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194 断罪の余韻

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さてさて、『愛は白銀の向こう側』は北部が舞台である。

ああそうそう。『白銀』において、僕とアレイスターは主役であり固定カプのようだ。つまり…これからは何が起きても心配ない。シナリオの強制力は今ノベルゲーにおいてむしろ御守り?

ということで…ゲームのオープニングは多分アレイスターの北部入りからだろう。つまり今はどちらにも属さない空白期間。最も気楽なアイドリングタイム!




…シェイナとジェロームの件を除いてだが。

あれから数日たっても、手を繋いで眠り続ける二人はいまだ目を覚まさない。
顔に紙を乗せればふわっと浮くし、心臓に耳を当てれば心音が聞こえる。それだけが救いだけれど、二人が起きないことには安心なんかできやしないし、ましてや北部になんか行けやしない。
おかげで僕とアレイスター、僕とジェローム、ジェロームとアレイスター、全ての問題が何も進められず一旦停止中だ。

そんなある日の昼下がり。卒業式まで登校の無い僕とブラッドは今日も今日とて子供部屋に居た。今の二人が眠る部屋だ。

代わりにアノンはお兄ちゃんの部屋で眠っているのだが…

お分かりだろうか。この屋敷にはアノンのお兄ちゃんが二人いることを。
ブラコンの神によってノベルゲー時代を彷彿とさせるブラッドと、「にいちゃま」と笑うアノンにブラコンの神が降臨した僕は、毎日熾烈な戦いによってアノンの添い寝権を奪い合っている。どうでもいい情報だが…


「兄さん…、少し良いですか…」
「なにブラッド?」

「その…気のせいかもしれませんがシェイナの背が少し伸びたような…」
「え?」

ブラッドがそれに気付いたのは、シェイナを心配したアノンがシェイナの右横に入り込み隣で午睡をしていた時。(あ、左はジェロームね。ジェロームは左固定だから)

「つい先日までアノンはシェイナより背が高かったのですが…見てください。シェイナの背がアノンを追い抜いています」
「ホントだ…」

まあ寝る子は育つ…って言うし…。イヤイヤイヤ、食事もとって無いのにそれは無いでしょ。

それにしても不思議な現象だが、シェイナとジェロームは食事も摂れず寝っぱなしなのに、それにもかかわらず痩せていくことも血色が衰えていくことも無い。
むしろツヤツヤ?見てよこの、ジェロームの毛穴一つないハリのあるお肌を。

…ハリのあるお肌…?

僕はジェロームが好きだ。例え妹の彼氏でもコッソリ萌えるだけなら自由のはずだ。だから今でも彼を、不動のイケメンだと…実は思っている。思ってはいるが…、欲目も贔屓目も無しで言えば、二十五になるジェロームの肌は、いくら若々しく見えるといっても、十七のアレイスターには実際敵わない。例えば水をはじきそうな肌感とか。

そのジェロームの肌が以前より撥水性を感じさせるのは何故なんだろう…?

「カイル、ジェロームに何か塗った?」
「何かとは何でしょう?」
「…ワックス…とか?」
「いいえ?」

ゴシゴシ「萌えによる錯覚かと思ったけど…やっぱり肌が若返っている」

「これらは兄さんと魂を繋いだことの影響でしょうか?」
「うーん…、そうかも」
「なんと神秘的な…」
「神託だからね(テキトー)」

ブラッドにはああ言ったが、考えられるとしたら恐らくこれは僕を『白銀』に固定化した影響。そんな気がする。
うーん…、一体何が起きてるんだろう?でも、シェイナの身長が伸びてたりとかジェロームの肌艶が良かったりとか、ポジティブな情報なら気にすることもないか。スルーの方向で。


「シャノン様。旦那様がお呼びでございます」
「ありがとうセバス」

お父様が僕を呼び出したのは、多分今後の方針を話し合うためだろう。なにしろ全てが白紙になってしまった。まさしくこれは僕がよく言う、「人生明日のことなんてわからない」ってやつだ。
こうして僕の左右の銘はさらに頑強になっていく。僕の左右の銘、それは「今を生きろ!」だ。

「お待たせしましたお父様」
「うむ。シェイナはどうだね」
「相変わらずですが朗報です」
「朗報!何があった!」
「はい。シェイナの身長が10センチ伸びていました」

「う、うむ…」

朗報でしょうが!

「まあいいだろう。ところで先ほど王城より使者が参ったのだが」
「使者…ですか?」
「家族が目覚めぬ中甚だ心苦しいが近々揃って城へ来るように、とのことだ」
「揃って…」

「恐らくはお前と殿下のことだろう。何しろあれだけの顔ぶれの中でお前たちの……想いを公表したのだからね」

想い…キレイにまとめたなお父様。

「昨日ニコールが王妃殿下に呼ばれて行ったが…」
「お茶会ですか?」
「そうだ。重鎮の夫人たちに揃ってお前たちの縁組を進言され王妃殿下は随分と長い溜息をついていらしたようだ」
「反対なんですか?」
「いや。トレヴァー殿下の立太子まではなんとか待って欲しいと」

ここでルテティアマメ知識。
ルテティア国では立太子にあたり〝成婚の儀を済ませた成年王族”という縛りがある。
これは以前シェイナと話していたのだが、恐らくはマーグ王の件を教訓にして、後年改定された条件だろうと思われる。
あの事件はマーグ王がただの王子でなく王太子、それもまだまだ考えの未熟な未成年王太子だったことから話がより面倒になったのだ。
何故なら王太子とその他王子では口にする言葉の効力がレベチだからだ。そこを狙われたわけだね。F氏に。

「せめてお前が『神託』でなければ…」
「僕が『神託』だと問題ですか?」

「トレヴァー殿下よりアレイスター殿下の格が上がってしまう、それが問題なのだよ。アレイスター殿下は第二王子だ。母親の出自さえ問題にならねば本来継承順位は二位だったはずだ」

「あー」
「面倒なことを言いだす輩も出てこよう…」
「うーん…」

そう言えばアレイスターも言ってたっけ。僕がバツイチだとちょうどいい、とかなんとか。

「僕も少し考えますね。王城へはいつ行くんですか?」
「王妃殿下の即位準備もあり王城も立て込んでいてね、二週間後だ」

「卒業式の直前ですね…」

「お前たちの卒業を待って即位の儀が行われる。王妃殿下はなんとしてもそれまでに方針を固めたいと仰せだ」
「わかりました」

王妃様の即位式は、イコール、コンラッドの出立式でもある。
これをもって王妃様は女王となり、コンラッドはロアン侯爵(仮)となる。

蛇足だけど僕が地味にすごいな…、と感心したのは、王様が少しも退位を気にとめていないことだ。

見舞いにやって来たコンラッドが言うには、王様は嬉々として南に建造する新しい要塞(元帥の拠点)の設計図を眺めているそうだ。

…少年の心を忘れない大人…、みたいな?

アレイスターは言っていた。第三側妃は本来こよなく自由を愛する人なのだと。そのお母さんがなぜ後宮を飛び出さないのか理解できない…と。

もしかしたら王様と第三側妃が惹かれ合ったのはそういう部分なのかもしれないな。




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