断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
上 下
214 / 308

150 断罪から避難

しおりを挟む
その指輪を受け取って良かったのか悪かったのか、判断もつかないままコンラッドとの待ち合わせ場所まで付き添われる中、いつの間にか僕とフレッチャーの件を知っていたアレイスターはちょいおこプンプン丸だ。
チクったのはヘクターだろう…ヤロウ、いつの間に。

「全く君は…。あれだけの目に遭いながらなんと豪胆なのだろうね」
「そうですか?」

「まあいい。それで何を話したのだい?」

アレイスターはロアンの件、つまり王家の闇解明チームにはあまり積極的に関わっていない。コンラッドや王妃様と同じ理由からだ。それに分割統治の問題を抱えたアレイスターにとって、ロアンの件は些事のようだ。まあ…もともとアレイスターは王家が好きじゃないし…こんなものか。

それでも概要は熟知している。頼れる男。それがアレイスター・ルテティア第二王子。

「…で、僕とシェイナに背信者の汚名を着せようとして…、頭に来て扉バーンって閉めちゃいました」
「君のその細腕で?」

「…少し盛りました。騎士が閉めたかもしれません…」

王城の扉はどれも重厚。バレちゃあしょうがない。

「シャノン…当分身の回りに気をつけるんだ」
「え?どういうこと?」

少し考え込んだアレイスターは眉根を寄せて僕にそう忠告をする。フレッチャーのことなら十分警戒してるけど?

「フレッチャー候は君たちを背信者にしようとしたのではない。その文字盤を警戒しているのだと思われる」
「つまり?」

「君たちは何をしている?過去の…亡くなったロアンの亡霊を探しているのだろう?。そしてフレッチャーはそれこそを警戒しているのではないか」

「あぁっ!」

つ、つまりフレッチャーは…僕たちが降霊術かなんかでロアンの霊を降ろすんじゃないかって、それを勘ぐってるってことか!
ってことは…、僕よりむしろ…シェイナが危ない!

「あ、あど、どうしよう…」
「心配しなくとも今日明日と言うことはないだろう。彼はとても周到な男だ。先走っては動かない。だが悠長に構えていてもいけないよ」

「分かったアレイスター。ありがとう」

そのとき僕は一つの考えを頭に浮かべていた。そして最期のイベント回収を終えた達成感と諸々の疲労感の中、早々にパーティー会場を切り上げ帰路についたのだ。




二度の誕生会が続いたプリチャード家ではしばらく夜会も茶会も予定がない。
つまり…シェイナが狙われるとしたら外出先。外出に連れ歩かなければ危険は避けられる、僕はそう考えていた。

成人式から一週間ほどたっただろうか。その日は朝から厨房が騒がしかった。

転生直後ハムを盗み食いしようとしたのがバレてから、僕が厨房に近づくのを使用人たちは良く思わない。それでもその日僕は厨房に向かっていた。アレイスターに『氷菓子』と言われたことでかき氷の存在を思い出し、「シャーベットもいいけどかき氷が食べたいよね?」とパティシエにリクエストしに行ったのだ。

「何を騒いでるの?」
「あらシャノン様。こんなところにいらして…どうなさったのです?」
「ちょっとパティシエに用があって…それよりどうしたの?」

「シャノン様の成人を祝って甘味の贈り物が届いたのです」
「へー、それは良かったね」

「見てくださいな。こんなにたくさんの蜂蜜」
「蜂蜜…?」
「蜂蜜は菓子だけでなく薬にもなるとても貴重な甘味ですよ。贅沢な贈り物ですこと」
「うんまあ…」

確かに蜂蜜は薬にもなるし、冬の乾いた唇を潤してもくれるし、肉の防腐処理にも使えるお役立ち甘味ではあるが…
どっかの新作菓子かと期待した僕はちょっとガッカリ…

「『神託』シャノン様と『神子』の欠片を持つシェイナ様にはぜひお召し上がりいただきたい、カードにはそう書かれていますので、あとで瓜の蜂蜜掛けをお持ちしましょうね」

ウリの蜂蜜掛け…なんちゃってメロンか。それはそれで。

その時僕の脳内を前世の記憶がふっとかすめた。

免疫系の難病で闘病していた僕に母の友人がくれたどこかの農場で作られた蜂蜜。母の友人は蜂蜜が免疫疾患に良いと知り母にくれたのだという。
けどその蜂蜜によって僕は中毒を起こした。免疫だけじゃなく腸内も弱っていた僕ではボツリヌス菌の殺菌はできなかったらしい。
幸いにして大事にはならなかったが、その時僕は知ったのだ。蜂蜜を乳幼児に与えるのは気をつけなければならないと…

そしてこの世界の衛生レベルは…前世のそれと比較にもならない。

「ちょっと待って!そのカード…ううん、蜂蜜の贈り主は誰?」

「え…?あら、どこにも差出人が書かれてませんわ」

「セバス!セバスはどこ!」

セバスに確認して分かったのは、その蜂蜜の瓶が大量に詰められた木箱は他のギフトに重ねられ置かれていたのだということ。
そのためセバスはそれが下段の贈り物と同じ人物からのギフトだと思い込んでいたらしい。
急いで下段の贈り主に確認したところ蜂蜜は送っていないという。
そこで運搬人に確認したところ、気が付いたら荷台にその木箱が乗せられていたらしい。運搬人は追加の贈り物だろうと、特に勘繰ることもなく運び入れたとか。そりゃそうだ。

「これから子供部屋に持ち込むものはいったん僕を通して!それから口にするものは大人が毒見をするように。いいね!」

蜂蜜程度で必ず重症になるとは限らない…。つまりこれは警告。いつでもシェイナを狙える、そういう意味だ。




しおりを挟む
感想 865

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

処理中です...