上 下
175 / 247
決断の時編

新参従者のつぶやき ②

しおりを挟む

ダイニングから私室へと戻ってからも、そう簡単に眠りになどつけるはずもない。
デラ奥様にまでご迷惑をおかけして、本当に合わせる顔がない。
明日朝いちばんで奥様に謝罪とお礼を…ああ…こんな気持ちでトールキン様の顔をまともにみれるだろうか…

トントントン

「誰?…えっ、ハモンさん?どうしましたか?」
「奥様とトールキン様がなにやらもめておりまして、ぜひローラン殿からお口添えを」
「トールキ…えっ!今は無理です、そのちょ、まって」
「夜更かしは年寄りには堪えるのです…どうかお口添えを」

ぐいぐいと手を引くハモンさん。年寄りとはとても思えない力だ。それに力任せに振りほどいて転ばせるわけにもいかない。おろおろしているうちにラウンジについてしまった。
ああ、だけど今は、今はトールキン様に会う事なんて出来ないって言うのに。

漏れ聞こえてくる声。ああ…やわらかな…トールキン様の声だ。
だけどその声は、奥様の声とともにだんだん昂ってきて…



ーー平気な訳ないに決まっているじゃありませんかっ!ーー

ーーハッキリ言えば好意を抱いております。ーー


ええっ?なんて言った?今トールキン様はなんて言ったんだ⁉都合のいい幻聴だろうか?こんなことあるわけ…


「母上、ローランは男らしい御仁が好きなのですよ。そう、まるで辺境伯閣下のような…はは…アデルの夫ではどうにもしてやれませんが、せめて村一番の力自慢でも…」

ええっっ、ちょっと待ったーーーっ!


「やめてくださいっ!あれは脳みそまで筋肉が詰まっているろくでなしですっ!」


驚愕に見開かれた目で俺を見るトールキン様。誰が筋肉好きって言った!ああ…なんでこの人はこんなにも…もうっ!

「か、…閣下の事は…そういうんじゃぁないです…」「だが…」
「あれは…思春期の憧れと言うか…」「しかし…」
「ああいう男になりたいなっていう…」「……けれど……」

この人には、ハッキリ言わなきゃわからないんだ。もうっ、こんなこと…俺の口から言わせるなんて…

「好きですトールキン様。恋愛感情として好きになったのは、トールキン様が初めてです。贅沢なんていいません。傍に置いてもらえるだけでいいから…。だから…だから…俺を誰かになんてやらないでっ」

気が付いたら抱きついていて…、デラ奥様とハモンさんの姿はなく…、本当に、なんて日なんだろう。地獄と天国、一日で両方味わうなんて。

「ばかっ、トールキン様のばかっ。本当に…しょうのない人なんだから…」
「ぐうの音もでないよ…ねぇローラン、馬鹿な私は今後もいろいろやらかすだろう…申し訳ないが、面倒を見てくれるかい?」



もちろんですって言いたかったのに…唇を塞がれて…返事は出来なかった。





しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」  ワタクシ、フラれてしまいました。  でも、これで良かったのです。  どのみち、結婚は無理でしたもの。  だってー。  実はワタクシ…男なんだわ。  だからオレは逃げ出した。  貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。  なのにー。 「ずっと、君の事が好きだったんだ」  数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?  この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。  幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

処理中です...