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124 断罪と旅の約束

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「そうだジェローム。こっちにいる間に一緒に南に行きましょうか?双子生誕一周年記念パーティーが終われば春休みだし」
「南…、それはつまり…父のところでしょうか?」
「ええ」

やっぱ未来の両親に挨拶ぐらいはしとかないと。

エンブリー先代の話が出たことで不意に浮かんだグッドアイデア。エンブリーから南は遠すぎて今まで行き来を諦めていたジェローム。屋形船の運航で以前より訪ねやすくなったのは確かだけど…、南の地なら王都からは大して遠くない。せっかく訪都中なんだし…ついでついで。

「ご両親はどこら辺に住んでるんですか?」
「ご両親は知人に預けた子供には会えたのでしょうか?」

ほぼ同時にかぶせるブラッド…、おいぃ!いや気になってたけど…

「一度父から手紙を受け取ったのですが…残念ながら祖父の知人はすでに亡くなられていたそうです。そしてその赤子、今頃はとうに老齢でしょうが…、その方の所在もわからなかったようですね」

「そうなのですね。その、知人の方に墓は…」
「ええ墓碑があり無事花を手向けたそうです。実をいうと、両親は運よく空き家になっていた彼らの小さな家を買い入れ、修繕しながらそこに住んでおります」

マ、マジか…。それほど予算が無かっただろうとはいえ、一応もと男爵夫妻が庶民の小さな家を買い入れそこに住むとは…なんと質実剛健、僕と嫁姑の相性ピッタリ!仲良くやれそう!

「お、お父様の具合は…」
「柔らかな空気に触れ随分と調子が良いようです」
「良かった…」

僕のお義父様になる人だから…予定だけど…元気でいてもらわないとね。

「そうですね…、前回の訪都は滞在に限りがありましたが、今回の訪都は余裕がありますし…いいかもしれませんね。こんな機会はなかなかない」

どういうことかというと、雪のとけはじめた現在のエンブリー領では、コナーがバーナード伯爵の人材とお父様の財力を借りて引っ越しを敢行中だ。

それはブラトワの屋敷に手を入れ整えるところから始まり、数ヶ月はかかる大がかりなものだ。なんてったって伯爵になるんだし。使用人を揃えて教育もしなくちゃならない。
そうそう。ジェロームはなるべく屋敷の使用人は領内の民に仕事を、という方針なんだよ。優しいよね。

とまあ、そんなわけでジェロームはこうしてのんびり王都に居られるってわけ。ま、裁判があるからそれほどのんびりでもないけど…

「幸い王都からでしたら両親の家もさほど遠くはありません。さる伯爵家の領内ですが温暖で緑の多い良いところだと書いてありました」

その伯爵領はお父様曰く、王都から一週間ほどの場所だそうだ。王都周辺の南や西の領は、旅路に山越えの多い北や東と違い緑豊かな平野が多い。そのため距離に対し移動に日数の掛からないのが良いところだ。
西にあるプリチャード領は王都から一週間と言ったが、あれは何台もの馬車で大移動するからであって、身軽なら4~5日の移動も可能、単身馬で駆けたら2~3日だ。蛇足だが。

とにかく…わーい!春休みの楽しみができた!
うっ!射貫くような視線…分かってるよ相棒。抜け駆けは無しだ。

「お父様。できたらシェイナ………とアノンとニコールさんも一緒に。プチ旅行。気分転換にたまにはいいでしょう?」

家族旅行の体なら文句はあるまい。

「ふむ…。シェイナとアノンも一歳を迎えたことだし…良いだろう。楽しんできなさい。ブラッド、お前も行くといい。あそこは良い統治をしている、参考になるだろう。スタンホープ伯爵には私から一筆送っておこう」

「はい、ありがとうございます父様」

いょっし!
ただ唯一の不満は、あそこがフレッチャー領の近くだということ。だからなにってことでもないが。


食事を終えた僕は、ジェロームを薄明りの庭へと案内した。二人を照らすのはお月さまだけ。なんてロマンチック……後ろにカイルが居なければ…

くそぅ…貴族のこういうところが本当にめんどくさい。現代日本の18禁BL的展開などとても起こせそうにない。せっかくそこにもここにも草むらがあるのに…

ばっ!ご、誤解だってば…!そ、そんな…ジェロームを押し倒そうだなんて…、違うって!僕は押し倒されたい派だ!

じゃなくて!

僕は今から大事な話をする予定なのだ。
人生初の告白…もどき。はっきりとは言えない、言えないが…せめて名前だけでも書いておきたいシャノン・プリチャード、もうすぐ17歳。

「どうしましたかシャノン様。先ほどから落ち着かないようですが…」
「あの…その…ジェロームに言っておきたいことがあって…」モジモジ…
「なんでしょう。私でお役に立てる話でしょうか」
「その…」モジモジ…

そんなの…ジェロームしか役に立てないというかなんというか…ええい!腐男子は度胸だ!

「もう薄々気付いてると思いますが…、僕とコンラッドは仮面婚約者です」
「…ええ」

「それで…、多分近々、いえ、確定で数か月以内に大きな出来事があります」
「ええ」

真っ赤なルビー。成人の式典。断罪への最終イベントがね。

「それを終えたら僕とコンラッドはただの他人になります」
「…婚約を解消されるのですね」

「本当はもっとこう…一方的に追い出される予定だったんですけどそこはすでに制御不能です…」

不本意ながら…。ああ…、転生直後あれほど計画練ってシュミレーションしたのに…どうしてこうなった!

「あなたほど王家に献身を捧げた方が追い出されるなど…あっていいはずがない!」
「あ、いえ。怒るところはそこじゃなくて…」

むしろがっかりしているのが真実の姿だ。言えないけど…

「なんか…いい感じにケリがつくととそれはそれで困るというか…。けど一つだけはっきりしてるのは、それを終えたら僕は誰がなんと言おうと愛に生きると言うことです!!!」

「愛に…」

お父様がどんな縁談を持ってこようと、だ!
なーに、色々と計画は狂ったが悪いことばかりでもない。転生直後と今の僕には大きな違いがある。それは何か…。それは僕に『神託』という神々しい役職が付いていることだ。
つまり『神託』をたてに多少のことはゴリ押せるのが今の僕だ。ジェロームの嫁になるよう神のお告げがあったとか何とか言えば…ニヤリ

「ジェローム。それを覚えておいて!」

「愛に…」

え?なに?大事なことだから二回言ったの?それなら僕も!

「ええ。僕は愛に生きる!愛に生きて愛に死ぬ!それを忘れないで」

聞くが良い!高らかなる僕の宣言を!

「…覚えておきましょう」

ああ…お荷物こんらっどのある今はこれが精一杯…

ふと見つけた早咲きのタンポポ。そう言えばミーガン嬢が言ってたっけ。タンポポの花言葉は真心の愛。
僕は足元のそれをそっと手折ってジェロームに手渡した。

僕の真心が届くように、と。





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