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決断の時編
水見の鏡 ①
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神殿の奥、聖人様のおられる生誕珠を賜る部屋とは反対の通路を進んですぐのところにその小部屋はあった。
吉凶を占う水見の鏡。
神官様が言うには、祈りをささげた者の見たい未来を写すらしい。未来だからね、信じるも信じないもその人次第。
がらんとした何もない部屋。真ん中に聖水を張った大きな盃型のお皿がある。聖杯っていうんだよね、これ。
聖杯の横のちいさな四角いテーブルには…捧げものだろうか?果物が盛り合わせになってる。
その部屋の四方には魔石が4つ。金の魔石。青の魔石。緑の魔石。白の魔石。
壁に書かれた文字が目に入る。
『探求せし者魔力を注げ。されば深淵は開かれん』
じっと盃を覗き込んでみるけどそこには澄んだ水が張られているだけ…。
見に来ただけ…見に来ただけだけど…でも…ちょっとだけ…
指先にピンクベージュの光が灯る。ぽちゃん…聖水に魔力を灯した指を浸す…
カッ!
四方の魔石が光を放つ。
青の光が聖水に溶け込み金の光が水面を反射させる。緑の光が結界のように部屋を囲い込んだと思ったら白い光から小さな竜巻が起き、そして…
ーーーお前の魔力と引き換えに見たい光景を見せてやろうーーー
どこから声が…鏡を覗き込むけどそこには僕の顔しか映ってない…
ーーー我は精神体ゆえ何も映らぬ。お前の望み、知りたい事象は何だーーー
えっ?教えてくれるの?知りたいことならたくさんあるよ。僕の家族、オタ友のこと、アデルの…、だけど、それより…
「…ぼ、僕は…どうして僕がこの世界に呼ばれたのかを知りたくて…」
ーーー知り得たいのは未来ではないのか。呼ばれたとはどういう事だーーー
「僕は死んじゃったの?あ、アデルはどうなったの?時空間転移したのはアデルなのにどうして僕がここにっ!」
ーーーほう、お主は転移者か。じつに珍しい。我と同じ引き込まれた魂の転移者と言う事かーーー
「どういう事?」
驚くことに、聖杯はこの精神体の依り代だった。それもン百年も前にどこかの世界から転位してきた魂の。
だけど、ン百年の身体を持たない生の中でほとんどの記憶は失われ、どこで生まれ名が何だったのかも覚えてはいないらしい。ただ重い病に倒れ魂が抜け出た瞬間に…いきなりこの聖杯に引きずり込まれたことだけを覚えているらしい。
そうして日々、訪れる祈り人からの魔力と引き換えに時空を捻じ曲げ未来を見せる。
ン百年もの間、聖杯に宿った精神体として、制約に縛られず理から外れ、魔法の全てを看破した英知の塊がこの〝水見の鏡”なのだ。
この世界で言うところの時空間魔法とは、魂を〝そのものが真に望む場所へ”転移させるものでしかない。だけどそれには条件があって、まずは、どんな世界であれ望む世界が明確であること。魔法の発動と一緒だ。イメージが出来なければ発動しない。そして、この世界に万にひとつの未練もないこと。異世界へ渡るにはたとえ未練一つでもこちらの物は持ち込めないんだって…。
頭に響く言葉に僕は続けざまにショックを受ける。
転移先に魂の入り込める器が無ければ、その魂は時間とともにその世界と同化する…
「同化って響きはキレイだけど消滅ってこと…だよね…じゃぁ、この魔法って最後の夢を見せてくれるだけってことなの?」
ーーー違う、消滅ではない、同化だ。そのものが真に望んだ世界の一部となるのだーーー
「そんな言葉で…納得なんてできないよ…」
ーーーだが既に己の世界に絶望せし者、希望無き死を迎えるより心安かろうーーー
深刻な顔で考え込む僕に鏡は言った。
ーーー呼ばれたと言ったな。魂だけが転移したと。ならばお主は我と同じ状態であったと言う事かーーー
「同じって?」
ーーー偶然にもその場に居合わせ、お主の身体は器となってしまったのであろうーーー
「器って、だって僕の魂はちゃんと僕の中にっ!」
ーーー鏡を覗き込んではおらぬか。合わせ鏡は魂を吸い込むーーー
合わせ鏡……もしや…池が?だって夜だったし光なんて…月明り?外灯?反射していた⁉
覗き込んだかって?覗き込んだよ…だって銀テープが飛ばされて…白い顔がそこに……
なら、奇跡のような偶然で魔法が発現したアデル。死ぬより先に器を見つけたアデルはラッキーだったし、自分の身体からはじき出された後、入り込めるアデルの身体が残っていた僕もとてもラッキーだったと言う事か。
もしも正規の手順で魔法を発現させてたらアデルの身体は魔力化されて元素になってた…
吉凶を占う水見の鏡。
神官様が言うには、祈りをささげた者の見たい未来を写すらしい。未来だからね、信じるも信じないもその人次第。
がらんとした何もない部屋。真ん中に聖水を張った大きな盃型のお皿がある。聖杯っていうんだよね、これ。
聖杯の横のちいさな四角いテーブルには…捧げものだろうか?果物が盛り合わせになってる。
その部屋の四方には魔石が4つ。金の魔石。青の魔石。緑の魔石。白の魔石。
壁に書かれた文字が目に入る。
『探求せし者魔力を注げ。されば深淵は開かれん』
じっと盃を覗き込んでみるけどそこには澄んだ水が張られているだけ…。
見に来ただけ…見に来ただけだけど…でも…ちょっとだけ…
指先にピンクベージュの光が灯る。ぽちゃん…聖水に魔力を灯した指を浸す…
カッ!
四方の魔石が光を放つ。
青の光が聖水に溶け込み金の光が水面を反射させる。緑の光が結界のように部屋を囲い込んだと思ったら白い光から小さな竜巻が起き、そして…
ーーーお前の魔力と引き換えに見たい光景を見せてやろうーーー
どこから声が…鏡を覗き込むけどそこには僕の顔しか映ってない…
ーーー我は精神体ゆえ何も映らぬ。お前の望み、知りたい事象は何だーーー
えっ?教えてくれるの?知りたいことならたくさんあるよ。僕の家族、オタ友のこと、アデルの…、だけど、それより…
「…ぼ、僕は…どうして僕がこの世界に呼ばれたのかを知りたくて…」
ーーー知り得たいのは未来ではないのか。呼ばれたとはどういう事だーーー
「僕は死んじゃったの?あ、アデルはどうなったの?時空間転移したのはアデルなのにどうして僕がここにっ!」
ーーーほう、お主は転移者か。じつに珍しい。我と同じ引き込まれた魂の転移者と言う事かーーー
「どういう事?」
驚くことに、聖杯はこの精神体の依り代だった。それもン百年も前にどこかの世界から転位してきた魂の。
だけど、ン百年の身体を持たない生の中でほとんどの記憶は失われ、どこで生まれ名が何だったのかも覚えてはいないらしい。ただ重い病に倒れ魂が抜け出た瞬間に…いきなりこの聖杯に引きずり込まれたことだけを覚えているらしい。
そうして日々、訪れる祈り人からの魔力と引き換えに時空を捻じ曲げ未来を見せる。
ン百年もの間、聖杯に宿った精神体として、制約に縛られず理から外れ、魔法の全てを看破した英知の塊がこの〝水見の鏡”なのだ。
この世界で言うところの時空間魔法とは、魂を〝そのものが真に望む場所へ”転移させるものでしかない。だけどそれには条件があって、まずは、どんな世界であれ望む世界が明確であること。魔法の発動と一緒だ。イメージが出来なければ発動しない。そして、この世界に万にひとつの未練もないこと。異世界へ渡るにはたとえ未練一つでもこちらの物は持ち込めないんだって…。
頭に響く言葉に僕は続けざまにショックを受ける。
転移先に魂の入り込める器が無ければ、その魂は時間とともにその世界と同化する…
「同化って響きはキレイだけど消滅ってこと…だよね…じゃぁ、この魔法って最後の夢を見せてくれるだけってことなの?」
ーーー違う、消滅ではない、同化だ。そのものが真に望んだ世界の一部となるのだーーー
「そんな言葉で…納得なんてできないよ…」
ーーーだが既に己の世界に絶望せし者、希望無き死を迎えるより心安かろうーーー
深刻な顔で考え込む僕に鏡は言った。
ーーー呼ばれたと言ったな。魂だけが転移したと。ならばお主は我と同じ状態であったと言う事かーーー
「同じって?」
ーーー偶然にもその場に居合わせ、お主の身体は器となってしまったのであろうーーー
「器って、だって僕の魂はちゃんと僕の中にっ!」
ーーー鏡を覗き込んではおらぬか。合わせ鏡は魂を吸い込むーーー
合わせ鏡……もしや…池が?だって夜だったし光なんて…月明り?外灯?反射していた⁉
覗き込んだかって?覗き込んだよ…だって銀テープが飛ばされて…白い顔がそこに……
なら、奇跡のような偶然で魔法が発現したアデル。死ぬより先に器を見つけたアデルはラッキーだったし、自分の身体からはじき出された後、入り込めるアデルの身体が残っていた僕もとてもラッキーだったと言う事か。
もしも正規の手順で魔法を発現させてたらアデルの身体は魔力化されて元素になってた…
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