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アレイスター

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「へクター、こんな時間に息をきらせてどうしたんだ」

一足先に学院を卒業した、私の側近であるヘクターは私の両手両足となって、父親であるバーナード伯と共に北部奠都てんとの調整をしている。
その彼が先触れもなくやって来たある日の夕刻。この冷静な男にしては珍しいことがあるものだ。

「それが…要領を得ないのだが、何かシャノン様の周辺で大変なことが起きたと思われる」
「シャノンの?どう言うことだ」

聞けばシャノンにいつも付き従っている苦労性の従者が、使用人に扮しバーナード邸に駆け込んできたのだという。

「それだけではない、彼は当家の従士を騙る何者かに裏門の木戸で呼び止められている」

「…ほう?」

「彼は機転をきかし、口のきけぬ振りをして黙ってこの手紙をみせたそうだ。手紙の内容を確認した偽の従士は納得して去ったそうだが、当家にその様な従士など居ない。当家の裏門に居るのは年かさの門番だけだ」

「不穏だな…それでこれは?」
「シャノン様からお前に宛てた手紙だ。だが従者はこれが誰から誰に宛てられたものか、そして己の素性も絶対知られるなと厳命されている」
「シャノンからの厳命…いいだろう。見せてもらおう」


ーハローアレク、あの時買ったナイフの切れ味はどう?二人で食べた大きな串焼き、また食べに行こうね。輪っかを転がして遊んだのなんてはじめてだったから楽しかった。フワフワの白パンも美味しかったし、もっとカバンに詰めて持ちかえれば良かった。アレクの居ない一分一秒がすごく長く感じるよ。今すぐ会いたい。会いに来てー

「アレク…あああれか」
「下町で化けた時の偽名か」
「そうだ」

これは…一見想い人へ送った恋文に見えるが…、誰にも知られるなと厳命するくらいだ。恐らくこれは従者を巻き込まないための、万が一を考えた安全策なのだろう。

「随分お熱い手紙だが…文面通りの意味ではないのだろう?ではどういう意味だ」
「そうだな……ああなるほど。見ろヘクター。ところどころ文字が滲んでいる。それもやけに規則的に。いいか、滲んだ文字だけを拾い上げるんだ」

「大きな…輪っか…白パン…」

「白いパンといえば製粉された小麦、そして大きな輪とくれば答えは一つだ」
「…準貴族街の水車か」

文末は考えるまでもない。急げという意味だろう。そしてアレクの名を記したと言うことは…素性を隠せ?いや、知られるなと言うことか…

「…待て!急ぐぞヘクター」
「いきなりどうした?」

「この文章は改行がおかしいと思わないか」

「そうだな。文字のバランスが悪く妙な間隔も多い。そのために不自然な区切りで改行しているように思えるが…」

「頭の文字を縦に読むがいい」

ハローhello
切れ味edge
輪っかloop
詰めてpack

HELPヘルプ!身に危険が迫っているのか!」
「そう言うことだ!」

行かなくては。準貴族街の水車…そこでシャノンが私の助を待っている。



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