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163 断罪の仕掛け人

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その日のリバーサイドは『シャノン様婚約解消記念フェスタ』と銘打ち、僕たちが帰った後も夜まで延々宴が続いたようだ。
余談だがその事を知った王妃様から後日、「やり過ぎよ!」と大目玉をくらったのはいうまでもない…

帰宅してすぐにアレイスターとトレヴァー君、それからポーレット家のご息女を見送り、エンブリーへ簡単な手紙を書いて必要な荷物を梱包する。プラムまでもう時間が無い。心が焦る。明日あさイチの船便に間に合うようカイルに頼むとようやく一息。
そこにやって来たのはミーガン嬢。

「守備は上々ですわ。あの雰囲気…もう二押しほどすれば…」
「ミーガン嬢なら上手くやると思ってました」

時刻は夕方。報告が終わると彼らは一旦帰宅することになる。
手に入れたレターボックス。みんなの前で開けても良かったけど…これがどういう性質のものか分からない以上、まずは僕が一人で確認するべきだろう。

カチリ…

そっと開ける見事な彫刻の蓋。そこにあったのは何通かの手紙。大切に保管されたその手紙はどうやら令嬢に宛てた私信のようだ。

差出人は当時の王太子。
…王太子⁉ ってことは心が通い合ってた期間もあったってこと?だって令嬢にとってこれは大切な手紙だったんだろうと思える。誰の目にも触れないよう、宝箱に鍵をかけて大切に保管してたんだから。
僕もジェロームからの手紙は全部大切に保管している。それこそ紙の劣化すら許せない、とコーティングまでして。恋する乙女なら当然の行動だ。

モヤっとしながら中身を確認する。

そこに並んだのは愛の言葉。令嬢の心を蕩けさせる想いのほとばしる手紙…

ー昨夜あったばかりだというのにもう君が恋しいー
ー愛しいリビア。君に出会って私の人生は始まったー
ー君も同じ気持ちでいてくれると信じていいだろうかー

……これがマーグ王太子の手紙?

いやいやいや、なんだかピンとこない。だってこれは…愛する人へ送る手紙だ。この手紙を送る人があんなヒドイ断罪するんだろうか?

そういえばミーガン嬢は何て言ったっけ?「令嬢の想いとは何か?」「自分の非を認めているよう」確かそんなことを…
令嬢はマーグ王太子を愛していた?ならどうして不貞なんて…
マルーンの男はどこに出てくる?マーグ王太子はどうして心変わりを?フレッチャーは何をしたっていうんだ!


もやもやしたまま何日悶々とした夜を過ごしただろう…。僕は意を決しある休日、久しぶりにプライベートで王城へ向かうことにした。
訪ねるのは王妃様。
どうせ王妃様は口を割らないだろうとスルーしてきたが、今の王妃様ならワンチャンあるかもしれない!

「それで?個人的な用とはなにかしらシャノン」

「色々と聞きたいことはあるんですけど…取り敢えずフレッチャーです。あの一族って何なんですか?」

まずはどうしても知りたいことから。遠回し…なんて単語、僕の辞書には無いのだよ。

「それよりシャノン、あなたはどこまで知っているのかしら」
「証拠はないけどおおよそは。その埋まらない部分を教えてほしくて…」

「そう…。残念ですがシャノン。わたくしは全てを知ってはいないの。ローグ、王もそれは同じよ。ケイレブ王ですら当時の宮殿内で見聞きした憶測でお話しくださったのですから」

「マーグ王から語り継がれてるんじゃないんですか?」
「王家の典範に付記されているのは一つだけよ。ロアンの一族について口にするのは未来永劫まかりならぬと」

王妃様曰く、あとは全部ケイレブ王によって伝えられたのだとか。ケイレブ王は事件の風化を望まなかったんだろう。少なくとも王家の内部においては。

「ケイレブ王はなんて?」
「…今更隠しても仕方ないのでしょうね…」

王妃様が知るのはかいつまんでこんな感じだ。

王太子の婚約者、ロアン侯爵家の令嬢リビアが間男と閨を共にし、王太子付きの従者によって早朝現場を押さえられ、不敬の罪に問われ修道院に送られた。
そして娘の犯した罪の重さ、恥に耐えかね、ロアン侯爵家の当主夫妻は当時まだ十に満たない嫡男を連れて姿を消した。
直後、フレッチャーが謎の陞爵を得て侯爵位を賜るや、当時の王、王妃が立て続けに命を落とした。
それを受けて社交界では〝ロアンの呪い”と震え上がった。

即位したての若き王は、自分の治世が醜聞で貶められるのを嫌がり徹底した箝口令をしいた。なんでもあれだけ有能なバーナード伯が北に領地を持つのは、当時の社交界でロアンの調査に言及した当時のバーナード伯が命に背いた罰で領地替えを言い渡されたからなんだとか。

「婚約に際しケイレブ王が仰ったのよ。決して間違った婚姻を押し進めてはならない。正しき縁を守らねばならない。そうしてケイレブ王が知る限りの過去の悲劇をお教えくださったの。口外無用と念押しされて」

正しき縁とは何ぞや?という疑問はあるが、ケイレブ王が断罪劇を警戒していたのは間違いない。そして女癖は悪いがそれ以上に面倒ごとの嫌いなローグ王はその言葉を順守した、と。

「ところがよりにもよって肝心の息子が歪んだ婚姻を望むとはね…さすがのわたくしもコンラッドの教育を王、そして騎士団長に一任していたことを後悔したわ…」

一般教養だけなら確かシャノンとコンラッドは一緒に受けていたはずだ。それ以外は王妃としての政治経済、外交について学ぶシャノンと違って、コンラッドはブラッドたちと剣の腕を磨いたり馬に跨り狩りに出たり、座学ですら戦略を学ぶ軍師教育がメインだった。当然そこに王妃様の出番はない。

「それもあってあれほど僕とコンラッドの婚約解消を反対したんですね…」
「そうね…それもあるわ」
「王様はフレッチャーが何をしたか知らないんですか?」

「フレッチャー候の祖先が何をしたか…、実際のところわたくしたちは何一つ知らないのよ。ケイレブ王もわたくしもそうではないかと怪しんでいるだけ。それを知るものは全て鬼籍に入られてしまった…。だからこそ王がフレッチャー候を優遇なさることを止めることが出来ないの」

…フレッチャーは王様の太鼓持ちで…それに軍事の要である物資を握っている。そりゃ王様は大事にするだろう。

うまいもんだ…。お父様が言ったじゃないか、フレッチャーはことを荒立てないって。事を大きくして衆人の知るところになることこそをあの一族は嫌がる。証拠さえなければそれは無いも同然…

なら絶対暴き立ててやる…衆人環視の前で!大々的に!

「ふー…、マーグ王とフレッチャー家は当時からズブズブだったんですか?」
「いいえ。これだけははっきりしています。フレッチャー家が取り立てられ、宮廷で存在を増したのはロアン家断絶以降です。だからケイレブ王はお疑いになられたのよ」

ズブズブだから陞爵したんじゃなく、陞爵の後ズブズブになった…そこにあるのは何?

「それまで王家と田舎の伯爵家であったフレッチャー家の接点など…当時のマーグ王太子とフレッチャー家の嫡男が学院の同級生だった、その程度のものです。それですら王太子の周りは王都に屋敷を持つ名家の子女で固められていたでしょうから。フレッチャー家の息子など…お呼びじゃないわね」

同級生…だと?
…王妃様…学院を抜け出すほど奔放な王太子なら…名家の子女より田舎貴族の息子の方がきっとウマが合うんだと思うよ?




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