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191 断罪と運営

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夢を見るのは二回目だ。フワフワとしてぼんやりとして、上も下も右も左も、なんにも分からない。

死んだ…と思ったのに何故ここに?

ああそうか…。元々僕はシャノンの中に入った魂だけの存在…だから死ぬんじゃなくて転生前の状態に戻ってるってことか。
…つまりユーレイじゃん。やだなぁもう。それにしてもどこだここ?

洗礼式の時に見たのは僕のセカンドホームである病院の夢。僕はあの、ひび割れた画面の向こうからシャノンに呼ばれ、そして今の今まであそこに居たはずだ。

ならこれは何の夢なんだろう?どう見てもここはオフィスで、だけど僕は社会人になんかなってない。僕の青春は残念ながら中学止まりだ。

目の前にあるのは僕のものじゃない誰かのパソコン。けど…高スペックなのはがっちりした本体から何となく伝わってくる。

おや?モニター画面に映るのは『愛は光の向こう側』じゃないか。
チカチカ光るモニターの中では、販促用のタイトル画面でチャッカmanとアーロンが笑い、その斜め後方でシャノンがにらみを効かせている…


その画面の前に居るのは5人の男と2人の女性。総勢7名がゾンビのようになりながらゲーム画面を睨みつけている。

「まったく!大したフラグ管理もない『愛は光の向こう側』にこれだけ手こずるとはな!」

「それもこれも途中でプログラマーが二人もとんだせいです。プランナー泣いてましたよ」

「けどあの新米プログラマー、あれっぽっちのメモリ配分で「クオリティ落とさないでください先輩」とか言うんですよ!偉そうに!あげくにとぶとか!殴っとけばよかった!」

「ああ…あいつらのせいでどれだけ俺の睡眠時間が削られた事か…早く帰って寝たい…」

「さすがにあれはひど過ぎですよね。悪役令息シャノンが画面に二人いるとかスピンオフのキャラが出て来るとか…」

「お前聞いたか?ディレクターの奴、「ただでさえ修正データが異様に重いとクレームがきているのにこれ以上容量食うな!」だとさ。勝手ばかり言うなっての」

「とにかく最後の修正さえ入れたらこの悪夢のような作品ともおさらばだ。次の作品までゆっくり休んでくれ。仮初の休息だけどな」

「「「あ”あ”あ”ーーーー」」」



こ、これは!間違いない!これは『愛は光の向こう側』の開発現場だ!

彼らは病んでいる。あのクマの黒さとエナジードリンクの数は異常だ。ブラック戦士だと思ってたお父様がまるで赤ちゃんのようだ。
そして何故あのゲームがあれだけバグだらけだったのかもなんとなくわかった。なるほど。現場がくちゃくちゃで修羅場だったんだな…

それにしても聞捨てならない単語がいくつか。

シャノンが二人…これはまさしく僕とシェイナだ。
スピンオフのキャラ…該当者が多すぎて…誰だろ?
「修正データが異様に重い」…これって僕のこと?…失礼な。前世も今世も僕はそれほど重くない。むしろ軽すぎ?僕が唯一重いのは推しへの愛情ぐらいだ。

けど見たくてしょうがなかったゲーム業界の裏側を見れる日が来るなんて…ちょっとラッキー。じゃなくて!

「んじゃ、これが最後の修正な。配布ヨロー」

……へっ?
新しい修正データって…配布ヨロって…

修正データは僕なんだよね?それで僕は今ここに居て…、え?じゃああの新しい修正データが配布されたらノベルゲーはどうなるの?上書きされるの?上書きされたシナリオ、それは…同じなの?

…ちょっと待て!

そもそも二人のシャノンが一人になったら…僕とシェイナはどうなるの?
それにスピンオフのキャラ、その人物も確実に消えるってこと?

あわわわわ…なんだかヤバイ!

確かあの時タブレットの画面には干渉できたはず。なら今回だって!

えい!おお…触れた…

「あれ?キーボードの調子がおかしいな…」
「じゃこっちでやりますよ、…ってファイルが無い…どこだ…」

「やだ!勝手に落ちた!なにこれ!」

「…ポルターガイスト…」

「きゃぁぁぁぁ!」
「うるさい!一体どうなってんだ!」

どうだ!存分にポルターガイストの恐怖を味わうがいい!

けどああどうしよう。こんなのバッポンテキ解決じゃない。
だってほら、そうこうしてる間にも、なんだか影が薄くなった気がするし…
本家ロイド、教えて?こんな時はどうしたらいい?

ここは日本…僕が二十年生きて…何にも出来ずに眠りについた前世で、右にも左にも頼れる相棒はどこにもいない。


前世か…。最期まで楽しく萌え散らかした僕に後悔なんてないけど…でも未練がなかったかっていったら…それはまた別の話で。

あれだけ受験勉強したのに…一日も高校に行けなかったこと。一杯クーポン集めたのに…学校帰りに買い食いも出来なかったこと。
計画だって立てたのに…友だちとネズミーランドいけなかったことも、一発芸まで覚えたのに…家でクリパ出来なかったことだって。
マンガやノベルで見るような…ドキドキの恋もウキウキのデートも、僕はなーんにも出来なかった。

そんな夢を叶えてくれたのは全部あのノベルゲーの世界で。

学院に行ってカフェで買い食いして、友達も出来て旅行もパーティーも一緒に遊んで、初恋も失恋も…全部ノベルゲーが叶えてくれた。
でもまだだ!まだ足りないよ!糖度の高い男男交際、一番肝心なそれだけが…何故出来てない?おかしいでしょうが!

だから神様うんえい!僕のノベルゲーを奪わないで!

ああ…ここがルテティアならこんな時は必ずアレイスターが助けに来るのに…

「おい!なんで勝手に立ち上がってんだよ…」
「ほ、本当に心霊現象なんじゃないの…」
「か、勘弁してくれって…」

なんのこと?今のは僕じゃないよ?何が立ち上がったって…?

あっ!

そこに居たのはアレイスター。
雪原の中で雪交じりの風を受けるグレーの髪の整った顔。そのイラストの中心部には…白抜きの文字で『愛は白銀の向こう側』そう書かれている。



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