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王位交代開始編
カマーフィールド伯爵 決意表明
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一週間ほどの道程をへて我が領地カマーフィールドへと戻ってきた。
見慣れた我が家の、修繕すら間に合っていない扉を執事のハモンが開けてくれる。
「お帰りなさいませ貴方。あの子の様子はどうでしたか?泣き暮らしてはおりませんでしたか?」
私を出迎えながらも堪らぬといった様子で妻のデラが問うてきた。
「父上、私にもぜひお聞かせ願えますか。このカマーフィールド以外何処も知らぬか弱きあの子が見知らぬ地でどう過ごしているのか…」
「ふむ、着替えの後ラウンジで話そう。ハモンお茶を。トールキンは居ないのか?」
長兄のトールキンは領内の視察へ出ており直に戻るらしい。ここに居るのは次兄のワイアット。
私は旅の疲れをとるため軽く湯を浴びると室内着に着替えラウンジへと向かった。
「まずは先に話しておこう。アデルは非常に、そう非常に愛されておったよ。〝瘴気振りまく魔人卿”グラナダ・リーガル辺境伯様に。」
「ま、まさか…あそこに出向いた全ての子女が辺境伯様のことを「心を持たぬ不遜な化け物」と…」
「デラよ、たとえ噂であっても滅多な事を言ってはならぬ。いやはや私にもこの目でみたものが信じられぬが本当なのだ。」
「ではアデルは?」
視察より戻ったトールキンが身を乗り出して聞いてくる。
「…幸せそうであったよ…あんな元気な姿は…この地でも見たことは無かった…」
「「「まさか…」」」
「だがその理由にひとつ心当たりがある。デラよ覚えておるな?アデルがまだ5歳のころ、まだ所有しておった王都の邸で不埒な下位貴族の者にかどわかされそうになった、あの忌まわしき日の事を。」
「ええ、もちろん覚えておりますとも。天使のように愛らしいあの子を連れ去ろうとした不届き者!思い出しても首をねじ切りたくなりますわ」
「幸い事は未然に防げたが、アデルはその後しばらく情緒が安定せず、気が付いた時には私たちの知る優しいが臆病で内気な子になっていた。それこそこの領地より外には出られぬほど。だが、デラよ、5歳までのあの子の性質はもっと無邪気ではなかったか?」
「それは…そうですが、幼子とはみな無邪気なものですわ」
「それにたった5歳の幼子がそのような怖い思いをしたのです。臆病になるのは当然ではありませぬか」
「そうですとも、あの後のアデルは…かわいそうに…暗闇に怯え、私と兄上が交互に隣で眠ったのですよ」
「責めているわけではない。聞くのだ」
トールキンの言葉に私はバーガンディで考察したすべてを話した。
心的外傷により自分自身で封じた無邪気なアデル。だが婚姻への恐怖に竦む臆病なアデルを守るために本来のアデルが再び表に出てきたのではないか、と。
そして、バーガンディの人を選ぶ閉鎖された環境はアデルにとって逆に安堵になったのではないか。
そうであれば多少は腑に落ちる。いや、そうでも考えねばあの著しい変化には納得がいかぬのだ。
「会いたかったと泣くアデルはいつものアデルであったよ。そのアデルを辺境伯様は愛おし気に抱きしめられてな。それにまたアデルが嬉しそうに甘えるのだ」
「本当に…?い、いえですが、辛い思いをしているというのでなければ…」
「本来のアデルの姿が辺境伯様のお心を溶かしたというのであれば、それはアデルにとっても幸いであっただろう」
皆が困惑と安堵とが無い混ぜになった何とも言えぬ表情をする中、私は本題へと話をすすめた。
「では父上は南の侯爵グリーンバルト様の推薦をもって東宮へと入られるのですね。ご安心ください。領地の事はワイアットと二人、力を合わせて守って見せましょう。」
「まかせたぞトールキン。先ほど話したようにバーガンディより一人寄越してくださるそうだ。アデルの魔道具を持ってな。私も此度は逃げはせぬ。アデルのためにも必ずや殿下を奮い立たせて見せようぞ!」
アデルが休むことなく研鑽を積みその才を開かせたことを一番喜んだのは妻であった。アデルからの感謝の言葉をいつまでもいつまでも噛みしめていた。
見慣れた我が家の、修繕すら間に合っていない扉を執事のハモンが開けてくれる。
「お帰りなさいませ貴方。あの子の様子はどうでしたか?泣き暮らしてはおりませんでしたか?」
私を出迎えながらも堪らぬといった様子で妻のデラが問うてきた。
「父上、私にもぜひお聞かせ願えますか。このカマーフィールド以外何処も知らぬか弱きあの子が見知らぬ地でどう過ごしているのか…」
「ふむ、着替えの後ラウンジで話そう。ハモンお茶を。トールキンは居ないのか?」
長兄のトールキンは領内の視察へ出ており直に戻るらしい。ここに居るのは次兄のワイアット。
私は旅の疲れをとるため軽く湯を浴びると室内着に着替えラウンジへと向かった。
「まずは先に話しておこう。アデルは非常に、そう非常に愛されておったよ。〝瘴気振りまく魔人卿”グラナダ・リーガル辺境伯様に。」
「ま、まさか…あそこに出向いた全ての子女が辺境伯様のことを「心を持たぬ不遜な化け物」と…」
「デラよ、たとえ噂であっても滅多な事を言ってはならぬ。いやはや私にもこの目でみたものが信じられぬが本当なのだ。」
「ではアデルは?」
視察より戻ったトールキンが身を乗り出して聞いてくる。
「…幸せそうであったよ…あんな元気な姿は…この地でも見たことは無かった…」
「「「まさか…」」」
「だがその理由にひとつ心当たりがある。デラよ覚えておるな?アデルがまだ5歳のころ、まだ所有しておった王都の邸で不埒な下位貴族の者にかどわかされそうになった、あの忌まわしき日の事を。」
「ええ、もちろん覚えておりますとも。天使のように愛らしいあの子を連れ去ろうとした不届き者!思い出しても首をねじ切りたくなりますわ」
「幸い事は未然に防げたが、アデルはその後しばらく情緒が安定せず、気が付いた時には私たちの知る優しいが臆病で内気な子になっていた。それこそこの領地より外には出られぬほど。だが、デラよ、5歳までのあの子の性質はもっと無邪気ではなかったか?」
「それは…そうですが、幼子とはみな無邪気なものですわ」
「それにたった5歳の幼子がそのような怖い思いをしたのです。臆病になるのは当然ではありませぬか」
「そうですとも、あの後のアデルは…かわいそうに…暗闇に怯え、私と兄上が交互に隣で眠ったのですよ」
「責めているわけではない。聞くのだ」
トールキンの言葉に私はバーガンディで考察したすべてを話した。
心的外傷により自分自身で封じた無邪気なアデル。だが婚姻への恐怖に竦む臆病なアデルを守るために本来のアデルが再び表に出てきたのではないか、と。
そして、バーガンディの人を選ぶ閉鎖された環境はアデルにとって逆に安堵になったのではないか。
そうであれば多少は腑に落ちる。いや、そうでも考えねばあの著しい変化には納得がいかぬのだ。
「会いたかったと泣くアデルはいつものアデルであったよ。そのアデルを辺境伯様は愛おし気に抱きしめられてな。それにまたアデルが嬉しそうに甘えるのだ」
「本当に…?い、いえですが、辛い思いをしているというのでなければ…」
「本来のアデルの姿が辺境伯様のお心を溶かしたというのであれば、それはアデルにとっても幸いであっただろう」
皆が困惑と安堵とが無い混ぜになった何とも言えぬ表情をする中、私は本題へと話をすすめた。
「では父上は南の侯爵グリーンバルト様の推薦をもって東宮へと入られるのですね。ご安心ください。領地の事はワイアットと二人、力を合わせて守って見せましょう。」
「まかせたぞトールキン。先ほど話したようにバーガンディより一人寄越してくださるそうだ。アデルの魔道具を持ってな。私も此度は逃げはせぬ。アデルのためにも必ずや殿下を奮い立たせて見せようぞ!」
アデルが休むことなく研鑽を積みその才を開かせたことを一番喜んだのは妻であった。アデルからの感謝の言葉をいつまでもいつまでも噛みしめていた。
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