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推し活満喫編

私という存在① グラナダ視点

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私の妻となるべく王家がよこしてきたある田舎貴族のご令息。彼、アデル・カマーフィールドは私の顔を見るなり驚愕に目を見開いたのち気を失い静かに崩れ落ちた。
カマーフィールドの家系は高い魔力を持ちこの地の瘴気には耐性があるはずだ。ならば私の放つ威圧にあてられたのだろうか?これでどうやって子を生すというのか?
仕方なく彼を抱き上げ彼に与えた居住である離宮に運び込んだ。
医師を呼び寄せ診させるとただの緊張からの失神との事。
ベッドで青白い顔をして眠る彼にあらためて目を向ける。
ピンクベージュの長い髪はシーツに広がり手ですくとさらさらと指の間を流れていった。それにしても儚げなずいぶんと可愛らしい顔立ちだ。この国の成人年齢である16才は超えているはずだがそれよりも幼くみえる。
18才と聞いているがまるで14~5才の少年のようだ。これでも閨教育は済んでいるのだろうか?まさかと思うが精通はしているよな?
1~両日中に受精行為を終えあとは形ばかりの夫夫生活を送るつもりでいたが、目を覚まし次第いくつかの確認をし状況によってはすこしゆっくり事をすすめる必要があるだろう。








兄である現国王、そして次代の国王である皇太子にとっていつでも私という存在は脅威であった。
王国随一と称されるありえないほどの魔力量と王国内で並び立つものがいないと言われるほどの剣の腕。
力はわかりやすい権威だ。
実際の私は政り事になどに興味はなかったが私を担ぎ上げ何らかの利を得ようとする者は掃いて捨てるほど多かった。

私を祭り上げようとする者に辟易し、また私の存在そのものが国の安寧を脅かす事を危惧し、この魔獣が湧き出、瘴気におおわれたバーガンディの地に引き籠ると笑えるほど周りが静かになった。
当然だ。私に面会叶うことなく命を落としかねない地になどそうおいそれとは来られまい。
極力中央にに関わらないよう過ごす日々が幾年か過ぎるとようやく私の周りは静かになってきた。しかし今度は私の能力を受け継ぐ者を望む声が王宮の奥深くで密かにではじめた。

これは現皇太子、次代の国王となるクリフトが流行り病を患い、病は完治したものの生殖機能に障害を残したことがわかった為だ。
正妃に他の男をあてがい懐妊したら皇太子の子とすることも夫婦間そして正妃の実家であるデボン侯爵家主導で検討されたようだが王家の血を引かない子供を王子とすることは出来ぬと政の要でもある元老院で瞬く間に否決された。
親の持つ能力は必ず子供に受け継がれる。王家の血が持つ能力は私ほどでなくともそれなりに皆高い。生まれてくる子の能力も当然高くなければ疑念を呼ぶ。ならば外からの凡庸な血よりも能力の継承が保証される他の王族の子を密かに皇太子夫婦の実子とするほうが確かだろう。
ならば現国王と側妃の間にでも子を生し、皇太子夫妻の実子とすればよいと思うのだが兄王はこれを強い私の血を直系に取り込む好機とみたようだ。
なんと勝手な言い草だろうか。
だが王国の未来のため、私のこの高い能力を王の系譜に継承することがいかに有益であるかと言われれば強く拒むことは出来なかった。
いつでも争いの種でしかなかった私の強すぎる能力がこんな形で受け入れられるとは皮肉なものだ。


だが想像もしていなかったことに、幾年もの間誰よりも多く魔獣の血しぶきを浴び濃い瘴気を吸い続けた私は私自身が威圧や瘴気を発する魔物に近い何かに変質しかけていたようだ。
もともとこの地に住まう者や私とこの瘴気の中で長年寝食を共にしてきた部下や使用人たちは私から発せられる瘴気や威圧に適応しているようだがそうではない領外から来た者は私と目を合わせるだけで一様に恐怖に震え時に泡をふいて倒れ半狂乱になって逃げ出した。

それでも魔力量の多い者や魔法レベルの高い者など魔力操作に長けた者は私から放せられる瘴気や威圧にも耐えられることがわかってきた。
すると魔力に自信のある幾人かが婚姻を結ぶべくやってきた。が、その誰もが時に倒れ、時に口汚く私を罵りながら10日以内に出て行った。

その頃にはすっかり私は人間不信になっていたのだ。
捨て置かれたバーガンディの地。王国の平和はこの地を封じることで成り立っていると言うのに現実を知らない領外の人間は好き勝手に噂する。この地より離れ王都に近づけば近づくほどその噂の内容は酷いものになっていく。
魔に落ちた魔人卿。魔に呪われた辺境伯。人の皮を被った魔人。
それなのに子を作り寄こせという。私を種馬としか見ない者どもへの言いようのない怒りで婚姻をのぞむ彼らを殊更酷く扱い罵ってやったのだ。

もう誰も私を望むな。放っておいてくれ。私はこのままここで魔獣を屠り続けいつか魔獣の屍の上に墓標を建てるつもりだ。

そんな時に届けられたのが今回の勅使だった。
いつまでも子を作らない私に焦れた国王が勅命をもって婚姻届けを寄こしてきたのだ。署名の上使いの者にその場で渡すよう記されている。もうどうでもいい。私は署名すると用紙を乱暴に投げつけた。

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