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序章 一夜限りの交わりとドSメイドの旅立ち
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❖はじめに❖
この物語は『銀色狼と空駒鳥のつがい ~巡礼の旅~』で登場する銀色狼のライバル、金獅子のお相手役のドSメイドを主人公とした潜入捜査奮闘記&恋物語です。
世界観等『銀色狼と空駒鳥のつがい』シリーズと共通する部分がありますが、この物語単独で読まれてもわかるように説明を入れたつもり・・・なのですが、ちょっと分かりづらいと感じられる場合もあるかも知れませんので、その場合はお気軽にご質問下さい。
この序章はいつもよりボリュームのあるお話となりましたが、これら全てで一つのまとまりにしたかったので、分割せずに投稿しています。
読みづらいかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。
※このお話の後半にはHな挿絵が入りますのでご注意ください。
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遥か遠い空の彼方に、一昔前の地球に似た文明を持つ、一つのある世界が存在した。
その世界の創造神であるヘリオスは、4人の子供たちにそれぞれ一つずつ土地を与え、その子供達の治める土地は子供達の名前を持つ国へと発展し、それぞれが得意とする方向性で栄えていった。
だがこの世界にはそれらの4国に割り振りにくい小さな土地や島が複数存在したので、ヘリオスはそれらをまとめてヘリオス連合国と名付け、直接統治していた。
そのヘリオス連合国のひとつに、ジャポネのいう小さな島国があった。
その国は、ヘリオスが異世界より召喚し招き入れた優秀な使いへ褒美として与えたもので、その男の故郷である地球という星の日本という国を模して作られたためか、他の4国ともヘリオス連合国のどの国とも異なる独自の文化を持つ国へと発展していた。
そのジャポネの樹々が赤く染まり、葉を落とし始めた秋と呼ばれる季節の事である─。
ジャポネで生まれ育った16歳の相澤桃花は、木造建築に瓦屋根の屋敷の一室にて、6つ歳の離れた弟の梅次にこの国の歴史を教えていた。
彼女は栗色の背中まである髪を後ろでひとつに纏め、そこに桃色のリボンを綺麗に形作って結んでいた。
服装は、彼女の仕事着である紺色無地の着物と臙脂色の帯の上に白いエプロンというシンプルで控えめなものだったが、まだ少し幼さを感じさせつつも美しく整った顔立ち、その齢の女子の平均以上に育った豊かな胸元、そして細く括れた腰から広がる丸くて綺麗な形の尻、しなやかな曲線を描く長い脚は、数多くの男性を虜にさせる確かな素養を持っていた。
梅次は姉の薄紅色のふっくらと艷やかな唇から紡がれるこの国の主である人物についての話に、姉と同じ栗色の瞳を輝かせながら耳を傾けていた。
「というわけで、我らの主であるファルガー・ニゲル様は、この世界の創造神であらせるヘリオス様の神使として883年もの間、ずっと活躍されているお方なのですよ。
このジャポネも、ファルガー様がヘリオス様から報奨として賜った土地を、故郷に似せて発展させたものなのだそうです。
我々の一族は、ジャポネ建国当時からずっとファルガー様のご自宅であるこのお屋敷の管理と留守を与り、ファルガー様を陰ながら支えて参りました。
梅次、貴方も大人になったら父様の跡を継ぎ、ファルガー様を生涯をかけてお支えするのですよ?」
「はい!承知しております姉様!
僕は男ですから父様の跡を継げるように精一杯頑張りますが、女性である姉様は将来はどうなさるのです?」
と梅次が愛らしい丸い目をぱちくりとさせながら桃花に尋ねた。
「そうですね・・・。
私は亡くなった母様のように、この世で一番大切だと思えるお方のお側に置いてもらい、生涯をかけてお支えしていくつもりです。」
桃花は笑顔でそう答えた。
「姉様!
それってファルガー様のお嫁さんになるってことですか?」
とパアッ!と明るく表情を弾ませる梅次。
「えっ!?
ど、どうしてそのようなことを言うのです?
梅次・・・。」
桃花は頬を赤く染めて困ったように眉を寄せた。
「だって姉様・・・。
ファルガー様に12歳の誕生祝に贈られたその桃色のリボンを、今でもずっと大切に髪に着けていますから・・・。
姉様にとってファルガー様は、母様にとっての父様のような、一番大切な特別な人・・・なのでしょう?
この国の女性は齢16になれば結婚が出来ますし、姉様は春で16になられました!
ならばファルガー様と結婚することも可能でしょう?」
「確かにこの国の法ではそうですが・・・あのお方は私など望まれないでしょう。」
と桃花は沈んだトーンでそう返した。
「どうしてですか!?
姉様はこんなに美人で働き者で頭もいいのに!
僕、色んな御仁から姉様を紹介して欲しいと頼まれますよ?
僕の眼鏡に適う御仁が居ないので何方もきっちりとお断りしてますが・・・!」
と最後の方は胸を張り、誇らしげに眉を釣り上げる梅次。
「あら、そうなのですか?
梅次ったら、まるで私の小さな騎士様みたい!」
クスクスと笑いながら桃花が言った。
「騎士様?
騎士様ってなんですか!?姉様。」
と興味津々に目を輝かせる梅次。
「ジャポネでは馴染みのない言葉ですし、国外の勉強がまだの梅次が知らなくても無理はないですわね。
騎士様というのは4国のひとつ、アデルバート神国の武人のことです。」
「武人・・・ジャポネの侍みたいなものですか?」
と梅次。
「そうですね。
確かに同じく武人なので近い部分はあるのですが、アデルバート神国において騎士というのは貴族なので、民の上に立つ者として民を守るためにその剣を振るいます。
更に立ち振舞いの美しさや礼儀作法に則った行動が常に要求されるようですが、そこは侍と似ていますね。
物語ではか弱い女性を守る盾となる美しい騎士が登場したりもしますから、梅次のように女性を守ろうと行動する人のことを、騎士様に例えることもあるのですよ?」
と桃花は説明した。
「そうですか・・・。
騎士様・・・かっこいい・・・!
いつか会ってみたいです・・・!
・・・それよりも姉様!
先程も申しました通り、姉様は大層御仁に人気なのですから、ファルガー様だってお嫁に欲しいと思ってくださるに違いありません!」
と自信たっぷりに言う梅次。
「・・・ですが梅次。
私はこのお屋敷の女中に過ぎませんし、身分も釣り合いが取れません。
それにあの方は私達と違い、ヘリオス様から永遠の命を与えられたお方です。
私は生きても精々残り70年程・・・しかも人生後半ともなればしわくちゃのおばあちゃんです。
あの方とは違う時を生きる私など、伴侶になさるわけがないでしょう?」
「そんなの、想いを伝えてみないとわからないではないですか!
ファルガー様に対する姉様は、身分だとか寿命だとかそんなことばかりを気にしていて、全くいつもの姉様らしくありません!
僕は・・・姉様には悔いのない、姉様が姉様らしくいられる生き方をして欲しいのです・・・!」
と梅次は姉をしっかりと見つめながらそう言った。
「梅次・・・」
桃花が梅次に何かを言おうと口を開きかけたその時である。
「桃花!
桃花はいるか!?」
という父桜雅の声と共に、勉強部屋の襖が開け放たれた。
「父様!
はい、私ならここに。」
と顔を上げる桃花。
「桃花、ファルガー様が只今ご帰還された。」
と桜雅。
「あら・・・まだ冬には早いこの時期に珍しいですわね?」
この屋敷で生まれ育った桃花は物心ついた頃からファルガーを思慕し、幼い頃はファルガーがお役目から帰還する日を指折り数えていたくらいだ。
今ではすっかり彼の年間スケジュールを把握しており、今回の帰還が例外であることにすぐに気がついた。
「あぁ・・・。
本来であればご帰還される時期ではないが、お前に頼み事が出来たために一時的に戻らたそうだ。
翌朝にはまたお役目に戻られる。
梅次の勉強は私が見るから、急いでファルガー様の個室に向かってもらえるか?」
「私に頼み事・・・?
一体何でしょう・・・?」
と桃花は不思議そうに首を傾げた。
それから間もなくして、桃花は夕焼けと紅葉した庭の木のふたつの赤を反射して真っ赤に染まったファルガーの自室のある離れへと続く廊下を、急ぎ足で進んでいた。
彼はジャポネに帰還している間は屋敷では暮らさずに、彼のためだけに作られたこの離れで暮らし、来客や用向きがある時だけ屋敷の方に顔を出すのが常だった。
離れと呼ばれるこの庵は、彼の自室の他には台所と風呂と厠があるのみという質素なものだったが、秘密の多い彼の暮らすこの離れへの出入りを許されているのは、現在のところ桃花の一族のみであり、他の使用人達は皆彼が門に張った結界により弾かれてしまうので、足を踏み入れることは叶わなかった。
その為この離れの手入れは桃花の父桜雅と桃花、弟の梅次のみで行っていた。
桃花は普段掃除で立ち入る時の感覚でその結界のある門を難なく潜り抜けると、そのまま廊下を進んで彼の部屋の近くまで来た。
その部屋の前で膝をついたところでハッとして、桃花は胸元から小さな手鏡を取り出した。
(髪の乱れ無し・・・。
お化粧も大丈夫でしょう。
よし・・・)
桃花は手鏡を仕舞うと緊張からゴクッと息を呑み、部屋の外から声をかけた。
「失礼致します。
桃花です。」
するとすぐに少し低くて独特の色気を帯びた、何処か影を感じさせる男の声が返ってきた。
「来たか。
入ってくれ。」
桃花はその声に密かに胸を高鳴らせながら、「失礼致します。」ともう一度声を掛け、襖を開けた。
その部屋はこの国の王とも言える彼の部屋にしては狭い10畳程の広さで、床は畳敷き、家具はずらっと色んな書物が並べられた大きな棚と木のテーブルと箪笥が一つだけ、そして壁にはこの部屋の雰囲気とは合わない色とりどりの花が咲き乱れた異国の村の絵が飾られていた。
その部屋の中央にある机の向こう側に敷かれた赤い座布団の上で胡座をかいて座っている彼は、真っ直ぐで黒く長い前髪をしており、その前髪に隠れがちな目は髪と同じ黒の瞳を持ち切れ長で、顔の中央を通る鼻はスッと端正で、口元は力強く引き締まったなかなかの美丈夫だった。
服装は帰還してすぐの為か、いつも彼がお役目に出る時の装いのマントだけを外した黒の着物姿だった。
彼の見た目の年齢は、彼が神の使いとしての生を与えられた二十歳の地点から変わっていない筈だが、彼が生きてきたとてつもなく長い年月がそうさせるのか、二十歳という割には渋くて貫禄があり、まさに年齢不詳という言葉がしっくりくる見た目だった。
彼は普段は険しい表情を緩めて桃花に笑いかけた。
「やぁ桃花。
君の16の誕生月に会って以来だから5ヶ月ぶりだね?
変わりはないか?」
「えぇ。
ファルガー様もお元気そうで何よりですわ。
それで・・・私に頼み事とは一体?」
と桃花は尋ねた。
「あぁ・・・。
この離れには君達以外の使用人は近付けないが、それを掻い潜って聞き耳を立てる者が居ないとも限らないし、念のために襖を閉めて近くまで来てくれるか?
ここの襖を閉めると更に強い結界が作動して音漏れもしなくなる。」
「かしこまりました。」
桃花はそう返事をすると彼に従い襖を閉め、テーブルを挟んだ彼の向かい側に移動して正座した。
「最初に確認するが、桃花は僕がヘリオス様から任されているお役目、”監視者”について何処まで知っている?」
「はい。
ファルガー様がヘリオス様から賜った高速移動のお力を用いて、ヘリオス様のお子様達・・・アデルバート様、セラフィア様、ダルダンテ様、フェリシア様が束ねられる各4国を巡り、4国間での戦争の兆しや違法行為、不正などが行われていないかの調査を行い、ヘリオス様に報告することだと父から訊いております。」
「あぁ、そうだ。
4国間は争いが起きないようにとヘリオス様により不可侵条約が取り決めされているので、神同士の承認無しで他国に干渉することは出来ない。
例えば隣の国に無断で雷を落とそうとしたものなら、ヘリオス様が各国間に張った結界が作動し、その雷は消滅し、隣の国に届くことはない。
そして、その結界が作動した地点でそれはヘリオス様の知ることとなる。
だがそれで完璧に争いが防げる訳ではなく、数々の抜け道が存在する。
それを補うために高速で世界を巡る”監視者”の僕がいるんだ。
4国のうちアデルバート、セラフィア、フェリシアの3国間は神同士の仲が比較的良好のため大きなトラブルはないが、ヘリオス様の3男ダルダンテは他の兄弟を良く思ってはいないようで、隙あらば陥れようと不可侵条約を掻い潜っては影で色々と目策しているようだ。
非常に狡猾な神なのでなかなか尻尾を掴ませてはくれないがな・・・。
そしてダルダンテは近頃アデルバートに不穏因子をばら撒き、内部から反乱を起こさせて戦争を起こそうとしているのではないかと・・・まだ確証はないが、そんな気がしているんだ・・・。」
とファルガーは深刻そうに眉を寄せ俯いた。
「アデルバート・・・。
かつての魔王大戦で魔王を打ち倒した5英雄の一人、ラスター・ナイト様の子孫が守っている騎士の国で、4国最強の武力国家ですわよね?
そのような国がどうして狙われるのです?」
と桃花。
「桃花の言う通り、アデルバート神はヘリオス様のお子様達の中でも一番の武神で、彼の国も武力国家として成長し、騎士を始めとした民もとても強い。
通常の神経の持ち主であればそのような国に戦争など吹っ掛けはしないが、アデルバート神は自国民のことには全く関心を示さないお方で、3名の神使をお持ちではあるが、彼らには主に武具作りを命じられるばかりで、政治のことは全てラスター・ナイトの子孫であるナイト家当主に任せているのだ。
だが、そのナイト家当主の雲行きが近頃怪しくなってきていてな・・・。
僕が直接赴き何度も調査しようとしたが、”神避け”をされているらしく、宮廷に近付けないんだ。」
とファルガーは小さくため息をついた。
「”神避け”ですか?」
聴き慣れない言葉に桃花が小首をかしげた。
「あぁ。
神避けというのは、神々が他の神からの干渉を避けたい時に使う魔法をかけたアイテムのことをいう。
4国同士は不可侵条約があるからそのようなものは一見不要に思えるが、その不可侵条約によりヘリオス様が作られた国同士を隔てる結界が逆に危険な場合もあるんだ。
例えばある神が自分の神使を他国へ交渉事で送り込む際に、その神使に危険があってもその神の神力は不可侵条約結界により阻まれてしまうので、神使を守ることが出来ない。
だが神避けを予めその神使に装備させてから他国に送り込めば、その国の神は神使に手出し出来なくなるので、そういった時に用いる事が多いんだ。
後は隠し事をしたい時だな。
例に挙げればフェリシア神国の神使ヴィセルテ様は千里眼の力をお持ちで、その力があれば不可侵条約があってもフェリシア神国に居ながら他国の情報を得ることが出来るが、千里眼の対象となる者が神避けを用いれば、ヴィセルテ様でも視ることが出来なくなってしまう。
神避けのようなアイテムは人の世にあってはならないと、ヘリオス様はその類のアイテムを人の世に流す事を禁止されているが、実際お役目で世界を巡ってみると、そういった人の世に過ぎたアイテムを時々みかけることがある。
それを誰が流しているのかは、桃花には言わずともわかるな・・・?」
(ダルダンテ神・・・)
桃花はそう思いながらも無言で頷いた。
「きっとアデルバートの宮廷にいる誰かが奴と通じていて、その神避けを用いている。
ということは、神に知られたくないこと・・・おそらく国同士の戦争が、そこから始まろうとしているのではないかと僕は思う・・・。
神同士が表立って喧嘩をすることは不可侵条約により阻止されるが、民同士が戦争を起こすことは、不可侵条約とは関係がないことなので起こり得てしまうんだ。
勿論ダルダンテがセラフィア神国やフェリシア神国に戦争をふっかけようものなら、各神であれば当然それを全力を持って阻止しようとするだろうし、自分の手に負えないとなれば当然ヘリオス様に相談されるだろうから戦争など起こり得ないが・・・民に無関心のアデルバート神の治められる国であれば、簡単に戦争になってしまう。
それでもしダルダンテ神国が勝ったなら・・・?
ダルダンテ神はアデルバート神国の実権を握ることになるが、アデルバート神はきっとその脅威にお気付きにならないだろう・・・。
元々の高い魔法力に加え、世界最強のアデルバートの武力までも手に入れたダルダンテは、他の2国は勿論、ヘリオス様でも止められないかもしれないんだ・・・。
だから桃花。
君にはアデルバート宮廷にメイドとして潜入し、それを探って貰いたい・・・。
それが僕からの頼み事だ。」
ファルガーの話を一通り訊き終えた桃花は考えた。
(・・・確かにそのお役目は、ファルガー様が全てを話せる唯一の一族である私達にしか頼めないものでしょう・・・。
父様では性別と年齢的にアデルバート宮廷に入り込むのは難しいでしょうし、私がメイドとして入り込む方がずっと容易い。
だけど・・・私にそれが熟せる?
アデルバートは騎士の国として煌びやかなイメージがあるけれど、反面性に奔放な国で、未成年の売春も当たり前・・・位の高い騎士ともなれば、何人も妻を娶るという・・・。
そんなルールの社会に入り込むということは、貞操の危機も伴うかもしれない・・・。
それにその神避けを用いている者がもし騎士ならば、少しでも行動を怪しまれた地点で私は殺されるでしょう・・・。
特別な戦闘訓練を受けた訳でもない、ただの女中でしかない私にそれが・・・・・)
そんな桃花の様子を見てファルガーが言った。
「君はやはり頭がいいね。
そこで君が僕への忠誠心から二つ返事をするような子なら、僕は君にこの話をしなかったと思う。
桜雅《しんゆう》の愛娘であり、僕にとっても娘のように大切に想う君を、僕の仕事に巻き込んで失うわけにはいかないからね・・・。
潜入捜査には、君のように慎重かつ冷静に、状況を分析出来る者が最も適している。
とはいえ、あまり難しく考えなくてもいい。
君はただアデルバート宮廷でメイドとして働き、そこで不審に思ったことがあれば逐一僕に知らせてくれればそれでいい。
だが怪しい者がいても決して独断で行動せず、僕の指示を仰ぐようにしてくれ。
そうしていれば、命の危険はない筈だ。
連絡手段は僕の場合しょっちゅう高速移動をするから、鳩に文を持たせて運ばせることも出来なくてね。
少々特殊な方法を使うが・・・それは後で教えよう。」
「わかりました。
メイドの仕事は熟せると思いますけど、問題は人間関係ですわね・・・。
貴族社会には曲者も多いでしょうし、お国柄も随分違います。
そんな場所で異国人の私が一人で上手くやっていけるでしょうか?」
と桃花は不安気に眉を寄せた。
「そのことなら全く心配していない。
自分では気がついていないようだが、君にはある種の特別な才能があるからね。
人の本質を見抜き、懐柔させて自分を優位な立場へと導き支配する天性の才・・・そうだね。
俗な言い方にはなるけど、Sの才能とでも言うのがしっくりくるかな・・・?」
そう言ってファルガーは口元に手を当てて小さく笑った。
「・・・S!?
その・・・それは性格や性癖を例える際に用いられるSMのSですか!?
私にそんな才能が・・・!?」
桃花は思慕する彼の口から飛び出したまさかの表現に度肝を抜かれ、いささか信じられないといった表情で冷や汗を垂らして訊き返した。
「あぁ。
君が産まれた時からずっと君を見てきたけど、君が成長するに連れて何度もそれを感じたよ。
君は嫌味のない美人だし、人に対して高圧的な態度を取ったりもしないから、それに気付ける者は僕以外にいなかったけど・・・君と話していると皆いつの間にか君のペースにはまり、仕事を怠けようとしていた者もキビキビと働き、米をふっかけて売ろうとしていた商人も君の言い値で売ってくれたりとか、他にも色々と見てきたからね。
・・・僕はこれでも人であったときの生も含めて900年以上も生きて様々な人を見てきているし、この勘は間違っていないと思う。
君のその才能があれば、何処に行っても周りの者を上手く懐柔して優位な立場を確立し、目的を果たしてくれるだろう。」
「・・・私にSの才能があると言われるのでしたら、ファルガー様・・・貴方も私がお願いをすれば、何でも言うことを訊いて下さいますの?」
と桃花は少し意地悪な質問を彼に投げかけてみた。
するとファルガーは一瞬キョトンと目を丸くしてから、普段は少し影のあるその表情を崩して屈託なく笑った。
「はははっ!
笑ったりしてごめん!
流石桃花だなと思ってね・・・!
でも・・・君に相当無茶なお願いをするんだ。
君の望むことで僕に出来ることならなんだって叶えてあげるよ?
・・・君は僕に何を望む?」
ファルガーは今度は真剣な表情を桃花に向けた。
桃花はそんな彼を見つめながら考えた。
(ファルガー様は、私が怪しい人物を深追いさえしなければ、命の危険は無いと言われたけれど・・・アデルバート宮廷が現在どんな状況なのか全く情報がないのだし、最悪二度とジャポネには戻って来られなくなるのかもしれない・・・。
そして私がどんなにピンチでも、神避けをする者のいるアデルバート宮廷には、ファルガー様だってそう助けには来られないだろう・・・。
ファルガー様は、私ならアデルバート宮廷で待ち受けているであろう数々の問題を、クリア出来ると信じてこの潜入捜査を任せて下さった・・・。
だけど・・・私には何かが足りない。
あと少し・・・その足りない何かがあれば、私はアデルバートに向けて恐れることなく踏み出して行ける気がする。
そして、それを持っているのは間違いなくこの方だ・・・・・。)
そして桃花は先程梅次に言われた言葉を思い出した。
「そんなの、想いを伝えてみないとわからないではないですか!
今の姉様は身分だとか寿命だとかそんなことばかりを気にしていて、全く姉様らしくありません!
僕は・・・姉様には悔いのない、姉様が姉様らしくいられる生き方をして欲しいのです・・・!」
(私が私らしくいられる生き方・・・そうですね・・・梅次。
・・・この方に一度くらい、盛大な我儘をぶつけてみましょうか・・・。)
桃花は大きく深呼吸をすると、ぐっと拳を握りしめ、頬を染めてファルガーを真っ直ぐに見つめながら囁くような声で口にした。
「ファルガー様。
貴方をずっとお慕いしておりました・・・。
私を・・・抱いて下さい・・・。」
桃花のその言葉を訊いたファルガーは、大きく目を見開いたまま息を呑んだ。
そして、その表情を徐々に険しいものへと変えていきながら、重い口を開いた。
「・・・・・桃花、それは。」
桃花はそれ以上言わせないと言わんばかりにキッ!と眉を釣り上げてから続けた。
「失礼ながら申し上げますファルガー様。
貴方は900年もの時を生きてこられていても、女心というものをご存知ない様に思います!
アデルバートの騎士達を、私の才能でやり過ごすには決定的に足りないものがあります!
それは・・・女としての自信ですわ・・・!」
ファルガーは眉を寄せたままで淡々と答えた。
「君は美人で頭もいいし、あまりこんな事を父親のような存在の僕の口からは聞きたくはないだろうが、魅惑的な身体つきだってしている。
自信を持っていい・・・。」
桃花は頭を振った。
「その言葉だけでは足りないのです。
私は処女で・・・殿方に免疫がありません。
いくら私に人を従わせる才能があっても、殿方に性的な部分を見せられれば私は怯み、その力を発揮することも出来ずにファルガー様のお役に立てなくなってしまうでしょう・・・。
ですが貴方に抱いて頂いた一夜の思い出があれば、私は自分に自信が持て、きっとそのお役目を果たせます・・・!
私の望みを叶えて下さると仰るのなら・・・どうか、貴方の手で私を女へと変えて下さい・・・。
お願いします・・・。」
桃花はそう言って頭を下げると立ち上がり、エプロンを外し、帯に手をかけた。
「・・・・・僕には永遠に愛を誓った人がいる。
その人を裏切るようなことは出来ない。」
ファルガーは桃花から目を逸らしながらそう告白した。
「・・・・・!
その人は今・・・」
帯を外す手を止め、泣き出しそうな顔で声を震わせながら尋ねる桃花。
「・・・亡くなっているよ。
僕は彼女の死に目にすら会えなかったから、正確な享年はわからないけどね。
だが彼女は僕の中では永遠に恋人なんだ。
もう二度と彼女と会うことは叶わないけれど・・・その代わりに僕と彼女が結ばれた証が血を繋ぎ、今もフェリシア神国で生きている。
その命が繋がっている以上、僕は彼女を忘れることなんて出来ない・・・。
君の想いに応えることは、僕には出来ないんだよ・・・。
だから桃花・・・着物を脱ごうとするのはやめてくれ・・・。」
桃花は暫くの沈黙のあと、彼の意に逆らって、涙を堪えながらまたシュルシュルと帯を外し始めた。
やがてバサッと音を立てて臙脂色の帯が畳に落ちた。
桃花は更に震える手で着物を固定する為に巻かれた腰紐に手をかける。
スルッと音を立てて着物の揚げが解け、裾が畳に着地した。
「・・・それでも構いません・・・。
貴方が私を女としては愛してくれなくても、貴方が親友の子としてでも私のことを大切に思ってくださる気持ちがあるのなら、ほんの一夜だけ彼女を裏切って下さい。
883年以上もずっと、彼女を一途に愛し続けたのでしょう?
きっと一夜くらいの裏切り、許してくれます・・・。
私が彼女の立場ならそうします・・・。
私のことを彼女だと思っても良いですから・・・。」
桃花は真っ赤に頬を染めながらそう言うと、眼の前の彼から12歳の誕生祝いにと贈られた桃色のリボンをそっと解いた。
栗色のしなやかな長い髪がするすると流れるように彼女の背中へと落ちた。
彼女が髪を下ろすと秘められた色香が一気に開放され、まるで辺りの空気が香り立つように感じられた。
だがファルガーはそんな彼女から目を逸らしたまま頭を振った。
「・・・無理だ。
彼女はもっと小柄で華奢で、淡い金の長い髪に赤いルビーのような瞳をしていた。
彼女と君とでは見た目が違いすぎるし・・・仮に君に彼女と似た部分があったとしても、そんな風に重ねて抱くのは双方に失礼だ・・・。
君こそ、僕の心が今も彼女にあるのに、僕と身体だけの関係を持ったりしたら虚しくはないのか?」
ファルガーはそう言って桃花を問いただすかのように視線を投げかけたが、その時桃花は全ての身に纏うものを脱ぎ去って一糸まとわぬ姿になっており、その桃花の白い柔肌をはっきりと見てしまった彼は、バツの悪そうな顔をして頬を赤く染め、またすぐに目を逸らした。
桃花はそんな彼の反応を見て、あの手の届かない所にいた筈の彼が、今まさに自分の身体に興味を示し、彼の心のずっと奥に隠していたであろう雄と変わるためのスイッチを、押すか押すまいかギリギリのところで揺らぎ、葛藤しているのだと肌に感じ、身体の芯が熱く火照るのを感じた。
桃花は縺れそうな足を運んで机を回り込むと、ファルガーの隣に膝を付き、その顔をじっと見つめ、震える声でこう囁いた。
「私は・・・貴方が抱いてくれたというその事実だけがあればいいんです・・・。
他には何も望みません・・・。」
彼は桃花の潤んだ瞳と赤く染まった頬を間近で見てますます顔を赤く染めると、ゴクッと喉を鳴らした。
桃花は震える手で彼の頬に手を伸ばすと、彼に更なる追い打ちをかけた。
「ファルガー様・・・
私に口づけ・・・して・・・」
だがその言葉にファルガーは何かを思い出しハッとすると、桃花からまた目を逸らして呟くようにこう言った。
「・・・ごめん・・・
アーシェに他の子とはキスしないでと言われたことがあるから、それは出来ない・・・。」
「・・・・・」
桃花は完全に振られたと思い、悲しげに眉を寄せると彼の頬からそっと手を離した。
だがファルガーはそんな桃花を引き止めるかのようにぐっとその細い腕を掴むと、強く胸元に引き寄せ抱き締めたのだ!
桃花はファルガーの胸へ顔を埋めながら驚きで目を見開いた。
そして桃花はそのまま目を閉じて、彼の着物越しに彼の鼓動の音を聴いて、それが自分と同じようにとても強く高鳴っていたために、嬉しそうに目を細めた。
続けて彼は桃花を畳に押し倒すと、
「でも・・・キス以外のことは・・・一夜だけ彼女に目をつぶってて貰うことにするよ・・・。
僕は悪い男だね・・・。」
と言って、少しいたずらっぽく笑った。
「・・・ファルガー様・・・!
嬉しい・・・・・!」
桃花は涙を浮かべてファルガーの背中に手を回した。
「ははっ、情けない・・・。
883年も神使として生きてきて、まだ男の部分を捨てきれていないとはね・・・。
しかも親友の子・・・僕にとっても娘のような君の身体に欲情して・・・桜雅に合わせる顔がないよ・・・。
でも桃花・・・僕は今・・・どうしようもなく君が欲しくて堪らないんだ・・・・・」
ファルガーは息を乱し、既に硬くなった股間を桃花の腹にグイグイと遠慮なく押し付けながら、自らの着物の帯を外し始めた。
桃花は腹に感じる彼の欲情の硬さに驚き、頬を真っ赤に染めながら彼に言った。
「ファルガー様、い、陰茎が硬く・・・」
「うん・・・。
これは僕が君に欲情している証だよ。
・・・見てみるか?」
桃花が恥じらいながらもゆっくりと頷くと、ファルガーは照れくさそうに小さく笑って着物を脱ぎ、股間を覆う褌を外した。
すると今まで褌で押さえられていたそそり勃った竿状のものが、勢いづいて飛び出してきた。
それは一寸よりは二分ばかり太く、長さは一尺の半分程だろうか。
色は赤く、先端は亀の頭のような形をして挑発的に首を擡げていた。
「まぁ・・・!
梅次のものとは随分と違いますのね・・・!」
桃花は顔を真っ赤に染めて驚きつつも率直な感想を述べた。
「ははっ、まぁそうだろうね。
僕も普段は梅次のと形はそう変わらないよ。
大人になると性的興奮でこんなふうに股間に血が集まり、硬く熱く大きくなる。
・・・触ってみるか?」
「はい・・・」
桃花が頷くと、ファルガーは桃花の上に跨って身を乗り出し、彼女の顔の近くまでそれを持って行った。
時々ピクン!ピクンと小さく脈打つそれに桃花はそっと手を伸ばし、優しく擦った。
そこは彼が言うように熱く熱を帯びており、触った感触はきめ細かく滑らかで、自分が彼を想い身体を慰めるときになる硬く尖った乳首の感触を連想させた。
(だけどそれよりはずっと硬くて熱く、力強くて変な感じ・・・)
彼は桃花に触れられて感じているのか、更にそこを硬く大きく熱くすると、切なそうに苦悶の表情を浮かべて息を乱した。
「ファルガー様の・・・とても熱くて硬く、大きいのですね・・・。」
桃花は愛おしそうに彼のモノの輪郭を指先でそっとなぞりながらそう言った。
「いや、僕のはギリギリ中の上・・・普通よりはほんの少しだけ大きい程度らしいよ?」
とファルガーは苦笑いで答えた。
「えっ・・・?
ファルガー様はその・・・アーシェ様以外の女性とはご経験が無いのですよね?
それなのにどうしてそれがわかるのです?」
と桃花は小首をかしげた。
「あぁ、それはね。
僕がまだ神使になる前の勇者として魔王軍と戦っていた頃、パーティの皆で森の温泉に入っているところを淫魔に襲撃されてね。
そいつが男を強制的に勃起状態にさせる魔法を放ったものだから、その場にいた男は全員自分の勃起したモノを仲間に晒すという、とんでもない事態に陥ってしまったんだ。
まぁその淫魔自体はすぐに倒したけど、その時にヘイズの野郎が僕のモノを見てそう評価した・・・。」
「まぁ!
ヘイズさんって、フェリシア神国の英雄として今も語り継がれる狩人のヘイズ・ハント様ですわよね?」
と桃花。
「そう、そのヘイズだよ。
まぁそう笑う奴のモノは大層立派だったから、僕はそれが悔しかったな・・・。
でも男の中で一番女性にモテてたラスターのモノは意外と・・・・・まぁこれは、彼の尊厳を守るためにも言わないでいてあげようかな・・・」
と彼は遠い昔を懐かしんでクスクスと笑った。
彼の笑顔が大好きな桃花は嬉しくなり、ふふっと頬を緩ませた。
そう、これらは桃花達一族以外の一般のジャポネの民には明かされていないことだが、実はファルガー・ニゲルは神使になる前、この世界に君臨していた魔王を打ち倒すために異世界より召喚された勇者その人だったのだ。
彼は色々あって魔王を打ち倒した後もこの世界に留まることに決め、その際に創造神ヘリオスと契約を交わして神使となったそうだ。
そのような、今から始めようとする艶めかしい行為とはかけ離れた昔の笑い話をしたためか、彼の昂ぶっていた股間のモノが少しばかり萎えてしまっていたので、桃花はそれを優しく擦りながらも自分の知っている僅かな性知識からある提案を申し出た。
「ファルガー様・・・その・・・お口でシて差し上げましょうか?」
「桃花・・・口淫を知っていたのか。」
とファルガー。
「えぇ・・・知識として知っているだけで経験は勿論ございませんが、結婚している女中仲間からそのような性行為があると聞いたことがあります。」
「そうか・・・。
だが・・・初めてのそれは口付けと共に君の未来の恋人のために取っておいてあげてくれ。」
とファルガーは優しく笑った。
「貴方様以上に好きになれる殿方に出会える気が私にはしません・・・
恋人だなんてとても・・・」
と首を左右に振る桃花。
「いや、今君が僕とそれをしたなら、きっとその事を後悔する日が来るだろう。
これは、900年生きてきた男のただの勘に過ぎないけどね・・・。
それに僕にとってもその行為は・・・アーシェが得意気な顔して良くシてくれたことを思い出してしまうから、出来れば避けたいんだ・・・。
すまない・・・。」
桃花はその言葉にハッとして悲しげに眉を寄せた。
「いえ・・・。
ですが、ファルガー様の陰茎に再び元気になっていただくにはどうすればいいでしょう・・・?
陰茎が元気でないと、男女は繋がることが出来ないのでしょう?」
と桃花は不安そうに尋ねた。
「そのことなら全く心配ないよ、桃花。
こうすればいい・・・」
そう言ってファルガーは桃花の形の良い美しい乳房に手を伸ばすと、それを優しく揉みしだいた。
ファルガーのゴツゴツした長い指が桃花の豊かな胸にめり込み、自在に形を変える。
その刺激により桃花の胸の頂の薄紅の蕾はすぐに硬く尖り、胸全体は熱く火照って汗ばんだ。
「あっ・・・あっ♡・・・んっ・・・ファルガー様ぁ・・・♥」
「いい声で啼くな・・・桃花。
君のこの素晴らしく魅惑的な身体に触れ、その甘い声を聴けばほら、すぐにこの通りだよ・・・」
そう言って今度は直に限界まで熱り勃った陰茎を、桃花の下腹部にグリグリと押し付けた。
桃花は直に触れる彼の熱と硬さに羞恥し、それから逃れるように少しだけ腰を引いた。
ファルガーは逃さないと言わんばかりに彼女の腰を強く抱き寄せ再びその熱を彼女に押し付けながら、桃花の胸に舌を這わせて硬く尖った薄紅の蕾を口に含み、舌先で転がした。
「ひぃあぁっ♥」
桃花は堪らず一際高い声を上げ、彼の頭を抱え込んだ。
そして白く細い指が彼の真っ直ぐな黒髪を掻き乱す。
ファルガーは荒く息をつきながら、指先を桃花の下腹部に向かって徐々にするすると伸ばしていった。
「あっ・・・ファルガー様・・・」
彼の指先が向かう先に察しがついた彼女は、咄嗟にそれを引き止めるかのように手を伸ばしたが、彼はそれを無視して強引に突き進んだ。
そして辿り着いた彼女の足の間にある割れ目は既に蜜で濡れており、彼の指をぬるっと招き入れてはくちゅっと水音を立てた。
「君はとても感じやすいんだね・・・。
もうこんなに濡れている・・・」
「やっ・・・そんなところっ・・・っ・・・恥ずかしい・・・ファルガー様っ・・・」
両手で真っ赤な顔を隠してふるふると頭を振る桃花。
「いいね・・・その反応ますます唆られるよ・・・」
彼はそう言ってペロッと自分の唇の端を舐めると、そのまま濡れたスリットに優しく中指をスライドさせ始めた。
「あっ・・・ああっ♡・・・んっ・・・あっ♥」
彼女の弾き出す甘い声と共に奥からどんどん蜜が溢れ出し、彼女の花園を更にぐちょぐちょに乱した。
そんな彼女の反応に興奮したファルガーは、もう堪らないと言わんばかりにゴクッと喉を鳴らすと、彼女の両脚を持ち上げ、そこに顔を近づけようとした。
桃花が恥じらい更に綺麗な顔を火照らせた。
しかし、彼は何かを思い留まると脚を開放し、桃花の栗色の髪を撫でて優しく微笑んでからこう言った。
「君が愛おしすぎて舐陰したくなったけど、やめておく・・・。
これも君の未来の恋人の為に残してあげてくれ。
胸の方は我慢できなくて味わってしまったが、ここはもっと君の特別で大切な場所だから・・・。」
「嫌です・・・!
ファルガー様が私を欲してしたいと思ってくださった事を、いもしない相手のために我慢なんてなさらないで下さい・・・!」
桃花は瞳に涙を浮かべながら必死に頭を振るが、ファルガーは困ったように笑って黒髪をかきあげた後、その指を再び桃花の濡れた割れ目に戻し、
「それならこうしようか・・・。
僕はヘイズみたいに器用じゃないからテクニシャンじゃないとは思うけど、まずは手だけで君をイかせる努力をしてみるよ。
それで上手くいかないのなら舐めてしまおうかな・・・。
あまり君の初めてのことを奪いすぎると、君の未来の恋人にいつか会った時に殴られそうだけどね・・・」
といたずらっぽく舌を出して笑った。
その笑顔にキュン・・・と胸の奥を掴まれた桃花は、何も言えずに更に彼の指を濡らした。
彼はそのぬるぬるを親指で掬い取ると、それを割れ目の上の方にある硬く尖った小さな蕾に運び、小刻みに刺激し始めた。
「あっ・・・ああっ・・・あっ♥
ファルガー様っ・・・それ駄目っ・・・駄目ですっ・・・何か・・・何かが込み上げてきてっ・・・!」
ファルガーはそんな桃花の反応を見て満足そうに口角を上げると、親指の刺激を続けながらも更に桃花のナカに中指を一本そっ・・・と沈めてみた。
桃花は一瞬ピクンっ!とその異物感に注意を奪われるが、それに気がついたファルガーが蕾を刺激する親指の動きを早く強くしたので、桃花はすぐにそちらへと意識を戻し、浅く抽挿される中指の硬くて荒い刺激を更なるスパイスとして加えつつも、次第に昇りつめていった。
「あっあっああっ・・・きちゃう・・・きちゃう・・・きちゃいますっ♥・・・・・
あああぁあーーーっ♡♥・・・・・!!」
桃花は足先に強く力を入れて身を仰け反らし、ファルガーの中指をキュンキュンと締め付けながらビクンビクン!と全身を痙攣させて果てた。
桃花は今まで夜寝る前になるとファルガーを想い自らの身体を慰めることはあったが、まだ達する所までは辿り着いていなかったので、彼女にとってはこれが初めての絶頂となった。
(あれが絶頂・・・
全身が震える程気持ちが良かった・・・)
ファルガーは快楽の余韻でぽーっとしている桃花のナカに指を一本沈めたままで優しく言った。
「君は男を受け入れるのは初めてだし、最初は痛むだろうから僕のモノでイカせてあげられるかわからない・・・。
だから挿入する前にイかせてあげたかったんだよ。
良かった・・・ちゃんとイかせてあげられて・・・」
そしてナカに指を挿れていない方の腕で身体を支えながらも彼女の頭を優しく撫でた。
桃花は幼い頃に彼にそうされたときのように、気持ちよさそうに目を細めた。
ファルガーは桃花のナカの収縮がようやく収まったことを感じると、再び口を開いた。
「このまま指をもう一本挿れて君のナカをもっとほぐそう。
僕のものが中の上程度の大きさだとしても、指2本ぶんよりは太くて長いからね。」
「はい・・・。
ファルガー様にお任せ致します・・・。」
と桃花は頬を染めて頷いた。
「良かった・・・桃花は承諾してくれて。
挿入後に酷く痛がられるのはもう懲り懲りでね・・・」
と苦い経験を思い出したかのように苦笑するファルガー。
「といいますと、アーシェ様は・・・?」
と尋ねる桃花。
「あぁ・・・。
彼女は自分のナカに初めて入るものは僕の指じゃなくて陰茎が良いと言って訊かなかったから、事前に慣らすこともなく挿入することになってね・・・。
大層痛そうに泣かれたけど、僕も限界で止まれなかったから、結局終始痛がられながらも僕が射精して、初体験は呆気なく終了したよ。
事後にあんな酷く痛むとは思わなかったって散々言われて、その後暫く僕が求めても挿入させてくれなかったな・・・。
自分が言い出したことの結果なのに随分と身勝手だなと思ったけど、そんなところもまた可愛くてね・・・。
・・・すまない。
君にそんな話を聞かせてしまって・・・」
「いえ・・・。
・・・アーシェ様は天真爛漫と申しますか、感情豊かで可愛らしいお方でしたのね?
恋のライバルでなければお友達になれたかもしれませんのに・・・」
と桃花はクスクスと笑った。
「ははっ!
確かに、人の本質をすぐに見抜ける賢い君と、子供っぽいところもあるけど心根の優しい彼女とが、僕抜きで同じ時代に出会っていれば、親しくなれただろうね・・・。
そうだ・・・それなら、フェリシア神国にいる僕と彼女の子孫にもし今後会うことがあれば、是非友達になってあげてくれ。
君より2つ下で今は14歳の女の子だ。
フェリシア神様からの頼まれ事を引き受けた際に、一度赤ん坊の彼女に会ったがそれっきりで、相手は僕のことを何も知らないし、ヘイズの血を引く彼と恋仲になる運命にあると神使ヴィセルテ様が仰られていたから、君にとっての恋敵でもないしね。」
「えぇ・・・そのときはきっと・・・。」
桃花は不思議と彼の言うその彼女にいつか会い、友達になれる気がした。
「・・・また脱線してしまったな。
君には何でも話せてしまうからついな・・・。
それより続きをしようか。
正直僕は早く君が欲しくて堪らない・・・。」
と照れくさそうに笑うファルガーに桃花は、
「はい・・・。
私も早くファルガー様と繋がりたいです・・・。」
と頬を赤く染めてはにかんだ。
「今からもう一本指を増やすが・・・痛かったら教えてくれ・・・。」
ファルガーは桃花の膝を抱え上げると、中指に続けて人差し指もそっ・・・と挿入した。
「っ・・・・・」
桃花は更なる異物感に思わず眉を寄せた。
「痛むか?」
「いえ・・・っ・・・
確かに異物感と圧迫感みたいなものは感じますけど・・・痛みは然程・・・・・」
「そうか・・・良かった。
動かしてみるぞ・・・」
グチュ、グチュ、と音を立てて指2本を浅く優し抽挿するファルガー。
「・・・大丈夫か?」
と心配そうに桃花に尋ねてくる。
「・・・そんなに心配なさらなくても大丈夫です。
少しずつ慣れてっ・・・きました・・・。」
桃花はそう笑って答えた。
「そうか・・・。
それならもっと奥まで進めてみよう・・・」
彼がそう言って2本の指の付け根までぐぐぐっと深く進めた時である。
「っ・・・!」
と桃花が苦痛に顔を歪めた。
「・・・すまない!
今ので処女膜を破ってしまったようだ・・・!
血が・・・」
と言って慌てて自分の脱ぎ散らかした黒い着物を手に取り、桃花の花弁から伝わり出る血を拭うファルガー。
「ファルガー様!
お着物が汚れてしまいます・・・!」
桃花が慌てて身を起こしてそれを止めようとすると、ファルガーは桃花を制して頭を振った。
「いや、どうせ黒い着物だし、魔獣の返り血を浴びることもしょっちゅうだから着物が汚れることは気にしなくてもいい。
替えの着物も幾つかあるしな。
それよりも、咄嗟にこんな衛生的に問題がありそうな布で君の大切なところを拭いてしまって悪かった・・・!
一応定期的に洗ってはいるが・・・。
それにこんな形で破瓜の血を奪ってしまったことも申し訳ない・・・。
今の時代の女性は破瓜の血が出るタイミングを気にするのだろう?
何処かの国の村娘がそんな話をしているのを訊いたことがある・・・。」
と言ってファルガーは頭を下げた。
「まぁ!
どうせ今夜姦通するのですし、いつ血が出ても変わりはありませんわ!
それに、お慕いしているファルガー様の指に奪われたのですから・・・とても幸せです・・・♥」
桃花はそう言ってうふふっと笑った。
「ありがとう、桃花・・・。
君は本当に懐が深いな・・・
本当はもっと良くナカを解したほうがいいのかもしれないが、すまない・・・
もう僕には余裕がない・・・
少しは慣らしたからアーシェの時よりはマシだと思うが・・・今すぐ君のナカに入ってもいいだろうか?」
「はい・・・ファルガー様・・・来て・・・」
それから10分程して─。
「はあっ、はあっ、桃花・・・桃花っ・・・!」
「あっ・・・はっ・・・んっ・・・ファルガー様・・・ファルガー様・・・!」
ギッ、ギッと畳が軋み、2人分の激しい吐息と互いの名を呼び合う切なげな声、そしてぱちゅ!ぱちゅ!という水音を含む肉のぶつかる音が、ファルガーの狭い部屋で響いていた。
桃花は畳の上でファルガーに組み敷かれて彼と両の手を繋ぎ合わせ、汗ばむ脚の間に彼の腰を深く招き入れていた。
彼に持ち上げられた桃花の白い脚が、彼の腰の動きに合わせてぶらぶらと規則的に揺さぶられる光景が何とも扇情的だった。
事前の慣らしがあったためか、桃花は意外にすんなりと彼のものを受け入れることが出来た。
指2本と比ではない彼のものを受け入れる時には流石に痛みを伴ったが、彼がとても切なそうだったので、桃花は”痛い”と”待って”という言葉を何度も飲み込んだ。
そうしているうちに次第に痛みは感じなくなったが、今自分に与えられているこの感覚が、気持ちいいのかと言われると良くわからず、ただ彼が自分に夢中になり、快楽を貪り腰を激しく打ち付けてくれることが愛おしくて嬉しくて、それだけで胸の奥が暖かいものに満たされていくのを感じた。
「はあっはあっはあっ・・・桃花・・・もう出そうだ・・・
このままナカに出してもいいか?
僕は神使だから射精しても種がない・・・妊娠の恐れはない・・・だからっ・・・!」
「はい・・・一滴残らず全部私に下さい・・・ファルガー様・・・!」
ファルガーは桃花のその言葉を合図に今までにないくらい激しく強くパンパンパンパン!と腰を打ち付けると、
「うっ・・・・・!!」
と声を上げて桃花の最奥に沈めた剣を大きく膨らませ、何度も何度も脈打たせながら熱い情慾の塊を注ぎ込んだ。
桃花はそんなファルガーの広くて逞しい汗ばむ背中を両手でぎゅっと強く抱きしめ、彼のビクッ!ビクッ!と震える腰をぐっと強く両脚で押さえ込んだ。
二人は暫くそうやって繋がったままで余韻に浸っていたが、二人の乱れていた呼吸が大分調った頃に、ファルガーがずるっと少し柔らかくなったモノを彼女のナカから抜いた。
そして、
「桃花・・・最高に気持ち良かった・・・。
だが正直言うとまだまだ抱き足りない・・・。
君もまだ性交では快楽を得られないようだったし、もう一度だけ抱いても良いだろうか?」
と言って汗で湿った長い前髪を掻き上げ、何とも色っぽい表情を桃花に向けた。
「そんな・・・。
一夜という約束でしたから、夜が明けるまで何度でもファルガー様が望むだけ抱いて下さっていいのですよ?」
桃花がそう言って頬を染めて微笑んだその時である。
部屋の外から部屋の中に向けて呼びかける声があった。
「ファルガー様、桜雅でございます。」
桃花はファルガーの部屋から戻らない自分を心配した父が様子を見に来たのだと理解した。
ファルガーは桃花の破瓜の血を拭った黒い着物に軽く袖を通しつつ、返事をした。
「桜雅か。
どうした?」
この部屋の襖ににかけられた結界は、襖が閉まっている状態だと中の音を漏らさないようになっているが、その結界を張った主である彼が一時的に結界を緩めることで、部屋の外にいる者に声を通すことが出来た。
「桃花はそちらにおられますでしょうか?
貴方様のお部屋に向かうように伝えたあと、帰ってこないものですから・・・」
ファルガーは、
「あぁ、桃花ならここにいる。
桃花には頼みたい仕事があってその説明の為にここに呼んだが、話が長引いてな・・・。
・・・悪いが、まだ暫くはかかりそうだ。」
と言って熱っぽい視線を桃花に向けた。
桃花は自分も着物を着るべきか迷っていたが、ファルガーのその熱っぽい眼差しと言葉を訊いて、まだ彼の中の情慾の火は消えていないのだと悟り、そっと着物から手を離した。
「左様でございますか。
では夕餉はどうなさいましょう?
こちらに2人分運びましょうか?」
ファルガーは答えた。
「この離れで桃花と適当なタイミングで作って食べるからいい。
風呂もこちらで支度する。
桜雅、君は今夜はもうここには来なくていい。」
「・・・・・。」
桜雅はファルガーのこの言葉で中で起こっていることに気がついたらしく、
「失礼!」
と短く言って勢い良く襖を開け放った。
桃花はハッとして咄嗟に着物を手繰り寄せて胸元を隠したが、隠しきれていない娘の白い肌に乱れ髪、そして主であるファルガー・ニゲルの妙に色っぽく火照った顔と汗で湿ったままの髪を見て、桜雅は2人が男女の関係になったことを即座に理解し、険しい顔を主に向けた。
「やはり・・・。
例え貴方様でも、戯れで桃花に手を出されたとあれば、私も牙を剥かざるを得ません・・・」
そう言って桜雅は護身用に持ち歩いている懐刀に手をかけた。
桃花は、
「父様!違うのです!」
と叫ぶと父の背後に回り込み、そっと襖を閉め、こう言った。
「父様。
ファルガー様には私からお願いしたのです。
抱いてくださいと・・・。
これから私はこの世界で起ころうとしている戦争を阻止するために、アデルバートの宮廷に潜り込むことになりました。
アデルバートは性に奔放な国です。
そんな騎士達の社会に入れば当然貞操の危機もあるでしょう・・・。
そこで上手くやっていけるだけの女としての自信がどうしても私は欲しかった・・・。
私には初めてのお相手は、ファルガー様しかありえなかったのです・・・!
ファルガー様はただそんな私の気持ちを汲んで下さった・・・それだけのことです。」
「桃花・・・。
お前がずっとファルガー様をお慕いしていたことには気付いていた。
そしてファルガー様のお心の中に、永遠の恋人がおられることも・・・。
例えお前がアデルバートでのお役目を無事果たしジャポネに帰還したとしても、それは揺らぐことがないことなのかもしれない・・・。
お前はそれでもいいのだな?」
と桜雅が娘を心配そうに見つめながらそう言った。
「はい・・・。
例え見返りが無くとも、私は悔いのないように、真っ直ぐに生きると決めましたから。」
桃花は穏やかに微笑みながら父にそう返した。
ファルガーはそんな桃花の隣に立つと、親友に向けて頭を下げた。
「桜雅。
お前の大切な娘を傷物にしてしまったことは申し訳ないと思っている・・・。」
そして頭を上げ、口元を引き結んでからきっぱりとこう言った。
「だが、今夜桃花は僕の女だ。
すまないが、朝まで2人きりにして貰えないだろうか?」
桜雅は主であり親友でもある彼の言葉を受けて頭を抱え、ため息をついてからこう言った。
「全く・・・桃花の父親の私に面と向かってそんな事を言ってのけるとは、貴方という人は変わらず大胆かつ豪胆だ・・・。
どれだけ大名連中に己の娘を充てがわれても頑なに拒み続けていた貴方が、こんなにも私の娘をお気に召すとはね・・・。
内心複雑ではあるが、それだけ私の娘が最高の女なのだと誇らしくもあるよ。
桃花、アデルバート宮廷に入り込むのに必要となりそうな書類は用意しておく。
だから、今夜はお前の愛する人にうんと可愛がってもらいなさい。」
「はい・・・!
ありがとうございます、父様・・・!」
桜雅が一礼して部屋を出ていくと、ファルガーが桃花を見て、
「これでもう邪魔は入らないな。」
と言ってまたいたずらっぽく微笑んだ。
桃花が彼のそんな表情にぽーっと見惚れていると、彼は押入れを開け、
「ずっと畳の上では痛いだろう。
2回戦目以降は布団を敷こうか。」
と言いながら中から布団を取り出し始めた。
「ファルガー様・・・お手伝い致します!」
と慌てて桃花が駆けつけ四つん這いになりながらシーツを整えていると、ファルガーに突然背後から抱き締められ、胸を揉まれて硬く高ぶった股間のモノを尻の割れ目に擦り付けられた。
「あっ・・・♡ファルガー様♥」
「一糸まとわぬ姿の君に眼の前でそんなボーズをされれば、当然僕の情慾に火が着くさ・・・」
そしてファルガーは桃花の乳首を指先で摘みながら、桃花の股の割れ目に熱く滾る肉の剣を移動させて挟み込み、ゆっくりと潜らせた。
「あっ・・・はあっ♥・・・ひっ♡」
乳首に与えられる強めの刺激と性器の外側に感じる彼の熱に溶かされた桃花は、お腹の奥からすぐに蜜を溢れさせては彼の剣を濡らした。
彼はそのぬるぬるの蜜を良く肉の剣に絡めると、断りもなくその剣を彼女の鞘へと一気に沈めた!
「ひああああっ・・・・・♥」
桃花は突然身体を開かれる刺激に声を上げた!
「桃花・・・桃花・・・!」
ファルガーが再び桃花の身体に溺れ始め、うわ言のように彼女の名を呼びながら腰を揺する。
ぱちゅ!ぱちゅ!と水音を含めた肉のぶつかる音、そして2人分の熱い吐息、ギッギッギッと床の軋む音がまた狭い部屋で重なりだした。
桃花は彼に身体のナカを貫かれる度に少しずつ快楽と言える感覚に目覚め始め、甘い声を漏らし始めた。
「あっ・・・んっ・・・あっ・・・ああっ・・・♡」
だが桃花にはこうして愛する彼から背後から犯され、自分のナカを彼の形に変えられ彼の匂いを刻まれていることよりも、愛する彼が自分の身体に酷く興奮し、まるで盛った獣のように自分を貪り食っている様を肌で感じることのほうが心地良く感じられ、出来れば今彼がどんな風に雄の顔を晒し、どんな風に自分に狂っているのか・・・その様を直接目で見て確認したいと思った。
それが思い通りにならないこの体位は、きっと自分向きではないのだとどうにももどかしく感じられて、彼から与えられる快楽に今ひとつ集中出来ないでいた。
だがファルガーのほうは、少しずつだが桃花が甘い喘ぎを漏らし始めたことが嬉しくより興奮したようで、口角を上げて一層激しく腰を揺すり始めた。
「っ・・・桃花・・・気持ちいい・・・また出そうだ・・・!
桃花・・・桃花・・・・・!!」
「あっ♡は、はいっ・・・た、沢山出して・・・ファルガー様っ・・・♥」
パンパンパンパン・・・彼の腰の動きが最高まで激しく強く早くなる。
「あっあっああっ・・・ファ、ファルガー様っファルガー様!
あっあっああっ♥・・・」
桃花が快楽のピークに差し掛かった彼の一番強く激しい情慾を背後から感じ、そこからようやくオーガズムへの階段を登り始めたところで、ファルガーの竿が大きく膨らみ、「うっ・・・!」と小さく呻いてから何度もそれを脈打たせ、ドクッ、ドクッと子宮の奥に熱い情慾の塊を注がれた。
ファルガーははあっ、はあっ、はあっと荒い息をつくと、彼女のナカから少し柔らかくなった剣をずるっと抜き取った。
それと同時に白い精液もぽたっ、ぽたっと数滴零れ落ちてはシーツを汚す。
「今回も僕ばかりが気持ちよくなってしまってすまないな・・・。」
とファルガーは汗で濡れた髪を掻き上げて苦笑した。
「いえ、ファルガー様が気持ち良くなってくださるのはとても嬉しいですし、私も次第に感じられるようになってきました。」
桃花は(折角良くなって来た所で終わってしまって残念でしたけど…)と思う気持ちを隠して笑い、そう返した。
「そうだな。
だがまだナカで達するには遠そうだ・・・。
アーシェとは比較的性的相性が良かったのか、二度目・・・いや、三度目の性交で共に昇り詰めることが出来たが、世間では女性が性交で絶頂するのはなかなか難しいと聞く。
だから今夜が初めての君がそこに届かなくとも無理はないのだろう。
だが君を抱けるのはこの一夜しかないし、出来れば今夜のうちに僕のモノでイかせてあげたい・・・。
ナカで達するのは、陰核への刺激で達するのとは比較にならない快楽のようだからな・・・」
そう言ってファルガーはどうしたものかと首を捻りながら桃花の頭を撫でた。
「・・・それでしたら一つ、気付いたことが御座います。
先程ファルガー様に後ろから貫かれてみて思ったのですが、私はファルガー様に後ろから獣のように犯されていると思うよりも、ファルガー様が私の身体に溺れ、夢中になってくださっている様子を肌で感じられることに興奮を覚えました。
それが視覚で確認出来ればもっと良いのにとも思いました。
もしかしたら私は、性癖においても人に支配されるよりもする側・・・つまりはS・・・なのかもしれません。」
と桃花は布団の上で正座し、真っ直ぐにファルガーを見つめながらそう伝えた。
「そうか・・・。
つまりは桃花が主導権を握れる体位ならば達することが出来るかもしれないと言うのだな・・・?」
成る程…と顎に手を当て頷きながらファルガーが返した。
「えぇ。
ファルガー様が私を性交にて絶頂させたいと望んで下さるのでしたら、一度試してみる価値はあるかと思いますわ。」
「・・・僕も性癖においては主導権を握りたい側だと自覚しているし、君みたいな若い子に支配されることは本音を言うと少々屈辱的かもしれないな。
だが、君が心から感じてくれる様を僕も見てみたい。
いいよ、次は君が上になってみるといい。
だが前戯はどうする?
君が主導権を握ってみるか?
僕は2発も射精して今それなりに満足しているから、再び完全に勃ちあがらせるのは少々骨が折れるかもしれないぞ?」
ファルガーはそう言って挑発的に微笑んだ。
ファルガーの挑発に乗った桃花は、彼を押し倒して布団の上に寝かせると、彼の逞しい身体の上に四つん這いで乗っかって、厚い胸板を指先でなぞったり、小さな乳首を舐めてみたりしてみた。
だが彼はくすぐったそうに笑うばかりで、桃花が同部位を愛撫されたときのような反応は一切無く、股間の剣も全く硬度を増す気配が無かった。
桃花が悔しくて頬をふくらませると、ファルガーがクスクスと笑って言った。
「残念ながら男の性感帯は陰茎にほぼ集中しているからね。
今度は陰茎を触ってご覧?」
「はい・・・」
桃花は頷くと、挿入するにはまだ少し硬度の足りない彼の陰茎に手を伸ばし、そっと上下にスライドさせながら擦ってみた。
彼は切なげに眉を寄せ、時折竿をピクンピクンとさせて感じてはいたが、それ以上に硬さを増すことは無かった。
「一度も射精していない時なら、ただ君の綺麗な手でそうして触れられるだけでも充分興奮しただろうね。
でも今の僕をそそり勃たせるにはインパクトが足りないかな・・・。」
そう言ってファルガーは申し訳無さそうに笑った。
「それでしたらお口でさせて下さい・・・。」
桃花は眉を寄せながら懇願した。
桃花は彼に拒まれるであろうことはわかっていたが、自分のすることで彼が感じて酷く興奮する様をどうしても見たかったのだ。
だが桃花の予想通り、ファルガーは厳しめな表情で頭を振り、あまり彼の口からは聞きたくはない言葉を返してきた。
「駄目だよ。
それは君と君の未来の恋人のために取っておくべきだと言っただろう?
僕にとってもその行為は彼女との大切な思い出に触れることだから、例え君であってもそこには踏み込まれたくない・・・。」
桃花はその言葉に胸が締め付けられる思いがし、栗色の瞳に涙を滲ませた。
だがファルガーはそれには気が付かず、
「やはり挿入するまでは僕が主導権を握ったほうがいいな・・・」
と言いながら、桃花からマウントを奪い返すために身を起こそうとした。
桃花はそれを拒むかのように頭を振ると、なるべく感情を表に出さないように淡々とした口調てこう言った。
「・・・それでしたら私に殿方の悦ばし方を教えて下さい・・・。
・・・もしアデルバートで貞操を狙われるようなことがあっても、他の手段で快楽を与えてやれば、挿入されることからは逃れられるかもしれませんから・・・。」
桃花の言うことを聞いたファルガーは、少しの間沈黙して考えた後、納得して頷いた。
「そうだな・・・。
僕の大切な君がそういう場面にならないに越したことはないが・・・もしそれがどうしても避けられなかった場合、性的な駆け引きにおいて男の感じるツボ、そして導き方を知っていることはかなり大きいだろう・・・。
良いよ。
口淫以外のことで良ければ、朝までかけて一通り教えよう。
その知識は君の純粋さを奪う事になるだろうし、またひとつ君の未来の彼に恨まれる要素を作ってしまうことにはなるが、それで君が自分自身を守る為のカードが増えるのなら、僕は喜んでその恨みを買うよ。」
「・・・はい。
ありがとうございます・・・!」
桃花は彼に気付かれぬよう滲んだ涙をそっと拭うと、いつものように微笑んだ。
それから桃花は、ファルガーに男根の感じる部位、そして効果的な愛撫の仕方を丁寧に教わった。
元々頭の良い桃花はそれらの情報を実践とともにどんどん吸収していった。
そして、ファルガーは手淫だけでなく、桃花のその豊かで美しい乳房を使った技は、性の駆け引きにおいてとても強力な武器になると言った。
その言葉の通り、桃花の極上な柔らかさを誇る白い胸の谷間に彼の剣を挿み込み、両脇からもにゅもにゅと淫らに刺激を与えてやれれば、彼の剣はたちまちビキビキと音が聴こえそうなくらいに一気に限界まで熱り勃ったのだった。
「うふふっ♥
ファルガー様ったらこんなにビキビキにされて・・・可愛い♥」
ファルガーは「はぁ・・・」とため息をつくと、
「可愛いって・・・えっと君が今16だから歳の差は887・・・か。
そんなにも歳上の男に言うことかな・・・?
やっぱり桃花は僕以上のS・・・ドSなんだね・・・。
負けたよ。
後は君の思うようにそいつを可愛がってやってくれ・・・」
と観念したように笑った。
「はい♡
では遠慮なくいただきますわね・・・♥」
そう言って桃花は彼の剣を右手で支えつつ、ゆっくりと腰を落としていった。
ズプププププ・・・…という本日3回目となる彼に身体のナカを開かれていく感覚に、桃花はゾクゾクと身を震わせた。
そして最奥まで辿り着いた彼の先端を、桃花の子宮口がグリグリと擦り付けた。
「っ・・・♥」
あまりの心地良さに、今までは何処か余裕があるように見えたあの彼が、堪らなさそうに頬を染めて苦悶の表情を浮かべている。
「ファルガー様ぁ・・・♥」
それを見た桃花は恍惚の表情を浮かべ、挿入時よりも更にゾクゾクゾクゾクッ・・・!と肌をあわ立たせると、熱く蕩けそうな鞘で彼の剣をキュンキュンと何度も締め付けた。
「っ・・・桃花っ・・・♥
そんなに締められると堪らなくなる・・・
は、早く動いてくれないか・・・?」
ファルガーは快楽を貪りたくて堪らないのか、切なそうに眉を寄せて息を乱しながら、そう訴えた。
「あら、ファルガー様の陰茎は、私の好きに可愛がって良いと仰ったではありませんか。」
と飄々とした口調で返す桃花。
「確かにそう言ったが、本当に堪らないんだ・・・!
早く・・・君のナカをっ・・・・・!!」
そう言ってファルガーは桃花の腰をガシッ!と掴み、下から腰を突き上げながらその動きに合わせて桃花の腰を上下に揺すり始めた。
しかし桃花はそれを許さないと言わんばかりに自分の腰を掴む彼の手を軽く抓ってから振り払うと、意地悪に微笑んで腰を上げ、彼の剣を自分のナカから抜いてしまった!
「ああっ・・・!
桃花・・・何故!?」
桃花は彼の問いかけを無視して自分が脱ぎ散らかした着物の山の中から腰紐を手繰り寄せ、それで彼の手首を縛ってしまった。
そしてうふふっ♥と茶目っ気たっぷりに微笑むと、
「これでファルガー様は私を自由には出来ませんね?」
と言ってから、酷く物欲しそうに首を擡げている彼の剣に手を添え、一気に”ず・・・・・っぷん♥”と己のナカへと再び導いた。
「はあぁあぁあっ・・・・・♥」
「うああぁっ・・・・・♥」
二人は同時に吐息混じりの声を漏らした。
そこからはずっと桃花のターンで、無我夢中で腰を振り、彼のモノをナカに擦り続けた。
「あっあっあっ♥
ファルガー様っファルガー様ぁ・・・♥
凄い・・・すごぉい♥
硬くて熱くて大きくてぇ・・・こんなに私を求めてくださってる♥
あっあっあっああっ♡気持ちいい・・・気持ちいいっ♡♥・・・気持ちいいっっ♥♡♥
あっあっあっあっ・・・♥♥♥」
「桃花っ・・・あぁ桃花っ・・・!」
ファルガーは腕を縛られたままで一生懸命に桃花のナカを貪ろうと腰を突き上げた。
「気持ちいい・・・気持ち良すぎてもう出てしまいそうだ・・・!」
「あっあっあっはあっ♥
わ、私も今度こそファルガー様の剣でイきそうですっ・・・!
どうか一緒にっ・・・!!!」
「っ・・・あぁ・・・一緒にイこう・・・!
桃花っ!桃花っ!!・・・・・くうっ・・・・・!!!」
「ファルガー様っファルガー様っファルガー様っ・・・・
はあぁああああーーーーーーーーー♥♥♥♥♥」
桃花は限界まで張り詰めた彼の剣と、お腹の奥に注がれる彼の熱い情慾を確かに感じつつ、頭の中が真っ白になりそうな強い快楽に身を震わせて、
(あぁ・・・・・♡
やっぱり私はドSなのですね・・・♥)
と今この瞬間、はっきりと自分の性癖を自覚したのだった。
その後二人は簡易的な夕食を一緒に作って食べ、一緒に風呂を支度し共に入ってはまた交わった。
その際、先程の交わりで自分の性癖をはっきりと自覚した桃花は、ファルガーにある程度主導権を譲りながらも、挿入の際には彼の顔と姿が確認出来る体位にしてもらい、時々彼を言葉で煽っては、上手く自分自身を高めていった。
そうすることで、先程のように強い快楽とはいかずとも、彼の剣で充分に達することが出来た。
その後また部屋に戻ったが、ファルガーが少し休まないと流石にもう勃起しそうもないと言って笑ったので、一緒の布団に入って寝た。
3時間程したらファルガーが起きてきて、
「神使だからか?
もうすっかりこちらの方も回復したようだ。」
と言って、桃花の尻に硬くなったモノを押し付けてきた。
そこからは夜が明けるまで数え切れないくらい肌を重ねた。
桃花に腕を縛られて酷く感じてしまった3回目の交わりは、やはり彼にとっては内心複雑だったらしく、それ以降は幾ら桃花がお願いしても、縛らせてはくれなかったが。
そしてファルガーは行為中どんなに興奮しても、桃花の未来の恋人に残すといった行為をすることは、決してなかったのだ。
翌朝─。
アデルバートに向かう船に乗るために、大きな革鞄を手に船着き場に来た桃花を、ファルガーと桜雅、梅次の三人が見送っていた。
桃花は昨夜ファルガーに何度も抱かれて腰が痛く、あそこも擦り切れそうなほどにヒリヒリし、更には寝不足でもあったが、不思議とこれらの痛みとけだるさが、これからアデルバートに向かわなければならない自分を強く奮い立たせてくれている気がした。
「こちらのことは心配しなくていい。
落ち着いたら手紙を書きなさい。
入国に必要な書類、そしてお前の経歴を記した書類は鞄に入れてある。
女中として完璧に育て上げたお前なら、何処に行ってもやっていけるとは思うが・・・くれぐれも無理だけはするな。
無理だと思えばすぐに帰って来い。」
と桜雅。
「ありがとうございます、父様。
出来るだけ頑張りますが、父様が帰ってきていいのだと言ってくださったお蔭で、私は気負わずに旅立てます。
どうかお元気で・・・。」
「あぁ、お前も息災でな・・・。」
続けて梅次が涙を堪えて潤んだ目を桃花に向けながらこう言った。
「姉様はそのうちファルガー様の元へお嫁に行かれるのだと思って、別れの覚悟を前々から決めていましたので、僕は泣きません!」
「うふふっ、梅次は強い子ですね!
でも私は貴方の望むのとは違う形で旅立つことになりましたのに・・・文句は無いのですか?」
と桃花。
「 はい・・・!
今の姉様は、姉様らしく悔いのないように生きているのだと僕にはわかります・・・!
だから、ファルガー様のお嫁に行かれるのではなくともいいのです・・・!
でもどうか・・・無事で帰ってきて下さい!」
「梅次・・・ありがとう。
次に会う時にはきっと背も伸びて、立派な殿方に近づいているのでしょうね・・・。
どうか、健やかでいて下さいね。」
「はい・・・姉様も、お元気で・・・!」
そう言い終えた後に梅次は堪えきれずに泣いてしまったので、桃花は抱きしめようと手を伸ばした。
だが桜雅が、
「梅次は私が見るからお前はファルガー様ときちんとお別れをしなさい。」
と言って、代わりに梅次を抱き締めた。
ファルガーはそんな梅次の頭をよしよしと撫でた後、まだ心配そうに梅次を見る桃花の傍に来て、こう言った。
「この船着き場に着いてから、僕の周りに消音結界を張ったから、その範囲内にいる僕達の会話が誰かに聴かれることはない。
だから安心して言いたいことを言うといい・・・。
だが・・・本当にここで別れでいいのか?
態々船に乗らずとも、ヘリオス様の転移装置を使って共にヘリオス連合国本土まで転移し、そこから君を背負って僕の高速移動でアデルバートまで連れて行くことも出来るのだぞ?
それくらいの寄り道の時間はあるし、それならあっという間にアデルバートまて着く。
君に天界の装置を使わせたことに対し、ヘリオス様も事情を説明すればうるさくは言われまい。」
桃花はその提案に対して頭を振った。
「そうしましたら私は、ファルガー様と離れられなくなってしまいます・・・。
だから、ここでお別れでいいんです。」
「そうか・・・。」
寂しそうに笑う桃花を見て、ファルガーは眉を寄せ、俯きながらこんな事を口にした。
「・・・これは言うか言わぬか悩んだが・・・。
実は・・・桃花と一夜を共にしてみて、かなり気持ちが揺るがされたんだ・・・・・。
君がアデルバートでの任務を終えてジャポネに帰ってきたその時には、もうこの世界の何処にも居ないアーシェをいつまでも想い続けるよりも、今確かに生きていて、温もりを感じることが出来る君と、君が寿命を迎えるその時まで寄り添うのもいいのかもしれないと・・・。
だが、何故だろう?
君の運命の赤い糸は、僕ではない違う誰かと繋がっている気がするんだ。
そして、そんな彼とアデルバートで出会うのではないかと・・・。」
「それは、900年以上生きてきた貴方の勘・・・ですか?」
桃花はクスクスと笑いながらそう訊き返した。
「そう・・・ただの勘に過ぎない。
だが僕の勘は、ヴィセルテ様の千里眼程確実なものでは無いが、割とよく当たるんだよ・・・。
だから今ここで僕がその未来の約束を口にすれば、君のもっと輝かしい未来の可能性を奪ってしまう気がしたんだ・・・。
だから、僕は君を応援することにした。
君が君らしくいられる生き方を、ただひたすらにね。
そして・・・もしも君が本当に僕の助けを必要とするその時には、この笛を鳴らしてくれ。」
そう言ってファルガーは白い陶器製の角のような形をした3cm程の小さな笛を桃花に手渡した。
「これは・・・?」
桃花は手のひらの上のそれに視線を落として不思議そうに尋ねた。
「これは僕の神力が込められた笛で、この笛の音が鳴れば、僕が世界の何処に居ても必ず僕の耳に届くようになっている。
その笛の音が聴こえたら、僕は何を差し置いてもすぐに君の元へ駆けつけると約束する。
ただし、これは君以外の者にも鳴らすことが出来てしまう上、一度鳴らせば跡形もなく砕け散ってしまうから、取り扱いに気をつけてくれ。」
「そのような貴重なものを私に・・・?
ありがとうございます・・・!
これがあればいつでも貴方の助けを呼べる・・・それだけでとても心強いです・・・!
ですが、人の世に過ぎたものを一般人に渡してしまっては、ヘリオス様に怒られてしまうのではないのですか?
それに幾ら貴方様でも、私を助ける為に無断でアデルバート宮廷に入り込めば、罪を問われますでしょう?
この笛を私に渡すことは、貴方にとってそれなりのリスクを伴うことなのではないのですか・・・?」
と桃花は尋ねた。
「ははっ、まぁそうだね・・・。
だが大切な君を助けられずに失うくらいなら、ヘリオス様に怒られるほうがずっとマシだよ・・・。
だから、ここぞという時には遠慮なく鳴らして欲しい・・・」
そう言って彼は優しく桃花を見つめると、桃色のリボンで束ねられた柔らかな栗色の髪をそっと優しく撫でた。
桃花は気持ち良さそうに目を細めると、
「はい・・・。
アデルバートに着いたらすぐにペンダントにして、肌身離さず持ち歩きますわ・・・。」
と言い、笛を大事そうに胸元に当ててから、そっと懐に仕舞った。
「うん、そうして欲しい。
それから僕との連絡手段についてだが・・・それは何処の国にも必ずある教会を利用しよう。
アデルバートの教会であれば当然アデルバート神様の御神像が祀られているが、ヘリオス様はすべての神の頂点に立たれるお方だから、どの御神像にも干渉する権限を持っておられる。
そこで、御神像に備わっている機能の一つである”メッセージボックス”の領域を、君との連絡用に少しばかり借りさせてもらえるよう後ほどヘリオス様に申請しておく。
アデルバートの内部調査のために必要だと説明すれば、問題無く許可が下りるだろう。
その方法なら誰にも疑われることもないだろうし、文と違って証拠も残らないから安全だ。
メッセージボックスの使い方は簡単だ。
君はただ教会で御神像に向かって祈りを捧げながら、心の中で僕に呼びかければいい。
そうすればその内容がメッセージボックスに記録され、僕が各地の教会に立ち寄った際にそれを受け取ることが出来る。
その逆もしかりで、時には僕からその方法で君宛に連絡をするから、信心深いフリして毎朝教会で祈りを捧げるようにするといい。
そうすることで緊急性のあるメッセージの未確認も防げるし、もしも僕からのメッセージを何らかの事情で君が確認出来なかった場合に、早い段階で異変に気付くことだって出来る。
それと、僕がアデルバートまで出向くときにも事前に知らせるから、その時には何処かで落ち会おう。」
桃花はアデルバートに行ってからもファルガーとは時々は会えるのだとわかり、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「はい・・・!
その時を楽しみにお待ちしておりますわ・・・!」
「・・・そろそろ船が出るな・・・。」
と桜雅が懐中時計を見て言った。
「はい・・・。
私、そろそろ行かなくては・・・。
父様、梅次、ファルガー様・・・。
次にお会いする時までどうかお元気で・・・」
そう言って桃花は微笑んだ。
「姉様・・・!」
梅次が泣きながら桃花の胸に飛び込んで来たので、桃花はそれを受け止めて優しく抱き締めた。
「梅次・・・何も今生の別れではありません。
どうか顔を上げて?
私は貴方と笑顔でお別れがしたいのです。」
と桃花は彼を諭した。
「はい・・・ぐすっ・・・ごめんなさい・・・姉様・・・。
僕・・・もう泣きません!
だからどうかご心配なさらず・・・お元気で・・・!」
梅次はそう言って涙を拭い、笑顔を作ってみせた。
「梅次・・・ありがとう。
貴方は本当に強くて優しい子ですね・・・!
それでは・・・行ってまいります。」
桃花は父、弟、そして愛する人に一礼をし、船に乗ろうとタラップに足を乗せた。
だがどうにもまだ後ろ髪を引かれる思いがした桃花は、駆け足で3人の所まで引き返すと、ぎゅーっと3人纏めて抱き締めたのだった!
そして10秒ほどして3人の大切な男達を解放すると、
「それでは、私の大切な家族の皆さん。
今度こそ、アデルバート・・・騎士の国へ行ってまいります!」
と言って一気にタラップを駆け上り、船が出港して彼らの姿が見えなくなるまでずっと、微笑みながら手を振り続けるのだった。
❖はじめに❖
この物語は『銀色狼と空駒鳥のつがい ~巡礼の旅~』で登場する銀色狼のライバル、金獅子のお相手役のドSメイドを主人公とした潜入捜査奮闘記&恋物語です。
世界観等『銀色狼と空駒鳥のつがい』シリーズと共通する部分がありますが、この物語単独で読まれてもわかるように説明を入れたつもり・・・なのですが、ちょっと分かりづらいと感じられる場合もあるかも知れませんので、その場合はお気軽にご質問下さい。
この序章はいつもよりボリュームのあるお話となりましたが、これら全てで一つのまとまりにしたかったので、分割せずに投稿しています。
読みづらいかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。
※このお話の後半にはHな挿絵が入りますのでご注意ください。
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遥か遠い空の彼方に、一昔前の地球に似た文明を持つ、一つのある世界が存在した。
その世界の創造神であるヘリオスは、4人の子供たちにそれぞれ一つずつ土地を与え、その子供達の治める土地は子供達の名前を持つ国へと発展し、それぞれが得意とする方向性で栄えていった。
だがこの世界にはそれらの4国に割り振りにくい小さな土地や島が複数存在したので、ヘリオスはそれらをまとめてヘリオス連合国と名付け、直接統治していた。
そのヘリオス連合国のひとつに、ジャポネのいう小さな島国があった。
その国は、ヘリオスが異世界より召喚し招き入れた優秀な使いへ褒美として与えたもので、その男の故郷である地球という星の日本という国を模して作られたためか、他の4国ともヘリオス連合国のどの国とも異なる独自の文化を持つ国へと発展していた。
そのジャポネの樹々が赤く染まり、葉を落とし始めた秋と呼ばれる季節の事である─。
ジャポネで生まれ育った16歳の相澤桃花は、木造建築に瓦屋根の屋敷の一室にて、6つ歳の離れた弟の梅次にこの国の歴史を教えていた。
彼女は栗色の背中まである髪を後ろでひとつに纏め、そこに桃色のリボンを綺麗に形作って結んでいた。
服装は、彼女の仕事着である紺色無地の着物と臙脂色の帯の上に白いエプロンというシンプルで控えめなものだったが、まだ少し幼さを感じさせつつも美しく整った顔立ち、その齢の女子の平均以上に育った豊かな胸元、そして細く括れた腰から広がる丸くて綺麗な形の尻、しなやかな曲線を描く長い脚は、数多くの男性を虜にさせる確かな素養を持っていた。
梅次は姉の薄紅色のふっくらと艷やかな唇から紡がれるこの国の主である人物についての話に、姉と同じ栗色の瞳を輝かせながら耳を傾けていた。
「というわけで、我らの主であるファルガー・ニゲル様は、この世界の創造神であらせるヘリオス様の神使として883年もの間、ずっと活躍されているお方なのですよ。
このジャポネも、ファルガー様がヘリオス様から報奨として賜った土地を、故郷に似せて発展させたものなのだそうです。
我々の一族は、ジャポネ建国当時からずっとファルガー様のご自宅であるこのお屋敷の管理と留守を与り、ファルガー様を陰ながら支えて参りました。
梅次、貴方も大人になったら父様の跡を継ぎ、ファルガー様を生涯をかけてお支えするのですよ?」
「はい!承知しております姉様!
僕は男ですから父様の跡を継げるように精一杯頑張りますが、女性である姉様は将来はどうなさるのです?」
と梅次が愛らしい丸い目をぱちくりとさせながら桃花に尋ねた。
「そうですね・・・。
私は亡くなった母様のように、この世で一番大切だと思えるお方のお側に置いてもらい、生涯をかけてお支えしていくつもりです。」
桃花は笑顔でそう答えた。
「姉様!
それってファルガー様のお嫁さんになるってことですか?」
とパアッ!と明るく表情を弾ませる梅次。
「えっ!?
ど、どうしてそのようなことを言うのです?
梅次・・・。」
桃花は頬を赤く染めて困ったように眉を寄せた。
「だって姉様・・・。
ファルガー様に12歳の誕生祝に贈られたその桃色のリボンを、今でもずっと大切に髪に着けていますから・・・。
姉様にとってファルガー様は、母様にとっての父様のような、一番大切な特別な人・・・なのでしょう?
この国の女性は齢16になれば結婚が出来ますし、姉様は春で16になられました!
ならばファルガー様と結婚することも可能でしょう?」
「確かにこの国の法ではそうですが・・・あのお方は私など望まれないでしょう。」
と桃花は沈んだトーンでそう返した。
「どうしてですか!?
姉様はこんなに美人で働き者で頭もいいのに!
僕、色んな御仁から姉様を紹介して欲しいと頼まれますよ?
僕の眼鏡に適う御仁が居ないので何方もきっちりとお断りしてますが・・・!」
と最後の方は胸を張り、誇らしげに眉を釣り上げる梅次。
「あら、そうなのですか?
梅次ったら、まるで私の小さな騎士様みたい!」
クスクスと笑いながら桃花が言った。
「騎士様?
騎士様ってなんですか!?姉様。」
と興味津々に目を輝かせる梅次。
「ジャポネでは馴染みのない言葉ですし、国外の勉強がまだの梅次が知らなくても無理はないですわね。
騎士様というのは4国のひとつ、アデルバート神国の武人のことです。」
「武人・・・ジャポネの侍みたいなものですか?」
と梅次。
「そうですね。
確かに同じく武人なので近い部分はあるのですが、アデルバート神国において騎士というのは貴族なので、民の上に立つ者として民を守るためにその剣を振るいます。
更に立ち振舞いの美しさや礼儀作法に則った行動が常に要求されるようですが、そこは侍と似ていますね。
物語ではか弱い女性を守る盾となる美しい騎士が登場したりもしますから、梅次のように女性を守ろうと行動する人のことを、騎士様に例えることもあるのですよ?」
と桃花は説明した。
「そうですか・・・。
騎士様・・・かっこいい・・・!
いつか会ってみたいです・・・!
・・・それよりも姉様!
先程も申しました通り、姉様は大層御仁に人気なのですから、ファルガー様だってお嫁に欲しいと思ってくださるに違いありません!」
と自信たっぷりに言う梅次。
「・・・ですが梅次。
私はこのお屋敷の女中に過ぎませんし、身分も釣り合いが取れません。
それにあの方は私達と違い、ヘリオス様から永遠の命を与えられたお方です。
私は生きても精々残り70年程・・・しかも人生後半ともなればしわくちゃのおばあちゃんです。
あの方とは違う時を生きる私など、伴侶になさるわけがないでしょう?」
「そんなの、想いを伝えてみないとわからないではないですか!
ファルガー様に対する姉様は、身分だとか寿命だとかそんなことばかりを気にしていて、全くいつもの姉様らしくありません!
僕は・・・姉様には悔いのない、姉様が姉様らしくいられる生き方をして欲しいのです・・・!」
と梅次は姉をしっかりと見つめながらそう言った。
「梅次・・・」
桃花が梅次に何かを言おうと口を開きかけたその時である。
「桃花!
桃花はいるか!?」
という父桜雅の声と共に、勉強部屋の襖が開け放たれた。
「父様!
はい、私ならここに。」
と顔を上げる桃花。
「桃花、ファルガー様が只今ご帰還された。」
と桜雅。
「あら・・・まだ冬には早いこの時期に珍しいですわね?」
この屋敷で生まれ育った桃花は物心ついた頃からファルガーを思慕し、幼い頃はファルガーがお役目から帰還する日を指折り数えていたくらいだ。
今ではすっかり彼の年間スケジュールを把握しており、今回の帰還が例外であることにすぐに気がついた。
「あぁ・・・。
本来であればご帰還される時期ではないが、お前に頼み事が出来たために一時的に戻らたそうだ。
翌朝にはまたお役目に戻られる。
梅次の勉強は私が見るから、急いでファルガー様の個室に向かってもらえるか?」
「私に頼み事・・・?
一体何でしょう・・・?」
と桃花は不思議そうに首を傾げた。
それから間もなくして、桃花は夕焼けと紅葉した庭の木のふたつの赤を反射して真っ赤に染まったファルガーの自室のある離れへと続く廊下を、急ぎ足で進んでいた。
彼はジャポネに帰還している間は屋敷では暮らさずに、彼のためだけに作られたこの離れで暮らし、来客や用向きがある時だけ屋敷の方に顔を出すのが常だった。
離れと呼ばれるこの庵は、彼の自室の他には台所と風呂と厠があるのみという質素なものだったが、秘密の多い彼の暮らすこの離れへの出入りを許されているのは、現在のところ桃花の一族のみであり、他の使用人達は皆彼が門に張った結界により弾かれてしまうので、足を踏み入れることは叶わなかった。
その為この離れの手入れは桃花の父桜雅と桃花、弟の梅次のみで行っていた。
桃花は普段掃除で立ち入る時の感覚でその結界のある門を難なく潜り抜けると、そのまま廊下を進んで彼の部屋の近くまで来た。
その部屋の前で膝をついたところでハッとして、桃花は胸元から小さな手鏡を取り出した。
(髪の乱れ無し・・・。
お化粧も大丈夫でしょう。
よし・・・)
桃花は手鏡を仕舞うと緊張からゴクッと息を呑み、部屋の外から声をかけた。
「失礼致します。
桃花です。」
するとすぐに少し低くて独特の色気を帯びた、何処か影を感じさせる男の声が返ってきた。
「来たか。
入ってくれ。」
桃花はその声に密かに胸を高鳴らせながら、「失礼致します。」ともう一度声を掛け、襖を開けた。
その部屋はこの国の王とも言える彼の部屋にしては狭い10畳程の広さで、床は畳敷き、家具はずらっと色んな書物が並べられた大きな棚と木のテーブルと箪笥が一つだけ、そして壁にはこの部屋の雰囲気とは合わない色とりどりの花が咲き乱れた異国の村の絵が飾られていた。
その部屋の中央にある机の向こう側に敷かれた赤い座布団の上で胡座をかいて座っている彼は、真っ直ぐで黒く長い前髪をしており、その前髪に隠れがちな目は髪と同じ黒の瞳を持ち切れ長で、顔の中央を通る鼻はスッと端正で、口元は力強く引き締まったなかなかの美丈夫だった。
服装は帰還してすぐの為か、いつも彼がお役目に出る時の装いのマントだけを外した黒の着物姿だった。
彼の見た目の年齢は、彼が神の使いとしての生を与えられた二十歳の地点から変わっていない筈だが、彼が生きてきたとてつもなく長い年月がそうさせるのか、二十歳という割には渋くて貫禄があり、まさに年齢不詳という言葉がしっくりくる見た目だった。
彼は普段は険しい表情を緩めて桃花に笑いかけた。
「やぁ桃花。
君の16の誕生月に会って以来だから5ヶ月ぶりだね?
変わりはないか?」
「えぇ。
ファルガー様もお元気そうで何よりですわ。
それで・・・私に頼み事とは一体?」
と桃花は尋ねた。
「あぁ・・・。
この離れには君達以外の使用人は近付けないが、それを掻い潜って聞き耳を立てる者が居ないとも限らないし、念のために襖を閉めて近くまで来てくれるか?
ここの襖を閉めると更に強い結界が作動して音漏れもしなくなる。」
「かしこまりました。」
桃花はそう返事をすると彼に従い襖を閉め、テーブルを挟んだ彼の向かい側に移動して正座した。
「最初に確認するが、桃花は僕がヘリオス様から任されているお役目、”監視者”について何処まで知っている?」
「はい。
ファルガー様がヘリオス様から賜った高速移動のお力を用いて、ヘリオス様のお子様達・・・アデルバート様、セラフィア様、ダルダンテ様、フェリシア様が束ねられる各4国を巡り、4国間での戦争の兆しや違法行為、不正などが行われていないかの調査を行い、ヘリオス様に報告することだと父から訊いております。」
「あぁ、そうだ。
4国間は争いが起きないようにとヘリオス様により不可侵条約が取り決めされているので、神同士の承認無しで他国に干渉することは出来ない。
例えば隣の国に無断で雷を落とそうとしたものなら、ヘリオス様が各国間に張った結界が作動し、その雷は消滅し、隣の国に届くことはない。
そして、その結界が作動した地点でそれはヘリオス様の知ることとなる。
だがそれで完璧に争いが防げる訳ではなく、数々の抜け道が存在する。
それを補うために高速で世界を巡る”監視者”の僕がいるんだ。
4国のうちアデルバート、セラフィア、フェリシアの3国間は神同士の仲が比較的良好のため大きなトラブルはないが、ヘリオス様の3男ダルダンテは他の兄弟を良く思ってはいないようで、隙あらば陥れようと不可侵条約を掻い潜っては影で色々と目策しているようだ。
非常に狡猾な神なのでなかなか尻尾を掴ませてはくれないがな・・・。
そしてダルダンテは近頃アデルバートに不穏因子をばら撒き、内部から反乱を起こさせて戦争を起こそうとしているのではないかと・・・まだ確証はないが、そんな気がしているんだ・・・。」
とファルガーは深刻そうに眉を寄せ俯いた。
「アデルバート・・・。
かつての魔王大戦で魔王を打ち倒した5英雄の一人、ラスター・ナイト様の子孫が守っている騎士の国で、4国最強の武力国家ですわよね?
そのような国がどうして狙われるのです?」
と桃花。
「桃花の言う通り、アデルバート神はヘリオス様のお子様達の中でも一番の武神で、彼の国も武力国家として成長し、騎士を始めとした民もとても強い。
通常の神経の持ち主であればそのような国に戦争など吹っ掛けはしないが、アデルバート神は自国民のことには全く関心を示さないお方で、3名の神使をお持ちではあるが、彼らには主に武具作りを命じられるばかりで、政治のことは全てラスター・ナイトの子孫であるナイト家当主に任せているのだ。
だが、そのナイト家当主の雲行きが近頃怪しくなってきていてな・・・。
僕が直接赴き何度も調査しようとしたが、”神避け”をされているらしく、宮廷に近付けないんだ。」
とファルガーは小さくため息をついた。
「”神避け”ですか?」
聴き慣れない言葉に桃花が小首をかしげた。
「あぁ。
神避けというのは、神々が他の神からの干渉を避けたい時に使う魔法をかけたアイテムのことをいう。
4国同士は不可侵条約があるからそのようなものは一見不要に思えるが、その不可侵条約によりヘリオス様が作られた国同士を隔てる結界が逆に危険な場合もあるんだ。
例えばある神が自分の神使を他国へ交渉事で送り込む際に、その神使に危険があってもその神の神力は不可侵条約結界により阻まれてしまうので、神使を守ることが出来ない。
だが神避けを予めその神使に装備させてから他国に送り込めば、その国の神は神使に手出し出来なくなるので、そういった時に用いる事が多いんだ。
後は隠し事をしたい時だな。
例に挙げればフェリシア神国の神使ヴィセルテ様は千里眼の力をお持ちで、その力があれば不可侵条約があってもフェリシア神国に居ながら他国の情報を得ることが出来るが、千里眼の対象となる者が神避けを用いれば、ヴィセルテ様でも視ることが出来なくなってしまう。
神避けのようなアイテムは人の世にあってはならないと、ヘリオス様はその類のアイテムを人の世に流す事を禁止されているが、実際お役目で世界を巡ってみると、そういった人の世に過ぎたアイテムを時々みかけることがある。
それを誰が流しているのかは、桃花には言わずともわかるな・・・?」
(ダルダンテ神・・・)
桃花はそう思いながらも無言で頷いた。
「きっとアデルバートの宮廷にいる誰かが奴と通じていて、その神避けを用いている。
ということは、神に知られたくないこと・・・おそらく国同士の戦争が、そこから始まろうとしているのではないかと僕は思う・・・。
神同士が表立って喧嘩をすることは不可侵条約により阻止されるが、民同士が戦争を起こすことは、不可侵条約とは関係がないことなので起こり得てしまうんだ。
勿論ダルダンテがセラフィア神国やフェリシア神国に戦争をふっかけようものなら、各神であれば当然それを全力を持って阻止しようとするだろうし、自分の手に負えないとなれば当然ヘリオス様に相談されるだろうから戦争など起こり得ないが・・・民に無関心のアデルバート神の治められる国であれば、簡単に戦争になってしまう。
それでもしダルダンテ神国が勝ったなら・・・?
ダルダンテ神はアデルバート神国の実権を握ることになるが、アデルバート神はきっとその脅威にお気付きにならないだろう・・・。
元々の高い魔法力に加え、世界最強のアデルバートの武力までも手に入れたダルダンテは、他の2国は勿論、ヘリオス様でも止められないかもしれないんだ・・・。
だから桃花。
君にはアデルバート宮廷にメイドとして潜入し、それを探って貰いたい・・・。
それが僕からの頼み事だ。」
ファルガーの話を一通り訊き終えた桃花は考えた。
(・・・確かにそのお役目は、ファルガー様が全てを話せる唯一の一族である私達にしか頼めないものでしょう・・・。
父様では性別と年齢的にアデルバート宮廷に入り込むのは難しいでしょうし、私がメイドとして入り込む方がずっと容易い。
だけど・・・私にそれが熟せる?
アデルバートは騎士の国として煌びやかなイメージがあるけれど、反面性に奔放な国で、未成年の売春も当たり前・・・位の高い騎士ともなれば、何人も妻を娶るという・・・。
そんなルールの社会に入り込むということは、貞操の危機も伴うかもしれない・・・。
それにその神避けを用いている者がもし騎士ならば、少しでも行動を怪しまれた地点で私は殺されるでしょう・・・。
特別な戦闘訓練を受けた訳でもない、ただの女中でしかない私にそれが・・・・・)
そんな桃花の様子を見てファルガーが言った。
「君はやはり頭がいいね。
そこで君が僕への忠誠心から二つ返事をするような子なら、僕は君にこの話をしなかったと思う。
桜雅《しんゆう》の愛娘であり、僕にとっても娘のように大切に想う君を、僕の仕事に巻き込んで失うわけにはいかないからね・・・。
潜入捜査には、君のように慎重かつ冷静に、状況を分析出来る者が最も適している。
とはいえ、あまり難しく考えなくてもいい。
君はただアデルバート宮廷でメイドとして働き、そこで不審に思ったことがあれば逐一僕に知らせてくれればそれでいい。
だが怪しい者がいても決して独断で行動せず、僕の指示を仰ぐようにしてくれ。
そうしていれば、命の危険はない筈だ。
連絡手段は僕の場合しょっちゅう高速移動をするから、鳩に文を持たせて運ばせることも出来なくてね。
少々特殊な方法を使うが・・・それは後で教えよう。」
「わかりました。
メイドの仕事は熟せると思いますけど、問題は人間関係ですわね・・・。
貴族社会には曲者も多いでしょうし、お国柄も随分違います。
そんな場所で異国人の私が一人で上手くやっていけるでしょうか?」
と桃花は不安気に眉を寄せた。
「そのことなら全く心配していない。
自分では気がついていないようだが、君にはある種の特別な才能があるからね。
人の本質を見抜き、懐柔させて自分を優位な立場へと導き支配する天性の才・・・そうだね。
俗な言い方にはなるけど、Sの才能とでも言うのがしっくりくるかな・・・?」
そう言ってファルガーは口元に手を当てて小さく笑った。
「・・・S!?
その・・・それは性格や性癖を例える際に用いられるSMのSですか!?
私にそんな才能が・・・!?」
桃花は思慕する彼の口から飛び出したまさかの表現に度肝を抜かれ、いささか信じられないといった表情で冷や汗を垂らして訊き返した。
「あぁ。
君が産まれた時からずっと君を見てきたけど、君が成長するに連れて何度もそれを感じたよ。
君は嫌味のない美人だし、人に対して高圧的な態度を取ったりもしないから、それに気付ける者は僕以外にいなかったけど・・・君と話していると皆いつの間にか君のペースにはまり、仕事を怠けようとしていた者もキビキビと働き、米をふっかけて売ろうとしていた商人も君の言い値で売ってくれたりとか、他にも色々と見てきたからね。
・・・僕はこれでも人であったときの生も含めて900年以上も生きて様々な人を見てきているし、この勘は間違っていないと思う。
君のその才能があれば、何処に行っても周りの者を上手く懐柔して優位な立場を確立し、目的を果たしてくれるだろう。」
「・・・私にSの才能があると言われるのでしたら、ファルガー様・・・貴方も私がお願いをすれば、何でも言うことを訊いて下さいますの?」
と桃花は少し意地悪な質問を彼に投げかけてみた。
するとファルガーは一瞬キョトンと目を丸くしてから、普段は少し影のあるその表情を崩して屈託なく笑った。
「はははっ!
笑ったりしてごめん!
流石桃花だなと思ってね・・・!
でも・・・君に相当無茶なお願いをするんだ。
君の望むことで僕に出来ることならなんだって叶えてあげるよ?
・・・君は僕に何を望む?」
ファルガーは今度は真剣な表情を桃花に向けた。
桃花はそんな彼を見つめながら考えた。
(ファルガー様は、私が怪しい人物を深追いさえしなければ、命の危険は無いと言われたけれど・・・アデルバート宮廷が現在どんな状況なのか全く情報がないのだし、最悪二度とジャポネには戻って来られなくなるのかもしれない・・・。
そして私がどんなにピンチでも、神避けをする者のいるアデルバート宮廷には、ファルガー様だってそう助けには来られないだろう・・・。
ファルガー様は、私ならアデルバート宮廷で待ち受けているであろう数々の問題を、クリア出来ると信じてこの潜入捜査を任せて下さった・・・。
だけど・・・私には何かが足りない。
あと少し・・・その足りない何かがあれば、私はアデルバートに向けて恐れることなく踏み出して行ける気がする。
そして、それを持っているのは間違いなくこの方だ・・・・・。)
そして桃花は先程梅次に言われた言葉を思い出した。
「そんなの、想いを伝えてみないとわからないではないですか!
今の姉様は身分だとか寿命だとかそんなことばかりを気にしていて、全く姉様らしくありません!
僕は・・・姉様には悔いのない、姉様が姉様らしくいられる生き方をして欲しいのです・・・!」
(私が私らしくいられる生き方・・・そうですね・・・梅次。
・・・この方に一度くらい、盛大な我儘をぶつけてみましょうか・・・。)
桃花は大きく深呼吸をすると、ぐっと拳を握りしめ、頬を染めてファルガーを真っ直ぐに見つめながら囁くような声で口にした。
「ファルガー様。
貴方をずっとお慕いしておりました・・・。
私を・・・抱いて下さい・・・。」
桃花のその言葉を訊いたファルガーは、大きく目を見開いたまま息を呑んだ。
そして、その表情を徐々に険しいものへと変えていきながら、重い口を開いた。
「・・・・・桃花、それは。」
桃花はそれ以上言わせないと言わんばかりにキッ!と眉を釣り上げてから続けた。
「失礼ながら申し上げますファルガー様。
貴方は900年もの時を生きてこられていても、女心というものをご存知ない様に思います!
アデルバートの騎士達を、私の才能でやり過ごすには決定的に足りないものがあります!
それは・・・女としての自信ですわ・・・!」
ファルガーは眉を寄せたままで淡々と答えた。
「君は美人で頭もいいし、あまりこんな事を父親のような存在の僕の口からは聞きたくはないだろうが、魅惑的な身体つきだってしている。
自信を持っていい・・・。」
桃花は頭を振った。
「その言葉だけでは足りないのです。
私は処女で・・・殿方に免疫がありません。
いくら私に人を従わせる才能があっても、殿方に性的な部分を見せられれば私は怯み、その力を発揮することも出来ずにファルガー様のお役に立てなくなってしまうでしょう・・・。
ですが貴方に抱いて頂いた一夜の思い出があれば、私は自分に自信が持て、きっとそのお役目を果たせます・・・!
私の望みを叶えて下さると仰るのなら・・・どうか、貴方の手で私を女へと変えて下さい・・・。
お願いします・・・。」
桃花はそう言って頭を下げると立ち上がり、エプロンを外し、帯に手をかけた。
「・・・・・僕には永遠に愛を誓った人がいる。
その人を裏切るようなことは出来ない。」
ファルガーは桃花から目を逸らしながらそう告白した。
「・・・・・!
その人は今・・・」
帯を外す手を止め、泣き出しそうな顔で声を震わせながら尋ねる桃花。
「・・・亡くなっているよ。
僕は彼女の死に目にすら会えなかったから、正確な享年はわからないけどね。
だが彼女は僕の中では永遠に恋人なんだ。
もう二度と彼女と会うことは叶わないけれど・・・その代わりに僕と彼女が結ばれた証が血を繋ぎ、今もフェリシア神国で生きている。
その命が繋がっている以上、僕は彼女を忘れることなんて出来ない・・・。
君の想いに応えることは、僕には出来ないんだよ・・・。
だから桃花・・・着物を脱ごうとするのはやめてくれ・・・。」
桃花は暫くの沈黙のあと、彼の意に逆らって、涙を堪えながらまたシュルシュルと帯を外し始めた。
やがてバサッと音を立てて臙脂色の帯が畳に落ちた。
桃花は更に震える手で着物を固定する為に巻かれた腰紐に手をかける。
スルッと音を立てて着物の揚げが解け、裾が畳に着地した。
「・・・それでも構いません・・・。
貴方が私を女としては愛してくれなくても、貴方が親友の子としてでも私のことを大切に思ってくださる気持ちがあるのなら、ほんの一夜だけ彼女を裏切って下さい。
883年以上もずっと、彼女を一途に愛し続けたのでしょう?
きっと一夜くらいの裏切り、許してくれます・・・。
私が彼女の立場ならそうします・・・。
私のことを彼女だと思っても良いですから・・・。」
桃花は真っ赤に頬を染めながらそう言うと、眼の前の彼から12歳の誕生祝いにと贈られた桃色のリボンをそっと解いた。
栗色のしなやかな長い髪がするすると流れるように彼女の背中へと落ちた。
彼女が髪を下ろすと秘められた色香が一気に開放され、まるで辺りの空気が香り立つように感じられた。
だがファルガーはそんな彼女から目を逸らしたまま頭を振った。
「・・・無理だ。
彼女はもっと小柄で華奢で、淡い金の長い髪に赤いルビーのような瞳をしていた。
彼女と君とでは見た目が違いすぎるし・・・仮に君に彼女と似た部分があったとしても、そんな風に重ねて抱くのは双方に失礼だ・・・。
君こそ、僕の心が今も彼女にあるのに、僕と身体だけの関係を持ったりしたら虚しくはないのか?」
ファルガーはそう言って桃花を問いただすかのように視線を投げかけたが、その時桃花は全ての身に纏うものを脱ぎ去って一糸まとわぬ姿になっており、その桃花の白い柔肌をはっきりと見てしまった彼は、バツの悪そうな顔をして頬を赤く染め、またすぐに目を逸らした。
桃花はそんな彼の反応を見て、あの手の届かない所にいた筈の彼が、今まさに自分の身体に興味を示し、彼の心のずっと奥に隠していたであろう雄と変わるためのスイッチを、押すか押すまいかギリギリのところで揺らぎ、葛藤しているのだと肌に感じ、身体の芯が熱く火照るのを感じた。
桃花は縺れそうな足を運んで机を回り込むと、ファルガーの隣に膝を付き、その顔をじっと見つめ、震える声でこう囁いた。
「私は・・・貴方が抱いてくれたというその事実だけがあればいいんです・・・。
他には何も望みません・・・。」
彼は桃花の潤んだ瞳と赤く染まった頬を間近で見てますます顔を赤く染めると、ゴクッと喉を鳴らした。
桃花は震える手で彼の頬に手を伸ばすと、彼に更なる追い打ちをかけた。
「ファルガー様・・・
私に口づけ・・・して・・・」
だがその言葉にファルガーは何かを思い出しハッとすると、桃花からまた目を逸らして呟くようにこう言った。
「・・・ごめん・・・
アーシェに他の子とはキスしないでと言われたことがあるから、それは出来ない・・・。」
「・・・・・」
桃花は完全に振られたと思い、悲しげに眉を寄せると彼の頬からそっと手を離した。
だがファルガーはそんな桃花を引き止めるかのようにぐっとその細い腕を掴むと、強く胸元に引き寄せ抱き締めたのだ!
桃花はファルガーの胸へ顔を埋めながら驚きで目を見開いた。
そして桃花はそのまま目を閉じて、彼の着物越しに彼の鼓動の音を聴いて、それが自分と同じようにとても強く高鳴っていたために、嬉しそうに目を細めた。
続けて彼は桃花を畳に押し倒すと、
「でも・・・キス以外のことは・・・一夜だけ彼女に目をつぶってて貰うことにするよ・・・。
僕は悪い男だね・・・。」
と言って、少しいたずらっぽく笑った。
「・・・ファルガー様・・・!
嬉しい・・・・・!」
桃花は涙を浮かべてファルガーの背中に手を回した。
「ははっ、情けない・・・。
883年も神使として生きてきて、まだ男の部分を捨てきれていないとはね・・・。
しかも親友の子・・・僕にとっても娘のような君の身体に欲情して・・・桜雅に合わせる顔がないよ・・・。
でも桃花・・・僕は今・・・どうしようもなく君が欲しくて堪らないんだ・・・・・」
ファルガーは息を乱し、既に硬くなった股間を桃花の腹にグイグイと遠慮なく押し付けながら、自らの着物の帯を外し始めた。
桃花は腹に感じる彼の欲情の硬さに驚き、頬を真っ赤に染めながら彼に言った。
「ファルガー様、い、陰茎が硬く・・・」
「うん・・・。
これは僕が君に欲情している証だよ。
・・・見てみるか?」
桃花が恥じらいながらもゆっくりと頷くと、ファルガーは照れくさそうに小さく笑って着物を脱ぎ、股間を覆う褌を外した。
すると今まで褌で押さえられていたそそり勃った竿状のものが、勢いづいて飛び出してきた。
それは一寸よりは二分ばかり太く、長さは一尺の半分程だろうか。
色は赤く、先端は亀の頭のような形をして挑発的に首を擡げていた。
「まぁ・・・!
梅次のものとは随分と違いますのね・・・!」
桃花は顔を真っ赤に染めて驚きつつも率直な感想を述べた。
「ははっ、まぁそうだろうね。
僕も普段は梅次のと形はそう変わらないよ。
大人になると性的興奮でこんなふうに股間に血が集まり、硬く熱く大きくなる。
・・・触ってみるか?」
「はい・・・」
桃花が頷くと、ファルガーは桃花の上に跨って身を乗り出し、彼女の顔の近くまでそれを持って行った。
時々ピクン!ピクンと小さく脈打つそれに桃花はそっと手を伸ばし、優しく擦った。
そこは彼が言うように熱く熱を帯びており、触った感触はきめ細かく滑らかで、自分が彼を想い身体を慰めるときになる硬く尖った乳首の感触を連想させた。
(だけどそれよりはずっと硬くて熱く、力強くて変な感じ・・・)
彼は桃花に触れられて感じているのか、更にそこを硬く大きく熱くすると、切なそうに苦悶の表情を浮かべて息を乱した。
「ファルガー様の・・・とても熱くて硬く、大きいのですね・・・。」
桃花は愛おしそうに彼のモノの輪郭を指先でそっとなぞりながらそう言った。
「いや、僕のはギリギリ中の上・・・普通よりはほんの少しだけ大きい程度らしいよ?」
とファルガーは苦笑いで答えた。
「えっ・・・?
ファルガー様はその・・・アーシェ様以外の女性とはご経験が無いのですよね?
それなのにどうしてそれがわかるのです?」
と桃花は小首をかしげた。
「あぁ、それはね。
僕がまだ神使になる前の勇者として魔王軍と戦っていた頃、パーティの皆で森の温泉に入っているところを淫魔に襲撃されてね。
そいつが男を強制的に勃起状態にさせる魔法を放ったものだから、その場にいた男は全員自分の勃起したモノを仲間に晒すという、とんでもない事態に陥ってしまったんだ。
まぁその淫魔自体はすぐに倒したけど、その時にヘイズの野郎が僕のモノを見てそう評価した・・・。」
「まぁ!
ヘイズさんって、フェリシア神国の英雄として今も語り継がれる狩人のヘイズ・ハント様ですわよね?」
と桃花。
「そう、そのヘイズだよ。
まぁそう笑う奴のモノは大層立派だったから、僕はそれが悔しかったな・・・。
でも男の中で一番女性にモテてたラスターのモノは意外と・・・・・まぁこれは、彼の尊厳を守るためにも言わないでいてあげようかな・・・」
と彼は遠い昔を懐かしんでクスクスと笑った。
彼の笑顔が大好きな桃花は嬉しくなり、ふふっと頬を緩ませた。
そう、これらは桃花達一族以外の一般のジャポネの民には明かされていないことだが、実はファルガー・ニゲルは神使になる前、この世界に君臨していた魔王を打ち倒すために異世界より召喚された勇者その人だったのだ。
彼は色々あって魔王を打ち倒した後もこの世界に留まることに決め、その際に創造神ヘリオスと契約を交わして神使となったそうだ。
そのような、今から始めようとする艶めかしい行為とはかけ離れた昔の笑い話をしたためか、彼の昂ぶっていた股間のモノが少しばかり萎えてしまっていたので、桃花はそれを優しく擦りながらも自分の知っている僅かな性知識からある提案を申し出た。
「ファルガー様・・・その・・・お口でシて差し上げましょうか?」
「桃花・・・口淫を知っていたのか。」
とファルガー。
「えぇ・・・知識として知っているだけで経験は勿論ございませんが、結婚している女中仲間からそのような性行為があると聞いたことがあります。」
「そうか・・・。
だが・・・初めてのそれは口付けと共に君の未来の恋人のために取っておいてあげてくれ。」
とファルガーは優しく笑った。
「貴方様以上に好きになれる殿方に出会える気が私にはしません・・・
恋人だなんてとても・・・」
と首を左右に振る桃花。
「いや、今君が僕とそれをしたなら、きっとその事を後悔する日が来るだろう。
これは、900年生きてきた男のただの勘に過ぎないけどね・・・。
それに僕にとってもその行為は・・・アーシェが得意気な顔して良くシてくれたことを思い出してしまうから、出来れば避けたいんだ・・・。
すまない・・・。」
桃花はその言葉にハッとして悲しげに眉を寄せた。
「いえ・・・。
ですが、ファルガー様の陰茎に再び元気になっていただくにはどうすればいいでしょう・・・?
陰茎が元気でないと、男女は繋がることが出来ないのでしょう?」
と桃花は不安そうに尋ねた。
「そのことなら全く心配ないよ、桃花。
こうすればいい・・・」
そう言ってファルガーは桃花の形の良い美しい乳房に手を伸ばすと、それを優しく揉みしだいた。
ファルガーのゴツゴツした長い指が桃花の豊かな胸にめり込み、自在に形を変える。
その刺激により桃花の胸の頂の薄紅の蕾はすぐに硬く尖り、胸全体は熱く火照って汗ばんだ。
「あっ・・・あっ♡・・・んっ・・・ファルガー様ぁ・・・♥」
「いい声で啼くな・・・桃花。
君のこの素晴らしく魅惑的な身体に触れ、その甘い声を聴けばほら、すぐにこの通りだよ・・・」
そう言って今度は直に限界まで熱り勃った陰茎を、桃花の下腹部にグリグリと押し付けた。
桃花は直に触れる彼の熱と硬さに羞恥し、それから逃れるように少しだけ腰を引いた。
ファルガーは逃さないと言わんばかりに彼女の腰を強く抱き寄せ再びその熱を彼女に押し付けながら、桃花の胸に舌を這わせて硬く尖った薄紅の蕾を口に含み、舌先で転がした。
「ひぃあぁっ♥」
桃花は堪らず一際高い声を上げ、彼の頭を抱え込んだ。
そして白く細い指が彼の真っ直ぐな黒髪を掻き乱す。
ファルガーは荒く息をつきながら、指先を桃花の下腹部に向かって徐々にするすると伸ばしていった。
「あっ・・・ファルガー様・・・」
彼の指先が向かう先に察しがついた彼女は、咄嗟にそれを引き止めるかのように手を伸ばしたが、彼はそれを無視して強引に突き進んだ。
そして辿り着いた彼女の足の間にある割れ目は既に蜜で濡れており、彼の指をぬるっと招き入れてはくちゅっと水音を立てた。
「君はとても感じやすいんだね・・・。
もうこんなに濡れている・・・」
「やっ・・・そんなところっ・・・っ・・・恥ずかしい・・・ファルガー様っ・・・」
両手で真っ赤な顔を隠してふるふると頭を振る桃花。
「いいね・・・その反応ますます唆られるよ・・・」
彼はそう言ってペロッと自分の唇の端を舐めると、そのまま濡れたスリットに優しく中指をスライドさせ始めた。
「あっ・・・ああっ♡・・・んっ・・・あっ♥」
彼女の弾き出す甘い声と共に奥からどんどん蜜が溢れ出し、彼女の花園を更にぐちょぐちょに乱した。
そんな彼女の反応に興奮したファルガーは、もう堪らないと言わんばかりにゴクッと喉を鳴らすと、彼女の両脚を持ち上げ、そこに顔を近づけようとした。
桃花が恥じらい更に綺麗な顔を火照らせた。
しかし、彼は何かを思い留まると脚を開放し、桃花の栗色の髪を撫でて優しく微笑んでからこう言った。
「君が愛おしすぎて舐陰したくなったけど、やめておく・・・。
これも君の未来の恋人の為に残してあげてくれ。
胸の方は我慢できなくて味わってしまったが、ここはもっと君の特別で大切な場所だから・・・。」
「嫌です・・・!
ファルガー様が私を欲してしたいと思ってくださった事を、いもしない相手のために我慢なんてなさらないで下さい・・・!」
桃花は瞳に涙を浮かべながら必死に頭を振るが、ファルガーは困ったように笑って黒髪をかきあげた後、その指を再び桃花の濡れた割れ目に戻し、
「それならこうしようか・・・。
僕はヘイズみたいに器用じゃないからテクニシャンじゃないとは思うけど、まずは手だけで君をイかせる努力をしてみるよ。
それで上手くいかないのなら舐めてしまおうかな・・・。
あまり君の初めてのことを奪いすぎると、君の未来の恋人にいつか会った時に殴られそうだけどね・・・」
といたずらっぽく舌を出して笑った。
その笑顔にキュン・・・と胸の奥を掴まれた桃花は、何も言えずに更に彼の指を濡らした。
彼はそのぬるぬるを親指で掬い取ると、それを割れ目の上の方にある硬く尖った小さな蕾に運び、小刻みに刺激し始めた。
「あっ・・・ああっ・・・あっ♥
ファルガー様っ・・・それ駄目っ・・・駄目ですっ・・・何か・・・何かが込み上げてきてっ・・・!」
ファルガーはそんな桃花の反応を見て満足そうに口角を上げると、親指の刺激を続けながらも更に桃花のナカに中指を一本そっ・・・と沈めてみた。
桃花は一瞬ピクンっ!とその異物感に注意を奪われるが、それに気がついたファルガーが蕾を刺激する親指の動きを早く強くしたので、桃花はすぐにそちらへと意識を戻し、浅く抽挿される中指の硬くて荒い刺激を更なるスパイスとして加えつつも、次第に昇りつめていった。
「あっあっああっ・・・きちゃう・・・きちゃう・・・きちゃいますっ♥・・・・・
あああぁあーーーっ♡♥・・・・・!!」
桃花は足先に強く力を入れて身を仰け反らし、ファルガーの中指をキュンキュンと締め付けながらビクンビクン!と全身を痙攣させて果てた。
桃花は今まで夜寝る前になるとファルガーを想い自らの身体を慰めることはあったが、まだ達する所までは辿り着いていなかったので、彼女にとってはこれが初めての絶頂となった。
(あれが絶頂・・・
全身が震える程気持ちが良かった・・・)
ファルガーは快楽の余韻でぽーっとしている桃花のナカに指を一本沈めたままで優しく言った。
「君は男を受け入れるのは初めてだし、最初は痛むだろうから僕のモノでイカせてあげられるかわからない・・・。
だから挿入する前にイかせてあげたかったんだよ。
良かった・・・ちゃんとイかせてあげられて・・・」
そしてナカに指を挿れていない方の腕で身体を支えながらも彼女の頭を優しく撫でた。
桃花は幼い頃に彼にそうされたときのように、気持ちよさそうに目を細めた。
ファルガーは桃花のナカの収縮がようやく収まったことを感じると、再び口を開いた。
「このまま指をもう一本挿れて君のナカをもっとほぐそう。
僕のものが中の上程度の大きさだとしても、指2本ぶんよりは太くて長いからね。」
「はい・・・。
ファルガー様にお任せ致します・・・。」
と桃花は頬を染めて頷いた。
「良かった・・・桃花は承諾してくれて。
挿入後に酷く痛がられるのはもう懲り懲りでね・・・」
と苦い経験を思い出したかのように苦笑するファルガー。
「といいますと、アーシェ様は・・・?」
と尋ねる桃花。
「あぁ・・・。
彼女は自分のナカに初めて入るものは僕の指じゃなくて陰茎が良いと言って訊かなかったから、事前に慣らすこともなく挿入することになってね・・・。
大層痛そうに泣かれたけど、僕も限界で止まれなかったから、結局終始痛がられながらも僕が射精して、初体験は呆気なく終了したよ。
事後にあんな酷く痛むとは思わなかったって散々言われて、その後暫く僕が求めても挿入させてくれなかったな・・・。
自分が言い出したことの結果なのに随分と身勝手だなと思ったけど、そんなところもまた可愛くてね・・・。
・・・すまない。
君にそんな話を聞かせてしまって・・・」
「いえ・・・。
・・・アーシェ様は天真爛漫と申しますか、感情豊かで可愛らしいお方でしたのね?
恋のライバルでなければお友達になれたかもしれませんのに・・・」
と桃花はクスクスと笑った。
「ははっ!
確かに、人の本質をすぐに見抜ける賢い君と、子供っぽいところもあるけど心根の優しい彼女とが、僕抜きで同じ時代に出会っていれば、親しくなれただろうね・・・。
そうだ・・・それなら、フェリシア神国にいる僕と彼女の子孫にもし今後会うことがあれば、是非友達になってあげてくれ。
君より2つ下で今は14歳の女の子だ。
フェリシア神様からの頼まれ事を引き受けた際に、一度赤ん坊の彼女に会ったがそれっきりで、相手は僕のことを何も知らないし、ヘイズの血を引く彼と恋仲になる運命にあると神使ヴィセルテ様が仰られていたから、君にとっての恋敵でもないしね。」
「えぇ・・・そのときはきっと・・・。」
桃花は不思議と彼の言うその彼女にいつか会い、友達になれる気がした。
「・・・また脱線してしまったな。
君には何でも話せてしまうからついな・・・。
それより続きをしようか。
正直僕は早く君が欲しくて堪らない・・・。」
と照れくさそうに笑うファルガーに桃花は、
「はい・・・。
私も早くファルガー様と繋がりたいです・・・。」
と頬を赤く染めてはにかんだ。
「今からもう一本指を増やすが・・・痛かったら教えてくれ・・・。」
ファルガーは桃花の膝を抱え上げると、中指に続けて人差し指もそっ・・・と挿入した。
「っ・・・・・」
桃花は更なる異物感に思わず眉を寄せた。
「痛むか?」
「いえ・・・っ・・・
確かに異物感と圧迫感みたいなものは感じますけど・・・痛みは然程・・・・・」
「そうか・・・良かった。
動かしてみるぞ・・・」
グチュ、グチュ、と音を立てて指2本を浅く優し抽挿するファルガー。
「・・・大丈夫か?」
と心配そうに桃花に尋ねてくる。
「・・・そんなに心配なさらなくても大丈夫です。
少しずつ慣れてっ・・・きました・・・。」
桃花はそう笑って答えた。
「そうか・・・。
それならもっと奥まで進めてみよう・・・」
彼がそう言って2本の指の付け根までぐぐぐっと深く進めた時である。
「っ・・・!」
と桃花が苦痛に顔を歪めた。
「・・・すまない!
今ので処女膜を破ってしまったようだ・・・!
血が・・・」
と言って慌てて自分の脱ぎ散らかした黒い着物を手に取り、桃花の花弁から伝わり出る血を拭うファルガー。
「ファルガー様!
お着物が汚れてしまいます・・・!」
桃花が慌てて身を起こしてそれを止めようとすると、ファルガーは桃花を制して頭を振った。
「いや、どうせ黒い着物だし、魔獣の返り血を浴びることもしょっちゅうだから着物が汚れることは気にしなくてもいい。
替えの着物も幾つかあるしな。
それよりも、咄嗟にこんな衛生的に問題がありそうな布で君の大切なところを拭いてしまって悪かった・・・!
一応定期的に洗ってはいるが・・・。
それにこんな形で破瓜の血を奪ってしまったことも申し訳ない・・・。
今の時代の女性は破瓜の血が出るタイミングを気にするのだろう?
何処かの国の村娘がそんな話をしているのを訊いたことがある・・・。」
と言ってファルガーは頭を下げた。
「まぁ!
どうせ今夜姦通するのですし、いつ血が出ても変わりはありませんわ!
それに、お慕いしているファルガー様の指に奪われたのですから・・・とても幸せです・・・♥」
桃花はそう言ってうふふっと笑った。
「ありがとう、桃花・・・。
君は本当に懐が深いな・・・
本当はもっと良くナカを解したほうがいいのかもしれないが、すまない・・・
もう僕には余裕がない・・・
少しは慣らしたからアーシェの時よりはマシだと思うが・・・今すぐ君のナカに入ってもいいだろうか?」
「はい・・・ファルガー様・・・来て・・・」
それから10分程して─。
「はあっ、はあっ、桃花・・・桃花っ・・・!」
「あっ・・・はっ・・・んっ・・・ファルガー様・・・ファルガー様・・・!」
ギッ、ギッと畳が軋み、2人分の激しい吐息と互いの名を呼び合う切なげな声、そしてぱちゅ!ぱちゅ!という水音を含む肉のぶつかる音が、ファルガーの狭い部屋で響いていた。
桃花は畳の上でファルガーに組み敷かれて彼と両の手を繋ぎ合わせ、汗ばむ脚の間に彼の腰を深く招き入れていた。
彼に持ち上げられた桃花の白い脚が、彼の腰の動きに合わせてぶらぶらと規則的に揺さぶられる光景が何とも扇情的だった。
事前の慣らしがあったためか、桃花は意外にすんなりと彼のものを受け入れることが出来た。
指2本と比ではない彼のものを受け入れる時には流石に痛みを伴ったが、彼がとても切なそうだったので、桃花は”痛い”と”待って”という言葉を何度も飲み込んだ。
そうしているうちに次第に痛みは感じなくなったが、今自分に与えられているこの感覚が、気持ちいいのかと言われると良くわからず、ただ彼が自分に夢中になり、快楽を貪り腰を激しく打ち付けてくれることが愛おしくて嬉しくて、それだけで胸の奥が暖かいものに満たされていくのを感じた。
「はあっはあっはあっ・・・桃花・・・もう出そうだ・・・
このままナカに出してもいいか?
僕は神使だから射精しても種がない・・・妊娠の恐れはない・・・だからっ・・・!」
「はい・・・一滴残らず全部私に下さい・・・ファルガー様・・・!」
ファルガーは桃花のその言葉を合図に今までにないくらい激しく強くパンパンパンパン!と腰を打ち付けると、
「うっ・・・・・!!」
と声を上げて桃花の最奥に沈めた剣を大きく膨らませ、何度も何度も脈打たせながら熱い情慾の塊を注ぎ込んだ。
桃花はそんなファルガーの広くて逞しい汗ばむ背中を両手でぎゅっと強く抱きしめ、彼のビクッ!ビクッ!と震える腰をぐっと強く両脚で押さえ込んだ。
二人は暫くそうやって繋がったままで余韻に浸っていたが、二人の乱れていた呼吸が大分調った頃に、ファルガーがずるっと少し柔らかくなったモノを彼女のナカから抜いた。
そして、
「桃花・・・最高に気持ち良かった・・・。
だが正直言うとまだまだ抱き足りない・・・。
君もまだ性交では快楽を得られないようだったし、もう一度だけ抱いても良いだろうか?」
と言って汗で湿った長い前髪を掻き上げ、何とも色っぽい表情を桃花に向けた。
「そんな・・・。
一夜という約束でしたから、夜が明けるまで何度でもファルガー様が望むだけ抱いて下さっていいのですよ?」
桃花がそう言って頬を染めて微笑んだその時である。
部屋の外から部屋の中に向けて呼びかける声があった。
「ファルガー様、桜雅でございます。」
桃花はファルガーの部屋から戻らない自分を心配した父が様子を見に来たのだと理解した。
ファルガーは桃花の破瓜の血を拭った黒い着物に軽く袖を通しつつ、返事をした。
「桜雅か。
どうした?」
この部屋の襖ににかけられた結界は、襖が閉まっている状態だと中の音を漏らさないようになっているが、その結界を張った主である彼が一時的に結界を緩めることで、部屋の外にいる者に声を通すことが出来た。
「桃花はそちらにおられますでしょうか?
貴方様のお部屋に向かうように伝えたあと、帰ってこないものですから・・・」
ファルガーは、
「あぁ、桃花ならここにいる。
桃花には頼みたい仕事があってその説明の為にここに呼んだが、話が長引いてな・・・。
・・・悪いが、まだ暫くはかかりそうだ。」
と言って熱っぽい視線を桃花に向けた。
桃花は自分も着物を着るべきか迷っていたが、ファルガーのその熱っぽい眼差しと言葉を訊いて、まだ彼の中の情慾の火は消えていないのだと悟り、そっと着物から手を離した。
「左様でございますか。
では夕餉はどうなさいましょう?
こちらに2人分運びましょうか?」
ファルガーは答えた。
「この離れで桃花と適当なタイミングで作って食べるからいい。
風呂もこちらで支度する。
桜雅、君は今夜はもうここには来なくていい。」
「・・・・・。」
桜雅はファルガーのこの言葉で中で起こっていることに気がついたらしく、
「失礼!」
と短く言って勢い良く襖を開け放った。
桃花はハッとして咄嗟に着物を手繰り寄せて胸元を隠したが、隠しきれていない娘の白い肌に乱れ髪、そして主であるファルガー・ニゲルの妙に色っぽく火照った顔と汗で湿ったままの髪を見て、桜雅は2人が男女の関係になったことを即座に理解し、険しい顔を主に向けた。
「やはり・・・。
例え貴方様でも、戯れで桃花に手を出されたとあれば、私も牙を剥かざるを得ません・・・」
そう言って桜雅は護身用に持ち歩いている懐刀に手をかけた。
桃花は、
「父様!違うのです!」
と叫ぶと父の背後に回り込み、そっと襖を閉め、こう言った。
「父様。
ファルガー様には私からお願いしたのです。
抱いてくださいと・・・。
これから私はこの世界で起ころうとしている戦争を阻止するために、アデルバートの宮廷に潜り込むことになりました。
アデルバートは性に奔放な国です。
そんな騎士達の社会に入れば当然貞操の危機もあるでしょう・・・。
そこで上手くやっていけるだけの女としての自信がどうしても私は欲しかった・・・。
私には初めてのお相手は、ファルガー様しかありえなかったのです・・・!
ファルガー様はただそんな私の気持ちを汲んで下さった・・・それだけのことです。」
「桃花・・・。
お前がずっとファルガー様をお慕いしていたことには気付いていた。
そしてファルガー様のお心の中に、永遠の恋人がおられることも・・・。
例えお前がアデルバートでのお役目を無事果たしジャポネに帰還したとしても、それは揺らぐことがないことなのかもしれない・・・。
お前はそれでもいいのだな?」
と桜雅が娘を心配そうに見つめながらそう言った。
「はい・・・。
例え見返りが無くとも、私は悔いのないように、真っ直ぐに生きると決めましたから。」
桃花は穏やかに微笑みながら父にそう返した。
ファルガーはそんな桃花の隣に立つと、親友に向けて頭を下げた。
「桜雅。
お前の大切な娘を傷物にしてしまったことは申し訳ないと思っている・・・。」
そして頭を上げ、口元を引き結んでからきっぱりとこう言った。
「だが、今夜桃花は僕の女だ。
すまないが、朝まで2人きりにして貰えないだろうか?」
桜雅は主であり親友でもある彼の言葉を受けて頭を抱え、ため息をついてからこう言った。
「全く・・・桃花の父親の私に面と向かってそんな事を言ってのけるとは、貴方という人は変わらず大胆かつ豪胆だ・・・。
どれだけ大名連中に己の娘を充てがわれても頑なに拒み続けていた貴方が、こんなにも私の娘をお気に召すとはね・・・。
内心複雑ではあるが、それだけ私の娘が最高の女なのだと誇らしくもあるよ。
桃花、アデルバート宮廷に入り込むのに必要となりそうな書類は用意しておく。
だから、今夜はお前の愛する人にうんと可愛がってもらいなさい。」
「はい・・・!
ありがとうございます、父様・・・!」
桜雅が一礼して部屋を出ていくと、ファルガーが桃花を見て、
「これでもう邪魔は入らないな。」
と言ってまたいたずらっぽく微笑んだ。
桃花が彼のそんな表情にぽーっと見惚れていると、彼は押入れを開け、
「ずっと畳の上では痛いだろう。
2回戦目以降は布団を敷こうか。」
と言いながら中から布団を取り出し始めた。
「ファルガー様・・・お手伝い致します!」
と慌てて桃花が駆けつけ四つん這いになりながらシーツを整えていると、ファルガーに突然背後から抱き締められ、胸を揉まれて硬く高ぶった股間のモノを尻の割れ目に擦り付けられた。
「あっ・・・♡ファルガー様♥」
「一糸まとわぬ姿の君に眼の前でそんなボーズをされれば、当然僕の情慾に火が着くさ・・・」
そしてファルガーは桃花の乳首を指先で摘みながら、桃花の股の割れ目に熱く滾る肉の剣を移動させて挟み込み、ゆっくりと潜らせた。
「あっ・・・はあっ♥・・・ひっ♡」
乳首に与えられる強めの刺激と性器の外側に感じる彼の熱に溶かされた桃花は、お腹の奥からすぐに蜜を溢れさせては彼の剣を濡らした。
彼はそのぬるぬるの蜜を良く肉の剣に絡めると、断りもなくその剣を彼女の鞘へと一気に沈めた!
「ひああああっ・・・・・♥」
桃花は突然身体を開かれる刺激に声を上げた!
「桃花・・・桃花・・・!」
ファルガーが再び桃花の身体に溺れ始め、うわ言のように彼女の名を呼びながら腰を揺する。
ぱちゅ!ぱちゅ!と水音を含めた肉のぶつかる音、そして2人分の熱い吐息、ギッギッギッと床の軋む音がまた狭い部屋で重なりだした。
桃花は彼に身体のナカを貫かれる度に少しずつ快楽と言える感覚に目覚め始め、甘い声を漏らし始めた。
「あっ・・・んっ・・・あっ・・・ああっ・・・♡」
だが桃花にはこうして愛する彼から背後から犯され、自分のナカを彼の形に変えられ彼の匂いを刻まれていることよりも、愛する彼が自分の身体に酷く興奮し、まるで盛った獣のように自分を貪り食っている様を肌で感じることのほうが心地良く感じられ、出来れば今彼がどんな風に雄の顔を晒し、どんな風に自分に狂っているのか・・・その様を直接目で見て確認したいと思った。
それが思い通りにならないこの体位は、きっと自分向きではないのだとどうにももどかしく感じられて、彼から与えられる快楽に今ひとつ集中出来ないでいた。
だがファルガーのほうは、少しずつだが桃花が甘い喘ぎを漏らし始めたことが嬉しくより興奮したようで、口角を上げて一層激しく腰を揺すり始めた。
「っ・・・桃花・・・気持ちいい・・・また出そうだ・・・!
桃花・・・桃花・・・・・!!」
「あっ♡は、はいっ・・・た、沢山出して・・・ファルガー様っ・・・♥」
パンパンパンパン・・・彼の腰の動きが最高まで激しく強く早くなる。
「あっあっああっ・・・ファ、ファルガー様っファルガー様!
あっあっああっ♥・・・」
桃花が快楽のピークに差し掛かった彼の一番強く激しい情慾を背後から感じ、そこからようやくオーガズムへの階段を登り始めたところで、ファルガーの竿が大きく膨らみ、「うっ・・・!」と小さく呻いてから何度もそれを脈打たせ、ドクッ、ドクッと子宮の奥に熱い情慾の塊を注がれた。
ファルガーははあっ、はあっ、はあっと荒い息をつくと、彼女のナカから少し柔らかくなった剣をずるっと抜き取った。
それと同時に白い精液もぽたっ、ぽたっと数滴零れ落ちてはシーツを汚す。
「今回も僕ばかりが気持ちよくなってしまってすまないな・・・。」
とファルガーは汗で濡れた髪を掻き上げて苦笑した。
「いえ、ファルガー様が気持ち良くなってくださるのはとても嬉しいですし、私も次第に感じられるようになってきました。」
桃花は(折角良くなって来た所で終わってしまって残念でしたけど…)と思う気持ちを隠して笑い、そう返した。
「そうだな。
だがまだナカで達するには遠そうだ・・・。
アーシェとは比較的性的相性が良かったのか、二度目・・・いや、三度目の性交で共に昇り詰めることが出来たが、世間では女性が性交で絶頂するのはなかなか難しいと聞く。
だから今夜が初めての君がそこに届かなくとも無理はないのだろう。
だが君を抱けるのはこの一夜しかないし、出来れば今夜のうちに僕のモノでイかせてあげたい・・・。
ナカで達するのは、陰核への刺激で達するのとは比較にならない快楽のようだからな・・・」
そう言ってファルガーはどうしたものかと首を捻りながら桃花の頭を撫でた。
「・・・それでしたら一つ、気付いたことが御座います。
先程ファルガー様に後ろから貫かれてみて思ったのですが、私はファルガー様に後ろから獣のように犯されていると思うよりも、ファルガー様が私の身体に溺れ、夢中になってくださっている様子を肌で感じられることに興奮を覚えました。
それが視覚で確認出来ればもっと良いのにとも思いました。
もしかしたら私は、性癖においても人に支配されるよりもする側・・・つまりはS・・・なのかもしれません。」
と桃花は布団の上で正座し、真っ直ぐにファルガーを見つめながらそう伝えた。
「そうか・・・。
つまりは桃花が主導権を握れる体位ならば達することが出来るかもしれないと言うのだな・・・?」
成る程…と顎に手を当て頷きながらファルガーが返した。
「えぇ。
ファルガー様が私を性交にて絶頂させたいと望んで下さるのでしたら、一度試してみる価値はあるかと思いますわ。」
「・・・僕も性癖においては主導権を握りたい側だと自覚しているし、君みたいな若い子に支配されることは本音を言うと少々屈辱的かもしれないな。
だが、君が心から感じてくれる様を僕も見てみたい。
いいよ、次は君が上になってみるといい。
だが前戯はどうする?
君が主導権を握ってみるか?
僕は2発も射精して今それなりに満足しているから、再び完全に勃ちあがらせるのは少々骨が折れるかもしれないぞ?」
ファルガーはそう言って挑発的に微笑んだ。
ファルガーの挑発に乗った桃花は、彼を押し倒して布団の上に寝かせると、彼の逞しい身体の上に四つん這いで乗っかって、厚い胸板を指先でなぞったり、小さな乳首を舐めてみたりしてみた。
だが彼はくすぐったそうに笑うばかりで、桃花が同部位を愛撫されたときのような反応は一切無く、股間の剣も全く硬度を増す気配が無かった。
桃花が悔しくて頬をふくらませると、ファルガーがクスクスと笑って言った。
「残念ながら男の性感帯は陰茎にほぼ集中しているからね。
今度は陰茎を触ってご覧?」
「はい・・・」
桃花は頷くと、挿入するにはまだ少し硬度の足りない彼の陰茎に手を伸ばし、そっと上下にスライドさせながら擦ってみた。
彼は切なげに眉を寄せ、時折竿をピクンピクンとさせて感じてはいたが、それ以上に硬さを増すことは無かった。
「一度も射精していない時なら、ただ君の綺麗な手でそうして触れられるだけでも充分興奮しただろうね。
でも今の僕をそそり勃たせるにはインパクトが足りないかな・・・。」
そう言ってファルガーは申し訳無さそうに笑った。
「それでしたらお口でさせて下さい・・・。」
桃花は眉を寄せながら懇願した。
桃花は彼に拒まれるであろうことはわかっていたが、自分のすることで彼が感じて酷く興奮する様をどうしても見たかったのだ。
だが桃花の予想通り、ファルガーは厳しめな表情で頭を振り、あまり彼の口からは聞きたくはない言葉を返してきた。
「駄目だよ。
それは君と君の未来の恋人のために取っておくべきだと言っただろう?
僕にとってもその行為は彼女との大切な思い出に触れることだから、例え君であってもそこには踏み込まれたくない・・・。」
桃花はその言葉に胸が締め付けられる思いがし、栗色の瞳に涙を滲ませた。
だがファルガーはそれには気が付かず、
「やはり挿入するまでは僕が主導権を握ったほうがいいな・・・」
と言いながら、桃花からマウントを奪い返すために身を起こそうとした。
桃花はそれを拒むかのように頭を振ると、なるべく感情を表に出さないように淡々とした口調てこう言った。
「・・・それでしたら私に殿方の悦ばし方を教えて下さい・・・。
・・・もしアデルバートで貞操を狙われるようなことがあっても、他の手段で快楽を与えてやれば、挿入されることからは逃れられるかもしれませんから・・・。」
桃花の言うことを聞いたファルガーは、少しの間沈黙して考えた後、納得して頷いた。
「そうだな・・・。
僕の大切な君がそういう場面にならないに越したことはないが・・・もしそれがどうしても避けられなかった場合、性的な駆け引きにおいて男の感じるツボ、そして導き方を知っていることはかなり大きいだろう・・・。
良いよ。
口淫以外のことで良ければ、朝までかけて一通り教えよう。
その知識は君の純粋さを奪う事になるだろうし、またひとつ君の未来の彼に恨まれる要素を作ってしまうことにはなるが、それで君が自分自身を守る為のカードが増えるのなら、僕は喜んでその恨みを買うよ。」
「・・・はい。
ありがとうございます・・・!」
桃花は彼に気付かれぬよう滲んだ涙をそっと拭うと、いつものように微笑んだ。
それから桃花は、ファルガーに男根の感じる部位、そして効果的な愛撫の仕方を丁寧に教わった。
元々頭の良い桃花はそれらの情報を実践とともにどんどん吸収していった。
そして、ファルガーは手淫だけでなく、桃花のその豊かで美しい乳房を使った技は、性の駆け引きにおいてとても強力な武器になると言った。
その言葉の通り、桃花の極上な柔らかさを誇る白い胸の谷間に彼の剣を挿み込み、両脇からもにゅもにゅと淫らに刺激を与えてやれれば、彼の剣はたちまちビキビキと音が聴こえそうなくらいに一気に限界まで熱り勃ったのだった。
「うふふっ♥
ファルガー様ったらこんなにビキビキにされて・・・可愛い♥」
ファルガーは「はぁ・・・」とため息をつくと、
「可愛いって・・・えっと君が今16だから歳の差は887・・・か。
そんなにも歳上の男に言うことかな・・・?
やっぱり桃花は僕以上のS・・・ドSなんだね・・・。
負けたよ。
後は君の思うようにそいつを可愛がってやってくれ・・・」
と観念したように笑った。
「はい♡
では遠慮なくいただきますわね・・・♥」
そう言って桃花は彼の剣を右手で支えつつ、ゆっくりと腰を落としていった。
ズプププププ・・・…という本日3回目となる彼に身体のナカを開かれていく感覚に、桃花はゾクゾクと身を震わせた。
そして最奥まで辿り着いた彼の先端を、桃花の子宮口がグリグリと擦り付けた。
「っ・・・♥」
あまりの心地良さに、今までは何処か余裕があるように見えたあの彼が、堪らなさそうに頬を染めて苦悶の表情を浮かべている。
「ファルガー様ぁ・・・♥」
それを見た桃花は恍惚の表情を浮かべ、挿入時よりも更にゾクゾクゾクゾクッ・・・!と肌をあわ立たせると、熱く蕩けそうな鞘で彼の剣をキュンキュンと何度も締め付けた。
「っ・・・桃花っ・・・♥
そんなに締められると堪らなくなる・・・
は、早く動いてくれないか・・・?」
ファルガーは快楽を貪りたくて堪らないのか、切なそうに眉を寄せて息を乱しながら、そう訴えた。
「あら、ファルガー様の陰茎は、私の好きに可愛がって良いと仰ったではありませんか。」
と飄々とした口調で返す桃花。
「確かにそう言ったが、本当に堪らないんだ・・・!
早く・・・君のナカをっ・・・・・!!」
そう言ってファルガーは桃花の腰をガシッ!と掴み、下から腰を突き上げながらその動きに合わせて桃花の腰を上下に揺すり始めた。
しかし桃花はそれを許さないと言わんばかりに自分の腰を掴む彼の手を軽く抓ってから振り払うと、意地悪に微笑んで腰を上げ、彼の剣を自分のナカから抜いてしまった!
「ああっ・・・!
桃花・・・何故!?」
桃花は彼の問いかけを無視して自分が脱ぎ散らかした着物の山の中から腰紐を手繰り寄せ、それで彼の手首を縛ってしまった。
そしてうふふっ♥と茶目っ気たっぷりに微笑むと、
「これでファルガー様は私を自由には出来ませんね?」
と言ってから、酷く物欲しそうに首を擡げている彼の剣に手を添え、一気に”ず・・・・・っぷん♥”と己のナカへと再び導いた。
「はあぁあぁあっ・・・・・♥」
「うああぁっ・・・・・♥」
二人は同時に吐息混じりの声を漏らした。
そこからはずっと桃花のターンで、無我夢中で腰を振り、彼のモノをナカに擦り続けた。
「あっあっあっ♥
ファルガー様っファルガー様ぁ・・・♥
凄い・・・すごぉい♥
硬くて熱くて大きくてぇ・・・こんなに私を求めてくださってる♥
あっあっあっああっ♡気持ちいい・・・気持ちいいっ♡♥・・・気持ちいいっっ♥♡♥
あっあっあっあっ・・・♥♥♥」
「桃花っ・・・あぁ桃花っ・・・!」
ファルガーは腕を縛られたままで一生懸命に桃花のナカを貪ろうと腰を突き上げた。
「気持ちいい・・・気持ち良すぎてもう出てしまいそうだ・・・!」
「あっあっあっはあっ♥
わ、私も今度こそファルガー様の剣でイきそうですっ・・・!
どうか一緒にっ・・・!!!」
「っ・・・あぁ・・・一緒にイこう・・・!
桃花っ!桃花っ!!・・・・・くうっ・・・・・!!!」
「ファルガー様っファルガー様っファルガー様っ・・・・
はあぁああああーーーーーーーーー♥♥♥♥♥」
桃花は限界まで張り詰めた彼の剣と、お腹の奥に注がれる彼の熱い情慾を確かに感じつつ、頭の中が真っ白になりそうな強い快楽に身を震わせて、
(あぁ・・・・・♡
やっぱり私はドSなのですね・・・♥)
と今この瞬間、はっきりと自分の性癖を自覚したのだった。
その後二人は簡易的な夕食を一緒に作って食べ、一緒に風呂を支度し共に入ってはまた交わった。
その際、先程の交わりで自分の性癖をはっきりと自覚した桃花は、ファルガーにある程度主導権を譲りながらも、挿入の際には彼の顔と姿が確認出来る体位にしてもらい、時々彼を言葉で煽っては、上手く自分自身を高めていった。
そうすることで、先程のように強い快楽とはいかずとも、彼の剣で充分に達することが出来た。
その後また部屋に戻ったが、ファルガーが少し休まないと流石にもう勃起しそうもないと言って笑ったので、一緒の布団に入って寝た。
3時間程したらファルガーが起きてきて、
「神使だからか?
もうすっかりこちらの方も回復したようだ。」
と言って、桃花の尻に硬くなったモノを押し付けてきた。
そこからは夜が明けるまで数え切れないくらい肌を重ねた。
桃花に腕を縛られて酷く感じてしまった3回目の交わりは、やはり彼にとっては内心複雑だったらしく、それ以降は幾ら桃花がお願いしても、縛らせてはくれなかったが。
そしてファルガーは行為中どんなに興奮しても、桃花の未来の恋人に残すといった行為をすることは、決してなかったのだ。
翌朝─。
アデルバートに向かう船に乗るために、大きな革鞄を手に船着き場に来た桃花を、ファルガーと桜雅、梅次の三人が見送っていた。
桃花は昨夜ファルガーに何度も抱かれて腰が痛く、あそこも擦り切れそうなほどにヒリヒリし、更には寝不足でもあったが、不思議とこれらの痛みとけだるさが、これからアデルバートに向かわなければならない自分を強く奮い立たせてくれている気がした。
「こちらのことは心配しなくていい。
落ち着いたら手紙を書きなさい。
入国に必要な書類、そしてお前の経歴を記した書類は鞄に入れてある。
女中として完璧に育て上げたお前なら、何処に行ってもやっていけるとは思うが・・・くれぐれも無理だけはするな。
無理だと思えばすぐに帰って来い。」
と桜雅。
「ありがとうございます、父様。
出来るだけ頑張りますが、父様が帰ってきていいのだと言ってくださったお蔭で、私は気負わずに旅立てます。
どうかお元気で・・・。」
「あぁ、お前も息災でな・・・。」
続けて梅次が涙を堪えて潤んだ目を桃花に向けながらこう言った。
「姉様はそのうちファルガー様の元へお嫁に行かれるのだと思って、別れの覚悟を前々から決めていましたので、僕は泣きません!」
「うふふっ、梅次は強い子ですね!
でも私は貴方の望むのとは違う形で旅立つことになりましたのに・・・文句は無いのですか?」
と桃花。
「 はい・・・!
今の姉様は、姉様らしく悔いのないように生きているのだと僕にはわかります・・・!
だから、ファルガー様のお嫁に行かれるのではなくともいいのです・・・!
でもどうか・・・無事で帰ってきて下さい!」
「梅次・・・ありがとう。
次に会う時にはきっと背も伸びて、立派な殿方に近づいているのでしょうね・・・。
どうか、健やかでいて下さいね。」
「はい・・・姉様も、お元気で・・・!」
そう言い終えた後に梅次は堪えきれずに泣いてしまったので、桃花は抱きしめようと手を伸ばした。
だが桜雅が、
「梅次は私が見るからお前はファルガー様ときちんとお別れをしなさい。」
と言って、代わりに梅次を抱き締めた。
ファルガーはそんな梅次の頭をよしよしと撫でた後、まだ心配そうに梅次を見る桃花の傍に来て、こう言った。
「この船着き場に着いてから、僕の周りに消音結界を張ったから、その範囲内にいる僕達の会話が誰かに聴かれることはない。
だから安心して言いたいことを言うといい・・・。
だが・・・本当にここで別れでいいのか?
態々船に乗らずとも、ヘリオス様の転移装置を使って共にヘリオス連合国本土まで転移し、そこから君を背負って僕の高速移動でアデルバートまで連れて行くことも出来るのだぞ?
それくらいの寄り道の時間はあるし、それならあっという間にアデルバートまて着く。
君に天界の装置を使わせたことに対し、ヘリオス様も事情を説明すればうるさくは言われまい。」
桃花はその提案に対して頭を振った。
「そうしましたら私は、ファルガー様と離れられなくなってしまいます・・・。
だから、ここでお別れでいいんです。」
「そうか・・・。」
寂しそうに笑う桃花を見て、ファルガーは眉を寄せ、俯きながらこんな事を口にした。
「・・・これは言うか言わぬか悩んだが・・・。
実は・・・桃花と一夜を共にしてみて、かなり気持ちが揺るがされたんだ・・・・・。
君がアデルバートでの任務を終えてジャポネに帰ってきたその時には、もうこの世界の何処にも居ないアーシェをいつまでも想い続けるよりも、今確かに生きていて、温もりを感じることが出来る君と、君が寿命を迎えるその時まで寄り添うのもいいのかもしれないと・・・。
だが、何故だろう?
君の運命の赤い糸は、僕ではない違う誰かと繋がっている気がするんだ。
そして、そんな彼とアデルバートで出会うのではないかと・・・。」
「それは、900年以上生きてきた貴方の勘・・・ですか?」
桃花はクスクスと笑いながらそう訊き返した。
「そう・・・ただの勘に過ぎない。
だが僕の勘は、ヴィセルテ様の千里眼程確実なものでは無いが、割とよく当たるんだよ・・・。
だから今ここで僕がその未来の約束を口にすれば、君のもっと輝かしい未来の可能性を奪ってしまう気がしたんだ・・・。
だから、僕は君を応援することにした。
君が君らしくいられる生き方を、ただひたすらにね。
そして・・・もしも君が本当に僕の助けを必要とするその時には、この笛を鳴らしてくれ。」
そう言ってファルガーは白い陶器製の角のような形をした3cm程の小さな笛を桃花に手渡した。
「これは・・・?」
桃花は手のひらの上のそれに視線を落として不思議そうに尋ねた。
「これは僕の神力が込められた笛で、この笛の音が鳴れば、僕が世界の何処に居ても必ず僕の耳に届くようになっている。
その笛の音が聴こえたら、僕は何を差し置いてもすぐに君の元へ駆けつけると約束する。
ただし、これは君以外の者にも鳴らすことが出来てしまう上、一度鳴らせば跡形もなく砕け散ってしまうから、取り扱いに気をつけてくれ。」
「そのような貴重なものを私に・・・?
ありがとうございます・・・!
これがあればいつでも貴方の助けを呼べる・・・それだけでとても心強いです・・・!
ですが、人の世に過ぎたものを一般人に渡してしまっては、ヘリオス様に怒られてしまうのではないのですか?
それに幾ら貴方様でも、私を助ける為に無断でアデルバート宮廷に入り込めば、罪を問われますでしょう?
この笛を私に渡すことは、貴方にとってそれなりのリスクを伴うことなのではないのですか・・・?」
と桃花は尋ねた。
「ははっ、まぁそうだね・・・。
だが大切な君を助けられずに失うくらいなら、ヘリオス様に怒られるほうがずっとマシだよ・・・。
だから、ここぞという時には遠慮なく鳴らして欲しい・・・」
そう言って彼は優しく桃花を見つめると、桃色のリボンで束ねられた柔らかな栗色の髪をそっと優しく撫でた。
桃花は気持ち良さそうに目を細めると、
「はい・・・。
アデルバートに着いたらすぐにペンダントにして、肌身離さず持ち歩きますわ・・・。」
と言い、笛を大事そうに胸元に当ててから、そっと懐に仕舞った。
「うん、そうして欲しい。
それから僕との連絡手段についてだが・・・それは何処の国にも必ずある教会を利用しよう。
アデルバートの教会であれば当然アデルバート神様の御神像が祀られているが、ヘリオス様はすべての神の頂点に立たれるお方だから、どの御神像にも干渉する権限を持っておられる。
そこで、御神像に備わっている機能の一つである”メッセージボックス”の領域を、君との連絡用に少しばかり借りさせてもらえるよう後ほどヘリオス様に申請しておく。
アデルバートの内部調査のために必要だと説明すれば、問題無く許可が下りるだろう。
その方法なら誰にも疑われることもないだろうし、文と違って証拠も残らないから安全だ。
メッセージボックスの使い方は簡単だ。
君はただ教会で御神像に向かって祈りを捧げながら、心の中で僕に呼びかければいい。
そうすればその内容がメッセージボックスに記録され、僕が各地の教会に立ち寄った際にそれを受け取ることが出来る。
その逆もしかりで、時には僕からその方法で君宛に連絡をするから、信心深いフリして毎朝教会で祈りを捧げるようにするといい。
そうすることで緊急性のあるメッセージの未確認も防げるし、もしも僕からのメッセージを何らかの事情で君が確認出来なかった場合に、早い段階で異変に気付くことだって出来る。
それと、僕がアデルバートまで出向くときにも事前に知らせるから、その時には何処かで落ち会おう。」
桃花はアデルバートに行ってからもファルガーとは時々は会えるのだとわかり、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「はい・・・!
その時を楽しみにお待ちしておりますわ・・・!」
「・・・そろそろ船が出るな・・・。」
と桜雅が懐中時計を見て言った。
「はい・・・。
私、そろそろ行かなくては・・・。
父様、梅次、ファルガー様・・・。
次にお会いする時までどうかお元気で・・・」
そう言って桃花は微笑んだ。
「姉様・・・!」
梅次が泣きながら桃花の胸に飛び込んで来たので、桃花はそれを受け止めて優しく抱き締めた。
「梅次・・・何も今生の別れではありません。
どうか顔を上げて?
私は貴方と笑顔でお別れがしたいのです。」
と桃花は彼を諭した。
「はい・・・ぐすっ・・・ごめんなさい・・・姉様・・・。
僕・・・もう泣きません!
だからどうかご心配なさらず・・・お元気で・・・!」
梅次はそう言って涙を拭い、笑顔を作ってみせた。
「梅次・・・ありがとう。
貴方は本当に強くて優しい子ですね・・・!
それでは・・・行ってまいります。」
桃花は父、弟、そして愛する人に一礼をし、船に乗ろうとタラップに足を乗せた。
だがどうにもまだ後ろ髪を引かれる思いがした桃花は、駆け足で3人の所まで引き返すと、ぎゅーっと3人纏めて抱き締めたのだった!
そして10秒ほどして3人の大切な男達を解放すると、
「それでは、私の大切な家族の皆さん。
今度こそ、アデルバート・・・騎士の国へ行ってまいります!」
と言って一気にタラップを駆け上り、船が出港して彼らの姿が見えなくなるまでずっと、微笑みながら手を振り続けるのだった。
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