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171 断罪の執念
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それからの一週間はあっという間に過ぎていった。
僕の手を離れた捜査は大人たちの手により着々と進められている。
そういえば…実は目が覚めた二日後、王妃様とコンラッドが二人そろってお見舞いに来たことをここに報告しておこう。
これは歴史が動いた、と言っても過言じゃない出来事だ。
王妃様は臣下に対し平等をモットーにしている。あちらを立てたりこちらを立てたり…というのが面倒だからと臣下の屋敷を訪問など王妃様は絶対しない。用がある時は呼び出し一択。0か100か、この漢らしさが王妃様のいいところだ。王妃様、一生ついて行きます!
あ、そうはいってもカサンドラ様のお見舞いには来たみたいだよ?一応言っとくね。
それにしてもコンラッドを伴って来るとは…
お母さんとの初めてのお使い…に少しドヤって見えるコンラッドが、微笑ましいよりイラっとしたのはここだけの話だ。
アーロンに「あいつマザコンだけど大丈夫?」と忠告するのを忘れないでおこうと思う。
さて、そんな日々の中で心身ともに回復しきった頃、難しい顔のお父様が僕の私室へとやって来た。基本用があれば書斎に呼び出すお父様にしては珍しい。
「シャノンや。こんな時だが服が届いた。明後日のプロムの衣装だ」
「プロムの服!下ですか?すぐ行きます!」
「…ではお前は参加すると言うのだね」
「しますよ。生涯一度の卒業パーティーですし。するに決まってます。ああなんだ。話ってその件ですか」
溜息をつきあきらめ顔のお父様。プロムはノベルゲー最後のメインイベント。このイベントなくしてノベルゲーは終わらない!これだけは外すわけにはいかないんだよ。この陰の主役でもある、断罪令息シャノン様は!
「だがシャノン。お前は命を狙われたばかりではないか」
「チッチッチッ、あんな学生がひしめき合う中で何が出来ます。というか、溺死体の作成に失敗した今、僕を狙う意味なんてもう無いですよ」
あれは捜査チームのトップが僕という、あの時点だったから意味があったんであって、僕の手を離れここまで来たら、むしろ奴は身の保身に一杯一杯と言ったところだろう。今頃言い訳とつじつま合わせに脳のリソースを全開放しているに違いない。
「お前は日々逞しくなっていくのだね…。儚い子だと思っていたのだが」
「は、儚いですよ?それはもう、あ、めまいが…」
…お父様ってば、何その疑惑のまなざし…
「と、とにかくフレッチャーのやり方はもう覚えました。フレッチャーは徹底抗戦しないんですよ。多分奴は自分にとって一番安全な罪をチョットだけ認めて司法取引に持ち込むつもりです。なのにここでことを荒立てたり絶対しない」
「お前が言うならそうなのだろう」
ここでポーレット侯爵直伝の補足を入れておこう。
この国の司法取引とは王冠証人制度のことを言う。これは何かというと…(前世の規定は知らないが)この国では簡単に言うとチクる、とか寝返る、とかとほぼ同義語、仲間を売って減刑してもらうことである。
フレッチャーの場合でいうと…、恐らく下位貴族の部下…、…程度じゃ話にならないので、この件に少しでも関りを持つ伯爵家以上の一族に罪を擦り付けて、トカゲの胴体を真っ二つにする気だろう。
「ところで捜査はどうなりましたか?」
「うむ。教会から時期の合う溺死体の記録を見つけた。運河に浮かんでいたらしい。そしてその男の所持品から面白いものを見つけたよ」
「面白いもの?」
「男が握りしめていたベルト用の装身具、楔型の香り容れだ」
〝香り容れ”これは中に香りのペーストが入った男性用の香水ケースで、シャレオツな貴族男性がベルトにぶら下げるものだ。形は色々で林檎だったりフンコロガシだったりするのだが…先のとがった楔なら、きっと揉み合った時にむしり取って、その後天井のメッセージを刻むのに使ったんだろう。
「何で刻んだんだろうって思ってましたけど…」
「そういえばお前も釘を握りしめていたね。殿下がこぶしを開くのに苦労したと仰っていた」
「唯一にして最後の武器だと思って…絶対離さないって握ってました」
「ではその男もそう考え奪い取ったのだろう」
死後硬直のこぶしは簡単に開かない。きっとそのこぶしは教会に運ばれるまでグーのままだったんだろう。でもこうして僕に発見されたんだから、彼が望んだとおり、その楔は本当に最後の武器になったのだ。
「娼館の客引きが香り容れなど持つはずがない。ではその香り容れは犯人のものだ」
「貴族の装飾品は一点物ですよね?調べたら購入者はわかりますか?」
「ああ。問題ない」
シナバー、香り容れ、多分連続殺人犯は捕まるだろう。けれど父親の名を割るかどうか…問題はそこだ。
「大変ですシャノン様!」
ドッキー!!!
大声を出しながら駆け込んできたのはカイル。珍しいこともあるものだ。彼は生まれも育ちも家柄の良い貴族子息。大声で乱入なんて普段なら絶対しない…というか、いつも同じことをする僕を怒るのに。
あれ以来ダイヤモンドの神経が鋼鉄並みに硬度下がったんだから、あんまり驚かさないでよ…
「カイル!静かに入らないか!」
「す、すみません旦那様。で、ですが…」
「なにがあったの…」ゴクリ…
「たった今エンブリー卿とシェイナ様が早馬に乗って戻られました!」
「なに!」
「なんて!」
「カイル、どういうことだ」
「はい。シェイナ様がどうしてもプロムまでに戻ると言い張られ、エンブリー卿が馬でお連れになられたようです」
「早馬とは何故だ。何故館船でない」
「お二人はその…、東の領、ロンバート伯爵領からこちらへいらしたようです…」
「ロンバート伯領?」
「お父様、それは僕から説明します」
ここに来てまさかの…シェイナ参戦!ひゃっほーい!
僕の手を離れた捜査は大人たちの手により着々と進められている。
そういえば…実は目が覚めた二日後、王妃様とコンラッドが二人そろってお見舞いに来たことをここに報告しておこう。
これは歴史が動いた、と言っても過言じゃない出来事だ。
王妃様は臣下に対し平等をモットーにしている。あちらを立てたりこちらを立てたり…というのが面倒だからと臣下の屋敷を訪問など王妃様は絶対しない。用がある時は呼び出し一択。0か100か、この漢らしさが王妃様のいいところだ。王妃様、一生ついて行きます!
あ、そうはいってもカサンドラ様のお見舞いには来たみたいだよ?一応言っとくね。
それにしてもコンラッドを伴って来るとは…
お母さんとの初めてのお使い…に少しドヤって見えるコンラッドが、微笑ましいよりイラっとしたのはここだけの話だ。
アーロンに「あいつマザコンだけど大丈夫?」と忠告するのを忘れないでおこうと思う。
さて、そんな日々の中で心身ともに回復しきった頃、難しい顔のお父様が僕の私室へとやって来た。基本用があれば書斎に呼び出すお父様にしては珍しい。
「シャノンや。こんな時だが服が届いた。明後日のプロムの衣装だ」
「プロムの服!下ですか?すぐ行きます!」
「…ではお前は参加すると言うのだね」
「しますよ。生涯一度の卒業パーティーですし。するに決まってます。ああなんだ。話ってその件ですか」
溜息をつきあきらめ顔のお父様。プロムはノベルゲー最後のメインイベント。このイベントなくしてノベルゲーは終わらない!これだけは外すわけにはいかないんだよ。この陰の主役でもある、断罪令息シャノン様は!
「だがシャノン。お前は命を狙われたばかりではないか」
「チッチッチッ、あんな学生がひしめき合う中で何が出来ます。というか、溺死体の作成に失敗した今、僕を狙う意味なんてもう無いですよ」
あれは捜査チームのトップが僕という、あの時点だったから意味があったんであって、僕の手を離れここまで来たら、むしろ奴は身の保身に一杯一杯と言ったところだろう。今頃言い訳とつじつま合わせに脳のリソースを全開放しているに違いない。
「お前は日々逞しくなっていくのだね…。儚い子だと思っていたのだが」
「は、儚いですよ?それはもう、あ、めまいが…」
…お父様ってば、何その疑惑のまなざし…
「と、とにかくフレッチャーのやり方はもう覚えました。フレッチャーは徹底抗戦しないんですよ。多分奴は自分にとって一番安全な罪をチョットだけ認めて司法取引に持ち込むつもりです。なのにここでことを荒立てたり絶対しない」
「お前が言うならそうなのだろう」
ここでポーレット侯爵直伝の補足を入れておこう。
この国の司法取引とは王冠証人制度のことを言う。これは何かというと…(前世の規定は知らないが)この国では簡単に言うとチクる、とか寝返る、とかとほぼ同義語、仲間を売って減刑してもらうことである。
フレッチャーの場合でいうと…、恐らく下位貴族の部下…、…程度じゃ話にならないので、この件に少しでも関りを持つ伯爵家以上の一族に罪を擦り付けて、トカゲの胴体を真っ二つにする気だろう。
「ところで捜査はどうなりましたか?」
「うむ。教会から時期の合う溺死体の記録を見つけた。運河に浮かんでいたらしい。そしてその男の所持品から面白いものを見つけたよ」
「面白いもの?」
「男が握りしめていたベルト用の装身具、楔型の香り容れだ」
〝香り容れ”これは中に香りのペーストが入った男性用の香水ケースで、シャレオツな貴族男性がベルトにぶら下げるものだ。形は色々で林檎だったりフンコロガシだったりするのだが…先のとがった楔なら、きっと揉み合った時にむしり取って、その後天井のメッセージを刻むのに使ったんだろう。
「何で刻んだんだろうって思ってましたけど…」
「そういえばお前も釘を握りしめていたね。殿下がこぶしを開くのに苦労したと仰っていた」
「唯一にして最後の武器だと思って…絶対離さないって握ってました」
「ではその男もそう考え奪い取ったのだろう」
死後硬直のこぶしは簡単に開かない。きっとそのこぶしは教会に運ばれるまでグーのままだったんだろう。でもこうして僕に発見されたんだから、彼が望んだとおり、その楔は本当に最後の武器になったのだ。
「娼館の客引きが香り容れなど持つはずがない。ではその香り容れは犯人のものだ」
「貴族の装飾品は一点物ですよね?調べたら購入者はわかりますか?」
「ああ。問題ない」
シナバー、香り容れ、多分連続殺人犯は捕まるだろう。けれど父親の名を割るかどうか…問題はそこだ。
「大変ですシャノン様!」
ドッキー!!!
大声を出しながら駆け込んできたのはカイル。珍しいこともあるものだ。彼は生まれも育ちも家柄の良い貴族子息。大声で乱入なんて普段なら絶対しない…というか、いつも同じことをする僕を怒るのに。
あれ以来ダイヤモンドの神経が鋼鉄並みに硬度下がったんだから、あんまり驚かさないでよ…
「カイル!静かに入らないか!」
「す、すみません旦那様。で、ですが…」
「なにがあったの…」ゴクリ…
「たった今エンブリー卿とシェイナ様が早馬に乗って戻られました!」
「なに!」
「なんて!」
「カイル、どういうことだ」
「はい。シェイナ様がどうしてもプロムまでに戻ると言い張られ、エンブリー卿が馬でお連れになられたようです」
「早馬とは何故だ。何故館船でない」
「お二人はその…、東の領、ロンバート伯爵領からこちらへいらしたようです…」
「ロンバート伯領?」
「お父様、それは僕から説明します」
ここに来てまさかの…シェイナ参戦!ひゃっほーい!
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