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決断の時編

ある家令の頑張り

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旦那様が深刻な顔をして何かを思い悩んでおられます。これは一体どうしたという事でございましょう。
昨夜はアデル様と夜のバーガンディを楽しまれ、上機嫌で帰っていらしたというのに。

「何か懸念がございますか旦那様?」
「うむ、アデルの事だ…」
「お倒れになった事でございますか?何か体調に問題でも…」
「いや、あれは魔力枯渇で間違いない。それよりも枯渇を起こすほど見入った先見の相だ。」
「良くない相だったのでございますかな?」
「おそらくは…。それ以来、平気そうにしていてもどこか気にしておるようでな。元気づけたいのだが」
「昨夜は楽しく過ごされたのではなかったのですかな?」
「夜の街に繰り出して随分と気晴らしにはなったようだが…だがまだ足りぬ」
「アデル様を元気づける…ふむ、いい考えがございますぞ、旦那様。」





「えっ?えっ?何ですかトマスさん?ここに座っていればいいんですか?」
「ええ、アデル様。ほらフラッフィ、お前もアベニア様とそこに掛けなさい。」
「何?何だろう。」

アデル様を喜ばせたいとの旦那様のお気持ちを汲んで急遽しつらえた演習場横の逕路。
ご相談申し上げたグレゴリー殿に協力いただき作り上げた急ごしらえの木でできた障害物。それを隊員の皆さんが手分けして逕路の途中途中に配置していきますと、このあたりで勘の良いアデル様はお気づきになられます。

「え…もしかして…障害物競走?誰が走るの…?隊員さんたちが?えっ?」

音楽隊の太鼓の演者が始まりの打音を鳴らし、それを合図に厩舎のほうから馬に乗った幾人かの隊員がやって参ります。旦那様を筆頭に。

「んあ”あ”あ”あ”あ”ーーー!!!!ぐっ、グラナダ様ぁ!」

この馬を使った障害物競争は、いつかの日、アデル様が観たいとお話になっていた想像の遊戯でございます。
馬上の旦那様をより堪能するための舞台なのだそうですが、思いのほか興味深いお遊びでございます。
アデル様の発想にはいつも感嘆するばかりです。

ドララララララダッ…ダン!

最後の一打で各馬一斉に駆け出しますと逕路上で内側、外側と場所取りが始まります。なんと、この遊戯は策略にも長けていなければ勝てぬのですな。実に奥深い。

計略を練り、巧みに鞭を操り、馬と一体となり、難なく障害を越えていく…これは…なんとこのバーガンディ領主にふさわしい、高貴な遊戯。まるで領地運営の模擬実験ではありませぬか。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!グラナダ様ぁーー!頑張ってーー!負けないでーー!」

おお、旦那様が第一部隊の筆頭隊員と競り合っております。なんと!
「旦那様っ!負けてはなりませぬ!」

手に汗握るとはこの事です。年甲斐もなく興奮してしまいましたな。いや実に愉快。

競争は当然旦那様の勝利で終わりましたが、なかなかに良い勝負でありました。かの隊員には旦那さまから報奨が与えられるようでございます。

「すごい!すっごいかっこよかった!えー?なんで?いつの間にこんな?あーすごいっ!」

アデル様の語彙が無くなるときはとても喜んでいる時だと言う事は、このバーガンディの者ならもうすでに皆分かっております。
狂喜乱舞するアデル様に旦那様も目を細めていらっしゃいます。
いつも通りの仲睦まじいご様子を視界に納め、



こんな日が永遠に続くことを願わずにはおれぬのでした。






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