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冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで 前編
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《はじめに》
この『武姫と漆黒の風』[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで 前後編]は、既に公開済みの[冒険の書1~3]を近々コミカライズしようと思い新たに立て直したプロットを、更に小説として手直ししたものとなります。
そのため既に公開済みの[冒険の書1~3]とこの[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで 前後編]はほぼ同じ内容となりますが、ヒロイン&ヒーロー以外の登場人物が変わっていたり、他にも色々な初期設定が変更され、今後もこの設定でお話を書き進めていきたいと思いますので、過去投稿しました[冒険の書1~3]を[旧版]とし、この[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで]を追加で公開することにしました。
ですが[旧版 冒険の書1~3]を気に入ってブクマしてくださった方もいらっしゃいましたので、そちらもそのまま残しておくことにします。
この[冒険の書1]は、[旧版 冒険の書1~3]とほぼ同じ展開のため挿絵は省略させて頂きましたが、[冒険の書2]からはまた挿絵を描いていけたらと思います。
どうぞよろしくお願い致します!
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─冒険者ランキング2位の私が、冒険者ランキング1位でありライバルの彼に一晩中激しく抱かれることになるなんて・・・
その日の朝には思いもしなかった─
魔物が蔓延るこの世界には、武技や魔法を駆使して魔物と戦うことを生業とする冒険者という職業の者たちが存在した。
ここリスべルは、そんな冒険者達の活動拠点の一つとして知られる町である。
アリア・スフィール。
16歳。
彼女は陶器のように白くきめ細かな肌にサファイアのように美しい碧眼、更には絹糸のように煌めく金の長い髪に薄紅色のふっくらとした艷やかな唇、そして細くてしなやかな体躯を持つ、大変美しい冒険者だった。
だが彼女はその見た目からは想像が出来ない程の天才的な武における成長速度を持ち、レベル、実績、魔物の撃破点数等から割り出されるこの国の冒険者ランキング2位の座まであっという間に到達し、リスベルの町の者たちからは武神に愛されし姫という意で“武姫”と呼ばれていた。
良く晴れた日の朝、
「ありがとうございましたー!」
という店員の声とカランカラン♪というドアベルの音に見送られながら、武姫はいつも朝食を食べているカフェを後にした。
そのカフェの正面には、石造りの大きな建物、冒険者ギルドがあった。
武姫はそちらに向かって歩きながら思考した。
(依頼へのエントリーは早い者順で受理され、募集定員に達すれば締め切られてしまう。
だから開所してすぐに冒険者ギルドへ顔を出すのが私の日課─。)
武姫は辿り着いた冒険者ギルドの扉を開けた。
(今日こそは彼に邪魔されずにいい任務につけると良いけれど・・・)
冒険者ギルドの中は、正面に依頼へのエントリーを受け付けるカウンター、向かって左の壁に依頼書が貼り出される壁があり、右側にはランキング表やギルドからのお知らせや逃亡中の罪人の手配書が貼られ、カウンターへと向かう通路の脇に、多人数用や少人数用のテーブルと椅子が多数配置され、既に何名かの冒険者達が座っていた。
依頼の張り紙が行われる壁の傍に二人がけのテーブル席が空いているのを見つけた武姫は、物を圧縮する魔法がかけられた冒険者御用達のマジックバックからマグカップを取り出して、近くにある無料ドリンクが置かれた台からアールグレイのティーバッグを一つ取り、お湯を注いで少し待ち、ティーバッグを所定の容器に捨ててからそこに座った。
(ここで紅茶を飲みながら、新しい依頼書が貼り出されるのを待ちましょう。)
武姫が香りを楽しみながら紅茶を一口飲んだところでギルドの扉が開き、彼女にとってはお馴染みの人物が姿を現した。
その人物はスラリと背が高く程よく筋肉のついた青年で、黒灰色の鎧と表地は黒、裏地が青いマントを身に纏い、腰には東の国の”刀”と呼ばれる剣を下げていた。
彼はこの国では珍しい少し癖のある漆黒の髪を持ち、瞳はアリアよりも少し淡いサックスブルー、顔立ちは女性であれば皆見惚れてしまう程に整っていた。
彼はギルド内部にいる冒険者達の中から武姫の姿を見つけると嬉しそうに微笑み、彼女の席へと向かって歩いて来た。
(今日も現れたわね、私のライバル・・・。
漆黒の髪を持ち、その太刀筋が風のように鋭く見えないことから”漆黒の風”という異名を持つ彼は、ここ数年ランク1位の座を不動のものとしている最強の冒険者・・・。
彼を超え、1位の座につくのが私の目標だ。
地位のない冒険者でも、1位なら王族貴族から一目置かれる存在となる。
そうなることで武姫の異名は全国へと轟き、お母様を過労死に追い込み、私を金策のため変態貴族の元へと売ろうとした父の耳にも届くことになり、見返してやれる筈だから・・・。
2位ではリスベルの外にまで名を知られることはなく、私の目的は果たせない・・・。
だから私は貴方の持つ1位の座が欲しい・・・。)
彼は武姫がそんなことを思っているとは露知らず、マイカップにブラックコーヒーを注ぐと、さも当然のように彼女と向かいの席に座った。
武姫はそんな彼に対し頬を少し染めて口元を波打たせ、複雑な心境を露わにした。
(それなのに当の漆黒の風はというと─)
「おはようアリア。
なぁ、やはり俺達パーティを組まないか?
それで俺と同じ宿に移って来いよ。
そしたらアリアの好きなふわとろオムレツを毎朝ごちそうするぞ?
俺、料理は得意なんだ♪」
(なんて言って、顔を合わせるたびに私をパーティに誘ってくる、鬱陶しいけど昔受けた恩もあって邪険に出来ない相手なのよね・・・)
「結構よ。
それより何故漆黒の風が私の好物を知っているのよ。」
とつっけんどんに返す武姫。
「アリア行きつけのカフェの店員に訊いたら教えてくれたよ。」
それを聞いて武姫は数日前、行きつけのカフェで漆黒の風に話しかけられたウエイトレスが、
「キャーッ♥
あの漆黒の風さんがうちの店に!?」
と歓喜の声をあげ、こちらを見ながらぺらぺらと何かを話していたのを目撃したことを思い出した。
(あぁ・・・
あの時のあれかしら・・・)
「お前、朝は決まってふわとろオムレツプレートを頼むんだろ?
同じものを頼んだら確かに美味かったが、俺のオムレツはもっとふわとろだぞ?
食ってみたくないか?」
武姫はそれに対してツンと澄ました態度でこう返した。
「どんな特典を用意したって返事は同じよ漆黒の風。
それにアリアだなんて馴れ馴れしく呼ばないでくれる?」
「何故?
武姫なんて可愛げのない異名で呼ばれても嬉しくないだろ?
それに俺のことも名前で呼べと言ったはずだ。
スヴァルト・ビンド・・・ヴァルでいい。」
そう言って彼はしなやかな黒髪を揺らし、サックスブルーの瞳を細めながら武姫の顔を覗き込んだ。
彼の綺麗な顔が急に接近してドキッとした武姫はまた頬を染め、それを悟られないようそっぽを向いた。
「嫌よ、漆黒の風。」
「・・・相変わらずつれないな・・・。
もう一度言う。
パーティを組もうアリア。」
「嫌って言ってるでしょ!
貴方、私が前にいたパーティでどんな扱いを受けていたか知っているでしょ?
あんな思いをするくらいなら、ずっとソロでやっていくって決めたんだから・・・」
武姫はそう言いながら、昔のことを思い出した。
(12歳の頃、父により変態貴族の元へと売られていく途中何とか逃げ出した私は、ある冒険者に出会い王都(※この国の首都でここを拠点にしている冒険者も多い)まで送ってもらったのを切っ掛けに、冒険者になる道を選んだ。
冒険者には魔物対策のために国王により特別な法が設けられていて、未成年者でもなることが出来て自由意志を尊重されるから、例え父に見つかってもあの家に戻る事を拒否出来るとその冒険者に教えてもらったからだ。
でも私は子供だったから、ギルドの紹介である冒険者パーティに加えて貰うことになった。
そのパーティは家族的な雰囲気で皆優しかった。
でも数年後に私がパーティリーダーより強くなってしまったことを切っ掛けに皆の態度が一変。
私はパーティ内で一人で危険を引き受けさせられ、でも点数と報酬と衣食住は最低限しか貰えない・・・そんな半ば奴隷のような扱いを受けるようになった・・・。
その地獄から救い出してくれたのが、その当時からランク1位の座に君臨し、たまたま同じ任務にエントリーしていた漆黒の風だった。
今までも私のパーティ内での扱いを知り、心配してくれる人達はいた。
でもああして迷わずに行動に移してくれたのは、彼だけだったわ・・・。
そしてその時に私は彼のことを・・・・・)
武姫はその時彼が自分に向けてくれた優しい笑顔を思い出してから、チラッと目の前に座る漆黒の風を見た。
するとこちらの様子を観察していた彼と目が合ってしまい、恥ずかしくなってツン!とまた澄ました態度を取った。
(駄目よ!
こんな想いはランク1位になる目的の邪魔になるだけ・・・!
でも私はあの時に受けた恩を、未だに彼に返せないでいるのよね・・・。
その理由は、あのパーティからの離脱手続きを終えたあと─)
続けて武姫は、前パーティからの離脱手続きを終えた直後の彼とのやり取りを振り返った。
「─これでお前は晴れて自由の身になれたわけだが・・・今度は俺とパーティを組まないか?」
(漆黒の風はそう言って微笑み手を差し伸べてくれた。
だけど元パーティでの経験がトラウマになっていた私は誰かとパーティを組むことを恐れ、その誘いを断りソロの道を選んだ・・・。
いくらかソロでの活動に慣れてきた頃、金品で彼への恩を返そうとしたけど、
「恩を返したいと思うなら、俺とパーティを組んでくれ。」
の一点張りで、何一つ受け取ってはくれなかったからだ・・・。
それからも顔を合わせる度にパーティに誘われるけど、私は今もそれを断り続けている・・・。
勿論最強冒険者の彼にパーティへ誘われることは光栄に思う・・・。
だけど・・・)
漆黒の風は先程の武姫の言葉に対してこう返事をした。
「─それを言うなら俺だって、並み外れて高い戦闘力の所為でやっかまれ、昔いたパーティでは奴隷扱いだったさ。
そこを抜けて以来ずっとソロでやってきたが、ソロではエントリー出来る依頼も少なく限界を感じていた。
かと言って昔のような思いを繰り返してまで適当な奴らとパーティを組みたくはなかったし、何処かに俺とパーティが組めそうな強者はいないかとずっと探していたんだ。
そんな時、お前と出会ってやっと見つけたと思った。
本当の仲間になれる奴をな。」
彼はそこでコーヒーを一口飲み、また続けた。
「だがあの時のアリアは昔の俺と同じような状況に置かれていたし、まずはそこから救い出すことが先決だと、お前をあのパーティから抜けさせる手助けをしたんだ。
アリアが昔のことでパーティというものを信じられなくなっているのはわかる。
だが、常人離れした者同士ならやっかみ合うこともないし、互いを高めあっていくことも出来るだろ?
パーティを組むなら唯一無二の存在だと思うがな。
なのに何故俺の誘いを拒む?
前パーティでのこと以外に、何か理由があるんじゃないのか?
もう1年も誘いを断られ続けて、俺も流石にしびれを切らしてきたんだ・・・。
それを聞くまでは、今日は引き下がらるつもりはない。」
武姫は彼のいつになく真剣な様子にキュッと口元を引き結ぶと、
(確かに最近、簡単には引き下がってくれなくなって来ていたものね・・・。
仕方がない・・・。
恥ずかしいけれど、あれを言うしかなさそうね・・・・・)
と観念し、彼に誂われるのが嫌でずっと言わずにいた彼の誘いを拒むもう一つの理由を、真っ赤に染まった顔でゆっくりと口にし始めた。
「だ、だって・・・自意識過剰だって貴方は笑うかもしれないけれど・・・
貴方と2人きりのパーティでしょ・・・?
恋人同士でもないのに一緒に旅をするなんて、万が一変な気分になられでもしたら、その・・・・・困るもの・・・・・・・・」
それを聞いた漆黒の風は、
「・・・驚いた。
まさかアリアがそこに気がついていようとは・・・!」
と最初は目を見開いて驚き、最後には口元に手を運んでくくくくくっ!と楽しそうに笑い出した。
「な、何よ・・・馬鹿にしてるの!?
私だって16よ!?
それくらいのこと知ってて当然でしょ!」
と思わずテーブルに手を付き、声を荒げる武姫。
漆黒の風はまだ笑いながらも武姫に向かって手をかざし、
「すまない・・・!
アリアは前パーティで置かれていた立場から、男女の事柄にはもっと疎いとばかり・・・」
と言った。
「確かに貴方に助けてもらった時の状況を見ればそう思われても仕方がないわ。
でもパーティの皆との関係性が悪化する前に、治癒師の女性が教えてくれたのよ。
それに亡くなる前の母もそれとなくね。
最もあの頃は小さすぎて良くわからなかったけれど、治癒師の人が言っていることを聞いたときに母の言っていたことと繋がって、そういうことなんだって理解ができたわ。」
と武姫。
漆黒の風はそれを聞いてふふっと表情を緩めると、
「そうか・・・。
それなら今後は男の欲を隠さず口説かさてもらおうかな。」
と言って身を乗り出し、武姫を至近距離で見つめながらこう言ったのだ。
「俺はアリアを女としても気に入っているよ。
お前と最初に出会った時、その強さだけでなく、粗末な装備と思えぬ程美しく舞う姿にも強く惹かれた。
そんな相手とパーティを組んで隙を見せられたら、当然襲いたくなるだろうな。
だが安心しろ。
俺はアリアから同意の得られないことは決してしない。」
「お、お、襲っ・・・!」
武姫の顔が瞬時に真っ赤に染まった。
(ちょ、ちょっと待って!
今まで何度パーティに誘われても、そういうエ、エ、Hな感じのことだけは言ってこなかったのに・・・!
それって今までは私が男女の事柄に疎いからと遠慮して言わなかっただけってこと!?
だとすると、あちこちで耳にする彼の下賤な噂・・・
どうせ漆黒の風をやっかむ人達が面白おかしく広めてるだけだと思って今までは聞き流していたけれど・・・・・)
そう思った武姫は、口元に手を当て、神妙な顔で呟いた。
「やっぱりあの噂は本当なのかも・・・」
「俺の噂?どんな?」
それを聞き逃さなかった漆黒の風は、関心を示して口角を上げ、武姫に尋ねた。
「その・・・魔物から助けた女性から身体の報酬を受け取ったとか、同じ依頼にエントリーした女性冒険者と関係を持ったとか、女性関係のことばかり色々と・・・」
と遠慮がちに噂の内容を伝える武姫。
それを聞いた漆黒の風は、
「ふーん?
そんな噂をされているとは知らなかった。
まぁ確かに、魔物から助けた礼を身体で支払うと言われたり、同じ任務にエントリーした女冒険者から寝床へ誘われることはあるしな。」
と平然とした顔で言ってのけた。
武姫は自分に対して思わせぶりな事を言っておきながら、他の女性との関係を否定しない漆黒の風にカッとして、テーブルに手を突き席を立つとこう言った。
「やっぱり本当だったのね!
最っ低!!
夜の相手が欲しくて私をパーティに誘ってるなら他を当たってよ!
貴方、女の子なんて選り取り見取りなんでしょ!?」
漆黒の風は慌てて武姫の白い手を掴み、引き止めた。
「待て待て!
人の話を最後まで聞けアリア!
誘われるのは本当だが、アリアに最低呼ばわりされる覚えは全くないぞ!?
何故ならアリアに出会ってからは一度もその手の誘いに応じたことはないし、今後もそのつもりだからだ!」
彼の必死な様子に武姫は疑心を表情に残しながらも、
「・・・本当に・・・?
でも下心があって私をパーティに誘ってるんでしょ・・・?」
と尋ね、ストン・・・とまた席に着いた。
漆黒の風はそれにホッと小さくため息をつくと、こう返した。
「・・・アリアに対し下心があるのは否定しない。
だがそれ以前にお前を冒険者として対等と思うからこそパーティーに誘っている。
それに夜だって好きでもない女を相手にするより、お前で淫らな想像をして一人でするほうが余程いい。
まぁ実物が抱けるならそれに越したことはないが・・・?」
と、最後にニヤリといたずらっぽく微笑む漆黒の風。
それを聞いた武姫がボフッと顔を赤く染めて頭から蒸気を吹き出したのを見て、漆黒の風は口元に手を運び、嬉しそうにくくくっ!と笑った。
そしてその後武姫を真っすぐに見つめ、次第に真剣な表情になると、
「・・・お前は俺が初めて惚れた女なんだ・・・。
それを手放すような愚かなこと・・・俺は絶対にしない・・・。」
と言った。
武姫が彼の真剣な表情と、思いも寄らないタイミングでの告白に驚き戸惑い反応できずにいると、漆黒の風はふふっと笑い、表情を緩めてからこう言った。
「恋愛経験値がなさそうなお前に分かりやすく言うと、俺は童貞ではないが浮気はしないし、深い仲になった途端に捨てられるという心配も無用・・・そういうことだ。
言葉だけでは信用ができないなら、パーティを組む前に俺と寝てみるか?
別にそっちのテクに自信がある訳では無いが、アリアが相手ならうんと優しく丁寧に快楽へと導けるよう心がけるぞ?
それで俺の気持ちが本物だとわかってからパーティを組めばいい。
早速だがどうだ?今夜・・・」
そう言って頬杖をつき、色香を漂わせながら妖艶に微笑む漆黒の風。
(えっ、えっ、えっ・・・!?
漆黒の風、さっき私に惚れてるって言った!?
そ、それによ、よ、夜の誘いまで・・・!??
どどどどどうしよう・・・!!
こんなときどんな反応をすればいいの!??
仰る通り恋愛経験値が0の私に、今の誘いはレベルが高すぎるわよ馬鹿っ!!!)
武姫が真っ赤な顔で困惑し目を回しそうになっているのを見た漆黒の風は、またくつくつと笑って武姫の頭をぽんぽんと叩くとこう言った。
「・・・悪い・・・。
アリアが俺に対して思ったよりも脈があるのが嬉しくて、いきなり飛ばし過ぎた・・・。
さっきも言ったが、俺はお前から同意を得られないことは絶対にしないから安心しろ。
お前は男から性的なアプローチをかけられることにも慣れていないようだし、その辺も様子を見ながら少しずつにする。
だから気軽に俺とパーティを組むことを考えてくれないか?」
武姫は彼の言葉に安堵してホッと小さな溜め息をつくと、自分を優しく見つめてくるサックスブルーの瞳をじっと見つめ返しながら考えた。
(確かに・・・漆黒の風となら力の釣り合いが取れて、パーティとして成立するわ・・・。
並外れた強さを持つ彼なら、成長速度のことでやっかみを受けることも無いし、誰かとパーティを組み、仕事の幅を広げてみたい気持ちもある・・・。)
(でもパーティを組んで、さっきみたいにドキドキさせられ続けたら・・・?
私が必死に隠してる想いなんてあっという間に暴かれて、全部彼に絡め取られてしまう気がする・・・。
そうなったらきっと頭の中が彼で満たされて、父への恨みなんか何処かへ吹き飛んでしまうわ・・・。
彼とずっと一緒にいられるならそれでもいいのかもしれない。
でもさっき彼はそれを否定していたけれど・・・もし彼が私に冷めて、パーティを解散することになったら?
彼と今みたいなやり取りすらできなくなって、私はまた父への恨みを思い出し、今度こそ誰も心に寄せ付けず、孤独に生きていくことになるの・・・?
彼を信じたい・・・。
だけど人がいとも簡単に裏切る事を、私はよく知っている・・・。
そして心に深く入り込んだ人の裏切り程、大きな傷跡を残すの・・・。
もうあんな思いはしたくないし、彼との今の関係性も失いたくない・・・。
だから彼に踏み込むのが怖い・・・・・)
武姫がそんなことを思っている間に、壁に次々と新しい依頼書が貼られていく。
武姫は気持ちを切り替えるように頭を振ると、いつもの口調でこう言った。
「・・・やっぱり貴方みたいな女たらしとパーティを組むとかあり得ないから!
話に気を取られて忘れそうだったけど、私はここに次の仕事を探しに来たの。
邪魔しないでよね!」
武姫は席を立ち、マグカップを軽くゆすいでマジックバックに片付けると、たった今壁に貼られてばかりの依頼書の中から”ソロエントリー可”と書かれたものを中心に見ていった。
漆黒の風が武姫に続いて立ち上がるが、それを無視して依頼書を見ていく。
(ソロエントリーが可とされている依頼書は、全体の約3割程・・・。
やはりソロ冒険者は不利だわ・・・。)
だがそんな中、なかなかいい条件の依頼書を見つけた。
(・・・これいい!
サリナ村西の谷に現れるワイバーンの討伐依頼・・・
報酬もランクに影響するポイントも今張り出されているソロエントリー可の依頼の中では一番高いし、ワイバーン単体なら私一人でも対応出来る。)
武姫がその依頼書を手に取ると、スッと背後から逞しい腕が伸びてきて、それを奪い取られた。
武姫が振り返ると、そこには案の定意地悪に微笑む漆黒の風がいた。
「ふむ・・・ワイバーン討伐か。
それなら俺もこの依頼にエントリーして、アリアよりも先に達成しよう。」
「意地が悪いわよ漆黒の風・・・」
と恨めしそうに彼を振り返り睨む武姫。
「誰がどの依頼にエントリーしようと自由だろう?
だが俺とパーティを組むなら、アリアがメインで活躍出来るよう俺がサポートに回ってもいい。
そしたらお前に多く点数がいき、そのうち俺を抜いて念願のランク1位になれるんじゃないか?
勿論お前が1位になりたい理由に、俺が納得すればの話だが。」
とひらひらとその依頼書を弄ぶ漆黒の風。
「確かに私はランク1位になりたいわ!
でも貴方に手柄を譲られるのなんて嫌よ!
実力で奪わないと意味がないの!」
(そうじゃないと父を堂々と見返せない・・・!)
「もういい・・・その依頼は貴方に譲るわ!
私は別の依頼を探す!」
武姫はそう吐き捨てるとプンプンと怒ってそっぽを向いた。
「そうか。
それなら俺もこの依頼を受けるのはやめておこう。
ワイバーン単体の討伐なら、中堅程度のパーティでもこなせるだろうしな。」
漆黒の風はそう言いながら先程の依頼書を元の壁に貼り直した。
そして武姫に向き直るとニコッと微笑みこう言った。
「それで、今度はどの依頼にエントリーするつもりなんだ?
お前と同じ依頼に俺もエントリーするよ。」
「・・・貴方本当に意地が悪いわ・・・」
「何とでも言え。
それが嫌なら俺とパーティを組めばいい。」
「しつこい!」
二人が依頼書が張り出された壁の前でそんな毎度おなじみのやり取りをしていると、冒険者ギルドの受付嬢が一人こちらにやってきて声をかけてきた。
「あの・・・お話中にすみません。
漆黒の風さん、貴方に指名の依頼が来ているのですが、詳しくお話したいのでカウンターの奥に来て貰えます?」
漆黒の風は受付嬢を振り返るとこう尋ねた。
「俺指定の依頼?
急ぐ内容なのか?」
「いえ、任務自体は急ぎではないのですが、貴族様からのご依頼で、お引き受けいただけるかどうかすぐに返答が欲しいとのことでして・・・。」
「・・・わかった。」
漆黒の風はそう頷くと、チラッと名残惜しそうに武姫を見てから受付嬢について行った。
その場に一人残された武姫はこう思った。
(・・・やはりランク1位ともなると、貴族からの指名の依頼が入るようね。
でも急ぎの任務じゃないなら、依頼内容の確認が済んだらまたすぐにこっちに戻ってきて、私の選んだ依頼にエントリーを被せてくるんじゃないかしら。
何か漆黒の風に手柄を横取りされないような依頼があれば良いけど・・・)
武姫は、はぁ・・・とため息をつきながら何気なく見た先にあった依頼書に目が釘付けになった。
(これは・・・!
女性を含むパーティ限定の依頼で、高レベルの女性であればソロでのエントリーも可!
内容は・・・ヒートビーストの討伐か・・・。
まだ戦ったことがないけど、確か女性の肉を好み、女性にしか姿を見せないという魔獣よね?
成る程・・・それで女性を含むパーティに依頼が限定されているのね。
既に近隣の村人数名に被害が出ていて緊急性も高い・・・。
この依頼をこなしたところで、今の私と漆黒の風の点数差では私が彼を抜いて1位になることはない・・・。
それでもこの依頼が男の漆黒の風に横取りされないのは確かだわ!
これは絶対にエントリーしなくちゃ!)
武姫はその依頼書を剥がしてカウンターに向かった。
武姫がカウンターで自分の対応をしてくれた受付嬢がヒートビースト退治依頼の詳細が書かれた用紙を持ってくるのを待っていると、カウンターの奥でまだ貴族からの指名の依頼の説明を受けている漆黒の風と目があった。
武姫があっかんべーをしてやると、彼はくくくっと小さく笑ってからまた前に向き直り、説明の続きを受けていた。
とそこで武姫の対応をしている受付嬢が戻ってきてこう言った。
「お待たせしました武姫さん。
この依頼、確かに女性冒険者のソロエントリー可ですし、高レベルの武姫さんはエントリー条件を満たしています。
ですがこの魔獣の放つ催淫毒は強力で対応する解毒薬もありませんし、現段階では罹ってしまった女性をパートナーの男性が満足させることで症状が抜けるのを早める対処法しかなく、その対処がなされなければ3日間は酷い症状に苦しむ事になります。
なので武姫さんがお一人で挑まれるのは心配で・・・。
万が一のときのため、どなたか一時的でもいいので信頼のおける男性冒険者の方とパーティを組まれてみてはいかがですか?」
そう言われてみて武姫は漆黒の風をまたチラッと見るが、
(いやいや、ここで漆黒の風に協力を仰いでどうするのよ!
折角邪魔されずに一人で高ポイントを狙える依頼なのに、それじゃ意味がなくなるわ!)
と頭を振り、受付嬢にこう返した。
「私なら大丈夫よ。
俊敏さには自信があるし、奴の毒ブレスを躱せばいいだけだから。
もう既に被害も出ているのだし、これ以上広がらないうちに倒したほうがいいわ!
すぐに現場に向かうから、エントリーを受付けておいて!
お願いね!」
そう言い残し、武姫は冒険者ギルドを出て行った。
そこでカウンター近くの席にいたファンキーな髪型をしたガラの悪い男3人の冒険者パーティが、ヒソヒソと話を始めた。
『おい、今の聞いたか?
武姫一人で淫獣退治だってよ!』
と青髪モヒカンの細身の男が言った。
『グヘヘヘへ・・・あの清楚な武姫が催淫毒にやられたとことか想像したら堪らねぇぜ♥』
と少し太り気味の赤髪モヒカンが目をハートにした。
『お前毎晩武姫の姿絵見てうぜぇぐらいシコってるもんな!』
と青モヒカン。
『仕方ねぇだろぉ?
いっつもあの漆黒の風の野郎が付き纏ってやがって声もかけられねぇし、クソつえぇ武姫が相手じゃ一人になったところを襲うことも出来ねぇんだしよぉ!』
と悔しそうに不細工な顔を更に歪める赤モヒカン。
『くくっ!
その願望、実現できるチャンスかもしれねぇぜ?』
と左前頭部に蜘蛛のタトゥを入れたスキンヘッドが言った。
『『そいつはどういうことだ?
リーダー!?』』
と赤と青が揃って尋ねた。
リーダーと呼ばれたスキンヘッドはこう答えた。
『今すぐ武姫の後をつけて行って催淫毒にやられたトコを輪姦すんだよ!
武姫は毒ブレスを躱すと言っていたが、ヒートビーストが死に間際に放つブレスは広範囲に及び、そう躱せるものじゃねぇらしい。
確実に毒を食らうとみて間違いねぇぜ?』
『でもよ、リーダー。
武姫は勘が鋭そうだし、尾行に気づかれるんじゃねぇか?』
と青モヒカン。
『なぁに、心配いらねぇさ。
前に護衛した魔石商人からくすねた透明化魔石と、消音魔石を合わせて使えば、いくら武姫でも尾行に気づかれっこねぇ!
そうと決まれば見失わねぇうちに追いかけるぞ!』
『『おうとも!』』
そして男たちはアリアを追ってギルドを出ていった。
そんな男達を目の端で捉えた漆黒の風は、彼らの様子と出ていくタイミングからどうにも嫌な予感がし、自分指名の依頼の説明を続ける受付嬢の話を無視してスッと立ち上がると、大急ぎで男達を追ってギルドを出た!
しかしさっきギルドを出たばかりの筈の3人の姿は何処にもなく、険しい顔で立ち尽くす漆黒の風を、行き交う人々が不思議そうに見ていた。
漆黒の風はすぐにギルドに引き返すと、さっきまでアリアとやり取りをし、彼女のエントリー手続きをせっせと行っている受付嬢の所までツカツカと近付いて行き、腰に手を当て眉間にシワを寄せながらこう尋ねた。
「アリア・・・武姫はさっき何の依頼にエントリーした?」
「えっ・・・漆黒の風さん!?
ヒートビースト退治ですけど・・・?」
と受付嬢は答えた。
「あの淫獣退治を一人でだと!?
場所は何処だ!!」
漆黒の風は物凄い剣幕で受付嬢に詰め寄った。
「で、でもその依頼はソロの女性、または女性を含むパーティ限定の依頼ですし、催淫毒に侵された女性を狙う悪漢が現れる可能性がありますので、エントリーされていない方に詳しい場所等の情報をお教えするわけには・・・」
と受付嬢。
「そんなことはわかっている!
だがさっき武姫の後を追ってガラの悪い3人組が出ていくのを見た!
恐らくあんたが言った強姦目的だ!
武姫をつければ場所が公表されずとも問題無いからな。
だからさっき俺はすぐに奴らの後を追おうとしたが、奴ら・・・恐らくは透明魔石を使って姿を消したのだろう・・・。
消息を追えなかった・・・。
このままではアリアが危険だ!
すぐに追うから早く場所を教えろ!!」
5時間後─。
武姫はヒートビーストが出没したおおよその地点まで到着していた。
そこは森の中ではあったが、街道が近い為か比較的見晴らしが良かった。
(確かこの辺りよね?
ギルドで教えて貰ったヒートビーストの出現地点って・・・。
奴は獲物を捉えるとき以外は目くらましの魔法を使って姿を隠すそうだけど、今の所はそれらしい気配は感じない・・・。
この辺り一帯やけに静かで、逆に不自然な気もするけど・・・。
とにかくここで待ってみましょう・・・)
武姫がそう思い近くにあった木に凭れかかったところで、木の幹がぐにゃりと歪んだ!
武姫はハッとして木から飛び退き距離を取った。
そのぐにゃりと歪んだ空間が段々と灰色の塊へと変わっていき、やがて熊くらいの大きさの猿のような獣の形となった。
依頼書に描かれてあったヒートビーストのイラストと眼の前にいる魔獣の姿が一致した武姫は、
「出たわねヒートビースト!」
と声を上げると同時に剣を抜き構えた。
ヒートビーストは武姫に向けてニタァと笑うと、催淫毒のブレスを吐いてきた!
武姫はそのブレスをさっと躱した。
続けてヒートビーストの足元へ潜り込むと、脛を払った!
(一撃では仕留められそうにない大型の魔獣は、まず足を狙う!
行動の自由を奪えばその後の対処がしやすくなるから!)
武姫の下段攻撃は見事にヒートビーストにヒットした!
「ギャアアァーーー!」
脛から血を流し、悲鳴を上げるヒートビースト。
武姫はさっと距離を取り身構え、相手の次の出方を待つことにした。
(最初のブレスからどのくらいのインターバルで次を吐けるのかわからないし、今は迂闊にしかけないほうがいい。
相手の攻撃パターンを把握すれば、こちらから仕掛けるチャンスがある筈・・・!)
続けてヒートビーストは続けて武姫を捕まえようと突進して来た。
だが、
(足を負傷して動きが鈍いわ!
これなら楽に躱せる!)
とあっさりそれを躱す武姫。
その瞬間、ヒートビーストの胸ががら空きになった!
(チャンス・・・!)
武姫は即座にその胸元に剣を突き刺した!
「ギャアアアアーーーーー!!!」
ヒートビーストは苦しそうに悲鳴を上げた!
(今のは手応えがあった!
後は充分な距離を取って、相手が完全に息絶えるまで様子を見て・・・)
と武姫が思ったその時である。
ヒートビーストの身体が突然大きく膨らんだかと思うと、まるで爆発するかのように一気に大量の毒が吹き出したのだ!
武姫は咄嗟に飛んで距離を取ろうとしたが、毒ブレスが広がる速度のほうがそれよりも早く、武姫の全身は催淫毒ブレスに包まれてしまった!
(しまった!!)
武姫は咄嗟に催淫毒を吸わないよう口元を塞いだ。
しかし─
(うそ…!
この毒、目からも浸透するの!?
胸が苦しい・・・
身体の力も抜けて・・・)
と、ついに武姫は地面に膝をついてしまった。
催淫毒のブレスが消えて視界がクリアになったときには、ヒートビーストは息絶えたのか、動かなくなっていた。
(さっきのは死に間際の攻撃だったようね・・・。
でもどうしよう・・・。
催淫毒に侵されてしまった・・・)
武姫は、
“この魔獣の放つ催淫毒は強力で、対応する解毒薬もありませんし、現段階では罹ってしまった女性をパートナーの男性が満足させることで症状が抜けるのを早める対処法しかなく、その対処がなされなければ3日間は酷い症状に苦しむ事になります“
という受付嬢の説明を思い出し、冷や汗を垂らした。
(とりあえず動けるうちに、ヒートビーストの死骸だけでも片付けておかないと、血の匂いで他の魔物を呼び寄せてしまうわ・・・。
この状態では雑魚と遭遇しても殺されかねないし、戦闘は回避しないと・・・)
武姫はフラフラしながらヒートビーストの死骸の元まで歩くと、マジックバックの魔石に触れてから亜空間ホールを作り出した。
そしてその中に何とか死骸を収納し終えると、その場にへたり込んだ。
(これでOK・・・。
でも更に毒が回ってきたわ・・・。
早くリスベルに帰って、お医者さんに診て貰わないと・・・)
武姫がはぁ、はぁと熱い吐息を吐きながら、マジックバックから記憶した場所まで一瞬で転移する力を持つ転移魔石を取り出したその時である。
「帰ろうったってそうはさせないぜぇ?
武姫~~~♡♥」
という声がして背後から手を叩かれて衝撃が走り、持っていた転移魔石を落としてしまった。
武姫がビクッとして声のした方向を振り返ると、そこには額に蜘蛛のタトゥを入れたスキンヘッドの男を中心に、左に痩せ型の青のモヒカン男、右に太った赤のモヒカン男の3人の冒険者が立っていた。
(・・・彼らは確か、ギルドでよく見かける・・・。
特に赤い髪の太った男は私のことをいつも気持ち悪い目で見てくるから印象に残ってる・・・。
このタイミングで現れるということは、まさか跡をつけて来た・・・?
でも足音が全く聞こえなかったわ・・・)
武姫は冷や汗を垂らすと3人の男を警戒して睨んだ。
「そんな怖い目で睨まなくてもいいだろ?
武姫さんよぉ。
あの淫獣をあっさり倒しちまうとは、流石ランク2位は伊達じゃねぇな!」
と3人のリーダーのスキンヘッドが言った。
「だがリーダーの言った通り、武姫でも奴の死に間際の毒は躱せなかったようだぜ?
顔中真っ赤に染まってフラフラだ!」
と青モヒカン。
「なぁ武姫ぃ♡
催淫毒にやられてあそこが疼いて苦しいんだろ?
大丈夫大丈夫ぅ♥
俺達、その毒によぉく効く肉の棒を持ってるからよぉ♥」
そう言って赤モヒカンが自らの股間辺りを指差した。
男性経験が無い武姫にははっきりとしたことは解らなかったが、どうやら赤モヒカンの股間は性的に興奮し、既に勃起しているようだった。
武姫は青ざめ、剣の柄に手を掛けた。
(こいつら強姦目的・・・!!
どうにかして追い払わないと酷い目に遭わされるわ・・・!
普段ならこいつら程度どうってことないけど、今の状態でやれる・・・・・!?)
武姫は緊張からゴクッと喉を鳴らした。
「ほぉ・・・剣を抜こうってか。
勇ましいねぇ。
だがそんなフラフラの状態で男3人に敵うと思ってんのか?」
そう言いながらスキンヘッドは武姫の腕をグッと掴み、剣を取り上げた。
「くっ・・・!」
毒が効いている為殆ど力が入らず動きも鈍っている武姫は、あっさりとそれを許してしまった。
「さぁて野郎共、お待ちかねのお楽しみの時間だ!
手を押さえててやるから赤、お前が1番でいいぜ?」
スキンヘッドはそう言いながら武姫の腰を捕まえて、その華奢な身体を自分の下へと引き寄せて脇に手を回し、両腕が動かせないようにしっかりと固定した。
「うっひょ~~~♥
リーダー、マジでいいんすか!?」
「おう。
お前の念願の女だしな。
だがお前のザーメンプールに突っ込むのは気が進まねぇから、必ず外に出せよ?」
とリーダー。
「へへへっ、わかってやすって!!」
「嫌ぁ!!
離して!!」
武姫は叫び、足を精一杯に動かして抵抗しようとした。
「おーおー!
毒にやられてる癖して元気な足だな。
おい青!
お前は足を押さえてやれ!」
「ヘイ、リーダー!」
青モヒカンが暴れる武姫の足を捕まえて押さえつけた。
一切の抵抗が出来なくなった武姫の顔がますます恐怖の色に染まった。
「げへへへへっ♥
そんじゃまずは脱がしちゃおっと♡」
赤モヒカンはそう言って舌なめずりをすると、武姫の鎧に手を掛けた。
武姫は恐怖のあまりギュッと硬く目を閉じた。
そして毒のせいで熱く蕩けた身体が徐々に外気に晒されていく感覚が否応なく伝わってきて、もうすぐ犯されてしまうという恐怖からガタガタと身体が震え始めた。
「うっひょ~~~っ!
武姫の乳首、綺麗なピンク~♡
なのに初心なあそこがぬるっぬる~♥
このアンバランスさが堪らねぇ~~~♡♥」
「本当は全身ねちっこく舐め回したいけどよぉ、もうたまんねぇから先にハメちまおっと♥
これだけ濡れてりゃ前戯無しでも余裕だよなぁ♥」
と赤モヒカンが歓喜の声を上げながらベルトをカチャカチャと外し、一気にボトムスを下ろした。
目前に赤黒く熱り勃った男性器が晒され、武姫は顔を更に青く染めて頭を振った。
(やだ・・・!
絶対にやだっ・・・!!
このまま犯されるなんて冗談じゃない!!
こんな奴に初めてを散らされるくらいなら、漆黒の風の誘いに乗ってパーティを組んで、父への恨みも忘れて彼と恋・・・をして、初めてを捧げてみれば良かった・・・・・・・・)
武姫は漆黒の風がいつも自分に向けてくれている屈託のない笑顔を思い浮かべて、碧い瞳に涙を浮かべた。
「・・・武姫ったら泣いてんのぉ?
大丈夫ぅ♥
俺のぶっといチン◯、最初は痛いかもしんないけどぉ、すぐに気持ち良くなって大好きになるからさぁ♡♥」
「んじゃ、いっただっきま~~~す♥♡♥」
赤モヒカンがそう言いながらイチモツを手で支え、ぐっと腰を沈めようとしたその時である。
黒い風がヒュン!と目の前を過ぎったかと思うと、武姫に覆いかぶさっていた筈の赤モヒカンの姿が消えており、代わりに険しい顔をした漆黒の風が黒いマントを靡かせて立っていた。
「漆黒の風・・・?」
この『武姫と漆黒の風』[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで 前後編]は、既に公開済みの[冒険の書1~3]を近々コミカライズしようと思い新たに立て直したプロットを、更に小説として手直ししたものとなります。
そのため既に公開済みの[冒険の書1~3]とこの[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで 前後編]はほぼ同じ内容となりますが、ヒロイン&ヒーロー以外の登場人物が変わっていたり、他にも色々な初期設定が変更され、今後もこの設定でお話を書き進めていきたいと思いますので、過去投稿しました[冒険の書1~3]を[旧版]とし、この[冒険の書1 冒険者ランキング1位と2位の最強パーティが結成するまで]を追加で公開することにしました。
ですが[旧版 冒険の書1~3]を気に入ってブクマしてくださった方もいらっしゃいましたので、そちらもそのまま残しておくことにします。
この[冒険の書1]は、[旧版 冒険の書1~3]とほぼ同じ展開のため挿絵は省略させて頂きましたが、[冒険の書2]からはまた挿絵を描いていけたらと思います。
どうぞよろしくお願い致します!
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─冒険者ランキング2位の私が、冒険者ランキング1位でありライバルの彼に一晩中激しく抱かれることになるなんて・・・
その日の朝には思いもしなかった─
魔物が蔓延るこの世界には、武技や魔法を駆使して魔物と戦うことを生業とする冒険者という職業の者たちが存在した。
ここリスべルは、そんな冒険者達の活動拠点の一つとして知られる町である。
アリア・スフィール。
16歳。
彼女は陶器のように白くきめ細かな肌にサファイアのように美しい碧眼、更には絹糸のように煌めく金の長い髪に薄紅色のふっくらとした艷やかな唇、そして細くてしなやかな体躯を持つ、大変美しい冒険者だった。
だが彼女はその見た目からは想像が出来ない程の天才的な武における成長速度を持ち、レベル、実績、魔物の撃破点数等から割り出されるこの国の冒険者ランキング2位の座まであっという間に到達し、リスベルの町の者たちからは武神に愛されし姫という意で“武姫”と呼ばれていた。
良く晴れた日の朝、
「ありがとうございましたー!」
という店員の声とカランカラン♪というドアベルの音に見送られながら、武姫はいつも朝食を食べているカフェを後にした。
そのカフェの正面には、石造りの大きな建物、冒険者ギルドがあった。
武姫はそちらに向かって歩きながら思考した。
(依頼へのエントリーは早い者順で受理され、募集定員に達すれば締め切られてしまう。
だから開所してすぐに冒険者ギルドへ顔を出すのが私の日課─。)
武姫は辿り着いた冒険者ギルドの扉を開けた。
(今日こそは彼に邪魔されずにいい任務につけると良いけれど・・・)
冒険者ギルドの中は、正面に依頼へのエントリーを受け付けるカウンター、向かって左の壁に依頼書が貼り出される壁があり、右側にはランキング表やギルドからのお知らせや逃亡中の罪人の手配書が貼られ、カウンターへと向かう通路の脇に、多人数用や少人数用のテーブルと椅子が多数配置され、既に何名かの冒険者達が座っていた。
依頼の張り紙が行われる壁の傍に二人がけのテーブル席が空いているのを見つけた武姫は、物を圧縮する魔法がかけられた冒険者御用達のマジックバックからマグカップを取り出して、近くにある無料ドリンクが置かれた台からアールグレイのティーバッグを一つ取り、お湯を注いで少し待ち、ティーバッグを所定の容器に捨ててからそこに座った。
(ここで紅茶を飲みながら、新しい依頼書が貼り出されるのを待ちましょう。)
武姫が香りを楽しみながら紅茶を一口飲んだところでギルドの扉が開き、彼女にとってはお馴染みの人物が姿を現した。
その人物はスラリと背が高く程よく筋肉のついた青年で、黒灰色の鎧と表地は黒、裏地が青いマントを身に纏い、腰には東の国の”刀”と呼ばれる剣を下げていた。
彼はこの国では珍しい少し癖のある漆黒の髪を持ち、瞳はアリアよりも少し淡いサックスブルー、顔立ちは女性であれば皆見惚れてしまう程に整っていた。
彼はギルド内部にいる冒険者達の中から武姫の姿を見つけると嬉しそうに微笑み、彼女の席へと向かって歩いて来た。
(今日も現れたわね、私のライバル・・・。
漆黒の髪を持ち、その太刀筋が風のように鋭く見えないことから”漆黒の風”という異名を持つ彼は、ここ数年ランク1位の座を不動のものとしている最強の冒険者・・・。
彼を超え、1位の座につくのが私の目標だ。
地位のない冒険者でも、1位なら王族貴族から一目置かれる存在となる。
そうなることで武姫の異名は全国へと轟き、お母様を過労死に追い込み、私を金策のため変態貴族の元へと売ろうとした父の耳にも届くことになり、見返してやれる筈だから・・・。
2位ではリスベルの外にまで名を知られることはなく、私の目的は果たせない・・・。
だから私は貴方の持つ1位の座が欲しい・・・。)
彼は武姫がそんなことを思っているとは露知らず、マイカップにブラックコーヒーを注ぐと、さも当然のように彼女と向かいの席に座った。
武姫はそんな彼に対し頬を少し染めて口元を波打たせ、複雑な心境を露わにした。
(それなのに当の漆黒の風はというと─)
「おはようアリア。
なぁ、やはり俺達パーティを組まないか?
それで俺と同じ宿に移って来いよ。
そしたらアリアの好きなふわとろオムレツを毎朝ごちそうするぞ?
俺、料理は得意なんだ♪」
(なんて言って、顔を合わせるたびに私をパーティに誘ってくる、鬱陶しいけど昔受けた恩もあって邪険に出来ない相手なのよね・・・)
「結構よ。
それより何故漆黒の風が私の好物を知っているのよ。」
とつっけんどんに返す武姫。
「アリア行きつけのカフェの店員に訊いたら教えてくれたよ。」
それを聞いて武姫は数日前、行きつけのカフェで漆黒の風に話しかけられたウエイトレスが、
「キャーッ♥
あの漆黒の風さんがうちの店に!?」
と歓喜の声をあげ、こちらを見ながらぺらぺらと何かを話していたのを目撃したことを思い出した。
(あぁ・・・
あの時のあれかしら・・・)
「お前、朝は決まってふわとろオムレツプレートを頼むんだろ?
同じものを頼んだら確かに美味かったが、俺のオムレツはもっとふわとろだぞ?
食ってみたくないか?」
武姫はそれに対してツンと澄ました態度でこう返した。
「どんな特典を用意したって返事は同じよ漆黒の風。
それにアリアだなんて馴れ馴れしく呼ばないでくれる?」
「何故?
武姫なんて可愛げのない異名で呼ばれても嬉しくないだろ?
それに俺のことも名前で呼べと言ったはずだ。
スヴァルト・ビンド・・・ヴァルでいい。」
そう言って彼はしなやかな黒髪を揺らし、サックスブルーの瞳を細めながら武姫の顔を覗き込んだ。
彼の綺麗な顔が急に接近してドキッとした武姫はまた頬を染め、それを悟られないようそっぽを向いた。
「嫌よ、漆黒の風。」
「・・・相変わらずつれないな・・・。
もう一度言う。
パーティを組もうアリア。」
「嫌って言ってるでしょ!
貴方、私が前にいたパーティでどんな扱いを受けていたか知っているでしょ?
あんな思いをするくらいなら、ずっとソロでやっていくって決めたんだから・・・」
武姫はそう言いながら、昔のことを思い出した。
(12歳の頃、父により変態貴族の元へと売られていく途中何とか逃げ出した私は、ある冒険者に出会い王都(※この国の首都でここを拠点にしている冒険者も多い)まで送ってもらったのを切っ掛けに、冒険者になる道を選んだ。
冒険者には魔物対策のために国王により特別な法が設けられていて、未成年者でもなることが出来て自由意志を尊重されるから、例え父に見つかってもあの家に戻る事を拒否出来るとその冒険者に教えてもらったからだ。
でも私は子供だったから、ギルドの紹介である冒険者パーティに加えて貰うことになった。
そのパーティは家族的な雰囲気で皆優しかった。
でも数年後に私がパーティリーダーより強くなってしまったことを切っ掛けに皆の態度が一変。
私はパーティ内で一人で危険を引き受けさせられ、でも点数と報酬と衣食住は最低限しか貰えない・・・そんな半ば奴隷のような扱いを受けるようになった・・・。
その地獄から救い出してくれたのが、その当時からランク1位の座に君臨し、たまたま同じ任務にエントリーしていた漆黒の風だった。
今までも私のパーティ内での扱いを知り、心配してくれる人達はいた。
でもああして迷わずに行動に移してくれたのは、彼だけだったわ・・・。
そしてその時に私は彼のことを・・・・・)
武姫はその時彼が自分に向けてくれた優しい笑顔を思い出してから、チラッと目の前に座る漆黒の風を見た。
するとこちらの様子を観察していた彼と目が合ってしまい、恥ずかしくなってツン!とまた澄ました態度を取った。
(駄目よ!
こんな想いはランク1位になる目的の邪魔になるだけ・・・!
でも私はあの時に受けた恩を、未だに彼に返せないでいるのよね・・・。
その理由は、あのパーティからの離脱手続きを終えたあと─)
続けて武姫は、前パーティからの離脱手続きを終えた直後の彼とのやり取りを振り返った。
「─これでお前は晴れて自由の身になれたわけだが・・・今度は俺とパーティを組まないか?」
(漆黒の風はそう言って微笑み手を差し伸べてくれた。
だけど元パーティでの経験がトラウマになっていた私は誰かとパーティを組むことを恐れ、その誘いを断りソロの道を選んだ・・・。
いくらかソロでの活動に慣れてきた頃、金品で彼への恩を返そうとしたけど、
「恩を返したいと思うなら、俺とパーティを組んでくれ。」
の一点張りで、何一つ受け取ってはくれなかったからだ・・・。
それからも顔を合わせる度にパーティに誘われるけど、私は今もそれを断り続けている・・・。
勿論最強冒険者の彼にパーティへ誘われることは光栄に思う・・・。
だけど・・・)
漆黒の風は先程の武姫の言葉に対してこう返事をした。
「─それを言うなら俺だって、並み外れて高い戦闘力の所為でやっかまれ、昔いたパーティでは奴隷扱いだったさ。
そこを抜けて以来ずっとソロでやってきたが、ソロではエントリー出来る依頼も少なく限界を感じていた。
かと言って昔のような思いを繰り返してまで適当な奴らとパーティを組みたくはなかったし、何処かに俺とパーティが組めそうな強者はいないかとずっと探していたんだ。
そんな時、お前と出会ってやっと見つけたと思った。
本当の仲間になれる奴をな。」
彼はそこでコーヒーを一口飲み、また続けた。
「だがあの時のアリアは昔の俺と同じような状況に置かれていたし、まずはそこから救い出すことが先決だと、お前をあのパーティから抜けさせる手助けをしたんだ。
アリアが昔のことでパーティというものを信じられなくなっているのはわかる。
だが、常人離れした者同士ならやっかみ合うこともないし、互いを高めあっていくことも出来るだろ?
パーティを組むなら唯一無二の存在だと思うがな。
なのに何故俺の誘いを拒む?
前パーティでのこと以外に、何か理由があるんじゃないのか?
もう1年も誘いを断られ続けて、俺も流石にしびれを切らしてきたんだ・・・。
それを聞くまでは、今日は引き下がらるつもりはない。」
武姫は彼のいつになく真剣な様子にキュッと口元を引き結ぶと、
(確かに最近、簡単には引き下がってくれなくなって来ていたものね・・・。
仕方がない・・・。
恥ずかしいけれど、あれを言うしかなさそうね・・・・・)
と観念し、彼に誂われるのが嫌でずっと言わずにいた彼の誘いを拒むもう一つの理由を、真っ赤に染まった顔でゆっくりと口にし始めた。
「だ、だって・・・自意識過剰だって貴方は笑うかもしれないけれど・・・
貴方と2人きりのパーティでしょ・・・?
恋人同士でもないのに一緒に旅をするなんて、万が一変な気分になられでもしたら、その・・・・・困るもの・・・・・・・・」
それを聞いた漆黒の風は、
「・・・驚いた。
まさかアリアがそこに気がついていようとは・・・!」
と最初は目を見開いて驚き、最後には口元に手を運んでくくくくくっ!と楽しそうに笑い出した。
「な、何よ・・・馬鹿にしてるの!?
私だって16よ!?
それくらいのこと知ってて当然でしょ!」
と思わずテーブルに手を付き、声を荒げる武姫。
漆黒の風はまだ笑いながらも武姫に向かって手をかざし、
「すまない・・・!
アリアは前パーティで置かれていた立場から、男女の事柄にはもっと疎いとばかり・・・」
と言った。
「確かに貴方に助けてもらった時の状況を見ればそう思われても仕方がないわ。
でもパーティの皆との関係性が悪化する前に、治癒師の女性が教えてくれたのよ。
それに亡くなる前の母もそれとなくね。
最もあの頃は小さすぎて良くわからなかったけれど、治癒師の人が言っていることを聞いたときに母の言っていたことと繋がって、そういうことなんだって理解ができたわ。」
と武姫。
漆黒の風はそれを聞いてふふっと表情を緩めると、
「そうか・・・。
それなら今後は男の欲を隠さず口説かさてもらおうかな。」
と言って身を乗り出し、武姫を至近距離で見つめながらこう言ったのだ。
「俺はアリアを女としても気に入っているよ。
お前と最初に出会った時、その強さだけでなく、粗末な装備と思えぬ程美しく舞う姿にも強く惹かれた。
そんな相手とパーティを組んで隙を見せられたら、当然襲いたくなるだろうな。
だが安心しろ。
俺はアリアから同意の得られないことは決してしない。」
「お、お、襲っ・・・!」
武姫の顔が瞬時に真っ赤に染まった。
(ちょ、ちょっと待って!
今まで何度パーティに誘われても、そういうエ、エ、Hな感じのことだけは言ってこなかったのに・・・!
それって今までは私が男女の事柄に疎いからと遠慮して言わなかっただけってこと!?
だとすると、あちこちで耳にする彼の下賤な噂・・・
どうせ漆黒の風をやっかむ人達が面白おかしく広めてるだけだと思って今までは聞き流していたけれど・・・・・)
そう思った武姫は、口元に手を当て、神妙な顔で呟いた。
「やっぱりあの噂は本当なのかも・・・」
「俺の噂?どんな?」
それを聞き逃さなかった漆黒の風は、関心を示して口角を上げ、武姫に尋ねた。
「その・・・魔物から助けた女性から身体の報酬を受け取ったとか、同じ依頼にエントリーした女性冒険者と関係を持ったとか、女性関係のことばかり色々と・・・」
と遠慮がちに噂の内容を伝える武姫。
それを聞いた漆黒の風は、
「ふーん?
そんな噂をされているとは知らなかった。
まぁ確かに、魔物から助けた礼を身体で支払うと言われたり、同じ任務にエントリーした女冒険者から寝床へ誘われることはあるしな。」
と平然とした顔で言ってのけた。
武姫は自分に対して思わせぶりな事を言っておきながら、他の女性との関係を否定しない漆黒の風にカッとして、テーブルに手を突き席を立つとこう言った。
「やっぱり本当だったのね!
最っ低!!
夜の相手が欲しくて私をパーティに誘ってるなら他を当たってよ!
貴方、女の子なんて選り取り見取りなんでしょ!?」
漆黒の風は慌てて武姫の白い手を掴み、引き止めた。
「待て待て!
人の話を最後まで聞けアリア!
誘われるのは本当だが、アリアに最低呼ばわりされる覚えは全くないぞ!?
何故ならアリアに出会ってからは一度もその手の誘いに応じたことはないし、今後もそのつもりだからだ!」
彼の必死な様子に武姫は疑心を表情に残しながらも、
「・・・本当に・・・?
でも下心があって私をパーティに誘ってるんでしょ・・・?」
と尋ね、ストン・・・とまた席に着いた。
漆黒の風はそれにホッと小さくため息をつくと、こう返した。
「・・・アリアに対し下心があるのは否定しない。
だがそれ以前にお前を冒険者として対等と思うからこそパーティーに誘っている。
それに夜だって好きでもない女を相手にするより、お前で淫らな想像をして一人でするほうが余程いい。
まぁ実物が抱けるならそれに越したことはないが・・・?」
と、最後にニヤリといたずらっぽく微笑む漆黒の風。
それを聞いた武姫がボフッと顔を赤く染めて頭から蒸気を吹き出したのを見て、漆黒の風は口元に手を運び、嬉しそうにくくくっ!と笑った。
そしてその後武姫を真っすぐに見つめ、次第に真剣な表情になると、
「・・・お前は俺が初めて惚れた女なんだ・・・。
それを手放すような愚かなこと・・・俺は絶対にしない・・・。」
と言った。
武姫が彼の真剣な表情と、思いも寄らないタイミングでの告白に驚き戸惑い反応できずにいると、漆黒の風はふふっと笑い、表情を緩めてからこう言った。
「恋愛経験値がなさそうなお前に分かりやすく言うと、俺は童貞ではないが浮気はしないし、深い仲になった途端に捨てられるという心配も無用・・・そういうことだ。
言葉だけでは信用ができないなら、パーティを組む前に俺と寝てみるか?
別にそっちのテクに自信がある訳では無いが、アリアが相手ならうんと優しく丁寧に快楽へと導けるよう心がけるぞ?
それで俺の気持ちが本物だとわかってからパーティを組めばいい。
早速だがどうだ?今夜・・・」
そう言って頬杖をつき、色香を漂わせながら妖艶に微笑む漆黒の風。
(えっ、えっ、えっ・・・!?
漆黒の風、さっき私に惚れてるって言った!?
そ、それによ、よ、夜の誘いまで・・・!??
どどどどどうしよう・・・!!
こんなときどんな反応をすればいいの!??
仰る通り恋愛経験値が0の私に、今の誘いはレベルが高すぎるわよ馬鹿っ!!!)
武姫が真っ赤な顔で困惑し目を回しそうになっているのを見た漆黒の風は、またくつくつと笑って武姫の頭をぽんぽんと叩くとこう言った。
「・・・悪い・・・。
アリアが俺に対して思ったよりも脈があるのが嬉しくて、いきなり飛ばし過ぎた・・・。
さっきも言ったが、俺はお前から同意を得られないことは絶対にしないから安心しろ。
お前は男から性的なアプローチをかけられることにも慣れていないようだし、その辺も様子を見ながら少しずつにする。
だから気軽に俺とパーティを組むことを考えてくれないか?」
武姫は彼の言葉に安堵してホッと小さな溜め息をつくと、自分を優しく見つめてくるサックスブルーの瞳をじっと見つめ返しながら考えた。
(確かに・・・漆黒の風となら力の釣り合いが取れて、パーティとして成立するわ・・・。
並外れた強さを持つ彼なら、成長速度のことでやっかみを受けることも無いし、誰かとパーティを組み、仕事の幅を広げてみたい気持ちもある・・・。)
(でもパーティを組んで、さっきみたいにドキドキさせられ続けたら・・・?
私が必死に隠してる想いなんてあっという間に暴かれて、全部彼に絡め取られてしまう気がする・・・。
そうなったらきっと頭の中が彼で満たされて、父への恨みなんか何処かへ吹き飛んでしまうわ・・・。
彼とずっと一緒にいられるならそれでもいいのかもしれない。
でもさっき彼はそれを否定していたけれど・・・もし彼が私に冷めて、パーティを解散することになったら?
彼と今みたいなやり取りすらできなくなって、私はまた父への恨みを思い出し、今度こそ誰も心に寄せ付けず、孤独に生きていくことになるの・・・?
彼を信じたい・・・。
だけど人がいとも簡単に裏切る事を、私はよく知っている・・・。
そして心に深く入り込んだ人の裏切り程、大きな傷跡を残すの・・・。
もうあんな思いはしたくないし、彼との今の関係性も失いたくない・・・。
だから彼に踏み込むのが怖い・・・・・)
武姫がそんなことを思っている間に、壁に次々と新しい依頼書が貼られていく。
武姫は気持ちを切り替えるように頭を振ると、いつもの口調でこう言った。
「・・・やっぱり貴方みたいな女たらしとパーティを組むとかあり得ないから!
話に気を取られて忘れそうだったけど、私はここに次の仕事を探しに来たの。
邪魔しないでよね!」
武姫は席を立ち、マグカップを軽くゆすいでマジックバックに片付けると、たった今壁に貼られてばかりの依頼書の中から”ソロエントリー可”と書かれたものを中心に見ていった。
漆黒の風が武姫に続いて立ち上がるが、それを無視して依頼書を見ていく。
(ソロエントリーが可とされている依頼書は、全体の約3割程・・・。
やはりソロ冒険者は不利だわ・・・。)
だがそんな中、なかなかいい条件の依頼書を見つけた。
(・・・これいい!
サリナ村西の谷に現れるワイバーンの討伐依頼・・・
報酬もランクに影響するポイントも今張り出されているソロエントリー可の依頼の中では一番高いし、ワイバーン単体なら私一人でも対応出来る。)
武姫がその依頼書を手に取ると、スッと背後から逞しい腕が伸びてきて、それを奪い取られた。
武姫が振り返ると、そこには案の定意地悪に微笑む漆黒の風がいた。
「ふむ・・・ワイバーン討伐か。
それなら俺もこの依頼にエントリーして、アリアよりも先に達成しよう。」
「意地が悪いわよ漆黒の風・・・」
と恨めしそうに彼を振り返り睨む武姫。
「誰がどの依頼にエントリーしようと自由だろう?
だが俺とパーティを組むなら、アリアがメインで活躍出来るよう俺がサポートに回ってもいい。
そしたらお前に多く点数がいき、そのうち俺を抜いて念願のランク1位になれるんじゃないか?
勿論お前が1位になりたい理由に、俺が納得すればの話だが。」
とひらひらとその依頼書を弄ぶ漆黒の風。
「確かに私はランク1位になりたいわ!
でも貴方に手柄を譲られるのなんて嫌よ!
実力で奪わないと意味がないの!」
(そうじゃないと父を堂々と見返せない・・・!)
「もういい・・・その依頼は貴方に譲るわ!
私は別の依頼を探す!」
武姫はそう吐き捨てるとプンプンと怒ってそっぽを向いた。
「そうか。
それなら俺もこの依頼を受けるのはやめておこう。
ワイバーン単体の討伐なら、中堅程度のパーティでもこなせるだろうしな。」
漆黒の風はそう言いながら先程の依頼書を元の壁に貼り直した。
そして武姫に向き直るとニコッと微笑みこう言った。
「それで、今度はどの依頼にエントリーするつもりなんだ?
お前と同じ依頼に俺もエントリーするよ。」
「・・・貴方本当に意地が悪いわ・・・」
「何とでも言え。
それが嫌なら俺とパーティを組めばいい。」
「しつこい!」
二人が依頼書が張り出された壁の前でそんな毎度おなじみのやり取りをしていると、冒険者ギルドの受付嬢が一人こちらにやってきて声をかけてきた。
「あの・・・お話中にすみません。
漆黒の風さん、貴方に指名の依頼が来ているのですが、詳しくお話したいのでカウンターの奥に来て貰えます?」
漆黒の風は受付嬢を振り返るとこう尋ねた。
「俺指定の依頼?
急ぐ内容なのか?」
「いえ、任務自体は急ぎではないのですが、貴族様からのご依頼で、お引き受けいただけるかどうかすぐに返答が欲しいとのことでして・・・。」
「・・・わかった。」
漆黒の風はそう頷くと、チラッと名残惜しそうに武姫を見てから受付嬢について行った。
その場に一人残された武姫はこう思った。
(・・・やはりランク1位ともなると、貴族からの指名の依頼が入るようね。
でも急ぎの任務じゃないなら、依頼内容の確認が済んだらまたすぐにこっちに戻ってきて、私の選んだ依頼にエントリーを被せてくるんじゃないかしら。
何か漆黒の風に手柄を横取りされないような依頼があれば良いけど・・・)
武姫は、はぁ・・・とため息をつきながら何気なく見た先にあった依頼書に目が釘付けになった。
(これは・・・!
女性を含むパーティ限定の依頼で、高レベルの女性であればソロでのエントリーも可!
内容は・・・ヒートビーストの討伐か・・・。
まだ戦ったことがないけど、確か女性の肉を好み、女性にしか姿を見せないという魔獣よね?
成る程・・・それで女性を含むパーティに依頼が限定されているのね。
既に近隣の村人数名に被害が出ていて緊急性も高い・・・。
この依頼をこなしたところで、今の私と漆黒の風の点数差では私が彼を抜いて1位になることはない・・・。
それでもこの依頼が男の漆黒の風に横取りされないのは確かだわ!
これは絶対にエントリーしなくちゃ!)
武姫はその依頼書を剥がしてカウンターに向かった。
武姫がカウンターで自分の対応をしてくれた受付嬢がヒートビースト退治依頼の詳細が書かれた用紙を持ってくるのを待っていると、カウンターの奥でまだ貴族からの指名の依頼の説明を受けている漆黒の風と目があった。
武姫があっかんべーをしてやると、彼はくくくっと小さく笑ってからまた前に向き直り、説明の続きを受けていた。
とそこで武姫の対応をしている受付嬢が戻ってきてこう言った。
「お待たせしました武姫さん。
この依頼、確かに女性冒険者のソロエントリー可ですし、高レベルの武姫さんはエントリー条件を満たしています。
ですがこの魔獣の放つ催淫毒は強力で対応する解毒薬もありませんし、現段階では罹ってしまった女性をパートナーの男性が満足させることで症状が抜けるのを早める対処法しかなく、その対処がなされなければ3日間は酷い症状に苦しむ事になります。
なので武姫さんがお一人で挑まれるのは心配で・・・。
万が一のときのため、どなたか一時的でもいいので信頼のおける男性冒険者の方とパーティを組まれてみてはいかがですか?」
そう言われてみて武姫は漆黒の風をまたチラッと見るが、
(いやいや、ここで漆黒の風に協力を仰いでどうするのよ!
折角邪魔されずに一人で高ポイントを狙える依頼なのに、それじゃ意味がなくなるわ!)
と頭を振り、受付嬢にこう返した。
「私なら大丈夫よ。
俊敏さには自信があるし、奴の毒ブレスを躱せばいいだけだから。
もう既に被害も出ているのだし、これ以上広がらないうちに倒したほうがいいわ!
すぐに現場に向かうから、エントリーを受付けておいて!
お願いね!」
そう言い残し、武姫は冒険者ギルドを出て行った。
そこでカウンター近くの席にいたファンキーな髪型をしたガラの悪い男3人の冒険者パーティが、ヒソヒソと話を始めた。
『おい、今の聞いたか?
武姫一人で淫獣退治だってよ!』
と青髪モヒカンの細身の男が言った。
『グヘヘヘへ・・・あの清楚な武姫が催淫毒にやられたとことか想像したら堪らねぇぜ♥』
と少し太り気味の赤髪モヒカンが目をハートにした。
『お前毎晩武姫の姿絵見てうぜぇぐらいシコってるもんな!』
と青モヒカン。
『仕方ねぇだろぉ?
いっつもあの漆黒の風の野郎が付き纏ってやがって声もかけられねぇし、クソつえぇ武姫が相手じゃ一人になったところを襲うことも出来ねぇんだしよぉ!』
と悔しそうに不細工な顔を更に歪める赤モヒカン。
『くくっ!
その願望、実現できるチャンスかもしれねぇぜ?』
と左前頭部に蜘蛛のタトゥを入れたスキンヘッドが言った。
『『そいつはどういうことだ?
リーダー!?』』
と赤と青が揃って尋ねた。
リーダーと呼ばれたスキンヘッドはこう答えた。
『今すぐ武姫の後をつけて行って催淫毒にやられたトコを輪姦すんだよ!
武姫は毒ブレスを躱すと言っていたが、ヒートビーストが死に間際に放つブレスは広範囲に及び、そう躱せるものじゃねぇらしい。
確実に毒を食らうとみて間違いねぇぜ?』
『でもよ、リーダー。
武姫は勘が鋭そうだし、尾行に気づかれるんじゃねぇか?』
と青モヒカン。
『なぁに、心配いらねぇさ。
前に護衛した魔石商人からくすねた透明化魔石と、消音魔石を合わせて使えば、いくら武姫でも尾行に気づかれっこねぇ!
そうと決まれば見失わねぇうちに追いかけるぞ!』
『『おうとも!』』
そして男たちはアリアを追ってギルドを出ていった。
そんな男達を目の端で捉えた漆黒の風は、彼らの様子と出ていくタイミングからどうにも嫌な予感がし、自分指名の依頼の説明を続ける受付嬢の話を無視してスッと立ち上がると、大急ぎで男達を追ってギルドを出た!
しかしさっきギルドを出たばかりの筈の3人の姿は何処にもなく、険しい顔で立ち尽くす漆黒の風を、行き交う人々が不思議そうに見ていた。
漆黒の風はすぐにギルドに引き返すと、さっきまでアリアとやり取りをし、彼女のエントリー手続きをせっせと行っている受付嬢の所までツカツカと近付いて行き、腰に手を当て眉間にシワを寄せながらこう尋ねた。
「アリア・・・武姫はさっき何の依頼にエントリーした?」
「えっ・・・漆黒の風さん!?
ヒートビースト退治ですけど・・・?」
と受付嬢は答えた。
「あの淫獣退治を一人でだと!?
場所は何処だ!!」
漆黒の風は物凄い剣幕で受付嬢に詰め寄った。
「で、でもその依頼はソロの女性、または女性を含むパーティ限定の依頼ですし、催淫毒に侵された女性を狙う悪漢が現れる可能性がありますので、エントリーされていない方に詳しい場所等の情報をお教えするわけには・・・」
と受付嬢。
「そんなことはわかっている!
だがさっき武姫の後を追ってガラの悪い3人組が出ていくのを見た!
恐らくあんたが言った強姦目的だ!
武姫をつければ場所が公表されずとも問題無いからな。
だからさっき俺はすぐに奴らの後を追おうとしたが、奴ら・・・恐らくは透明魔石を使って姿を消したのだろう・・・。
消息を追えなかった・・・。
このままではアリアが危険だ!
すぐに追うから早く場所を教えろ!!」
5時間後─。
武姫はヒートビーストが出没したおおよその地点まで到着していた。
そこは森の中ではあったが、街道が近い為か比較的見晴らしが良かった。
(確かこの辺りよね?
ギルドで教えて貰ったヒートビーストの出現地点って・・・。
奴は獲物を捉えるとき以外は目くらましの魔法を使って姿を隠すそうだけど、今の所はそれらしい気配は感じない・・・。
この辺り一帯やけに静かで、逆に不自然な気もするけど・・・。
とにかくここで待ってみましょう・・・)
武姫がそう思い近くにあった木に凭れかかったところで、木の幹がぐにゃりと歪んだ!
武姫はハッとして木から飛び退き距離を取った。
そのぐにゃりと歪んだ空間が段々と灰色の塊へと変わっていき、やがて熊くらいの大きさの猿のような獣の形となった。
依頼書に描かれてあったヒートビーストのイラストと眼の前にいる魔獣の姿が一致した武姫は、
「出たわねヒートビースト!」
と声を上げると同時に剣を抜き構えた。
ヒートビーストは武姫に向けてニタァと笑うと、催淫毒のブレスを吐いてきた!
武姫はそのブレスをさっと躱した。
続けてヒートビーストの足元へ潜り込むと、脛を払った!
(一撃では仕留められそうにない大型の魔獣は、まず足を狙う!
行動の自由を奪えばその後の対処がしやすくなるから!)
武姫の下段攻撃は見事にヒートビーストにヒットした!
「ギャアアァーーー!」
脛から血を流し、悲鳴を上げるヒートビースト。
武姫はさっと距離を取り身構え、相手の次の出方を待つことにした。
(最初のブレスからどのくらいのインターバルで次を吐けるのかわからないし、今は迂闊にしかけないほうがいい。
相手の攻撃パターンを把握すれば、こちらから仕掛けるチャンスがある筈・・・!)
続けてヒートビーストは続けて武姫を捕まえようと突進して来た。
だが、
(足を負傷して動きが鈍いわ!
これなら楽に躱せる!)
とあっさりそれを躱す武姫。
その瞬間、ヒートビーストの胸ががら空きになった!
(チャンス・・・!)
武姫は即座にその胸元に剣を突き刺した!
「ギャアアアアーーーーー!!!」
ヒートビーストは苦しそうに悲鳴を上げた!
(今のは手応えがあった!
後は充分な距離を取って、相手が完全に息絶えるまで様子を見て・・・)
と武姫が思ったその時である。
ヒートビーストの身体が突然大きく膨らんだかと思うと、まるで爆発するかのように一気に大量の毒が吹き出したのだ!
武姫は咄嗟に飛んで距離を取ろうとしたが、毒ブレスが広がる速度のほうがそれよりも早く、武姫の全身は催淫毒ブレスに包まれてしまった!
(しまった!!)
武姫は咄嗟に催淫毒を吸わないよう口元を塞いだ。
しかし─
(うそ…!
この毒、目からも浸透するの!?
胸が苦しい・・・
身体の力も抜けて・・・)
と、ついに武姫は地面に膝をついてしまった。
催淫毒のブレスが消えて視界がクリアになったときには、ヒートビーストは息絶えたのか、動かなくなっていた。
(さっきのは死に間際の攻撃だったようね・・・。
でもどうしよう・・・。
催淫毒に侵されてしまった・・・)
武姫は、
“この魔獣の放つ催淫毒は強力で、対応する解毒薬もありませんし、現段階では罹ってしまった女性をパートナーの男性が満足させることで症状が抜けるのを早める対処法しかなく、その対処がなされなければ3日間は酷い症状に苦しむ事になります“
という受付嬢の説明を思い出し、冷や汗を垂らした。
(とりあえず動けるうちに、ヒートビーストの死骸だけでも片付けておかないと、血の匂いで他の魔物を呼び寄せてしまうわ・・・。
この状態では雑魚と遭遇しても殺されかねないし、戦闘は回避しないと・・・)
武姫はフラフラしながらヒートビーストの死骸の元まで歩くと、マジックバックの魔石に触れてから亜空間ホールを作り出した。
そしてその中に何とか死骸を収納し終えると、その場にへたり込んだ。
(これでOK・・・。
でも更に毒が回ってきたわ・・・。
早くリスベルに帰って、お医者さんに診て貰わないと・・・)
武姫がはぁ、はぁと熱い吐息を吐きながら、マジックバックから記憶した場所まで一瞬で転移する力を持つ転移魔石を取り出したその時である。
「帰ろうったってそうはさせないぜぇ?
武姫~~~♡♥」
という声がして背後から手を叩かれて衝撃が走り、持っていた転移魔石を落としてしまった。
武姫がビクッとして声のした方向を振り返ると、そこには額に蜘蛛のタトゥを入れたスキンヘッドの男を中心に、左に痩せ型の青のモヒカン男、右に太った赤のモヒカン男の3人の冒険者が立っていた。
(・・・彼らは確か、ギルドでよく見かける・・・。
特に赤い髪の太った男は私のことをいつも気持ち悪い目で見てくるから印象に残ってる・・・。
このタイミングで現れるということは、まさか跡をつけて来た・・・?
でも足音が全く聞こえなかったわ・・・)
武姫は冷や汗を垂らすと3人の男を警戒して睨んだ。
「そんな怖い目で睨まなくてもいいだろ?
武姫さんよぉ。
あの淫獣をあっさり倒しちまうとは、流石ランク2位は伊達じゃねぇな!」
と3人のリーダーのスキンヘッドが言った。
「だがリーダーの言った通り、武姫でも奴の死に間際の毒は躱せなかったようだぜ?
顔中真っ赤に染まってフラフラだ!」
と青モヒカン。
「なぁ武姫ぃ♡
催淫毒にやられてあそこが疼いて苦しいんだろ?
大丈夫大丈夫ぅ♥
俺達、その毒によぉく効く肉の棒を持ってるからよぉ♥」
そう言って赤モヒカンが自らの股間辺りを指差した。
男性経験が無い武姫にははっきりとしたことは解らなかったが、どうやら赤モヒカンの股間は性的に興奮し、既に勃起しているようだった。
武姫は青ざめ、剣の柄に手を掛けた。
(こいつら強姦目的・・・!!
どうにかして追い払わないと酷い目に遭わされるわ・・・!
普段ならこいつら程度どうってことないけど、今の状態でやれる・・・・・!?)
武姫は緊張からゴクッと喉を鳴らした。
「ほぉ・・・剣を抜こうってか。
勇ましいねぇ。
だがそんなフラフラの状態で男3人に敵うと思ってんのか?」
そう言いながらスキンヘッドは武姫の腕をグッと掴み、剣を取り上げた。
「くっ・・・!」
毒が効いている為殆ど力が入らず動きも鈍っている武姫は、あっさりとそれを許してしまった。
「さぁて野郎共、お待ちかねのお楽しみの時間だ!
手を押さえててやるから赤、お前が1番でいいぜ?」
スキンヘッドはそう言いながら武姫の腰を捕まえて、その華奢な身体を自分の下へと引き寄せて脇に手を回し、両腕が動かせないようにしっかりと固定した。
「うっひょ~~~♥
リーダー、マジでいいんすか!?」
「おう。
お前の念願の女だしな。
だがお前のザーメンプールに突っ込むのは気が進まねぇから、必ず外に出せよ?」
とリーダー。
「へへへっ、わかってやすって!!」
「嫌ぁ!!
離して!!」
武姫は叫び、足を精一杯に動かして抵抗しようとした。
「おーおー!
毒にやられてる癖して元気な足だな。
おい青!
お前は足を押さえてやれ!」
「ヘイ、リーダー!」
青モヒカンが暴れる武姫の足を捕まえて押さえつけた。
一切の抵抗が出来なくなった武姫の顔がますます恐怖の色に染まった。
「げへへへへっ♥
そんじゃまずは脱がしちゃおっと♡」
赤モヒカンはそう言って舌なめずりをすると、武姫の鎧に手を掛けた。
武姫は恐怖のあまりギュッと硬く目を閉じた。
そして毒のせいで熱く蕩けた身体が徐々に外気に晒されていく感覚が否応なく伝わってきて、もうすぐ犯されてしまうという恐怖からガタガタと身体が震え始めた。
「うっひょ~~~っ!
武姫の乳首、綺麗なピンク~♡
なのに初心なあそこがぬるっぬる~♥
このアンバランスさが堪らねぇ~~~♡♥」
「本当は全身ねちっこく舐め回したいけどよぉ、もうたまんねぇから先にハメちまおっと♥
これだけ濡れてりゃ前戯無しでも余裕だよなぁ♥」
と赤モヒカンが歓喜の声を上げながらベルトをカチャカチャと外し、一気にボトムスを下ろした。
目前に赤黒く熱り勃った男性器が晒され、武姫は顔を更に青く染めて頭を振った。
(やだ・・・!
絶対にやだっ・・・!!
このまま犯されるなんて冗談じゃない!!
こんな奴に初めてを散らされるくらいなら、漆黒の風の誘いに乗ってパーティを組んで、父への恨みも忘れて彼と恋・・・をして、初めてを捧げてみれば良かった・・・・・・・・)
武姫は漆黒の風がいつも自分に向けてくれている屈託のない笑顔を思い浮かべて、碧い瞳に涙を浮かべた。
「・・・武姫ったら泣いてんのぉ?
大丈夫ぅ♥
俺のぶっといチン◯、最初は痛いかもしんないけどぉ、すぐに気持ち良くなって大好きになるからさぁ♡♥」
「んじゃ、いっただっきま~~~す♥♡♥」
赤モヒカンがそう言いながらイチモツを手で支え、ぐっと腰を沈めようとしたその時である。
黒い風がヒュン!と目の前を過ぎったかと思うと、武姫に覆いかぶさっていた筈の赤モヒカンの姿が消えており、代わりに険しい顔をした漆黒の風が黒いマントを靡かせて立っていた。
「漆黒の風・・・?」
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