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6話 デートとリボン そして御主人様に捧げる初めての…
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モニカがレオンの専属メイドとなってから数日が経過したある日の早朝─。
モニカは礼拝堂にてファルガーからの返事を受け取っていた。
─桃花へ。
まずは君が無事レオンハルト君の専属メイドになれて良かった。
僕にとっても大切な君が、女癖の悪い主人の元に置かれるのは心配でならなかったからね。
それにしても・・・ミスティルの町の人から少しは情報を得ていたが、やはり現当主と第一、第二公子はラスターと似ても似つかなかったか・・・。
実は僕を除く英雄達は魔王を打ち倒した後、日常に戻る前にヘリオス様からある”調整”をなされていてね。
それにより、英雄の血を引く子孫はあまり多く子を成せない筈なんだ。
大体一人の子孫に対して一人の子・・・稀にニ人の子を授かる者もいるが、その代わりにその子孫に子が授りにくくなったりして、今のナイト家みたいに子孫だらけの一族として発展するなどとてもあり得ないことなんだ。
そのことから今のナイト家は、ラスターの血を引かない偽物の家系なのかもしれないと僕は推測していた。
その事自体は僕にとって別にどうでもいいことなんだ。
偽物でもなんでも、国をきちんと統治しているのであればな。
だが、君からラスターにそっくりだというレオンハルト君のことを聞いて、本当にラスターの血を引く者がその偽のナイト家に取り込まれているのだとしたら、話はややこしくなると考えた。
君はレオンハルト君だけでなく、彼の母君もラスターに似ており、それがやけに引っかかると言ったね?
君の推測通り、もし平民上がりの彼の母親こそが本物のラスターの子孫なのだとしたら、彼女の息子であるレオンハルト君は、本人にその自覚がなくともアデルバート神国中を巻き込むナイト家お家騒動における”渦中の人物”ということになる。
とすると、今のナイト家が偽物であることが民にバレないうちに本物を次期当主に据えて、徐々に本物のナイト家へと変えていこうとする勢力、そして今の地位を脅かしかねない本物を消し去ろうとする勢力の2つがナイト家の中に存在すると想像できる。
メイドに毒を盛らせているのは単に平民上がりだからという理由だけではなく、後者の勢力の企みなのだとしたら頷ける。
そして、そんな付け入る隙だらけのナイト家の渦中の存在である彼を、ダルダンテが放っておく筈がない。
これから引き起こそうとしている戦争のキッカケ、そして駒として活用しようと考えるだろう・・・。
僕はそこを心配している。
その読みが当っているかどうかを知るために、やはり彼らの血縁関係についてハッキリさせる必要がある。
実は、ヘリオス様の手元には英雄達の血が今も新鮮なまま保管されていてね。
そのラスターの血と、彼らの血もしくは精液か唾液・・・唾液の場合はそれなりの量が必要となるが、それらを検査すれば、双方に血の繋がりがあるかどうかが判明する。
例え900年経って、その血が薄れていようともだ。
流石は桃花、既にレオンハルトくん、そして第一公子のものを手に入れてくれたようで感謝する。
恐らく頭のいい第二公子のぶんは手こずるだろうから、君が危険を冒してまで手に入れなくてもいい。
あくまでチャンスがあれば・・・と心に留めておいてくれ。
当主が偽物であった地点で彼も偽物ということでほぼ確定するからな。
その代わり、当主のぶんはどうにかして手に入れて欲しい。
彼を調べないことには事実関係をハッキリさせることが出来ないからな。
だが、くれぐれも無理はしないでくれ。
難しそうな場合は僕に相談をして、無理のない方法を探っていこう。
それから、後からの追加になって済まないが、第三公妃・・・レオンハルト君の母君のものも採取を頼めるだろうか?
レオンハルト君と彼女が親子であることは君の話からして間違いないだろうが、レオンハルト君が現当主と彼女の息子であるかどうかもこの際ちゃんと調べておいたほうが良いだろうからな。
女性の場合は精液が入手出来ないから、唾液よりは血液のほうが望ましいが、経血でもいいだろう。
それらが全て揃った時には君に会いに行く。
他の人物についても何かわかったら教えてくれ。
あと、これは頼み事とは関係がないが、レオンハルト君とはその後どうなっている?
僕には言いにくいことかもしれないが、やはり気になるんだ・・・。
君は僕にとって娘のようであり・・・・・いや、その先はこれから彼と恋愛関係に発展する可能性がある君に言うべき事ではないな・・・。
とにかく君の幸運を祈ってる。
ファルガー・ニゲル─
そしてモニカはそのままファルガーに宛てて返信をした。
─ファルガー様へ。
ご多忙な中にも関わらず、お返事をいただきありがとうございます。
早速報告なのですが、当主様の精液はアンジェリカ様のお部屋にて手に入りましたわ!
レオン様から当主様は毎晩のようにアンジェリカ様のお部屋に来られているとお聞きしましたので、ゴミ収集日にいつもの通りアンジェリカ様とレオン様がご一緒に朝食を取られた後、アンジェリカ様をお部屋に送って行ったついでに私がお部屋のゴミ収集を行い、そのゴミの中に明らかにそれを拭き取ったと思われるちり紙が御座いましたので、それを保管させていただきました。
追加でアンジェリカ様の血液もということで、了解しましたわ。
経血ですとタイミングによってはすぐにというわけにはいきませんけど、昨夜のアンジェリカ様とレオン様と夕食時の会話で、
「来週から数日間は夕食後に急いで部屋に帰らなくても良さそう」
とありましたので、もしかしたら生理予定日がその辺りなのかもしれません。
ですが、アンジェリカ様は私個人が好感を持っているお方なので、同じ女性として考えましても、経血をこっそり調べられるよりはまだ痛い思いをして普通に血を取って頂いたほうがマシかと思いますので、アンジェリカ様にこちらの事情をお話する訳にはまいりませんが、もし通常の血液を無理なく採取出来る機会がありましたら、そちらを提出するつもりです。
第2公子ジェイド様のものに関しましては、面接の日以来お会いする機会がなくまだですので、チャンスがあれば入手したいと思っております。
ジェイド様といえば、彼の母君様であらせる第二公妃のエスメラルダ様と昨日廊下ですれ違いましたわ。
ジェイド様と同じく翡翠色の髪と瞳をした大変お美しいお方で、
「このアデルバートの宝石と呼ばれた私ももう5人の孫を持つおばあちゃんなのよね・・・。
でも私の可愛いジェイドにちっとも似てなくて嫁ばかりに懐いている初孫、それにハーレムにいる滅多に会えない他の孫達よりも、私の可愛いベリルにそっくりで毎日会えるスフェーンが一番だわ!
あの子、将来はきっとあのレオンハルトに負けないくらい美しい騎士になるわよ!
ベリルもあの浮気性の旦那と離婚して、この宮廷でずっと暮らせばいいのに。
そうしたらスフェーンとずっと一緒に暮らせるでしょう?
あの子のためならおばあちゃん、どんな高価なものだって買ってあげるわ!」
と侍女に話しており、第一公女ベリル様の産まれてばかりの御子息のスフェーン様に大層夢中なご様子でした。
その為、彼女は少なくとも現地点ではアンジェリカ様とレオン様の毒殺を目論んでいる犯人ではないと思われます。
引き続き、新しくお会い出来たお方がいらっしゃいましたらお知らせ致しますわ。
それから・・・うふふっ、レオン様とどうなったか気になさって下さるのですね?
・・・レオン様は相変わらず私に好意を示して下さいます。
大変見目麗しいレオン様にあれだけアプローチをされれば、正直理性がグラついてしまうと言わざるを得ませんけど、彼とはまだ出会って間もないですし、今のところは何とかそれを上手く躱しております。
ですが・・・レオン様は私が専属メイドになってすぐ、そのお国柄とお立場により、色恋に関して難しい事情を抱えておいでだとお話して下さいました・・・。
その事情を考えると、レオン様のお気持ちを軽く扱うわけにはいきません・・・。
ファルガー様は既にご存知かと思いますが、アデルバートでは15歳で成人となり、レオン様は後8ヶ月で15歳を迎えられます。
この国においては騎士はそれまでに女性と関係を持たないと恥とみなされ、世間から認めて貰えないそうです。
そしてレオン様は、初体験の相手として・・・更には将来の妃として私を求めてくださっているのです・・・。
正直私はそのご希望に対し、何とお答えすればいいのかまだわかりません・・・。
ですが、レオン様が私を見限り、今私に対して向けて下さっている笑顔や好意の全てを、誰か他の女性に向けられるのだと思うと何だかやけに胸がもやもやして・・・とても嫌だと感じてしまうのです・・・。
・・・きっと私は既にレオン様に惹かれてしまっているのだと思います・・・。
実は本日はこの後、そんなレオン様とデートなのです。
デートといいましても、私にミスティルの町を案内して下さるというだけなのですが、私を楽しませようととても張り切ってくださっています。
私は今日、そしてレオン様が成人なさるまでの日々の中で、出来る限りレオン様を見て知って、悔いのない答えを出せたらと思っています。
ですが、もし色づき始めたばかりのこの恋が、熟する前に枝からもぎ取られてしまったそのときには・・・何も言わずに私を抱きしめて下さいますか?
なんて・・・早々に貴方からレオン様に心変わりをし始めた私に言えたことではありませんわね。
今のはどうか忘れて下さい・・・。
今日もファルガー様の旅の無事をお祈りしております。
相澤桃花─。
モニカはレオンが処女でないと勃起しないという事柄については伏せたままで祈りを終わらせた。
それはレオンにとっても他人に軽々しく話されたくないことだろうし、ファルガーもモニカからそれを奪った者として責任を感じてしまうだろうと思ったためだ。
(このメッセージボックスは、手紙と違って思考を直接届けるものなので言葉を選べませんし、つい本音が出てしまいそうになりますが・・・そのことだけでも伏せられて良かったです・・・。)
モニカがそう思いつつ立ち上がったその時である。
「モニカ!ここにいた!」
白い騎士服を身に纏ったレオンが礼拝堂の扉を開け、金の髪を靡かせながら笑顔でこちらに駆けてきたのだった。
「レオン様!
まだ早朝6時にもなりませんのに、随分とお早いですわね?」
とモニカが驚き主人の元へ駆け寄った。
「あぁ、今日はデートで朝から外出するだろう?
でも僕には毎日欠かせない基礎鍛錬があるから、早起きしてそれだけでも済ませておこうと思ったのだが、起きたら君が部屋にいなかったから、鍛錬は一声かけてからにしようと探しに来たんだ。」
「まぁ!
こんな時間から鍛錬とは、レオン様は本当に頑張り屋さんですわね!
では私はその間に朝食の支度とお洗濯、そしてお掃除も可能な範囲でしてしまいますので、鍛錬が終わりましたら一緒に朝食を食べて町に出かけましょうか。
今日はいつもより朝食の時間が早いですから、アンジェリカ様を起こすのは申し訳がないですし、アンジェリカ様の朝食は、出かける際にお部屋にお届けしてから参りましょう。」
「あぁ、そうしよう!
あ、今日の朝食メニューだが、僕は昨日と同じ卵かけご飯がいいな!
あれは凄くいい・・・。
卵を生で食べるなんて始めてのことで驚いたが、濃厚で甘く、ソイソースと葱とライスに良く合いとても美味だった・・・。
ビーフストロガノフよりも好きかもしれない・・・」
と昨日の朝食を思い出して涎を垂らすレオン。
「うふふっ!
卵かけご飯、大変気に入っていただけたようで良かったですわ!
卵を生食する習慣のないアデルバートでは知られていないようですが、実は卵の殻には浄化の魔石を使うことが出来るのですよ。
そうすることにより卵の表面が綺麗に殺菌されて、生卵を安全に食することが可能となります。
卵ならまだ冷蔵庫に御座いますから、今朝も卵かけご飯をお出ししますわ!
ですが、卵かけご飯には欠かせないソイソースが実はもうあまり無くて、お出し出来るのも今日で最後になりそうなのです・・・。
レオン様とアンジェリカ様がこんなにジャポネ料理を気に入って下さるのなら、ソイソースもお味噌も昆布もかつおぶしも、もっと沢山持って来ておけば良かったですわ・・・」
とモニカは悩ましげに眉を寄せた。
だが、そんな彼女に対してレオンは口角を上げふふっと笑みを零しながらこう言った。
「そのことならきっと大丈夫だ!
ジャポネの食材を扱っていそうな店を友人に教えて貰ったからな。」
「まぁ!
ジャポネの食材を!?
もし売っていましたら大変助かりますわ!」
とモニカが両手を合わせ、表情をパアッと明るく輝かせた。
「あぁ!
世界中の調味料やスパイス、珍しい食材を扱っているらしいから期待していいと思う。
市場通りにあって早くから開いているようだから、一番最初に行ってみるか?」
「うふふっ!
ソイソースもお味噌も重たいですから、一番最後でいいのですよ?
どうせレオン様が持とうとしてくださるのでしょう?」
クスクスと笑いながらモニカが言った。
「いや、一番最後では店が閉まってしまうかもしれない。
市場通りの店は早く開くぶん早く閉まるからな。
それに今日はアイテムボックスの使用許可を得ているから、一番最初に重たいものを買っても大丈夫だよ。
最後にはとっておきの場所に連れていきたいし・・・。」
「まぁ!
アイテムボックスって、あの次元に繋がりアイテムが沢山収納力出来るというとっても高級な魔石ですわよね?」
(ファルガー様がお持ちなので見せていただいたことがございますが、非常に小さな黒い魔石で、天然物の他に魔石を合成して作られた廉価版もあるのだとか。
廉価版の一番収納容量の小さいものでも、10000G(※日本円で100万円)くらいするそうですが・・・)
とモニカはファルガーが指に着けていた黒い石の付いた指輪を思い浮かべた。
「ははっ、僕個人ではまだ持ってはいないが、うちはこの国を統率している家だから、アイテムボックスは幾つか保持しているんだ。
魔獣討伐の時は勿論、それ以外でも必要なときには申請すれば借りられる。
まぁ今日僕が借りられたのは廉価版の一番容量の小さいのだけど、それでも今日のデートをスマートにこなすには充分だ。
だから一番最初にその店に行って、ソイソースや味噌を好きなだけ買ったって全然構わない。」
とレオンは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます!
それではお言葉に甘えさせていただきますわね!」
二人は朝食にレオンのリクエストの卵かけご飯、そしてほうれん草の胡麻和えと茸と豆腐と白葱の味噌汁を食べ終えると、それぞれの部屋で適切な服に着替えていた。
今日は危険なエリアにも行くため、専属メイドの制服のままでは目立ちすぎて良くないと思われた為だった。
モニカは今日のデートの服装についてどの様なものがいいのかわからなかったため、事前にアンジェリカに手持ちの服を見せて相談をしていていた。
すると彼女は、
「貴方が持っているワンピースは、どれも控え目なデザインだけど生地と仕立ての良いものだから、それで貧民街を歩くのは危険だわ。
貴方は美人だし、それでいてお金持ちだと思われれば例えレオンハルトが一緒でも、あの子が目を離した隙に攫われるかもしれない・・・。
貧民街はそういった危険性も伴うところなのよ・・・。
うんとみすぼらしい格好をすれば貧民街においての被害は免れるのでしょうけど、逆に普通の通りでは嫌な顔をされてしまうし、そのどちらにも対応出来る平民同様の服を着ていくのが一番じゃないかしら?
かといってその一日のために平民服を揃えるのは勿体ないから、私の昔の服で良ければ貸してあげるわ!
私、貴方ほどお胸は大きくないけれど、背丈は近いからきっと大丈夫でしょう。」
そう言ってアンジェリカが貸してくれた服は、花売りのニーナが着ているのと同様のデザインの白地に紺の刺繍が入ったブラウス、そして真ん中と裾にリボン状の刺繍が入った袖のない紺色のジャンパースカートだった。
モニカはその服に合わせて髪を右横に流しながら三つ編みにし、ファルガーから12歳の誕生祝として貰ったいつもの桃色のリボンで結んだ。
(変じゃないかしら・・・。
やはり姿見が欲しいですわね。
レオン様が今日アイテムボックスをお持ちなら、思い切って買ってしまおうかしら・・・)
そんなことを思いながらレオンの部屋へと続く鍵のない扉を開けると、レオンはとうに着替えを終えてモニカの部屋の前で待っていた。
彼の格好はミスティルの町で良く見かける標準的な男性の衣装であり、随所に刺繍の入った白いトップス、下には黒の細身のパンツを合わせ、ウエストの辺りにはいつも騎士服に剣を下げるために着けている刺繍の入ったベルトをして剣を下げていた。
白い騎士服とは違うその姿も、見目麗しい彼には大変良く似合っていた。
そんな彼は部屋から出てきたモニカを見て顔を真っ赤に染めるとこう言った。
「モニカ・・・。
・・・・・・母様から借りたその服も良く似合っていて可愛いな・・・・・・。
だが町娘の格好をしていても君は非常に目を引く。
貧民街では特に一人にならないように気をつけるとしよう。」
「ありがとうございます。
レオン様こそ、町の男性と同様のお召し物も大変良くお似合いですわ!
ですが、レオン様は態々着替えられずとも騎士服のままでも宜しかったのではないですか?
貧民街の悪者達も、直系の騎士様相手にスリや暴行を働こうなどとは思いもしませんでしょう?」
とモニカが疑問を口にした。
「まぁ貧民街ではそうかもしれないが、白の騎士服で花街を歩くと客引きが止まなくて鬱陶しいからその対策だよ。
この格好のほうがそんなに金を持っていないと思われて街の案内に集中出来そうだからな。」
とレオンは自分の格好を見下ろしながらそう答えた。
それに対してモニカはクスクスと微笑みながら言った。
「いえ・・・レオン様はどのような衣装を着られていても、大変美しく品がおありなので、遊女から声をかけられてしまうのは避けられないでしょう。
それより花街を案内して頂く際には私と手を繋ぎ、恋人のフリをしていたほうが声をかけられにくいのではないでしょうか?」
「ナイスアイディアだモニカ!
・・・花街だけとは言わず、他の場所でも是非そうしよう!
それなら何処にいたって君を軟派野郎から守ることが出来るし、人混みで逸れる心配もないだろう?」
レオンはうんうんと何度も頷きながらそう言った。
「・・・うふふっ!
そんなに嬉しそうに言われては悪い気もしませんけど、こんな素敵なレオン様とずっと手を繋いでいては、私のほうが通りすがりのお嬢さん方に嫉妬の眼差しを向けられて精神衛生上良くなさそうですから、やはり花街だけで・・・」
とモニカがやんわり断ろうとすると、それを遮ってレオンが声を上げた。
「そんなことない!
君の方こそ可愛くて他の男が放っておかない!
だから君は僕のものなんだと、誰も手を出すなと、周囲に誇示したいんだよ・・・。
・・・いけないか?」
レオンが顔中真っ赤に染めて少し拗ねたようにそんな事を言うので、モニカはそんな彼が可愛くて、そして彼の言葉が嬉しくて、頬を染めはにかみながらこう返した。
「・・・わかりました。
では宮廷を出たら手を繋ぎましょうか・・・。」
その言葉を聴いたレオンが何とも嬉しそうにぱあっと表情を輝かせたので、モニカはまたクスクスと笑った。
「・・・笑うなよ・・・。
どうせ僕がわかりやすく感情を顔に出すから子供みたいだと誂うつもりなんだろう?」
「うふふっ!
別に誂いはしませんけど、確かにレオン様と一緒にいると、梅次を思い出すところは多々ありますわね!
そう言えば昨日梅次へ出した手紙に、レオン様のことを書きましたのよ?
どうしても”うめつぐ”と発音が出来なくて、最終的に”ウェッグ”とお呼びになられていることとか!」
「そ、それは仕方ないだろう!
君の父様の名オーガは簡単だが、うむぇつぐぅ…は難しすぎだ!
ウェッグなら難なく呼べるし、もうそれで許してくれと伝えて欲しい!」
「うふふっ!
大丈夫ですわ。
梅次は懐が深いですから笑って許してくれます。」
「だといいのだが・・・。
彼は僕の未来の弟になるのだから、今から良好な関係を築いておきたいからな・・・。」
とレオンは頬を赤く染め、照れ隠しにコホン!と咳払いをしてからこう続けた。
「君の家族といえば、君がジャポネにいた時の主人の名をまだ聞いてなかった。
何と言う人なんだ?」
モニカは父がジャポネを出る際に持たせてくれた自分の経歴を記した書類に書かれていたジャポネでの主の名・・・ファルガーが必要に応じて用いる偽名であるその名を答えた。
「最上朔也様ですわ。」
(ファルガー・ニゲルというのはヘリオス様が与えられたあの方のこの世界での名で、本当の名は記憶を喪失してこの世界に招かれてしまったお弟子さんに差し上げたので、この名はお父様のものだとファルガー様が以前お話してくださいました・・・)
とその時の様子を回想するモニカ。
「サク・・・ヤ・サイジョー・・・様か・・・。
ふむ・・・。
お年を召している人の名にしては、やけに若々しく格好が良い響きなのだな?」
「・・・そうですか?
レオン様だっていつかお年を召されたらそのように言われるのだと思いますわよ?」
「そうか・・・。
確かにそうだ!」
そう言ってレオンはクスクスと笑った。
「それで、そのサクヤ様への手紙にも僕のことを書いたのか?」
とレオン。
「えぇ。
きっと早々に私に手を出しそうではない良識のあるお方の元に付くことななったことでご安心なさると思いますわ!」
(正確には手紙ではありませんし、そのことに対するお返事も既にいただきましたが…)
と頭の中で補足を入れつつモニカは答えた。
「そ、そうか・・・。
僕が8ヶ月以内に君を口説き落して寝台に招くつもりだとそのサクヤ様に知られたら、アデルバートとジャポネの関係が悪くなったりするのだろうか・・・?」
とレオンは少し血の気の引いた顔で呟いた。
「あらレオン様、お顔が青いですわよ?
うふふっ、大丈夫です。
朔也様は私が望んだことであれば何も申されませんから。
最も私が望んでもいないのに強制的にその様な関係を強要されたと知られれば、その権力を振るわれることもあるかもしれませんけど・・・」
実際には小国であるジャポネの大名が大国アデルバートの公子相手にそんな理由で喧嘩を売って国際問題に発展するなどあり得ないことだった。
だがモニカはレオンのことは本当に自分が嫌がることはしない人物だと信じてはいるが、やはり彼が既に生殖が可能な男であることがハッキリした以上、自分との関係性にもう少しだけ緊張感を持って貰うことも必要かと思い、敢えてその事には触れずにそう言ったのだ。
「・・・そ、そうか・・・。
勢い余って君を襲ってしまったらまずいということは良くわかったよ・・・。
残り8ヶ月の間に君の同意を得られるよう頑張らないとな・・・。
その為にも今日のデートは大切だ。
時間ももったいないし、そろそろ行こうか・・・!」
そう言って彼はモニカに微笑みかけた。
「はい!
参りましょう!」
モニカは笑顔で頷くと、アンジェリカに届ける朝食のトレーを手に持って、レオンと共に部屋を後にするのだった。
朝食を届けにアンジェリカの部屋を訪ねると、彼女は昨夜遅くまでダズルに付き合わされたのだろう。
今起きたばかりの寝ぼけ眼で出て来たが、二人の服装を見て目が覚めたようで、
「あっ・・・今日がその日だったわね!
二人共、行ってらっしゃい!」
と笑顔で手を振り見送ってくれた。
宮廷を出たら手を繫ぎ、町へと続く丘を下った。
町に辿り着いた時には時間がまだ早く、商店街の何処の店も開いていなかったが、レオンが市場通りならば開いていると言ったので、まずはそちらに向かうことにした。
市場通りはこのミスティルの食料品を扱う全ての店が集まった通りであり、8時という早い時間にも関わらず、数多くの主婦たちが新鮮な食材を求めて集まってきていた。
モニカはこの通りには既に買い出しでレオンに何度か連れてきて貰っていたが、いつも彼の空き時間である昼過ぎから15時までの時間に来ていたので、朝のこの時間の賑わいは彼女の目にとても新鮮に写った。
レオンは宮廷を出る前の約束通り、一番最初に世界中の珍しい食材を取り扱っているという”フクースナ”(※アデルバート語で美味しいを意味する)という店に連れて行ってくれた。
そこには割高ではあったが、ジャポネのソイソース、味噌を始めとしたジャポネならではの調味料の他、ジャポネ産の米や昆布、鰹節、干し椎茸や煮干し、緑茶なども売っていた。
モニカは感激して目を輝かせ、それらをしっかりと買い込んでレオンのアイテムボックスに収納してもらった。
その後は市場通りに来たついでに数日間は買い物に出なくて済むよう、卵や肉、魚、そして野菜等も沢山買っておいた。
モニカが専属メイドになって以来、宮廷の調理場で作られた食事を利用することもあったが、レオンとアンジェリカがジャポネ料理を大変お気に召したこともあり、朝、そして夕食はほぼモニカが用意していた。
そのため毎日の食材の買い出しは必須だったが、アイテムボックスがある今日ならまとめ買いができるので、モニカは有り難くそれを活用させてもらったのだ。
それらの買い物を終えて二人が商店街のほうに戻ってきた頃には、各店舗が少しずつ開店し始めていた。
そこでレオンが、
「開店直後のまだ客がいないうちに、モニカを連れていきたい店があるんだ。
武器屋だから君は興味がないかもしれないが、僕にとっては特別な店だから、是非モニカにも知っておいて貰いたい。
付き合ってくれるか?」
と言って、ある武器屋に案内するのだった。
そこは平民街の外れにある”武器屋リエーフ”(※アデルバート語でリエーフはライオンの意)という看板がある小さな武器屋で、大通りや教会通りにある大規模な武器・防具屋に比べると小さく古ぼけてはいたが、石壁や窓ガラスがピカピカに磨かれ、店の表も綺麗に清掃が行われており、大変印象の良い店だった。
─カランカラン♫─
レオンが来客を告げる鈴を鳴らしながら店の扉を開けると、中からメイド長オリガに似た雰囲気を持つ初老の婦人が出てきてこう声をかけてきた。
「あら!
いらっしゃいませレオンハルト様!」
「様付けは止してくれよばあちゃん・・・。」
レオンがそう言って苦笑したのを見て、モニカはハッとし口にした。
「もしかして、こちらのお店はアンジェリカ様のご生家なのですか・・・?」
「そう。
この人が僕の祖母のタマラばあちゃん。
奥にいるのは祖父のライオネルじいちゃんだよ。」
レオンに紹介されたライオネルは売り物の剣の手入れを止めると、レオンとモニカの側までやって来てにこやかに笑って頭を下げた。
間近で見たライオネルは、年老いてはいてもラスター・ナイトと良く似た穏やかな雰囲気を持った美しい男であり、彼とレオンの血が繋がっているということは疑うまでもなかった。
「レオンハルト、良く来たね。
こちらのお嬢さんは?」
モニカは穏やかに微笑み頭を下げた。
「私は先日レオンハルト様の専属メイドとなりましたモニカ・アイジャーと申します。
本日は貧民街等も案内していただくためアンジェリカ様からお借りしたお召し物を着させていただいておりますの。
よろしくお願いしますわ!」
「まぁ!
レオンハルトに専属メイドさんが!?
この子ったら、こんな素敵なお嬢さんをどこで見つけて来たのかしら!?」
とタマラが嬉しそうに微笑んだ。
「あぁ、それはね・・・」
とレオンがこれまでの経緯を簡単に説明した。
「まぁ、そうだったの!
モニカさんみたいなしっかりとしたお嬢さんにお世話してもらえることになって本当に良かったわね!レオンハルト!
モニカさん、こんな狭い家で悪いけれど、とうかおかけになって?」
そう言ってタマラはモニカに椅子を勧めた。
「ありがとうございますタマラさん。
ですが今はこちらの商品を見せていただいても宜しいですか?
私、武器に造詣は深くありませんけど、どの品もとても良く手入れがなされているので興味が湧いてきまして・・・。」
とモニカ。
「あらまぁ、ありがとう!
今お茶を淹れますから、ゆっくり見てらしてね!」
「あっ、タマラさん、どうかお構いなく・・・!」
モニカがタマラに気を使って汗を飛ばすが、「いいのいいの!
丁度美味しいお茶菓子があるのよ!」
と言いながらタマラはキッチンのある奥へと行ってしまった。
「遠慮しないでゆっくりしていってくれ、モニカさん。
レオンハルトがうちに女の子を連れて来るなんて始めてのことだし、タマラも嬉しいのだろう。」
とライオネルは言うと、先程中断していた武器の手入れを再開し始めた。
モニカは彼に会釈をし、続けて売り物の武器を見ていたが、その中に革で編み込まれた鞭を見つけ、目が釘付けになった。
「・・・革の鞭が気になるのか?」
とレオンが尋ねた。
「えぇ。
私が初めてこの国に来た日にニーナさんを逃がした後、オリーブ隊の騎士の一人にたまたま落ちていたベルトで一撃を加えたのですが、その際に妙にしっくりと来て、同じように撓る鞭であれば私にも扱えるかもしれないと思ったのです。
この町で暮らすにあたり護身用の武器があったほうが心強いですし、お値段も手頃ですので購入しようかしら・・・?」
「ふむ・・・。
確かに革製の鞭なら力のない女性の君でも扱いやすいかもしれない。
ただどんな武器でもそうだが、練習もなしで扱うのは危険だ。
特に鞭はクセが強いし、扱い方を間違えれば君のほうが怪我をするかもしれない。
購入するのはいいが、使う前にきちんと指導してもらったほうがいいと思う。」
「指導ですか?」
と首を傾げるモニカ。
「あぁ。
僕が教えられたらいいのだが、生憎と僕は剣以外の武器のセンスは皆無でな。
フェリシア神国の英雄ヘイズ・ハント程とはいかないだろうが、母様なら鞭も結構扱えたと思うから、母様に習うと良いよ。
君にジャポネ料理のお礼をしたいといっていたから、喜んで指導役を引き受けてくれると思う。」
「まぁ!
アンジェリカ様に教えていただけるのでしたら大変助かりますわ!」
そうしてモニカはレオンの祖父母の店”武器屋リエーフ”にて革の鞭を購入した。
最初はレオンが代金を支払おうとしてくれたが、モニカがやんわりとそれを遠慮した。
その代わりにタマラとライオネルがレオンの専属メイドだからといってかなり安くしてくれて、350Gだった革の鞭をたったの200G(※日本円で2万円)で売ってくれたのだった。
(このお礼は何れさせていただきませんと・・・)
とモニカは彼等に感謝しつつ、他のお客が来るまでの間、お茶をご馳走になってから店を後にした。
リエーフと貧民街は近くにあるため、二人は手を繫ぎ、そのまま貧民街へと向かった。
貧民街は建物も全体的に古く薄汚れており、街ゆく人々の服も平民達に比べてところどころほつれてみすぼらしくはあったが、貧民街に近い通りで生まれ育ったアンジェリカが公妃となってから、アンジェリカが貧民街に読み書きや簡単な計算を教える学校を作り、それにより例え貧しい家で生まれ育ったとしても、本人の努力次第で将来まともな職業に就くことも可能だろうとレオンは語った。
レオンもアンジェリカの建てた学校にたまに手伝いで来ることもあるらしく、貧民街においても比較的治安の良い通りに暮らす者達からは、
「あっ!レオンハルト様だ!」
「別嬪さんを連れて、今日はどうしたんだい?」
等と声をかけられていた。
貧民街においてはアンジェリカの息子であるレオンを次期ナイト家当主にと後押しする声が高いのだなと、彼らとレオンの会話からモニカは感じ取った。
最も当の本人は、
「あぁ・・・そのことならきっとグリント兄さんが継ぐことになるよ。
だがそうなってもここの区画についてはグリント兄さんと交渉して僕が管理する権利を得るつもりだから、どうか安心して欲しい。」
と笑顔で答えていた。
だが同じ貧民街でもより暗く汚れた雰囲気の通りには、物陰からこちらの隙を伺っているような油断ならない輩も見られた。
レオンが一瞬も手を離さずにいてくれたため、モニカは何の被害に遭うことも無かったが、もし知らずにここに迷い込み一人で歩いていれば、間違いなく危険な目に遭っていただろうと理解し、とても怖くなった。
だが、ここがどれだけ危険なのかは実際に見てみないとしっかりとは理解出来なかっただろうし、連れてきて貰って良かったと思った。
続けてレオンは花街にも連れて行ってくれた。
平日の昼前という時間のためか、その賑わいは想像したものよりもずっと控え目だったが、それでも昼間にも営業をしているいかがわしい店の遊女がレオンにチラチラと色目を使って来ていた。
モニカはこの花街においては手繋ぎでは彼を守るのにインパクトが弱いと感じ、咄嗟にその腕を取った。
レオンは腕に当たるモニカの胸の感触に顔を赤く染めて鼻の下を伸ばし、更には下半身も反応してしまったようで、その辺りに出来た不自然な膨らみとモニカの顔を交互に見ては、それをモニカに気付かれていないか気にしていたようだったが、モニカはそれには気が付かないフリをして、親しげにレオンに話しかけ続けた。
そのためレオンに声をかけてくる遊女はいなかったが、二人が通り過ぎたあとに、
「こんな所に恋人同士が何しに来たんだよ!
見せつけやがって畜生が!
ここはデートで来るような通りじゃないよ!?
さっさと消えな!」
と背後から野次を飛ばされたため、モニカはレオンと顔を見合わせて苦笑いすると、足早に花街を通り過ぎた。
「・・・とまぁ、夜の賑わいはこんなものではないが、今ので花街の区画はわかってもらえたと思う。
第4公妃エカテリーナはさっきの花街の遊女上がりでな・・・。
ここではエカテリーナとその息子・・・僕の腹違いの弟のルーカスを次期当主として押す声が多いようだよ。」
とレオンが説明した。
「ルーカス様ですか。
第4公子様ということは、今はエカテリーナ様と一緒にハーレムにおられるのですよね?
梅次くらいのお年ですか?」
とモニカが尋ねた。
「いや、ウェッグよりは少し歳上で今12じゃなかったかな・・・?」
「まぁ・・・。
それでしたらレオン様とお年も近いですし、同じ平民出身のお母様を持つ同士としてもお話が合うのではないですか?」
だがレオンはそれに対して表情を曇らせると頭を左右に振った。
「僕も最初はそう思って仲良くしようと話しかけたんだ。
だが向こうに全くその気がなく、冷たく睨まれて一度も口を利かず仕舞いだよ。
同じ腹違いの兄弟の中では、ジェイド兄さんが一番僕に構ってくれるかな。
まぁジェイド兄さんは腹の底が読めないし、貴族ならああしろこうしろと煩わしいことも言われるから正直苦手ではあるが、そうして干渉してくれることに救われてる部分もあるんだ・・・。」
とレオンは苦笑した。
「そうですか・・・。
グリント様とはどうなのです?」
とモニカは尋ねた。
「あぁ・・・グリント兄さんは一回りも年が離れている癖に昔から僕を女みたいだと虐めてばかりだったから大嫌いだ。
今は僕が強くなったからか流石に虐めては来なくなったが、あんな兄でも次期当主の第1候補だからな。
僕が将来においてある程度融通が利きそうなのも彼がいてくれるお蔭だし、その点では感謝しているよ。
まぁ父にも言える事だが、僕を代理で魔獣討伐に向かわせておいて、その仕事の成果を自分のものとされるのは納得が出来ないが、それも僕がお披露目されるまでの辛抱だ。
僕が騎士としてお披露目されれば僕の働きは全て僕のものとしてアデルバート神に報告され、正当な評価が受けられるようになるからな。
まぁそれはともかくとして、あの通り滅多なことでは戦地に出たがらない父でも当主になれたのだから、同じく怠け者騎士のグリント兄さんが次期当主でも問題なく世間から受け入れられるだろう。」
とレオンは言った。
モニカはファルガーがメッセージボックスで言っていた推測からして、ナイト家内においてグリントを次期当主の第1候補として支持しているのは主に今の地位を失いたくない者たちであり、ラスター・ナイトの血を引いている公子がもし本当にレオンだけなのだとしたら、彼を第1候補として押す声のほうが実際は強いのではないか?と思った。
だがレオンはそれを望んではおらず、その責任を引き受けてくれる存在としてグリントを必要としているのだと理解したため、この場は何も言わずにその言葉を飲み込んだ。
するとレオンが懐中時計をポケットから取り出して見てこう言った。
「そろそろお昼時だし腹が空かないか?
この近くに母様の友達が営んでいるピロシキ屋があるからそこで昼食を食べよう。
この時間だと少し並ばなければならないが、安くてとても美味いんだ!」
「ピロシキですか!?
うふふっ!
私、前から食べてみたかったんです!」
レオンが連れて行ってくれたピロシキ屋は大変賑わっており、10分ほど並んでようやく買うことが出来た。
レオンは角イノシシ肉と玉ねぎ、キャベツ、ライスの入ったピロシキを、モニカは岩鳥と茸、それにマッシュポテトの入ったものを選んた。
店のテラスで食べた焼き立てアツアツのピロシキと紅茶は大変美味しく、二人のお腹を一気に満たしてくれた。
昼食が済むとレオンが言った。
「モニカ、後は平民街を適当にぶらついて過ごそうかと思うが、君が行ってみたい店は無いか?」
「行ってみたいお店・・・そうですね。
私、レオン様のポメロの香りの石鹸を扱っているお店に行ってみたいですわ!
私がジャポネから持ってきた桃の香りの石鹸もそのうちなくなってしまいますから、代わりになる石鹸が買えそうなお店を見つけておきたかったのです。
レオン様の石鹸の香りはとても素敵ですし、同じお店ならきっと好みのものが見つかると思いまして・・・。」
「そうか・・・わかった!
案内しよう。」
レオンに連れてこられた店はアラマートゥ・ムィーラ(※アデルバート語で香りの石鹸という意味)という店で、店先には季節の花の寄せ植えやブリキの人形が彩りを添え、若い女性が好みそうなお洒落な外観をしていた。
「まぁ!可愛らしいお店ですわね!」
「うん・・・。
正直男の僕には入りづらい店だけど、あの石鹸を買えるのはこの店だけなんだ。
騎士服でこの店に入ると目立ちすぎてしまうから、近頃では母様の化粧品と一緒に僕の石鹸も宮廷まで定期的に届けてもらっていてね。
直接店に顔を出すのは久しぶりだよ。
今日は君と一緒だし、騎士服じゃないから店に入っても大丈夫だろう。」
そう言ってレオンは店の扉を開けた。
チリンチリンと少し高めの来客ベルが鳴ると、「いらっしゃいませー」と女性の声がし、
「あっ・・・・どなたかと思えばレオンハルト様ではないですか!
お久しぶりでございます!」
と続いた。
その店員はこの店の店長でありこの店の商品を制作しているその人で、宮廷にアンジェリカの化粧品やレオンの石鹸を届けてくれるのは彼女の夫であった。
「久しぶりだね、ソフィアさん。
今日は僕のものじゃなくて彼女・・・僕の専属メイドなんだけど、彼女のものを買いに来たんだよ。
相談に乗ってくれるかな?」
モニカはソフィアに桃の香りの石鹸を出してもらい、その香りを確かめてみた。
(私が今使っているものとは少し違いますが、こちらもとても良い香りです・・・!)
「同じ香りの化粧水と乳液と美容クリーム、ファンデーションもございますよ?
お試しになりますか?」
モニカはそのシリーズの液体石鹸を一瓶と、もうすぐなくなりそうだった化粧水を購入したのだった。
「これでアデルバートにいる間も無事桃の香りを維持できそうですわ!」
そう言って嬉しそうに微笑むモニカに対してレオンは優しく微笑みを返すとこう言った。
「それは良かった。
だがアデルバートにいる間、じゃないだろう?
君はこの国に永住することになるのだから・・・。」
「ですが異国人である私はどんなに長くいても2年すればジャポネに帰らなければなりませんわ。
それがこの国でのルールですから・・・。」
とモニカは少し眉を寄せてそう答えた。
「・・・それまでにこの国の男と結婚すれば君はアデルバートの国籍を手に入れられるだろう?
僕が必ずそうさせてみせる・・・!」
そう言って拳をぐっと握り締めるレオンを見て、モニカは何と答えればいいのか迷ったが、彼があまりに真剣な顔をしているので、ここは否定せずに明るく乗ってみることにした。
「あら!
私がジャポネを捨ててレオン様の奥様になっても、後悔しないくらいいい男になると仰るのですね?
それでしたら温風器でご自分の髪を乾かすくらいは出来るようになっていただかないと。」
「それは一生出来ないままで良いんだよ!
僕が年老いて死ぬまでずっと君にやってもらうんだから・・・」
「もう・・・本当に甘えん坊なんですから。
仮に私達が結婚したとしましても、あまり私に甘えてばかりいますと、愛想を尽かしてジャポネに帰ってしまいますよ?」
「うっ・・・それは困るが、髪を乾かすのは君がいいっていうのは譲らない!」
「それでしたら読まれた本をきちんと棚に戻されたり、脱がれた騎士服をハンガーにかけることは今後ご自分でやっていただけるのですね?
うふふっ、これで少しは私の仕事が楽になりますわ!」
「・・・君は僕を思い通りにするのが上手すぎるんだよ・・・。
悔しいな・・・・・」
そんなやり取りをしながら落ち葉舞う通りを手を繋いで歩く二人なのだった。
「他に行きたい店は無いか?」
と再びレオンに訊かれたモニカは、姿見が欲しことを伝えた。
レオンは少し考えてから家具屋に連れて行ってくれたので、そこで手頃な姿見を買い、レオンのアイテムボックスにそれを収納してもらった。
そうして家具屋を出たところで、レオンが少しソワソワした様子でこう切り出して来た。
「・・・この近くに寄りたい店があってさ。
付き合って貰ってもいいかな?」
「えぇ。
構いませんわよ?」
(うふふっ、また武器屋さんかしら?)
そう思いつつ頷いて彼に着いていくと、”セルツェ・ヴイーシフカ”(※アデルバート語で心ある刺繍の意)と看板のある小さく愛らしい手芸雑貨屋に辿り着いた。
店内には色とりどりのリボンや刺繍入りハンカチ、バック、衣装等の手芸品が展示販売されていた。
「ここは・・・手芸雑貨屋さんのようですけど・・・?」
年頃の男子である彼が寄りたいという店としては非常に意外だったため、モニカは首を傾げた。
「うん・・・そう・・・。
すぐに済むから君は表で待っていてくれるかな?」
「えっ?
私も中までお付き合いしますよ?」
と首を傾げるモニカ。
「いや・・・それはちょっとな・・・・・」
モニカは歯切れの悪い返答をする主人をますます不思議に思い怪訝な顔をするが、ガラス越しに見えるこの店の若い女性店員が彼と知り合いなのか、彼の姿に気がついて笑顔で手を振ったのを見て悟った。
(髪色等は違いますが、ニーナさんと似た雰囲気の愛らしいお方・・・。
きっとニーナさんと同じく、男の証を立てるお相手候補の方ですわね・・・。
私と出会ったから、もう他の候補の方にその気はないのでは無かったのですか?
町を案内する目的とはいえ、本日は私とのデートですのに、他の候補の女の子のお店に顔を出されるだなんて・・・・・)
モニカは胸の奥に何とももやもやする気持ちを抱えながらもニコッと笑顔を作り、こう答えた。
「えぇ、かしこまりました。」
レオンはモニカがそんな気持ちでいるのだと気が付きもしないで、店の中に入って行った。
モニカは見たくもないのに彼の様子が気がかりで、彼と彼女が楽しそうに歓談する様子をガラス越しに見ては更に胸のもやもやが増していくのを感じ、ついには耐えきれなくなってふいっと目を逸らした。
すると、通りを歩いていたモニカと同世代と思われるゼニスブルーの服を着た騎士2人と目が合ってしまい、声をかけられた。
「君一人?
凄く可愛いね!」
「うん、可愛いっつーか美人系?
スタイルもいいしマジ俺好み!
珍しい髪と瞳の色をしてるが異国人かな?
一人なら俺等と遊びに行かない?」
「ちょっと待てよお前。
近頃第三公子様の専属メイドになったっていう娘がそんな髪と瞳の色をしているらしいぜ?
もしそのメイドだったら後で第三公子様に半殺しにされるぞ?」
「馬鹿言え!
専属メイドがこんな所に町娘の格好で居るはずがないだろ?
俺いい店を知ってるんだ。
一緒に行こうよ!」
「俺等はオリーブ隊の奴らと違って紳士だから、いきなり金を見せて身体を売れなんて言わないから安心していいぜ?」
モニカはそんな彼らの声を無視してチラッと店内にもう一度視線を向けた。
レオンはこちらの様子に気がつく様子もなく、彼女と歓談しながら何かの商品を購入し袋に包んで貰っていた。
(あんまりあちらの店員さんとのお話が弾んでお店から出てこられないようなら、この方達について行ってしまおうかしら・・・。)
モニカがヤケっぱちになってそんなことをチラッと思ったところで、店員の方が先にこちらの様子に気がついたらしく、モニカを指差してゼニス隊にナンパされていることをレオンに知らせた。
レオンはそれを聞いて血相を変えると、物凄い勢いで店から飛び出してきた!
「モニカ!!」
「「えっ・・・!?
あ、貴方は第三公子様!!?」」
ゼニス隊二人は目玉が飛びだしそうなくらい驚くと、レオンに対して慌てて弁解を始めた。
「となるとやはり彼女は第三公子様の専属メイドでしたか・・・!」
「も、申し訳御座いません!!
彼女、町娘と同じ服装をしていたので公子様の専属メイドとは思わなくてつい・・・!」
レオンははぁ・・・とため息をつくと、いつもは穏やかに見える瞳を鋭く尖らせて腰に下げた剣に手を添え、低く押し殺した声でこう言った。
「・・・今日は彼女とお忍びでデートだったんだよ。
いつまでも彼女の前にいられたらこの剣を抜きたくなってしまうから、早く行ってくれないか・・・。」
その言葉を訊いて真っ青になったゼニス隊二人は、もつれそうな足を何とか動かしてその場から走り去った。
「・・・奴らも奴らだが、君も君だモニカ。
君ならあれくらい軽くあしらえただろう?」
レオンは彼等が去ったことで安堵しつつもまだ彼等に対する怒りが収まらないのか、険しい顔つきのままでもう一度軽くため息をつき、モニカに対してそう言った。
「・・・レオン様こそ宜しかったのですか?
こちらのお店の店員さんとお話に花を咲かされていたのでしょう?
私なら放っておいてくださっても大丈夫でしたのに・・・。」
モニカはそう言ってレオンの後ろで心配そうにこちらを伺っている店員に視線を向けた。
「あぁ・・・。
彼はオリガの息子で名はサーシャというんだ。
僕にとっては従兄弟違い・・・まぁ親戚なんだが、歳も近いから仲が良くてつい話し込んでしまってな。」
「彼・・・?」
レオンに紹介されたサーシャは確かにオリガと同じ髪と瞳の色をしていたが、間近で見ても女の子としか思えない非常に愛らしい見た目であり、モニカは首を傾げた。
しかしこの後すぐ彼の声を聞いて、あぁ確かに男性なのだと納得がいくのだが。
「はじめまして、モニカさん。
僕はサーシャと言って、宮廷でメイド頭をしていますオリガの末の子供です。
母からとても優秀なメイドさんだとお話を聞いておりますよ!
僕、男なんですけど昔からリボン作りや刺繍をすることが大好きでして、こちらのお店の職人見習いとして働かせてもらってるんです。
でもお店に立つ時は、女の子の格好をしている方がお客さんの受けが良いからと親方に言われて・・・
ごめんなさい、レオンハルト様が他の女の子と仲良くされているのではと誤解されてしまいましたよね?」
「いえ・・・サーシャさん・・・えぇと、サーシャ君とお呼びしたほうが良いのでしょうか?」
とモニカ。
「あははっ!君付けで良いですよ?
常連のお客様は皆僕のことをご存知ですし。」
とサーシャは明るく答えた。
「ではサーシャくん。
貴方があまりに愛らしいお方でしたので、てっきりレオン様の初めてのお相手の候補の方とばかり・・・。
大変失礼を致しました。」
そう言ってモニカはサーシャに対して深く頭を下げた。
すると頭を下げられているサーシャ本人よりも、その隣りにいたレオンのほうが早く反応をし、汗を飛ばしながらこう言った。
「えっ!?
君とデートのときに、そんな対象としていた相手の店に態々顔を出したりしないよ!
僕はサーシャの作る品が素晴らしく評判がいいから、君に彼の作ったあるものをプレゼントしたくて立ち寄ったんだよ・・・。」
そう言ってレオンは顔中真っ赤に染めて、金のリボンで包まれた小さな赤い袋をモニカに差し出した。
「これを私に・・・?」
「うん・・・。
気に入らなかったらいけないから、今ここで確認してみてもらえるか?」
モニカはその袋を彼から受け取ると、金のリボンを解いてその中身をそっと取り出した。
それは紺のベルベット地に白の糸で繊細な刺繍が施されたしっかりとした仕立てのリボンで、髪を結ぶのにちょうど良さそうな長さだった。
「まぁ・・・素敵なリボン・・・!」
モニカは頬を染め、ぱあっと表情を輝かせて微笑んだ。
「気に入ってくれたようで良かった・・・。
君がいつもしているピンク色のリボンも可愛いのだが、あれは随分長い間使っているのだろう?
大分色褪せているようだし、今日の服にもいつもの制服にもシックな色合いのほうが合っていると思ってな・・・。
君が良ければだが、つけてみてはくれないだろうか・・・・・?」
(このリボンをレオン様が私の為に選んでくださった・・・。
ファルガー様から12歳の誕生祝にいただいたこの桃色のリボンは私にとって特別なもので、どんなに色褪せても汚れても、新しいものに付け替えるなんて私には考えられなかった・・・。
ですが・・・・・・・・)
モニカは長いまつ毛を伏せてファルガーへの想いを示した桃色のリボンをスッと解くと、紺色に白の刺繍が入った真新しいリボンを髪に結んだ。
そして頬を赤く染めると目の前にいる主人を見上げてこう言った。
「あの・・・・・似合いますか・・・・・?」
「あ、あぁ・・・
とても良く似合ってる・・・・・」
レオンは耳まで赤く染めて掠れた小さな声でそう返すと、照れくさそうに髪をかき上げモニカから目を逸らし、またすぐに自分が贈ったリボンを髪につけたモニカを見たくなって視線を戻した。
そして視線がぶつかり合い、二人はにかみ笑う。
そんな彼等を見てサーシャがクスクスと笑いながらこう言った。
「レオンハルト様の”永遠の愛”。
無事髪につけて貰えて良かったですね!
もしも気持ちが重たすぎると言ってモニカさんに受け取って貰えなかったら、どうやって貴方をお慰めすればいいのか頭を抱えている所でしたよ。」
「あっ!サーシャ!
それは今言わなくても良かったのに・・・!」
と頭を抱えるレオン。
「レオン様の永遠の愛・・・ですか?」
とモニカは小首を傾げた。
「・・・やはりモニカさんはこの国の人では無いからご存知なかったのですね。
レオンハルト様?
こういった事はきちんとお話した上で贈らないと、モニカさんを騙すみたいで良くありませんよ?
モニカさん、実はこの国では親しい女性に花の刺繍が入ったリボンを贈る風習があるのですが、その刺繍の花によってその意味が全く違ってくるのです。
軽い感謝の気持ちですと”ピンクの薔薇、ポピー、カンパニュラ、ダリア、フリージア”。
友情ですと”黄色い薔薇、ゼラニウム、マリーゴールド”といった風にです。
レオンハルト様が選ばれたキキョウの花言葉は”永遠の愛”。
プロポーズにも用いられることもある一番ハードルの高いものなのですが、レオンハルト様は僕に全ての花言葉を確認された上で、このキキョウをお選びになられました。
それ程モニカさんに対して本気なのだと言うことなのですよ。
そして女性がそのリボンを髪につけるということは、婚約者、もしくは夫がいるのだと周囲に知らしめるという意味もあります。
勿論結婚指輪と違って簡単に買えるものですし、男よけとしてそういったリボンを選んでつける女性もおられますから、結婚指輪よりは威力の低いものではありますが・・・」
モニカはサーシャのその説明を訊いて、丸く目を見開きこう言った。
「まぁ!
そうしますとレオン様は何も知らない私にこのリボンを贈って、他の殿方を寄せ付けないようにしたい、といった意図もありましたのね?」
図星だったのかレオンは”ギクッ!”と身体を反応させ、気まずそうな顔をしてダラダラと冷や汗を垂らした。
モニカはそれを見てクスクスと笑うと、
「・・・かしこまりました。
とても素敵なリボンで気に入りましたし、深い意味は気にせずに使わせていただきますわ。
ですが仮にレオン様がこのリボンの意味に相応しくない行動をお取りになった場合には、元の色褪せた桃色のリボンに戻させていただきますけど・・・それでも宜しいですか?」
と微笑んだ。
「あ、あぁ・・・!
ありがとうモニカ・・・。
だがこのリボンの意味に相応しくない行動なんて僕は取るつもりは無いが!?」
とレオンは不服そうに眉を吊り上げ抗議した。
「うふふっ、残念ながら私、殿方の永遠の愛を簡単に信じられる程純粋ではありませんのよ?」
モニカはそう言って苦笑したが、本当は彼の気持ちの永遠を信じられないのではなかった。
彼の立場が、環境が、血が、きっとその恋を残り8ヶ月の期間限定のものにするのだろうとわかっていたから。
その時に自分が彼にのめり込んでいればいるほど苦しむことになる。
それがわかっていたから、自分の中に桃色のリボンに戻るという逃げ道を、僅かにでも残しておきたかったのだ。
そんなモニカの心境を悟ってかどうかはわからないが、サーシャが優しく微笑んでこう言った。
「そのリボンの制作者でありその意味を語った僕が言うのもなんですが・・・どんな想いが込められたものであっても、たかがリボンです。
結婚指輪と違って就寝時には外しますし、着ている服との相性や、TPOに合わせて別の髪を飾るものと付け替える場合だって多々あります。
ですからレオンハルト様も、モニカさんがこのリボンを付けていられないことがあっても、無闇に落ち込む必要はありません。
リボンは持ち主の女性の人生のほんの僅かな時間を共に過ごす装飾品に過ぎないのですから。
そのリボンに込められた意味の通り、その愛が永遠なのかどうかは僕にはわかりません。
ですが少なくともこのリボンを選んでモニカさんに贈られた瞬間のレオンハルト様は、モニカさんに永遠の愛を見ていた・・・。
これは真実であり、そのリボンを一本持っているモニカさんは、一人の男性をそれだけ虜にした魅力のある女性であることを意味しています。
大切なのはその気持ちをこうして示し、相手に贈ること。
そしてそれを受け取った側が贈り主の気持ちを認めて、それを身に着けることで私も同じ気持ちですと示すことにあると思うのです。
そして僕は、このリボンがお二人の絆を結ぶ、特別なものになるようにと願って止みません・・・。」
その言葉を聴いたレオンは、サーシャに向けて柔らかく微笑むとこう言った。
「・・・ありがとうサーシャ。
君のリボンに込められた願いを無駄にしないよ・・・。」
そしてモニカはそっと目を閉じ、真新しいリボンに手を当てながらこう言った。
「サーシャくん、ありがとうございます。
このリボンがあれば、うまく言葉に出来ない気持ちを表すことが出来そうです。
それは私にとって、とても大切なことなんです・・・・・。
そしてレオン様。
私に素敵なリボンを贈って下さりありがとうございます・・・!
大切にしますね・・・・・!」
レオンとサーシャは顔を見合わせると、優しく微笑み頷いた。
「あ・・・僕はそろそろお店に戻らないといけないので、失礼しますね!
それではレオンハルト様、モニカさん。
またいつでもお寄り下さい!」
サーシャはそう言うと二人に頭を下げてから店に戻って行った。
再び二人きりになると、優しくモニカに微笑みかけながらレオンが言った。
「モニカ。
他に行きたい場所はあるか?」
「いいえ!
色々と連れて行っていただきましたから、流石にもう思いつきませんわ!」
と言ってモニカはクスクスと笑った。
「そうか・・・。
それなら最後に一箇所だけ付き合ってはくれないか?
少し歩かなくてはならないが・・・僕だけが知っている秘密の場所に君を招待したい。」
「秘密の場所・・・ですか?」
「うん・・・。
きっと君も気に入ってくれると思う・・・。」
そう言って彼が案内してくれたのは、宮廷のある丘の更に奥にある山だった。
その山は騎士の訓練として用いられることもあるのだろう。
比較的登りやすく道が踏み固められていたが、あるポイントでレオンは急に道のない場所へと踏み込んだ。
「ここからは歩きにくいから気を付けてくれ。」
レオンはモニカを助けながらその道なき道を迷うこと無く突き進むと、やがて木々の枝が捌けていき、見晴らしの良い高台に辿り着いた。
そこからはアデルバート神国の広大な大地が見晴らせて、更に遠くには海が見えた。
既に日が沈みかけているためにその景色は茜色に染まっており、とても美しかった。
「まぁ・・・海・・・・・!!」
モニカは感激して声を上げた。
「うん・・・。
君はあの海の向こうからやってきたのだろう?
ここならジャポネを思い出せるんじゃないかと思ってな・・・。」
「えぇ・・・!
流石にジャポネは遠くて見えませんけど、あの茜色に染まった海を見ていますと、ジャポネに繋がっているのだと確かに感じられます・・・!」
「そうか・・・良かった!
ここは小さい頃に迷い込んだ僕が偶然見つけた場所でね。
踏み固められた山道からは繋がっていない、母様すら知らない秘密の場所なんだ。
ここを見つけて以来、嫌なことがあると良くここに来ていた。
ここなら誰にも見つからないし、好きなだけ愚痴も言えるし、思いっきり泣くことも出来たから。」
「・・・私に教えてしまって宜しかったのですか?
今この瞬間からレオン様だけの秘密の場所ではなくなってしまいましたが・・・。」
とモニカは茜色に染まった主人の顔を覗き込んだ。
「いいんだ。
ここは君にとって故郷を想い出せる特別な場所になると思ったし、僕も本当はこの場所を誰かと共有したかったんだ・・・。
その誰かは君しかいないと思ったから・・・・・。
・・・ジャポネが懐かしくなったら、またいつでもここに連れて来るから言ってくれ。」
「はい・・・ありがとうございます。
ですが私、道を覚えるのは得意な方なので、さっきここまで来るとき、既に道の目印を覚えてしまいました・・・。
なので次からは一人で来れてしまうと思いますが・・・。」
とクスクスと笑いながらモニカが言った。
「そうなのか・・・!?
こんな道なき道だぞ!?」
と汗を飛ばすレオン。
「えぇ。
ジャポネでも山に山菜を採りに入ったりしていましたし、道なき道を進むことにも、僅かな目印を見つけて道を覚えることにも慣れていましたから。
日が沈むと流石に無理ですが、明るいうちならほぼ間違いなくこの場所へ辿り着けると思いますわ!」
「そ、そうか・・・。
君は案外ワイルドなんだな。
物心ついた頃からサクヤ様のお側にいたと訊いていたから、もっと温室育ちなのかと思っていたが・・・。」
と微笑みながらレオンが言った。
「うふふっ、そんなことは御座いません!
ジャポネは山が多いですし、町に住んでいる女でもある程度山に入らないと暮らしていけませんから。」
「そうか・・・。
ジャポネは海に囲まれている島国で、山が多いのか・・・。
きっと美しい国なのだろうな・・・。」
「ありがとうございます。
アデルバートも広大で美しい国だと思いますが、ジャポネはジャポネならではの独特な建築物が多いので、そういった建物も観光で来られる方には人気がありますよ?
例えば5つの家が縦に積み重なったような形の塔や、屋根も壁も全て金色のお屋敷、朱塗りの見事な橋等が御座います。」
「へぇ・・・!
僕がジャポネに行った時、是非それらの建築物も見てみたいな・・・!」
「えぇ!
レオン様が大人になられて、身辺が落ち着かれましたら是非アンジェリカ様もご一緒に観光にいらして下さい!
その頃には私、残念ながらアデルバートでの滞在期間が終わってジャポネに帰国しているのでしょうけど、家族皆で歓迎いたしますわ!」
それに対してレオンは眉を寄せ、怒ったように低い声で答えた。
「・・・そうじゃない。
君は2年以内に僕と結婚するのだとさっきも言ったろう?
だから君はジャポネにそういった形で帰ることはない。
君との結婚が決まったら、ジャポネの君の家族、そしてサクヤ様の元へ、君を貰い受けると挨拶に行くから、今はその時の話をしている・・・。
今日贈ったリボンには、そういった意味を全て含んでいるんだよ・・・。
勿論君があのリボンに込められた僕の想いを全て認めて着けてくれたわけじゃないってわかってる。
だが・・・僕が成人するまでにはその気持ちを固めていってもらいたいんだ・・・・・。」
そう言ってレオンはモニカの頬に手を添え、もう片方の手ではモニカの手を優しく捉えてからこう囁いた。
「・・・・・モニカ・・・・・好きだ・・・・・」
そして、金の長いまつ毛を伏せ、首を傾けながらそっとモニカに顔を近づけてきた。
モニカは焦り、頭の中で思考を巡らせた。
(どうしましょう・・・!
キス・・・されてしまいます・・・!
これは絶対に避けられそうもありません・・・!
もし避けたら・・・レオン様を酷く傷付けてしまいます・・・。
それに・・・・・本当は避けたくありません・・・!!
今日はとても楽しかった・・・。
楽し過ぎて、あんなに早起きして出かけたのに、あっという間に日が沈んでしまいました・・・・・。
家族以外の人と時を共に過ごし、こんなに楽しいと思える方は初めてです・・・。
そしてレオン様は今の嘘偽り無い気持ちをリボンに込めて贈って下さいました・・・。
そして今、好きと言ってくれました・・・・・。
私も・・・貴方が好き・・・好き・・・大好きです・・・・・!
そう・・・もう完全に恋に落ちてしまったのです・・・・・。
この言葉を今口に出すことはまだ怖い・・・・・。
ですが、貴方の気持ちには応えたい・・・・・・・・・)
モニカは決意を固めるとそっと目を閉じた。
そしてその直後、ついに唇が触れ合った。
その感触はとても柔らかくて熱く、自分のものと混ざり合って溶けてしまいそうで頭がクラクラした。
そして10秒くらいしてようやく彼が唇を離した。
彼は夕焼けに負けないくらい耳と顔を真っ赤に染めており、モニカの額に自分の額をくっつけて、はにかみながらこう言った。
「・・・これで僕のファーストキスはモニカのものだ・・・・・」
モニカはそんな彼を見て、切なくて愛おしくて堪らなくなり、キュンキュンと何度も胸が締め付けられる思いがした。
「・・・・・はい・・・・・
私も・・・ファーストキスをレオン様・・・貴方に捧げます・・・・・・」
モニカがレオンの夕焼けを反射して茜色に染まった瞳を見つめながらそう言ってはにかむと、レオンはもう切なくて堪らないといった顔をして、モニカを強く抱き締めた!
モニカはレオンの胸元に顔を埋めると、ファルガーが唇の始めてを残してくれたことに心より感謝した。
そしてトクトクトクトク…と早く強く刻むレオンの鼓動の音を聴きながら、その背中にそっと手を回すのだった。
モニカは礼拝堂にてファルガーからの返事を受け取っていた。
─桃花へ。
まずは君が無事レオンハルト君の専属メイドになれて良かった。
僕にとっても大切な君が、女癖の悪い主人の元に置かれるのは心配でならなかったからね。
それにしても・・・ミスティルの町の人から少しは情報を得ていたが、やはり現当主と第一、第二公子はラスターと似ても似つかなかったか・・・。
実は僕を除く英雄達は魔王を打ち倒した後、日常に戻る前にヘリオス様からある”調整”をなされていてね。
それにより、英雄の血を引く子孫はあまり多く子を成せない筈なんだ。
大体一人の子孫に対して一人の子・・・稀にニ人の子を授かる者もいるが、その代わりにその子孫に子が授りにくくなったりして、今のナイト家みたいに子孫だらけの一族として発展するなどとてもあり得ないことなんだ。
そのことから今のナイト家は、ラスターの血を引かない偽物の家系なのかもしれないと僕は推測していた。
その事自体は僕にとって別にどうでもいいことなんだ。
偽物でもなんでも、国をきちんと統治しているのであればな。
だが、君からラスターにそっくりだというレオンハルト君のことを聞いて、本当にラスターの血を引く者がその偽のナイト家に取り込まれているのだとしたら、話はややこしくなると考えた。
君はレオンハルト君だけでなく、彼の母君もラスターに似ており、それがやけに引っかかると言ったね?
君の推測通り、もし平民上がりの彼の母親こそが本物のラスターの子孫なのだとしたら、彼女の息子であるレオンハルト君は、本人にその自覚がなくともアデルバート神国中を巻き込むナイト家お家騒動における”渦中の人物”ということになる。
とすると、今のナイト家が偽物であることが民にバレないうちに本物を次期当主に据えて、徐々に本物のナイト家へと変えていこうとする勢力、そして今の地位を脅かしかねない本物を消し去ろうとする勢力の2つがナイト家の中に存在すると想像できる。
メイドに毒を盛らせているのは単に平民上がりだからという理由だけではなく、後者の勢力の企みなのだとしたら頷ける。
そして、そんな付け入る隙だらけのナイト家の渦中の存在である彼を、ダルダンテが放っておく筈がない。
これから引き起こそうとしている戦争のキッカケ、そして駒として活用しようと考えるだろう・・・。
僕はそこを心配している。
その読みが当っているかどうかを知るために、やはり彼らの血縁関係についてハッキリさせる必要がある。
実は、ヘリオス様の手元には英雄達の血が今も新鮮なまま保管されていてね。
そのラスターの血と、彼らの血もしくは精液か唾液・・・唾液の場合はそれなりの量が必要となるが、それらを検査すれば、双方に血の繋がりがあるかどうかが判明する。
例え900年経って、その血が薄れていようともだ。
流石は桃花、既にレオンハルトくん、そして第一公子のものを手に入れてくれたようで感謝する。
恐らく頭のいい第二公子のぶんは手こずるだろうから、君が危険を冒してまで手に入れなくてもいい。
あくまでチャンスがあれば・・・と心に留めておいてくれ。
当主が偽物であった地点で彼も偽物ということでほぼ確定するからな。
その代わり、当主のぶんはどうにかして手に入れて欲しい。
彼を調べないことには事実関係をハッキリさせることが出来ないからな。
だが、くれぐれも無理はしないでくれ。
難しそうな場合は僕に相談をして、無理のない方法を探っていこう。
それから、後からの追加になって済まないが、第三公妃・・・レオンハルト君の母君のものも採取を頼めるだろうか?
レオンハルト君と彼女が親子であることは君の話からして間違いないだろうが、レオンハルト君が現当主と彼女の息子であるかどうかもこの際ちゃんと調べておいたほうが良いだろうからな。
女性の場合は精液が入手出来ないから、唾液よりは血液のほうが望ましいが、経血でもいいだろう。
それらが全て揃った時には君に会いに行く。
他の人物についても何かわかったら教えてくれ。
あと、これは頼み事とは関係がないが、レオンハルト君とはその後どうなっている?
僕には言いにくいことかもしれないが、やはり気になるんだ・・・。
君は僕にとって娘のようであり・・・・・いや、その先はこれから彼と恋愛関係に発展する可能性がある君に言うべき事ではないな・・・。
とにかく君の幸運を祈ってる。
ファルガー・ニゲル─
そしてモニカはそのままファルガーに宛てて返信をした。
─ファルガー様へ。
ご多忙な中にも関わらず、お返事をいただきありがとうございます。
早速報告なのですが、当主様の精液はアンジェリカ様のお部屋にて手に入りましたわ!
レオン様から当主様は毎晩のようにアンジェリカ様のお部屋に来られているとお聞きしましたので、ゴミ収集日にいつもの通りアンジェリカ様とレオン様がご一緒に朝食を取られた後、アンジェリカ様をお部屋に送って行ったついでに私がお部屋のゴミ収集を行い、そのゴミの中に明らかにそれを拭き取ったと思われるちり紙が御座いましたので、それを保管させていただきました。
追加でアンジェリカ様の血液もということで、了解しましたわ。
経血ですとタイミングによってはすぐにというわけにはいきませんけど、昨夜のアンジェリカ様とレオン様と夕食時の会話で、
「来週から数日間は夕食後に急いで部屋に帰らなくても良さそう」
とありましたので、もしかしたら生理予定日がその辺りなのかもしれません。
ですが、アンジェリカ様は私個人が好感を持っているお方なので、同じ女性として考えましても、経血をこっそり調べられるよりはまだ痛い思いをして普通に血を取って頂いたほうがマシかと思いますので、アンジェリカ様にこちらの事情をお話する訳にはまいりませんが、もし通常の血液を無理なく採取出来る機会がありましたら、そちらを提出するつもりです。
第2公子ジェイド様のものに関しましては、面接の日以来お会いする機会がなくまだですので、チャンスがあれば入手したいと思っております。
ジェイド様といえば、彼の母君様であらせる第二公妃のエスメラルダ様と昨日廊下ですれ違いましたわ。
ジェイド様と同じく翡翠色の髪と瞳をした大変お美しいお方で、
「このアデルバートの宝石と呼ばれた私ももう5人の孫を持つおばあちゃんなのよね・・・。
でも私の可愛いジェイドにちっとも似てなくて嫁ばかりに懐いている初孫、それにハーレムにいる滅多に会えない他の孫達よりも、私の可愛いベリルにそっくりで毎日会えるスフェーンが一番だわ!
あの子、将来はきっとあのレオンハルトに負けないくらい美しい騎士になるわよ!
ベリルもあの浮気性の旦那と離婚して、この宮廷でずっと暮らせばいいのに。
そうしたらスフェーンとずっと一緒に暮らせるでしょう?
あの子のためならおばあちゃん、どんな高価なものだって買ってあげるわ!」
と侍女に話しており、第一公女ベリル様の産まれてばかりの御子息のスフェーン様に大層夢中なご様子でした。
その為、彼女は少なくとも現地点ではアンジェリカ様とレオン様の毒殺を目論んでいる犯人ではないと思われます。
引き続き、新しくお会い出来たお方がいらっしゃいましたらお知らせ致しますわ。
それから・・・うふふっ、レオン様とどうなったか気になさって下さるのですね?
・・・レオン様は相変わらず私に好意を示して下さいます。
大変見目麗しいレオン様にあれだけアプローチをされれば、正直理性がグラついてしまうと言わざるを得ませんけど、彼とはまだ出会って間もないですし、今のところは何とかそれを上手く躱しております。
ですが・・・レオン様は私が専属メイドになってすぐ、そのお国柄とお立場により、色恋に関して難しい事情を抱えておいでだとお話して下さいました・・・。
その事情を考えると、レオン様のお気持ちを軽く扱うわけにはいきません・・・。
ファルガー様は既にご存知かと思いますが、アデルバートでは15歳で成人となり、レオン様は後8ヶ月で15歳を迎えられます。
この国においては騎士はそれまでに女性と関係を持たないと恥とみなされ、世間から認めて貰えないそうです。
そしてレオン様は、初体験の相手として・・・更には将来の妃として私を求めてくださっているのです・・・。
正直私はそのご希望に対し、何とお答えすればいいのかまだわかりません・・・。
ですが、レオン様が私を見限り、今私に対して向けて下さっている笑顔や好意の全てを、誰か他の女性に向けられるのだと思うと何だかやけに胸がもやもやして・・・とても嫌だと感じてしまうのです・・・。
・・・きっと私は既にレオン様に惹かれてしまっているのだと思います・・・。
実は本日はこの後、そんなレオン様とデートなのです。
デートといいましても、私にミスティルの町を案内して下さるというだけなのですが、私を楽しませようととても張り切ってくださっています。
私は今日、そしてレオン様が成人なさるまでの日々の中で、出来る限りレオン様を見て知って、悔いのない答えを出せたらと思っています。
ですが、もし色づき始めたばかりのこの恋が、熟する前に枝からもぎ取られてしまったそのときには・・・何も言わずに私を抱きしめて下さいますか?
なんて・・・早々に貴方からレオン様に心変わりをし始めた私に言えたことではありませんわね。
今のはどうか忘れて下さい・・・。
今日もファルガー様の旅の無事をお祈りしております。
相澤桃花─。
モニカはレオンが処女でないと勃起しないという事柄については伏せたままで祈りを終わらせた。
それはレオンにとっても他人に軽々しく話されたくないことだろうし、ファルガーもモニカからそれを奪った者として責任を感じてしまうだろうと思ったためだ。
(このメッセージボックスは、手紙と違って思考を直接届けるものなので言葉を選べませんし、つい本音が出てしまいそうになりますが・・・そのことだけでも伏せられて良かったです・・・。)
モニカがそう思いつつ立ち上がったその時である。
「モニカ!ここにいた!」
白い騎士服を身に纏ったレオンが礼拝堂の扉を開け、金の髪を靡かせながら笑顔でこちらに駆けてきたのだった。
「レオン様!
まだ早朝6時にもなりませんのに、随分とお早いですわね?」
とモニカが驚き主人の元へ駆け寄った。
「あぁ、今日はデートで朝から外出するだろう?
でも僕には毎日欠かせない基礎鍛錬があるから、早起きしてそれだけでも済ませておこうと思ったのだが、起きたら君が部屋にいなかったから、鍛錬は一声かけてからにしようと探しに来たんだ。」
「まぁ!
こんな時間から鍛錬とは、レオン様は本当に頑張り屋さんですわね!
では私はその間に朝食の支度とお洗濯、そしてお掃除も可能な範囲でしてしまいますので、鍛錬が終わりましたら一緒に朝食を食べて町に出かけましょうか。
今日はいつもより朝食の時間が早いですから、アンジェリカ様を起こすのは申し訳がないですし、アンジェリカ様の朝食は、出かける際にお部屋にお届けしてから参りましょう。」
「あぁ、そうしよう!
あ、今日の朝食メニューだが、僕は昨日と同じ卵かけご飯がいいな!
あれは凄くいい・・・。
卵を生で食べるなんて始めてのことで驚いたが、濃厚で甘く、ソイソースと葱とライスに良く合いとても美味だった・・・。
ビーフストロガノフよりも好きかもしれない・・・」
と昨日の朝食を思い出して涎を垂らすレオン。
「うふふっ!
卵かけご飯、大変気に入っていただけたようで良かったですわ!
卵を生食する習慣のないアデルバートでは知られていないようですが、実は卵の殻には浄化の魔石を使うことが出来るのですよ。
そうすることにより卵の表面が綺麗に殺菌されて、生卵を安全に食することが可能となります。
卵ならまだ冷蔵庫に御座いますから、今朝も卵かけご飯をお出ししますわ!
ですが、卵かけご飯には欠かせないソイソースが実はもうあまり無くて、お出し出来るのも今日で最後になりそうなのです・・・。
レオン様とアンジェリカ様がこんなにジャポネ料理を気に入って下さるのなら、ソイソースもお味噌も昆布もかつおぶしも、もっと沢山持って来ておけば良かったですわ・・・」
とモニカは悩ましげに眉を寄せた。
だが、そんな彼女に対してレオンは口角を上げふふっと笑みを零しながらこう言った。
「そのことならきっと大丈夫だ!
ジャポネの食材を扱っていそうな店を友人に教えて貰ったからな。」
「まぁ!
ジャポネの食材を!?
もし売っていましたら大変助かりますわ!」
とモニカが両手を合わせ、表情をパアッと明るく輝かせた。
「あぁ!
世界中の調味料やスパイス、珍しい食材を扱っているらしいから期待していいと思う。
市場通りにあって早くから開いているようだから、一番最初に行ってみるか?」
「うふふっ!
ソイソースもお味噌も重たいですから、一番最後でいいのですよ?
どうせレオン様が持とうとしてくださるのでしょう?」
クスクスと笑いながらモニカが言った。
「いや、一番最後では店が閉まってしまうかもしれない。
市場通りの店は早く開くぶん早く閉まるからな。
それに今日はアイテムボックスの使用許可を得ているから、一番最初に重たいものを買っても大丈夫だよ。
最後にはとっておきの場所に連れていきたいし・・・。」
「まぁ!
アイテムボックスって、あの次元に繋がりアイテムが沢山収納力出来るというとっても高級な魔石ですわよね?」
(ファルガー様がお持ちなので見せていただいたことがございますが、非常に小さな黒い魔石で、天然物の他に魔石を合成して作られた廉価版もあるのだとか。
廉価版の一番収納容量の小さいものでも、10000G(※日本円で100万円)くらいするそうですが・・・)
とモニカはファルガーが指に着けていた黒い石の付いた指輪を思い浮かべた。
「ははっ、僕個人ではまだ持ってはいないが、うちはこの国を統率している家だから、アイテムボックスは幾つか保持しているんだ。
魔獣討伐の時は勿論、それ以外でも必要なときには申請すれば借りられる。
まぁ今日僕が借りられたのは廉価版の一番容量の小さいのだけど、それでも今日のデートをスマートにこなすには充分だ。
だから一番最初にその店に行って、ソイソースや味噌を好きなだけ買ったって全然構わない。」
とレオンは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます!
それではお言葉に甘えさせていただきますわね!」
二人は朝食にレオンのリクエストの卵かけご飯、そしてほうれん草の胡麻和えと茸と豆腐と白葱の味噌汁を食べ終えると、それぞれの部屋で適切な服に着替えていた。
今日は危険なエリアにも行くため、専属メイドの制服のままでは目立ちすぎて良くないと思われた為だった。
モニカは今日のデートの服装についてどの様なものがいいのかわからなかったため、事前にアンジェリカに手持ちの服を見せて相談をしていていた。
すると彼女は、
「貴方が持っているワンピースは、どれも控え目なデザインだけど生地と仕立ての良いものだから、それで貧民街を歩くのは危険だわ。
貴方は美人だし、それでいてお金持ちだと思われれば例えレオンハルトが一緒でも、あの子が目を離した隙に攫われるかもしれない・・・。
貧民街はそういった危険性も伴うところなのよ・・・。
うんとみすぼらしい格好をすれば貧民街においての被害は免れるのでしょうけど、逆に普通の通りでは嫌な顔をされてしまうし、そのどちらにも対応出来る平民同様の服を着ていくのが一番じゃないかしら?
かといってその一日のために平民服を揃えるのは勿体ないから、私の昔の服で良ければ貸してあげるわ!
私、貴方ほどお胸は大きくないけれど、背丈は近いからきっと大丈夫でしょう。」
そう言ってアンジェリカが貸してくれた服は、花売りのニーナが着ているのと同様のデザインの白地に紺の刺繍が入ったブラウス、そして真ん中と裾にリボン状の刺繍が入った袖のない紺色のジャンパースカートだった。
モニカはその服に合わせて髪を右横に流しながら三つ編みにし、ファルガーから12歳の誕生祝として貰ったいつもの桃色のリボンで結んだ。
(変じゃないかしら・・・。
やはり姿見が欲しいですわね。
レオン様が今日アイテムボックスをお持ちなら、思い切って買ってしまおうかしら・・・)
そんなことを思いながらレオンの部屋へと続く鍵のない扉を開けると、レオンはとうに着替えを終えてモニカの部屋の前で待っていた。
彼の格好はミスティルの町で良く見かける標準的な男性の衣装であり、随所に刺繍の入った白いトップス、下には黒の細身のパンツを合わせ、ウエストの辺りにはいつも騎士服に剣を下げるために着けている刺繍の入ったベルトをして剣を下げていた。
白い騎士服とは違うその姿も、見目麗しい彼には大変良く似合っていた。
そんな彼は部屋から出てきたモニカを見て顔を真っ赤に染めるとこう言った。
「モニカ・・・。
・・・・・・母様から借りたその服も良く似合っていて可愛いな・・・・・・。
だが町娘の格好をしていても君は非常に目を引く。
貧民街では特に一人にならないように気をつけるとしよう。」
「ありがとうございます。
レオン様こそ、町の男性と同様のお召し物も大変良くお似合いですわ!
ですが、レオン様は態々着替えられずとも騎士服のままでも宜しかったのではないですか?
貧民街の悪者達も、直系の騎士様相手にスリや暴行を働こうなどとは思いもしませんでしょう?」
とモニカが疑問を口にした。
「まぁ貧民街ではそうかもしれないが、白の騎士服で花街を歩くと客引きが止まなくて鬱陶しいからその対策だよ。
この格好のほうがそんなに金を持っていないと思われて街の案内に集中出来そうだからな。」
とレオンは自分の格好を見下ろしながらそう答えた。
それに対してモニカはクスクスと微笑みながら言った。
「いえ・・・レオン様はどのような衣装を着られていても、大変美しく品がおありなので、遊女から声をかけられてしまうのは避けられないでしょう。
それより花街を案内して頂く際には私と手を繋ぎ、恋人のフリをしていたほうが声をかけられにくいのではないでしょうか?」
「ナイスアイディアだモニカ!
・・・花街だけとは言わず、他の場所でも是非そうしよう!
それなら何処にいたって君を軟派野郎から守ることが出来るし、人混みで逸れる心配もないだろう?」
レオンはうんうんと何度も頷きながらそう言った。
「・・・うふふっ!
そんなに嬉しそうに言われては悪い気もしませんけど、こんな素敵なレオン様とずっと手を繋いでいては、私のほうが通りすがりのお嬢さん方に嫉妬の眼差しを向けられて精神衛生上良くなさそうですから、やはり花街だけで・・・」
とモニカがやんわり断ろうとすると、それを遮ってレオンが声を上げた。
「そんなことない!
君の方こそ可愛くて他の男が放っておかない!
だから君は僕のものなんだと、誰も手を出すなと、周囲に誇示したいんだよ・・・。
・・・いけないか?」
レオンが顔中真っ赤に染めて少し拗ねたようにそんな事を言うので、モニカはそんな彼が可愛くて、そして彼の言葉が嬉しくて、頬を染めはにかみながらこう返した。
「・・・わかりました。
では宮廷を出たら手を繋ぎましょうか・・・。」
その言葉を聴いたレオンが何とも嬉しそうにぱあっと表情を輝かせたので、モニカはまたクスクスと笑った。
「・・・笑うなよ・・・。
どうせ僕がわかりやすく感情を顔に出すから子供みたいだと誂うつもりなんだろう?」
「うふふっ!
別に誂いはしませんけど、確かにレオン様と一緒にいると、梅次を思い出すところは多々ありますわね!
そう言えば昨日梅次へ出した手紙に、レオン様のことを書きましたのよ?
どうしても”うめつぐ”と発音が出来なくて、最終的に”ウェッグ”とお呼びになられていることとか!」
「そ、それは仕方ないだろう!
君の父様の名オーガは簡単だが、うむぇつぐぅ…は難しすぎだ!
ウェッグなら難なく呼べるし、もうそれで許してくれと伝えて欲しい!」
「うふふっ!
大丈夫ですわ。
梅次は懐が深いですから笑って許してくれます。」
「だといいのだが・・・。
彼は僕の未来の弟になるのだから、今から良好な関係を築いておきたいからな・・・。」
とレオンは頬を赤く染め、照れ隠しにコホン!と咳払いをしてからこう続けた。
「君の家族といえば、君がジャポネにいた時の主人の名をまだ聞いてなかった。
何と言う人なんだ?」
モニカは父がジャポネを出る際に持たせてくれた自分の経歴を記した書類に書かれていたジャポネでの主の名・・・ファルガーが必要に応じて用いる偽名であるその名を答えた。
「最上朔也様ですわ。」
(ファルガー・ニゲルというのはヘリオス様が与えられたあの方のこの世界での名で、本当の名は記憶を喪失してこの世界に招かれてしまったお弟子さんに差し上げたので、この名はお父様のものだとファルガー様が以前お話してくださいました・・・)
とその時の様子を回想するモニカ。
「サク・・・ヤ・サイジョー・・・様か・・・。
ふむ・・・。
お年を召している人の名にしては、やけに若々しく格好が良い響きなのだな?」
「・・・そうですか?
レオン様だっていつかお年を召されたらそのように言われるのだと思いますわよ?」
「そうか・・・。
確かにそうだ!」
そう言ってレオンはクスクスと笑った。
「それで、そのサクヤ様への手紙にも僕のことを書いたのか?」
とレオン。
「えぇ。
きっと早々に私に手を出しそうではない良識のあるお方の元に付くことななったことでご安心なさると思いますわ!」
(正確には手紙ではありませんし、そのことに対するお返事も既にいただきましたが…)
と頭の中で補足を入れつつモニカは答えた。
「そ、そうか・・・。
僕が8ヶ月以内に君を口説き落して寝台に招くつもりだとそのサクヤ様に知られたら、アデルバートとジャポネの関係が悪くなったりするのだろうか・・・?」
とレオンは少し血の気の引いた顔で呟いた。
「あらレオン様、お顔が青いですわよ?
うふふっ、大丈夫です。
朔也様は私が望んだことであれば何も申されませんから。
最も私が望んでもいないのに強制的にその様な関係を強要されたと知られれば、その権力を振るわれることもあるかもしれませんけど・・・」
実際には小国であるジャポネの大名が大国アデルバートの公子相手にそんな理由で喧嘩を売って国際問題に発展するなどあり得ないことだった。
だがモニカはレオンのことは本当に自分が嫌がることはしない人物だと信じてはいるが、やはり彼が既に生殖が可能な男であることがハッキリした以上、自分との関係性にもう少しだけ緊張感を持って貰うことも必要かと思い、敢えてその事には触れずにそう言ったのだ。
「・・・そ、そうか・・・。
勢い余って君を襲ってしまったらまずいということは良くわかったよ・・・。
残り8ヶ月の間に君の同意を得られるよう頑張らないとな・・・。
その為にも今日のデートは大切だ。
時間ももったいないし、そろそろ行こうか・・・!」
そう言って彼はモニカに微笑みかけた。
「はい!
参りましょう!」
モニカは笑顔で頷くと、アンジェリカに届ける朝食のトレーを手に持って、レオンと共に部屋を後にするのだった。
朝食を届けにアンジェリカの部屋を訪ねると、彼女は昨夜遅くまでダズルに付き合わされたのだろう。
今起きたばかりの寝ぼけ眼で出て来たが、二人の服装を見て目が覚めたようで、
「あっ・・・今日がその日だったわね!
二人共、行ってらっしゃい!」
と笑顔で手を振り見送ってくれた。
宮廷を出たら手を繫ぎ、町へと続く丘を下った。
町に辿り着いた時には時間がまだ早く、商店街の何処の店も開いていなかったが、レオンが市場通りならば開いていると言ったので、まずはそちらに向かうことにした。
市場通りはこのミスティルの食料品を扱う全ての店が集まった通りであり、8時という早い時間にも関わらず、数多くの主婦たちが新鮮な食材を求めて集まってきていた。
モニカはこの通りには既に買い出しでレオンに何度か連れてきて貰っていたが、いつも彼の空き時間である昼過ぎから15時までの時間に来ていたので、朝のこの時間の賑わいは彼女の目にとても新鮮に写った。
レオンは宮廷を出る前の約束通り、一番最初に世界中の珍しい食材を取り扱っているという”フクースナ”(※アデルバート語で美味しいを意味する)という店に連れて行ってくれた。
そこには割高ではあったが、ジャポネのソイソース、味噌を始めとしたジャポネならではの調味料の他、ジャポネ産の米や昆布、鰹節、干し椎茸や煮干し、緑茶なども売っていた。
モニカは感激して目を輝かせ、それらをしっかりと買い込んでレオンのアイテムボックスに収納してもらった。
その後は市場通りに来たついでに数日間は買い物に出なくて済むよう、卵や肉、魚、そして野菜等も沢山買っておいた。
モニカが専属メイドになって以来、宮廷の調理場で作られた食事を利用することもあったが、レオンとアンジェリカがジャポネ料理を大変お気に召したこともあり、朝、そして夕食はほぼモニカが用意していた。
そのため毎日の食材の買い出しは必須だったが、アイテムボックスがある今日ならまとめ買いができるので、モニカは有り難くそれを活用させてもらったのだ。
それらの買い物を終えて二人が商店街のほうに戻ってきた頃には、各店舗が少しずつ開店し始めていた。
そこでレオンが、
「開店直後のまだ客がいないうちに、モニカを連れていきたい店があるんだ。
武器屋だから君は興味がないかもしれないが、僕にとっては特別な店だから、是非モニカにも知っておいて貰いたい。
付き合ってくれるか?」
と言って、ある武器屋に案内するのだった。
そこは平民街の外れにある”武器屋リエーフ”(※アデルバート語でリエーフはライオンの意)という看板がある小さな武器屋で、大通りや教会通りにある大規模な武器・防具屋に比べると小さく古ぼけてはいたが、石壁や窓ガラスがピカピカに磨かれ、店の表も綺麗に清掃が行われており、大変印象の良い店だった。
─カランカラン♫─
レオンが来客を告げる鈴を鳴らしながら店の扉を開けると、中からメイド長オリガに似た雰囲気を持つ初老の婦人が出てきてこう声をかけてきた。
「あら!
いらっしゃいませレオンハルト様!」
「様付けは止してくれよばあちゃん・・・。」
レオンがそう言って苦笑したのを見て、モニカはハッとし口にした。
「もしかして、こちらのお店はアンジェリカ様のご生家なのですか・・・?」
「そう。
この人が僕の祖母のタマラばあちゃん。
奥にいるのは祖父のライオネルじいちゃんだよ。」
レオンに紹介されたライオネルは売り物の剣の手入れを止めると、レオンとモニカの側までやって来てにこやかに笑って頭を下げた。
間近で見たライオネルは、年老いてはいてもラスター・ナイトと良く似た穏やかな雰囲気を持った美しい男であり、彼とレオンの血が繋がっているということは疑うまでもなかった。
「レオンハルト、良く来たね。
こちらのお嬢さんは?」
モニカは穏やかに微笑み頭を下げた。
「私は先日レオンハルト様の専属メイドとなりましたモニカ・アイジャーと申します。
本日は貧民街等も案内していただくためアンジェリカ様からお借りしたお召し物を着させていただいておりますの。
よろしくお願いしますわ!」
「まぁ!
レオンハルトに専属メイドさんが!?
この子ったら、こんな素敵なお嬢さんをどこで見つけて来たのかしら!?」
とタマラが嬉しそうに微笑んだ。
「あぁ、それはね・・・」
とレオンがこれまでの経緯を簡単に説明した。
「まぁ、そうだったの!
モニカさんみたいなしっかりとしたお嬢さんにお世話してもらえることになって本当に良かったわね!レオンハルト!
モニカさん、こんな狭い家で悪いけれど、とうかおかけになって?」
そう言ってタマラはモニカに椅子を勧めた。
「ありがとうございますタマラさん。
ですが今はこちらの商品を見せていただいても宜しいですか?
私、武器に造詣は深くありませんけど、どの品もとても良く手入れがなされているので興味が湧いてきまして・・・。」
とモニカ。
「あらまぁ、ありがとう!
今お茶を淹れますから、ゆっくり見てらしてね!」
「あっ、タマラさん、どうかお構いなく・・・!」
モニカがタマラに気を使って汗を飛ばすが、「いいのいいの!
丁度美味しいお茶菓子があるのよ!」
と言いながらタマラはキッチンのある奥へと行ってしまった。
「遠慮しないでゆっくりしていってくれ、モニカさん。
レオンハルトがうちに女の子を連れて来るなんて始めてのことだし、タマラも嬉しいのだろう。」
とライオネルは言うと、先程中断していた武器の手入れを再開し始めた。
モニカは彼に会釈をし、続けて売り物の武器を見ていたが、その中に革で編み込まれた鞭を見つけ、目が釘付けになった。
「・・・革の鞭が気になるのか?」
とレオンが尋ねた。
「えぇ。
私が初めてこの国に来た日にニーナさんを逃がした後、オリーブ隊の騎士の一人にたまたま落ちていたベルトで一撃を加えたのですが、その際に妙にしっくりと来て、同じように撓る鞭であれば私にも扱えるかもしれないと思ったのです。
この町で暮らすにあたり護身用の武器があったほうが心強いですし、お値段も手頃ですので購入しようかしら・・・?」
「ふむ・・・。
確かに革製の鞭なら力のない女性の君でも扱いやすいかもしれない。
ただどんな武器でもそうだが、練習もなしで扱うのは危険だ。
特に鞭はクセが強いし、扱い方を間違えれば君のほうが怪我をするかもしれない。
購入するのはいいが、使う前にきちんと指導してもらったほうがいいと思う。」
「指導ですか?」
と首を傾げるモニカ。
「あぁ。
僕が教えられたらいいのだが、生憎と僕は剣以外の武器のセンスは皆無でな。
フェリシア神国の英雄ヘイズ・ハント程とはいかないだろうが、母様なら鞭も結構扱えたと思うから、母様に習うと良いよ。
君にジャポネ料理のお礼をしたいといっていたから、喜んで指導役を引き受けてくれると思う。」
「まぁ!
アンジェリカ様に教えていただけるのでしたら大変助かりますわ!」
そうしてモニカはレオンの祖父母の店”武器屋リエーフ”にて革の鞭を購入した。
最初はレオンが代金を支払おうとしてくれたが、モニカがやんわりとそれを遠慮した。
その代わりにタマラとライオネルがレオンの専属メイドだからといってかなり安くしてくれて、350Gだった革の鞭をたったの200G(※日本円で2万円)で売ってくれたのだった。
(このお礼は何れさせていただきませんと・・・)
とモニカは彼等に感謝しつつ、他のお客が来るまでの間、お茶をご馳走になってから店を後にした。
リエーフと貧民街は近くにあるため、二人は手を繫ぎ、そのまま貧民街へと向かった。
貧民街は建物も全体的に古く薄汚れており、街ゆく人々の服も平民達に比べてところどころほつれてみすぼらしくはあったが、貧民街に近い通りで生まれ育ったアンジェリカが公妃となってから、アンジェリカが貧民街に読み書きや簡単な計算を教える学校を作り、それにより例え貧しい家で生まれ育ったとしても、本人の努力次第で将来まともな職業に就くことも可能だろうとレオンは語った。
レオンもアンジェリカの建てた学校にたまに手伝いで来ることもあるらしく、貧民街においても比較的治安の良い通りに暮らす者達からは、
「あっ!レオンハルト様だ!」
「別嬪さんを連れて、今日はどうしたんだい?」
等と声をかけられていた。
貧民街においてはアンジェリカの息子であるレオンを次期ナイト家当主にと後押しする声が高いのだなと、彼らとレオンの会話からモニカは感じ取った。
最も当の本人は、
「あぁ・・・そのことならきっとグリント兄さんが継ぐことになるよ。
だがそうなってもここの区画についてはグリント兄さんと交渉して僕が管理する権利を得るつもりだから、どうか安心して欲しい。」
と笑顔で答えていた。
だが同じ貧民街でもより暗く汚れた雰囲気の通りには、物陰からこちらの隙を伺っているような油断ならない輩も見られた。
レオンが一瞬も手を離さずにいてくれたため、モニカは何の被害に遭うことも無かったが、もし知らずにここに迷い込み一人で歩いていれば、間違いなく危険な目に遭っていただろうと理解し、とても怖くなった。
だが、ここがどれだけ危険なのかは実際に見てみないとしっかりとは理解出来なかっただろうし、連れてきて貰って良かったと思った。
続けてレオンは花街にも連れて行ってくれた。
平日の昼前という時間のためか、その賑わいは想像したものよりもずっと控え目だったが、それでも昼間にも営業をしているいかがわしい店の遊女がレオンにチラチラと色目を使って来ていた。
モニカはこの花街においては手繋ぎでは彼を守るのにインパクトが弱いと感じ、咄嗟にその腕を取った。
レオンは腕に当たるモニカの胸の感触に顔を赤く染めて鼻の下を伸ばし、更には下半身も反応してしまったようで、その辺りに出来た不自然な膨らみとモニカの顔を交互に見ては、それをモニカに気付かれていないか気にしていたようだったが、モニカはそれには気が付かないフリをして、親しげにレオンに話しかけ続けた。
そのためレオンに声をかけてくる遊女はいなかったが、二人が通り過ぎたあとに、
「こんな所に恋人同士が何しに来たんだよ!
見せつけやがって畜生が!
ここはデートで来るような通りじゃないよ!?
さっさと消えな!」
と背後から野次を飛ばされたため、モニカはレオンと顔を見合わせて苦笑いすると、足早に花街を通り過ぎた。
「・・・とまぁ、夜の賑わいはこんなものではないが、今ので花街の区画はわかってもらえたと思う。
第4公妃エカテリーナはさっきの花街の遊女上がりでな・・・。
ここではエカテリーナとその息子・・・僕の腹違いの弟のルーカスを次期当主として押す声が多いようだよ。」
とレオンが説明した。
「ルーカス様ですか。
第4公子様ということは、今はエカテリーナ様と一緒にハーレムにおられるのですよね?
梅次くらいのお年ですか?」
とモニカが尋ねた。
「いや、ウェッグよりは少し歳上で今12じゃなかったかな・・・?」
「まぁ・・・。
それでしたらレオン様とお年も近いですし、同じ平民出身のお母様を持つ同士としてもお話が合うのではないですか?」
だがレオンはそれに対して表情を曇らせると頭を左右に振った。
「僕も最初はそう思って仲良くしようと話しかけたんだ。
だが向こうに全くその気がなく、冷たく睨まれて一度も口を利かず仕舞いだよ。
同じ腹違いの兄弟の中では、ジェイド兄さんが一番僕に構ってくれるかな。
まぁジェイド兄さんは腹の底が読めないし、貴族ならああしろこうしろと煩わしいことも言われるから正直苦手ではあるが、そうして干渉してくれることに救われてる部分もあるんだ・・・。」
とレオンは苦笑した。
「そうですか・・・。
グリント様とはどうなのです?」
とモニカは尋ねた。
「あぁ・・・グリント兄さんは一回りも年が離れている癖に昔から僕を女みたいだと虐めてばかりだったから大嫌いだ。
今は僕が強くなったからか流石に虐めては来なくなったが、あんな兄でも次期当主の第1候補だからな。
僕が将来においてある程度融通が利きそうなのも彼がいてくれるお蔭だし、その点では感謝しているよ。
まぁ父にも言える事だが、僕を代理で魔獣討伐に向かわせておいて、その仕事の成果を自分のものとされるのは納得が出来ないが、それも僕がお披露目されるまでの辛抱だ。
僕が騎士としてお披露目されれば僕の働きは全て僕のものとしてアデルバート神に報告され、正当な評価が受けられるようになるからな。
まぁそれはともかくとして、あの通り滅多なことでは戦地に出たがらない父でも当主になれたのだから、同じく怠け者騎士のグリント兄さんが次期当主でも問題なく世間から受け入れられるだろう。」
とレオンは言った。
モニカはファルガーがメッセージボックスで言っていた推測からして、ナイト家内においてグリントを次期当主の第1候補として支持しているのは主に今の地位を失いたくない者たちであり、ラスター・ナイトの血を引いている公子がもし本当にレオンだけなのだとしたら、彼を第1候補として押す声のほうが実際は強いのではないか?と思った。
だがレオンはそれを望んではおらず、その責任を引き受けてくれる存在としてグリントを必要としているのだと理解したため、この場は何も言わずにその言葉を飲み込んだ。
するとレオンが懐中時計をポケットから取り出して見てこう言った。
「そろそろお昼時だし腹が空かないか?
この近くに母様の友達が営んでいるピロシキ屋があるからそこで昼食を食べよう。
この時間だと少し並ばなければならないが、安くてとても美味いんだ!」
「ピロシキですか!?
うふふっ!
私、前から食べてみたかったんです!」
レオンが連れて行ってくれたピロシキ屋は大変賑わっており、10分ほど並んでようやく買うことが出来た。
レオンは角イノシシ肉と玉ねぎ、キャベツ、ライスの入ったピロシキを、モニカは岩鳥と茸、それにマッシュポテトの入ったものを選んた。
店のテラスで食べた焼き立てアツアツのピロシキと紅茶は大変美味しく、二人のお腹を一気に満たしてくれた。
昼食が済むとレオンが言った。
「モニカ、後は平民街を適当にぶらついて過ごそうかと思うが、君が行ってみたい店は無いか?」
「行ってみたいお店・・・そうですね。
私、レオン様のポメロの香りの石鹸を扱っているお店に行ってみたいですわ!
私がジャポネから持ってきた桃の香りの石鹸もそのうちなくなってしまいますから、代わりになる石鹸が買えそうなお店を見つけておきたかったのです。
レオン様の石鹸の香りはとても素敵ですし、同じお店ならきっと好みのものが見つかると思いまして・・・。」
「そうか・・・わかった!
案内しよう。」
レオンに連れてこられた店はアラマートゥ・ムィーラ(※アデルバート語で香りの石鹸という意味)という店で、店先には季節の花の寄せ植えやブリキの人形が彩りを添え、若い女性が好みそうなお洒落な外観をしていた。
「まぁ!可愛らしいお店ですわね!」
「うん・・・。
正直男の僕には入りづらい店だけど、あの石鹸を買えるのはこの店だけなんだ。
騎士服でこの店に入ると目立ちすぎてしまうから、近頃では母様の化粧品と一緒に僕の石鹸も宮廷まで定期的に届けてもらっていてね。
直接店に顔を出すのは久しぶりだよ。
今日は君と一緒だし、騎士服じゃないから店に入っても大丈夫だろう。」
そう言ってレオンは店の扉を開けた。
チリンチリンと少し高めの来客ベルが鳴ると、「いらっしゃいませー」と女性の声がし、
「あっ・・・・どなたかと思えばレオンハルト様ではないですか!
お久しぶりでございます!」
と続いた。
その店員はこの店の店長でありこの店の商品を制作しているその人で、宮廷にアンジェリカの化粧品やレオンの石鹸を届けてくれるのは彼女の夫であった。
「久しぶりだね、ソフィアさん。
今日は僕のものじゃなくて彼女・・・僕の専属メイドなんだけど、彼女のものを買いに来たんだよ。
相談に乗ってくれるかな?」
モニカはソフィアに桃の香りの石鹸を出してもらい、その香りを確かめてみた。
(私が今使っているものとは少し違いますが、こちらもとても良い香りです・・・!)
「同じ香りの化粧水と乳液と美容クリーム、ファンデーションもございますよ?
お試しになりますか?」
モニカはそのシリーズの液体石鹸を一瓶と、もうすぐなくなりそうだった化粧水を購入したのだった。
「これでアデルバートにいる間も無事桃の香りを維持できそうですわ!」
そう言って嬉しそうに微笑むモニカに対してレオンは優しく微笑みを返すとこう言った。
「それは良かった。
だがアデルバートにいる間、じゃないだろう?
君はこの国に永住することになるのだから・・・。」
「ですが異国人である私はどんなに長くいても2年すればジャポネに帰らなければなりませんわ。
それがこの国でのルールですから・・・。」
とモニカは少し眉を寄せてそう答えた。
「・・・それまでにこの国の男と結婚すれば君はアデルバートの国籍を手に入れられるだろう?
僕が必ずそうさせてみせる・・・!」
そう言って拳をぐっと握り締めるレオンを見て、モニカは何と答えればいいのか迷ったが、彼があまりに真剣な顔をしているので、ここは否定せずに明るく乗ってみることにした。
「あら!
私がジャポネを捨ててレオン様の奥様になっても、後悔しないくらいいい男になると仰るのですね?
それでしたら温風器でご自分の髪を乾かすくらいは出来るようになっていただかないと。」
「それは一生出来ないままで良いんだよ!
僕が年老いて死ぬまでずっと君にやってもらうんだから・・・」
「もう・・・本当に甘えん坊なんですから。
仮に私達が結婚したとしましても、あまり私に甘えてばかりいますと、愛想を尽かしてジャポネに帰ってしまいますよ?」
「うっ・・・それは困るが、髪を乾かすのは君がいいっていうのは譲らない!」
「それでしたら読まれた本をきちんと棚に戻されたり、脱がれた騎士服をハンガーにかけることは今後ご自分でやっていただけるのですね?
うふふっ、これで少しは私の仕事が楽になりますわ!」
「・・・君は僕を思い通りにするのが上手すぎるんだよ・・・。
悔しいな・・・・・」
そんなやり取りをしながら落ち葉舞う通りを手を繋いで歩く二人なのだった。
「他に行きたい店は無いか?」
と再びレオンに訊かれたモニカは、姿見が欲しことを伝えた。
レオンは少し考えてから家具屋に連れて行ってくれたので、そこで手頃な姿見を買い、レオンのアイテムボックスにそれを収納してもらった。
そうして家具屋を出たところで、レオンが少しソワソワした様子でこう切り出して来た。
「・・・この近くに寄りたい店があってさ。
付き合って貰ってもいいかな?」
「えぇ。
構いませんわよ?」
(うふふっ、また武器屋さんかしら?)
そう思いつつ頷いて彼に着いていくと、”セルツェ・ヴイーシフカ”(※アデルバート語で心ある刺繍の意)と看板のある小さく愛らしい手芸雑貨屋に辿り着いた。
店内には色とりどりのリボンや刺繍入りハンカチ、バック、衣装等の手芸品が展示販売されていた。
「ここは・・・手芸雑貨屋さんのようですけど・・・?」
年頃の男子である彼が寄りたいという店としては非常に意外だったため、モニカは首を傾げた。
「うん・・・そう・・・。
すぐに済むから君は表で待っていてくれるかな?」
「えっ?
私も中までお付き合いしますよ?」
と首を傾げるモニカ。
「いや・・・それはちょっとな・・・・・」
モニカは歯切れの悪い返答をする主人をますます不思議に思い怪訝な顔をするが、ガラス越しに見えるこの店の若い女性店員が彼と知り合いなのか、彼の姿に気がついて笑顔で手を振ったのを見て悟った。
(髪色等は違いますが、ニーナさんと似た雰囲気の愛らしいお方・・・。
きっとニーナさんと同じく、男の証を立てるお相手候補の方ですわね・・・。
私と出会ったから、もう他の候補の方にその気はないのでは無かったのですか?
町を案内する目的とはいえ、本日は私とのデートですのに、他の候補の女の子のお店に顔を出されるだなんて・・・・・)
モニカは胸の奥に何とももやもやする気持ちを抱えながらもニコッと笑顔を作り、こう答えた。
「えぇ、かしこまりました。」
レオンはモニカがそんな気持ちでいるのだと気が付きもしないで、店の中に入って行った。
モニカは見たくもないのに彼の様子が気がかりで、彼と彼女が楽しそうに歓談する様子をガラス越しに見ては更に胸のもやもやが増していくのを感じ、ついには耐えきれなくなってふいっと目を逸らした。
すると、通りを歩いていたモニカと同世代と思われるゼニスブルーの服を着た騎士2人と目が合ってしまい、声をかけられた。
「君一人?
凄く可愛いね!」
「うん、可愛いっつーか美人系?
スタイルもいいしマジ俺好み!
珍しい髪と瞳の色をしてるが異国人かな?
一人なら俺等と遊びに行かない?」
「ちょっと待てよお前。
近頃第三公子様の専属メイドになったっていう娘がそんな髪と瞳の色をしているらしいぜ?
もしそのメイドだったら後で第三公子様に半殺しにされるぞ?」
「馬鹿言え!
専属メイドがこんな所に町娘の格好で居るはずがないだろ?
俺いい店を知ってるんだ。
一緒に行こうよ!」
「俺等はオリーブ隊の奴らと違って紳士だから、いきなり金を見せて身体を売れなんて言わないから安心していいぜ?」
モニカはそんな彼らの声を無視してチラッと店内にもう一度視線を向けた。
レオンはこちらの様子に気がつく様子もなく、彼女と歓談しながら何かの商品を購入し袋に包んで貰っていた。
(あんまりあちらの店員さんとのお話が弾んでお店から出てこられないようなら、この方達について行ってしまおうかしら・・・。)
モニカがヤケっぱちになってそんなことをチラッと思ったところで、店員の方が先にこちらの様子に気がついたらしく、モニカを指差してゼニス隊にナンパされていることをレオンに知らせた。
レオンはそれを聞いて血相を変えると、物凄い勢いで店から飛び出してきた!
「モニカ!!」
「「えっ・・・!?
あ、貴方は第三公子様!!?」」
ゼニス隊二人は目玉が飛びだしそうなくらい驚くと、レオンに対して慌てて弁解を始めた。
「となるとやはり彼女は第三公子様の専属メイドでしたか・・・!」
「も、申し訳御座いません!!
彼女、町娘と同じ服装をしていたので公子様の専属メイドとは思わなくてつい・・・!」
レオンははぁ・・・とため息をつくと、いつもは穏やかに見える瞳を鋭く尖らせて腰に下げた剣に手を添え、低く押し殺した声でこう言った。
「・・・今日は彼女とお忍びでデートだったんだよ。
いつまでも彼女の前にいられたらこの剣を抜きたくなってしまうから、早く行ってくれないか・・・。」
その言葉を訊いて真っ青になったゼニス隊二人は、もつれそうな足を何とか動かしてその場から走り去った。
「・・・奴らも奴らだが、君も君だモニカ。
君ならあれくらい軽くあしらえただろう?」
レオンは彼等が去ったことで安堵しつつもまだ彼等に対する怒りが収まらないのか、険しい顔つきのままでもう一度軽くため息をつき、モニカに対してそう言った。
「・・・レオン様こそ宜しかったのですか?
こちらのお店の店員さんとお話に花を咲かされていたのでしょう?
私なら放っておいてくださっても大丈夫でしたのに・・・。」
モニカはそう言ってレオンの後ろで心配そうにこちらを伺っている店員に視線を向けた。
「あぁ・・・。
彼はオリガの息子で名はサーシャというんだ。
僕にとっては従兄弟違い・・・まぁ親戚なんだが、歳も近いから仲が良くてつい話し込んでしまってな。」
「彼・・・?」
レオンに紹介されたサーシャは確かにオリガと同じ髪と瞳の色をしていたが、間近で見ても女の子としか思えない非常に愛らしい見た目であり、モニカは首を傾げた。
しかしこの後すぐ彼の声を聞いて、あぁ確かに男性なのだと納得がいくのだが。
「はじめまして、モニカさん。
僕はサーシャと言って、宮廷でメイド頭をしていますオリガの末の子供です。
母からとても優秀なメイドさんだとお話を聞いておりますよ!
僕、男なんですけど昔からリボン作りや刺繍をすることが大好きでして、こちらのお店の職人見習いとして働かせてもらってるんです。
でもお店に立つ時は、女の子の格好をしている方がお客さんの受けが良いからと親方に言われて・・・
ごめんなさい、レオンハルト様が他の女の子と仲良くされているのではと誤解されてしまいましたよね?」
「いえ・・・サーシャさん・・・えぇと、サーシャ君とお呼びしたほうが良いのでしょうか?」
とモニカ。
「あははっ!君付けで良いですよ?
常連のお客様は皆僕のことをご存知ですし。」
とサーシャは明るく答えた。
「ではサーシャくん。
貴方があまりに愛らしいお方でしたので、てっきりレオン様の初めてのお相手の候補の方とばかり・・・。
大変失礼を致しました。」
そう言ってモニカはサーシャに対して深く頭を下げた。
すると頭を下げられているサーシャ本人よりも、その隣りにいたレオンのほうが早く反応をし、汗を飛ばしながらこう言った。
「えっ!?
君とデートのときに、そんな対象としていた相手の店に態々顔を出したりしないよ!
僕はサーシャの作る品が素晴らしく評判がいいから、君に彼の作ったあるものをプレゼントしたくて立ち寄ったんだよ・・・。」
そう言ってレオンは顔中真っ赤に染めて、金のリボンで包まれた小さな赤い袋をモニカに差し出した。
「これを私に・・・?」
「うん・・・。
気に入らなかったらいけないから、今ここで確認してみてもらえるか?」
モニカはその袋を彼から受け取ると、金のリボンを解いてその中身をそっと取り出した。
それは紺のベルベット地に白の糸で繊細な刺繍が施されたしっかりとした仕立てのリボンで、髪を結ぶのにちょうど良さそうな長さだった。
「まぁ・・・素敵なリボン・・・!」
モニカは頬を染め、ぱあっと表情を輝かせて微笑んだ。
「気に入ってくれたようで良かった・・・。
君がいつもしているピンク色のリボンも可愛いのだが、あれは随分長い間使っているのだろう?
大分色褪せているようだし、今日の服にもいつもの制服にもシックな色合いのほうが合っていると思ってな・・・。
君が良ければだが、つけてみてはくれないだろうか・・・・・?」
(このリボンをレオン様が私の為に選んでくださった・・・。
ファルガー様から12歳の誕生祝にいただいたこの桃色のリボンは私にとって特別なもので、どんなに色褪せても汚れても、新しいものに付け替えるなんて私には考えられなかった・・・。
ですが・・・・・・・・)
モニカは長いまつ毛を伏せてファルガーへの想いを示した桃色のリボンをスッと解くと、紺色に白の刺繍が入った真新しいリボンを髪に結んだ。
そして頬を赤く染めると目の前にいる主人を見上げてこう言った。
「あの・・・・・似合いますか・・・・・?」
「あ、あぁ・・・
とても良く似合ってる・・・・・」
レオンは耳まで赤く染めて掠れた小さな声でそう返すと、照れくさそうに髪をかき上げモニカから目を逸らし、またすぐに自分が贈ったリボンを髪につけたモニカを見たくなって視線を戻した。
そして視線がぶつかり合い、二人はにかみ笑う。
そんな彼等を見てサーシャがクスクスと笑いながらこう言った。
「レオンハルト様の”永遠の愛”。
無事髪につけて貰えて良かったですね!
もしも気持ちが重たすぎると言ってモニカさんに受け取って貰えなかったら、どうやって貴方をお慰めすればいいのか頭を抱えている所でしたよ。」
「あっ!サーシャ!
それは今言わなくても良かったのに・・・!」
と頭を抱えるレオン。
「レオン様の永遠の愛・・・ですか?」
とモニカは小首を傾げた。
「・・・やはりモニカさんはこの国の人では無いからご存知なかったのですね。
レオンハルト様?
こういった事はきちんとお話した上で贈らないと、モニカさんを騙すみたいで良くありませんよ?
モニカさん、実はこの国では親しい女性に花の刺繍が入ったリボンを贈る風習があるのですが、その刺繍の花によってその意味が全く違ってくるのです。
軽い感謝の気持ちですと”ピンクの薔薇、ポピー、カンパニュラ、ダリア、フリージア”。
友情ですと”黄色い薔薇、ゼラニウム、マリーゴールド”といった風にです。
レオンハルト様が選ばれたキキョウの花言葉は”永遠の愛”。
プロポーズにも用いられることもある一番ハードルの高いものなのですが、レオンハルト様は僕に全ての花言葉を確認された上で、このキキョウをお選びになられました。
それ程モニカさんに対して本気なのだと言うことなのですよ。
そして女性がそのリボンを髪につけるということは、婚約者、もしくは夫がいるのだと周囲に知らしめるという意味もあります。
勿論結婚指輪と違って簡単に買えるものですし、男よけとしてそういったリボンを選んでつける女性もおられますから、結婚指輪よりは威力の低いものではありますが・・・」
モニカはサーシャのその説明を訊いて、丸く目を見開きこう言った。
「まぁ!
そうしますとレオン様は何も知らない私にこのリボンを贈って、他の殿方を寄せ付けないようにしたい、といった意図もありましたのね?」
図星だったのかレオンは”ギクッ!”と身体を反応させ、気まずそうな顔をしてダラダラと冷や汗を垂らした。
モニカはそれを見てクスクスと笑うと、
「・・・かしこまりました。
とても素敵なリボンで気に入りましたし、深い意味は気にせずに使わせていただきますわ。
ですが仮にレオン様がこのリボンの意味に相応しくない行動をお取りになった場合には、元の色褪せた桃色のリボンに戻させていただきますけど・・・それでも宜しいですか?」
と微笑んだ。
「あ、あぁ・・・!
ありがとうモニカ・・・。
だがこのリボンの意味に相応しくない行動なんて僕は取るつもりは無いが!?」
とレオンは不服そうに眉を吊り上げ抗議した。
「うふふっ、残念ながら私、殿方の永遠の愛を簡単に信じられる程純粋ではありませんのよ?」
モニカはそう言って苦笑したが、本当は彼の気持ちの永遠を信じられないのではなかった。
彼の立場が、環境が、血が、きっとその恋を残り8ヶ月の期間限定のものにするのだろうとわかっていたから。
その時に自分が彼にのめり込んでいればいるほど苦しむことになる。
それがわかっていたから、自分の中に桃色のリボンに戻るという逃げ道を、僅かにでも残しておきたかったのだ。
そんなモニカの心境を悟ってかどうかはわからないが、サーシャが優しく微笑んでこう言った。
「そのリボンの制作者でありその意味を語った僕が言うのもなんですが・・・どんな想いが込められたものであっても、たかがリボンです。
結婚指輪と違って就寝時には外しますし、着ている服との相性や、TPOに合わせて別の髪を飾るものと付け替える場合だって多々あります。
ですからレオンハルト様も、モニカさんがこのリボンを付けていられないことがあっても、無闇に落ち込む必要はありません。
リボンは持ち主の女性の人生のほんの僅かな時間を共に過ごす装飾品に過ぎないのですから。
そのリボンに込められた意味の通り、その愛が永遠なのかどうかは僕にはわかりません。
ですが少なくともこのリボンを選んでモニカさんに贈られた瞬間のレオンハルト様は、モニカさんに永遠の愛を見ていた・・・。
これは真実であり、そのリボンを一本持っているモニカさんは、一人の男性をそれだけ虜にした魅力のある女性であることを意味しています。
大切なのはその気持ちをこうして示し、相手に贈ること。
そしてそれを受け取った側が贈り主の気持ちを認めて、それを身に着けることで私も同じ気持ちですと示すことにあると思うのです。
そして僕は、このリボンがお二人の絆を結ぶ、特別なものになるようにと願って止みません・・・。」
その言葉を聴いたレオンは、サーシャに向けて柔らかく微笑むとこう言った。
「・・・ありがとうサーシャ。
君のリボンに込められた願いを無駄にしないよ・・・。」
そしてモニカはそっと目を閉じ、真新しいリボンに手を当てながらこう言った。
「サーシャくん、ありがとうございます。
このリボンがあれば、うまく言葉に出来ない気持ちを表すことが出来そうです。
それは私にとって、とても大切なことなんです・・・・・。
そしてレオン様。
私に素敵なリボンを贈って下さりありがとうございます・・・!
大切にしますね・・・・・!」
レオンとサーシャは顔を見合わせると、優しく微笑み頷いた。
「あ・・・僕はそろそろお店に戻らないといけないので、失礼しますね!
それではレオンハルト様、モニカさん。
またいつでもお寄り下さい!」
サーシャはそう言うと二人に頭を下げてから店に戻って行った。
再び二人きりになると、優しくモニカに微笑みかけながらレオンが言った。
「モニカ。
他に行きたい場所はあるか?」
「いいえ!
色々と連れて行っていただきましたから、流石にもう思いつきませんわ!」
と言ってモニカはクスクスと笑った。
「そうか・・・。
それなら最後に一箇所だけ付き合ってはくれないか?
少し歩かなくてはならないが・・・僕だけが知っている秘密の場所に君を招待したい。」
「秘密の場所・・・ですか?」
「うん・・・。
きっと君も気に入ってくれると思う・・・。」
そう言って彼が案内してくれたのは、宮廷のある丘の更に奥にある山だった。
その山は騎士の訓練として用いられることもあるのだろう。
比較的登りやすく道が踏み固められていたが、あるポイントでレオンは急に道のない場所へと踏み込んだ。
「ここからは歩きにくいから気を付けてくれ。」
レオンはモニカを助けながらその道なき道を迷うこと無く突き進むと、やがて木々の枝が捌けていき、見晴らしの良い高台に辿り着いた。
そこからはアデルバート神国の広大な大地が見晴らせて、更に遠くには海が見えた。
既に日が沈みかけているためにその景色は茜色に染まっており、とても美しかった。
「まぁ・・・海・・・・・!!」
モニカは感激して声を上げた。
「うん・・・。
君はあの海の向こうからやってきたのだろう?
ここならジャポネを思い出せるんじゃないかと思ってな・・・。」
「えぇ・・・!
流石にジャポネは遠くて見えませんけど、あの茜色に染まった海を見ていますと、ジャポネに繋がっているのだと確かに感じられます・・・!」
「そうか・・・良かった!
ここは小さい頃に迷い込んだ僕が偶然見つけた場所でね。
踏み固められた山道からは繋がっていない、母様すら知らない秘密の場所なんだ。
ここを見つけて以来、嫌なことがあると良くここに来ていた。
ここなら誰にも見つからないし、好きなだけ愚痴も言えるし、思いっきり泣くことも出来たから。」
「・・・私に教えてしまって宜しかったのですか?
今この瞬間からレオン様だけの秘密の場所ではなくなってしまいましたが・・・。」
とモニカは茜色に染まった主人の顔を覗き込んだ。
「いいんだ。
ここは君にとって故郷を想い出せる特別な場所になると思ったし、僕も本当はこの場所を誰かと共有したかったんだ・・・。
その誰かは君しかいないと思ったから・・・・・。
・・・ジャポネが懐かしくなったら、またいつでもここに連れて来るから言ってくれ。」
「はい・・・ありがとうございます。
ですが私、道を覚えるのは得意な方なので、さっきここまで来るとき、既に道の目印を覚えてしまいました・・・。
なので次からは一人で来れてしまうと思いますが・・・。」
とクスクスと笑いながらモニカが言った。
「そうなのか・・・!?
こんな道なき道だぞ!?」
と汗を飛ばすレオン。
「えぇ。
ジャポネでも山に山菜を採りに入ったりしていましたし、道なき道を進むことにも、僅かな目印を見つけて道を覚えることにも慣れていましたから。
日が沈むと流石に無理ですが、明るいうちならほぼ間違いなくこの場所へ辿り着けると思いますわ!」
「そ、そうか・・・。
君は案外ワイルドなんだな。
物心ついた頃からサクヤ様のお側にいたと訊いていたから、もっと温室育ちなのかと思っていたが・・・。」
と微笑みながらレオンが言った。
「うふふっ、そんなことは御座いません!
ジャポネは山が多いですし、町に住んでいる女でもある程度山に入らないと暮らしていけませんから。」
「そうか・・・。
ジャポネは海に囲まれている島国で、山が多いのか・・・。
きっと美しい国なのだろうな・・・。」
「ありがとうございます。
アデルバートも広大で美しい国だと思いますが、ジャポネはジャポネならではの独特な建築物が多いので、そういった建物も観光で来られる方には人気がありますよ?
例えば5つの家が縦に積み重なったような形の塔や、屋根も壁も全て金色のお屋敷、朱塗りの見事な橋等が御座います。」
「へぇ・・・!
僕がジャポネに行った時、是非それらの建築物も見てみたいな・・・!」
「えぇ!
レオン様が大人になられて、身辺が落ち着かれましたら是非アンジェリカ様もご一緒に観光にいらして下さい!
その頃には私、残念ながらアデルバートでの滞在期間が終わってジャポネに帰国しているのでしょうけど、家族皆で歓迎いたしますわ!」
それに対してレオンは眉を寄せ、怒ったように低い声で答えた。
「・・・そうじゃない。
君は2年以内に僕と結婚するのだとさっきも言ったろう?
だから君はジャポネにそういった形で帰ることはない。
君との結婚が決まったら、ジャポネの君の家族、そしてサクヤ様の元へ、君を貰い受けると挨拶に行くから、今はその時の話をしている・・・。
今日贈ったリボンには、そういった意味を全て含んでいるんだよ・・・。
勿論君があのリボンに込められた僕の想いを全て認めて着けてくれたわけじゃないってわかってる。
だが・・・僕が成人するまでにはその気持ちを固めていってもらいたいんだ・・・・・。」
そう言ってレオンはモニカの頬に手を添え、もう片方の手ではモニカの手を優しく捉えてからこう囁いた。
「・・・・・モニカ・・・・・好きだ・・・・・」
そして、金の長いまつ毛を伏せ、首を傾けながらそっとモニカに顔を近づけてきた。
モニカは焦り、頭の中で思考を巡らせた。
(どうしましょう・・・!
キス・・・されてしまいます・・・!
これは絶対に避けられそうもありません・・・!
もし避けたら・・・レオン様を酷く傷付けてしまいます・・・。
それに・・・・・本当は避けたくありません・・・!!
今日はとても楽しかった・・・。
楽し過ぎて、あんなに早起きして出かけたのに、あっという間に日が沈んでしまいました・・・・・。
家族以外の人と時を共に過ごし、こんなに楽しいと思える方は初めてです・・・。
そしてレオン様は今の嘘偽り無い気持ちをリボンに込めて贈って下さいました・・・。
そして今、好きと言ってくれました・・・・・。
私も・・・貴方が好き・・・好き・・・大好きです・・・・・!
そう・・・もう完全に恋に落ちてしまったのです・・・・・。
この言葉を今口に出すことはまだ怖い・・・・・。
ですが、貴方の気持ちには応えたい・・・・・・・・・)
モニカは決意を固めるとそっと目を閉じた。
そしてその直後、ついに唇が触れ合った。
その感触はとても柔らかくて熱く、自分のものと混ざり合って溶けてしまいそうで頭がクラクラした。
そして10秒くらいしてようやく彼が唇を離した。
彼は夕焼けに負けないくらい耳と顔を真っ赤に染めており、モニカの額に自分の額をくっつけて、はにかみながらこう言った。
「・・・これで僕のファーストキスはモニカのものだ・・・・・」
モニカはそんな彼を見て、切なくて愛おしくて堪らなくなり、キュンキュンと何度も胸が締め付けられる思いがした。
「・・・・・はい・・・・・
私も・・・ファーストキスをレオン様・・・貴方に捧げます・・・・・・」
モニカがレオンの夕焼けを反射して茜色に染まった瞳を見つめながらそう言ってはにかむと、レオンはもう切なくて堪らないといった顔をして、モニカを強く抱き締めた!
モニカはレオンの胸元に顔を埋めると、ファルガーが唇の始めてを残してくれたことに心より感謝した。
そしてトクトクトクトク…と早く強く刻むレオンの鼓動の音を聴きながら、その背中にそっと手を回すのだった。
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