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135 断罪への最終春期
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ついに僕は〝ノベルゲー最終章”へと続く、学院三年次の初日を迎えた…。そして何の運命か、今日はブラトワの裁判初日でもある。
実は僕も1日だけ証人として出廷することになっているのだが、これは裁判といっても罪状を確認するためのものであって、どう転がしても減刑にはならない裁判だ。
ジェロームはここから連日の出廷になる。罪状が多すぎて結構な日数がかかるため落ち着いて会えるのは判決後、僕の誕生会頃になるだろう。誕プレは言わずと知れたブラトワの死刑宣告だ。え?ヒドイって?ううん、なんにもヒドクない。
僕はその日、ジェロームに正々堂々告るつもりだ。アレイスターがいくらお父様を説得してくれても…やっぱりこういうのはお互いの気持ちが大切だからね。
だからそれまでは気持ちを切り替え、王様の『神格』とやらを精々高めてやらねばなるまい。
どうするのかって?まあ見てろ。現代人の僕にはちょっとしたアイデアがある。ニヤリ…
さて、ちょっと脱線したが僕には早急にみんなと話し合いたい事案がある。もちろんそれは〝カトレアの女性”についてだ。
飛び入りハプニングが無ければ、本当は帰宅後すぐに招集したかったのに…
「シャノン様はスタンホープ伯爵領へ行かれたのでしたね?いかがでしたか?」
「それなんですけど…、午後の講義が終わった後サロンに集まってもらえますか?」
「…何かございますのね?」
「それから…、ブラッドとロイドも呼んでください」
「…ロイド様ですの?」
「王様のこと…何か分かったかなーと思って」
「わかりました」
「本当は隊長もお呼びしたいんだけど…、ダメだよね?」
「…あの方はきっとどこかから見守っていらっしゃいますわ…」
「そうだよね…きっと側に居てくれるよね…」
ああ…、僕の親衛隊長。果たしていつか彼の正体を知れる日は来るのだろうか…?
と、言う訳で時は講義後、専用サロン内。僕は集められた頭脳たちに手に入れた新情報を共有していく。今日はシェイナが居ないから…みんな僕の分まで頑張ってね。
「…ここまでがスタンホープ伯爵領で分かったことです」
「まさかそんなことが…」
「カトレアのロザリオを持つ女性がエンブリー卿に所縁のある女性だったなんて…」
ジェロームに所縁…?それは話が飛び過ぎだと思うのだが…。その女性はジェロームの祖父母に会ったことさえなかっただろうに。
「いずれにしても年のころから考えて、スタンホープ伯爵領から逃げ出した少女が中流地区の教会に運び込まれた女性で間違いないだろう」
「ロイド様もそう思いますか?でも逃げ出したのは少女で暴漢に襲われたのは女性ですよ?」
「だがこんな偶然があるだろうか。カトレアのロザリオを持ち、またその少女もマルーンの髪色だなどと…これが偶然の他人なら出来過ぎだ」
そう。僕(シェイナ)が騎士Aに確認して来てもらったのは少女の髪色。そしてそれは想像通り…〝マルーン”だったのだ。
「亡くなった女性は素性も年齢も分からず、親兄弟友人、誰も尋ねてはこなかったのだろう?」
「ではしばらく隠れ暮らしていたのでしょう。そう考えればおかしくはありませんわ」
「だがなぜ王都に?」
熱い論議の時間。ほぼ役立たずな僕だけどこれだけは分かる。刑事ドラマのお約束だ。
「リアム様、彼女はとっても目を引く人だったんです。人の少ない田舎よりも色んな人の居る王都の方がバレない。どうせ貴族は下町になんか来ないし王都なら選ばなければ仕事だってある」
「…娼婦とか…ね…」
「ブラッド!」
「兄さん、その女性はアーロンの母親を産んでいるんです。もし彼女に王都での夫や恋人が居たなら消えた妻、恋人の行方を必死に捜すと思いませんか?」
確かに…、誰一人彼女の行方を捜している人が居ないのは不自然。娼婦…考えたくないけどあり得る話だ。
何も持たない娘が一人隠れて生きていける場所…。だとしたらどんな想いを抱いて王都の片隅で暮らしていたのか…少なくともそうまでして生きようとしたなら戻りたかったはずだ。優しい養い親と夫の待つ山のふもとに。
シンミリ…「そこで子供を産んだのかな…。アーロンのお母さんを…」
「子供を産む娼婦は多い。アーロンの母のように教会や孤児院に捨てることが多いらしいが…そこで産み育てる娼婦もいる。子供は情事を見ながら育ち、女の子ならまたその子も娼婦になる」
その場の全員が思ったであろう疑問を口にしたのはミーガン嬢だ。
「そこまでして身を隠す理由は何でしょう」
「暴漢に襲われ命を落とした…関係あるのでしょうか?」
「…大有りだと思いますね。その暴漢もただの通り魔かどうか怪しいものです」
「兄さんはフレッチャーの差し金だとお思いなのですね?」
「それ以外考えられない」
むしろこれでフレッチャーじゃなかったら驚きだよ。
「私にひとつ思い浮かんだことがある」
「それは?」
ロイドは僕の頼みを聞いて、現在王様の身辺を調査中だ。
その最中に父親であるマーベリック伯爵から気になることを聞いたというのだ。
「これは父が聞いたという陛下の独り言だが、陛下がアーロンを神子と信じた理由は伝承への合致意外にもうひとつある。それがアーロンの髪だ」
「髪?」
「アーロンが初めて王城に招かれた神礼祭。その時、篝火の火を浴びてアーロンの髪が真っ赤に燃えて見えたというんだよ」
「真っ赤に…」
ここで説明しておこう。
王様やコンラッドの持つ燃えるように真っ赤な髪。これは王族にだけ産まれる独特な髪色である。
いわゆる赤毛のアン的な赤茶けた髪色ではなく、アニメやゲームに出てくるベタ塗りの鮮やかな赤。前世の感覚だと、染めなきゃそうはならない人工っぽい赤だ。
真っ赤な髪を持つその子は必ずと言っていい程武に秀で、その治世下で英雄として名を知らしめたという話だ。まさに現王様がそうなように。だから王家は赤を王家の色として大切にする。
アーロンのマルーンカラーは赤みの強い茶髪、そのマルーンが真っ赤に見えたことで、王様は何か宿命的なモノを感じたのだとか。
「確かにアーロンの髪はキャンドルの灯に灯されると赤と見紛う時がありました」
「ブラッドは見たの?」
「ええ。コンラッドは喜んでいましたよ。まるで対のようだと」
教会に住んでるアーロンは夜遅くに出かけることはほとんど無かった。けれど四六時中ベッタリだったブラッドはそれを目にする機会があったのだろう。
「王家がフレッチャーに渡したという赤い石『シナバー』は磨けば朱だが原石は赤黒くマルーンに近い。暗示的だとは思わないか」
マルーン‼ この間見たシナバーは朱色だったのに!
「そしてもうひとつ。シナバーは高温で熱すると毒を発する。当時の王は何を思いフレッチャーにそれを与えたのか」
「…ロイド様、それを当時お与えになったのは…」
「赤い石はフレッチャー家が侯爵位に陞爵する際与えられた。つまり…同じ赤い髪を持つ前々王がまだ王太子の頃、カサンドラ様の曾祖父だ」
シナバー…フレッチャーに燃える赤を足したら毒になる…
何度も僕は思った、髪は体を表すって…。
ならこの赤い髪は…一体何を表すのか…
実は僕も1日だけ証人として出廷することになっているのだが、これは裁判といっても罪状を確認するためのものであって、どう転がしても減刑にはならない裁判だ。
ジェロームはここから連日の出廷になる。罪状が多すぎて結構な日数がかかるため落ち着いて会えるのは判決後、僕の誕生会頃になるだろう。誕プレは言わずと知れたブラトワの死刑宣告だ。え?ヒドイって?ううん、なんにもヒドクない。
僕はその日、ジェロームに正々堂々告るつもりだ。アレイスターがいくらお父様を説得してくれても…やっぱりこういうのはお互いの気持ちが大切だからね。
だからそれまでは気持ちを切り替え、王様の『神格』とやらを精々高めてやらねばなるまい。
どうするのかって?まあ見てろ。現代人の僕にはちょっとしたアイデアがある。ニヤリ…
さて、ちょっと脱線したが僕には早急にみんなと話し合いたい事案がある。もちろんそれは〝カトレアの女性”についてだ。
飛び入りハプニングが無ければ、本当は帰宅後すぐに招集したかったのに…
「シャノン様はスタンホープ伯爵領へ行かれたのでしたね?いかがでしたか?」
「それなんですけど…、午後の講義が終わった後サロンに集まってもらえますか?」
「…何かございますのね?」
「それから…、ブラッドとロイドも呼んでください」
「…ロイド様ですの?」
「王様のこと…何か分かったかなーと思って」
「わかりました」
「本当は隊長もお呼びしたいんだけど…、ダメだよね?」
「…あの方はきっとどこかから見守っていらっしゃいますわ…」
「そうだよね…きっと側に居てくれるよね…」
ああ…、僕の親衛隊長。果たしていつか彼の正体を知れる日は来るのだろうか…?
と、言う訳で時は講義後、専用サロン内。僕は集められた頭脳たちに手に入れた新情報を共有していく。今日はシェイナが居ないから…みんな僕の分まで頑張ってね。
「…ここまでがスタンホープ伯爵領で分かったことです」
「まさかそんなことが…」
「カトレアのロザリオを持つ女性がエンブリー卿に所縁のある女性だったなんて…」
ジェロームに所縁…?それは話が飛び過ぎだと思うのだが…。その女性はジェロームの祖父母に会ったことさえなかっただろうに。
「いずれにしても年のころから考えて、スタンホープ伯爵領から逃げ出した少女が中流地区の教会に運び込まれた女性で間違いないだろう」
「ロイド様もそう思いますか?でも逃げ出したのは少女で暴漢に襲われたのは女性ですよ?」
「だがこんな偶然があるだろうか。カトレアのロザリオを持ち、またその少女もマルーンの髪色だなどと…これが偶然の他人なら出来過ぎだ」
そう。僕(シェイナ)が騎士Aに確認して来てもらったのは少女の髪色。そしてそれは想像通り…〝マルーン”だったのだ。
「亡くなった女性は素性も年齢も分からず、親兄弟友人、誰も尋ねてはこなかったのだろう?」
「ではしばらく隠れ暮らしていたのでしょう。そう考えればおかしくはありませんわ」
「だがなぜ王都に?」
熱い論議の時間。ほぼ役立たずな僕だけどこれだけは分かる。刑事ドラマのお約束だ。
「リアム様、彼女はとっても目を引く人だったんです。人の少ない田舎よりも色んな人の居る王都の方がバレない。どうせ貴族は下町になんか来ないし王都なら選ばなければ仕事だってある」
「…娼婦とか…ね…」
「ブラッド!」
「兄さん、その女性はアーロンの母親を産んでいるんです。もし彼女に王都での夫や恋人が居たなら消えた妻、恋人の行方を必死に捜すと思いませんか?」
確かに…、誰一人彼女の行方を捜している人が居ないのは不自然。娼婦…考えたくないけどあり得る話だ。
何も持たない娘が一人隠れて生きていける場所…。だとしたらどんな想いを抱いて王都の片隅で暮らしていたのか…少なくともそうまでして生きようとしたなら戻りたかったはずだ。優しい養い親と夫の待つ山のふもとに。
シンミリ…「そこで子供を産んだのかな…。アーロンのお母さんを…」
「子供を産む娼婦は多い。アーロンの母のように教会や孤児院に捨てることが多いらしいが…そこで産み育てる娼婦もいる。子供は情事を見ながら育ち、女の子ならまたその子も娼婦になる」
その場の全員が思ったであろう疑問を口にしたのはミーガン嬢だ。
「そこまでして身を隠す理由は何でしょう」
「暴漢に襲われ命を落とした…関係あるのでしょうか?」
「…大有りだと思いますね。その暴漢もただの通り魔かどうか怪しいものです」
「兄さんはフレッチャーの差し金だとお思いなのですね?」
「それ以外考えられない」
むしろこれでフレッチャーじゃなかったら驚きだよ。
「私にひとつ思い浮かんだことがある」
「それは?」
ロイドは僕の頼みを聞いて、現在王様の身辺を調査中だ。
その最中に父親であるマーベリック伯爵から気になることを聞いたというのだ。
「これは父が聞いたという陛下の独り言だが、陛下がアーロンを神子と信じた理由は伝承への合致意外にもうひとつある。それがアーロンの髪だ」
「髪?」
「アーロンが初めて王城に招かれた神礼祭。その時、篝火の火を浴びてアーロンの髪が真っ赤に燃えて見えたというんだよ」
「真っ赤に…」
ここで説明しておこう。
王様やコンラッドの持つ燃えるように真っ赤な髪。これは王族にだけ産まれる独特な髪色である。
いわゆる赤毛のアン的な赤茶けた髪色ではなく、アニメやゲームに出てくるベタ塗りの鮮やかな赤。前世の感覚だと、染めなきゃそうはならない人工っぽい赤だ。
真っ赤な髪を持つその子は必ずと言っていい程武に秀で、その治世下で英雄として名を知らしめたという話だ。まさに現王様がそうなように。だから王家は赤を王家の色として大切にする。
アーロンのマルーンカラーは赤みの強い茶髪、そのマルーンが真っ赤に見えたことで、王様は何か宿命的なモノを感じたのだとか。
「確かにアーロンの髪はキャンドルの灯に灯されると赤と見紛う時がありました」
「ブラッドは見たの?」
「ええ。コンラッドは喜んでいましたよ。まるで対のようだと」
教会に住んでるアーロンは夜遅くに出かけることはほとんど無かった。けれど四六時中ベッタリだったブラッドはそれを目にする機会があったのだろう。
「王家がフレッチャーに渡したという赤い石『シナバー』は磨けば朱だが原石は赤黒くマルーンに近い。暗示的だとは思わないか」
マルーン‼ この間見たシナバーは朱色だったのに!
「そしてもうひとつ。シナバーは高温で熱すると毒を発する。当時の王は何を思いフレッチャーにそれを与えたのか」
「…ロイド様、それを当時お与えになったのは…」
「赤い石はフレッチャー家が侯爵位に陞爵する際与えられた。つまり…同じ赤い髪を持つ前々王がまだ王太子の頃、カサンドラ様の曾祖父だ」
シナバー…フレッチャーに燃える赤を足したら毒になる…
何度も僕は思った、髪は体を表すって…。
ならこの赤い髪は…一体何を表すのか…
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