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144 断罪とハッピーセブンティーン ③

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「そうですね…ジェロームは僕にがっかりするかもしれないですね…」
「そうではありません!私が言いたいのは…」

「ううん。きっとがっかりする…」

ジェロームが僕にガッカリしないと言い切れるのは、基本的にジェロームと会う時誰かが常に居たからだ。おかげで僕の化けの皮は皮一枚でつながっている…夏の日焼け後のような薄皮だけど…

「お聞きください!私が恐れているのは私自身があなたが好意を抱いた私でなくなってしまうことで…」

「…そ、それを言うならジェロームこそ…。ぼ、僕はジェロームが思うような伯爵夫人になれないかもしれない…。跡継ぎも産めないし…」ジワリ…

ああ…絶望のあまり目から汗が…

「お泣きにならないでくださいシャノン様。ああ…あなたのお気持ちにどれほど私の心が震えているか、見せて差上げたい。ただ…私とあなたに共に歩む未来があるなどと…考えたことも無かったので些か動揺したのです…」

「だってお父様がジェロームにお見合いをって…」
「あれですか。…心配しなくても今はお受けするつもりなどありませんよ」

それっていつかは受けるかもしれないってことじゃん…危なかった…
今頃になって実感する。ここはノベルゲーの強制力が生きるノベルゲーの世界だけど、そこに生きる僕たちは…ゲームのキャラなんかじゃ無かったってことを。

「じ、じゃあ…この話はボツですか…?」ゴシゴシ…
「いいえ!いいえシャノン様…どうして私に異がありましょうか。ですがプリチャード侯がなんと仰るか…」

ぱぁぁぁ!「ほ、ホントに!? 本当ですか!」

起死回生、絶対絶命からの逆転ホームラン!!!やだなぁジェロームってば、驚かすんだから。お父様なら大丈夫。アレイスターが話してくれるって言ったから。

「そうですとも。早急な話ではないのですし…努力をしましょう。あなたを迎えるに相応しい自分になるべく精一杯の努力を」

「ジェロームはそのままでいいんです。僕が初めて好きになった人ですから!」

異世界では!それで僕も頑張ろう。まだ半年以上先の話なんだし。転生直後だってやれたんだから…僕はやれば出来る子!

「ですが一つだけお約束下さい」
「な、何をですか?」

真正面に向き合い、ジェロームはツ…と僕の手を取り真剣な顔でそれを告げた。

「もしも私があなたの思うような男でなかった時には…躊躇などなさらず遠慮なく別れをお告げくださると」

ジェロームは言う。コンラッドとの問題で疲弊した僕にこれ以上我慢やギマンの生活を強いるのは許せないのだと。だからそういうところがジェロームなんだってば…
けどその台詞は、プロポーズが成功したらまさに僕自身がジェロームに告げるはずだった内容とほぼ同じ。

「ジェローム、それはむしろ僕が言おうと思ってたことです」

この部分こそが最も言いたかったポイント。だから僕も真顔になる。

僕は子供を持てないし、かと言ってジェロームに第二夫人が居るのは心情的にどうしてもイヤなんだと。だけどジェロームは伯爵…。いづれ誰かに爵位を継がせなければならないのも理解している。色々抜け道があるにはあるのだが…

「でももしジェロームが自分の子を、血のつながった後継者を望むなら…、そしてこの人っていう女性が現れたら…」
「シャノン様、そのようなこと…」
「ううん。聞いてジェローム」

もちろん想定しているのはシェイナだ。そしてシェイナとは了解済みだ。もしジェロームがシェイナの愛を受け入れなければ…その時は諦めると。

実際のところシェイナはジェロームを振り向かせられると信じている訳ではないのだ。
それでも…やれるだけやって当たって砕けたなら、きっとそれがどんな結果だって受け入れられる。そしてそれが望まない結果だったとしても、あんな悲しい瞳で諦めて受け入れた結果とはきっと何もかもが違うはずだ。

「ジェロームがついさっき自分で言ったんですよ?初めの印象なんか当てにならないって。僕のことを嫌いにならなかったとしても…それでももっと好きな人は出来るかもしれない。赤い糸の相手とか…」

赤い糸ならぬ金平糖の相手とか…。僕だって立派な伯爵夫人になる努力はする。どんな面倒な社交だってなんとか頑張る。頑張るけど…

「その時は遠慮なく僕に離縁を言い渡してください。その相手が僕の納得できる相手なら…僕はそれで構いませんから」

きっとシェイナも努力する。だってどんな未来だって可能性はゼロじゃないって、勉強家のシェイナならこの一年で僕を見て学んだはずだから。
いつかシェイナがジェロームの心を射止めたら…僕は笑って身を引こう。僕はポンコツだけどお兄ちゃんだから!

ニコリと微笑み僕の指先にキスを落とすジェローム…そんな返事の仕方って…反則だよ。

「こ、婚約解消まではナイショですよ。それまでお見合いしないでくださいね」
「ふふ、あなたがそう望むのであれば。ところで公布は」

「え…と、夏休みの間です。神子の儀式と共に。儀式は王族だけでひっそりと行われます。そのあと初冬のプロムが終わったら…お父様に話しますね」

プロム…断罪イベントが終わるまで、これでジェロームは予約済みっと。

「そうだ!ジェロームの陞爵の儀は?」

「二週後です。それを終えたら一度エンブリーに戻ります」
「夏休み中に行けるかな?」
「無理はなさらないでください。卒論もありますし」

会話を楽しむ間中、ほっぺにキスとかしてくれないかな…って思ったけど、マナーの良い貴公子ジェロームにとってコンラッドの呪縛は未だ健在だったようだ…残念。

と、ここで矛先は想定外の斜め上に。

「ところでアレイスター殿下とは話し合われたのですか?」
「アレイスター?」

もしかして何か聞いた?だからこんなことを言い出したの?アレイスターのアレはあくまで二人だけの心の中に秘めとこう、って話だったのに!もー!

「殿下とは先日判決の折に裁判所でお会いしたのですが、あの日シャノン様はお見えになりませんでしたね」
「え?ええまあ…」

だって判決はもう分かってたし…誕生日会の準備に忙しかったし…お父様も来なくていいって言ったし…ムカつきマックスだったし。

「アレイスター殿下とは北部の問題について少々話をしました。その際王陛下からの命を伺ったのです。トレヴァー殿下より先に妻を娶らぬ、それを条件に北部の統治権を許可されたと」
「王様は器が小さいから…」

シェイナとトレヴァー君の事は言わなかったってこと?…無実だったか…

「陛下も惨い提案をなさる…。ですがシャノン様はそれで良いのですか?」
「だって良いも悪いも…」

アレイスターはただの友人、少なくともあのプロポーズを受けるまでは。っていうか、この流れでここでそれ聞く?

「ああ…あなたはご自分の感情にお気づきではないのですね。だから私に求婚を…」

きっと僕は今ポカンと間抜け面をさらしているだろう。シャノンにあるまじき顔を。だって僕の感情って…何?

「シャノン様、私の目にはアレイスター殿下と過ごされるあなたの姿は誰と居るより肩の力が抜けているように感じました。それはもう自然なお姿で…私は殿下こそがシャノン様の特別な方なのだと思っておりましたよ」

ボボン!「そ、それは気のせいです…ジェロームの勘違いです…」

「…そう…ですね…」

そう見えたのはアレイスターの前ではネコを被る必要性を感じなかったからだ…
ネコの仮面は被らされたけど…







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