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173 断罪開始への合図

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「あり得ない!いくら髪色が赤く見えたからって自分の婚約者を間違える?」

ーねえノン。五歳から婚約の決まった僕のような成り行きはとても珍しい。普通は学院に入学する前後で婚約者は決まるんだよ。アドリアナ様だってそうじゃない。入学までは夜会にも参加出来ないし、それまではお会いできてもそれほど親しくする機会は無かったと思うー

「け、けど…」

ーもしもあまり話す機会も無い状態で婚約が決まり、初めて二人きりで過ごす時間が夜ならー

た、確かに…顔さえ似てたら薄暗い部屋の中では分からないのかも…。よく考えてみれば、入学前後なんてちょうど成長期で、男性ホルモンであるテストステロンの増加により、急激に背が伸び体毛が増え、声が変わって少年が青年へと変化するアメージングなお年頃だし。

「だけどそんなの城内の、それもそうとう王子に近い協力がなくちゃ…あっ!」

「ちょーゆーこと」

つまり、プレゼンツバイ王太子、(協力提供フレッチャー)ってことか…
前世の乏しい知識だが、遊び人のチャラ男ほど嘘や言い訳が上手いものだ。(参考文献BLマンガ)
もしも婚約者から「学内では節度もって一定の距離をとるように」とか「昼間は講義や剣術の稽古で忙しいから会う時間は夜にしよう」とか言われていたら…

やはりこれも前世の乏しい知識だが(参考文献以下略)育ちの良い純粋培養の子女なら言われるがまま素直に信じてしまったかもしれない。

ー判別がつかないほど顔を狙って岩が落ちてくるなんてあり得ないよ。普通は落ちてくる土砂に背を向けるものでしょう?ー

…それって背中の傷は臆病者の傷で正面の傷は勇者の傷、的な感じ?合ってる?

ー惨いけれどつぶされたんだよ…ー

ゾッ!想像しただけで…見ろ!全身がチキンだ!

ー顔を知られて困る理由なんて他にある?見られちゃまずいんだよ。王太子とフレッチャーの秘事がばれるー

「え?え?でもそれじゃあマルーンの髪色は遺伝しないじゃない?おかしくない?」

ーそれは僕にも分からない。まだ何かあるのかもしれないし…ー

…いいだろう。それならそれで僕に考えがある。目の前にはシェイナ。ウィジャ盤を持ったシェイナが居る。
全ての謎は過去の向こう側。こちらに正確な真実が分からないよう、フレッチャーにだって全ての真実は分からないのだ。

本当はシェイナをプロムの現場に近づけるのはしたくなかった。だけどこれは思い付きだが、もしかしたら…シェイナこそがあそこに居合わせなければいけないのかもしれない。

断罪の舞台は煌びやかなプロムの夜。学院の大ホールを解放した豪華な夜会。次代を担う若者の祝福には両陛下までもが駆けつけ、そして…

壇上にはコンラッドとアーロン、椅子に座った王様と王妃様が居て…、コンラッドの斜め下にはブラッドとロイド、そして王様の正面下に居るのが…絶望の瞳で膝をついたシャノン。

…でもそのシャノンとは…一体誰?外身?中身?それとも二人で一つ?
きっとあの断罪を乗り越えた時、はじめてシェイナのノベルゲーはエンディングを迎えるんじゃないだろうか。

「シェイナ」コショコショコショ…
「…いーよ。やってみる」

「シェイナ、怖くなんかないよ。あの時とは違う。周りは味方がいっぱいだし…危険な目には絶対あわせない。シェイナは僕が守るからね」
クスッ「…たのもちいね…」


その後シェイナは部屋の前で待機してた侍女たちに連れていかれた。有能な彼女たちの手により、カサカサになってしまったシェイナの肌が玉のような艶を取り戻すのもすぐだろう。

となれば、そろそろジェロームの救出に向かうとしよう。ついでにお父様とプロムの計画を共有しておかなくては。

「お父様、いい加減ジェロームを許してください。ジェローム…シェイナを連れて来てくれてありがとう」

「いえ。シェイナが十二月初頭までに王都へ戻りたいと言い張るものですから…無理をさせました。怪我はさせておりませんが…疲労は溜まっているでしょう。彼女は大丈夫でしょうか?」

「心配いらないです。若いですからね。今日明日ぐっすり眠れば疲れも取れると思います」

むしろ降ってわいたジェロームとの二人旅で英気が養われているような?

「ではシャノン様ご自身はいかがなのでしょう?たった今恐ろしい企ての話を侯より伺いましたが…」
「とっくに完全復活です!」キラリン!

「良かった…。ああシャノン様、あなたはいつも私のいない場所で困難に立ち向かわれる。なんの手助けも出来ない自分がどれほど口惜しいか…あなたにはお分かりにならないのだろう…」

「ジェローム…」

悲しみに曇るジェロームの表情…。そんな表情も萌え!!!って、言ってる場合じゃなくて。
こんな顔をさせるのは実に不本意なのだが、だからってさすがに王家の問題にジェロームを巻き込むことは出来ないし…

「ジェロームはアレイスターが邁進してる北部の副王都構想を手伝ってくれてるじゃないですか。十分です、それで」
「シャノン様…」
「あの…、プロムが終われば何かが変わります。もう少し待っててくださいね」
「…ええ…」

「シャノンや、それより私に説明を」

ロンバートの件を知りたがってるお父様だが、王家の醜聞…かもしれない事情をジェローム聞かせることは出来ない。シェイナの持ち込んだ資料で過去を察したお父様も気持ちは一緒だ。
ジェロームの退室を待って僕はさっきシェイナと至った結論をお父様に告げた。

「よりにもよって王太子殿下の替え玉だと…?公務も戦場にもでぬ成年未満の王太子に何故身代わりが必要だ」
「…お父様が教えてくれたじゃありませんか。歓楽街で語られる赤髪の武勇伝を」

シェイナの考えを聞いて思い出したことがあった。
僕は考えていたのだ。
何故ロアン嬢が歓楽街で娼婦に身をやつしていたのか…、ロアン嬢が王都に来たのは己のルーツを求めてのことだろう。だけど娼婦になったのは、…きっといつか赤い髪の王族が来るかもしれない…、そう考えたからに違いないって。

「だってロアン嬢はキレイと評判の娘さんだったんですよ…」
「うむ…、会って…父母の仇をとろうとしたか…」
「だからフレッチャーは彼女が歓楽街に居ることを知って手を打ったんです」

もしかしたら何も知らない王が噂を聞いて食指を示したのかも知れない…

「でも庶子がアーロンの母親、ノーラ嬢を殺めたのは偶発だと思います」
「うむ。シナバーを取り返そうと短絡的に動いたのだな」

ことごとく踏みにじられたロアンの家系。さぞかし無念だろう。

「だから仇討の手助けしようと思って」
「だがそう上手くいくかどうか…」

「大丈夫です。だって僕とシェイナが揃ったんですから!」

リセットボタンとリカバリーディスクで、ワクチン発動だ!




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