断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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143 断罪とハッピーセブンティーン ②

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「シャノン様、そこに掛けませんか?」
「え、ええ。立ち話もなんですしね…」

なんだか遠くを見るようなジェローム。感情が読めない。もっと違う展開期待してたのに…
僕はずっとジェロームと両想いだって思ってたんだけど…、だってジェロームの言葉はいつだって愛に溢れていたし。
なのにこれは何?

僕は何か失敗したんだろうか?僕の頭の中が真っ白になったことにも気付かず、ジェロームは優しく微笑みながら話を始めた。

「初めて手紙を受け取ったあの時から…、思い上がりかも知れませんがシャノン様からの好意は感じていました」

バレバレだったか…
…ま、まぁ?未来の夫だと思ってたし?断罪に備えてより良き関係性は作っておこうと思ってたけど?
超恥ずかしい…

「その理由にもすぐに思い至りました。私たちを繋ぐ金平糖の想い出、それがシャノン様が田舎の貧しい一貴族でしかない私に好意を寄せてくださる理由なのだと」

それはそうなんだけど当時は知らなくって…。ああ!全部話せないのがもどかしい!

「何度も助けられ…そのたびに想いは募り…そして王都で初めてあなたにお会いして…その豊かな表情と飾らぬお人柄に私の心はますます奪われました」

豊かな表情、飾らぬ姿…、これセーフ?シャノン的にセーフなの?

「あなたは友人に囲まれその表情は柔らかく、エンブリーであなたの身を案じ続けた私はその姿に胸をなでおろしました」
「で、でもジェロームとの文通は僕の癒しで…本当です…」

「ふふ、お役に立てていたならそれだけで本懐は遂げられました」

何が言いたいんだろう?イマイチ見えてこない…

「ジ、ジェロームは僕が好きじゃありませんか…?子供だから?」
「いいえとんでもない!…あなたと夫夫になるなど、本来想像するだけでもおこがましい。それをあなたからお申し出頂き私がどれほど歓喜に震えているか!」

「じ、じゃあ…」

「ですがシャノン様。もしあなたが私に幻想だけで思いを寄せてお見えなら…きっとそれはいつか綻びを見せるでしょう」

「え…幻想なんかじゃない…です…よ?」

だってジェロームは真実シャノンを救ったほどの頼れる紳士なんだから。…って、救われたのは…シェイナだけど…

「それならいいのです、あなた歩める人生、想像するだけでこんな嬉しいことはありません。ですがシャノン様、幻想とは私自身にも言えることなのですよ。事実あなたの背中は既に私の知る小さく震える背ではなかった」

えっ?なな、なにやら不穏な気配…

「私は全てを耐え忍ぶ、気高く気丈なあなたを何かの形でお支え出来たら…、そう思っていました。ですが成長したあなたはそのか細い腕に抱えた大きな問題、それすら乗り越えてしまえる強さを身につけておられる、そう見えるのです」

…僕の図太さが問題ってこと?

「そ、そういう僕はお嫌いですか…?」
「ふふ、そんなあなたも大変魅力的ですよ。いつか言いましたね?あなたがあなたでさえあれば、私はどんなあなたでも惹かれて止まない…と。つまり…、第一印象などあてにはならない、そういいたいのです。真実の私を知っていつかあなたに幻滅されたら、私はそれを恐れているのです」

な、何と!ジェローーーム!それは考えすぎだって!

「幻滅なんて絶対しない!そうでしょ?だって本当にジェロームは優しくてロマンチックで…、溺れる僕のこともブラトワからシェイナのことも助けてくれたし…」

「シャノン様。あなたはそう仰ってくださいますが、私は祖父や父が形にしたエンブリーを継いだだけで、自分では何一つエンブリーを豊かに出来なかった未熟者ですよ」

「そんなことない!」

「いいえ。事実私は借財を増やしブラトワに搾取されるばかりで、それを解決に導くことも出来ず領地と爵位を手放そうとしていたのですから」

「あれはブラトワのせいだってば!」

「エンブリーの民は朴訥な民。誰も何も言いませんが彼らはとても貧しい生活を強いられていました。東部のどの領と比べても。分かりますか?領の貧しさは領主の力量です」

「そ、そんな…」

「あなたが見破った古い書き付け類でさえ…私は何度も目にしていながら何の違和感にも気付けなかった。今の私はあなたによって整えられた仮初です」

それに気付いたのはシェイナだからだよ!あんなの普通気付けないよ、そんなの!

「今までの小さなエンブリーなら…子供と輪回しに興じる無邪気なあなたとの素朴な未来もあり得たかもしれない」

うんうん。その通り!

「ですが今までのエンブリーならあなたを迎え入れるなど、わずかな可能性すらなかったでしょう」

うんう…ん…序列第二位プリチャード侯爵令息と北東の男爵…なかっただろうな…。断罪令息でも無ければ…

「こうして伯爵位と広い領地を得たことでこのような話もあなたの中で現実味を帯びたのでしょうが…、慣れぬ伯爵領の統治にこれから私は右往左往し何度も躓くでしょう。その時、あなたが私の姿に幻滅しないと言えるでしょうか?」

…僕がジェロームに幻滅する事なんて万に一つもない。それは断言できる。でも…

僕はその一言で気付いてしまった。…幻滅されるのはむしろ僕かもしれないと。

だって…、ジェロームとの思い出を共有するのはシェイナで…そして僕がジェロームを手助けで来たのはゲームの僅かな知識があったからで…、それすらプリチャードや今までのシャノンが築いた土台が無ければ出来なかったことばかりで…

北東部の中心になっていくエンブリーで、シェイナが居なければただの腐男子でしかない僕に一体何が出来るだろう?伯爵夫人として使用人を管理し社交を広げ、不慣れなジェロームを手助けすることが果たして僕に出来るだろうか?

その時ジェロームは真の僕を知ってがっかりするかもしれない。あまりのポンコツっぷりに…

僕は気付いた…。今までジェロームはシェイナの向こうに居る僕を見ていたんだってことに。



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