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あっちからみたらこっちが異世界

もう一人の新太 ②

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〝テレビ”というこの世界の魔道具みたいな箱では、この世界のいろんな事象が日夜流れてくる。これを見ているだけでどんどんこの世界の事が分かってくる。

大変な世界にきてしまった。理解できることがほとんどない…

2週間ほどでこの白い〝病院”から退院することになった僕。

楽しみ…新太君のお家、どんなとこなんだろう。


色々分かったことがある。僕の事や家族の事、それからいろんなものの名前なんかも。みんなの会話や、頭の奥に残った記憶が必要な事を教えてくれる。

新太君はこの世界の〝高校三年生”、あちらで言う貴族学校とは全く違って、どんな身分の人でも希望してお勉強して試験さえ合格すれば誰でも学べる場所なんだってわかった。そもそもこの世界には身分制度がないみたい。なんて優しい世界なんだろう。

馬車よりもうんと乗り心地の良い〝車”にのってお家に帰る。目に入る街並みが、とてもそう、整然としていて四角くて、山も森も…ここには無い…

「ほら、早く部屋に戻って着替えてきなさい。今日は退院祝いの御馳走だからね。楽しみに待ってなさいね」
「は~い。うふふ御馳走…ふふ、何だろう?何が出てくるんだろう?病院のご飯、どれもすごく美味しかった…」

身体が動くままに階段を上る。ちゃんと覚えてるんだ…身体の記憶ってすごい!

かちゃり

見ず知らずの人の部屋なのに知らない部屋じゃない…変な感じ…

「わぁ…、ここが新太君の部屋、僕の暮らす部屋…」

右を向いても左を向いても、上を向いたらそこにもやっぱり…一人の男の人の〝ポスター”が貼られている。
机の上にはその人の姿をかたどった色んなものが立てられていて…新太君の好きだった人?
すごい熱意が、愛情がひしひしと伝わってくる。きっと大好きだったんだ。

その人は何かの集団にいる人みたい。テレビを見てたから僕にももうわかるんだよ。この人たちは歌う人。キラキラした衣装を着てたくさんの光を浴びて。

少しだけ僕はもとの世界のクリフト殿下を思い出した。
お父様が王都から持ち帰った立太子の儀の記念の姿絵。やっぱりこんな風にキラキラして輝いて見えた。
柔らかく微笑んだそのお顔はとてもとても品格があって立派に見えて。
領地で引き籠ることしか出来ない僕とは正反対で…とても…そうとても眩しかった。

「う~ん、それにしてもなんで新太君はこの人が好きなんだろう…こっちの笑顔の人の方が優しそうなのに。」

新太君の好きな人はちょっと怖そうな顔した背の高い人。笑ったポスターが一つも無い。どれ見ても少し眉をよせて睨みをきかせて…男らしいのかも知れないけど…僕は少し体が竦んでしまう。

遠い世界に思いを馳せる。僕が嫁いだ辺境伯様…背が高くて大きくて、それはそれは怖い顔をしてるって侍女たちが言っていたけど…もしかしたらこんな感じの人だったんだろうか…?
新太君がもしも僕の代わりに向こうに居るなら…せめて…せめて辺境伯様がこの人に似ていますようにって僕は心からの祈りを捧げたんだ。





あれから僕の生活は考えられないほど驚きの連続で、でもほとんどのことは記憶障害と心的外傷トラウマ、そして幼児退行で片付けられた。
余りにも僕が一つ一つに子供みたいな反応をするから…記憶障害の一種って思ったみたい。




僕が通っていたらしい学校はお母さんとお父さんが先生がたとお話して、足りない日数を冬と春のお休みに〝補習”を受けることで卒業できることになった。卒業のための試験は記憶障害を理由に免除になって、僕は心底ホッとした。
良かった…新太君に変な汚名を着せずに済んで。

部屋いっぱいのポスターは、新太君には申し訳ないけど全部かたずけさせてもらったよ。だって睨まれているみたいで落ち着かなかったから…ごめんなさい新太君。
それを見ていたお姉ちゃんはとても驚いていたけれど、「坂下クンの事までトラウマになっちゃったんだね、可哀そうに」ってそう言ってくれた。


僕が意識を取り戻したのはちょうど冬のお休みに入る前で、だから僕は〝補習”に行くとき以外はお家でゆっくりとこの世界のことを覚えていったんだ。この小さな〝スマホ”っていう便利な道具で。

「こんな小さな道具が…世界で一番便利な道具だなんて…一体どうやって使えばいいの?わからない…ねぇ、スマホってなんなの?」
『ハイ、質問はなんでしょうか』

ビクッ!

「しゃべった…ええっ?お話しするの?この箱が?ねぇじゃぁ、とらうまって何?」
『トラウマとは心的外傷、外的内的要因による肉体的及び精神的な衝撃、外傷的出来事を受けた事で…』

こうして僕は知りたいことのほとんどを、お姉ちゃんの言う、ぐぐ…ぐ?先生に教えてもらってこの世界に馴染んでいった。







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