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14歳
46 ルート アリエス
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僕の夜会デビューが王宮の舞踏会だなんて…考えてもみなかった幸運に身体が震える。
7歳の年まで過ごした薄暗い歓楽街。あのままあそこにいたとしたら一生かかっても縁の無い、雲の上の不似合いな場所。きっと侯爵家に引き取られた後だって、テオドールお兄様が居なければやっぱり行けなかっただろう場所。
それなのに、こうして招待されただけでなく…
「お兄様と踊れるなんて…なんて幸運…まさに奇跡…」
「2曲も踊りきるなんてな…殿下に睨まれても知らないぞ。」
行きは公爵家のデルフィヌス様が迎えに来てくださった。帰りは方向が同じだからと侯爵家のタウルス様が送って下さる。タウルス様…一時は顔を見るのも腹立たしかったけど、今では逆に一番ましなんじゃないかと思っている。何故なら彼は戦線に立つつもりがないようだから。
「殿下に睨まれたところで特に困りはしませんよ。むしろ今僕はハインリヒお兄様と共闘中ですからね。」
「…ほんとに好きなんだな…どうするつもりか知らないが…」
「どうとでもなると思っていますよ。僕はもとは平民。こうみえて図太いんです。ふふっ知らなかったでしょう?」
「可愛い顔で笑うんだな…お前を好きでいられた時が懐かしいよ。」
「ふふふ…今のタウルス様ならきっと素敵な恋人が出来ますよ。」
お別れの挨拶をして馬車を降りる。
暗い小道を抜け離れへ向かっているとハインリヒ様が……お出迎えに来てくださった…あ~あ、せっかくのいい気分が台無しだ…
「随分楽しんだようだな、初めての夜会を。」
「そうですね、そのせいかうっかり羽目を外してしまいました。すみません。少し浮かれていたようです。」
「…まぁいい。お前がいなければ、あの青い髪の伯爵令息がテオをバルコニーへと誘っていただろう。」
「…よく見てるんですね。僕は気がつきませんでしたよ?」
「テオの手を取りながら何度も視線が外へと向いていた。お前の2曲目は渡りに船だ。許してやろう。テオの手は柔らかかったか?」
「…どういう意味でしょう?分かりかねますが…」
ハインリヒ様のもの言いはいつもこうだ。その視線も僕を見下す。生みの母の行為を思えば仕方がない部分もあるが、息子の僕にいつまでもこうして悪意をぶつけてくるのはそれも違うと思うのだ。
「お前のテオを見る目に私が気づいていないと思うのか。だが、今のようにわきまえてさえいるのであれば、あれの不肖の義弟で居ることくらいはこれからも許してやる。テオは何故か昔からお前を気にかけているようだからな。」
「…ありがとうございます、ハインリヒ様…」
「今後も決してあれらを近づけさせるな。わかったな。」
言いたいこと言って…まぁ、僕としても誰も近づけさせる気はないからいいんだけど…
それにしても、問題はお兄様がハインリヒ様にかなり懐柔されていることだ。兄としか見れないでいるのは幸いだった。おかげで婚姻には後ろ向きだ。残された猶予はあと2年…期間はけして長くない…
「お帰りなさいませ、アリエス様。夜会はいかがでしたか?」
「ただいま戻りました。ウォルター、このお兄様からいただいた衣装、大切に大切に保管しておいてくださいますか。」
「もちろんでございます。テオドール様のお下がりとはいえ、大変に質の良いものを頂きましたね。」
「ふふふ、質はもちろんなのだけど…実はね…お兄様と踊ったんだ!それもお兄様からお誘いくださって!ああ…とても幸せだった…楽しかった…今日と言う日を僕は一生忘れない…」
「記念の衣装と言う事ですね。では保存魔法をかけておきましょう。」
「ふふ、お願いします。ああ…お兄様…いい匂いがした…なんだろう?トワレじゃない…もっと優しい…ああ、お兄様が育てているハーブの香りだ…」
「テオドール様のお衣装はいかがでございましたか?」
「殿下から贈られたあの衣装…良くお似合いでしたよ、悔しいけれど。それにワイルドベリーのブローチをお付けになられて…。あれは…最高品質のルビーでした。王家だけに献上される…。」
文句のつけようもないほど深い発色の真っ赤なルビー。
「…お兄様にはもっと柔らかい色合いのほうがお似合いになる。僕のあの指輪のような…」
いつかお兄様にお渡ししようと思ってた、数年前にここで見つけたきれいな指輪。
ここはお父様のご友人がお使いだったとそう聞いている。療養なさっていたのだと。ここで僕にものを教えてくれるのは教授先生も来ない今、ウォルターだけになってしまった。そのウォルターも言葉を濁すし、そもそも誰も話題にしないのは…良い結果ではなかったんだろう…。
その彼の指輪だろうか?手作りの…ガラス細工のきれいな指輪。細工がすごく細やかで意匠もとても素敵だから…。
オーロラ色に輝くその指輪。…庭の隅、サネカズラの木の根元に落ちていた。落とし物か捨てられていたのか分からないけど…持ち主がいないなら頂いてもかまわないよね…?
覚えたてのクリーンでキレイにしてガラスを磨いた。可愛い箱に入れてリボンもかけた。いつかお兄様にこれを…渡せる日が来ることを今日も祈ってベットに入る。
ここ最近で一番の良い夢をみられることを確信しながら…
7歳の年まで過ごした薄暗い歓楽街。あのままあそこにいたとしたら一生かかっても縁の無い、雲の上の不似合いな場所。きっと侯爵家に引き取られた後だって、テオドールお兄様が居なければやっぱり行けなかっただろう場所。
それなのに、こうして招待されただけでなく…
「お兄様と踊れるなんて…なんて幸運…まさに奇跡…」
「2曲も踊りきるなんてな…殿下に睨まれても知らないぞ。」
行きは公爵家のデルフィヌス様が迎えに来てくださった。帰りは方向が同じだからと侯爵家のタウルス様が送って下さる。タウルス様…一時は顔を見るのも腹立たしかったけど、今では逆に一番ましなんじゃないかと思っている。何故なら彼は戦線に立つつもりがないようだから。
「殿下に睨まれたところで特に困りはしませんよ。むしろ今僕はハインリヒお兄様と共闘中ですからね。」
「…ほんとに好きなんだな…どうするつもりか知らないが…」
「どうとでもなると思っていますよ。僕はもとは平民。こうみえて図太いんです。ふふっ知らなかったでしょう?」
「可愛い顔で笑うんだな…お前を好きでいられた時が懐かしいよ。」
「ふふふ…今のタウルス様ならきっと素敵な恋人が出来ますよ。」
お別れの挨拶をして馬車を降りる。
暗い小道を抜け離れへ向かっているとハインリヒ様が……お出迎えに来てくださった…あ~あ、せっかくのいい気分が台無しだ…
「随分楽しんだようだな、初めての夜会を。」
「そうですね、そのせいかうっかり羽目を外してしまいました。すみません。少し浮かれていたようです。」
「…まぁいい。お前がいなければ、あの青い髪の伯爵令息がテオをバルコニーへと誘っていただろう。」
「…よく見てるんですね。僕は気がつきませんでしたよ?」
「テオの手を取りながら何度も視線が外へと向いていた。お前の2曲目は渡りに船だ。許してやろう。テオの手は柔らかかったか?」
「…どういう意味でしょう?分かりかねますが…」
ハインリヒ様のもの言いはいつもこうだ。その視線も僕を見下す。生みの母の行為を思えば仕方がない部分もあるが、息子の僕にいつまでもこうして悪意をぶつけてくるのはそれも違うと思うのだ。
「お前のテオを見る目に私が気づいていないと思うのか。だが、今のようにわきまえてさえいるのであれば、あれの不肖の義弟で居ることくらいはこれからも許してやる。テオは何故か昔からお前を気にかけているようだからな。」
「…ありがとうございます、ハインリヒ様…」
「今後も決してあれらを近づけさせるな。わかったな。」
言いたいこと言って…まぁ、僕としても誰も近づけさせる気はないからいいんだけど…
それにしても、問題はお兄様がハインリヒ様にかなり懐柔されていることだ。兄としか見れないでいるのは幸いだった。おかげで婚姻には後ろ向きだ。残された猶予はあと2年…期間はけして長くない…
「お帰りなさいませ、アリエス様。夜会はいかがでしたか?」
「ただいま戻りました。ウォルター、このお兄様からいただいた衣装、大切に大切に保管しておいてくださいますか。」
「もちろんでございます。テオドール様のお下がりとはいえ、大変に質の良いものを頂きましたね。」
「ふふふ、質はもちろんなのだけど…実はね…お兄様と踊ったんだ!それもお兄様からお誘いくださって!ああ…とても幸せだった…楽しかった…今日と言う日を僕は一生忘れない…」
「記念の衣装と言う事ですね。では保存魔法をかけておきましょう。」
「ふふ、お願いします。ああ…お兄様…いい匂いがした…なんだろう?トワレじゃない…もっと優しい…ああ、お兄様が育てているハーブの香りだ…」
「テオドール様のお衣装はいかがでございましたか?」
「殿下から贈られたあの衣装…良くお似合いでしたよ、悔しいけれど。それにワイルドベリーのブローチをお付けになられて…。あれは…最高品質のルビーでした。王家だけに献上される…。」
文句のつけようもないほど深い発色の真っ赤なルビー。
「…お兄様にはもっと柔らかい色合いのほうがお似合いになる。僕のあの指輪のような…」
いつかお兄様にお渡ししようと思ってた、数年前にここで見つけたきれいな指輪。
ここはお父様のご友人がお使いだったとそう聞いている。療養なさっていたのだと。ここで僕にものを教えてくれるのは教授先生も来ない今、ウォルターだけになってしまった。そのウォルターも言葉を濁すし、そもそも誰も話題にしないのは…良い結果ではなかったんだろう…。
その彼の指輪だろうか?手作りの…ガラス細工のきれいな指輪。細工がすごく細やかで意匠もとても素敵だから…。
オーロラ色に輝くその指輪。…庭の隅、サネカズラの木の根元に落ちていた。落とし物か捨てられていたのか分からないけど…持ち主がいないなら頂いてもかまわないよね…?
覚えたてのクリーンでキレイにしてガラスを磨いた。可愛い箱に入れてリボンもかけた。いつかお兄様にこれを…渡せる日が来ることを今日も祈ってベットに入る。
ここ最近で一番の良い夢をみられることを確信しながら…
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