22 / 26
21話 騎士の国最後の夜
しおりを挟む
作戦会議は教会の一室、以前モニカがファルガーと密会する時に使用した部屋でレオン、ファルガー、モニカの3人にて行われることになった。
モニカがレオンにはココアを、ファルガーと自分用にほうじ茶を淹れてから一足遅れてその部屋に行くと、レオンとファルガーはテーブルに向かい合わせで座っていた。
モニカがいない間にファルガーが気を利かしてかレオンに何らかの会話を振ったようだが、レオンがそれに対して愛想の無い返答をして即会話が終了したらしく、2人の間に非常に気まずい空気が流れていた。
モニカは、
(あらまぁ・・・)
と軽く冷や汗を垂らしてから彼らの眼の前にそれぞれの飲み物を置くと、迷わずレオンの隣の席についた。
そんな彼女の行動と、彼女の髪を飾る紺地に白のキキョウの刺繍が入ったリボンを見てファルガーは少し寂しそうに微笑み、諦めたように小さくため息をついてからこう切り出した。
「それじゃあ早速明日・・・いや、もう日を跨いだため今日になってしまったが、アンジェリカ公妃・・・彼女は既にダズル・ナイトの妃ではなくなったのに、いつまでも公妃とお呼びするのも変か・・・。
ならば以降はアンジェリカさんと呼ばせていただくが、アンジェリカさんとアレクセイさんの救出作戦について話し合おう。
だがもう夜分も遅いことだし、君達には睡眠が必要だから、なるべく手短にするよう心掛けるよ。」
モニカとレオンが頷くのを確認し、ファルガーは続けた。
「まず、僕は神避けがある状態では宮廷や処刑会場のコロシアムには近づけない。
だから処刑が始まる前に、君達2人で神避けの回収をお願いしたいんだ。
それには、レオンハルトくんのインビジブルの魔法で君達2人の姿を消し、30分前に宮廷に潜入するのがいいと思う。
もっと早い時間・・・例えば1時間前に潜入すれば、神避けの回収には時間の余裕が持てるが、1時間前ではまだ宮廷内に残っている者も多くいるだろうし、レオンハルトくんの魔力量を考えると、30分前が妥当だと判断した。」
モニカはファルガーの案に頷くと、こう返した。
「わかりましたわ。
ですが一つ懸念が御座います。
神避けはダズル・ナイトの部屋にありますし、鍵がないと入れません。
マスターキーがある執事室にも当然鍵がかかっているでしょうし、無理に部屋の扉を壊せば激しい物音が立ち、宮廷に残っている者に気づかれてしまうリスクがあります。」
「そのことなら心配いらないよ。」
ファルガーはそう言うと、アイテムボックスからジャラ・・・と鍵束を取り出した。
モニカとレオンは首を傾げ、
「その鍵束は・・・?」
とモニカが尋ねた。
「これがさっき言っていたジェイド殿からの残りの置き土産の一つだよ。
当然ジェイド殿がナイト家を裏切った地点で、彼の部屋にあったこの鍵束が持ち出されたことは、相手側の知る所となっているだろう。
だが昨日の今日では、いくら金属加工技術の高いアデルバートにおいても鍵の変更は不可能だし、まだここにある鍵は使える筈だ。」
とファルガーは答えた。
「わかりました。
ジェイド様のお蔭で鍵の問題はあっさりと解決ですわね。」
そこでレオンが眉を寄せつつこう言った。
「だが、父の部屋のあのデカい花瓶の下に神避けがあるのだろう?
モニカが在り処を発見したときにはジェイド兄さんの魔法で何とか出来たのかもしれないが、あの大きさの水の入った花瓶を持ち上げるなんて僕には無理だぞ?」
それに対しモニカが、
「そうですわね・・・。」
と少し考えてからこう答えた。
「でしたら持ち上げるのではなく、押してみるのは如何でしょう?
幸いにも花瓶の下に敷かれているドイリーはシルクのレース編みのものでしたし、私達2人で押せば滑ると思うのです。
そして神避けを回収したら元通りの位置まで押す・・・如何です?」
とモニカ。
「流石モニカだな。
それでいこう!」
と頷くレオン。
「えぇ!
これで花瓶の問題もクリアですわね。
ですがファルガー様。
神避けはどうやって回収すればよいのでしょう?
無事回収出来たとしても、それを持っている私達が宮廷やコロシアムにいては、ファルガー様が近づけませんし意味がありませんわよね?」
とモニカ。
それに対してファルガーは、
「あぁ、それならこれに回収してもらえれば大丈夫だよ。」
と言ってアイテムボックスから黒く光る小さな魔石がついた指輪を取り出し、それをモニカに渡した。
「これは・・・ファルガー様がいつも指につけてらっしゃるアイテムボックスの指輪と同じものですか?」
とモニカはファルガーの指にはめられた同じデザインの指輪と手元の指輪を見比べながらながらそう尋ねた。
「うん。
それは僕の予備のアイテムボックスだよ。
神避けはアイテムボックスに入れさえすれば、その効果は消されて神族である僕にも持ち運ぶことが出来るんだ。
アイテムボックスを君に渡すのは初めてだが、これは僅かでも魔力のある者なら誰でも起動出来る。
後でレオンハルトくんから使い方を教わるといいよ。」
それを訊いたレオンがファルガーにこう突っ込んだ。
「ならば最初からアイテムボックスの使い方を知っている僕に渡せばいいだろう?」
それに対しファルガーはクツクツと笑うとこう返した。
「それはそうだが、そのアイテムボックスは創造神様から仕事用に賜ったものだから、万が一にでも紛失したり壊されたりしたら大事だし、僕にとって信頼のおける方に任せたいんだ。
ごめんね。」
レオンはそれに対してムスッと不貞腐れてこう返した。
「ふん・・・。
確かに僕とモニカでは、あんたにとって信頼できるのはモニカのほうだろうが、大袈裟なんだよ。
アイテムボックスは確かに高価だが、高くとも10000G(※日本円で100万円)程度だろう?
一国の代表ともあろうあんたがそれくらいでケチくさいぞ。」
ファルガーは頭を振るとこう答えた。
「いや、それは下界・・・人間の世で多く出回っている廉価版アイテムボックスのことだろう?
これは天然物だから正規の価格ならばもう1つ0が付く。
ジャポネの代表である僕でも私用でそう安々と使える額では無いよ。
人で天然物のアイテムボックスを所持しているのは、各国の代表クラスに該当する者と、アイテムボックスの仕入元である狩人、そして天然物に拘る見栄っ張りな金持ちくらいだろう。
ジェイド殿も昨日この教会でお会いした際に天然物を一つ所持されていたが、それには彼と妹君とそのご子息の大切な荷物が入っているから君への置き土産には出来ないと、申し訳無さそうにしていたよ。」
レオンとモニカは顔を見合わせ、同時に首を傾げた。
「あの・・・廉価版とか天然物とは一体?」
そうモニカが尋ねると、ファルガーはこう答えた。
「あぁ、アイテムボックスと呼ばれる魔石には天然物と廉価版の2種類があってね。
天然物は魔獣の体内で生成された魔石で、廉価版は人の手により魔石を合成して作られたものなんだ。
天然物、廉価版、そのどちらも亜空間に繋がりアイテムを沢山出し入れする機能を備えているが、廉価版には収納出来る量や物の大きさに制限があったり、天然物のように中に入れた物が劣化しないよう時を止める機能がないものもあるんだ。
まぁそれでも充分に暮らしの役に立つけどね。
だが、神避けを回収するには天然物でないと話にならない。
廉価版では神避けや白の剣のような天界製のアイテムの質量は受け止めきれずに壊れてしまうからね。」
「そうなのですね。
かしこまりました。
それではこちらのアイテムボックスに神避けを回収して、ファルガー様と合流出来次第すぐにお返ししますわ。」
とモニカは言って、それをそっと左手の、サイズ的に丁度良かった中指にはめた。
「うん、頼んだよ。
もう一つ、君に預けたいものがあるんだ。」
続けてファルガーは小さな水晶球のついたペンダントと、10cm四方くらいの大きさの水晶板を取り出し、ペンダントのほうをモニカに手渡した。
「これは昨日のお披露目式で桜雅に持たせていた魔道具だ。
この水晶球に映った映像が、対となるこの水晶板に映し出され、君たちと視界が共有できる。」
と言って水晶板を指差すファルガー。
「これで神避けが回収されたタイミングを見計らってコロシアムに潜入するから、その後で落ち合おう。
僕がインビジブルの魔法を使うと、君達からも僕の姿が見えなくなってしまい困るから、僕はいつも通り変装して騎士に成りすまし潜入するとしよう。
でも僕からはインビジブルで姿を消した君達の姿が視えるから、こちらから迎えに行く。
君達はコロシアム内のなるべく人目につかない場所で待っていてほしい。」
モニカは水晶球のついたペンダントを首から下げると同時に、いつも首から下げているファルガーから貰った陶器の笛を服の中から取り出し、こう言った。
「かしこまりました。
神避けの回収が終わりましたら、この笛を吹いてファルガー様をお呼びしようかと思っていたのですが、この魔道具があるのならそれは必要なさそうですわね?」
「うん、そうだね。
その笛は一度限りしか使えないから、緊急時の為に取っておくといい。
処刑会場では何が起こるかわからないし、その笛を使う機会があるかもしれない。
その笛の音が聴こえたら、何を差し置いてでも君を助けに行くからね。」
ファルガーはそう言って優しくモニカに微笑むが、その視線を遮るかのようにレオンがテーブルに手を突き声を荒げた。
「モニカの危機に駆けつけるのは僕の役目だ!」
「・・・だけど、それがもしレオンハルトくんの足では間に合いそうもない状況だったらどうする?
僕の足は世界最速で、君は人並みだ。
それを君の気持ちだけで無理に押し通すというなら、彼女を助けることは叶わず、最悪失うことになるかもしれない。
それでも君は僕にその役目を譲る気はないと言うのかい?」
「・・・・・。」
レオンは反論出来ずに俯き、黙り込んだ。
「わかったかい?
適材適所なんだよ。
たからその時ばかりは僕に任せてくれないかな?
その代わり、君には僕の抜けた穴を埋めて欲しいんだ。
それが頼める程戦力になる騎士は、この国では君しかいない。」
「わかった・・・。」
レオンはファルガーの言うことは最もで、また、彼なりに自分の力を認めてはいるのだと理解もしたようで、不機嫌そうに眉を寄せたままではあったが頷いた。
「うん・・・。
わかってくれて良かったよ。
それで合流後なんだが、アンジェリカさんとアレクセイさんの処刑を阻止するために、タイミングを見計らって姿を現そう。
そうすることで会場を混乱させることが出来る。
今までのアデルバートの歴史を振り返ると、この国の死刑囚は大抵ギロチン台にかけられているから、きっと今回もそうではないかと推測する。
そして混乱の最中彼らの拘束を解き、2人を逃がす・・・それしかないだろう。」
とファルガー。
それを聞いてレオンは険しい顔のまま頭を振った。
「いや・・・アレクセイさんはどうかわからないが、母様はギロチン台にはかけられない。」
「何故そう思う?」
と怪訝な顔をするファルガー。
それに対してレオンは答えた。
「そうか・・・。
あんたはその水晶の魔道具を着けたオーガの視点から得た情報しか持っていないんだったな。
昨日お披露目式の後で、ルーカスが禍々しい感じのする神剣ダインスレイブとやらを掲げて次期当主として発表された際、観客席には聞こえないように父が言ったんだ。
ルーカスの持つダインスレイブは、斬った者の血を取り込むことが出来て、それで母様を斬れば、白の剣の真価を発揮させることだって出来るって。
だから母様の血を取り込む為に、ルーカスはダインスレイブで直接手を下そうとすると思う・・・。」
ファルガーは驚き目を見開くと、テーブルに手を突き席を立った。
「なんだって!?
確かに、第4公子が神より神剣ダインスレイブを授かったとダズル・ナイトが言っているのは聞いた・・・。
だが僕は、あれはダルダンテ神が魔剣ダインスレイブを模して作った偽物で、どうせルーカスを操る類のものだろうと軽く捉えていたが・・・確かに斬った者の血を取り込んで、自分のものに出来るとダズル・ナイトは言ったんだな・・・!?」
レオンは珍しく取り乱したファルガーの様子に圧倒され驚きながらも、
「あぁ・・・。
モニカもその場にいたから訊いているよな?」
とモニカに同意を求めた。
モニカは、
「えぇ・・・。
ファルガー様はダインスレイブという剣をご存知なのですか?」
とレオンに同意してからファルガーに尋ねた。
「うん・・・。
僕が勇者だった頃、魔界でダインスレイブという魔剣を手に入れたんだ。
だがあれは知性あるインテリジェンスソードで、人を惑わし意のままに操るという極めて危険なものだったから、すぐに創造神様に預け、今も創造神様の管理の元、厳重に保管されている。
ダルダンテがいくら創造神様の子であっても持ち出しようがないし、もしも持ち出されていたなら倉庫番がすぐに気が付き、僕の耳にも入る筈だ。
だからきっとそれは偽物に違いない・・・。
だがまさか、人の血を取り込み、自分の物とできる能力を再現しているとは・・・!
ハッタリか?
いや・・・魔法や魔術に長けた奴のことだ。
それに近いものを再現出来ているとしてもおかしくはない・・・。
何にせよ、レオンハルトくんの言う通り、アンジェリカさんがギロチン台にかけられることがないことは確実だろうな・・・。
だが、逆にその方が助けやすいかもしれない。
レオンハルトくん。
その偽ダインスレイブの持ち主である第4公子ルーカスは、騎士としてどうなんだ?」
とファルガーはレオンに尋ねた。
レオンは顎に手を当ててルーカスについて思い出した後、こう答えた。
「ルーカス・・・あいつとはまだ直接手合わせをしたことはないが、見習い時代にあいつが他の騎士見習いと手合わせをしているところなら見たことがある。
あの時は相手を権力で脅して勝ってはいたが、ルーカスと同年代の騎士見習い達と比べて、中の下くらいの実力だと思う。」
「成る程。
その程度の少年が魔剣ダインスレイブ同様の剣を手にしたところで、ねじ伏せるのは容易いな。
それよりも危惧すべきは母親のほうか。
彼女は沢山の魔石の指輪を着けていた。
あれはダルダンテから手に入れたものだろうが、中には強力な魔獣を召喚する力を持つものもあると見ていい。
ルーカスが追い詰められれば、彼女はそれを使うかもしれない。」
とファルガーは真剣な面持ちで言った。
「魔獣を呼び寄せる・・・だと?
もしかして・・・ロジウムにいたあのブルードラゴン・・・あのレベルのものを呼ぶかもしれないというのか!?」
とレオンが険しい顔をして声を荒げた。
「いや・・・残念ながらあれ以上のものだろう。
あのブルードラゴンは、おそらくかの神の計画の実験としてロジウムに放たれている。
だとしたら、次に放たれるのはもっと強い魔獣である可能性が高い。
だから強敵との戦闘の可能性は頭に置いておいて欲しい。」
レオンは不安気に眉を寄せ、ゴクッと喉を鳴らした。
「大丈夫だ。
そうなったときには僕も参戦する。
それに白の剣を手にした君は、まだラスターには届かないにしろ、人類では最強クラスだ。
あのブルードラゴン以上の敵が現れたとしても、そう簡単に負けやしないだろう。
君の唯一の弱点であるメンタルの弱さも、傍で愛する者が見守ってくれる中なら心配ないだろう?」
そう言ってファルガーはモニカとレオンを交互に見て口角を上げた。
レオンとモニカは微笑み合うと、それにしっかりと頷いた。
「それでは私は、お2人がエカテリーナの召喚した魔獣と戦っている間に隙を見計らい、アンジェリカ様とアレクセイさんの身柄を確保すればよいのですね?」
とモニカ。
「あぁ。
だが2人は死刑囚だ。
おそらく簡単には外せない手枷足枷をされているだろうが、僕の刀かレオンハルトくんの白の剣であれば鎖を断ち切ることが出来るから、まずはどちらかが鎖を切る。
その後、君はアンジェリカさんとアレクセイさんの2人をミスティル教会まで連れて行ってあげてくれ。
教会にある天界ゲートは既に閉じてしまったが、その周辺の結界は今日中はそのままにしておくし、神官たちの口も硬い。
このミスティルで最も安全に彼らを匿える場所だろう。
君はそこで僕とレオンハルトくんが来るのを待っていてくれ。
だが事が上手く運ばず、君1人ではどうしようもない事態に陥ったときには、その笛で僕を呼んでくれ。
すぐに駆けつける。
そして、誰も失うことなく皆でジャポネに帰ろう!」
ファルガーのその言葉にモニカとレオンは、
「えぇ・・・!」
「わかった・・・!」
とそれぞれと強く頷いた。
そしてファルガーは、そっとレオンに向けて手を差し出した。
レオンは怪訝そうな顔でファルガーを見たが、少し迷ってからその手を取った。
そうして握手を交わす彼らを見て、モニカはこの2人が協力し合えば、きっと明日アンジェリカとアレクセイを助け出せるに違いないと強く感じるのだった。
作戦会議が終わり部屋を出ると、花売りのニーナと武器職人のユリスが教会の待合席で待っていた。
ニーナはモニカ達の姿を見つけると席を立ち、
「モニカさん!」
と声を上げてこちらへと駆け寄ってきた。
「ニーナさん!?
どうしてこちらへ?」
嬉しそうにニーナの手を取りながら、疑問符を顔に沢山浮かべているモニカを見てファルガーはふふっと微笑むと、
「彼女だろう?
君の言っていた花屋さんの友達は。
折角お隣なのだし、ちゃんとお別れがしたいだろうと思って、さっき君達がヴィクトルさん達を呼びに行っている間に僕が花屋さんに行って事情を説明したんだ。
そしたら君とレオンハルトくんを今晩泊めてくれるって。」
と説明をした後、モニカの耳元でそっと、
『確かに君の言う通り、アーシェに少し似ているね、彼女。』
と耳打ちをした。
そんなやり取りを見たレオンがムッと顔を歪めてモニカの腕を引くと、ファルガーを睨んだ。
ファルガは困ったように眉を寄せてレオンに手のひらを向けると、
「いや、レオンハルト君が気にするような話は別にしていないのだが・・・」
と言った。
「信じられないな。
あんたは油断できない。」
とレオン。
モニカはそんな彼らの間に入り、
「まぁまぁレオン様。
後で何の話だったのか説明しますので、ここは抑えてくださいな。」
と言った。
ニーナはそんな彼らを見てクスクスと笑うとこう言った。
「昨日のお披露目式をユリスと一緒に見に行ったんですけど、大変なことになってしまったので心配していたんです。
お2人がご無事で、またこうしてお会い出来て本当に良かった・・・!
モニカさん、金獅子さん、うちは狭いですけど遠慮なく泊まって下さい。
お風呂も用意していますから。」
「ニーナさん・・・。
お心遣い、とても嬉しいです。
でも・・・」
モニカはニーナ達を巻き込んでしまわないかと心配し、眉を寄せた。
それを察してファルガーが言った。
「心配要らないよ。
彼女の家も結界の範囲内だから、騎士達に君達の姿を見られることはない。
ニーナさんと積もる話もあるだろう?
明日に支障ない範囲で沢山話をするといい。
レオンハルトくんはユリスくんと同じ部屋に寝かせてもらうといいよ。」
「ちょっと待て!
僕はモニカと同室ではないのか!?」
と抗議するレオン。
ファルガーは肩をすくめて手のひらを上に向けるとこう返した。
「彼女達の時間を邪魔するのは無粋だろう?
それとも僕と一緒に教会に泊めて貰うかい?
因みにこの教会に泊まれる部屋は一つしか無いが・・・」
レオンはファルガーの言葉で非常に渋い顔をすると、黙ってユリスの元へと行った。
そして、
「一晩世話になる・・・」
とユリスに向かって頭を下げたので、その場にいるレオン以外の者は皆可笑しくて、クスクスと笑うのだった。
時は少し遡り、前日の22時─。
宮廷の地下深くの重罪人が投獄されるフロアの一室に入れられたアンジェリカとアレクセイの元に、カツカツカツ…とヒール音を立て鳴らし、鮮やかな赤い髪をしたエカテリーナが訪れた。
「こんばんは、アンジェリカにアレクセイ。
処刑前夜、いかがお過ごしかしら?」
そんな彼女に微笑みを向けてアンジェリカが答えた。
「・・・エカテリーナ・・・。
親切にアレクと同じ部屋にしてくれてありがとう。
お蔭様で人生最後の夜を、一人淋しく過ごさずに済みそうだわ。」
「それは良かった。
あんた、いい年齢なのに男どもにそこそこ需要があるみたいでね。
本当は今晩、アレクセイの眼の前で騎士達の慰み者にしてあげようかと思ったんだけど、生憎とレオンハルトとジャポネの女スパイ、そしてジェイドとベリル、スフェーンまでもが逃げ出しちゃって、今騎士達が皆彼等の捜索で出払っているのよ。
残念だわ。
というわけで折角2人きりなんだから、そこのベットで一晩中真実の愛を確かめあってくれてもいいのよ?
ご覧の通り相当年季の入ったものだから、あまり激しくされたら壊れちゃうかもしれないから、程々にしてくれると助かるけれどね。」
そう皮肉たっぷりな言葉を投げつけてから、粗末な囚人用の寝台を指差すエカテリーナ。
それに対してアンジェリカはホッとしたように優しく微笑むと、こう答えた。
「そう・・・あの子達、逃げ出したのね・・・。
良かった・・・。
でも貴方のその提案に乗るわけにはいかないわ。
私は最後まで潔癖を貫きたいの。
ここでアレクと結ばれては、貴方のでっち上げが真実になってしまうもの。
ね?アレク。」
とアレクセイに同意を求めるアンジェリカ。
「うん。
もし本当に明日死ぬのだとしても、アンジェと2人で逝けるのなら怖くないよ。
それにもし僕らに明後日が来るのなら、幾らでも愛を確かめる時間はある。」
とアレクセイも穏やかに微笑み頷いた。
彼のその言葉はエカテリーナの逆鱗に触れたようで、彼女は更に顔を歪めると、
「は・・・?
あんたらに明後日が来るですって・・・?
あんたらは明日でその命を終えるんだよ!!」
と乱暴な口調で怒鳴り、眼の前の鉄格子を蹴った。
「そうかもしれない。
でも、そうじゃないかもしれないわ。」
と冷静に返すアンジェリカ。
「ふん!
逃げ出したあんたの息子とジャポネの女スパイ、それにその後ろにいる神使も明日の処刑を阻止しに動くかもしれないけれど、私は絶対に負けないわ!
明日、必ずあんた達の命を奪ってみせる!!
そしてダズルを影から操ることでこの国の実権を握り、私を売女だと馬鹿にしてきた全ての奴らに思い知らせてやる!!」
アンジェリカは感情を吐き出してはぁ、はぁ、はぁと息をつくエカテリーナに憐れみの眼差しを向けると、床についた膝に手を置きこう言った。
「・・・ねぇ、エカテリーナ。
私達、年齢も同じで家も近かったから、子供の頃はいつも一緒に遊んだ幼馴染だったわね?
それなのに、いつの間にか貴方と気持ちがすれ違うようになってしまった・・・。
そして今は私達を罠に嵌め、殺そうとまでしている・・・。
何故なの?
最後にそれだけ訊かせて欲しい・・・。」
「・・・・・いいわ。
死に土産に話してあげる・・・。」
エカテリーナはそう答えると睫毛を伏せて昔のことを思い出しながら、ゆっくりと赤い唇を開いた。
「あんたらも知っての通り、私は貧民街で産まれた・・・。
最下層の娼婦だった母の、父親のわからない子・・・。
アレクセイは同じ貧民街産まれで、アンジェリカ、あんたはギリギリ平民街の産まれだったけど、私達は家も年齢も近かったから、毎日暗くなるまで良く遊んだわ。
そしてあんたはジュニアスクールで習った読み書きや計算を、貧しくて学校に行けない私とアレクセイのために教えてくれた。
そのお蔭で文字が読めないために詐欺まがいの契約書にサインさせられ、更に借金を重ねそうだった母を助けることも出来たし、計算が出来ないために不当な賃金で重労働をさせられていた兄を助けることも出来た。
当時の私は読み書き計算を教えてくれたあんたに感謝したし、あんたの将来貧民街に学校を建てたいという夢も、応援したいと思っていた・・・。
あの時まではね・・・。」
「あの時・・・?」
とアンジェリカは怪訝そうに眉を寄せた。
「そう。
あれはあんたがジュニアスクールを卒業し、私達が13になった年だった。
私に初めて娼婦としての買い手がついたの。
あの頃の母は病でボロボロで客が取れなかったし、兄はやさぐれて家を出て行ってたから、私は生きていくためにその醜い中年男に身体を売るしかなかった。
でもあの頃の私はアレクセイに恋をしていた・・・。
だからあの男に抱かれる前に、アレクセイに処女を奪ってほしかったの・・・。
それなのに・・・」
アンジェリカにはエカテリーナの語ることが初耳だったようで、驚きから目を大きく見開き、
「あなた達の間にそのようなやり取りがあったの・・・?」
と尋ねた。
アレクセイはエカテリーナ、そしてアンジェリカからも視線を向けられ、苦い顔をして首を左右に振りながらこう言った。
「・・・僕はそんな事できないとエカテリーナを拒絶した・・・。
僕はずっとアンジェが好きだったし、まだ13だったからセックスが出来る身体になっていなかった・・・。」
エカテリーナは眉を吊り上げて強く反論した。
「嘘つき!
あんた、あの時には既に精通していたわ!
私は買い手の話が出たあとすぐにあんたの部屋に相談に行ったの!
そしたらあんた、アンジェリカを想い、自慰行為をしていた・・・。
私はあんたの気持ちがアンジェリカにある現実を突きつけられて悩んで悩んで悩み抜いて、それでも初めての相手はあんたしかいないと思ったから、勇気を出して誘ったの!
それなのに!
・・・まだ精通していないと嘘をつけば、私とアンジェリカに対して角が立たないとでも思った!?」
アレクセイは悲しげに瞳を揺らして拳を握りしめた。
「・・・それからすぐ私はその男に買われた・・・。
最悪な初体験だったわ。
初めてなのにありとあらゆる卑猥なことを刻まれて、その男の部下の男達に輪姦された・・・。
挙句の果てに父親が誰だかわからない子供を妊娠・・・。
そして奴らの保身のために、強制的に毒を飲まされて中絶・・・。
そのまま劣悪な環境の娼館に身を置くことになり、まともな報酬も貰えずにどんどんと客を取らされた・・・。
私はこんな目に遭うことになったのはアレクセイと、そしてアレクセイに想われてるアンジェリカ、あんたの所為だとあんた達を憎んだわ・・・。
最近遊びに来なくなった私を心配してかアンジェリカ、あんたが探し回っていると人伝に訊いたけど、私はそれを無視し続けた。
だって当然じゃない?
あんた達に今更会いたくなんてなかったし、娼婦となった私とあんた達とでは、住む世界がまるで違ってしまったんだもの・・・。」
アンジェリカもアレクセイも何も言えずに辛そうに顔を歪めて俯いた。
「そのうち私も娼婦の仕事に慣れてきたわ。
次第にあんた達を思い出して暗い感情に囚われる事もなくなり、安物のドレスを着た私に男が溺れて夢中になる様を見るのがとても楽しかった・・・。
年齢とともに私の美貌はどんどんと磨かれていったけど、それだけでなく、ニュースペーパーや様々な書物を読んで、話題でも客を楽しませられるように努力をした。
そうすることで、より質の良い客を捕まえる事が出来ると思ったからなのだけど、その通りだった。
私は高級娼館へと引き抜かれ、待遇もどんどん良くなり、あっという間に娼婦のトップにまで上り詰めたわ。
そしてある時、当時次期当主だったダズルの相手をすることになった。」
「ダズル・・・。」
とアンジェリカが眉を寄せてこの間まで夫だった男の名を口にした。
「えぇ。
ダズルは噂に訊いたラスター・ナイトに似た娘を探して娼館を巡っているようだったわ。
だから、
「これからも私の元へと通ってね?」
と約束させたうえで、アンジェリカ・・・あんたのことを詳しく話してあげたの。
「その娘なら私の幼馴染で、5番街のリエーフという武器屋の娘よ。
彼女とその父親もラスター・ナイトに似ていて、何故かナイト家直系の人達のお披露目式や結婚式には参加しなかった。
式に参加した子供には無料でお菓子が配られるでしょう?
なのに何故参加しないの?と不思議に思った私が彼女に尋ねたら、親友だからと特別に教えてくれたわ。
「私は特別な血を引いているから、ナイト家の人に見つかっちゃいけないんだってお父さんとお母さんが言うの。
だから、ナイト家の人の目に触れる式には出られない。」
と・・・。」
ダズルはまさか探していたラスター・ナイトの血を引く娘が、下町の武器屋なんかにいるだなんて思いもしなかったみたいね。
それから間もなくして、あんたが宮廷に輿入れする話が耳に入ったわ。
私は恋仲となっているあんた達が引き裂かれることになったと知って、とっても気分が良かった・・・!」
そう語り終えると、エカテリーナは鉄格子越しの2人に小馬鹿にしたような笑みを向けた。
「そう・・・。
やはり貴方だったのね・・・。
私のことをダズルに教えたのは・・・。」
と呟くようにアンジェリカ。
「えぇ、そうよ!
それから私は失意のアレクセイを慰めてあげようと思って、特別にただで抱かせてあげると言って誘ったわ。
それなのにあんたはまた拒んだ・・・。
貴族共が金貨数枚はたいてでも抱きたがるこの私の誘いを!
まるで汚らわしいものでも見るかのような眼差しを向けて!!」
そう言ってエカテリーナは腹立たし気にアレクセイに怒鳴りつけた。
「違う!
僕は君を汚らわしいと思ったわけじゃない!
ただ・・・君をアンジェの代わりに抱く気にはどうしてもなれなかった・・・。
だから君をまた傷つけたことが申し訳なくて僕は・・・」
とアレクセイは再び悲しげに瞳を揺らして俯いた。
「あんたに拒まれたことは確かに悔しかったけど、私に溺れている客達を相手にしているうちに、その傷は癒されたわ。
そのままあんた達が不幸であれば、私の気は済んだのかもしれない・・・。
だけどアンジェリカ。
あんたはダズルに上手く取り入って、貧民街に学校を建てるという夢を叶えやがった・・・。
しかもアレクセイを校長として、学校視察を名目に、月に一度逢引する口実を作った・・・。」
「それは違う!
あの時の僕は、勤めていた職場が倒産して路頭に迷っていたから・・・それを知ったアンジェが見兼ねて、読み書きと計算の出来る僕に、貧民街の子供達にとっての最初の教師にならないかと声をかけてくれた・・・ただそれだけだ!
アンジェは決して逢引が目的で僕を誘った訳じゃない!」
と必死に弁解するアレクセイ。
それに対してアンジェリカは諦めたように頭を振ると、こう言った。
「もういいわ、アレク・・・。
確かにあの時アレクに対して完全に下心が無かったかと言われれば、そうじゃなかったもの・・・。
例え月に一度の視察の日に、恋人同士のようなやり取りは一切出来なかったとしても、貴方に会える日には少女の様に心が弾んだわ・・・。
エカテリーナはそれが気に入らなかったのね・・・。」
エカテリーナは、
「えぇ、その通りよ。」
と頷いてからこう続けた。
「でも許せなかったのはそれだけじゃなかった・・・。
アンジェリカ・・・あんた、レオンハルトを産んでからとても幸せそうだったわ・・・。
好きでもない男に孕まされた子供の筈なのに・・・。
私にはそれが酷く目障りだった・・・。
私は娼婦という仕事柄仕方のないことだけど、何度か妊娠しては早期のうちに毒を飲んで中絶することを繰り返していたから、医師からはもう子供は望めないだろうと言われていた・・・。
だから余計に子供に恵まれて幸せそうなあんたが許せなかった・・・・・。」
アンジェリカとアレクセイはその時のエカテリーナの心情を察して心を痛め、切なげに瞳を揺らした。
エカテリーナは構わず話を続けた。
「そんなある日、ある異国人の薬師に買われたの。
その人の事は、本当は内緒にしなくちゃならないのだけど・・・まぁあんた達はどうせ明日死ぬのだから、別に教えたって構わないでしょう。
その人は、不気味だけど言いようのない不思議な目をしていて、その目を見ていると、まるで心の中を読まれているかのようだった。
そして、その人は私の目を暫く見つめたあと、
「ほぅ・・・あんたは使えそうだ。」
と言って、
「これをやろう。
そいつを飲んだ後に契れば、確実に子供が授かるだろう。
騙されたと思って使ってみるといい。
副作用は多少あるが、そこは目を潰れ。」
と私に薬をくれた。
それから、
「そいつで希望が叶ったのなら、代わりにあるお方の駒になってほしい。」
と言ったわ。
半信半疑だったけど、私はその薬をダズルに買われた夜に使うことにした。
最初はアレクセイに催淫剤と併せて使って子を孕めば、アンジェリカ、あんたに一番のダメージを与えられるかもしれないと思ったけれど、仮にそうなったとしても、あんたにレオンハルトがいる以上、あんたはその悲しみすら乗り越えてしまうと思った。
それでは意味がないわ!
だからダズルを相手に選んだの。
ダズルの子を孕めば、あんたと同じ公妃になれるし、ダズルとの子供ならアレクセイとの子供よりもあんたを陥れるのに強力な手駒となる。
ナイト家に入り込めたほうが、あの方から仰せつかったお役目にも都合が良かったしね。
そしてルーカスを授かり、娼婦から足を洗って第4公妃となった。
それから私はあのお方の駒としてお役目をこなしながら、あんた達を陥れる機会をずっと伺っていた。
そして遂にこの時が訪れたのよ・・・!!
あははははっ!
ザマァ見ろ!!!」
感情を思いのまま吐き出したエカテリーナは、はぁ、はぁ、はぁと息をついた。
アンジェリカは彼女の息が整うのを待った後、眉を寄せたままでこう言った。
「・・・エカテリーナ。
今更こんなことを言ってももう遅いけれど、貴方に最初に買い手がついた地点で私に相談をしてくれていれば、別の道を示せていたのよ・・・?」
「別の道・・・ですって?
まだ当時13だったあんたに相談したところで、一体何ができたっていうのよ。
あんたの家だってギリギリ平民街にあるとはいえ、私を雇う程武器が売れているようには見えなかったわ。」
エカテリーナは怪訝な顔でそう返した。
「えぇ。
でも世話を焼こうとしていたのは私じゃなく、私の母よ。
貴方は美的感覚に優れていて、私とは違い手先も器用だった。
良く捨てられた古着を拾ってリメイクして、お洒落な布小物に仕立てて私にプレゼントをしてくれていたわね?
そんな貴方の才能を知った私の母が、貴方を友人の店のお針子にどうかと推薦していたのよ。
オリガの末息子のサーシャが働いていた手芸雑貨店・・・そこの店長のお父さんが、当時そこの店長だったの。
あの時はその人が別の町に商談に出ていてまだその返事が貰えていない段階だったから、糠喜びさせてもいけないと思って伝えてなかったけれど・・・貴方が私達の前から姿を消した後、その人が帰ってきていいお返事が貰えたの。
私が貴方を探していたのは、アレクから貴方が娼婦になったらしいと訊いて、心配で居ても立ってもいられなかったのもあるけれど、その道があることを貴方に伝えたかったからなの・・・。
まだあの時なら、こちら側に引き返すことが出来ると思ったから・・・・・。」
とアンジェリカ。
それに対してエカテリーナはフン!と馬鹿にしたように鼻息をつくと、
「・・・お針子ですって?
そんなの精一杯働いたって、娼婦のトップとなった私が収めていた税金にも満たない給金でしょう?
冗談じゃないわ!
もし今の私があんたに言われるままにお針子になる道を行こうとする小娘の私に会ったなら、
「そんな道はやめなさい!
あんたの身体には、今から歩もうとしているその地味な道の100倍は稼げるだけの価値があるのよ!」
って教えてあげるわ!
そしてもし人生をやり直せたとしても、私は娼婦となる道を選んでいたわ・・・!」
と答えた。
「・・・そう・・・。
貴方は娼婦という職業の様々なリスクを、私達への恨みを原動力にして乗り越えてきた・・・。
でもその道を選んだことに悔いはなく、寧ろ誇りに思っているのね・・・。
けれど貴方はそうして身体を売っているうちに、人として大切な何かを何処かへ落としてしまった・・・。
もう、あの頃のエカテリーナは何処にもいないのだわ・・・・・。
わかりました。
昔のことを話してくれてありがとうございます。
第4公妃エカテリーナ様。」
そう言ってアンジェリカはエカテリーナに深く頭を下げた。
エカテリーナはそんなアンジェリカを暫くの間無言で見下ろした後、
「明日・・・あんた達の最期の時を、楽しみにしているわ。」
とだけ言い残すと、再びカツカツカツ…とヒール音を立て鳴らし、フロアから立ち去るのだった。
モニカがレオンにはココアを、ファルガーと自分用にほうじ茶を淹れてから一足遅れてその部屋に行くと、レオンとファルガーはテーブルに向かい合わせで座っていた。
モニカがいない間にファルガーが気を利かしてかレオンに何らかの会話を振ったようだが、レオンがそれに対して愛想の無い返答をして即会話が終了したらしく、2人の間に非常に気まずい空気が流れていた。
モニカは、
(あらまぁ・・・)
と軽く冷や汗を垂らしてから彼らの眼の前にそれぞれの飲み物を置くと、迷わずレオンの隣の席についた。
そんな彼女の行動と、彼女の髪を飾る紺地に白のキキョウの刺繍が入ったリボンを見てファルガーは少し寂しそうに微笑み、諦めたように小さくため息をついてからこう切り出した。
「それじゃあ早速明日・・・いや、もう日を跨いだため今日になってしまったが、アンジェリカ公妃・・・彼女は既にダズル・ナイトの妃ではなくなったのに、いつまでも公妃とお呼びするのも変か・・・。
ならば以降はアンジェリカさんと呼ばせていただくが、アンジェリカさんとアレクセイさんの救出作戦について話し合おう。
だがもう夜分も遅いことだし、君達には睡眠が必要だから、なるべく手短にするよう心掛けるよ。」
モニカとレオンが頷くのを確認し、ファルガーは続けた。
「まず、僕は神避けがある状態では宮廷や処刑会場のコロシアムには近づけない。
だから処刑が始まる前に、君達2人で神避けの回収をお願いしたいんだ。
それには、レオンハルトくんのインビジブルの魔法で君達2人の姿を消し、30分前に宮廷に潜入するのがいいと思う。
もっと早い時間・・・例えば1時間前に潜入すれば、神避けの回収には時間の余裕が持てるが、1時間前ではまだ宮廷内に残っている者も多くいるだろうし、レオンハルトくんの魔力量を考えると、30分前が妥当だと判断した。」
モニカはファルガーの案に頷くと、こう返した。
「わかりましたわ。
ですが一つ懸念が御座います。
神避けはダズル・ナイトの部屋にありますし、鍵がないと入れません。
マスターキーがある執事室にも当然鍵がかかっているでしょうし、無理に部屋の扉を壊せば激しい物音が立ち、宮廷に残っている者に気づかれてしまうリスクがあります。」
「そのことなら心配いらないよ。」
ファルガーはそう言うと、アイテムボックスからジャラ・・・と鍵束を取り出した。
モニカとレオンは首を傾げ、
「その鍵束は・・・?」
とモニカが尋ねた。
「これがさっき言っていたジェイド殿からの残りの置き土産の一つだよ。
当然ジェイド殿がナイト家を裏切った地点で、彼の部屋にあったこの鍵束が持ち出されたことは、相手側の知る所となっているだろう。
だが昨日の今日では、いくら金属加工技術の高いアデルバートにおいても鍵の変更は不可能だし、まだここにある鍵は使える筈だ。」
とファルガーは答えた。
「わかりました。
ジェイド様のお蔭で鍵の問題はあっさりと解決ですわね。」
そこでレオンが眉を寄せつつこう言った。
「だが、父の部屋のあのデカい花瓶の下に神避けがあるのだろう?
モニカが在り処を発見したときにはジェイド兄さんの魔法で何とか出来たのかもしれないが、あの大きさの水の入った花瓶を持ち上げるなんて僕には無理だぞ?」
それに対しモニカが、
「そうですわね・・・。」
と少し考えてからこう答えた。
「でしたら持ち上げるのではなく、押してみるのは如何でしょう?
幸いにも花瓶の下に敷かれているドイリーはシルクのレース編みのものでしたし、私達2人で押せば滑ると思うのです。
そして神避けを回収したら元通りの位置まで押す・・・如何です?」
とモニカ。
「流石モニカだな。
それでいこう!」
と頷くレオン。
「えぇ!
これで花瓶の問題もクリアですわね。
ですがファルガー様。
神避けはどうやって回収すればよいのでしょう?
無事回収出来たとしても、それを持っている私達が宮廷やコロシアムにいては、ファルガー様が近づけませんし意味がありませんわよね?」
とモニカ。
それに対してファルガーは、
「あぁ、それならこれに回収してもらえれば大丈夫だよ。」
と言ってアイテムボックスから黒く光る小さな魔石がついた指輪を取り出し、それをモニカに渡した。
「これは・・・ファルガー様がいつも指につけてらっしゃるアイテムボックスの指輪と同じものですか?」
とモニカはファルガーの指にはめられた同じデザインの指輪と手元の指輪を見比べながらながらそう尋ねた。
「うん。
それは僕の予備のアイテムボックスだよ。
神避けはアイテムボックスに入れさえすれば、その効果は消されて神族である僕にも持ち運ぶことが出来るんだ。
アイテムボックスを君に渡すのは初めてだが、これは僅かでも魔力のある者なら誰でも起動出来る。
後でレオンハルトくんから使い方を教わるといいよ。」
それを訊いたレオンがファルガーにこう突っ込んだ。
「ならば最初からアイテムボックスの使い方を知っている僕に渡せばいいだろう?」
それに対しファルガーはクツクツと笑うとこう返した。
「それはそうだが、そのアイテムボックスは創造神様から仕事用に賜ったものだから、万が一にでも紛失したり壊されたりしたら大事だし、僕にとって信頼のおける方に任せたいんだ。
ごめんね。」
レオンはそれに対してムスッと不貞腐れてこう返した。
「ふん・・・。
確かに僕とモニカでは、あんたにとって信頼できるのはモニカのほうだろうが、大袈裟なんだよ。
アイテムボックスは確かに高価だが、高くとも10000G(※日本円で100万円)程度だろう?
一国の代表ともあろうあんたがそれくらいでケチくさいぞ。」
ファルガーは頭を振るとこう答えた。
「いや、それは下界・・・人間の世で多く出回っている廉価版アイテムボックスのことだろう?
これは天然物だから正規の価格ならばもう1つ0が付く。
ジャポネの代表である僕でも私用でそう安々と使える額では無いよ。
人で天然物のアイテムボックスを所持しているのは、各国の代表クラスに該当する者と、アイテムボックスの仕入元である狩人、そして天然物に拘る見栄っ張りな金持ちくらいだろう。
ジェイド殿も昨日この教会でお会いした際に天然物を一つ所持されていたが、それには彼と妹君とそのご子息の大切な荷物が入っているから君への置き土産には出来ないと、申し訳無さそうにしていたよ。」
レオンとモニカは顔を見合わせ、同時に首を傾げた。
「あの・・・廉価版とか天然物とは一体?」
そうモニカが尋ねると、ファルガーはこう答えた。
「あぁ、アイテムボックスと呼ばれる魔石には天然物と廉価版の2種類があってね。
天然物は魔獣の体内で生成された魔石で、廉価版は人の手により魔石を合成して作られたものなんだ。
天然物、廉価版、そのどちらも亜空間に繋がりアイテムを沢山出し入れする機能を備えているが、廉価版には収納出来る量や物の大きさに制限があったり、天然物のように中に入れた物が劣化しないよう時を止める機能がないものもあるんだ。
まぁそれでも充分に暮らしの役に立つけどね。
だが、神避けを回収するには天然物でないと話にならない。
廉価版では神避けや白の剣のような天界製のアイテムの質量は受け止めきれずに壊れてしまうからね。」
「そうなのですね。
かしこまりました。
それではこちらのアイテムボックスに神避けを回収して、ファルガー様と合流出来次第すぐにお返ししますわ。」
とモニカは言って、それをそっと左手の、サイズ的に丁度良かった中指にはめた。
「うん、頼んだよ。
もう一つ、君に預けたいものがあるんだ。」
続けてファルガーは小さな水晶球のついたペンダントと、10cm四方くらいの大きさの水晶板を取り出し、ペンダントのほうをモニカに手渡した。
「これは昨日のお披露目式で桜雅に持たせていた魔道具だ。
この水晶球に映った映像が、対となるこの水晶板に映し出され、君たちと視界が共有できる。」
と言って水晶板を指差すファルガー。
「これで神避けが回収されたタイミングを見計らってコロシアムに潜入するから、その後で落ち合おう。
僕がインビジブルの魔法を使うと、君達からも僕の姿が見えなくなってしまい困るから、僕はいつも通り変装して騎士に成りすまし潜入するとしよう。
でも僕からはインビジブルで姿を消した君達の姿が視えるから、こちらから迎えに行く。
君達はコロシアム内のなるべく人目につかない場所で待っていてほしい。」
モニカは水晶球のついたペンダントを首から下げると同時に、いつも首から下げているファルガーから貰った陶器の笛を服の中から取り出し、こう言った。
「かしこまりました。
神避けの回収が終わりましたら、この笛を吹いてファルガー様をお呼びしようかと思っていたのですが、この魔道具があるのならそれは必要なさそうですわね?」
「うん、そうだね。
その笛は一度限りしか使えないから、緊急時の為に取っておくといい。
処刑会場では何が起こるかわからないし、その笛を使う機会があるかもしれない。
その笛の音が聴こえたら、何を差し置いてでも君を助けに行くからね。」
ファルガーはそう言って優しくモニカに微笑むが、その視線を遮るかのようにレオンがテーブルに手を突き声を荒げた。
「モニカの危機に駆けつけるのは僕の役目だ!」
「・・・だけど、それがもしレオンハルトくんの足では間に合いそうもない状況だったらどうする?
僕の足は世界最速で、君は人並みだ。
それを君の気持ちだけで無理に押し通すというなら、彼女を助けることは叶わず、最悪失うことになるかもしれない。
それでも君は僕にその役目を譲る気はないと言うのかい?」
「・・・・・。」
レオンは反論出来ずに俯き、黙り込んだ。
「わかったかい?
適材適所なんだよ。
たからその時ばかりは僕に任せてくれないかな?
その代わり、君には僕の抜けた穴を埋めて欲しいんだ。
それが頼める程戦力になる騎士は、この国では君しかいない。」
「わかった・・・。」
レオンはファルガーの言うことは最もで、また、彼なりに自分の力を認めてはいるのだと理解もしたようで、不機嫌そうに眉を寄せたままではあったが頷いた。
「うん・・・。
わかってくれて良かったよ。
それで合流後なんだが、アンジェリカさんとアレクセイさんの処刑を阻止するために、タイミングを見計らって姿を現そう。
そうすることで会場を混乱させることが出来る。
今までのアデルバートの歴史を振り返ると、この国の死刑囚は大抵ギロチン台にかけられているから、きっと今回もそうではないかと推測する。
そして混乱の最中彼らの拘束を解き、2人を逃がす・・・それしかないだろう。」
とファルガー。
それを聞いてレオンは険しい顔のまま頭を振った。
「いや・・・アレクセイさんはどうかわからないが、母様はギロチン台にはかけられない。」
「何故そう思う?」
と怪訝な顔をするファルガー。
それに対してレオンは答えた。
「そうか・・・。
あんたはその水晶の魔道具を着けたオーガの視点から得た情報しか持っていないんだったな。
昨日お披露目式の後で、ルーカスが禍々しい感じのする神剣ダインスレイブとやらを掲げて次期当主として発表された際、観客席には聞こえないように父が言ったんだ。
ルーカスの持つダインスレイブは、斬った者の血を取り込むことが出来て、それで母様を斬れば、白の剣の真価を発揮させることだって出来るって。
だから母様の血を取り込む為に、ルーカスはダインスレイブで直接手を下そうとすると思う・・・。」
ファルガーは驚き目を見開くと、テーブルに手を突き席を立った。
「なんだって!?
確かに、第4公子が神より神剣ダインスレイブを授かったとダズル・ナイトが言っているのは聞いた・・・。
だが僕は、あれはダルダンテ神が魔剣ダインスレイブを模して作った偽物で、どうせルーカスを操る類のものだろうと軽く捉えていたが・・・確かに斬った者の血を取り込んで、自分のものに出来るとダズル・ナイトは言ったんだな・・・!?」
レオンは珍しく取り乱したファルガーの様子に圧倒され驚きながらも、
「あぁ・・・。
モニカもその場にいたから訊いているよな?」
とモニカに同意を求めた。
モニカは、
「えぇ・・・。
ファルガー様はダインスレイブという剣をご存知なのですか?」
とレオンに同意してからファルガーに尋ねた。
「うん・・・。
僕が勇者だった頃、魔界でダインスレイブという魔剣を手に入れたんだ。
だがあれは知性あるインテリジェンスソードで、人を惑わし意のままに操るという極めて危険なものだったから、すぐに創造神様に預け、今も創造神様の管理の元、厳重に保管されている。
ダルダンテがいくら創造神様の子であっても持ち出しようがないし、もしも持ち出されていたなら倉庫番がすぐに気が付き、僕の耳にも入る筈だ。
だからきっとそれは偽物に違いない・・・。
だがまさか、人の血を取り込み、自分の物とできる能力を再現しているとは・・・!
ハッタリか?
いや・・・魔法や魔術に長けた奴のことだ。
それに近いものを再現出来ているとしてもおかしくはない・・・。
何にせよ、レオンハルトくんの言う通り、アンジェリカさんがギロチン台にかけられることがないことは確実だろうな・・・。
だが、逆にその方が助けやすいかもしれない。
レオンハルトくん。
その偽ダインスレイブの持ち主である第4公子ルーカスは、騎士としてどうなんだ?」
とファルガーはレオンに尋ねた。
レオンは顎に手を当ててルーカスについて思い出した後、こう答えた。
「ルーカス・・・あいつとはまだ直接手合わせをしたことはないが、見習い時代にあいつが他の騎士見習いと手合わせをしているところなら見たことがある。
あの時は相手を権力で脅して勝ってはいたが、ルーカスと同年代の騎士見習い達と比べて、中の下くらいの実力だと思う。」
「成る程。
その程度の少年が魔剣ダインスレイブ同様の剣を手にしたところで、ねじ伏せるのは容易いな。
それよりも危惧すべきは母親のほうか。
彼女は沢山の魔石の指輪を着けていた。
あれはダルダンテから手に入れたものだろうが、中には強力な魔獣を召喚する力を持つものもあると見ていい。
ルーカスが追い詰められれば、彼女はそれを使うかもしれない。」
とファルガーは真剣な面持ちで言った。
「魔獣を呼び寄せる・・・だと?
もしかして・・・ロジウムにいたあのブルードラゴン・・・あのレベルのものを呼ぶかもしれないというのか!?」
とレオンが険しい顔をして声を荒げた。
「いや・・・残念ながらあれ以上のものだろう。
あのブルードラゴンは、おそらくかの神の計画の実験としてロジウムに放たれている。
だとしたら、次に放たれるのはもっと強い魔獣である可能性が高い。
だから強敵との戦闘の可能性は頭に置いておいて欲しい。」
レオンは不安気に眉を寄せ、ゴクッと喉を鳴らした。
「大丈夫だ。
そうなったときには僕も参戦する。
それに白の剣を手にした君は、まだラスターには届かないにしろ、人類では最強クラスだ。
あのブルードラゴン以上の敵が現れたとしても、そう簡単に負けやしないだろう。
君の唯一の弱点であるメンタルの弱さも、傍で愛する者が見守ってくれる中なら心配ないだろう?」
そう言ってファルガーはモニカとレオンを交互に見て口角を上げた。
レオンとモニカは微笑み合うと、それにしっかりと頷いた。
「それでは私は、お2人がエカテリーナの召喚した魔獣と戦っている間に隙を見計らい、アンジェリカ様とアレクセイさんの身柄を確保すればよいのですね?」
とモニカ。
「あぁ。
だが2人は死刑囚だ。
おそらく簡単には外せない手枷足枷をされているだろうが、僕の刀かレオンハルトくんの白の剣であれば鎖を断ち切ることが出来るから、まずはどちらかが鎖を切る。
その後、君はアンジェリカさんとアレクセイさんの2人をミスティル教会まで連れて行ってあげてくれ。
教会にある天界ゲートは既に閉じてしまったが、その周辺の結界は今日中はそのままにしておくし、神官たちの口も硬い。
このミスティルで最も安全に彼らを匿える場所だろう。
君はそこで僕とレオンハルトくんが来るのを待っていてくれ。
だが事が上手く運ばず、君1人ではどうしようもない事態に陥ったときには、その笛で僕を呼んでくれ。
すぐに駆けつける。
そして、誰も失うことなく皆でジャポネに帰ろう!」
ファルガーのその言葉にモニカとレオンは、
「えぇ・・・!」
「わかった・・・!」
とそれぞれと強く頷いた。
そしてファルガーは、そっとレオンに向けて手を差し出した。
レオンは怪訝そうな顔でファルガーを見たが、少し迷ってからその手を取った。
そうして握手を交わす彼らを見て、モニカはこの2人が協力し合えば、きっと明日アンジェリカとアレクセイを助け出せるに違いないと強く感じるのだった。
作戦会議が終わり部屋を出ると、花売りのニーナと武器職人のユリスが教会の待合席で待っていた。
ニーナはモニカ達の姿を見つけると席を立ち、
「モニカさん!」
と声を上げてこちらへと駆け寄ってきた。
「ニーナさん!?
どうしてこちらへ?」
嬉しそうにニーナの手を取りながら、疑問符を顔に沢山浮かべているモニカを見てファルガーはふふっと微笑むと、
「彼女だろう?
君の言っていた花屋さんの友達は。
折角お隣なのだし、ちゃんとお別れがしたいだろうと思って、さっき君達がヴィクトルさん達を呼びに行っている間に僕が花屋さんに行って事情を説明したんだ。
そしたら君とレオンハルトくんを今晩泊めてくれるって。」
と説明をした後、モニカの耳元でそっと、
『確かに君の言う通り、アーシェに少し似ているね、彼女。』
と耳打ちをした。
そんなやり取りを見たレオンがムッと顔を歪めてモニカの腕を引くと、ファルガーを睨んだ。
ファルガは困ったように眉を寄せてレオンに手のひらを向けると、
「いや、レオンハルト君が気にするような話は別にしていないのだが・・・」
と言った。
「信じられないな。
あんたは油断できない。」
とレオン。
モニカはそんな彼らの間に入り、
「まぁまぁレオン様。
後で何の話だったのか説明しますので、ここは抑えてくださいな。」
と言った。
ニーナはそんな彼らを見てクスクスと笑うとこう言った。
「昨日のお披露目式をユリスと一緒に見に行ったんですけど、大変なことになってしまったので心配していたんです。
お2人がご無事で、またこうしてお会い出来て本当に良かった・・・!
モニカさん、金獅子さん、うちは狭いですけど遠慮なく泊まって下さい。
お風呂も用意していますから。」
「ニーナさん・・・。
お心遣い、とても嬉しいです。
でも・・・」
モニカはニーナ達を巻き込んでしまわないかと心配し、眉を寄せた。
それを察してファルガーが言った。
「心配要らないよ。
彼女の家も結界の範囲内だから、騎士達に君達の姿を見られることはない。
ニーナさんと積もる話もあるだろう?
明日に支障ない範囲で沢山話をするといい。
レオンハルトくんはユリスくんと同じ部屋に寝かせてもらうといいよ。」
「ちょっと待て!
僕はモニカと同室ではないのか!?」
と抗議するレオン。
ファルガーは肩をすくめて手のひらを上に向けるとこう返した。
「彼女達の時間を邪魔するのは無粋だろう?
それとも僕と一緒に教会に泊めて貰うかい?
因みにこの教会に泊まれる部屋は一つしか無いが・・・」
レオンはファルガーの言葉で非常に渋い顔をすると、黙ってユリスの元へと行った。
そして、
「一晩世話になる・・・」
とユリスに向かって頭を下げたので、その場にいるレオン以外の者は皆可笑しくて、クスクスと笑うのだった。
時は少し遡り、前日の22時─。
宮廷の地下深くの重罪人が投獄されるフロアの一室に入れられたアンジェリカとアレクセイの元に、カツカツカツ…とヒール音を立て鳴らし、鮮やかな赤い髪をしたエカテリーナが訪れた。
「こんばんは、アンジェリカにアレクセイ。
処刑前夜、いかがお過ごしかしら?」
そんな彼女に微笑みを向けてアンジェリカが答えた。
「・・・エカテリーナ・・・。
親切にアレクと同じ部屋にしてくれてありがとう。
お蔭様で人生最後の夜を、一人淋しく過ごさずに済みそうだわ。」
「それは良かった。
あんた、いい年齢なのに男どもにそこそこ需要があるみたいでね。
本当は今晩、アレクセイの眼の前で騎士達の慰み者にしてあげようかと思ったんだけど、生憎とレオンハルトとジャポネの女スパイ、そしてジェイドとベリル、スフェーンまでもが逃げ出しちゃって、今騎士達が皆彼等の捜索で出払っているのよ。
残念だわ。
というわけで折角2人きりなんだから、そこのベットで一晩中真実の愛を確かめあってくれてもいいのよ?
ご覧の通り相当年季の入ったものだから、あまり激しくされたら壊れちゃうかもしれないから、程々にしてくれると助かるけれどね。」
そう皮肉たっぷりな言葉を投げつけてから、粗末な囚人用の寝台を指差すエカテリーナ。
それに対してアンジェリカはホッとしたように優しく微笑むと、こう答えた。
「そう・・・あの子達、逃げ出したのね・・・。
良かった・・・。
でも貴方のその提案に乗るわけにはいかないわ。
私は最後まで潔癖を貫きたいの。
ここでアレクと結ばれては、貴方のでっち上げが真実になってしまうもの。
ね?アレク。」
とアレクセイに同意を求めるアンジェリカ。
「うん。
もし本当に明日死ぬのだとしても、アンジェと2人で逝けるのなら怖くないよ。
それにもし僕らに明後日が来るのなら、幾らでも愛を確かめる時間はある。」
とアレクセイも穏やかに微笑み頷いた。
彼のその言葉はエカテリーナの逆鱗に触れたようで、彼女は更に顔を歪めると、
「は・・・?
あんたらに明後日が来るですって・・・?
あんたらは明日でその命を終えるんだよ!!」
と乱暴な口調で怒鳴り、眼の前の鉄格子を蹴った。
「そうかもしれない。
でも、そうじゃないかもしれないわ。」
と冷静に返すアンジェリカ。
「ふん!
逃げ出したあんたの息子とジャポネの女スパイ、それにその後ろにいる神使も明日の処刑を阻止しに動くかもしれないけれど、私は絶対に負けないわ!
明日、必ずあんた達の命を奪ってみせる!!
そしてダズルを影から操ることでこの国の実権を握り、私を売女だと馬鹿にしてきた全ての奴らに思い知らせてやる!!」
アンジェリカは感情を吐き出してはぁ、はぁ、はぁと息をつくエカテリーナに憐れみの眼差しを向けると、床についた膝に手を置きこう言った。
「・・・ねぇ、エカテリーナ。
私達、年齢も同じで家も近かったから、子供の頃はいつも一緒に遊んだ幼馴染だったわね?
それなのに、いつの間にか貴方と気持ちがすれ違うようになってしまった・・・。
そして今は私達を罠に嵌め、殺そうとまでしている・・・。
何故なの?
最後にそれだけ訊かせて欲しい・・・。」
「・・・・・いいわ。
死に土産に話してあげる・・・。」
エカテリーナはそう答えると睫毛を伏せて昔のことを思い出しながら、ゆっくりと赤い唇を開いた。
「あんたらも知っての通り、私は貧民街で産まれた・・・。
最下層の娼婦だった母の、父親のわからない子・・・。
アレクセイは同じ貧民街産まれで、アンジェリカ、あんたはギリギリ平民街の産まれだったけど、私達は家も年齢も近かったから、毎日暗くなるまで良く遊んだわ。
そしてあんたはジュニアスクールで習った読み書きや計算を、貧しくて学校に行けない私とアレクセイのために教えてくれた。
そのお蔭で文字が読めないために詐欺まがいの契約書にサインさせられ、更に借金を重ねそうだった母を助けることも出来たし、計算が出来ないために不当な賃金で重労働をさせられていた兄を助けることも出来た。
当時の私は読み書き計算を教えてくれたあんたに感謝したし、あんたの将来貧民街に学校を建てたいという夢も、応援したいと思っていた・・・。
あの時まではね・・・。」
「あの時・・・?」
とアンジェリカは怪訝そうに眉を寄せた。
「そう。
あれはあんたがジュニアスクールを卒業し、私達が13になった年だった。
私に初めて娼婦としての買い手がついたの。
あの頃の母は病でボロボロで客が取れなかったし、兄はやさぐれて家を出て行ってたから、私は生きていくためにその醜い中年男に身体を売るしかなかった。
でもあの頃の私はアレクセイに恋をしていた・・・。
だからあの男に抱かれる前に、アレクセイに処女を奪ってほしかったの・・・。
それなのに・・・」
アンジェリカにはエカテリーナの語ることが初耳だったようで、驚きから目を大きく見開き、
「あなた達の間にそのようなやり取りがあったの・・・?」
と尋ねた。
アレクセイはエカテリーナ、そしてアンジェリカからも視線を向けられ、苦い顔をして首を左右に振りながらこう言った。
「・・・僕はそんな事できないとエカテリーナを拒絶した・・・。
僕はずっとアンジェが好きだったし、まだ13だったからセックスが出来る身体になっていなかった・・・。」
エカテリーナは眉を吊り上げて強く反論した。
「嘘つき!
あんた、あの時には既に精通していたわ!
私は買い手の話が出たあとすぐにあんたの部屋に相談に行ったの!
そしたらあんた、アンジェリカを想い、自慰行為をしていた・・・。
私はあんたの気持ちがアンジェリカにある現実を突きつけられて悩んで悩んで悩み抜いて、それでも初めての相手はあんたしかいないと思ったから、勇気を出して誘ったの!
それなのに!
・・・まだ精通していないと嘘をつけば、私とアンジェリカに対して角が立たないとでも思った!?」
アレクセイは悲しげに瞳を揺らして拳を握りしめた。
「・・・それからすぐ私はその男に買われた・・・。
最悪な初体験だったわ。
初めてなのにありとあらゆる卑猥なことを刻まれて、その男の部下の男達に輪姦された・・・。
挙句の果てに父親が誰だかわからない子供を妊娠・・・。
そして奴らの保身のために、強制的に毒を飲まされて中絶・・・。
そのまま劣悪な環境の娼館に身を置くことになり、まともな報酬も貰えずにどんどんと客を取らされた・・・。
私はこんな目に遭うことになったのはアレクセイと、そしてアレクセイに想われてるアンジェリカ、あんたの所為だとあんた達を憎んだわ・・・。
最近遊びに来なくなった私を心配してかアンジェリカ、あんたが探し回っていると人伝に訊いたけど、私はそれを無視し続けた。
だって当然じゃない?
あんた達に今更会いたくなんてなかったし、娼婦となった私とあんた達とでは、住む世界がまるで違ってしまったんだもの・・・。」
アンジェリカもアレクセイも何も言えずに辛そうに顔を歪めて俯いた。
「そのうち私も娼婦の仕事に慣れてきたわ。
次第にあんた達を思い出して暗い感情に囚われる事もなくなり、安物のドレスを着た私に男が溺れて夢中になる様を見るのがとても楽しかった・・・。
年齢とともに私の美貌はどんどんと磨かれていったけど、それだけでなく、ニュースペーパーや様々な書物を読んで、話題でも客を楽しませられるように努力をした。
そうすることで、より質の良い客を捕まえる事が出来ると思ったからなのだけど、その通りだった。
私は高級娼館へと引き抜かれ、待遇もどんどん良くなり、あっという間に娼婦のトップにまで上り詰めたわ。
そしてある時、当時次期当主だったダズルの相手をすることになった。」
「ダズル・・・。」
とアンジェリカが眉を寄せてこの間まで夫だった男の名を口にした。
「えぇ。
ダズルは噂に訊いたラスター・ナイトに似た娘を探して娼館を巡っているようだったわ。
だから、
「これからも私の元へと通ってね?」
と約束させたうえで、アンジェリカ・・・あんたのことを詳しく話してあげたの。
「その娘なら私の幼馴染で、5番街のリエーフという武器屋の娘よ。
彼女とその父親もラスター・ナイトに似ていて、何故かナイト家直系の人達のお披露目式や結婚式には参加しなかった。
式に参加した子供には無料でお菓子が配られるでしょう?
なのに何故参加しないの?と不思議に思った私が彼女に尋ねたら、親友だからと特別に教えてくれたわ。
「私は特別な血を引いているから、ナイト家の人に見つかっちゃいけないんだってお父さんとお母さんが言うの。
だから、ナイト家の人の目に触れる式には出られない。」
と・・・。」
ダズルはまさか探していたラスター・ナイトの血を引く娘が、下町の武器屋なんかにいるだなんて思いもしなかったみたいね。
それから間もなくして、あんたが宮廷に輿入れする話が耳に入ったわ。
私は恋仲となっているあんた達が引き裂かれることになったと知って、とっても気分が良かった・・・!」
そう語り終えると、エカテリーナは鉄格子越しの2人に小馬鹿にしたような笑みを向けた。
「そう・・・。
やはり貴方だったのね・・・。
私のことをダズルに教えたのは・・・。」
と呟くようにアンジェリカ。
「えぇ、そうよ!
それから私は失意のアレクセイを慰めてあげようと思って、特別にただで抱かせてあげると言って誘ったわ。
それなのにあんたはまた拒んだ・・・。
貴族共が金貨数枚はたいてでも抱きたがるこの私の誘いを!
まるで汚らわしいものでも見るかのような眼差しを向けて!!」
そう言ってエカテリーナは腹立たし気にアレクセイに怒鳴りつけた。
「違う!
僕は君を汚らわしいと思ったわけじゃない!
ただ・・・君をアンジェの代わりに抱く気にはどうしてもなれなかった・・・。
だから君をまた傷つけたことが申し訳なくて僕は・・・」
とアレクセイは再び悲しげに瞳を揺らして俯いた。
「あんたに拒まれたことは確かに悔しかったけど、私に溺れている客達を相手にしているうちに、その傷は癒されたわ。
そのままあんた達が不幸であれば、私の気は済んだのかもしれない・・・。
だけどアンジェリカ。
あんたはダズルに上手く取り入って、貧民街に学校を建てるという夢を叶えやがった・・・。
しかもアレクセイを校長として、学校視察を名目に、月に一度逢引する口実を作った・・・。」
「それは違う!
あの時の僕は、勤めていた職場が倒産して路頭に迷っていたから・・・それを知ったアンジェが見兼ねて、読み書きと計算の出来る僕に、貧民街の子供達にとっての最初の教師にならないかと声をかけてくれた・・・ただそれだけだ!
アンジェは決して逢引が目的で僕を誘った訳じゃない!」
と必死に弁解するアレクセイ。
それに対してアンジェリカは諦めたように頭を振ると、こう言った。
「もういいわ、アレク・・・。
確かにあの時アレクに対して完全に下心が無かったかと言われれば、そうじゃなかったもの・・・。
例え月に一度の視察の日に、恋人同士のようなやり取りは一切出来なかったとしても、貴方に会える日には少女の様に心が弾んだわ・・・。
エカテリーナはそれが気に入らなかったのね・・・。」
エカテリーナは、
「えぇ、その通りよ。」
と頷いてからこう続けた。
「でも許せなかったのはそれだけじゃなかった・・・。
アンジェリカ・・・あんた、レオンハルトを産んでからとても幸せそうだったわ・・・。
好きでもない男に孕まされた子供の筈なのに・・・。
私にはそれが酷く目障りだった・・・。
私は娼婦という仕事柄仕方のないことだけど、何度か妊娠しては早期のうちに毒を飲んで中絶することを繰り返していたから、医師からはもう子供は望めないだろうと言われていた・・・。
だから余計に子供に恵まれて幸せそうなあんたが許せなかった・・・・・。」
アンジェリカとアレクセイはその時のエカテリーナの心情を察して心を痛め、切なげに瞳を揺らした。
エカテリーナは構わず話を続けた。
「そんなある日、ある異国人の薬師に買われたの。
その人の事は、本当は内緒にしなくちゃならないのだけど・・・まぁあんた達はどうせ明日死ぬのだから、別に教えたって構わないでしょう。
その人は、不気味だけど言いようのない不思議な目をしていて、その目を見ていると、まるで心の中を読まれているかのようだった。
そして、その人は私の目を暫く見つめたあと、
「ほぅ・・・あんたは使えそうだ。」
と言って、
「これをやろう。
そいつを飲んだ後に契れば、確実に子供が授かるだろう。
騙されたと思って使ってみるといい。
副作用は多少あるが、そこは目を潰れ。」
と私に薬をくれた。
それから、
「そいつで希望が叶ったのなら、代わりにあるお方の駒になってほしい。」
と言ったわ。
半信半疑だったけど、私はその薬をダズルに買われた夜に使うことにした。
最初はアレクセイに催淫剤と併せて使って子を孕めば、アンジェリカ、あんたに一番のダメージを与えられるかもしれないと思ったけれど、仮にそうなったとしても、あんたにレオンハルトがいる以上、あんたはその悲しみすら乗り越えてしまうと思った。
それでは意味がないわ!
だからダズルを相手に選んだの。
ダズルの子を孕めば、あんたと同じ公妃になれるし、ダズルとの子供ならアレクセイとの子供よりもあんたを陥れるのに強力な手駒となる。
ナイト家に入り込めたほうが、あの方から仰せつかったお役目にも都合が良かったしね。
そしてルーカスを授かり、娼婦から足を洗って第4公妃となった。
それから私はあのお方の駒としてお役目をこなしながら、あんた達を陥れる機会をずっと伺っていた。
そして遂にこの時が訪れたのよ・・・!!
あははははっ!
ザマァ見ろ!!!」
感情を思いのまま吐き出したエカテリーナは、はぁ、はぁ、はぁと息をついた。
アンジェリカは彼女の息が整うのを待った後、眉を寄せたままでこう言った。
「・・・エカテリーナ。
今更こんなことを言ってももう遅いけれど、貴方に最初に買い手がついた地点で私に相談をしてくれていれば、別の道を示せていたのよ・・・?」
「別の道・・・ですって?
まだ当時13だったあんたに相談したところで、一体何ができたっていうのよ。
あんたの家だってギリギリ平民街にあるとはいえ、私を雇う程武器が売れているようには見えなかったわ。」
エカテリーナは怪訝な顔でそう返した。
「えぇ。
でも世話を焼こうとしていたのは私じゃなく、私の母よ。
貴方は美的感覚に優れていて、私とは違い手先も器用だった。
良く捨てられた古着を拾ってリメイクして、お洒落な布小物に仕立てて私にプレゼントをしてくれていたわね?
そんな貴方の才能を知った私の母が、貴方を友人の店のお針子にどうかと推薦していたのよ。
オリガの末息子のサーシャが働いていた手芸雑貨店・・・そこの店長のお父さんが、当時そこの店長だったの。
あの時はその人が別の町に商談に出ていてまだその返事が貰えていない段階だったから、糠喜びさせてもいけないと思って伝えてなかったけれど・・・貴方が私達の前から姿を消した後、その人が帰ってきていいお返事が貰えたの。
私が貴方を探していたのは、アレクから貴方が娼婦になったらしいと訊いて、心配で居ても立ってもいられなかったのもあるけれど、その道があることを貴方に伝えたかったからなの・・・。
まだあの時なら、こちら側に引き返すことが出来ると思ったから・・・・・。」
とアンジェリカ。
それに対してエカテリーナはフン!と馬鹿にしたように鼻息をつくと、
「・・・お針子ですって?
そんなの精一杯働いたって、娼婦のトップとなった私が収めていた税金にも満たない給金でしょう?
冗談じゃないわ!
もし今の私があんたに言われるままにお針子になる道を行こうとする小娘の私に会ったなら、
「そんな道はやめなさい!
あんたの身体には、今から歩もうとしているその地味な道の100倍は稼げるだけの価値があるのよ!」
って教えてあげるわ!
そしてもし人生をやり直せたとしても、私は娼婦となる道を選んでいたわ・・・!」
と答えた。
「・・・そう・・・。
貴方は娼婦という職業の様々なリスクを、私達への恨みを原動力にして乗り越えてきた・・・。
でもその道を選んだことに悔いはなく、寧ろ誇りに思っているのね・・・。
けれど貴方はそうして身体を売っているうちに、人として大切な何かを何処かへ落としてしまった・・・。
もう、あの頃のエカテリーナは何処にもいないのだわ・・・・・。
わかりました。
昔のことを話してくれてありがとうございます。
第4公妃エカテリーナ様。」
そう言ってアンジェリカはエカテリーナに深く頭を下げた。
エカテリーナはそんなアンジェリカを暫くの間無言で見下ろした後、
「明日・・・あんた達の最期の時を、楽しみにしているわ。」
とだけ言い残すと、再びカツカツカツ…とヒール音を立て鳴らし、フロアから立ち去るのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる