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172 断罪への解
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「シェイナーーーーー!!!!!」
「ノーン!!!」
ああ相棒!どれほど…どれほど会いたかったか!
シェイナは回り切らない滑舌で何度かうにゃうにゃ言ったあと、しびれを切らしたように背中のリュックに入ったウィジャ盤を取り出すと高速タイピングで話し出した。
ー死にかけたってどういうこと!何があったの!フレッチャーは!皆は何してたの!ー
「ちょ、目が追い付かない…。ゆっくり説明するからちょっとこっちへ」
幸いニコールさんとアノンはお出かけ中だ。アノンのお友達候補であるマックスくんの誕生日へ出かけたからだ。
長話を察したカイルはすぐさまお茶と軽食を運んでくる。
因みに強行軍で薄汚れたジェロームは執事によってお風呂場に強制連行中だ。その後は多分書斎で取り調べだろう。
侍女たちはシェイナも入浴させようとしたが、カイルから「実はシャノン様が殺されかけまして…」と聞いた彼女は問答無用でこの部屋へとんできたらしい。カーイールー!!!
僕の口から先週の出来事を聞くシェイナの顔は真っ青で目には涙が浮かんでいる。
「そんな顔しないの。無事だったんだからいいじゃん。死んだのは爪先立ちしてた足の爪だけだって」
「ノンのばかっ!」
え?今まで聞いたことないくらい滑舌クリアーなんだけど…
ーううん、馬鹿は僕のほうだ。本当なら何の関係もないノンに全てを任せて…そのうえこんな危険に合わせるなんてー
「シェイナ、でもこれがあったから事態が動いたんだよ?見てよお父様を。ダンディたちはやる気マンマンだよ?」
ー分かってるの?フレッチャーはノンを生死不明にして全てを闇に葬るつもりだったんだよ?ー
「そうかもね。でもシェイナこそ分かってない」
ー何を?ー
「だって僕は運営が用意したリカバリーディスクだよ?特殊コーティングで守られてるの。ディスクはね、水に浸かったぐらいじゃダメにならない。真っ二つに折るぐらいしないと」
「ばか…」
「それを言うならシェイナだってムチャクチャでしょうが!幼児が早駆けの馬で帰宅だなんて…ムチャもいいとこだよ!…何日かかった?」
「…いっちゅうかん…」
「バカー!お尻は?お尻は大丈夫?ちょっと見せてごらん」
「やー!こないでー!」
人を変質者みたいに…失礼な。
お互いに叱りあったり慰めあったり心配しあったり、ほどなく落ち着きよくよく見れば、そこに居るのは僕のミニチュア。
「それよりシェイナ、自分が昔着てた子供服に袖を通した感想は?懐かしい?」
ー動きやすいしやっぱり落ち着く。長い間僕は男だったしー
この世界の高貴な女児服って、一歳過ぎればすでにビラビラしたドレスなんだよね…。正装用なんかがっつりパニエ付きだし。
「たまには着たらいいんじゃない?僕の居た世界じゃパンt…トラウザーズの女性もスカートの男性も普通に居たよ?」
「いーかな?」
「いいよ」
「おとうちゃまが…」
「お父様ならもうそれぐらいで何にも言わないって。僕で免疫ついてるから」
クスクスッ「ちょうだね」
そこは「そんなことないよ」って言ってほしかったんだけど…
「えーっと…話は尽きないけど…、ニコールさんとアノンが戻るまでに報告会済ませちゃおう」
僕からの報告はリビア嬢宛てのラブレターと王妃様に聞いたロアン家の消えた経緯。それからそれから…命がけで見つけたノーラ嬢の殺害犯も。
「思った通り、リビア嬢の持つ手紙の筆跡とマーグ王太子の筆跡は違ってた。でもあれは間違いなく王家の紙で王家の印章。ましてやリビア嬢はお妃教育受けてるんだよ?他人が成りすまして送った手紙なんかで騙されるわけないじゃん。王子の従者が代筆した?あんなに何通も?そもそも手紙の内容と王太子の行動が矛盾してる!」
ーその疑問には僕が答えられるかもー
「へ?」
ーノンこれを。教会でお借りしてきた記録だよー
そこに記されていたのは古い古い、フレッチャー伯爵領の山中でおきたあるがけ崩れの記録。
事故に巻き込まれたのは二頭立ての高貴な馬車が二台。彼らは事故現場に数日間放置され、結果一頭の馬と八人の人命が失われた。
不思議なのは乗車中の誰一人として、身元の分かるものを身につけていなかったこと。普通なら高貴な馬車には家紋入りの旗がはためいていたりするものなんだけど。
ー彼らが忍んでいたなら旗は敢えて掲げなかったのかもしれない。でも身元を明らかにする所持品が何一つないなんて…奪われたのだと思うー
「そうだね…」
ーその事故現場の近くで前後して夜盗に襲われた傭兵の遺体も見つかってる。教会は因果関係にまで気付かなかったようだけど…僕は馬車の護衛だと考えるー
「まあ…司祭は探偵じゃないから」
ーご遺体の素性は当時の領主が方々に手を尽くして調べた…ということになっているね。でも身元の判明に至らなかったと領主から報告があったって。残念ながら当時は様々な事柄が雑然としていただろうし…教会も型通りの調査報告を受け入れ埋葬を済ませたらしいー
当時の領主って…フレッチャーの先祖じゃん。なら手を尽くしたのは調査じゃなくて隠ぺい工作だ。
がけ崩れに巻き込まれたのは御者が二名、従者が二名、侍女が一名、主人と夫人、そして嫡男と思われる子供の亡骸…悪魔の所業だ…
「…その土砂崩れは本物だったのかな?」
ー土砂崩れは本物みたい。調書の記載によればその道は危険だからと通常使われていなかったようだし。なのに何故その道を進んだのか…理由はわかるよねー
僕には見える。注意標識を隠し、崩れかかった崖の上で大きな岩に足をかけたフレッチャーのまぼろしが。
ーそれでね、他に気になる記載があって…ー
「気になる記載?」
ー歳若い従者の顔は落石により判別がつかないと書かれていた。そして彼の所持品にビーツの粉があったー
ビーツ?
日本人の僕にはなじみ薄いが、ヨーロッパベースのノベルゲーでは外国の野菜が主力の野菜だ。その中でビーツやチコリなんかは代表格だ。
ビーツ…、赤かぶに似た真っ赤な根菜。その赤い色素は染料なんかにも使われる。
「よく分からない…シェイナは何が気になるの?」
ーノンはその手紙を書いたのが令嬢の恋人だと考えてるんでしょう?ー
「そうなんだけど色々と矛盾が…。フレッチャーの仕掛けた罠とも考えられるし…」
ーミーガン様と同じことを僕も考えてた。何故ロアンの令嬢はこれが自ら望んだ不貞でないと主張しなかったのかってー
「そうなんだよね…」
ーもし彼女がそれを不貞だと思っていなかったら…ー
「え?え?どういう意味?」
ー閨の相手を自分の愛する王太子だと信じていたら?婚姻前の行為も…その、本来いけないことだけど、愛する婚約者に強く望まれたら拒み切れなくても無理はない。断罪された時彼女は混乱していたと思う。でも否定は出来なかった。彼女は事実、自らその相手を受け入れていたんだからー
はっ!…顔の判別がつかない若い従者…まさか…
ー従者の髪色はブラウンと記載があった。ビーツの粉は染髪にも使われるんだよ。想像してみて。王太子に顔のよく似たブラウンの髪を持つ男。その男に赤い染料をのせたら…ー
「マルーン…」
ーマルーンの髪は燭台の灯を借りて赤になる。令嬢はマルーンの男を王太子本人だと信じていたんだよー
「ノーン!!!」
ああ相棒!どれほど…どれほど会いたかったか!
シェイナは回り切らない滑舌で何度かうにゃうにゃ言ったあと、しびれを切らしたように背中のリュックに入ったウィジャ盤を取り出すと高速タイピングで話し出した。
ー死にかけたってどういうこと!何があったの!フレッチャーは!皆は何してたの!ー
「ちょ、目が追い付かない…。ゆっくり説明するからちょっとこっちへ」
幸いニコールさんとアノンはお出かけ中だ。アノンのお友達候補であるマックスくんの誕生日へ出かけたからだ。
長話を察したカイルはすぐさまお茶と軽食を運んでくる。
因みに強行軍で薄汚れたジェロームは執事によってお風呂場に強制連行中だ。その後は多分書斎で取り調べだろう。
侍女たちはシェイナも入浴させようとしたが、カイルから「実はシャノン様が殺されかけまして…」と聞いた彼女は問答無用でこの部屋へとんできたらしい。カーイールー!!!
僕の口から先週の出来事を聞くシェイナの顔は真っ青で目には涙が浮かんでいる。
「そんな顔しないの。無事だったんだからいいじゃん。死んだのは爪先立ちしてた足の爪だけだって」
「ノンのばかっ!」
え?今まで聞いたことないくらい滑舌クリアーなんだけど…
ーううん、馬鹿は僕のほうだ。本当なら何の関係もないノンに全てを任せて…そのうえこんな危険に合わせるなんてー
「シェイナ、でもこれがあったから事態が動いたんだよ?見てよお父様を。ダンディたちはやる気マンマンだよ?」
ー分かってるの?フレッチャーはノンを生死不明にして全てを闇に葬るつもりだったんだよ?ー
「そうかもね。でもシェイナこそ分かってない」
ー何を?ー
「だって僕は運営が用意したリカバリーディスクだよ?特殊コーティングで守られてるの。ディスクはね、水に浸かったぐらいじゃダメにならない。真っ二つに折るぐらいしないと」
「ばか…」
「それを言うならシェイナだってムチャクチャでしょうが!幼児が早駆けの馬で帰宅だなんて…ムチャもいいとこだよ!…何日かかった?」
「…いっちゅうかん…」
「バカー!お尻は?お尻は大丈夫?ちょっと見せてごらん」
「やー!こないでー!」
人を変質者みたいに…失礼な。
お互いに叱りあったり慰めあったり心配しあったり、ほどなく落ち着きよくよく見れば、そこに居るのは僕のミニチュア。
「それよりシェイナ、自分が昔着てた子供服に袖を通した感想は?懐かしい?」
ー動きやすいしやっぱり落ち着く。長い間僕は男だったしー
この世界の高貴な女児服って、一歳過ぎればすでにビラビラしたドレスなんだよね…。正装用なんかがっつりパニエ付きだし。
「たまには着たらいいんじゃない?僕の居た世界じゃパンt…トラウザーズの女性もスカートの男性も普通に居たよ?」
「いーかな?」
「いいよ」
「おとうちゃまが…」
「お父様ならもうそれぐらいで何にも言わないって。僕で免疫ついてるから」
クスクスッ「ちょうだね」
そこは「そんなことないよ」って言ってほしかったんだけど…
「えーっと…話は尽きないけど…、ニコールさんとアノンが戻るまでに報告会済ませちゃおう」
僕からの報告はリビア嬢宛てのラブレターと王妃様に聞いたロアン家の消えた経緯。それからそれから…命がけで見つけたノーラ嬢の殺害犯も。
「思った通り、リビア嬢の持つ手紙の筆跡とマーグ王太子の筆跡は違ってた。でもあれは間違いなく王家の紙で王家の印章。ましてやリビア嬢はお妃教育受けてるんだよ?他人が成りすまして送った手紙なんかで騙されるわけないじゃん。王子の従者が代筆した?あんなに何通も?そもそも手紙の内容と王太子の行動が矛盾してる!」
ーその疑問には僕が答えられるかもー
「へ?」
ーノンこれを。教会でお借りしてきた記録だよー
そこに記されていたのは古い古い、フレッチャー伯爵領の山中でおきたあるがけ崩れの記録。
事故に巻き込まれたのは二頭立ての高貴な馬車が二台。彼らは事故現場に数日間放置され、結果一頭の馬と八人の人命が失われた。
不思議なのは乗車中の誰一人として、身元の分かるものを身につけていなかったこと。普通なら高貴な馬車には家紋入りの旗がはためいていたりするものなんだけど。
ー彼らが忍んでいたなら旗は敢えて掲げなかったのかもしれない。でも身元を明らかにする所持品が何一つないなんて…奪われたのだと思うー
「そうだね…」
ーその事故現場の近くで前後して夜盗に襲われた傭兵の遺体も見つかってる。教会は因果関係にまで気付かなかったようだけど…僕は馬車の護衛だと考えるー
「まあ…司祭は探偵じゃないから」
ーご遺体の素性は当時の領主が方々に手を尽くして調べた…ということになっているね。でも身元の判明に至らなかったと領主から報告があったって。残念ながら当時は様々な事柄が雑然としていただろうし…教会も型通りの調査報告を受け入れ埋葬を済ませたらしいー
当時の領主って…フレッチャーの先祖じゃん。なら手を尽くしたのは調査じゃなくて隠ぺい工作だ。
がけ崩れに巻き込まれたのは御者が二名、従者が二名、侍女が一名、主人と夫人、そして嫡男と思われる子供の亡骸…悪魔の所業だ…
「…その土砂崩れは本物だったのかな?」
ー土砂崩れは本物みたい。調書の記載によればその道は危険だからと通常使われていなかったようだし。なのに何故その道を進んだのか…理由はわかるよねー
僕には見える。注意標識を隠し、崩れかかった崖の上で大きな岩に足をかけたフレッチャーのまぼろしが。
ーそれでね、他に気になる記載があって…ー
「気になる記載?」
ー歳若い従者の顔は落石により判別がつかないと書かれていた。そして彼の所持品にビーツの粉があったー
ビーツ?
日本人の僕にはなじみ薄いが、ヨーロッパベースのノベルゲーでは外国の野菜が主力の野菜だ。その中でビーツやチコリなんかは代表格だ。
ビーツ…、赤かぶに似た真っ赤な根菜。その赤い色素は染料なんかにも使われる。
「よく分からない…シェイナは何が気になるの?」
ーノンはその手紙を書いたのが令嬢の恋人だと考えてるんでしょう?ー
「そうなんだけど色々と矛盾が…。フレッチャーの仕掛けた罠とも考えられるし…」
ーミーガン様と同じことを僕も考えてた。何故ロアンの令嬢はこれが自ら望んだ不貞でないと主張しなかったのかってー
「そうなんだよね…」
ーもし彼女がそれを不貞だと思っていなかったら…ー
「え?え?どういう意味?」
ー閨の相手を自分の愛する王太子だと信じていたら?婚姻前の行為も…その、本来いけないことだけど、愛する婚約者に強く望まれたら拒み切れなくても無理はない。断罪された時彼女は混乱していたと思う。でも否定は出来なかった。彼女は事実、自らその相手を受け入れていたんだからー
はっ!…顔の判別がつかない若い従者…まさか…
ー従者の髪色はブラウンと記載があった。ビーツの粉は染髪にも使われるんだよ。想像してみて。王太子に顔のよく似たブラウンの髪を持つ男。その男に赤い染料をのせたら…ー
「マルーン…」
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