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119 断罪は過去から忍び寄る
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みんな部屋で待たせてシェイナ強奪に現れた僕へ、すっかり慣れたナニーはドアを開けた瞬間「はいはい」とシェイナを手渡す。…パターン化されている…けど、話が早くてちょうどいい。
因みに歩く貴族名鑑であるシェイナは、改良して小型化したウィジャ盤を抱えながらカトレアを持つ家紋など無いと断言した。
家紋のモチーフ、その大半が強い生き物かしっかり根を張る常緑樹なのだとか。咲いて枯れるお花はいくらキレイでもモチーフ的にあまり好まれないのだそう。
ーきっと断絶した家の紋だと思うー
「断絶した家の紋章は使いまわさないの?」
あ、冷たい目…。…これか。コンラッドが嫌った視線は。コンラッドのは気のせいもあるだろうけど、今のは本気でバカにされた気がする…
「言い直すね。断絶した家の紋は記録に残さないの?」
ー一族が残っていないとしたら、意図して描き残さなければ後世には伝わらないー
つまりそれは、意図して残さないように出来るってこと。王様からの勅命とか…ね。
「誰なら知ってそう?」
ーアドリアナ様ー
「教えてくれるかな?」
ー多分無理ー
「そっか。ちょっと考える…それにしても、シェイナに知らないことがあるなんてね」
ー僕だって知らないことは、あ、ちょっと!ー
ムギュゥゥゥ!「きゃわきゃわ僕っ子ー!ふふん、上手く言わされたね?」
「バブブッバブー!」ポカポカ
何やってんのー!かな?という寸劇を束の間楽しんだら今度は真面目に会議の時間だ。
シェイナを連れて部屋に戻ると、そこにはさっき呼びだしておいたアシュリーも居た。アシュリーは先日の調査時、僕が話した老司祭様とは別の、教会で一番偉い司祭長と話している。
手がかりと頭脳は一つでも多いほうがいい。これもまた〝他力本願教”の教えなり…
「そうでしたか…。カトレアのロザリオを持つこの二人がアーロンの母親と祖母…」
「ええ。そう考えています」
実にいまさらなんだが…、正直取り巻きの三人も隊長も、僕が何のためにアーロンの母親に付いて調べたい、と言い出したか分かっていない。
あれはいつだったか、このノベルゲー主要キャラ三人が歪んだカギは三人の母親だと思ったのが始まり。それがまさかこんなでっかい話になるとは…我ながらびっくりだ。
アーロンの正常化は滞りなくおこなわれたが、ここまできたらこの問題は断罪ついでに何が何でも解明してやる!
「先日司祭長はこうおっしゃいました。アーロン君が捨てられていたのは雪の吹雪くとても寒い晩のことだったとか」
「まあ!この王都では珍しいことですわね。雪など五年に一度降るか降らないかですのに」
「そうなのです。そこでバーナード伯は急遽ストーブを届け、司祭様方は宿舎の居間に全員集まり、隙間風が入らないようカーテンを閉め暖を取っていたそうです」
ここで豆知識。暖炉の家というのは建築コストが桁違いだ。残念ながら平民で暖炉のある屋敷に住んでいるのは豪商くらい。つまり下町の教会に暖炉が無いのは割と普通だ。
どうやらこの世界ではその当時初めて薪ストーブが開発されたらしい。敬虔なバーナード伯は聖職者の方々が凍えないよう急いでそのストーブを一台寄付したようだ。初めて見るストーブが珍しく集まり談笑する司祭様方。そんな時微かに教会方面から聞こえてきた赤子の泣き声。
「怪訝に思いながらも真っ暗な回廊を抜け教会に向かうと、祭壇の上に古びたシーツにくるまれた赤子がいたのだとか」
「それがアーロン…」
「急いで暖かい宿舎の居間に運び込み右往左往しながら赤子を保護したと、そう仰っておいででした」
ざっくり考えて女性が保管庫に忍び込む余地はあるように感じる…
雪の降る寒く暗い夜。教会を訪れる者はなく、館内の者すら暖かい部屋に身を寄せている。雪は足音を吸音し人目も無い。
先日の監査時にこの目で見たが、保管庫の鍵は宿舎に入ってすぐの扉脇に引っかけられていた。居間はさらにその向こうの部屋だ。
みんなが赤ちゃんに気を取られてテンパってる間なら、鍵を盗るのも鍵を戻すのも大して危険はないように思える。
「なるほど…」
前後の繋がらないロイドの呟き。このなるほどはどの部分にかかるのか。
「ロイド様、何がなるほど…ですか?」
「シャノン様、その娼婦は動きを見張られていた。であるならばこれ程自由な夜はないと思いまして」
「…雪の吹雪く寒い夜、この日は見張りもお休み…と言うことですわね」
すかさず補足するのはミーガン嬢。彼女も常に試験順位10位程度をキープする才女だ。
「ああ。フレッチャーの手の者ならば尚更だ。フレッチャー一族は南の民だ。雪には慣れていない」
ここで捜査の基本のような質問を投げかけたのはいつも模範的なリアム君だ。
「アーロンが包まれていたシーツには他に何か無かったのですか?」
「…Aaronと書かれた小さな紙片が入っていたと。それが名前なのだろうと、そのまま名付けになったようです」
「良かった…ではその名前は母親からの贈り物なのですね」
ふと見るとウィジャ盤を何度もなぞるシェイナが居る。今この場に居る全員の中で、多分一番聡明なのが元シャノンであるシェイナだ。彼女は何か気付いたのだろうか…
ー娼婦は文字が書けた。歓楽街の娼婦なのに?ー
なるほど!目からウロコだ!
因みに歩く貴族名鑑であるシェイナは、改良して小型化したウィジャ盤を抱えながらカトレアを持つ家紋など無いと断言した。
家紋のモチーフ、その大半が強い生き物かしっかり根を張る常緑樹なのだとか。咲いて枯れるお花はいくらキレイでもモチーフ的にあまり好まれないのだそう。
ーきっと断絶した家の紋だと思うー
「断絶した家の紋章は使いまわさないの?」
あ、冷たい目…。…これか。コンラッドが嫌った視線は。コンラッドのは気のせいもあるだろうけど、今のは本気でバカにされた気がする…
「言い直すね。断絶した家の紋は記録に残さないの?」
ー一族が残っていないとしたら、意図して描き残さなければ後世には伝わらないー
つまりそれは、意図して残さないように出来るってこと。王様からの勅命とか…ね。
「誰なら知ってそう?」
ーアドリアナ様ー
「教えてくれるかな?」
ー多分無理ー
「そっか。ちょっと考える…それにしても、シェイナに知らないことがあるなんてね」
ー僕だって知らないことは、あ、ちょっと!ー
ムギュゥゥゥ!「きゃわきゃわ僕っ子ー!ふふん、上手く言わされたね?」
「バブブッバブー!」ポカポカ
何やってんのー!かな?という寸劇を束の間楽しんだら今度は真面目に会議の時間だ。
シェイナを連れて部屋に戻ると、そこにはさっき呼びだしておいたアシュリーも居た。アシュリーは先日の調査時、僕が話した老司祭様とは別の、教会で一番偉い司祭長と話している。
手がかりと頭脳は一つでも多いほうがいい。これもまた〝他力本願教”の教えなり…
「そうでしたか…。カトレアのロザリオを持つこの二人がアーロンの母親と祖母…」
「ええ。そう考えています」
実にいまさらなんだが…、正直取り巻きの三人も隊長も、僕が何のためにアーロンの母親に付いて調べたい、と言い出したか分かっていない。
あれはいつだったか、このノベルゲー主要キャラ三人が歪んだカギは三人の母親だと思ったのが始まり。それがまさかこんなでっかい話になるとは…我ながらびっくりだ。
アーロンの正常化は滞りなくおこなわれたが、ここまできたらこの問題は断罪ついでに何が何でも解明してやる!
「先日司祭長はこうおっしゃいました。アーロン君が捨てられていたのは雪の吹雪くとても寒い晩のことだったとか」
「まあ!この王都では珍しいことですわね。雪など五年に一度降るか降らないかですのに」
「そうなのです。そこでバーナード伯は急遽ストーブを届け、司祭様方は宿舎の居間に全員集まり、隙間風が入らないようカーテンを閉め暖を取っていたそうです」
ここで豆知識。暖炉の家というのは建築コストが桁違いだ。残念ながら平民で暖炉のある屋敷に住んでいるのは豪商くらい。つまり下町の教会に暖炉が無いのは割と普通だ。
どうやらこの世界ではその当時初めて薪ストーブが開発されたらしい。敬虔なバーナード伯は聖職者の方々が凍えないよう急いでそのストーブを一台寄付したようだ。初めて見るストーブが珍しく集まり談笑する司祭様方。そんな時微かに教会方面から聞こえてきた赤子の泣き声。
「怪訝に思いながらも真っ暗な回廊を抜け教会に向かうと、祭壇の上に古びたシーツにくるまれた赤子がいたのだとか」
「それがアーロン…」
「急いで暖かい宿舎の居間に運び込み右往左往しながら赤子を保護したと、そう仰っておいででした」
ざっくり考えて女性が保管庫に忍び込む余地はあるように感じる…
雪の降る寒く暗い夜。教会を訪れる者はなく、館内の者すら暖かい部屋に身を寄せている。雪は足音を吸音し人目も無い。
先日の監査時にこの目で見たが、保管庫の鍵は宿舎に入ってすぐの扉脇に引っかけられていた。居間はさらにその向こうの部屋だ。
みんなが赤ちゃんに気を取られてテンパってる間なら、鍵を盗るのも鍵を戻すのも大して危険はないように思える。
「なるほど…」
前後の繋がらないロイドの呟き。このなるほどはどの部分にかかるのか。
「ロイド様、何がなるほど…ですか?」
「シャノン様、その娼婦は動きを見張られていた。であるならばこれ程自由な夜はないと思いまして」
「…雪の吹雪く寒い夜、この日は見張りもお休み…と言うことですわね」
すかさず補足するのはミーガン嬢。彼女も常に試験順位10位程度をキープする才女だ。
「ああ。フレッチャーの手の者ならば尚更だ。フレッチャー一族は南の民だ。雪には慣れていない」
ここで捜査の基本のような質問を投げかけたのはいつも模範的なリアム君だ。
「アーロンが包まれていたシーツには他に何か無かったのですか?」
「…Aaronと書かれた小さな紙片が入っていたと。それが名前なのだろうと、そのまま名付けになったようです」
「良かった…ではその名前は母親からの贈り物なのですね」
ふと見るとウィジャ盤を何度もなぞるシェイナが居る。今この場に居る全員の中で、多分一番聡明なのが元シャノンであるシェイナだ。彼女は何か気付いたのだろうか…
ー娼婦は文字が書けた。歓楽街の娼婦なのに?ー
なるほど!目からウロコだ!
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