断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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156 断罪と王族

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「シャノン様。肩が片方はだけております。お直しを」
「カイル、これはこういう衣装だから」
「ですが…」
「いや、いいから」
「でも少しだけ」
「いいって」

「もうよいカイル。私が何度言っても聞かないのだよ。これは様式美だと言ってね。確かに天上の優雅さを感じるのは否めない。儀式が終わるまでは我慢するとしよう」

今日はめでたい『神子就任の儀』

…僕はコリもせず『神託』の衣装、キトーンに身を包んでいる。それも本日はヒマティオンなしだ。何故って?窓のない祈祷所、それも夏の祈祷所は暑いからね。
お父様には散々ブツブツ言われたが、せっかく自作したのに出番があれだけじゃ悲しいでしょうが!

この春から夏にかけて、お父様は領地と王都の往復が実に大変そうだ。
なので最近は時短の為に、馬車も使わず従者、護衛と共に馬に跨り帰宅している。

「帰って来なくても良かったんですよ?これはコンラッド様のお祝いだし」
「いや、『神託』としての栄えある一大儀式ではないか。これを見逃すわけにはいくまいよ」

ウキウキして聞こえるのは気のせい…?
お分かりだろうか。お父様はブラッドまでもが招待されたのを理由に、「息子二人が招待されて父親の自分が何故招待されない!」と王妃様に駄々をこねたのだ。…大人のくせに…



さて、やって来たのは王城内にある祈祷所。アーロンが謹慎してたところだね。
祈祷所とは言っても小さな神殿並みの作りである。王家専用だけに。

本日ここには錚々たる王族メンが勢ぞろいしている。

ここまで出番はなかったがいつの王にも側妃はいたわけで、当然異母兄姉弟妹きょうだいもそれなりに居る。男性王族は各遠隔地に散らばり公爵家の当主になっててその数現在8家ほど。彼らは相当大きな行事の時しか王城に来ない。それこそ今回のような。

八月に行われる就任式のために何故選定をあれ程急かされたのか、それは王様がせっかち…なだけでなく方々に散らばった皆さんを呼び寄せるのに時間がかかるためだ。神子選出が不確定なうちは呼び寄せられないからね。

もちろん不在もいる。高齢の王族はもちろん、アレシア国に帰省中の第一王女夫妻とか。あちらはあちらで、なんか建国何十周年祝賀とかがあるんだって。

このルテティア国で王族の定義は、王の兄姉弟妹きょうだいの孫までとなっている。つまりカサンドラ様は王族だけど僕は微妙に外れるわけだ。

いつもお目にかかる法務大臣、ポーレット家のご当主は前々王妹の孫だから王族、プリチャードのお父様は夫だから王族じゃないよ。
宰相様は前王の異母弟(現大公)の息子だから王族だね。


とまあ、僕の脳内で誰かに向けての説明が終わったところで厳かに儀式は始まる。

先ずは僕の出番、承認セレモニーだ。台本に沿ってコンラッドの名前を読み上げ、神託により彼が闘神の使いになったことを告げる。

次はコンラッドの宣誓セレモニー。なんかその…頑張る…みたいなことをカッコよく宣言する。

ここからは大司教様にタッチ。大司教様はルテティア国教の聖書から長い一章を読み上げ、その後コンラッドの頭に神の雫と呼ばれる、国教会の庭にある神樹から採った朝露を垂らしていく。

そして最後に、清らかな乙女が満月の夜に紡いだという糸で作った神子のローブを羽織って終わりだ。

そして部屋を移って王様から、正式に僕たちの婚約解消とトレヴァー君の立太子準備が発表された。
さて、ノベルゲーの強制力はどう断罪シナリオを入れ込んでくるのだろう…?ちょっとワクワク。

しかし全部で数時間。長い…長いよ…。でも儀式は帰るまでが儀式である。当然この後ロイヤル晩餐会が待っている。

僕の席次は末席、『神託』様に対して随分な扱いである。だが本日お集まりの皆さま方はセレブ中のセレブ、これもしょうがな…ん?

「何ですかロイド様」
「辺境伯閣下は本人の意向で王から離れた下手に席が用意されています。そこでコンラッドの元婚約者であるシャノン様も「殿下の近くは気まずいだろう」と進言し同じく下手に用意していただきました」

気配りだったのか…ロイドやるじゃん。

「閣下の隣です。どうぞご歓談を。聞きたいこともお有りでしょうし…」
「 ‼ 」

そ、そういうことか。気が利くなんてもんじゃない。

「反対隣りには私が座ります。何かあったらお声をおかけください」
「あ、うん」

……別にいいけど。

それはさておきどう切り出すか…。僕は元々人見知りだし辺境伯も口数は少ない。気難しそうで…ちょっと苦手なタイプ…滅多なことは口に出来ないし…

「は、はじめまして辺境伯閣下。お会いできて光栄です」
「うむ」

終了。…じゃなくて!

「あ…、あの…」
「なんだね」

話づら~…

「閣下は陛下と仲が悪いんですか?」

ブホッ!

聞こえてきたのは反対隣のロイド。ちょっと直球だっただろうか?

「どうしてそう思う」
「いえその…、だって親子なのにこんなに離れて座るから…」

「私とあれはどうにも相容れぬ。顔を合わせば互いに良い気はせぬ」
「そうなんですか?」
「あれは亡き父に生き写しだ。姿かたちだけでなくその振舞いまでも」

「へー、前々王はそんなに陛下と似てるんですね。じゃあマーグ王とも仲悪かったんですか?」

ゴホン!

うるさいなロイド!オブラートに包んだってしょうがないじゃん!

「ふ…、悪いなどと言うものではない。父は私を憎んでおったし私も父を好ましくは思っておらなんだ」

お、重…。けどそんなけ相性最悪の父と子に挟まれてたら城に居たくないのも当然ってものだ。

「父は血気盛んな王であった。それは戦に限らぬ。私の母でもある最愛の正妃を失ってからは五人もの妃を後宮に置いた。愛人に至ってはもはや数も分からぬわ」

「そ、それはそれは…」

「…最愛の代わりは見つからなんだということだな。挙句六十まで生きるとは…淋しい人よ…」

感情の無い台詞。まるで赤の他人を偲んでるみたいだ。

「えと…良い王ではなかったんですか?」
「…強き王であった。国の黎明期を牽引するにはうってつけのな」

「人格者ではなかった…って言う意味ですね?」

「はっきり言うのだな。だが否定は出来ん。…それを思えばローグはまだ良い。あれは単純で面倒事を好まぬ男だ。慣例に従うことを不満に思わぬ」

…つまりマーグ王、前々王は慣例に従わなかったってことね。確かに、今の王様は宮廷がある程度落ち着いてからの王だから。テンプレなぞってる方が面倒ないもんね。

「だがコンラッド、あれはローグ以上に父の気性を受け継いでいる。一途と言えば聞こえはいいが…堪える事が出来ぬ。お前にも迷惑をかけたな」
「ああいえ…」

「あれがローグの選んだ神子候補に入れあげていると報告を受けた時には眩暈がしたものだ」
「真実の愛らしいので…」

「真実の愛ならば不実も許されると?愚かな…、我々は民の手本とならねばならぬ」

そういや潔癖なんだっけ。うちのお父様と気が合いそうだな。

「……らば王位継承権を放棄すればよかったのだ…」
「え?今何て?」

「いや、コンラッドが神の使いとなったは幸いだったかもしれぬ、と…」

なんてね。聞こえてました。マーグ王は不実を通した。そういう意味だよね今のは。けど一個だけ訂正しといてやろう。

「あの…、コンラッドが王族を離脱するのは僕が『神託』を下すよりも前に自分から言い出したんですよ?」
「それは本当か」

「ええ。アーロンが好きだから王城を出るって」

ちょっと違うけどざっくり言うとそんなニュアンスだよね。

「…そうか。ならばあれは自ら呪いを断ち切ったのだな…」

ヒュッっと血の気のひく音がした…

すごく小さな呟きだったけど…今間違いなく辺境伯はその口で〝呪い”と言った。




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