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150 断罪から避難
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その指輪を受け取って良かったのか悪かったのか、判断もつかないままコンラッドとの待ち合わせ場所まで付き添われる中、いつの間にか僕とフレッチャーの件を知っていたアレイスターはちょいおこプンプン丸だ。
チクったのはヘクターだろう…ヤロウ、いつの間に。
「全く君は…。あれだけの目に遭いながらなんと豪胆なのだろうね」
「そうですか?」
「まあいい。それで何を話したのだい?」
アレイスターはロアンの件、つまり王家の闇解明チームにはあまり積極的に関わっていない。コンラッドや王妃様と同じ理由からだ。それに分割統治の問題を抱えたアレイスターにとって、ロアンの件は些事のようだ。まあ…もともとアレイスターは王家が好きじゃないし…こんなものか。
それでも概要は熟知している。頼れる男。それがアレイスター・ルテティア第二王子。
「…で、僕とシェイナに背信者の汚名を着せようとして…、頭に来て扉バーンって閉めちゃいました」
「君のその細腕で?」
「…少し盛りました。騎士が閉めたかもしれません…」
王城の扉はどれも重厚。バレちゃあしょうがない。
「シャノン…当分身の回りに気をつけるんだ」
「え?どういうこと?」
少し考え込んだアレイスターは眉根を寄せて僕にそう忠告をする。フレッチャーのことなら十分警戒してるけど?
「フレッチャー候は君たちを背信者にしようとしたのではない。その文字盤を警戒しているのだと思われる」
「つまり?」
「君たちは何をしている?過去の…亡くなったロアンの亡霊を探しているのだろう?。そしてフレッチャーはそれこそを警戒しているのではないか」
「あぁっ!」
つ、つまりフレッチャーは…僕たちが降霊術かなんかでロアンの霊を降ろすんじゃないかって、それを勘ぐってるってことか!
ってことは…、僕よりむしろ…シェイナが危ない!
「あ、あど、どうしよう…」
「心配しなくとも今日明日と言うことはないだろう。彼はとても周到な男だ。先走っては動かない。だが悠長に構えていてもいけないよ」
「分かったアレイスター。ありがとう」
そのとき僕は一つの考えを頭に浮かべていた。そして最期のイベント回収を終えた達成感と諸々の疲労感の中、早々にパーティー会場を切り上げ帰路についたのだ。
二度の誕生会が続いたプリチャード家ではしばらく夜会も茶会も予定がない。
つまり…シェイナが狙われるとしたら外出先。外出に連れ歩かなければ危険は避けられる、僕はそう考えていた。
成人式から一週間ほどたっただろうか。その日は朝から厨房が騒がしかった。
転生直後ハムを盗み食いしようとしたのがバレてから、僕が厨房に近づくのを使用人たちは良く思わない。それでもその日僕は厨房に向かっていた。アレイスターに『氷菓子』と言われたことでかき氷の存在を思い出し、「シャーベットもいいけどかき氷が食べたいよね?」とパティシエにリクエストしに行ったのだ。
「何を騒いでるの?」
「あらシャノン様。こんなところにいらして…どうなさったのです?」
「ちょっとパティシエに用があって…それよりどうしたの?」
「シャノン様の成人を祝って甘味の贈り物が届いたのです」
「へー、それは良かったね」
「見てくださいな。こんなにたくさんの蜂蜜」
「蜂蜜…?」
「蜂蜜は菓子だけでなく薬にもなるとても貴重な甘味ですよ。贅沢な贈り物ですこと」
「うんまあ…」
確かに蜂蜜は薬にもなるし、冬の乾いた唇を潤してもくれるし、肉の防腐処理にも使えるお役立ち甘味ではあるが…
どっかの新作菓子かと期待した僕はちょっとガッカリ…
「『神託』シャノン様と『神子』の欠片を持つシェイナ様にはぜひお召し上がりいただきたい、カードにはそう書かれていますので、あとで瓜の蜂蜜掛けをお持ちしましょうね」
ウリの蜂蜜掛け…なんちゃってメロンか。それはそれで。
その時僕の脳内を前世の記憶がふっとかすめた。
免疫系の難病で闘病していた僕に母の友人がくれたどこかの農場で作られた蜂蜜。母の友人は蜂蜜が免疫疾患に良いと知り母にくれたのだという。
けどその蜂蜜によって僕は中毒を起こした。免疫だけじゃなく腸内も弱っていた僕ではボツリヌス菌の殺菌はできなかったらしい。
幸いにして大事にはならなかったが、その時僕は知ったのだ。蜂蜜を乳幼児に与えるのは気をつけなければならないと…
そしてこの世界の衛生レベルは…前世のそれと比較にもならない。
「ちょっと待って!そのカード…ううん、蜂蜜の贈り主は誰?」
「え…?あら、どこにも差出人が書かれてませんわ」
「セバス!セバスはどこ!」
セバスに確認して分かったのは、その蜂蜜の瓶が大量に詰められた木箱は他のギフトに重ねられ置かれていたのだということ。
そのためセバスはそれが下段の贈り物と同じ人物からのギフトだと思い込んでいたらしい。
急いで下段の贈り主に確認したところ蜂蜜は送っていないという。
そこで運搬人に確認したところ、気が付いたら荷台にその木箱が乗せられていたらしい。運搬人は追加の贈り物だろうと、特に勘繰ることもなく運び入れたとか。そりゃそうだ。
「これから子供部屋に持ち込むものはいったん僕を通して!それから口にするものは大人が毒見をするように。いいね!」
蜂蜜程度で必ず重症になるとは限らない…。つまりこれは警告。いつでもシェイナを狙える、そういう意味だ。
チクったのはヘクターだろう…ヤロウ、いつの間に。
「全く君は…。あれだけの目に遭いながらなんと豪胆なのだろうね」
「そうですか?」
「まあいい。それで何を話したのだい?」
アレイスターはロアンの件、つまり王家の闇解明チームにはあまり積極的に関わっていない。コンラッドや王妃様と同じ理由からだ。それに分割統治の問題を抱えたアレイスターにとって、ロアンの件は些事のようだ。まあ…もともとアレイスターは王家が好きじゃないし…こんなものか。
それでも概要は熟知している。頼れる男。それがアレイスター・ルテティア第二王子。
「…で、僕とシェイナに背信者の汚名を着せようとして…、頭に来て扉バーンって閉めちゃいました」
「君のその細腕で?」
「…少し盛りました。騎士が閉めたかもしれません…」
王城の扉はどれも重厚。バレちゃあしょうがない。
「シャノン…当分身の回りに気をつけるんだ」
「え?どういうこと?」
少し考え込んだアレイスターは眉根を寄せて僕にそう忠告をする。フレッチャーのことなら十分警戒してるけど?
「フレッチャー候は君たちを背信者にしようとしたのではない。その文字盤を警戒しているのだと思われる」
「つまり?」
「君たちは何をしている?過去の…亡くなったロアンの亡霊を探しているのだろう?。そしてフレッチャーはそれこそを警戒しているのではないか」
「あぁっ!」
つ、つまりフレッチャーは…僕たちが降霊術かなんかでロアンの霊を降ろすんじゃないかって、それを勘ぐってるってことか!
ってことは…、僕よりむしろ…シェイナが危ない!
「あ、あど、どうしよう…」
「心配しなくとも今日明日と言うことはないだろう。彼はとても周到な男だ。先走っては動かない。だが悠長に構えていてもいけないよ」
「分かったアレイスター。ありがとう」
そのとき僕は一つの考えを頭に浮かべていた。そして最期のイベント回収を終えた達成感と諸々の疲労感の中、早々にパーティー会場を切り上げ帰路についたのだ。
二度の誕生会が続いたプリチャード家ではしばらく夜会も茶会も予定がない。
つまり…シェイナが狙われるとしたら外出先。外出に連れ歩かなければ危険は避けられる、僕はそう考えていた。
成人式から一週間ほどたっただろうか。その日は朝から厨房が騒がしかった。
転生直後ハムを盗み食いしようとしたのがバレてから、僕が厨房に近づくのを使用人たちは良く思わない。それでもその日僕は厨房に向かっていた。アレイスターに『氷菓子』と言われたことでかき氷の存在を思い出し、「シャーベットもいいけどかき氷が食べたいよね?」とパティシエにリクエストしに行ったのだ。
「何を騒いでるの?」
「あらシャノン様。こんなところにいらして…どうなさったのです?」
「ちょっとパティシエに用があって…それよりどうしたの?」
「シャノン様の成人を祝って甘味の贈り物が届いたのです」
「へー、それは良かったね」
「見てくださいな。こんなにたくさんの蜂蜜」
「蜂蜜…?」
「蜂蜜は菓子だけでなく薬にもなるとても貴重な甘味ですよ。贅沢な贈り物ですこと」
「うんまあ…」
確かに蜂蜜は薬にもなるし、冬の乾いた唇を潤してもくれるし、肉の防腐処理にも使えるお役立ち甘味ではあるが…
どっかの新作菓子かと期待した僕はちょっとガッカリ…
「『神託』シャノン様と『神子』の欠片を持つシェイナ様にはぜひお召し上がりいただきたい、カードにはそう書かれていますので、あとで瓜の蜂蜜掛けをお持ちしましょうね」
ウリの蜂蜜掛け…なんちゃってメロンか。それはそれで。
その時僕の脳内を前世の記憶がふっとかすめた。
免疫系の難病で闘病していた僕に母の友人がくれたどこかの農場で作られた蜂蜜。母の友人は蜂蜜が免疫疾患に良いと知り母にくれたのだという。
けどその蜂蜜によって僕は中毒を起こした。免疫だけじゃなく腸内も弱っていた僕ではボツリヌス菌の殺菌はできなかったらしい。
幸いにして大事にはならなかったが、その時僕は知ったのだ。蜂蜜を乳幼児に与えるのは気をつけなければならないと…
そしてこの世界の衛生レベルは…前世のそれと比較にもならない。
「ちょっと待って!そのカード…ううん、蜂蜜の贈り主は誰?」
「え…?あら、どこにも差出人が書かれてませんわ」
「セバス!セバスはどこ!」
セバスに確認して分かったのは、その蜂蜜の瓶が大量に詰められた木箱は他のギフトに重ねられ置かれていたのだということ。
そのためセバスはそれが下段の贈り物と同じ人物からのギフトだと思い込んでいたらしい。
急いで下段の贈り主に確認したところ蜂蜜は送っていないという。
そこで運搬人に確認したところ、気が付いたら荷台にその木箱が乗せられていたらしい。運搬人は追加の贈り物だろうと、特に勘繰ることもなく運び入れたとか。そりゃそうだ。
「これから子供部屋に持ち込むものはいったん僕を通して!それから口にするものは大人が毒見をするように。いいね!」
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