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136 断罪への一段目
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「ところでその少女に名前はございませんの?」
「えっと確か…ロアンとかって…」
「ロアン…女性の名前にしては珍しいですわね…」
「ロ…どこかで聞いた気が…。いえ、もちろんこの件とは無関係な話ですが」
「ロイド様…、一応教えていただけませんか?」
「え?あ、ああ…。あれは宰相閣下の使いで閣下のご領地に出向いた際だったか…、まだ幼い頃で記憶が曖昧なのですが…」
ロイドのお父さんであるマーベリック伯爵は宰相閣下の補佐である。当然宰相様の小間使い的な仕事もあるわけで。
その宰相様とは辺境に居る前王(コンラッドのおじいちゃんね)の弟さん(現王の叔父さん)の息子(現王の従兄弟)である。
ついでに言うと、この前王の弟さんこそが、お父様がコンラッドへの当てつけに僕を嫁がせようとしていた、妻に先立たれ独り身の大公である。いくらコンラッドより立場が上だからって…お父様ってば無茶いうな。
それはおいといて話の続きだ。
「そんな幼い頃の話を覚えているんですか?」
「子供心に少し気になる話でしたので…その名だけは印象に残っているのですよ」
ロイドが聞いたのはほんのワンフレーズ…
まだ入学前のロイドがお父さんの仕事に付いて宰相様の領地を訪れた際、そこには宰相様の父、大公様が滞在中だったらしい。
書斎に二人でいた宰相様と大公は互いに亡き母、亡き妻の思い出話を語りあっていて、そこでその名が出たのだとか。
「そのとき大公閣下は怯えておいででした。奥方の死因について語りあっていて…「あれはロアンの呪いだ」と」
「他には?」
「残念ながら前後は忘れてしまいました…」
なるほど。
今でさえ小心者のロイドなら子供の頃の心臓はもっと小さかっただろう。彼は呪いというフレーズに縮みあがって前後の話は耳に蓋をしたのだ。だけど怖かったからこそ、そのフレーズを忘れられなかった…
「ですが確か私は大公閣下の従者の方にロ、…ロ、ロアンの呪いとは何だ、とそれだけは質問したのです。老齢の従者は「その家名を口にすると必ずや呪われる、死にたくなければ忘れなさい」と。それでその…」
ビビり倒してその名を封印した、と?…だからさっきからロ…ロアンと言うたび小声になるのか…。いや?僕は平気だけど?ロ、ロ、ローハンだっけ?全然平気だけど?
僕の鳥肌を引っ込めてくれたのは「くだらない!呪いなどある訳無いですわ!」と言い切った漢らしいミーガン嬢だ。
「そんなことより、もしその教会で弔われた女性が東の修道院に居た貴族令嬢の産み落とした赤子だとしたら…本来その女性も貴族家の令嬢だったかもしれないですわね…」
痛ましそうな表情のミーガン嬢。彼女は気の強い女性だが情の深い人だ。確かに彼女の言うよう、本来その女性は貴族家に産まれるはずだった人。何不自由なく誰からも愛されて…きっと祝福された人生をまっとうできたに違いない。
そのときふっと思い出した。
あの時…みんなでアーロンの母について話し合っていたあの時。
「自分はお姫さまで何でも持っててみんなに愛されてる」という、アーロンの母親が幼いアーロンに話して聞かせた絵空事、それを僕は…ホントにお姫様だったりして(笑)、とか考えていたことを。
そして僕はこうも考えている。
東の修道院に押し込められた令嬢。あれは恐らく断罪。まごうこと無き断罪。それも僕の考えに間違いなければ嵌められた断罪。
じゃあ誰が?
考えるまでもない。令嬢を断罪するのなんて…ゲームやマンガじゃ王子と相場は決まってる!ってことは…
カタカタ…「あの…、みなさんアーロンの母親が姫と名乗っていたこと…覚えてます?」
「ええ」
「もちろん」
カタカタカタ…「その…も、もしもですよ?もしもその貴族令嬢が王族の婚約者だったとしたらどうなります…?」
「…シャノン様…、それはその女性が王家の妃になる予定だったんじゃないかと仰りたいのですね?」
ブルッ「もしも…だけど。でも、もしかして彼女たちが代々ロザリオと共に何かを聞かされていたとしたら…」
「…全てを知っていたなら…私はお姫様、その言葉の持つ意味は…、…だ、だから消されたというのか!」
「ロイド様、妃となる予定だったのでしたらきっと名家のご令嬢でしょう、なのに不貞行為を?あり得ませんわ!」
「そうとも、何がどうなったら妃となる令嬢が修道院に押し込められるような愚行を?」
リアム君、そこには誰かの薄汚い意思の力が介入するのだよ…ノベルゲーでシャノンがそうだったように…
けれど全ては闇の中だ。カトレアの家門はとうの昔に歴史から抹消された。
アーロンの母親、祖母、そしてアーロン自身への憐憫から憤慨するブラッドとロイド。
「こんな事が許されるものか!」
「そうだ!人の命を、人生を…、…このように弄ぶなど…」
余計な感情を乗せないのはいつも飄々としたアリソン君だ。彼はみんなが躊躇った名前をあっさり出した。
「これだけはハッキリしている。その全てにフレッチャー侯の先祖が関わりを持ち、そしてそれは口にするのも憚られるような事なのでしょう…」
だから執拗につけ狙った…。そしてきっとそれは知られたら王家に大きなダメージを与えるのだ。
全てを隠ぺいしたフレッチャーに陞爵とシナバーを与えるほどの、……大きなダメージを。
「えっと確か…ロアンとかって…」
「ロアン…女性の名前にしては珍しいですわね…」
「ロ…どこかで聞いた気が…。いえ、もちろんこの件とは無関係な話ですが」
「ロイド様…、一応教えていただけませんか?」
「え?あ、ああ…。あれは宰相閣下の使いで閣下のご領地に出向いた際だったか…、まだ幼い頃で記憶が曖昧なのですが…」
ロイドのお父さんであるマーベリック伯爵は宰相閣下の補佐である。当然宰相様の小間使い的な仕事もあるわけで。
その宰相様とは辺境に居る前王(コンラッドのおじいちゃんね)の弟さん(現王の叔父さん)の息子(現王の従兄弟)である。
ついでに言うと、この前王の弟さんこそが、お父様がコンラッドへの当てつけに僕を嫁がせようとしていた、妻に先立たれ独り身の大公である。いくらコンラッドより立場が上だからって…お父様ってば無茶いうな。
それはおいといて話の続きだ。
「そんな幼い頃の話を覚えているんですか?」
「子供心に少し気になる話でしたので…その名だけは印象に残っているのですよ」
ロイドが聞いたのはほんのワンフレーズ…
まだ入学前のロイドがお父さんの仕事に付いて宰相様の領地を訪れた際、そこには宰相様の父、大公様が滞在中だったらしい。
書斎に二人でいた宰相様と大公は互いに亡き母、亡き妻の思い出話を語りあっていて、そこでその名が出たのだとか。
「そのとき大公閣下は怯えておいででした。奥方の死因について語りあっていて…「あれはロアンの呪いだ」と」
「他には?」
「残念ながら前後は忘れてしまいました…」
なるほど。
今でさえ小心者のロイドなら子供の頃の心臓はもっと小さかっただろう。彼は呪いというフレーズに縮みあがって前後の話は耳に蓋をしたのだ。だけど怖かったからこそ、そのフレーズを忘れられなかった…
「ですが確か私は大公閣下の従者の方にロ、…ロ、ロアンの呪いとは何だ、とそれだけは質問したのです。老齢の従者は「その家名を口にすると必ずや呪われる、死にたくなければ忘れなさい」と。それでその…」
ビビり倒してその名を封印した、と?…だからさっきからロ…ロアンと言うたび小声になるのか…。いや?僕は平気だけど?ロ、ロ、ローハンだっけ?全然平気だけど?
僕の鳥肌を引っ込めてくれたのは「くだらない!呪いなどある訳無いですわ!」と言い切った漢らしいミーガン嬢だ。
「そんなことより、もしその教会で弔われた女性が東の修道院に居た貴族令嬢の産み落とした赤子だとしたら…本来その女性も貴族家の令嬢だったかもしれないですわね…」
痛ましそうな表情のミーガン嬢。彼女は気の強い女性だが情の深い人だ。確かに彼女の言うよう、本来その女性は貴族家に産まれるはずだった人。何不自由なく誰からも愛されて…きっと祝福された人生をまっとうできたに違いない。
そのときふっと思い出した。
あの時…みんなでアーロンの母について話し合っていたあの時。
「自分はお姫さまで何でも持っててみんなに愛されてる」という、アーロンの母親が幼いアーロンに話して聞かせた絵空事、それを僕は…ホントにお姫様だったりして(笑)、とか考えていたことを。
そして僕はこうも考えている。
東の修道院に押し込められた令嬢。あれは恐らく断罪。まごうこと無き断罪。それも僕の考えに間違いなければ嵌められた断罪。
じゃあ誰が?
考えるまでもない。令嬢を断罪するのなんて…ゲームやマンガじゃ王子と相場は決まってる!ってことは…
カタカタ…「あの…、みなさんアーロンの母親が姫と名乗っていたこと…覚えてます?」
「ええ」
「もちろん」
カタカタカタ…「その…も、もしもですよ?もしもその貴族令嬢が王族の婚約者だったとしたらどうなります…?」
「…シャノン様…、それはその女性が王家の妃になる予定だったんじゃないかと仰りたいのですね?」
ブルッ「もしも…だけど。でも、もしかして彼女たちが代々ロザリオと共に何かを聞かされていたとしたら…」
「…全てを知っていたなら…私はお姫様、その言葉の持つ意味は…、…だ、だから消されたというのか!」
「ロイド様、妃となる予定だったのでしたらきっと名家のご令嬢でしょう、なのに不貞行為を?あり得ませんわ!」
「そうとも、何がどうなったら妃となる令嬢が修道院に押し込められるような愚行を?」
リアム君、そこには誰かの薄汚い意思の力が介入するのだよ…ノベルゲーでシャノンがそうだったように…
けれど全ては闇の中だ。カトレアの家門はとうの昔に歴史から抹消された。
アーロンの母親、祖母、そしてアーロン自身への憐憫から憤慨するブラッドとロイド。
「こんな事が許されるものか!」
「そうだ!人の命を、人生を…、…このように弄ぶなど…」
余計な感情を乗せないのはいつも飄々としたアリソン君だ。彼はみんなが躊躇った名前をあっさり出した。
「これだけはハッキリしている。その全てにフレッチャー侯の先祖が関わりを持ち、そしてそれは口にするのも憚られるような事なのでしょう…」
だから執拗につけ狙った…。そしてきっとそれは知られたら王家に大きなダメージを与えるのだ。
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