上 下
22 / 247
推し活満喫編

アデルの真実③グラナダ視点

しおりを挟む
離宮へと続く道、気を失ったアデルを運んだ時にはうっそうと草木が生い茂っていたはず。
いつの間にこんなに整然と整備されていたのか。
入り口前も足を踏み入れる場所などなかったはずが…ハーブに…や、野菜?…あ、あぁ、一応花もあるのか。
いろんな種類の植物が乱雑に植えられおかしなことになっていた。
外から見た建物はいつの間にか真っ白に輝いており長年放置されていたとは思えないほどの優美さだ。
中に入ると磨き上げられた廊下に調度品。カーテンの埃臭さや部屋に染み付いたカビ臭さもすっかり無くなっている。
厨は寸前まで使われていたのだろう、調理されるのを待っていた果実や野菜が水分を失った状態で残っていた。
キチンと整理されたスパイスや道具類。自分で調理しているというのは本当だったらしい。

そしておそらく生活スペースとして使っていたであろう部屋に入ると私は驚愕に震える事になる。


「な、なんだこれは…」
「………旦那様の肖像画でございますね。これは…炭でしょうか?上手いものですな」
「か、閣下…その…こちらへ…」
「こ、これは…私か?」
「ほほう!布を縫い合わせて綿を詰めてあるのですな。これはまた芸の細かい…」
「器用ですね」

そこかしこに私を模した人形が飾ってある。その衣装はどれもこれも身に着けた覚えのあるものだ。
炭で描いた肖像画は画家の描く絵画に比べずいぶん簡略化されたもののようだが、どれもこれも一目で私とわかるものだ。


言葉が出ない。何故だ?アデルは入水するほど私を忌み嫌っていたのではなかったのか?
これでは、これではまるで…

「閣下、差し出がましくも口をはさむのをお許しください。私の眼にはいつも、奥方様は閣下に懸想しているようにしか見えませんでした」
「な、何を?」
「私はいつも奥方様と執務室の前で閣下が出てくるのをお待ちしておりましたが、…閣下のお出ましを待つ奥方様はいつも頬を染め熱の籠った眼差しでただ一心に扉を見つめておいででした。扉が開くのを今か今かと…それはもう嬉しそうに、幸せそうに…」
「…………」
「旦那様、僭越ながら言わせていただくと、旦那様のお姿を一目、いや一目では済みませんでしたが、一目見ようとあちらへ追いかけこちらへ追いかけ…直接お渡しすることもかなわぬのにそれでもせっせと護符をお持ちになられる奥方様を…私も健気なものだと思っておりました。」
「だ、だが!」
「何故旦那様はそうまで頑なにアデル様を嫌っておいでだったのですか?」
「私ではない!アデルが、そうアデルのほうが私を嫌っているのだ!」
「いえですが、閣下!私にはあの姿が演技とは思えません」
「メイドが言ったのだ!付き添いのメイドが!アデルは私に嫁ぐのを嘆いて輿入れの道中、湖に身を投げたと」

しばし逡巡した後、珍しく険しい顔でトマスが問うた。

「旦那様、それは本当に事実なのですかな?確認はなさったのですかな?」
「い、いや、だがしかしトマスお前も見ただろう。私の顔を見て慄き気を失うアデルを…」
「私には落雷に驚いて失神したように見受けられましたが」
「私を見るアデルの顔はいつも強張っていた!」
「好意をもった相手と話す場合緊張して強張ることもあるかと」
「握りしめた手も唇もいつも震えていた…」
「恥ずかしがっていたんですよ閣下」

「では、ではアデルは私の事を…本当に?」
私の手の中では小さな私が片方の唇をあげてにやりと笑っていた。



しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...