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決断の時編
お母様は見た ③
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「それで…、いったいどうしたと言うのローラン。あんなに泣いて…何があったと言うの?」
「…その…いえ、何でもないです。」
「なんでもなくはないでしょう。おっしゃいローラン。事と次第によっては力になれてよ?」
「あの、本当に大丈夫です。お茶ごちそうさまでした。美味しかったです。」
「本当に良くって?」
「はい、…あの、奥様。」
「なにかしら」
「トールキン様に、…その縁談の事は…お気遣い要りませんってお伝えください…結婚は考えていないからって…」
「それ…は一体、あ、お待ちなさいローラン!」
「おやすみなさい。騒がせてすみせんでした」
これは…トールキンから直接聞かなければならないようね。
それにしても何処へ行ったのかしら。全くあの子は…。これでは目が冴えてしまって今夜は眠れそうにないわ。
真夜中に響くノッカーの音。執事のハモンはもう若くないのだから休ませなければならないというのに。
出歩いていたあの子に決まっているわ。ちょうどいい、わたくしが直接出迎える事としましょうか。
「母上っ!こんな時間までどうなされたのですか…。ハモンは…」
「寝ているに決まっているでしょう。あれをいくつだと思っているのですか。ところであなたこそこんな時間までどこで何をしていたのかしら。いいえ、聞くまでもなかったわ。お酒の匂いをこんなにさせて…あきれたこと」
「…私にも、飲まなきゃやってられない夜ぐらいあるのですよ…」
「それは裏庭で大泣きをしていたローランと関係していて?」
「大泣き…?ローランが…ですか?」
「この唐変木!ちょっとこちらへいらっしゃい!」
馬鹿な子ほどかわいいとは言うけれど…馬鹿すぎるのも困りものだわ。
ワイアット…あの子は本当に手がかからなかった。
アデルは…また違う問題として、このトールキンは本当に手がかかる。
話を聞けば、どうやらこの子は自分を慕うあのローランに、村一番気立てが良いと評判の村長のお嬢さんを、嫁にどうかと勧めたもよう。
この地に残ってくれたローランへ恩返しだというのだからあきれてものも言えないわ。
「それでこんなになるまでお酒を飲んだのですか?あなた正気?本当に…ああ…田舎暮らしが長すぎたせいで」
「しかし、ここに住み着いてくれると言うのですから家と嫁くらいは面倒を見るべきかと…思ったのですが……」
「トールキンあなたね、聡明ではあるのだけれど、いつもやることが極端なのです。そう飛び級で学院を卒業した時も、誰が茶会も夜会も忙殺しろと言いましたか。それがどれほど大切なことかわかっていたでしょうに。だから今こうなっているのです!…ごほん、まぁいいわ昔のことは。で、ローランはなんと?」
「嫁はいらないと…」
「それであなたは何と言ったのです」
「ならば婿を探そうと」
パッシィンッ!
思わず持っていた扇子で頭を叩いてしまったわ。
「このっ、このっ…お馬鹿!あなたはそれでいいの?ローランが他の誰かの妻となっても平気なのですかっ?」
「平気なわけ…平気な訳ないに決まっているじゃありませんかっ!だけどどうしろって言うんです?私がローランのために出来ることなど何にもないのにっ!」
「出来る事とかじゃなくて…あなたローランのことどう思ってるの?何よりそれが一番肝心でしょう」
「正直言えば…とてもかわいらしいと…いえ、ハッキリ言えば好意を抱いております。しかし、私が相手では…ローランが気の毒だ…」
「あなたの目は節穴なのですか?いいえ、節穴どころかガラス玉かしら?本っ当に馬鹿ねっ!」
あれほどあからさまな態度だというのにまったく伝わっていないとは…それこそローランが気の毒だわ。この子がこれほど鈍かったなんて…わたくしの教育が悪かったのかしら?
「母上、ローランは男らしい御仁が好きなのですよ。そう、まるで辺境伯閣下のような…はは…アデルの夫ではどうにもしてやれませんが、せめて村一番の力自慢でも…」
「やめてくださいっ!あれは脳みそまで筋肉が詰まっているろくでなしですっ!」
「ローランッ!」「ローランッ?」
そこには深夜の大騒動に若干迷惑そうなハモンと、ハモンに無理やり手を引かれているローランが立っていたの。
「…その…いえ、何でもないです。」
「なんでもなくはないでしょう。おっしゃいローラン。事と次第によっては力になれてよ?」
「あの、本当に大丈夫です。お茶ごちそうさまでした。美味しかったです。」
「本当に良くって?」
「はい、…あの、奥様。」
「なにかしら」
「トールキン様に、…その縁談の事は…お気遣い要りませんってお伝えください…結婚は考えていないからって…」
「それ…は一体、あ、お待ちなさいローラン!」
「おやすみなさい。騒がせてすみせんでした」
これは…トールキンから直接聞かなければならないようね。
それにしても何処へ行ったのかしら。全くあの子は…。これでは目が冴えてしまって今夜は眠れそうにないわ。
真夜中に響くノッカーの音。執事のハモンはもう若くないのだから休ませなければならないというのに。
出歩いていたあの子に決まっているわ。ちょうどいい、わたくしが直接出迎える事としましょうか。
「母上っ!こんな時間までどうなされたのですか…。ハモンは…」
「寝ているに決まっているでしょう。あれをいくつだと思っているのですか。ところであなたこそこんな時間までどこで何をしていたのかしら。いいえ、聞くまでもなかったわ。お酒の匂いをこんなにさせて…あきれたこと」
「…私にも、飲まなきゃやってられない夜ぐらいあるのですよ…」
「それは裏庭で大泣きをしていたローランと関係していて?」
「大泣き…?ローランが…ですか?」
「この唐変木!ちょっとこちらへいらっしゃい!」
馬鹿な子ほどかわいいとは言うけれど…馬鹿すぎるのも困りものだわ。
ワイアット…あの子は本当に手がかからなかった。
アデルは…また違う問題として、このトールキンは本当に手がかかる。
話を聞けば、どうやらこの子は自分を慕うあのローランに、村一番気立てが良いと評判の村長のお嬢さんを、嫁にどうかと勧めたもよう。
この地に残ってくれたローランへ恩返しだというのだからあきれてものも言えないわ。
「それでこんなになるまでお酒を飲んだのですか?あなた正気?本当に…ああ…田舎暮らしが長すぎたせいで」
「しかし、ここに住み着いてくれると言うのですから家と嫁くらいは面倒を見るべきかと…思ったのですが……」
「トールキンあなたね、聡明ではあるのだけれど、いつもやることが極端なのです。そう飛び級で学院を卒業した時も、誰が茶会も夜会も忙殺しろと言いましたか。それがどれほど大切なことかわかっていたでしょうに。だから今こうなっているのです!…ごほん、まぁいいわ昔のことは。で、ローランはなんと?」
「嫁はいらないと…」
「それであなたは何と言ったのです」
「ならば婿を探そうと」
パッシィンッ!
思わず持っていた扇子で頭を叩いてしまったわ。
「このっ、このっ…お馬鹿!あなたはそれでいいの?ローランが他の誰かの妻となっても平気なのですかっ?」
「平気なわけ…平気な訳ないに決まっているじゃありませんかっ!だけどどうしろって言うんです?私がローランのために出来ることなど何にもないのにっ!」
「出来る事とかじゃなくて…あなたローランのことどう思ってるの?何よりそれが一番肝心でしょう」
「正直言えば…とてもかわいらしいと…いえ、ハッキリ言えば好意を抱いております。しかし、私が相手では…ローランが気の毒だ…」
「あなたの目は節穴なのですか?いいえ、節穴どころかガラス玉かしら?本っ当に馬鹿ねっ!」
あれほどあからさまな態度だというのにまったく伝わっていないとは…それこそローランが気の毒だわ。この子がこれほど鈍かったなんて…わたくしの教育が悪かったのかしら?
「母上、ローランは男らしい御仁が好きなのですよ。そう、まるで辺境伯閣下のような…はは…アデルの夫ではどうにもしてやれませんが、せめて村一番の力自慢でも…」
「やめてくださいっ!あれは脳みそまで筋肉が詰まっているろくでなしですっ!」
「ローランッ!」「ローランッ?」
そこには深夜の大騒動に若干迷惑そうなハモンと、ハモンに無理やり手を引かれているローランが立っていたの。
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