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147 断罪に手をかけたもの

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おさらいしておこう。

断罪前の最終イベントである成人の儀。ここでリセット前に行われたのはシャノンによる王家のルビー取り換え事件である。

どうしてもアーロンを正妃にしたいコンラッドが周囲へのアピール、既成事実づくりのために持ち出したのが王家の宝、ロイヤルカラーである真っ赤なピジョンブラッドのルビーである。

ピジョンブラッドを身につけられるのは王の正妃、これは決まり事ではないが暗黙の了解となっている。故にどれほど裕福な貴族や商会の会頭でさえ、暗黙の不敬を恐れてピジョンブラッドでは身を飾らない。(所有するのは別)

そのピジョンブラッドルビーのブローチで、ノベルゲーのコンラッドはあろうことかアーロンの胸を飾ろうとしたのだ。
色々汚染されていたとはいえ王子にあるまじき暴挙だ。頭おかしいんじゃないか。
ついでに言うならそれを見たシャノンもかなりテンパってたんじゃなかろうか。
今考えればもっと他に良案がありそうなものだが、その当時取り巻き達すら心が離れ、すでにほとんど味方の居なかったシャノンは最大の悪手に出た。
アーロンの控室に忍び込んだシャノンはルビーを自分の持つクリムゾンレッドのルビーに取り換えたのだ。

あのルビーは十五歳のシャノンが持つ一年間のお小遣い予算をほぼ注ぎ込んだ最高級のルビー。違いは少し青みがかっていることぐらい。シャノンはシャノンなりに、子供だましの宝石では代わりにしても不敬だと考えたのだろう。
けれど人々はそれを、アーロンに嫉妬し王家の赤に自分プラチナを主張した愚行、と判断したようだ。もちろんチャッカmanズの誘導だけど。

そして王家の宝を盗んだとして断罪への一本道に立たされるのだ。

が、前述したよう既にクリムゾンレッドのルビーは無いしアーロンも居ない。読めない展開、高まる不安。ドキドキドキ…

謁見の間で一人づつ順番に名前を呼ばれ王様にご挨拶して王妃様から記念品を受け取りパーティー会場となる別室へ向かう。これは偉い順なので真っ先に祝われるのはこの僕だ。

「シャノン成人おめでとう。あなたの立場が何に変わろうとあなたはわたくしの愛すべき子です。覚えておいて」
「王妃様…。僕も…、僕もそう思ってます」

もちろんシェイナも。
王妃様の言葉に感動の涙でも流したいところだが、如何せん、人目もあるし今日は後がつかえている。僕は大人しく謁見の間から退場した。

各々の従者は従者の部屋に集まっている。ここは宮殿の表、そこらじゅうに近衛や官吏が居るし何も心配はない。ってことで僕は一人で会場となるホールへ向かっていたのだが…

「シャノン様」
「ん?誰…ゲッ…ゴホン、フレッチャー候…。何かご用ですか?」

僕を引き留めたのは絶賛話題沸騰中のフレッチャー候。どんな風の吹きまわしだ?

「どうもあなた様とは例の愚かなバーグの犯した事件から誤解が生じているように思う」
「誤解…ですか?」

「会が始まるまで時間がかかろう。どうですかな?少々腹を割って話しませぬか」
「で、でも…」

相手はフレッチャー。油断大敵だ。

「なに、ここは王宮、心配無用。どうしても不安が払拭できぬなら騎士を一人付き添わせましょう。それ、そこの部屋ででも」

「では騎士の方が同席でなら…」

パタン

甘いと思う?
でも逆に考えればだよ?これは何か手の内を知るチャンスかもしれない。だって何もかも分からないのだ。フレッチャーに関してだけはどうしても。

「それで…お話とは何でしょう」
「シャノン様、あなたは過去を探って何をするおつもりか」

「過去…、ふー、アーロンの出生を調べたのは本当ですがそれがどうかしましたか?僕とアーロンの因縁を解決するのに彼の過去を知っておきたい、そう思って不思議はないでしょう?」

「本当にそれだけですかな?」
「…逆に聞きますけどそれ以外何があるんです?」

もうこの時点でこの件に関するあれとかこれとかフレッチャー家が犯人です、って言ってるようなもんだよね?

「…それで何がお分かりになった」
「何にも。アーロンが寒い雪の日に捨てられた娼婦の子だっていうこと以外は何も。何も分からなかったことぐらいフレッチャー候はとっくにご存じだと思ってましたけど?誰かさんの腕はとても長いし誰かさんの耳はとても大きいから」

「それがお分かりならこの件からは手を引くがいい。さすがの私も未知の存在『神託』相手では勝手がわからん。だが事が知れれば困るのは私だけではない」

ニヤリと笑うフレッチャー。知ってる。困るのは多分王様…いや、過去の王様、つまり王家だ。

「代わりに奪われた東部に関しては見逃しましょうぞ」

「デクスター領のことですか?言っておくけどあれは関係無いですよ。強欲なブラトワがエンブリーに手を出そうとするから悪いんです。僕はブラトワ領になんか興味なかったのに…馬鹿な男。アレは自滅です。デクスター卿の悪行はそのおまけで芋づる式に出ただけです。文句があるならブラトワなんかと手を組まなきゃ良かったのに。僕を恨むのは筋違いだし」

僕は言ってやった。又従兄弟ならもっと付き合う相手は考えるよう、むしろ指導の一つもしてやれば良かったのにって。

フレッチャーの上手い所は、一見強引に見えてその実ほどほどに引くところだ。…とはヘクターの父、バーナード伯の弁だ。
家訓でもあるのだろうか?彼は言わなきゃ損とばかりに好き勝手な主張をするし、獲らなきゃ損とばかりに利権に絡むが、ことが大きな揉め事に発展しそうだとスっと手を緩める。そのため瀬戸際の小康状態が延々と続く。相手が疲弊し根負けするのを根気強く待つのだとか。いわゆる…兵糧攻め?生殺し?みたいな。

言われてみればバーグの時もデクスターの件も、一旦クレームは入れるがあっさりしたものだった。サッと手を引くから結果、フレッチャーにはなかなか届かない。

そのやり方は何かを思い出させる。何代にも渡ってロアンの末裔である女性を生かしながらも追い詰めた、あのいやらしく粘着質なやり方を。

「……、それは誠本心かな」
「むしろ冬のバカンスを台無しにされて怒り心頭です。妹も危険な目に遭いましたし」

ピク…

僕の腐った眼力はどれほど僅かな表情の変化も見逃さない。それは時に、BL外にも適応される。今フレッチャーののこめかみはピクリと動いた。つまり…

つまりどこに反応したんだろう?バカンス?怒り?それとも…

「その妹君、シェイナ様ですが…なにやら怪しげな文字盤を用い大人顔負けの会話をなさると聞いたが」
「ええまあ」

シェイナだったか…

王様は猪突だから、僕が本当の神子だったこともシェイナがその影響でちょっとだけ子供らしくないことも、ついでにコンラッドが闘神の使いだったことも(ウソだけど)、王妃様が止めるのも間に合わないスピードで臣下たちに暴露した。フレッチャーももちろん知っている。

「…その文字盤が死者の声を聞くとは本当か」

はぁぁぁん?てか、どこから知った⁉ ホント早いな!

「言いがかりはやめてください!僕は国教会に背いたりしません!あれは僕と会話をするための文字盤。それ以上でも以下でもありません。ムカチャッカファイアー!!!これで失礼します!」

ギャル語で罵っとけば分かんないだろう、腹立つな!
それにしてもおかしな濡れ衣を着せて僕とシェイナを背信者扱いしようとは…これだからフレッチャーは油断ならない!

もう近寄んな!




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