悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド

kozzy

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高等部1学年

63 イベント違いの階段 12月

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学院のよく磨かれた木目の階段は女子生徒のフワフワしたスカートを考慮して少し広めのスロープだ。ゲームの中のアリエスの尻もちイベントがこの階段だ。スロープの向こう側、大きな窓がたくさんの日差しを取り込んで、アリエスと手を差し伸べる王子の二人がキラキラと輝いていたのを覚えてる。
だからその場にその女子たちが数人固まっていても全然おかしくはないんだけど…


「ああら、どこからか甘い匂いが漂ってくるわ。困ったものね。トワレの存在も知らぬ野蛮人は厨房のバターでも塗り付けて来たのかしら。」

通りすがりの僅かな間にも嫌みを言うのを忘れないなかなかマメな令嬢だ。何人もの取り巻きを引き連れたこの令嬢、ドラブ侯爵令嬢だってアルタイルが教えてくれた。
テンプレ過ぎてうっかりくすっと笑ったらものだから、もの凄く怖い顔で睨まれた。
だけどゲームの中には居なかったよね?…いや、居たかもしれないけど…ゲームの中には真の悪役テオドールが存在したから日の目を見る事なかったのかな?だってテオドールの嫌がらせときたらあきれるほどわかりやすくて、こんな階段の踊り場なんかですれ違った日には躊躇なくその背中を…ドンッ…そうこんな風に…って!

「ひゃぁぁ!」
「テオっ!危ない!」

階段から落ちかけた僕の腕をつかんで引き留めてくれたのは横を歩いていたアルタイル…。ああびっくりした…もう少しで前々前世まで思い出すとこだった…

「セリッシュ嬢、さすがにこれは見過ごせない。階段から突き落とそうなど…危険極まりない!大怪我をしたらどうするつもりだ!」

「わたくしは何もしておりませんわ。こちらの子爵令嬢、アニーの肩が少しぶつかっただけでございましょう?大袈裟な。伯爵家の次男風情がこのわたくしに濡れ衣を着せるおつもり?」

「この場に爵位は関係ない。少し肩がぶつかっただと?よくもそんなことが言えたものだ。俺の目の間でこのようなこと…それでもしらをきるおつもりか⁉」

「仮にぶつかったのが事実だとしても、身体能力か魔力があれば軽く躱せる程度のものですわ。ねぇ皆さまそうでございましょう?それともそこの無作法者は…ああ、そうそう。どちらも持ち合わせが無いのでしたわ。おほほほほ、ああおかしい。」

「いいよアル、相手にしなくていいよっ!もう行こっ!」
「だがテオドール……わかった、お前がそう言うのなら。」

ゲームのテオドールに負けず劣らずなかなかの悪役っぷりだ。もしも僕が怪我してたら損害賠償請求出来たのに!ムカムカする気持ちを呪文を唱えて必死になって我慢する。
相手にしたら負け…相手にしたら負け…ううう…相手にしたら負けだからっ!僕は悪役令息テオドールにはならないってずっと前に決めたでしょっ!

クスクスと笑う取り巻きで出来た花道みたいな階段を降りきると、見ず知らずの上級生がぶちまけて落とした僕の本をきちんと揃えて手渡してくれた。

「え?拾ってくれたの?…あ、ありがと…」
「っ…い、いえ!」

一般生徒に話しかけられたりなんて普段ほとんどないもんだから…ささくれだった心にはこんなささいな親切ですら染みわたるように嬉しかった。








どんどんひどくなるセリッシュ嬢とその取り巻き達。令嬢側に肩入れする他生徒たちもテオを遠巻きにしてけっして近づくことは無い。チラチラと悪意と好奇心をないまぜにした視線で無遠慮に覗き見られテオはさぞ不快だろうに…
悪い子供と言われただけであれほどショックを受けたテオ…こんなにもあからさまな害意にさらされて平気でいられるわけがない。

俺はデルフィヌスに相談をもちかける。

「デルフィヌス、これは一体なんだと思う?殿下が抑えたはずの誤解が消えるどころか輪をかけて酷くなる一方だ。何かがおかしい…」

「それは僕も気になっていた。何故だ?武器関係のいいがかりはレグルスの命で消したはずだ」

「だが、その風評に後押しされてセリッシ嬢はますます礼を欠いている。今では俺やアリエスまでも見下し嘲笑する有り様だ。嫌な感じだ。あの顔…何か企んでいるような…」

「僕も気を付けて見ていよう。それにしても武器か…あれはレッドフォードの名義にしたが、セリッシュ嬢の横槍がはいらぬよう念のため商業ギルドに探りを入れるか…」

「それならば良い考えがある。俺の知り合いに近々店をかまえる奴がいる。取り扱うのはテオの作った便利な道具だ。ギルドへの出入りが不自然じゃない。それにスラムに詳しいあいつなら裏社会にも顔見知りは多い。頭の回転もはやい彼なら世間話を装って話を引き出すのも容易だろう。探りを入れるだけならおそらくそのほうが上手くいく」


ジロー、そうだ。奴ならきっとテオの力になるためならばどんな危険の中にでも自ら飛び込んでいくだろう。
俺にはかなわぬ身軽さでテオの居場所を守るジロー。心がチリチリと焼けていくが…いや、羨んでも仕方ない。俺は俺のやり方でテオドールを守るのだ。

「テオの道具…それはジローと呼ばれるあの彼だな?レグルスが警戒を露わにしている。アルタイル、君が親しくしていたとは。…いいだろう、ならば一度会わせてもらえるか?日時と場所は君に任せる。だが早急にだ。時間をかけてはまずい気がする」


これ以上テオドールを不躾な視線にさらしたくない。そのために俺たちは行動を始めたのだ。










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