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14歳
42 お披露目は吉か狂か
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夜会の為に訪れたお茶会以来の王宮は、なんだかとても居心地が悪い。
「ほら…あれ…」
「ああ、あの…」
コソコソと扇の向こうから僕を見る。うう…何言ってんのか聞こえないけどやな感じ…ゲームのテオならこんなこと、気にも留めなかっただろうに。
「ほらテオドール、私の手を取って。大丈夫かい?」
「お兄様…もう帰りたい…。」
「ああ…可哀そうにテオドール。最低限の義務さえ果たしたらさっさと帰ってしまおうね。」
ハインリヒお兄様とこうして2人で夜会に出るのは…なんと初めての事なのだ。
僕は社交の場なんて今までずっと出なかったし、お兄様もお母様もそれでいいって言ってくれてたから。
そうして通された王子たちが歓談するドローイングルーム。目の前にはロマンスグレーの美中年。
「よく来たねハインリヒ。そしてテオドール、ようやく君を公に披露することが出来る。噂通りの美貌じゃぁないか。よくもここまで隠しおおせたものだ。」
「甚だ不本意ではありますが。宰相殿。それよりあれはどう言うことだ。殿下は、いや王家はテオドールを都合の良い金の卵をうむ鵞鳥とお思いか。まさか飼い殺すおつもりか。」
「些かそれは不敬であるぞ、ハインリヒ。口を慎まぬか。」
「だがそれが社交界では真実のように語られる。私の弟をそのように愚弄するなど」
ヒィィ…大人の口論ってマジ怖い。迫力が違う。もう僕はいたたまれなくてオロオロするばかり。
そうしたら宰相の息子、デルフィが連れ出しに来てくれた。
「こちらへテオドール」
それにしたってあっちもこっちも飼い殺す飼い殺すって、そこに僕の人権は?
「すまなかったねテオ。嫌な話を聞かせたね。だから君をここへ連れて来たくはなかったんだ。」
「王子、ねぇどう言うこと?卵って何?僕は卵なんか生まないよ…?」
「お兄様の、お知恵の話ですよ。」
「アリエス…」
お母様はアリエスの同行を許さなかった。
だけど王子が直接招待状を届きに来た上、公爵家であるデルフィが迎えの馬車を寄こしたものだからお母様もそれ以上何も言えなかった。
僕の衣装は王子からの特注品があったから、アリエスには僕の、着もしないのに毎年新調してた手付かずの衣装をあげた。僕の衣装は最高品質だから立派な見栄えがするだろう。
僕の目の前で衣装を身に着けくるくると回るアリエスはさすが主人公と言わざるをえない可愛さだったけど、袖と丈を少しずつ出さなきゃいけなかったのは納得がいかなかった…
う~ん、12歳くらいまではあんまり変わらなかったのに…ゲームのアリエスより上への発育が良いんだけど?ああっ、いじめがなくて食事事情が良いからか!
「お兄様手のひら叩いてどうしたんです?それよりも殿下。これは一体どういうことです?殿下の思惑がそこにあったとは…そういうことですか…すっかり騙されましたよ。」
「やめてくれないか、それはただの誤解だよ。私がどれほど心から婚約を望んでいるのだと話しても誰もそうは受け取らないのだ。まったくもって君の悪評はなんて手ごわいんだ。」
「王太子妃の座を狙う者にとってテオは邪魔者でしかないからね。なんとかして筆頭の座から引きずりおろそうとして…どいつもこいつも…度し難いな!」
よく分からないけど、引きずり降ろされるらしい…それって…断罪フラグじゃありませんか?
何としてでも僕を悪役令息にするための、ゲームの強制力を感じずにはいられない。
ぞぞぞ…
「怖いっ!」
「「「!」」」
「心配いらない、テオドール。私は巨利を得ようと君を望んだわけじゃない。君という人の、何事にも捕らわれない天真爛漫な姿に惹かれたんだよ。両陛下にもそれは伝えてある。君は君の思うがままで居ればいい。住む場所が王宮になるだけだ。」
「惹かれ…?」
えぇっ!いつの間にそんなことになってたの!うそっ?…そんなはずない…ある訳ない…だって王子は…
断罪の直前までテオの話に耳を傾けてくれた正しくて公平で優しい王子。みんながテオを責める中、王子だけが庇ってくれた。だからテオはますます王子に愛されたくて……でも、その王子はすごく冷たくテオに罪状を告げるんだ。何度も何度も、誰のどのルートを進んだって、最後に断罪を言い放つのはいつでも王子。
ロイヤルスマイルは感情を隠す鉄壁の仮面。
仮面の裏ではいつだって、心の閻魔帳にテオの罪を書き溜めている。
思うがままなんて…そんな言葉をうのみにしたら…ひぃ!どんな目に合うかわからない。
うっかりその気になんてなるもんか。ゲームのテオと僕は違う。僕はゲームを知っている。
「お、お兄様?」
「ふんっだ。何言われたって別に平気。僕は王子と結婚なんて絶対しないし、これはあくまで16までの仮だから。」
「…じつに手ごわいね、君は。そうか。絶対しないのか。…いいね。燃えて来た。」
「よせ、レグルス。テオ、君は冒険者になりたいと、そう言っていたけど、今でも気持ちは変わらないのか?」
「変わらない!」
「楽しそうですね皆さん。」
「殿下、遅くなりました。さぁ広間へ行こう」
のんきな声をかけながらアルタイルとタウルスがやってくる。
これが楽しそうに見えるだなんて、二人の目は節穴だろうか?
「ああ、よく来たね。今日はテオの側からけして離れないよう、よろしく頼むよ。何しろ隙あらば彼を貶めようとする輩が掃いて捨てるほど居るからね。」
王子は僕にSPを用意してくれた。だけど…僕だってやられっぱなしでは居ないからね。
そうだよ!何しろ僕は悪役令息。やられたら…倍返しだ!
こうして攻略対象者たちを従えた僕は煌びやかなホールへと覚悟の一歩を踏み出した。
「ほら…あれ…」
「ああ、あの…」
コソコソと扇の向こうから僕を見る。うう…何言ってんのか聞こえないけどやな感じ…ゲームのテオならこんなこと、気にも留めなかっただろうに。
「ほらテオドール、私の手を取って。大丈夫かい?」
「お兄様…もう帰りたい…。」
「ああ…可哀そうにテオドール。最低限の義務さえ果たしたらさっさと帰ってしまおうね。」
ハインリヒお兄様とこうして2人で夜会に出るのは…なんと初めての事なのだ。
僕は社交の場なんて今までずっと出なかったし、お兄様もお母様もそれでいいって言ってくれてたから。
そうして通された王子たちが歓談するドローイングルーム。目の前にはロマンスグレーの美中年。
「よく来たねハインリヒ。そしてテオドール、ようやく君を公に披露することが出来る。噂通りの美貌じゃぁないか。よくもここまで隠しおおせたものだ。」
「甚だ不本意ではありますが。宰相殿。それよりあれはどう言うことだ。殿下は、いや王家はテオドールを都合の良い金の卵をうむ鵞鳥とお思いか。まさか飼い殺すおつもりか。」
「些かそれは不敬であるぞ、ハインリヒ。口を慎まぬか。」
「だがそれが社交界では真実のように語られる。私の弟をそのように愚弄するなど」
ヒィィ…大人の口論ってマジ怖い。迫力が違う。もう僕はいたたまれなくてオロオロするばかり。
そうしたら宰相の息子、デルフィが連れ出しに来てくれた。
「こちらへテオドール」
それにしたってあっちもこっちも飼い殺す飼い殺すって、そこに僕の人権は?
「すまなかったねテオ。嫌な話を聞かせたね。だから君をここへ連れて来たくはなかったんだ。」
「王子、ねぇどう言うこと?卵って何?僕は卵なんか生まないよ…?」
「お兄様の、お知恵の話ですよ。」
「アリエス…」
お母様はアリエスの同行を許さなかった。
だけど王子が直接招待状を届きに来た上、公爵家であるデルフィが迎えの馬車を寄こしたものだからお母様もそれ以上何も言えなかった。
僕の衣装は王子からの特注品があったから、アリエスには僕の、着もしないのに毎年新調してた手付かずの衣装をあげた。僕の衣装は最高品質だから立派な見栄えがするだろう。
僕の目の前で衣装を身に着けくるくると回るアリエスはさすが主人公と言わざるをえない可愛さだったけど、袖と丈を少しずつ出さなきゃいけなかったのは納得がいかなかった…
う~ん、12歳くらいまではあんまり変わらなかったのに…ゲームのアリエスより上への発育が良いんだけど?ああっ、いじめがなくて食事事情が良いからか!
「お兄様手のひら叩いてどうしたんです?それよりも殿下。これは一体どういうことです?殿下の思惑がそこにあったとは…そういうことですか…すっかり騙されましたよ。」
「やめてくれないか、それはただの誤解だよ。私がどれほど心から婚約を望んでいるのだと話しても誰もそうは受け取らないのだ。まったくもって君の悪評はなんて手ごわいんだ。」
「王太子妃の座を狙う者にとってテオは邪魔者でしかないからね。なんとかして筆頭の座から引きずりおろそうとして…どいつもこいつも…度し難いな!」
よく分からないけど、引きずり降ろされるらしい…それって…断罪フラグじゃありませんか?
何としてでも僕を悪役令息にするための、ゲームの強制力を感じずにはいられない。
ぞぞぞ…
「怖いっ!」
「「「!」」」
「心配いらない、テオドール。私は巨利を得ようと君を望んだわけじゃない。君という人の、何事にも捕らわれない天真爛漫な姿に惹かれたんだよ。両陛下にもそれは伝えてある。君は君の思うがままで居ればいい。住む場所が王宮になるだけだ。」
「惹かれ…?」
えぇっ!いつの間にそんなことになってたの!うそっ?…そんなはずない…ある訳ない…だって王子は…
断罪の直前までテオの話に耳を傾けてくれた正しくて公平で優しい王子。みんながテオを責める中、王子だけが庇ってくれた。だからテオはますます王子に愛されたくて……でも、その王子はすごく冷たくテオに罪状を告げるんだ。何度も何度も、誰のどのルートを進んだって、最後に断罪を言い放つのはいつでも王子。
ロイヤルスマイルは感情を隠す鉄壁の仮面。
仮面の裏ではいつだって、心の閻魔帳にテオの罪を書き溜めている。
思うがままなんて…そんな言葉をうのみにしたら…ひぃ!どんな目に合うかわからない。
うっかりその気になんてなるもんか。ゲームのテオと僕は違う。僕はゲームを知っている。
「お、お兄様?」
「ふんっだ。何言われたって別に平気。僕は王子と結婚なんて絶対しないし、これはあくまで16までの仮だから。」
「…じつに手ごわいね、君は。そうか。絶対しないのか。…いいね。燃えて来た。」
「よせ、レグルス。テオ、君は冒険者になりたいと、そう言っていたけど、今でも気持ちは変わらないのか?」
「変わらない!」
「楽しそうですね皆さん。」
「殿下、遅くなりました。さぁ広間へ行こう」
のんきな声をかけながらアルタイルとタウルスがやってくる。
これが楽しそうに見えるだなんて、二人の目は節穴だろうか?
「ああ、よく来たね。今日はテオの側からけして離れないよう、よろしく頼むよ。何しろ隙あらば彼を貶めようとする輩が掃いて捨てるほど居るからね。」
王子は僕にSPを用意してくれた。だけど…僕だってやられっぱなしでは居ないからね。
そうだよ!何しろ僕は悪役令息。やられたら…倍返しだ!
こうして攻略対象者たちを従えた僕は煌びやかなホールへと覚悟の一歩を踏み出した。
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