イケメン大好きドルオタは異世界でも推し活する

推し活満喫編

黒髪の少年① グラナダ視点

破られた結界の程近く、最終防衛区域。ここを超えると深層部になる。深層部に入ると生息する魔獣のレベルがけた違いにあがる。その最終防衛区域にその巨大な化け物はいた。
9つの首をもつ大蛇、ヒュドラ。
奴は驚異的な回復力を持っており、その首は切ってもすぐに再生する。吐く息は毒を含みその分泌液は岩をも溶かす。9つの首は一つ一つが違う動きをし攻撃をしかける。

力及ばぬ部下をかばいながらの戦いはかえって不利であろう。私は誰も近づかぬよう言い渡し部下を区域外まで下がらせた。

激しい交戦。止まることのない猛攻、だが決め手に欠ける戦いは奴に有利なままじわりじわりと私の体力魔力を奪っていく。
奴の吐き出す毒を含んだ呼気を浴び続け身体が重くなっていく。おのれっ！
その時、左の死角から首の一つが分泌液を飛ばした！
ぐぁぁっ！
左顔面が焼ける。視界が狭まる。しまった！別の首が私を狙う気配がするが左後方がよく見えぬ！

痛手を最小限に納められるよう全身に魔力を巡らせ奴の攻撃に備えたその時、謎の光が私を包んだ。

「なっ！一体なんなんだこの光は！…」

気が付くと顔を覆う焼ける痛みがひいている。それどころかそれまでに受けた負傷も毒にあたった状態異常も全てが即座に回復した。全身を歓喜が駆け抜ける。なんだこの得も言われぬ感覚は。
ヒール？いやハイヒールか。いやそれよりもっと…待て！それを考えるのは後だ！
視界を失ったヒュドラ。今が好機と奴の懐に飛び込む。身体が軽い！それになんだこの跳躍力は！私を追撃する奴の強力な尾端…衝撃を覚悟したが…容易く受け止める。身体が強化されているのか？
先ほどまでの戦いとは雲泥の差だ。今度はこちらが見る見るうちに圧していく。やれるか⁉

まとめあげた9つの首を断ち切ろうと剣を振り下ろしたその時、私の剣がとてつもない雷となって辺り一面を轟音とともに焼き尽くした。

何が起こった⁉だが先のハイヒールと同じものの力だ！
私は魔力の残滓をたどり、それが放たれたであろう場所に目を向けた。

黒目黒髪のどこにでも居そうな…少年…だ…と？こんな場所に何故子供がいる？

「お前…何者だ！どうやってここに⁉」

消えた！転移か？いや違う。視界の隅に姿が見える。
少年を追いかける。だがまだ全ての魔獣を片付けたわけではない。防衛区域を外れた中層に部下たちの姿がみえた。彼もそこにいる。私は少年の位置に最も近い兵に大声で命令した。

「その黒髪の少年を追いかけて捕らえよっ！」


他何人かに追従を命じ討伐に戻ったがあの少年のことが頭からはなれることは無かった。



壊された結界の応急処置が完了し深層に生息する上位魔獣の脅威は収まった。中層に漏れ出していた魔獣の中でも上位のものはようやく片付け終わったようだ。
残りの雑魚は冒険者たちの良い獲物になるだろう。
私は部下からの現状報告を聞きながら拠点へと向かっていた。
だがどうしたことだ。喜ばしいことではあるがこの規模の災害のわりに負傷者の数が少なすぎる。

「何もない空間からポーションの溶液が降り注ぎいきなり傷が消えたのです。訳が分かりませんが皆同じ状況のようです。」
「それだけではありません。戦闘中いきなり威力が上がった気がします。何人もの兵が同じことを証言しています。一体何が…何が起こったのでありますか？」

間違いないそれもこれもあの少年が関わっている。むむ、追いかけて行った者たちはまだか。

拠点に着くと皆異様な興奮に騒めいていた。

「みな討伐で疲れているだろうにどうした？何を騒いでいるのだ？」
「それが閣下…ここにいるものは誰も疲れておりません。それどころか怪我ひとつ無いのです。」
「お前たちもポーションが降ってきたと申すか」
「いえ、それどころかすべてを癒す淡いピンクの星が降って参りました」
「はぁ？なんだそれはピンクの星だと」
「その星に触れたところから怪我も疲れもすべてが消え、まるで天国を散歩しているかのような気分になりました…あぁ、なんとすばらしい体験だったことか」


確信をもって感じる。これもあの少年の仕業だ。えぇい、追いかけて行った兵たちははまだか！