断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
上 下
217 / 308

152 断罪と幸運

しおりを挟む
その後プリチャード邸では、敵の目を欺くために警備の騎士が増員された。もちろん親類筋からお借りしての人員である。こんな時に見知らぬ人は雇えないよね…

けどシェイナは僕の心配を余所に蜂蜜が警告ならこれで十分だって言い残していった。

王があれほど神子に執着するのは伝承だからだけじゃなくて、ロアンの呪いを恐れているからじゃないか、って言うのがシェイナの意見だ。現に当時の王は戦場で命を落としているし…

王様にとって神子とは呪いから我が身を救う御守りのようなものなのかもしれない。。
それならコンラッドが神の使いになった今でも、神子の候補だったシェイナとアーロンに王様は保護を命じているはずだって。

ーコンラッドに何かあった時の為に予備は必要でしょー

…シビアな考え方だが、貴族家だって次男を予備とハッキリ言い切るんだからこんなものなのかもしれない。
とにかく、王の不興を買ってまで強引な手には出ないだろう、って。

けどそれは、あくまで僕たちが目立つ動きをしなければ…って話ね。
そんな訳でこうして暫しの平穏の中、僕は転生ラストの夏休みを迎えたのだった。




「シャノン様。今年の夏こそはご一緒しませんこと?わたくしの父が治めるチャムリー侯爵領へ涼みに参られてはいかがかしら」

「ではその足でどうぞハワード領へもお寄りください。父が喜びます」
「そこまで来て我が家にだけはこないなどと…領で待つ兄が泣きましょう」

「う~ん…シェイナも居ない事だし…」

嵐の前の静けさ。プロム前にはもうあまり遊べないかもしれないし…

「皆さんのお言葉に甘えちゃおうかな?」

こうして僕の初友人宅お泊りはチャムリー領から幕を開けた。

チャムリー侯爵領は大きな川と小さな川に挟まれた非常に気候の良い場所にある。涼むにはうってつけの場所だ。場所が場所だけに一つ一つの領はかなり小さめだが、緑と水に恵まれた好立地のため収穫高は多い。
王都からは非常に近いのだが、城郭をぐるりと迂回するため無駄に時間をとられるのだけが玉にキズだ。

同じトライアングルゾーンの中にはハワード伯爵領、クーパー伯爵領がある。つまりあの三人は幼馴染ということだね。

水辺に暮らし川の扱いに慣れているというのでクーパー伯は河川の管理、主に船の事業を受け持っているのだが、河川に関する防災や水門の管理を担っているのがリアム君の父、ハワード伯(カサンドラ様のファンね)だ。
そうそう。チャムリー侯爵は外務大臣だから出張が多い。なのでミーガン嬢のお兄さんは世襲前だがしっかり当主代理として手腕を振るっている。これ取り巻きマメ知識ね。

「チャムリー侯は今もお留守ですか?」
「そうですの。アドリアナ様の命で海洋国ルッソに出向いておりますわ」
「海洋国…、じゃあ多分アレイスター殿下に関わる仕事なんでしょうか?」
「気になりますの?」

「…いいえぇ~?全然ですけどぉ~?」

と、言ったような会話をしながら僕とミーガン嬢は二人で馬車に揺られている。

そして後ろの馬車にはアリソン君とリアム君が、密室で、密着して、二人きりの時間を大いに楽しんでいる。
え?誰が決めたかって?さぁ?なんの話かな?

何故ならば僕はミーガン嬢と二人きりが許される側だからだ。
むしろアリソン君と二人きりの方が許されない。かといって三人で一台に乗り込んだら狭いでしょ?ミーガン嬢だって寂しいし…。だから…これでいいのだ。

窓から爽やかな風を受ける馬車の旅。まずは王都から一番近いチャムリー領に到着した。

チャムリー領はトライアングル地帯の二分の一を拝領する侯爵家だ。
すぐ隣がアリソン君ちのクーパー領で、そこを挟んで一番向こうがハワード領。ミーガン嬢とリアム君の縁談を決めたのはチャムリー候自らだという。僕が思うに…娘と離れたくなかったんだねお父さん。ホンワカ…

「この辺りの川は水位も浅く小石ばかりで危険はほとんどございませんの。男性には釣りや遊泳を楽しまれる方もおりましてよ」

「私とアリソンも興じるつもりでいます。ご一緒にいかがですか」

「僕も泳いで良いんですか?」
「ま!シャノン様、昨年のことをお忘れですの?釣り遊びしかいけませんわ」

スイミングスクール仕込みの華麗なクロールをお見せしたかったのに…うーん残念。

ともあれ、王都でのあれやこれやを忘れゆったり過ごす事チャムリーでの日々。これぞ命の洗濯。そして三日目の朝、僕たちは待ちに待った川遊びへ出発した。

自然のまま温存された下流は河原が広く浅瀬の川との間に段差はあまりない。代わりに河原の向こうは堤防らしきものが作られている。
その堤防にはたくさんのツボ貝やキレイなガラスなんかが埋め込まれていて、まるで小学生の頃作った卒業記念壁画のようだ。

「ではシャノン様、わたくしどもの使用人が日除けを準備するまでお待ちくださいな」

「はーい、ところであれって…」

「ああ。あれはなんと申しましょうか…殻や尖ったガラス片で足を傷つけぬようこの辺りの民は昔から時折川底をさらうのですわ」
「それがいつの間にか子供たちの遊びになり、ああして拾ったものを思い思い土壁へ埋め込むようになったのですよ」

「見て来てもいいですか?」
「ええどうぞ。足元お気をつけあそばせ」

なんとなく郷愁にかられてしまった…。
ツボ貝を並べたお花だったりガラスで描いた鳥だったり、楽しそうな子供の姿が想像ついて微笑ましい。そういえば僕が砕いたタイルで描いたのは右隣の男子…とその親友だったっけ。懐かしい…

その時ふと目に付いたのは土中に埋め込まれた一枚の羽根。それも真っ黒な…、偽物だけど。

「服の飾りかなんかかな?ああ!隣がガラスの鳥だから尾羽にしたのか」

何かと黒に反応するのは僕のお茶目なところだ。

「シャノン様ー!準備が整いましたー!」
「はーい!今行きますー!」

水中に足先を浸けながら叫ぶのはリアム君。彼は少しばかり童心に返っているようだ。
微動だにせず魚がかかるのを待つのはアリソン君。彼は釣り人に向いたタイプだ。
そんな二人を川岸でスケッチするミーガン嬢。きっと子供の頃からこんな風に過ごしていたんだろうな…。その面子に混ざれた自分がちょっと嬉しい。

「アリソン危ない!」
「おっと!…ああいけない、水草に足をとられるところだった。助かったよリアム」

「……」

両腕をまわしてアリソン君の身体を支え転倒を阻止するリアム君。
現在二人は抱き合う形になっている。

推しカプの生抱擁…

これはこの二年精一杯頑張ってきた僕への、神様からの御褒美に違いない。ならラストスパート頑張れよ、の激励も欲しいところだ。

「リアムちょっと!手離し」
「うわあ!」

バッシャーーーン

「……」

結局滑ってアリソン君を巻き添えにして倒れこんだリアム君。現在リアム君は水中でアリソン君に押し倒される体勢になっている。

その時僕は思った。
神はいる…と。





しおりを挟む
感想 865

あなたにおすすめの小説

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...