イケメン大好きドルオタは異世界でも推し活する

kozzy

文字の大きさ
上 下
10 / 247
推し活満喫編

ようやく食材確保できました

しおりを挟む
あれは3年前。坂下クン属する男性ボーカルユニットJJF(ジャンピングジャックフラッシュ)に、デビューしてから初めての舞台公演が決まった。
坂下クンの役は舞台の主役でもあるセンターメンの敵方。街を牛耳る悪の組織のボス役だった。
背が高くてちょっと怖そうな雰囲気のある坂下クンにぴったりの配役だよ。ボス役とは言えポジション的にはもう一人の主役みたいなもので、血も涙もない冷徹非道なボスに見えた彼は実は過去の悲劇から心を壊し闇に染まっていたのだった。という難しい役どころを徹底して感情を抑えた静かな演技で、でもその表情で、しぐさで、悲しみや苦しみを観る者に伝えてきた。
ラストシーン、一筋の涙を頬に静かに息を引き取る彼の姿、思わずもらい泣きしたあの日の気持ちを思い出したら感動で涙がとまらなかった。

まんまじゃん!まんまあの日の坂下クンだよぉ!

もぅ観ることはかなわないと思っていたボス役をまさか異世界で堪能できるとは…はぁ…尊い♡


推しからの過剰な燃料投下に萌え死にそうになりながら今度こそお腹を満たすべく屋敷の探索をはじめた。
キッチンだったら上階ってことはないよね?とりあえず1階をしらみつぶしに見ていこうか。
迷路のような長い廊下を3度ほど曲がるとようやく作業エリアっぽい感じのところにでてきた。
ドアのないオープンな部屋をひとつずつのぞくとその一つが厨房のようだった。
もう夕食の時間はとうに過ぎてるようで何人かの使用人が洗い物などの片づけ作業をしていた。
おっと、奥のほうから何やら美味しそうな匂いが…
みんなちらちら僕を見るけど誰も話しかけては来ない。そういえば貴族って使用人からは話しかけれないんだっけ。

「こんにちは」

僕のほうから声をかけてみる。それでもやっぱり誰も返事はしない。
仕方なく誰も止めないのをいいことにいい匂いのする奥へと向かった。
アーチになった出入口の向こうでは確かに調理をしている。まかないかな?それとも明日の仕込み?

実は僕、日本では洋食屋さんでバイトしてたんだよね。
家族経営のこじんまりとしたお店だったからホールでもレジでも洗い物でもなんでもやった。
暇な時間には仕込みの手伝いもしたし、教えてもらってまかないを作ったりしたこともあった。
楽しかった幸せな思い出だ。あそこにもう行けないのがちょっと寂しい。

大鍋をふるシェフが手を止めたタイミングで声をかける。

「すみませんはじめまして、僕辺境伯様に嫁いできた者です。アデルって言います。疲れから眠り込んでいて夕食を食べそびれてしまいました。」
「………」
「恥ずかしいんですけどお腹がすいてしまって…なにか食事を出してもらうことってできますか?」
「…………奥方様は離宮で好きなように食事をされると聞いています。邪魔をしないよう手出し不要とも。申し訳ありませんがこちらで何かをお出しすることはできません。」
「えっ?え、えぇ~。あっ、あのでもさっきチラッと見た感じ離れの中、食料品置いてあるようには見えなかったんですけど…」
するとシェフはおそらく見習い?であろう人に指示を出し作業を代わると僕を隣の部屋の食糧庫に連れて行った。

「好きなものを好きなだけお持ちください」

あぁそういうことか。要するに自炊しろって事ね。ふ~んそう、好きなものを好きなだけってなんて太っ腹。さすが貴族。
「わぁ、いろんなものがいっぱいですね。なんでも作れそう。…もし足りない材料があったらそろえてもらうことはできますか?」
「……家令のトマス殿にお伝えください。」
「……えぇっと、両手で持ちきれないと思うので籠借りますね」
「……ご自由に」

実に素っ気ない。とりつく暇もない。まあでもシェフが愛想悪くても僕は困らないし。
いわれた通り食材と調味料確保してさっさと離れに戻ろう。
家令のトマスさん以外基本的にみんな愛想悪いなここの人たち。僕どっちかというとコミュ強なんだけどな。
こんな暗い土地のこんな暗い建物の中で長年暮らしていると不愛想になってっちゃうのかな?
僕はそうならないよに気をつけようっと。


廊下を照らすランタンを一つ勝手に拝借し星のない暗い闇の中、草だらけの来た道を戻る。

真っ暗な離宮。向こうのお屋敷ほどじゃないけどここだってけっこうな大きさだよね。2階建ての…部屋もいっぱいありそうな。一部屋一部屋もすごく広いし。貴族の生活レベルは僕の理解を軽く超える。こんな家一軒丸ごとくれちゃうなんてやっぱりグラナダ様ってば気前いいな。
ふといつもきちんと片付けられていた6畳のコンパクトな日本の僕の部屋を思い出した。
もし本物のアデルがあちらに行ってたらあまりの狭さにびっくりしちゃうかな。






いつも掃除してくれていたお母さんを思いだしたらちょっとだけ涙がにじんだ。



しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...