悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド

kozzy

文字の大きさ
上 下
179 / 179
卒業後

いく年くる年

しおりを挟む
今日は大晦日。だけど屋敷の主人は外遊中。せっかく二人で迎える初めての大晦日だって言うのに僕は一人淋しくお留守番。そう言えば去年の婚約中もレグは年末居なかったんだよね…。

僕は気持ちを切り替えてレッドフォードのお屋敷でアリエス達と年越しを過ごすことに決めた。


「ただいまアリエス。オリヴィアさん。パットくんは居る?」
「あらお帰りなさいテオちゃん。殿下、いいえヒュペリオン公はご一緒ではないのかしら?」

「オリヴィアお義姉さま、レグルス様は現在国外においでなのですよ。海が荒れて新年に戻れなかったのですって。」


僕が説明するよりも先に、離れからやって来たアリエスが説明してくれる。良かった。僕が話すとシンミリしちゃいそうで…オリヴィアさんに心配かけちゃいけないからね。


「本当はクリスマスに戻る予定だったんだよ。せっかくセーター編んで待ってたのに!」
「ええ本当に。僕とアルタイルにくださったベストもまるで鎧のように頑丈で…、あれなら何があっても守っていただけそう。外遊にでるレグルス様にこそ必要だと言うのに。」
「え?あ、あの…、そんな鎧は作ってな…」

「あらあら。年々大作になっていくのね。そうそう、パットは旦那様が王城へ連れて行ってしまわれたのよ。旦那さまったら会う人ごとに「類まれな傑物になる予兆がある!」などと自慢して歩いて…。あれほど溺愛されるとは思ってもみなかったわ」


愛情深いお兄様はパットくんへの親ばかぶりを微塵も隠そうとはしない。でもいいと思う!


「パットは可愛いもんね。1歳だって言うのに言葉だってしっかりしてとっても賢いよ?さすがお兄様の息子!」

「ふふ。それじゃあテオちゃん、年越しはレッドフォード邸で過ごすのね?まぁ嬉しい事!」

「うん。だから今からおせちちつくろうと思って。」

「オセチ?お兄様それは…」

「新年に食べる幸運の寄せ集めセットだよ。お料理の一つ一つに意味があるの。アリエス手伝ってね。」






しっちゃかめっちゃかな厨房を覗き込んだのはアリエスの旦那様で僕の友人アルタイルだ。


「テオ、やっぱり来てたんだな」
「アルタイル。毎日お兄様の無茶振り…お疲れ様。それよりジローのところに行ってたんでしょ?元気だった?」
「ああ、テオに頼まれたあの蜘蛛みたいなドロン?に悪戦苦闘してたよ。風の魔力を籠めて欲しいと呼ばれたんだが…、テオ、何だあれは?」

「ドローンね。小型の飛行模型だよ。遠隔で自由に動かしたいって言ったの。バッテリーと送信機と受信機があったら出来るって。そうしたら魔石をバッテリー兼受信機にしてして操縦者の魔力に同調させて制御出来るようにしてみるって。」

「じゃぁ魔石に魔力を注いだものが操縦しなくちゃならないってわけか?」

「そうみたい。僕魔法ほとんど使えないからわかんないけど。でもこれが出来たら人が入れない場所に荷物を運んだり様子を覗いたり出来るようになるよ。この間タウルスが困ってたでしょ?昔の戦乱跡地を調査したいのに老朽化した建物が危なくて下級騎士では簡単に入れないって。これがあったら便利だよ?」

「…それは便利だな」

「僕の薬草園に空から肥料を撒いたりとかもできると思って!」
「お兄様それって…、じゃぁ疫病の流行った地区に上空から浄化薬を散布出来るという事ですか?」

「そうだよ。あっ!もしかしてアリエスが困ってた東端の領だね」
「ええ。領全体に伝染性の病が蔓延して…、安心して踏みこめるのは僕だけなのです。ですが一人で全てを癒してまわるのは現実的では無くて…。元老院からは他領へと波及する前に何とかせよと言われていたのです。」

「役に立つと良いね。ジローには早くしろって言っとく」
「止めてやれテオ…。ジローが倒れる。他人事じゃないがな…」


それぞれみんな、日々ひたむきに仕事へ向き合っている。お仕事してないのは学術院へ進んだ僕だけ。でも僕には神獣様の宝玉という、何にも代えがたい任務があるから許してね。





「テオ君!」
「リヒャルト君!タウルス!」

「会いたかった!久しぶり!」
「僕も会いたかった。そっか。冬だものね。タウルスに会いに来たの?」
「そう。お父様は相変わらず渋ってたけど…」

「いい加減諦めればいいのに。ねぇタウルス」
「はは、そう言ってやるな。父親なんてそんなもんだ」


会えると思ってなかった人に会うとサプライズ感満載で嬉しくなるよね。あ~あ、ルトガー君も居たら良かったのに…。


「それより何作ってるの?」
「おせちだよ。いい?今から説明するね。この卵焼きはクルクル巻いてあるでしょ?これは巻物に似ているから勉強頑張れ!って言う意味ね」

「凄く綺麗に巻けてるね。テオ君上手!」
「それ巻いたのアリエス…。ま、まぁいいや。次コッチ。このブラックビーンズは魔除けと、それからマメになるようにって言う意味ね」

「甘くて美味しい!これは…デザート?」
「テオ、どうしてビーンズの意味がマメなんだ?」
 

ぐっ、日本語との互換性が…、タウルスめ、余計なことを…


「次行ってみよう!このジャイアントへリングの卵が数の子ね。ちょっとサイズ感が大きいけど…でも食感は同じだったから」
「魚卵を食べるのか…」

「アルタイル…、そんな嫌な顔しなくても…。この国の人達って魚の卵食べないよね?イクラも明太子も美味しいのに…。でもこれは子宝に恵まれる!っていう意味があってね」
「ではその時点で僕たち全員関係ありませんね」


アリエス…、それを言ったら身も蓋も無いから…


「…次。これはバッチリ!バッチリだから!栗きんとん!栗をサツマイモのペーストでくるんだものでね、きんとんは金のことなんだよ。もっともっと栄えるようにって言う意味!」

「では大きなボウルをその〝きんとん”とやらで満たしてしまおうか」
「ハインリヒお兄様!お帰りなさい!」

タタタタ、ボスッ!

「おや?人妻となったのに困った子だ。甘えん坊は変わらないのだね」
「だって…」

「ふふ、良いではありませんの。せっかくの夜に甘えたい相手が居ないだなんて…あんまりですわ」
「代理という訳か。願ったりだ。おいでテオ。」


新婚なのにぼっちの可哀想な僕をハインリヒお兄様は思う存分甘やかしてくれた。まるで昔に戻ったみたい。ちょっと嬉しい…。

そんな風にして過ごした大みそかは、家族や親しい友人に囲まれ和気あいあいと楽しく語らって、特にリヒャルト君とは積もる話に花が咲いて淋しさなんか感じる暇も無かったよ。



ほんの一口だけどワインを飲んだ顔が火照って熱い。レッドフォード邸にそのまま残してある裏庭に面した僕の寝室。部屋に戻ると僕は涼むために窓を開けた。

「この空の向こうで今頃レグもケフィウスさんと乾杯とかしてるのかな…?ちぇ…」

そんなつまらない事を思ったりする。ダメダメ。海は気まぐれなんだから。わがまま言っちゃダメ!



そんなことを考えながらうっかりウトウトしてしまった僕が目を覚ましたのはふわりと肩に何かがかけられたから。アリエスかな?
「日にちの変わるところを見たいからもし寝てたら起してね」って言ってあったんだよね。


「テオ。直に零時だよ。」
「レグ‼」
「可愛い顔に見蕩れてしまった。だけど窓を開け放したまま眠ってはいけないよ。風邪をひいてしまう。」

「ご、ごめんなさい、それよりレグ、いつ帰って来たの⁉」
「つい先ほど。夫夫となって初めて迎える年の節目だ。どうしても君の瞳に一番最初に映りたくて…、ケフィウスに無理を言った。船員たちを後で労わなくてはね。」

「レグ!レグ!僕嬉しい!ホントはね、今日はレグと一緒に過ごしたかったの…」
「テオ、私もだ。毎日君が恋しかったよ。」


レグとの二年をまたにかけたカウントダウンキッス…、それは少し潮の味がして、レグが本当に急いでここに飛んできてくれたんだなって思ったら、息が白くなるような冬の深夜だと言うのにとっても心がほっこりした…。



新しい年…みんな幸せに過ごせますように。ハブアハッピーニューイヤー!




しおりを挟む
感想 86

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(86件)

んぎ
2024.09.16 んぎ

三連休使って一気に読ませて頂きました。
自分に正直で一生懸命なテオくんが大好きです。
レグだけでなくテオを好きになった人たちみんなが、自分自身と向き合って良い未来へと進んでいっているのがとても素敵でした。
きっとこれからも可愛らしい悪役公爵夫人に皆が振り回されて、笑顔になっていくんだろうなあ、と私もにっこりしてしまいました。
大満足の文字数ととても温かな読後感で、読んでよかったという気持ちでいっぱいです。
素敵な作品をありがとうございました!

2024.09.16 kozzy

三連休のお供にしていただきありがとうございます。

このお話は私も地味に気に入っています。
難産だっただけに思い出深いです…(´;ω;`)ウッ…

素直なテオに触発されてみんな成長していったんでしょう。
これからもみんな幸せに暮らしていくと思います。

ありがとうございました。

解除
四葩(よひら)

久しぶりのシリーズ更新ありがとうございます🎵
またみんなに会えて嬉しいです。
相変わらず何か作っても日本語との齟齬に苦しむテオくんw
アリエス達のツッコミも鋭い(笑)
確かにオセチ、伝わりにくいですよね。名前違うと🤣

でも、わいわい賑やか過ごすのかと思いきや、最後にロマンチックに決めててくれてそういうところレグルスらしいなと思いました💕
新年明けましておめでとうございます。今年もご活躍、応援しています( *´艸`)💕

2024.01.01 kozzy

二連投、何も考えずに承認しちゃいました。一個消せば良かったかな?でも嬉しかったので…(*´ω`*)

今年の作品なので年末には…って決めてました。
みんなの近況が伝われば良いな…と思って。

今年もよろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ

解除
四葩(よひら)

久しぶりのシリーズ更新ありがとうございます🎵
またみんなに会えて嬉しいです。
相変わらずに賑やかで、日本語との齟齬に1人苦しむテオくん😅💦
でも、縁起物ですし、食べたらきっと福が来ますよね😊

タウルスがゴールインしていないけれど、気長に待つ方向なのが彼らしいw
レグルスも相変わらず決めるとこ決めててくれて、テオくんに結局甘い皆が幸せそうで良かったです( *´艸`)💕

解除

あなたにおすすめの小説

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。