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164 断罪前のダメ押し

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辺境伯は言った。コンラッドは今の王様よりも前々王に似てるって。自由と愛に生きる情熱の赤。それがコンラッドだ。
責任と愛の間を二転三転しながら、最後にはやっぱり愛を選んだ。そう、昔見たオペラ、〝アイーン”の主人公のように!

コンラッドに似ているマーグ王太子…その彼が体裁だけで好きでもない相手に、あんな愛に溢れた手紙を送ったりするだろうか…?いいやしない!コンラッドに似ている…それはワンマンでデリカシーに欠けるということだ!

「大して役に立てなかったわね」
「いいえ。意外と役に立ちました」

「今からどうするの?」
「学院に寄ります」
「今日は休日でしょう?」
「明日まで待てません。それに人のいない方が都合が良いですし」

「そう。では送らせましょう」
「え?いいですよ。うちの馬車で来てますし…カイルもいますし」
「従者は校舎内には入れないでしょう。今日は取り巻きも居ないのですし言う通りになさい」
「じゃあお言葉に甘えて…」

っていっても、王家の護衛だって校舎内には入れないじゃん。王妃様何言ってるんだか…

「誰か!ブラッドとロイドを呼びなさい!」
「え?ああなんだ。二人とも来てるんですね」
「息子は、友人に恵まれ何よりね。護衛騎士代わりに連れて行きなさい」
「そうします」



やってきた二人に付き添われて学院に向かう馬車の中…、丁度いいので川沿いのモールとそこで見つけたものについて相談してみる。これは萌えにも言える事だが多角的視点はいつでも大事だ。

「…というわけで学院に行こうと思って。よく考えたらマーグ王も当時学院生だったなーと思って」
「ああ分かりました。兄さんはマーグ王の展示物を探しに行くのですね」
「その通り」

学院内で年に一度の大きなお祭り、それが秋の文化祭だ。
既出だが文化祭とは学生たちが思い思いに展示発表をする、場合によっては去就を左右する非常に真面目な学術のお祭りだ。

過去の優秀な展示物や論文などは学院内に保管、もしくは展示されている。それが王族のモノなら絶対保管してあるに決まってる。興味無かったから見たこと無いけど…

「つまり筆跡の確認ですか?シャノン様は手紙が偽物とお考えなのですね」
「さすがロイド様」

「王太子の名を騙って別人と逢瀬を続けてたとか?」
「ブラッド。あの紙はれっきとした王家の紋入りだよ。それに知ってるでしょ?王子の手紙は王子の従者が届けて来るんだから。僕は一度もコンラッドから貰ったこと無いけど」

一撃必殺。学院に到着するまで二人は無言になった…


さて、休日の学院内は人気もなく静まり返っている。それでも無人…と言う訳では無い。ボツリボツリとまばらな人影。論文のために研究室にでも出入りする学生がいるのだろう。

マーグ王の展示物は簡単に見つけられた。覗き込む僕の隣に気が付いたらいつの間にかロイドが居た。相変わらず静かに近寄るな。前世は忍者かな?

カサカサ…

「それがマーグ王太子がリビア令嬢に送った手紙ですか?」

すっかり距離感の無くなったロイドの横顔を見てふと考える。仕える主君を失いロイドは卒業後どうするんだろう?まさか旅に付いて行くわけないだろうし…。ブラッドの領内で役人になるとか?お父さんの跡継いでトレヴァー君の宰相補佐…とか?いやー…無い気がする。

「ずいぶん熱烈な手紙ですね。これをマーグ王太子が?」
「あ、うん。ねー、やっぱ変ですよねー」

「これは別人でしょう。ご覧ください。筆跡に相違がある」
「うーん…」

シェイナは言っていた。高貴なものほど流麗な筆記体を使うと。流麗…それは時として読めないものだ。ほら、江戸時代のふみもそうだね?

展示物の描き文字はとても読めないものだ。慣れた人には読めるらしい。僕は転生チートが無ければ多分読めなかった。
それに比べ、リビア令嬢の持つ手紙は筆記体には違いないが、まるで日本人が習った英語の筆記体…とてもいうべくとても丁寧で分かりやすい筆記体だ。

「やっぱり別人?」
「なのに令嬢はこれを王太子の手紙と認識しているのですね」
「どういうことでしょうか…」

全容解明まではまだまだ…そんな言葉が脳裏をよぎった。

「とりあえず見るものは見たので帰宅しましょうか」
「では馬車を正面にまわしましょう」
「少々お待ちを」

馬車の準備をと、僕を置き去りにして先に出た二人。…こいつらは護衛の意味を分かっているのだろうか?学院内だし?別にいいけど。

のんきに歩くいつもの廊下。あとちょっとで表玄関、…といったところでそれは起きた。

ドン!

「イッタ!」

天下のシャノン様に向かってぶつかったまま謝りもしないとは…何たる狼藉!何処のどいつだ!って…見覚えが無い…
僕は転生後当時の学生名簿は全て覚えた。後日顔と名前も一致させている。ということは…
僕の知らない一年生か二年生?にしては体格のいい後ろ姿…

カサ…「あれ?なんだこれ」

右のポッケにはリビア嬢の恋文。なら左のポッケでカサカサ言ってるのは何?

「何々…え」

ー警告を聞かぬ無謀で愚かな自惚れ者め。三人のご友人はお預かりしている。返して欲しくば下記の場所へ参られるがいい。よもや神の代理が逃げ出すことはないだろうが、ご友人の無事な姿が見たければ急がれよ。分かっていると思うが誰にも他言は無用だ。それとも『神託』の力を以て助けて見せるか?出来るものならやってみるがいい。尚この手紙は消去することー

サァァァァ…まさかの脅迫状…

「シャノン様、どうなさいました」

ドッキィィ!!!背後に現れたのはロイド。相変わらず背景に溶け込むキャラだ。こんな時に驚かすのはやめて欲しい…

「何でもないです」グシャ
「今ポケットにねじ込んだのは…」

「鼻かんだゴミです」

ジィィっと見るな!

断罪まであと一か月、シャノン・プリチャード17歳…本気の絶体絶命…





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