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ロイドとブラッド
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「ロイド、それで何があった」
「学院の廊下でシャノン様にぶつかる馬鹿者が居た。あれはわざとだ」
「見知った者か?」
「いいや、あの顔は下位学年でもない。恐らく学院生ではないだろう」
「だが休日の学院に部外者が入ることなど…」
「ブラッド。なぜあの欲深いフレッチャーが学院への寄付だけは欠かさないと思う?子供が在籍して居る訳でもないのに」
「そうか…。こういう時の為にか…」
「そういうことだ」
この一年シャノン様のために動くことで見えてきた王家の闇。その中でフレッチャー家の役割は最大の不可侵だ。王妃の目を盗んでは王の意のまま王の望むまま、王の為だけに動く犬、それがフレッチャー一族だ。
だがローグ王の統治下において目についたフレッチャーの悪行と言えば、アドリアナお王妃殿下の目を盗み、王を満足させるために追加の徴収徴兵を行っていたことぐらいだ。
その程度で済んでいるのはローグ王が面倒事を好まぬ単純なお方だからに他ならない。
手を付けた女は後宮へ、王都外で遊ぶのは子を産まぬ男の愛人、市井で遊ぶときは後腐れ無く、高級娼館の娼妓を買うのだという話だ。
酒は強くどれほど飲んでも乱れることは無い。剣以上の刺激は無いと言って憚らない王は博打にも興味を示さない。さぞかしフレッチャーも尽くし甲斐の無かったことだろう。
だからこそフレッチャーは早々に尽くす相手をコンラッドに置き換えたのだ。
あのままコンラッドが卒業と同時に立太子すればフレッチャーは筆頭後援家としてますます力を増しただろう。
それだけではない。『神子』アーロンの後ろ盾としてどれほど増長したかわかったものではない。
コンラッドは虚勢を張るが、実は自分に自信を持てない男だ。だからこそアーロンに依存したのだし、もしそうなれば簡単にフレッチャーの甘言に乗ってしまっただろう。
「それでその男は兄さんに何をした」
「どうも手紙を渡したようだな。シャノン様は隠そうとしていたようだが」
「その手紙にはなんと書いてあったか分からないのか」
「いいや分るとも」
「見えたのか⁉」
「…現物がここにある」ガサガサ
「それは本当か!」
「ああ。私がシャノン様の私物を今までどれほど手に入れてきたと思う。抜かりはない」
「……、いやいい。今は目を瞑ろう。それで?何と書いてある?」
ー警告を聞かぬ無謀で愚かな自惚れ者め。三人のご友人はお預かりしている。返して欲しくば下記の場所へ参られるがいい。よもや神の代理が逃げ出すことはないだろうが、ご友人の無事な姿が見たければ急がれよ。分かっていると思うが誰にも他言は無用だ。それとも『神託』の力を以て助けて見せるか?出来るものならやってみるがいい。尚この手紙は消去することー
「ああ兄さん!なんてことだ!」
「一人で向かうなど…迂闊な!」
「下記の場所とはどこだ!」
「それが…、その部分は燃えてしまった…くっ!」
シャノン様の私物はなんであれ、完璧な状態で保存するのを命題としているこの私が、ああ…なんと不甲斐ない
!
「御者止まれ!」
「どうする気だブラッド!」
「決まっている。モリセット邸へ引き返すんだ!」
「馬鹿を言うなブラッド!分からないのか!何故シャノン様が何も言わず私たちをお帰しになったか…私と君も監視されているからだ!」
「なっ!」
「止せ!窓を覗くな!これだからシャノン様も君には言わなかったのだ」
「…すまない…じゃあどうする?どうすればいい?」
「君が寄ってもおかしくない場所が一か所だけある」
「それはどこだ」
「チャムリー家だ。マリエッタ嬢の力を借りるがいい!」
私は勢い込むブラッドを説得し彼に一つの指示を出した。
あの場所でシャノン様の警護が手薄になることは王城にいた、それもコンラッドの回りに居た者しか知り得ない。だからシャノン様はあんな質問をなさったのだ。
そしてその時間から逆算して、こんな短時間で成人を目前に控えた男女三人を拉致し監禁するなど出来るはずがない。
「君はマリエッタ嬢の力を借りて三人の居場所を探るんだ。誘い出されてノコノコ出ていったなら、恐らく行先は誘い出されてもおかしくない場所に違いない」
「…わかった」
「マリエッタ嬢にも他言無用を徹底させろ!」
「ああ…。それでロイド。君は?」
「私はシャノン様の居場所を探す」
「頼む…」
私を屋敷に送るとブラッドはその足でチャムリー侯爵邸へと向かった。
私は私で、折しも今日は彼が来る日だ。何と運のいい。
だが。
カサリ
フレッチャーからの脅迫状。父を通せば筆跡は容易く確認できるだろう。
これは動かぬ証拠、シャノン様の欲しがっていた、〝物証”をとうとう手入れた。
「学院の廊下でシャノン様にぶつかる馬鹿者が居た。あれはわざとだ」
「見知った者か?」
「いいや、あの顔は下位学年でもない。恐らく学院生ではないだろう」
「だが休日の学院に部外者が入ることなど…」
「ブラッド。なぜあの欲深いフレッチャーが学院への寄付だけは欠かさないと思う?子供が在籍して居る訳でもないのに」
「そうか…。こういう時の為にか…」
「そういうことだ」
この一年シャノン様のために動くことで見えてきた王家の闇。その中でフレッチャー家の役割は最大の不可侵だ。王妃の目を盗んでは王の意のまま王の望むまま、王の為だけに動く犬、それがフレッチャー一族だ。
だがローグ王の統治下において目についたフレッチャーの悪行と言えば、アドリアナお王妃殿下の目を盗み、王を満足させるために追加の徴収徴兵を行っていたことぐらいだ。
その程度で済んでいるのはローグ王が面倒事を好まぬ単純なお方だからに他ならない。
手を付けた女は後宮へ、王都外で遊ぶのは子を産まぬ男の愛人、市井で遊ぶときは後腐れ無く、高級娼館の娼妓を買うのだという話だ。
酒は強くどれほど飲んでも乱れることは無い。剣以上の刺激は無いと言って憚らない王は博打にも興味を示さない。さぞかしフレッチャーも尽くし甲斐の無かったことだろう。
だからこそフレッチャーは早々に尽くす相手をコンラッドに置き換えたのだ。
あのままコンラッドが卒業と同時に立太子すればフレッチャーは筆頭後援家としてますます力を増しただろう。
それだけではない。『神子』アーロンの後ろ盾としてどれほど増長したかわかったものではない。
コンラッドは虚勢を張るが、実は自分に自信を持てない男だ。だからこそアーロンに依存したのだし、もしそうなれば簡単にフレッチャーの甘言に乗ってしまっただろう。
「それでその男は兄さんに何をした」
「どうも手紙を渡したようだな。シャノン様は隠そうとしていたようだが」
「その手紙にはなんと書いてあったか分からないのか」
「いいや分るとも」
「見えたのか⁉」
「…現物がここにある」ガサガサ
「それは本当か!」
「ああ。私がシャノン様の私物を今までどれほど手に入れてきたと思う。抜かりはない」
「……、いやいい。今は目を瞑ろう。それで?何と書いてある?」
ー警告を聞かぬ無謀で愚かな自惚れ者め。三人のご友人はお預かりしている。返して欲しくば下記の場所へ参られるがいい。よもや神の代理が逃げ出すことはないだろうが、ご友人の無事な姿が見たければ急がれよ。分かっていると思うが誰にも他言は無用だ。それとも『神託』の力を以て助けて見せるか?出来るものならやってみるがいい。尚この手紙は消去することー
「ああ兄さん!なんてことだ!」
「一人で向かうなど…迂闊な!」
「下記の場所とはどこだ!」
「それが…、その部分は燃えてしまった…くっ!」
シャノン様の私物はなんであれ、完璧な状態で保存するのを命題としているこの私が、ああ…なんと不甲斐ない
!
「御者止まれ!」
「どうする気だブラッド!」
「決まっている。モリセット邸へ引き返すんだ!」
「馬鹿を言うなブラッド!分からないのか!何故シャノン様が何も言わず私たちをお帰しになったか…私と君も監視されているからだ!」
「なっ!」
「止せ!窓を覗くな!これだからシャノン様も君には言わなかったのだ」
「…すまない…じゃあどうする?どうすればいい?」
「君が寄ってもおかしくない場所が一か所だけある」
「それはどこだ」
「チャムリー家だ。マリエッタ嬢の力を借りるがいい!」
私は勢い込むブラッドを説得し彼に一つの指示を出した。
あの場所でシャノン様の警護が手薄になることは王城にいた、それもコンラッドの回りに居た者しか知り得ない。だからシャノン様はあんな質問をなさったのだ。
そしてその時間から逆算して、こんな短時間で成人を目前に控えた男女三人を拉致し監禁するなど出来るはずがない。
「君はマリエッタ嬢の力を借りて三人の居場所を探るんだ。誘い出されてノコノコ出ていったなら、恐らく行先は誘い出されてもおかしくない場所に違いない」
「…わかった」
「マリエッタ嬢にも他言無用を徹底させろ!」
「ああ…。それでロイド。君は?」
「私はシャノン様の居場所を探す」
「頼む…」
私を屋敷に送るとブラッドはその足でチャムリー侯爵邸へと向かった。
私は私で、折しも今日は彼が来る日だ。何と運のいい。
だが。
カサリ
フレッチャーからの脅迫状。父を通せば筆跡は容易く確認できるだろう。
これは動かぬ証拠、シャノン様の欲しがっていた、〝物証”をとうとう手入れた。
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