175 / 308
アレイスターからの手紙
しおりを挟む
シャノン。君は知っているだろうか。
北部はとても色が少ない。冬であれば尚のことだ。
だがそれは目にする景色だけのことではなく、私の心の在り様がそう感じさせるのかもしれない。
居るべき人が側に居ない。その侘しさときたら言葉では言い表せないものだ。
だが、砂を噛むような思いで過した十五年に比べればどれほどましか。そうとも、やることは多い。弱音など吐いていてはいけないね。
北部貴族の説得はバーナード侯の助力もあり、様々な問題を抱えながらも着実に前進している。
彼らを説得するにあたって最も大きな障壁であった統治の要、つまり財源の問題は、君が導いたエンブリーの砂金によって打ち破られた。
そしてもう一つ、北部の修道院だ。あの修道院に君が持ち込んだ「万物に神が宿る」という教えはもともと北部の向こう側で尊ばれている教えだ。海洋国ルッソの農村部で崇められる超越者シッタカブッタ。
彼らはルテティア北部の民がシッタカブッタを敬っていると知り、その事実にいたく気を良くしたようだ。
ルッソの国は他国に排他的で、そこに暮らす人々もかなり偏屈な民だと聞いていたのだが、私の送った貿易を望む書状には、実に好意的な返事が返ってきたよ。
参ったな。君はあんな頃からこの流れへの布石を打っていたというのかい?
未だ未熟な私は君に背を押されてばかりだ。
だが私にはそれが何故だか心地いい。
君は私の母に少し似ている。過酷な北部の暮らし、王都での辛い暮らし、その中にあって常に前を見て笑顔を忘れず、苦しみを撥ね退け挫けなかった、母の持つ心の強さと大らかさを君に感じる、そう言ったら君はこの私を、親離れの出来ぬ赤ん坊と笑うだろうか?
シャノン、雪が解けたら一度戻る。君に頼まれた冊子をもってね。だから返事はいらないよ。
君に会える日を楽しみにしている。
追伸
エンブリー卿の陞爵、滞りなく進んだようで何よりだ。アドリアナ様には感謝申し上げなければ。
----------------
ジェロームから手渡されたアレイスターの手紙。彼はどうやら少しばかりホームシックになっているようだ。
居るべき人が居ない…これは僕が、というか、ブラトワのせいでヘクターが王都に戻らざるを得なかったことを指しているのだろう。
貰い事故とはいえ…、この腐男子の鏡である僕がカプの遠距離を招く一因になるとは…なんたる不覚!
いや待てよ…?一時的な離れ離れは恋人同士にとって定番のイベント。愛を深めるきっかけじゃないか。ならこれはこれで…
とはいえ数々のお仕事を、彼は立派にやり進めているようだ。
同い年だというのに、さすが王族なだけはある。
ん?コン…、ま、何事にも例外はあるってことで。
それにしても、砂金はともかくシッタカブッタのBL本がまさかそんな波及効果を起こしていたとは…
まったくもって与り知らない事だが、ま、まあ?結果オーライってことで…もしも誰かに聞かれたら「計画通り」ニヤリ…ってしておけばいい?
それにしても、こんなところでアレイスターからマザコン宣言されるとは…思ってもみなかった。
けど、親子関係に難のあるノベルゲーの主要三キャラに対し、アレイスターは健全な親子関係を築いているようだ。
朗らかで大らかな第三側妃。そんな部分に王様は惹かれてやまないのだろうか?
いつか会って見たいな…。いや、会いに行っちゃおうか?今度王城に行ったときにでも。
春にはお土産をもって帰るというアレイスター。
お土産は楽しみだ。楽しみだが…
アレイスターの元気な顔が一番のお土産、そんな田舎のおばあちゃんみたいなことをチラっと思ったことは…僕の胸だけにしまっておこうと思っている。
北部はとても色が少ない。冬であれば尚のことだ。
だがそれは目にする景色だけのことではなく、私の心の在り様がそう感じさせるのかもしれない。
居るべき人が側に居ない。その侘しさときたら言葉では言い表せないものだ。
だが、砂を噛むような思いで過した十五年に比べればどれほどましか。そうとも、やることは多い。弱音など吐いていてはいけないね。
北部貴族の説得はバーナード侯の助力もあり、様々な問題を抱えながらも着実に前進している。
彼らを説得するにあたって最も大きな障壁であった統治の要、つまり財源の問題は、君が導いたエンブリーの砂金によって打ち破られた。
そしてもう一つ、北部の修道院だ。あの修道院に君が持ち込んだ「万物に神が宿る」という教えはもともと北部の向こう側で尊ばれている教えだ。海洋国ルッソの農村部で崇められる超越者シッタカブッタ。
彼らはルテティア北部の民がシッタカブッタを敬っていると知り、その事実にいたく気を良くしたようだ。
ルッソの国は他国に排他的で、そこに暮らす人々もかなり偏屈な民だと聞いていたのだが、私の送った貿易を望む書状には、実に好意的な返事が返ってきたよ。
参ったな。君はあんな頃からこの流れへの布石を打っていたというのかい?
未だ未熟な私は君に背を押されてばかりだ。
だが私にはそれが何故だか心地いい。
君は私の母に少し似ている。過酷な北部の暮らし、王都での辛い暮らし、その中にあって常に前を見て笑顔を忘れず、苦しみを撥ね退け挫けなかった、母の持つ心の強さと大らかさを君に感じる、そう言ったら君はこの私を、親離れの出来ぬ赤ん坊と笑うだろうか?
シャノン、雪が解けたら一度戻る。君に頼まれた冊子をもってね。だから返事はいらないよ。
君に会える日を楽しみにしている。
追伸
エンブリー卿の陞爵、滞りなく進んだようで何よりだ。アドリアナ様には感謝申し上げなければ。
----------------
ジェロームから手渡されたアレイスターの手紙。彼はどうやら少しばかりホームシックになっているようだ。
居るべき人が居ない…これは僕が、というか、ブラトワのせいでヘクターが王都に戻らざるを得なかったことを指しているのだろう。
貰い事故とはいえ…、この腐男子の鏡である僕がカプの遠距離を招く一因になるとは…なんたる不覚!
いや待てよ…?一時的な離れ離れは恋人同士にとって定番のイベント。愛を深めるきっかけじゃないか。ならこれはこれで…
とはいえ数々のお仕事を、彼は立派にやり進めているようだ。
同い年だというのに、さすが王族なだけはある。
ん?コン…、ま、何事にも例外はあるってことで。
それにしても、砂金はともかくシッタカブッタのBL本がまさかそんな波及効果を起こしていたとは…
まったくもって与り知らない事だが、ま、まあ?結果オーライってことで…もしも誰かに聞かれたら「計画通り」ニヤリ…ってしておけばいい?
それにしても、こんなところでアレイスターからマザコン宣言されるとは…思ってもみなかった。
けど、親子関係に難のあるノベルゲーの主要三キャラに対し、アレイスターは健全な親子関係を築いているようだ。
朗らかで大らかな第三側妃。そんな部分に王様は惹かれてやまないのだろうか?
いつか会って見たいな…。いや、会いに行っちゃおうか?今度王城に行ったときにでも。
春にはお土産をもって帰るというアレイスター。
お土産は楽しみだ。楽しみだが…
アレイスターの元気な顔が一番のお土産、そんな田舎のおばあちゃんみたいなことをチラっと思ったことは…僕の胸だけにしまっておこうと思っている。
2,200
お気に入りに追加
5,789
あなたにおすすめの小説
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話
黄金
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。
恋も恋愛もどうでもいい。
そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。
二万字程度の短い話です。
6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる