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129 断罪に接近

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二日ほどの滞在を終え、僕は朝からジェロームを迎えに来たのだが、両親から感じる歓迎のなかにうっすら感じる狼狽…

きっと僕がいない間にジェロームの口から、この冬に起きたあんなこととかこんなこととか、その結果の陞爵とか…、すっかり聞かされたんだろう。

「まさかジェロームが伯爵位を賜るとは…」
「シャノン様にはなんと感謝申し上げれば良いのか…」

「感謝してるのはこっちの方です」

いやマジで。ジェロームを産んでくれてありがとう!って、腕がちぎれるくらい握手したい気持ちだ。

「なのでスタンホープ伯爵がもっと立派な屋敷を用意する、って言ってましたよ?」
「いえ、わたくしたちはこれで十分。夫婦二人、なんの不足もありませんし。それに…」
「なにかありましたか?」

「ここはエンブリーを思い出す気持ちの良い場所…この家はジェロームの優しさですから」

うっ!…ホロリ…

「ええ!ええ!仰る通りですとも!」

せめて家屋の修繕補修だけは、と約束して、僕たちは気持ちを汲んで大人しく帰ることにした。それでもスタンホープ伯爵はいろんな面で優遇くださるだろう、きっと。おっといけない。

「ところで僕に会いにじい、ご老人は来ませんでしたか?」

「ええ。昨日夫婦で参りました。シャノン様がお尋ねになられた件でございますね。代筆してございますよ」

恭しく渡されるキレイな文字の封書。

「軽々しく口にするには憚られましたのでこれに…」

「そうなんですか…?」

困惑したようなジェロームのお父さん。おっ母の知ってる噂話とは何だったのか…
封を開けようとした時、「準備が整いました」と告げたのはカイルだ。

「あ…、じゃあ帰りの馬車でゆっくり読ませていただきますね。そうだ、帰る前にもう一度お墓に参っておこうかな。今日はお花を持って来たんですよ」

実はこの間はじいさんと話し込んでいるうちにすっかりお参りを忘れていたのだ。知人(のような人)のお墓を前にして何たる失態!僕はご先祖を大切にする男だ。

「シャノン様、花でしたらこちらをどうぞ」

僕は墓参の花ならこれでしょ、とスタンホープ伯爵家の庭に咲いていた白いマム、洋菊を持ってきたのだが…渡されたのはカトレア…。これはこの辺りの流儀なのだろうか…?

「あの…、先日もおじいさんがカトレアを供えてましたけどローカルルールですか?」

「ああいえ、シャノン様はここに住んでいたのがわたしの両親に所縁のある者だと聞いていますね」
「はい」

「母の取り上げた赤子、その子の一番好きな花がカトレアだったらしいのですよ。カトレアを模したネックレスを身につけるほど好きだったのだとか。それゆえ、妻を待ち続けた夫トニーの墓に皆カトレアを供えるのです」

「へー…」

トニーの墓にも木こりの墓にも供えられるカトレア。
それだけでも、どれほど彼らが少女?女性?を愛していたかが解るというものだ。

決して親子仲、夫婦仲が悪かったようには思えないのに、その女性が何故ここから消えたのか、聞けば聞くほど不可解…

そんな一抹のモヤモヤを残したまま、僕たちはまた来ることを約束してようやく帰路についた。



さて、ところ変わってここは車中。停車中の馬車の中だ。

ジェローム、ブラッド、ニコールさんは現在食事のためにどこかの貴族邸にお邪魔している。あ、もちろん事前に連絡済みだよ。
僕とシェイナはみんなに「先に行って」と、二人きり馬車に残ったのだ。
だってじいさんがおっ母から聞き出したと言う村の噂が気になって仕方ない。早く読みたくてずっとウズウズしてた。

僕は物事がハッキリしないのがすきじゃない。
検査の結果、経過の具合、治癒への展望、僕の前世は白黒つかないことが多すぎて…だからこそ今世の僕はグレーゾーンが落ち着かない。
そしてそれはシェイナも同じことだ。自分の制御出来ない何かに翻弄された前世。そんなシェイナも不透明は不安になるんだろう。
僕とシェイナは実にそっくりだ。

「どーれ…」
「みちぇて」

ジェロームと思い出を共有したシェイナは著しく発音が上達した。ジェロームと話したいあまりにこの二日間猛特訓したのだとか。舌の奥が筋肉痛だと笑っていたが…筋肉痛を知る一歳児…へ、へぇー…

「あーく!」
「急かさないでよ、なになに」

カサリ…

前後左右の装飾を取り除くと、そこに書かれていたのは不穏な噂。

あの娘が消えた翌日山のふもとでキノコ採りをしていた子供が、数人の貴族が夫夫の家を訪ねるのを見かけていた。
その貴族とはかなりの権力者らしく、夫夫はその名をけっして明かさなかった。

そして娘が消える数日前、夫夫は二人揃ってけがをしていた(山で事故にあったらしい)
さらに娘が消えた当日昼、夫トニーが領都で馬車に轢かれそうになった(未遂)

それらの事実に闇を感じ、暗黙のうちに村人たちもこの件の詮索をしないようになったのだとか。

「記述が娘ってことはまだ若かったってことだよね?結婚したのが10代だっけ?ピチピチか…」

ー彼女の周囲にいる人たちは脅されていたように思うー

「ってことは…横恋慕したどっかのバカ貴族が連れてったってこと?」

ー違う、連れていかれたなら誰一人声をあげないのは納得できない。翌日夫夫を訪ねた貴族は娘を探しに来たんだと思うー

「はっ!娘を逃がした!きっとそうだ!夫夫と夫は泣く泣く彼女を逃がしたんだ!貴族の目の届かないところに!」

ーそれなら夫も一緒に逃げれば良かった。死ぬまで独り身で待ってたくらい妻を愛してるなら…ー

「はっ!ヤバ味を感じて娘が自ら一人で逃げた。みんなに迷惑かけないように!」

ーノン!それなら゛帰りを待ってた”にも符合する!ー

そこまでして逃げなきゃいけないって…どれほどの高位貴族に狙われたんだろう?すごく可愛いかったとじいさんは言っていた。平民の美人なんてヒドイ当主だとさらってきて無理やり、とかあるみたいだし…美人もなかなか大変だ…

ジェロームのおとうさんは「口にするのが憚られる」と言っていた。高位貴族が関わっているから?中身がえげつないから?なんにしてもこれは…

ーノン、二枚目をめくってー

「サー、イェッサー!」
「なにちょれ」
「いやなんとなく…」

オーラ的な上下感が…ちょっとね。


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