な功績を残し後の世にまで語り継がれることになる伝説の冒険者パーティ『武姫と漆黒の風』の結成から引退までの冒険の日々を、恋人同士でもあった彼等の甘い時間を含みつつ綴った物語である。─

①2人はライバル

魔物が蔓延るこの世界には、武技や魔法を駆使し、魔物と戦いながら人々の暮らしを支える“冒険者“と呼ばれる者達が存在した。
レイブラント王国はそんな冒険者達が最も多く集う国で、王国の南にある冒険都市リスべルは、彼等の第一の活動拠点として知られていた。

そんなリスベルのとあるカフェの扉が、カランカラン♪とベルを鳴らしながら開き、
「ありがとうございましたー!」
という店員の声と共に、金のまっすぐな長髪と碧く澄んだ瞳を持ち、華奢な体躯に白い鎧を装備して、腰には細身の剣を下げた美しい少女が姿を現した。

アリア・スフィール 16歳 冒険者。
彼女はその美しい見た目からは想像が出来ない天才的な武における成長速度を持ち、レベル、実績、魔物の撃破点数等から割り出されるレイブラント王国の冒険者ランキング2位の座まであっという間に到達し、武神に愛されし姫という意で“武姫ぶき”と呼ばれていた。
ただし彼女は後述する理由によりどのパーティにも所属していないソロ冒険者だった。

カフェの近くには冒険者ギルドがあり、武姫はそこを目指して歩いた。
(朝ごはんを食べたら丁度冒険者ギルドが開く時間になったわ。)
(依頼へのエントリーは早い者順で受理され、募集定員に達すれば締め切られてしまう。)
(だから開所してすぐに冒険者ギルドへ顔を出すのが私の日課─)
(今日こそはに邪魔されずにいい任務につけると良いけれど…)
武姫は辿り着いた冒険者ギルドの扉を開けた。

ギルド内は正面にカウンター、向って左の壁に依頼書が貼り出された壁があり、右側にはランキング表やギルドからのお知らせが貼られ、カウンターに続く通路の脇に、多人数用、少人数用、それぞれのテーブルと椅子が多数配置され、既に何名かの冒険者達が座っていた。
依頼の張り紙が行われる壁の傍に二人がけのテーブル席が空いているのを見つけた武姫は、マジックバック(※物を圧縮する魔法がかけられた冒険者御用達のバック)からマイカップを取り出して、近くにある無料ドリンクが置かれた台にて紅茶を淹れると、その席に座った。
(ここで新しい依頼書が貼り出されるのを待ちましょう。)
と武姫が香りを楽しみながら紅茶を一口飲んだところで、ギルドの扉が開いた。
武姫は入ってきた人物に気がつき、顔を上げた。
その人物はスラッと背が高く、程よく筋肉のついた逞しい身体にはスモークがかったディープグレーの鎧と黒いマントを身に着け、更に腰には異国の刀と呼ばれる剣を下げた、少しクセのある黒髪にサックスブルーの瞳が印象的な美青年だった。

(今日も現れたわね・・・!
私のライバル・・・。)

彼はギルド内部にいる冒険者達の中からすぐに武姫の姿を見つけ、嬉しそうに微笑むと、武姫の席へと向かって歩いて来た。

(漆黒の髪を持ち、その太刀筋が風のように鋭く見えないことから”漆黒の風”という異名を持つ彼は、ここ数年ランク1位の座を不動のものとしている最強の冒険者・・・。
彼を超え、ランク1位の座につくのが私の目標だ。) 

(1位になれば、王族貴族からも一目置かれる存在となる。
そうなれば武姫の異名は全国へと轟き、伯爵としての仕事を果たさず、博打に溺れて借金をどんどん膨らませて、お母様に無理をさせて過労死へと追い込み、私を金策のため変態侯爵の元へと売ろうとしたあの父の耳にも届くことになり、見返してやれる筈だから・・・。)
(今の2位では貴族にまで名を知られることはなく、私の目的は果たせないまま・・・
だから私は彼の持つ1位の座が欲しい・・・。)

彼は武姫がそんなことを思っているとは露知らず、マイカップに珈琲をブラックで注ぐと、さも当然のように彼女と向かいの席に座った。
武姫はそんな彼に対し、頬を少し染めて口元を波打たせると、複雑な心境を露わにした。
(それなのに当の漆黒の風はというと─)

「おはようアリア。
なぁ、やはり俺達パーティを組まないか?
それで俺と同じ宿に移って来いよ。
そしたらアリアの好きなふわとろオムレツを毎朝ごちそうするぞ?
俺、料理は得意なんだ♪」

(なんて言って、顔を合わせるたびにその女の子に人気の整った顔を崩しては、私をパーティに誘ってくる・・・。
鬱陶しいけど昔受けた恩もあるから、邪険に出来ないのよね・・・。)

武姫はそう思いながら小さくため息をつくと、彼に対してこう返した。

「結構よ。
それより何故漆黒の風が私の好物を知っているのよ?」
彼はそれにこう答えた。
「アリア行きつけのカフェの店員に訊いたら教えてくれたよ。」

武姫は数日前、いつも朝食を食べているカフェに何故か漆黒の風も来ており、彼に話しかけられたウエイトレスが、
「キャーッ♥
漆黒の風さんがうちの店に!?」
と歓喜の声をあげながらこちらを見て、ぺらぺらと何かを話していたのを目撃しており、
(あぁ…あの時のあれかしら…)
と思い返した。

「お前、朝は決まってふわとろオムレツのプレートを頼むんだろ?
同じものを頼んだら確かに美味かったが、俺のオムレツはもっとふわとろだぞ?
食ってみたくないか?」
「どんな特典を用意したって返事は同じよ漆黒の風。
それにアリアだなんて馴れ馴れしく呼ばないでくれる?」
「何故?
武姫なんて可愛げのない異名で呼ばれても嬉しくないだろ?
それに俺のことも名前で呼べと言ったはずだ。」

「スヴァルト・ビンド・・・ヴァルでいい。」

そう言って彼は、少し癖のある艷やかな黒髪を揺らしてサックスブルーの瞳を細めながら、武姫の顔を覗き込んだ。

彼の綺麗な顔が急に接近してドキッとした武姫は頬を染めたが、それを悟られないよう即座にすました顔を作ると、ふいとそっぽを向いた。

「嫌よ、漆黒の風。」
「・・・相変わらずつれないな・・・。
もう一度言う。
パーティを組もうアリア。」
「嫌って言ってるでしょ!
貴方、私が前にいたパーティでどんな扱いを受けていたか知っているでしょ?
あんな思いをするくらいなら、ずっとソロでやっていくって決めたんだから・・・」

②漆黒の風の誘い

(12歳の頃、父により変態貴族の元へと売られていく途中何とか逃げ出した私は、ある冒険者に出会い、王都(※この国の首都レイブラントのことで、ここを拠点にする冒険者はリスベルに次いで多い)まで送ってもらったのを切っ掛けに、冒険者になる道を選んだ。
冒険者には魔物対策のため特別な法が設けられていて、未成年者でもなることが出来て自由意志を尊重されるから、例え父に見つかっても、あの家に戻る事を拒否出来るとその冒険者に教えてもらったからだ。)

(でも当時の私はまだ子供だったから、王都の冒険者ギルドの紹介で、あるパーティに加えて貰うことになった。
そこは家族的な雰囲気のパーティで皆優しかった。
でも数年後に私がリーダーより強くなってしまって以降、皆の態度が一変・・・)

(私はパーティ内で奴隷扱いを受けるようになり、みすぼらしい格好をさせられ腹いせに蹴られたり、与えられる食事は皆の残飯で、他のメンバーが呑気に観戦する中、一人で強い魔物と戦わされて・・・。
それなのに私の働きは全て他のメンバー達のものとなり、リーダーは私のことを役立たずだが情けで置いてやってると周りの人に話し、誰もパーティ内での私の扱いに気がついてはくれなかった・・・。)

(でもそれに気が付いて、その地獄から救い出してくれたのが、その当時からランク1位の座に君臨し、たまたま同じ任務にエントリーしていた漆黒の風だった・・・。)

(その時に私は漆黒の風のことを・・・・・)

(だけど私はその時に受けた恩を、未だに彼に返せないでいる・・・。
その理由は、あのパーティからの離脱手続きを終えたあと─)

「これでお前は晴れて自由の身になったわけだが、今度は俺とパーティを組まないか?」

(─と漆黒の風から誘われたけど、元パーティでの経験がトラウマになっていた私は、誰かとパーティを組むことを恐れ、その誘いを断ってソロの道を選んだ・・・。)

(代わりに金品で恩を返そうとしたけど彼は─)

「恩を返したいと思うなら、俺とパーティを組んでくれ。」

(─の一点張りで、何一つ受け取ってはくれなかったからだ・・・。)

(それからも顔を合わせる度にパーティに誘われるけど、私は今もそれを断り続けている・・・。)
(勿論最強冒険者の彼にパーティへ誘われることは光栄に思う。
だけど・・・)

漆黒の風が、先程の武姫の前パーティでの扱いの話に対し、こう返事をした。

「それを言うなら俺だって、並み外れて高い戦闘力の所為でやっかまれ、前パーティでは奴隷扱いだったさ。」

「そこを抜けて以来ずっとソロでやってきたが、ソロではエントリー出来る依頼も少なく、限界を感じていた。
かと言って昔のような思いを繰り返してまで適当な奴らとパーティを組みたくはなかったし、何処かに俺とパーティが組めそうな強者はいないかとずっと探していたんだ。」

「そんな時、お前と出会ってやっと見つけたと思った。
本当の仲間になれる奴をな。」

「だがあの時のアリアは昔の俺と同じような状況に置かれていたし、まずはそこから救い出すことが先決だと、お前をあのパーティから抜けさせる手助けをしたんだ。」

「アリアが昔のことでパーティというものを信じられなくなっているのはわかる。
だが常人離れした者同士ならやっかみ合うこともなく、互いを高めあっていくことも出来る。
パーティを組むなら唯一無二の存在だと思うがな?
なのに何故俺の誘いを拒む?」
「前パーティでのこと以外に、何か理由があるんじゃないのか?」
「1年も誘いを断られ続けて俺もしびれを切らしてきたんだ。
それを聞くまで今日は引き下がらるつもりはない。」

武姫は彼のいつになく真剣な様子にキュッと口元を引き結ぶと、

(確かに最近、勧誘がしつこくなってきていたものね・・・。
仕方がない・・・。
あれを言ったら誂われそうで恥ずかしいけど・・・・・)

と観念し、彼に誂われるのが嫌でずっと言わずにいた彼の誘いを拒むもう一つの理由を、真っ赤に染まった顔でゆっくりと口にし始めた。

「だ、だって・・・自意識過剰だって貴方は笑うかもしれないけれど・・・。
恋人同士でもない男女が二人きりで旅をするなんて・・・。
万が一変な空気になったりしたらその・・・困るもの・・・・・。」

漆黒の風はそれに、

「・・・驚いた
まさかアリアがそこに気がついていようとは・・・!」

と最初は目を見開いて驚いたが、最後にはくくくっと嬉しそうに笑い出した。

「な、何よ・・・馬鹿にしてるの!?
私16よ?
それくらい当然のことでしょ!」
「すまない…!
アリアは前パーティで置かれていた立場から、男女の事柄にはもっと疎いとばかり・・・」
と笑いを堪えながら言う漆黒の風。
「確かに貴方に助けてもらった時の状況を見ればそう思われても仕方がないけど、皆との関係性が悪化する前に治癒師の女性が教えてくれたわ。」
「それに亡くなる前の母もそれとなくね…。」
武姫は母がその話をしてくれたときのことを思い出し、少し寂しそうに微笑んだ。

「そうか・・・。
そういうことなら、今後は男の欲を隠さず口説かさてもらおうかな・・・。」

漆黒の風はそう呟くと身を乗り出し、武姫を至近距離で見つめながらこう続けた。

「俺はアリアを女としても気に入っているよ。」

「お前と最初に出会った時、その強さだけでなく、粗末な装備と思えない程美しく舞う姿にも強く惹かれた。」

漆黒の風は、ボロボロのレザーアーマー姿で宙を舞うように剣を振るう武姫の姿を思い出しながら、その言葉を紡いだ。

「そんな相手とパーティを組んで隙を見せられたら?
そりゃ当然、襲いたくなるだろうな。」 

漆黒の風はそう言いながら、焚き火が心地よくて寝落ちしてしまった武姫にキスをして、装備を脱がせて胸を愛撫しつつ彼女のスカートの中に手を入れる自分を想像していた。
だが武姫はその言葉の意味をすぐに理解出来る程男というものに慣れてはいなかったので、その時はただぽかん…と彼の話を聴いていた。

「だが安心しろ。
俺はアリアから同意の得られないことは決してしない。」

「お、お、襲っ・・・!?」

とそこでようやく先程の彼の言葉の意味を理解した武姫が、瞬時に顔を真っ赤に染めて椅子に座ったまま後ずさった。
彼女の椅子が後ろにある衝立に当たり、ガタッ!と音を立てた。
武姫はパニック状態の頭で思考した。

(ちょ、ちょっと待って!
今まで何度パーティに誘われても、Hなことだけは言ってこなかったのに・・・!
それって私が男女の事柄に疎いからと遠慮して言わなかっただけってこと!?)
(・・・もしそうならあちこちで耳にする彼の下賤な噂・・・
どうせ漆黒の風をやっかむ人達が面白おかしく広めてるだけだと思って今までは聞き流していたけれど・・・)

そして次の瞬間、彼女は頭に浮かんだ不安をぽそりと口にしてしまった。

「やっぱりあの噂は本当なのかも・・・」

「俺の噂?どんな?」
それを聞き逃さなかった漆黒の風は、関心を示して口角を上げ、武姫に尋ねた。
武姫は、
(しまった…!
口に出ちゃってた…!)
と思いながらも、彼の問いに素直に答えた。

「・・・魔物から助けた女性から身体の報酬を受け取ったとか、同じ依頼にエントリーした女性冒険者と関係を持ったとか、女性関係のことばかり色々と・・・」

「ふーん…そんな噂をされているとは知らなかった。
まぁ確かに、魔物から助けた礼を身体で支払うと言われたり、同じ任務にエントリーした女冒険者から寝床へ誘われることはあるな。」

彼の口から聞きたくなかった事実を明かされ、武姫は思っていた以上にショックを受けてしまった。
そして嫉妬のあまり、感情を剥き出しにしてテーブルに手をつき立ち上がり、声を荒げてしまった。

「やっ・・・やっぱり本当だったのね!
最っ低!!
夜の相手が欲しくて私をパーティに誘ってるなら他を当たってよ!
貴方、女の子なんて選り取り見取りなんでしょ!?」 

武姫の碧い目から涙が滲み、それを彼に見られたくなくて、彼女はその場から去ろうとした。
漆黒の風が慌ててその手を掴み、引き止めた!

「待て!
人の話を最後まで聞けアリア!
誘われるのは本当だが、アリアに最低呼ばわりされる覚えは全くないぞ!?」

「何故ならアリアに出会ってからは一度もその手の誘いに応じたことはないし、今後もそのつもりだからだ!」

「・・・本当に・・・?
でも下心があって私をパーティに誘ってるんでしょ…?」 

武姫は少し落ち着きを取り戻した様子でそう言うと、ストン…とまた席についた。
漆黒の風はそれを見てホッと胸を撫で下ろすと、こう続けた。

「・・・アリアに対し下心があるのは否定しない。
だがそれ以前にお前を冒険者として対等と思うからこそパーティに誘っている。」

「それに好きでもない女を相手にするくらいなら、お前で淫らな妄想をして一人でするほうが余程いい。」

漆黒の風はそう言いながら、自慰行為の際にしている、彼女に対する非常に独りよがりかつ下品な妄想の数々を、頭に思い浮かべていた。
勿論彼がそんなことを考えているなど、武姫は思いもしていなかったが。
そして彼は、

「まぁ実物が抱けるなら、それに越したことはないが・・・?」

と更に直接的な一言を放ち、彼女の反応を伺うかのようにニヤリといたずらっぽく微笑んだ。

数秒後、武姫が彼の言ったことの意味をようやく理解してボフッと頭から蒸気を吹き出したのを見て、漆黒の風は口元に手を運び嬉しそうにくくくっと笑った。

そして、武姫を真っすぐに見つめ、いつになく真剣な表情になると、こう言った。

「・・・お前は俺が初めて惚れた女なんだ・・・。
それを手放すような愚かなこと・・・俺は絶対にしない・・・。」

武姫が彼の真剣な表情と、思いも寄らないタイミングでの告白に驚き反応できずにいると、漆黒の風はいつもの砕けた表情に戻り、

「恋愛経験値がないお前に分かりやすく言うなら、俺は童貞ではないが浮気はしないし、
深い仲になった途端に捨てられるという心配も無用ということだ。」
「アリアにとっての俺は、パーティメンバーとしてだけでなく、恋人としてもそう悪くない物件だと思うがな?」

と言った。
そして更に極めつけに、

「・・・言葉だけでは信用ができないなら、パーティを組む前に俺と寝てみるか?」

とトドメとも言える一言を放った後、それに対する武姫の反応を心待ちにするかのように、色気たっぷりに微笑むのだった。

その言葉を受けた当の武姫はというと、脳内でまるで宇宙のような空間へとトリップし、

─俺と寝てみるか?─

と色気たっぷりに微笑む漆黒の風のビジョンがエンドレスと思える程頭の中でぐるぐると周っていた。
そんな武姫に構わず漆黒の風は更に誘い続けた。

「別にそっちのテクに自身がある訳では無いが、アリアが相手ならうんと優しく丁寧に、快楽へ導けるよう心がけるぞ?
それで俺の気持ちが本物だとわかってからパーティを組めばいい。」

「早速だがどうだ?今夜・・・」

漆黒の風は、また破壊力のある言葉を武姫に向けて投下すると、彼女の手をそっと握り、更に顔を覗き込んで来た。
そこでようやく現実に戻ってきた武姫は、ばくばくばくばく…と煩い鼓動をBGMにしながらも、頭の中で状況を整理し始めた。

(えっ、えっ、えっ・・・!?
漆黒の風、さっき私に惚れてるって言った!?
そ、それによ、よ、夜の誘いまで・・・!??
待って待って待って!!
どどどどどうしよう・・・!!
こんなときどんな反応をすればいいの!??
仰る通り恋愛経験値が0の私に、今の誘いはレベルが高すぎるわよ馬鹿ーーーっ!!!)

武姫が真っ赤な顔で困惑し目を回しそうになっているのに気がついた漆黒の風は、くつくつと笑い、彼女の頭をぽんぽんと叩いた。

「・・・悪い・・・。
アリアが俺に対して思ったよりも脈があるのが嬉しくて、いきなり飛ばし過ぎた・・・」

「さっきも言ったが、俺はお前から同意を得られないことは絶対にしないから安心しろ。
アリアは男から性的なアプローチをかけられることにも慣れていないようだし、その辺も様子を見ながら少しずつにする。」

「だから、気軽に俺とパーティを組むことを考えてくれないか?」

武姫はそう言って微笑む漆黒の風を見て安堵し、ホッと小さな溜め息をついた。
そして、自分を優しく見つめてくるサックスブルーの瞳をじっと見つめ返しながら考えた。

(確かに・・・漆黒の風となら力の釣り合いが取れて、パーティとして成立するわ。
常人外れた強さを持つ彼なら、成長速度のことでやっかみを受けることも無い。
そして私も本当は、誰かとパーティを組んで仕事の幅を広げてみたいって思ってる・・・。)

(でもそれでさっきみたいに男の人の部分をさらけ出してきて、ドキドキさせられ続けたら・・・?
私が必死に隠してる想いなんてあっという間に暴かれて、全部彼に絡め取られてしまう気がする・・・。
そうなったら頭の中が彼で満たされて、父への恨みなんか何処かへ吹き飛んでしまいそう・・・。
彼とずっと一緒にいられるならそれでもいいのかもしれない。
でもさっき彼はそれを否定していたけれど・・・もし彼が私に冷めて、パーティを解散することになったら?
彼と今みたいなやり取りすらできなくなって、私はまた父への恨みを思い出し、今度こそ誰も心に寄せ付けずに、孤独に生きていくことになるの・・・?)

(彼を信じたい・・・。
だけど人がいとも簡単に裏切る事を、私はよく知っている・・・。
そして心に深く入り込んだ人の裏切り程、大きな傷跡を残すのよ・・・。
もうあんな思いはしたくないし、彼との今の関係性も失いたくない・・・。)

(だから彼に踏み込むのが怖い・・・・・)

武姫がそんなことを思っている間に、ギルドスタッフにより壁に次々と新しい依頼書が貼られていくのが見えた。
武姫は気持ちを切り替えるように頭を左右に振ると、強めの口調でこう言った。

「・・・やっぱり貴方みたいな女たらしとパーティを組むとかあり得ないから!
話に気を取られて忘れそうだったけど、私はここに次の仕事を探しに来たの!
邪魔しないでよね!」

武姫は席を立ち、続けてマグカップをマジックバックに片付けると、たった今壁に貼られてばかりの”ソロエントリー可”と書かれた依頼書を見ていく。
漆黒の風が武姫に続いて立ち上がるが、彼女はそれに気がついても無視をして、依頼書を見ていった。

③依頼書の取り合い

(ソロエントリーが可とされている依頼書は全体の約3割程・・・。
やはりソロ冒険者は不利だわ・・・。)

とため息をつく武姫。
だがそんな中、なかなかいい条件の依頼書を見つけた。

(・・・これいい!
サリナ村西の谷に現れるワイバーンの討伐依頼・・・。
報酬もランクに影響するポイントも今張り出されているソロエントリー可の依頼の中で一番高いし、ワイバーン単体なら私一人でも対応出来るわ!)

武姫がその依頼書を手に取ると、スッと背後から逞しい腕が伸びてきて、それを奪い取られた。
武姫が振り返ると、そこには案の定意地悪に微笑む漆黒の風がいた。

「ふーん・・・ワイバーン討伐か。
それなら俺もこの依頼にエントリーして、アリアよりも先に達成しよう。」
「意地が悪いわよ漆黒の風・・・。」
と恨めしそうに彼を睨む武姫。
「誰がどの依頼にエントリーしようと自由だろう?
だが俺とパーティを組むなら、アリアがメインで活躍出来るよう俺がサポートに回ってもいい。
そしたらアリアに多く点数がいき、そのうち俺を抜いて念願のランク1位になれるんじゃないか?
勿論、お前が1位になりたい理由に俺が納得すればの話だが。」
それに対して武姫はキッと眉をつり上げこう言った。
「確かに私はランク1位になりたいわ。
でも貴方に手柄を譲られるのなんて嫌よ!
実力で奪わないと意味がないの!」

(そうじゃないと、父を堂々と見返せない・・・!)

「もういい・・・その依頼は貴方に譲るわ!
私は別の依頼を探す!」
武姫はプンプンと怒ってそっぽを向いた。
すると漆黒の風は、
「そうか。
それなら俺もこの依頼を受けるのはやめておこう。
ワイバーン単体の討伐なら、中堅程度のパーティでもこなせるだろうしな。」
と言って、先程の依頼書を元の壁へと貼り直した。
そして、
「それで、今度はどの依頼にエントリーするつもりなんだ?
お前と同じ依頼に俺もエントリーするよ。」
と言って笑った。
「・・・貴方本当に意地が悪いわ・・・。」
「何とでも言え。
それが嫌なら俺とパーティを組めばいい。」
「しつこい!」
二人が依頼書が張り出された壁の前でそんなやり取りをしていると、冒険者ギルドの受付嬢が一人こちらにやってきて、声をかけてきた。
「あの・・・お話中にすみません。
漆黒の風さん、貴方に指名の依頼が来ているのですが、詳しくお話したいのでカウンターの奥に来て貰えます?」
「俺指定の依頼?
急ぐ内容なのか?」
と漆黒の風は尋ねた。
「いえ、任務自体は急ぎではないのですが、貴族様からのご依頼で、お引き受けいただけるかどうかすぐに返答が欲しいとのことでして・・・」
「・・・わかった。」
そう頷くと漆黒の風はチラッと名残惜しそうに武姫を見てから、受付嬢について行った。

(・・・やはりランク1位ともなると、貴族からの指名の依頼が入るようね・・・。
でも急ぎの任務じゃないなら、依頼内容の確認が済んだらまたすぐにこっちに戻ってきて、私の選んだ依頼にエントリーを被せてくるんじゃないかしら?
何か漆黒の風に手柄を横取りされないような依頼があれば良いけど・・・)
はぁ・・・とため息をつきながら何気なく見た先にあった依頼書に、武姫の目が釘付けになった。

(これは・・・!
女性を含むパーティ限定の依頼で、高レベルの女性であればソロでのエントリーも可!
内容は・・・ヒートビーストの討伐か・・・。)
(私はまだ戦ったことがないけど、確か女性の肉を好み、女性にしか姿を見せないという魔獣よね?
成る程・・・それで女性を含むパーティに依頼が限定されているのね。
既に近隣の村人数名に被害が出ていて緊急性も高く、貰える点数も良い・・・。
この依頼が男の漆黒の風に横取りされないのは確かだし、これは絶対にエントリーしなくちゃ!)

武姫はその依頼書を剥がしてカウンターに向かった。

武姫がカウンターにて自分の対応をしてくれた受付嬢が、ヒートビースト退治依頼の詳細が書かれた紙を持ってくるのを待っていると、カウンター奥にて貴族からの指名の依頼説明を受けている漆黒の風と目が合った。
武姫があっかんべーを返してやると、彼はくくくっと小さく笑ってからまた前に向き直り、説明の続きを受けていた。
とそこで、武姫を担当していた受付嬢が戻ってきてこう言った。

「お待たせしました武姫さん。
この依頼、確かに女性冒険者のソロエントリー可ですし、高レベルの武姫さんはエントリー条件を満たしています。
ですが、この魔獣の放つ催淫毒は強力で対応する解毒薬もありませんし、現段階では罹ってしまった女性をパートナーの男性が満足させることで症状が抜けるのを早める対処法しかなく、その対処がなされなければ3日間も苦しむ事になります。」
「なので武姫さんがお一人で挑まれるのは心配で…。
万が一のときのため、どなたか一時的でもいいので、信頼のおける男性冒険者の方とパーティを組まれてみては?」

そう言われてみて武姫は考え込み、漆黒の風をチラッと見るが、
(いやいや、ここで漆黒の風に協力を仰いでどうするのよ!
折角邪魔されずに一人で高ポイントを狙える依頼なのに、それじゃ意味がなくなるわ!)
と頭を振り、受付嬢にこう返した。
「私なら大丈夫よ。
俊敏さには自信があるし、奴の毒ブレスを躱せばいいだけだから。
もう既に被害も出ているのだし、これ以上広がらないうちに倒したほうがいいわ!」

「すぐに現場に向かうから、エントリーを受付けておいて!
お願いね!」

武姫はそう言い残し、冒険者ギルドを出て行った。

④訳あり任務と3人組の企み

それが聴こえていたカウンター近くの席にいたファンキーな髪型をしたガラの悪い男3人の冒険者パーティが、ヒソヒソと話を始めた。
『おい、今の聞いたか?
武姫一人で淫獣退治だってよ!』
と青髪モヒカンの細身の男が言った。
『グヘヘヘへ・・・あの清楚な武姫が催淫毒にやられたとことか想像したら堪らねぇぜ♥』
と少し太り気味の赤髪モヒカンが目をハートにした。
『お前毎晩武姫の姿絵見てうぜぇぐらいシコってるもんな!』
と青モヒカン。
『仕方ねぇだろぉ?
いっつもあの漆黒の風が付き纏ってやがって声もかけられねぇし、クソつえぇ武姫が相手じゃ一人になったところを襲うことも出来ねぇんだしよぉ!』

『くくっ!
その願望、実現できるチャンスかもしれねぇぜ?』

頭部をスキンヘッドに刈り上げた、額の左側に蜘蛛のタトゥを刻んだ3人のリーダーと思われる男が言った。
『『そいつはどういうことだ?
リーダー!?』』
と赤と青が揃って尋ねた。
『今すぐ武姫の後をつけて行って、催淫毒にやられたトコを輪姦すんだよ!
武姫は毒ブレスを躱すと言っていたが、ヒートビーストが死に間際に放つブレスは広範囲に及び、そう躱せるものじゃねぇらしい。
確実に毒を食らうとみて間違いねぇぜ?』
『でもよ、リーダー。
武姫は勘が鋭そうだし、尾行に気づかれるんじゃねぇか?』
と青モヒカン。
『なぁに、心配いらねぇ。
前に護衛した商人からくすねたこいつを使えば、いくら武姫でも尾行に気づかれっこねぇ!』
と言ってスキンヘッドはマジックバックから直径2cm程の透き通った魔石と茶色い魔石を取り出して、赤と青のモヒカンに見せた。
『こっちの透き通ったのが透明化魔石で、その名の通り、魔力を通してる間は透明人間になれるって代物だ。
こっちの茶色のが消音魔石。
同じく魔力を通してる間は、有効範囲内の物音を消す事ができる。
この2つを併せて使えば、武姫相手でも楽勝ってわけだ。』
『そうと決まれば見失わねぇうちに追いかけるぞ!』
『『おうとも!』』
そして男たちは武姫を追ってギルドを出ていった。

そんな男達を漆黒の風は目の端で捉えていた。
彼と3人組とでは距離も離れており、また3人組が声を抑えていたため彼らの話の内容までは漆黒の風にはわからなかったが、彼らの様子と出ていくタイミングからどうにも嫌な予感がした。
漆黒の風は眉を寄せると、自分指名の依頼の説明をまだ続けている受付嬢を無視し、スッと立ち上がった。
そして大急ぎで男達を追ってギルドを出た!

しかしさっきギルドを出たばかりの筈の3人の姿は何処にもなく、険しい顔で立ち尽くす漆黒の風を、行き交う人々が不思議そうに見ていた。

漆黒の風はチッと舌打ちをし、すぐにギルドへと引き返した。
そしてさっきまで武姫とやり取りをし、彼女のエントリー手続きをせっせと行っている受付嬢の所までツカツカと近付いて行き、腰に手を当て眉間にシワを寄せながらこう尋ねた。

「アリア・・・武姫はさっき何の依頼にエントリーした?」

「えっ・・・漆黒の風さん!?
ヒートビースト退治ですけど・・・?」
と受付嬢は答えた。
「あの淫獣退治を一人でだと!?
場所は何処だ!!」
漆黒の風は物凄い剣幕で詰め寄った。
「で、でもその依頼はソロの女性、または女性を含むパーティ限定の依頼ですし、催淫毒に侵された女性を狙う悪漢が現れる可能性がありますので、エントリーされていない方に詳しい場所等の情報をお教えするわけには・・・」
と受付嬢は汗を飛ばしながら答えた。
「そんなことはわかっている!
だがさっきアリアの後を追ってガラの悪い3人組が出ていくのを見た!
恐らくあんたが言った強姦目的だ!
アリアをつければ場所が公表されずとも問題無いからな・・・。」
「だからさっき俺はすぐに奴らの後を追おうとしたが、奴らの姿がどこにも無かった!
おそらく透明化魔石を持ってやがって、それを使ったに違いない!」

「このままではアリアが危険だ!
すぐに追うから早く場所を教えろ!!」

⑤ヒートビースト退治

─5時間後─

武姫はヒートビーストの出没地点の一つに到着していた。
そこは森の中だが街道が近い為かそんなに木々が密集しておらず、見晴らしは比較的良かった。

(ここよね?
ギルドで教えて貰ったヒートビーストの出没地点は・・・。)
武姫はギルドから貰った地図を確認した。
(奴は獲物を捉えるとき以外は目くらましの魔法を使って姿を隠すそうだけど、今の所はそれらしい気配は感じられない・・・。
この辺り一帯やけに静かで、逆に不自然な気もするけど・・・。)
(他にも出没地点はあるけど、ひとまずここで少し待ってみよう・・・。)

武姫がそう思い近くにあった木に凭れかかったところで、木の幹がぐにゃりと歪んだ!
武姫はハッとして木から飛び退き、距離を取った!
そのぐにゃりと歪んだ空間が段々と灰色の塊へと変わっていき、やがて熊くらいの大きさの猿のような獣の形となった。
依頼書に描かれてあったヒートビーストのイラストと眼の前にいる魔獣の姿が一致した武姫は、
「出たわねヒートビースト!」
と声を上げると同時に剣を抜き構えた。

ヒートビーストは武姫に向けてニタァと笑うと、催淫毒のブレスを吐いてきた!
武姫はそのブレスをさっと躱し、続けてヒートビーストの足元へ潜り込むと、脛を払った!

(一撃では仕留められそうにない大型の魔獣は、まず足を狙う!
行動の自由を奪えばその後の対処がしやすくなるから!)

武姫の下段攻撃は、見事にヒートビーストにヒットした!
「ギャアアァーーー!」
ヒートビーストは脛から血を流し、悲鳴を上げた。
武姫はさっと距離を取り身構え、相手の次の出方を待つことにした。

(最初のブレスからどのくらいのインターバルで次を吐けるのかわからないし、今は迂闊にしかけないほうがいいわ。
相手の攻撃パターンを把握すれば、こちらから仕掛けるタイミングがある筈・・・!)

ヒートビーストは続けて武姫を捕まえようと突進して来た。
だが、

(足を負傷して動きが鈍い!
これなら楽に躱せる!)

と武姫はその攻撃をあっさりと躱した。
その瞬間、ヒートビーストの胸ががら空きになった!

(チャンス・・・!)

武姫は即座にその胸元に剣を突き刺した!

「ギャアアアアーーーーー!!!」

ヒートビーストは苦しそうに悲鳴を上げた!

(今のは手応えがあった!
後は充分な距離を取って、相手が完全に息絶えるまで様子を見て・・・)

武姫が思ったその時である。
ヒートビーストの身体が突然大きく膨らんだかと思うと、まるで爆発するかのように一気に大量の毒が吹き出したのだ!

武姫は咄嗟に飛んで距離を取ろうとしたが、毒ブレスが広がる速度のほうがそれよりも早く、武姫の全身は催淫毒ブレスに包まれてしまった!

(しまった!!)

武姫は咄嗟に催淫毒を吸わないよう口元を塞いだ。
しかし─

(うそ…!
この毒、目からも浸透するの!?
胸が苦しい・・・身体の力も抜けて・・・)

ついに武姫は、地面に膝をついてしまった。
催淫毒のブレスが消えて視界がクリアになったときには、ヒートビーストは息絶えたのか、動かなくなっていた。

⑥貞操の危機

動かなくなったヒートビーストを見ながら武姫は思った。
(さっきのは死に間際の攻撃だったようね・・・。
でもどうしよう・・・。
催淫毒に侵されてしまった・・・。)

武姫は、
“この魔獣の放つ催淫毒は強力で対応する解毒薬もありませんし、現段階では罹ってしまった女性をパートナーの男性が満足させることで症状が抜けるのを早める対処法しかなく、その対処がなされなければ3日間も苦しむ事になります。“
という受付嬢の説明を思い出し、冷や汗を垂らした。
(とりあえず動けるうちに、ヒートビーストの死骸だけでも片付けておかないと、血の匂いで他の魔物を呼び寄せてしまうわ・・・。
この状態では雑魚と遭遇しても殺されかねないし、戦闘は回避しないと・・・。)
武姫はフラフラしながらヒートビーストの死骸の元まで歩くと、マジックバックについた魔石に触れてから、亜空間ホールを作り出した。
そしてその中に何とかヒートビーストの死骸を収納し終えると、その場にへたり込んだ。
(これでOK・・・。
でも更に毒が回ってきたわ・・・。
取り敢えずリスベルに帰って、お医者さんに診て貰わないと・・・)
武姫がはぁ、はぁと熱い吐息を吐きながらマジックバックから転移魔石(※記憶した場所まで一瞬で転移する力を持つ魔石)を取り出したときである。
背後から、

「帰ろうったってそうはさせないぜぇ?
武姫~~~♡♥」

という声がして手にパシッ!と叩かれたような衝撃が走り、持っていた転移魔石を落としてしまった。
武姫がビクッとして背後を振り返ると、そこには額に蜘蛛のタトゥーを入れたスキンヘッドの男を中心に、左に痩せ型の青のモヒカン男、右に太り気味の赤のモヒカン男の3人の冒険者が立っていた。
(・・・こいつら確か、ギルドでよく見かける・・・。
特に赤い奴は私のことをいつも気持ち悪い目で見てくるから印象に残ってる…。
このタイミングで現れるということは、まさか跡をつけて来た・・・?
でも足音が全く聞こえなかった・・・)
武姫は冷や汗を垂らすと、3人の男を警戒して睨んだ。
「そんな怖い目で睨まなくてもいいだろ?
武姫さんよぉ。
あの淫獣をあっさり倒しちまうとは、流石ランク2位は伊達じゃねぇな!」
と3人のリーダーのスキンヘッドが言った。
「だがリーダーの言った通り、武姫でも奴の死に間際の毒は躱せなかったようだぜ?
顔が真っ赤に染まってフラフラだ!」
と青モヒカン。
「なぁ武姫ぃ♡
催淫毒にやられてあそこが疼いて苦しいんだろ?
大丈夫大丈夫ぅ♥
俺達、その毒によぉく効く肉の棒を持ってるからよぉ♥」
そう言って赤モヒカンが自らの股間辺りを指差した。
男性経験が無い武姫にははっきりとしたことは解らなかったが、どうやら赤モヒカンの股間は性的に興奮し、既に勃起しているようだった。
武姫は青ざめ、剣の柄に手を掛けた。

(こいつら強姦目的・・・!!
どうにかして追い払わないと酷い目に遭わされるわ・・・。
普段ならこいつら程度どうってことないけど、今の状態でやれる・・・・・!?)

武姫は緊張からゴクッと喉を鳴らした。
「ほぉ・・・剣を抜こうってか。
勇ましいねぇ。
だがそんなフラフラの状態で男3人に敵うと思ってんのか?」
そう言いながらスキンヘッドは武姫の腕をグッと掴み、剣を取り上げた。
「くっ・・・!」
毒が効いている為殆ど力が入らず動きも鈍っている武姫は、あっさりとそれを許してしまった。

「さぁて野郎共、お待ちかねのお楽しみの時間だ!
手を押さえててやるから赤、お前が1番でいいぜ?」
スキンヘッドはそう言いながらアリアの腰を捕まえ、その華奢な身体を自分の下へと引き寄せて脇に手を回し、両腕が動かせないようにしっかりと固定した。
「うっひょ~~~♥
マジいいんすか!?リーダー!!」
「おう、お前の念願の女だしな!
だがお前のザーメンプールに突っ込むのは気が進まねぇから、必ず外に出せよ?」
とリーダー。
「へへへっ、わかってやすって!!」

「嫌ぁ!!
離して!!」

武姫は叫び、足を精一杯に動かして抵抗しようとした。
「おーおー!
毒にやられてる癖して元気な足だなおい。
青!
お前は足を押さえてやれ!」
「ヘイ、リーダー!」
スキンヘッドに命じられた青モヒカンが、暴れる武姫の足を捕まえて押さえつけた。
一切の抵抗が出来なくなった武姫の顔がますます恐怖の色に染まった。

⑦ヒーロー参上

「げへへへへっ♥
そんじゃまずは脱がしちゃおっと♡」

赤モヒカンはそう言って舌なめずりをすると、武姫の鎧に手を掛けた。
武姫は恐怖のあまりギュッと硬く目を閉じた。
そして毒のせいで熱く蕩けた身体が徐々に外気に晒されていく感覚が否応なく伝わってきて、もうすぐ望まぬ相手に犯されてしまうという恐怖から、ガタガタと身体が震え始めた。

「うっひょ~~~っ!
武姫の乳首、綺麗なピンク~♡
なのに初心なあそこがぬるっぬる~♥
このアンバランスさが堪らねぇ~~~♡♥」

と赤モヒカンが歓喜の声を上げた。
「ふひ~~~♥
本当は全身ねちっこく舐め回したいけどよぉ。
もうたまんねぇから先にハメちまおっと♥
これだけ濡れてりゃ前戯無しでも余裕だよなぁ♥」
赤モヒカンはそんなことを言いながら、薄汚れたズボンを下ろした。
武姫の目前に赤黒く熱り立った男性器が晒され、彼女は顔を更に青く染めて頭を振った。

(嫌・・・!
絶対に嫌だ・・・!!
このまま犯されるなんて冗談じゃない!!)

(こんな奴に初めてを散らされるくらいなら、漆黒の風の誘いに乗ってパーティを組んで、父への恨みも忘れて恋・・・をして、彼に初めてを捧げてみれば良かった・・・・・・・・)

武姫は漆黒の風がいつも自分に向けてくれている屈託のない笑顔を思い浮かべて、碧い瞳に涙を浮かべた。

「・・・武姫ったら泣いてんのぉ?
大丈夫ぅ♥
俺のぶっといチン◯、最初は痛いかもしんないけどぉ、すぐに気持ち良くなって大好きになるからぁ♡♥」

「んじゃ、いっただっきま~~~す♥♡♥」

赤モヒカンがそう言いながらイチモツを手で支え、ぐっと腰を沈めようとしたその時である。

黒い風がヒュン!と武姫の目の前を過ぎったかと思うと、自分に覆いかぶさっていた筈の赤モヒカンの姿が消えており、代わりに険しい顔をした漆黒の風が黒いマントを靡かせて立っていた。

(漆黒の風・・・!?)

武姫は突然の漆黒の風の登場に驚き、これは自分の都合のよい妄想ではないかと目を疑がった。
だが今起こっている出来事は紛れもなく現実のようで、赤モヒカンは漆黒の風に首根っこを掴まれて投げ飛ばされ、ケツ丸出しの姿で少し離れた茂みに顔を突っ込んでいた。

「しっ、漆黒の風だと!!?
な、な、なんでお前がここにっ・・・!?」」

とスキンヘッドが武姫を捕まえていた手を離し、ダガーを抜いた。
青モヒカンも武姫の足を開放して腰に下げたダガーに手を掛けた。
先ほど投げ飛ばされた赤モヒカンも茂みから身を起こし、ダガーを手に漆黒の風の方へとにじり寄ってくる。
漆黒の風は無言で腰に下げた刀の鞘を抜き、その切っ先を赤モヒカンに向けた。
その表情は怒りのあまり冷静さを失い、強い殺気を迸らせていた。

(いけない…!
漆黒の風、怒りで我を忘れてる!
いくら相手が悪党でも、殺せば罪に問われてしまうわ!
漆黒の風を罪人にするわけには……!!)

武姫は精一杯息を吸い込むと、今出来る限界まで声を張り上げて漆黒の風に向けて叫んだ!

「殺しては駄目っーーーーー…!!」

漆黒の風は武姫の言葉にハッとすると、その言葉の意味を理解したらしく、スッと峰打ちに切り替えた。

その後漆黒の風はまさに瞬く間に3人の男達を気絶させると、

「アリア!!」
と叫び、急いで武姫の元へと駆け寄った。
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