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179 断罪の締めくくり
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「……」
長老の手紙がみんなの手から手へとまわっていく。
これは……替え玉は替え玉でもかなりガチなやつだ…
周到に用意された王太子の替え玉。それを利用して王太子を上手く取り込んだ年単位の替え玉詐欺。そりゃあ令嬢も気が付かないわけだ。
「その替え玉…、フレッチャー伯とやらはもっと先を見据えていたのだろうな」
「お父様…、どういう意味ですか?」
お父様の考えでは、王太子はいずれ王になる。王太子の替え玉はいずれ王の替え玉になる。ははーん。
「何人の異論をも許さぬ最高位、王の替え玉ともなれば…使いどころはいくらでもあっただろう。その青年がリデア嬢を愛してしまったのは計算外…といったところか」
「な…、何と弁えを知らぬ男だ!」
「あなた!…過去のことにございます。興奮なさらないで」
「う、うむ…」
プ…あっさり尻に敷かれる現国王。この性質が逆にこの王様をギリ守ったとも言えるんじゃなかろうか…
「恐らくロアン一家を東の修道院へ向かわせたのもフレッチャー伯の差し金だったのでしょう」
王妃様の意見を補足したのはアレイスターだ。
「逃げ出した時点でその青年はフレッチャー伯にとってもっとも不都合な存在になったでしょうしね。逃げ出した先がロアン家であること事ぐらい少し考えれば見当つく」
「そうか…、生き証人である青年、青年から仔細を聞いたであろうロアンの当主、一度に葬るいい機会だと考えたんだな」
「その通りだコンラッド。当時のフレッチャーは今の当主など比べ物にならないほど冷酷な男だ。目的が明確であればとるべき手段は容易に決まっただろう」
おやこれは…。今まで空気の様に出しゃばらなかったアレイスターが存在感を増している。そうか…、最後のイベントが終わったからか…!
「青年を東に逃がすよう仕向けたのか?」
「いや。王に審議を嘆願したならそれはない。むしろリデア嬢を連れ戻しに行かせた…私はそう考えるよ」
おっと意義あり!
「そんなことできるの?だってリデア嬢は幽閉中だったんでしょ?」
「だがリデア嬢は生き証人でもあるだろう?連れ戻せと言われれば喜んで連れ戻すさ」
「そうだな。シャノン。もし私がロアン侯の立場でも、お前を救えると聞かされれば一も二もなく東へ向かったろう」
「お父様…」
お父様の言葉に目を細めるのは僕ではなくてシェイナだ。だって僕には…お父様にそれほど思い入れが無い。語弊があるな。二年分の思い入れしかない。例えて言うなら仲の良い親戚のおじさんみたいな感じだ。
そして実感する。
このシナリオはやっぱりシェイナのものであって僕のものでは無いってことを。…エンド迎えた今…すでに関係無いけどね。
「そうだアーロンこれを」
「それは…ロザリオ?教会の保管品ですか?」
…カトレアのロザリオ。生まれた子に令嬢が持たせた唯一の品。
教会に寄贈された神具類を持ち出すことは普通できない。偉い貴族様であってもだ。それを持ち出せるのは国教会の大司祭様と…『神託』であるこの僕だけだ!って言うのは真っ赤なウソで…正直言うと『神託』上等でけっこう強引に奪ってきたんだけどね。
「アーロン聞いたね、カトレアはロアンの紋章」
「カトレアのロザリオ…、じゃあこれは…」
「お母さんお祖母さん、それからひいおばあさんの形見だよ」
「形見…」ギュゥ…
「そうか分かった。アーロン、そのロザリオを良く見るんだ!」
「え?分かったって何が?ひゃ!」
いきなりボタンを二つほど外したアレイスターは…チラリ…胸から王家の紋が刻まれたシルバーのロザリオを…チラリ…引き出した。チラ…
「…見てごらんシャノン」
「ウエッホイ!見て良いんですか!」
「もちろん。これは私の持つ王家の紋を刻んだロザリオだ」
「なんだ…それがどうかした?」
「ここをこう…」カチリ「ほら、小さな剣だ」
「隠し刃…!」
「不測の事態に備えてね。古い貴族にはこのようなロザリオを持つ者が多かったそうだ。剣だったり薬だったり…」
…家督争いとか諸々、当主や嫡男に命の危険は今も昔もつきものだ。これもまたある種の備え…。物騒だな。
「あ、これ…抜けた!…中が空洞…、いえ、何か入ってます」
上下で分かれたロザリオの中から出てきたのは丸められた…何かの紙片。そしてそれを開けば…中には小さな文字が書き込まれている。これは…いつか僕が作ったカンニングペーパー!
「…小さすぎて読めないな。コンラッド、君は?」
「…細かいな…、ロイド頼む」
「うーん、だれかルーペを」
王様王妃様、うちのお父様に聞かないのは…何故?別にいいけど。
「貸してください。僕が読みます」
何故僕があの時米粒状の文字がびっしり書かれたカンペを机の下で読めたか。それは僕に〝読み書きに不自由しない”という転生チートがあるからに他ならない。読める…というか、視界に入った瞬間に脳細胞が理解するのだよ。
少しドヤりながらその紙片を手のひらに乗せ確認すれば、そこに書かれていたのは…
王太子の策略により修道院へ追われてしまったのは己の愚かさ故であること。父親は王太子の替え玉だったが心優しい青年であり、愛し合った結果があなただということ。そして…
いつか王都にほど近いロアン侯爵家を訪ね、このロザリオを見せて保護してもらいなさいと、小さな紙に、それでも丁寧に書かれていた。
コレを書いた時にはまだロアン家の悲劇は起きて無かったのだろうか?気を利かしたジェロームのおばあちゃんが耳に入れないよう隠したのだろうか?それとも世俗から切り離された修道院では、生家の悲劇を知ることは出来なかったのか?
なんにしたってもし知らなかったのならそのほうがいい。
知れば優しい彼女はきっと自分を責めただろうから…
長老の手紙がみんなの手から手へとまわっていく。
これは……替え玉は替え玉でもかなりガチなやつだ…
周到に用意された王太子の替え玉。それを利用して王太子を上手く取り込んだ年単位の替え玉詐欺。そりゃあ令嬢も気が付かないわけだ。
「その替え玉…、フレッチャー伯とやらはもっと先を見据えていたのだろうな」
「お父様…、どういう意味ですか?」
お父様の考えでは、王太子はいずれ王になる。王太子の替え玉はいずれ王の替え玉になる。ははーん。
「何人の異論をも許さぬ最高位、王の替え玉ともなれば…使いどころはいくらでもあっただろう。その青年がリデア嬢を愛してしまったのは計算外…といったところか」
「な…、何と弁えを知らぬ男だ!」
「あなた!…過去のことにございます。興奮なさらないで」
「う、うむ…」
プ…あっさり尻に敷かれる現国王。この性質が逆にこの王様をギリ守ったとも言えるんじゃなかろうか…
「恐らくロアン一家を東の修道院へ向かわせたのもフレッチャー伯の差し金だったのでしょう」
王妃様の意見を補足したのはアレイスターだ。
「逃げ出した時点でその青年はフレッチャー伯にとってもっとも不都合な存在になったでしょうしね。逃げ出した先がロアン家であること事ぐらい少し考えれば見当つく」
「そうか…、生き証人である青年、青年から仔細を聞いたであろうロアンの当主、一度に葬るいい機会だと考えたんだな」
「その通りだコンラッド。当時のフレッチャーは今の当主など比べ物にならないほど冷酷な男だ。目的が明確であればとるべき手段は容易に決まっただろう」
おやこれは…。今まで空気の様に出しゃばらなかったアレイスターが存在感を増している。そうか…、最後のイベントが終わったからか…!
「青年を東に逃がすよう仕向けたのか?」
「いや。王に審議を嘆願したならそれはない。むしろリデア嬢を連れ戻しに行かせた…私はそう考えるよ」
おっと意義あり!
「そんなことできるの?だってリデア嬢は幽閉中だったんでしょ?」
「だがリデア嬢は生き証人でもあるだろう?連れ戻せと言われれば喜んで連れ戻すさ」
「そうだな。シャノン。もし私がロアン侯の立場でも、お前を救えると聞かされれば一も二もなく東へ向かったろう」
「お父様…」
お父様の言葉に目を細めるのは僕ではなくてシェイナだ。だって僕には…お父様にそれほど思い入れが無い。語弊があるな。二年分の思い入れしかない。例えて言うなら仲の良い親戚のおじさんみたいな感じだ。
そして実感する。
このシナリオはやっぱりシェイナのものであって僕のものでは無いってことを。…エンド迎えた今…すでに関係無いけどね。
「そうだアーロンこれを」
「それは…ロザリオ?教会の保管品ですか?」
…カトレアのロザリオ。生まれた子に令嬢が持たせた唯一の品。
教会に寄贈された神具類を持ち出すことは普通できない。偉い貴族様であってもだ。それを持ち出せるのは国教会の大司祭様と…『神託』であるこの僕だけだ!って言うのは真っ赤なウソで…正直言うと『神託』上等でけっこう強引に奪ってきたんだけどね。
「アーロン聞いたね、カトレアはロアンの紋章」
「カトレアのロザリオ…、じゃあこれは…」
「お母さんお祖母さん、それからひいおばあさんの形見だよ」
「形見…」ギュゥ…
「そうか分かった。アーロン、そのロザリオを良く見るんだ!」
「え?分かったって何が?ひゃ!」
いきなりボタンを二つほど外したアレイスターは…チラリ…胸から王家の紋が刻まれたシルバーのロザリオを…チラリ…引き出した。チラ…
「…見てごらんシャノン」
「ウエッホイ!見て良いんですか!」
「もちろん。これは私の持つ王家の紋を刻んだロザリオだ」
「なんだ…それがどうかした?」
「ここをこう…」カチリ「ほら、小さな剣だ」
「隠し刃…!」
「不測の事態に備えてね。古い貴族にはこのようなロザリオを持つ者が多かったそうだ。剣だったり薬だったり…」
…家督争いとか諸々、当主や嫡男に命の危険は今も昔もつきものだ。これもまたある種の備え…。物騒だな。
「あ、これ…抜けた!…中が空洞…、いえ、何か入ってます」
上下で分かれたロザリオの中から出てきたのは丸められた…何かの紙片。そしてそれを開けば…中には小さな文字が書き込まれている。これは…いつか僕が作ったカンニングペーパー!
「…小さすぎて読めないな。コンラッド、君は?」
「…細かいな…、ロイド頼む」
「うーん、だれかルーペを」
王様王妃様、うちのお父様に聞かないのは…何故?別にいいけど。
「貸してください。僕が読みます」
何故僕があの時米粒状の文字がびっしり書かれたカンペを机の下で読めたか。それは僕に〝読み書きに不自由しない”という転生チートがあるからに他ならない。読める…というか、視界に入った瞬間に脳細胞が理解するのだよ。
少しドヤりながらその紙片を手のひらに乗せ確認すれば、そこに書かれていたのは…
王太子の策略により修道院へ追われてしまったのは己の愚かさ故であること。父親は王太子の替え玉だったが心優しい青年であり、愛し合った結果があなただということ。そして…
いつか王都にほど近いロアン侯爵家を訪ね、このロザリオを見せて保護してもらいなさいと、小さな紙に、それでも丁寧に書かれていた。
コレを書いた時にはまだロアン家の悲劇は起きて無かったのだろうか?気を利かしたジェロームのおばあちゃんが耳に入れないよう隠したのだろうか?それとも世俗から切り離された修道院では、生家の悲劇を知ることは出来なかったのか?
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